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Lippels Traum リッペルの夢

ドイツ映画 (2009)

子供向きの映画でありながら、実にユニークで、夢と現実が抜群のタイミングで交差する素敵な脚本で感心させられる作品。主人公のリッペルが眠った時に見る千夜一夜物語の中で、王様はリッペルの父オットー、王の悪辣な伯母は、リッペルの父が雇った超意地悪な家政婦ヤコブ、王子アルスランと王女ハミデは、リッペルのクラスに転入してきた同名の兄妹、父のレストランの助手セラフィーナは、旅籠「金色のラクダ」の同名の長女、リッペルの学校の意地悪な教頭とその息子で悪ガキのヘアマンは、同じ旅籠の主人と長男と言うように、リッペルの夢は、現実の社会を強く反映していて、夢の中の登場人物の性格は、現実の社会の性格と全く同じ。例えば、王の伯母は、自分が女王になろうと画策し、王子と王女を殺し、王位を奪おうとする。一方、家政婦のヤコブはリッペルの父オットーと結婚し、邪魔なリッペルを寄宿学校に入れようとする。こうした中で、リッペルが、夢の中でアルスランとハミデを助けて伯母の陰謀を壊滅させ、その余勢を駆って、現実の世界でも アルスランとハミデの助けを借りて家政婦をこてんぱんにやっつける。両方とも極端なまでに悪い人間なので、対家政婦作戦は過激過ぎるかもしれないが、それでも観ていて爽快だ。この映画の夢の部分のロケ地は、あらすじの中でも触れたが、モロッコのワルザザートにあるAtlas studios。この映画で使われた中で残っているセットは 超大作『キングダム・オブ・ヘブン』(2005)などで使われた城壁で、こちらはまだ観光用に残っている(下の写真2枚)。

映画では、現実と夢が交互に行き来するが、ここでは、それらの流れを個々に見て行こう。まず、現実から。12歳のリッペルの父は、ドイツのオーストリア、チェコ国境に近いパッサウの町で、ミシュランの一つ星レストランの経営者兼シェフ。妻を亡くし、リッペルと2人で暮らしているが、アメリカから1週間招待されたのを機に、1年間家政婦のヤコブを雇うことにする。そこにやって来たのが、利己的で、リッペルを服従させることしか考えない、嫌悪すべきオバタリアン。学校では意地悪な教頭が虐めっ子の息子ヘアマンと組んでリッペルに嫌がらせをする “行きなくない” 場所だったが、そこにモロッコ出身の転校生が2人やってくる。3人は仲良くなり、ヘアマンを寄せ付けなくなる。しかし、ヤコブとの1週間は、リッペルにとって苦痛以外の何物でもなかった。それでも、一種の虐めだけなら我慢できたのだが、父の帰りが2日後に迫った時、ヤコブの母からの電話を盗聴したリッペルは、ヤコブが父と結婚し、邪魔な息子を全寮制の学校に入れようと画策しているのを知り、衝撃を受ける。そこで、リッペルは、モロッコの転校生の助けを借り、ヤコブが最も嫌っているクモや、汚物などを駆使して、ヤコブを家から追放することに成功する。そして、帰国した父を、リッペルのお気に入りの “父のレストランの女性の助手” と結び付ける。一方、リッペルの夢は、父がアメリカ行きに際してプレゼントした『千夜一夜物語』をリッペルが読み始めたことで見る夢に由来する。そのリッペルの父に似た王様には、モロッコからの転校生に似た兄妹と、ヤコブそっくりの伯母がいた。伯母は、女王になりたいという希望をずっと前から抱いていたが、ある日、王子の教育係から、3日間口を聞かないよう忠告されると、それを利用して悪事をたくらむ。すなわち、王の大切にしている本を手下に盗ませ、それを王子のベッドの下に隠し、王子が盗んだと告発する。王子は、何も言えないので、王は、王子が犯人だと確信し、国外追放を告げる。兄思いの妹も一緒に付いて行くといったので、王は、1週間砂漠で苦労させことで許すことにするが、それを聞いた伯母は、手下に、2人を砂漠で殺すよう命じる。それを夢で見ていたリッペルは、放っておけなくなり、自分も夢の中に入って行き、2人に行かないよう警告する。リッペルは 手下に追い払われるが、しぶとく付きまとい、砂嵐に乗じて悪漢どもから逃げ、宮殿のある城壁の中に潜り込む。最初の一夜を、リッペルの考案した “チップ稼ぎ” で集めたお金で旅籠に泊るが、そこには、父のレストランの助手とそっくりな、親切な女性がいた。翌朝、3人は、何とか宮殿に潜り込むが、いざ王の前に出て、伯母の陰謀を暴こうとすると、王座にいたのは伯母だった。3人は地下牢に放り込まれ、伯母は毒殺を試みるが、夢でお見通しのリッペルは2人に死んだフリをさせて脱出、真上の地下牢にいた王も救う。怒りに燃えた王は、伯母を、砂漠に永久追放する。この、どこか似たような現実と夢がうまくつながり、相互に影響を与え合うという脚本は実によく書けている。

リッペル役は、カール・アレクサンダー・ザイデル(Karl Alexander Seidel)。1995年11月生まれ。撮影は、2008年3月26日~5月23日なので、撮影時12歳。2003年にTVドラマに出演したのが最初。2005年にはTV映画、2007年には、『Hände weg von Mississippi』という映画に主要な脇役で出演。その後も、TVがメインで現在に至っている。右は、『Hände weg von Mississippi』に出演した時のもの。

あらすじ

オットーがシェフを務めるレストランで、助手のセラフィーナがナフキンの準備をしている(1枚目の写真)。テーブルの1つに座った父オットーは、たった一人の息子のフィリップ(通称:リッペル)に、「アメリカに行っちゃダメか?」と訊く。リッペルは父にいて欲しいのだが、セラフィーナは 「一週間、行くだけじゃないの」と言って慰める。父は、リッペルに、最新作のバイエルン風リゾットを少量食べさせる。中身を問われたと思ったリッペルは、少し口に入れ、ご飯、豆、塩、こしょうと、誰でも分かる名前だけは言うが、その先が出て来ない。父の後ろに立ったセラフィーナは、指を交差させ(2枚目の写真、矢印)、なぜかそれがリッペルには通じたらしく、クミン〔Kreuzkümmel〕と答える(3枚目の写真)。父は、「クミン、よくできた、ネルソンさん」と、セラフィーナの方を見る。彼女は、何も言わなかったと否定するが、父は 「リッペルの目が裏切った」と見抜いている。セラフィーナは、「リッペルは、あなたと同じくらいいいコックになるわ」と擁護すると、リッペルは 「料理は大変だよ。画家になりたい。パパくらい有名な」と反論し、セラフィーナは、リッペルには 「アメリカに招かれるパパくらい有名に?」、オットーには 「リッペルには誰か見つけたの」と訊く。これらのことから、オットーはバイエルン地方のパッサウの町の有名なシェフで、これから1週間、招待されてアメリカに行くが、オットーには奥さんがいないので、1週間リッペルを何とかしないといけない、というのが物語の前提だと分かる。

そして、父が出発する前の日。家政婦〔Haushälterin〕のヤコブが、家政婦という職業にしては立派な服装をして家にやって来る。それを家具の影から親子で見ながら、リッペル:「他の人より若いね」。父:「それに、きれいだ」〔きれいどころか、醜い〕。「1週間で戻るよね」と話していると(1枚目の写真)、それに気付いたヤコブ〔ユダヤ人〕が突然に目の前に現れる。びっくりした父が、握手し、息子のことを、「これは、フィリップ、リッペルと呼んでます」と紹介する。それを聞いたヤコブは、「今日は、フィリップ」と笑顔で言い(2枚目の写真)、リッペルは、「リッペル」と訂正する〔頑ななヤコブは、このあとも、リッペルのことをフィリップと呼び続ける〕。ドイツでの最後の夜、オットーは、大好物のピスタチオを食べている(3枚目の写真、矢印)〔伏線〕

その日の夜は雷。怖くなったリッペルはベッドから出て、父のところに逃げて行き、抱き締めてもらう(1枚目の写真)。そして、翌朝、雨はまだ降り続いているが、父は、タクシーに乗って出発する(2枚目の写真)。リッペルはずぶ濡れになっているが、彼の面倒を見るために雇われたヤコブがやって来たのは、タクシーが出て行ってから。「家に入って。朝食ができてるわ」と言うが、傘はあくまで自分のための物で、リッペルが濡れようと知ったことではない(3枚目の写真)。「食べないと、学校に遅れるわ、フィリップ」。「リッペル」。「正しい名でしか呼ばないわ。あだ名で呼ぶには、大き過ぎるから」。

食卓に座ったリッペルに、ヤコブは、「あなた、朝食には、他の子みたいに暖かいココア飲むわよね」と言う。「冷たい方がいい」。「朝、冷たい飲み物は不健康よ」。「じゃあ、白い膜は入れないでね」。「背筋は真っ直ぐ。片肘を突くなんて行儀が悪いわ」(1枚目の写真、矢印)。そう言うと、ココアの入ったカップに、牛乳の白い膜を平気で入れる(2枚目の写真)。リッペルは、それを見て、食卓から立ち上がって、学校に行こうとする。ヤコブは、「フィリップ、何か忘れてない?」と訊く。「ううん、全部持ってるよ」。「皿は、歩いて食器洗い機に入ると思うの?」。リッペルは、結局飲まなかったカップと皿を食器洗い機まで持って行かされる(3枚目の写真、矢印)。最後に、ヤコブは、「フィリップ、昼食よ」と言って、カットしたトマトだけをパンの薄切りで挟んだだけの手抜きのサンドイッチを差し出す。「僕、トマト嫌いだよ」(4枚目の写真、矢印)。「子供はみんなトマトが好き」。「僕は違う」。「覚えておくわ。でも、今日はこれを持って行きなさい」。ヤコブの意地悪ぶりが良く分かる。これはもう家政婦ではない。

学校に行ったリッペルは、学校の玄関の前で待ち構えていたヘアマン〔教頭の息子〕が次々と投げつける松ぼっくりのため、先に進めなくなる(1枚目の写真、矢印は飛んでくる松ぼっくり)。学校の始業の鐘がなり、リッペルが玄関を入って行くと、待ち構えていた教頭がリッペルに、「今、何時だ?」と訊く。「8時1分過ぎです、教頭先生」。「ここ数日、なぜ遅刻してくるんだ?」。リッペルが背中から松ぼっくりを取り出すと(2枚目の写真、矢印)、教頭は素早く奪い、「時間厳守だ、フィリップ」と注意して行かせる。しかし、その後ろで、それを隠れて見ていた “松ぼっくりを投げてリッペルを遅刻させた自分の息子ヘアマン” は、何も言わずに通してやる(3枚目の写真、矢印)。

リッペルの教室では、女性教師が、『菩提樹の下、雛菊の上』という歌詞の一部を読み上げている。そして、「Küsst er mich? Wohl 1000 Stund', tandaradei. Seht, wie rot mir ist der Mund〔彼は千回キスをした。タンダラデイ。唇が真っ赤になった〕。これは何語ですか?」と問いかける。脳ミソゼロのヘアマンが、「トルコ語」とバカなことを言った後で、リッペルが「古いスイスドイツ語?」と訊き(1枚目の写真、矢印はここだけ空いている席)、教師は 「かなり近いわ。中高ドイツ語〔1050-1350年頃の高地ドイツ語〕よ」と答える。そして、もう一度、愛の詞を嬉しそうに繰り返していると、ドアが開き、教頭が2人の新入生を連れて入って来る。教頭は、2人をアルスランとハミデの兄妹だと紹介し、リッペルの横の開いた机にアルスランを座らせ、その横に、イスだけ継ぎ足してハミデを無理矢理座らせる(2枚目の写真)。リッペルは、2人用の机に3人詰めんだ教頭の仕打ちに呆れるが、2人が笑顔で自分を見たので(3枚目の写真)、「どこから来たの?」と訊く。アルスランは黙っていたが、ハミデは 「Sindelfingen〔シュトゥットガルト郊外の町、パッサウの西約320キロ〕」と答える。

リッペルが雨の中、家まで帰ってくると、1匹の犬が狭い坂道の真ん中に寂し気に座っている。それを見たリッペルは、「君も一人ぼっち? 飼い主いないの?」の声をかけ、食べずに残したトマト・サンドを与えるが、犬もそっぽを向く。リッペルが、「君もトマトが嫌いか? 分別のあるいい犬だ」と言って、家に入ろうとすると、犬が後を付いてくる。それを見たリッペルは、「あいにく、中には入れない。ホントに無理なんだ」と言ってドアを閉める。リッペルがレインコートのまま中に入って行くと、ヤコブが 父からのプレゼントがあると告げる。喜んでリッペルがヤコブの前まで行くと、この根性曲がりは、「何も気付かない?」と変なことを言い出す。リッペルが周りを見回して、「ううん、何?」と訊くと、「ポタポタ落ちてる」と言い、すぐにレインコートを掛けてくるように命じる。その間に、このいい加減な家政婦は、沸騰した鍋の湯の中に、スパゲッティを乱雑に突っ込んで蓋をする。そこに、リッペルが戻ってくると、まず、ポリエチレンの手袋をはめ、それで布巾をつかみ、リッペルが床に作った “ポタポタ” の水たまりを拭くよう命じる(2枚目の写真、矢印は手袋)。これが母親なら当然のことだろうが、家政婦としては異様な行動だが、リッペルは素直に床を拭き取る(3枚目の写真、矢印は雨水)。リッペルが、拭き終わった布巾をヤコブに渡そうとすると、自分で、洗ってきれいにしてから、元の場所に戻し、手を洗うよう命じる。そして、リッペルの父が、居間で靴を履いているのを見たので、今後どうするか話し合う必要があると、付け加える〔掃除が面倒なので、家の中を汚したくない〕

リッペルは、出発前に父がヤコブに託したプレゼントをようやく渡してもらう(1枚目の写真)。それは、『千夜一夜物語』だった。リッペルは昼食の準備ができるまで本を読むことが許される。リッペルが読み始めたのは、なかなか息子が生まれなかった王の物語。やっと生まれた息子に、王はライオンを意味するアルスラン〔Arslan: ライオンを意味するのは、なぜかアラビア語ではなくトルコ語〕という名を与えた。そして、王子が10歳になった時、王は老シンドバッドをアルスランの教師とした。そこまで読み進んだ時、挿絵があり、そこには王の都が描かれていたが、そこに、リッペルの空想が、ラクダを牽いたシンドバッドを登場させる(2枚目の写真、矢印)。そして、その絵は、映像へと切り替わる(3枚目の写真)。そして、本を読みながら、リッペルの空想はシンドバッドとアルスランが城壁の上で話し合っている姿を思い描く〔リッペルの空想や、眠っている時の夢の映像には、写真の左端入れた黄色の縦線で区別する〕。シンドバッドは、星の位置から読み取った “王国を襲う災厄” についてアルスランに語り、危機を回避する唯一の手段は、アルスランが3日間 何も話さないことだと告げる(4枚目の写真)。「信じて下さい。善が沈黙する時、悪が正体を現します」。

この映像は、ヤコブが 「フィリップ」と呼ぶことで途切れる。食卓に行ったリッペルが見たものは、スパゲティの上に、大嫌いなトマトだけを煮詰めたソースが掛けられるところ(1枚目の写真)。リッペルは、「今朝、トマトは嫌いだって言ったじゃないか」と文句を言う。自分は雇われ家政婦ではなく、フィリップを支配している偉い女性だと勝手に決め込んでいるヤコブは、「あれは生のトマト。これはトマトソース。子供は、トマトソースのパスタが好きなものよ」と断定する〔朝、リッペルがトマトについて 「僕は違う」と言った時、ヤコブは 「覚えておくわ」と言っていた。要は、ヤコブは他人の意見は聞かない。特にリッペルのは〕。「僕は違う」。それを聞いたヤコブは、冷たい水を大量に注ぎ(2枚目の写真)、「これで、トマトスープよ。これなら好きでしょ」と、無茶なことを言う〔冷たい水のかかったスパゲティなんか、誰が食べる?〕。「トマトは、全部嫌いだ」。それを聞いた途端、ヤコブはリッペルのデザートの皿を取り上げ、自分のデザートの皿に中身を入れる(3枚目の写真、矢印)。そして、「なら、今日のデザートはなし」と言いながら、2人分のデザートを食べ、「美味しいチョコ・プリンだわ」と 嫌味を言う。頭に来たリッペルは、何も食べずに席を立って食堂から出て行こうとする。ヤコブは、「ちょっと、今朝、私が言ったこと忘れたの? 皿は、歩いて食器洗い機には入らない」。てっきり、リッペルは 「僕は、その皿で何も食べてないから」と逆襲するかと思いきや、彼は、「僕、食後は すぐトイレに行くんだ」と言う。ヤコブが、「だけど、何も食べてないじゃないの」と反論すると(4枚目の写真)、「他人が食べてれば、トイレに行くんだ」と、変わった言い方で逆襲し、皿を食器洗い機に持って行くことを拒む。

リッペルは、意地悪なヤコブから隠れようと、階段の下の狭い部屋に入り込み、スタンドの電気を点けて本を読み続ける(1枚目の写真)。「しかし、王の義姉(アルスランの伯母)は、自分が女王になりなくてたまらなかった〔ここは、何と、出回っている唯一のドイツ語の字幕が間違っている。“Die Schwägerin des Königs aber, eine Auslandstante” は、王の義姉(or 妹)、外国人の叔母(or 伯母)という意味になるが、そんなことは不可能。後半は、“Arslans Tante” の間違い〕〔ドイツ語字幕の信頼性がゼロになったので、出回っている英語字幕を使用する。DVDには字幕が入っていない〕アルスランの誕生は、彼女の希望を打ち砕いた。だから、彼女は甥である王子を心から憎んだ」。この本の朗読の後、シンドバッドが 「3日間 何も話してはなりません」と王子に助言するのを、王の伯母が盗み聞きしている(2枚目の写真)〔伯母は、リッペルが読みながら頭に描いたイメージだが、その醜い心に合わせて、家政婦のヤコブの顔になっている〕。伯母が、王の御前に行くと、王は巨大な本を読んでいる。伯母は 「高貴なる義弟、あなたはお好きな本を読んでおられるのですね?」と訊く。王は、「わが父が、私に残してくれました。父にとって最も価値のある、愛すべき本だったのです。私の祖父も、それ以前の王たちが皆そうであったように」と答える。「あなたの息子、アルスラン王子にもいつか渡すのですね?」。「渡します。時が来たら」(3枚目の写真)〔王は、当然ながら、リッペルの父の顔になっている〕

「王様、あなたは思慮深く賢明な方なのでしょう」。「私の子供たちは、愛されし妻が亡くなった後、私の心にとって香油のようなものでした」。その言葉とともに、辺りは香油が燃えたように明るくなり、リッペルはびっくりして顔を上げる(1枚目の写真)。この光はあくまでリッペルの空想だが、読書がそこで打ち切りになったのは、階段下の小部屋のドアが開いて明るくなり、ヤコブが、「ここだったの! 家じゅう探したのよ!」と批判し、本を取り上げたから〔夢と現実が連動した最初のシーン〕。自分の部屋に行ったリッペルが、雨が降り続いている路地を見下ろすと、そこには、例の犬がまだいた。そこで、リッペルは、雨に濡れるのも構わず路地に出て行くと、「何て名前? 言いたくないのかい? 分かった、じゃあ、モックと呼ぼう」と言うと、家から持ち出したソーセージの薄切りを与え、「トマトパンよりおいしいだろ」と言いながら体を撫でてやる(2枚目の写真)。すると、玄関が開き、傘をさしたヤコブが、犬を追い払い、リッペルに中に入るよう命じる。夜、リッペルが部屋のハンモックで横になっていると、ヤコブの声が聞こえてくる。「フィリップ。3つ数える間に、ベッドに入りなさい!」。リッペルがベッドに飛び込むと、部屋に入ってきたヤコブが、「歯ブラシが濡れてたから歯は磨いた。石鹸が濡れてたから自分で洗った。時間までにベッドに入った。プラス3点ね」と言う。それに対し、リッペルは、「あんたは、食べ物を捨て、犬を怖がらせ、僕から本を奪った。だから、マイナス3点だ」と言い返す(3枚目の写真)。それを聞いたヤコブは、「この侮辱で2点減点」と言い。「これで、ルールがはっきりしたでしょ。とっても簡単。あなたは何でも好きにしていい。条件は、私の命令に従うこと」。そう言うと、ベッドの電気を消そうとし、リッペルが、点けたままでないと眠れないと抗議しても、「手の焼ける子ね。暗闇で怖がりなさい」と言って消してしまう。

ヤコブが出て行くと、リッペルはすぐに電気を点け、そのまま眠ってしまう(1枚目の写真)。すると、今度は本を読むのではなく、夢の中で、先ほどの続きが始まる。王が夜 眠っていると、手下を2人連れた伯母が忍び込み、王の大切な本を盗ませる(2枚目の写真、矢印は本)。翌朝、本がないことに気付いた王は、大勢の部下に本を探させる。そこに、伯母がやって来て、「私は、あなたの本がどこにあるか知っています。でも、あなたの高貴な耳にお知らせしたくありません。あなたのお怒りが怖いから」と言う(3枚目の写真)。「謎かけはやめ、言いたいことを言いなさい」。「あなたの召使に アルスラン王子の部屋を探しにいかせるのです」。「息子が本を盗んだと言いたいのですか?」〔伯母がそんなことを知っていること自体変だと疑うべきなのだが…〕。「真実を述べているだけです。あなたのお怒りは、謙虚に受け止めます。若き王子の部屋を探すのです」。「警告ですぞ。もし、あなたが不当に息子を非難したのなら、あなたは永遠にこの国を去るのですぞ」。「もし、真実なら、あなたは泥棒を同じように追放されますか?」。「本を盗んだ者は、誰であろうと追放される」。陰謀家の伯母が辞した後、しばらくして、本を抱えた召使2人が王子とともに王の前にやってくる。王が、「どこで見つけた?」と訊くと、召使は 「王子様のベッドの下でございます」と答える(4枚目の写真、矢印は王子)〔アルスラン王子は、転校生のアルスランと名前も顔も同じ〕。王は、王子を近くまで来させ、「何と言い訳する?」と訊く。しかし、王子は、シンドバッドから 「3日間 何も話してはなりません」と言われているので、何も話せない。王は、「言うことは何もないのか? 沈黙を? 我が息子は盗人(ぬすびと)か?」と問いかける。

そこに顔を出したのが、伯母。「自分の父親から盗むなんて!」と甥を非難し、「なんて不幸な王様」と弟に同情する素振り。そして、王がうっかり洩らした言葉がうやむやにならないように、「なぜ あんなことをおっしゃったのですか?」と、わざと同情する。「何をだ?」。「『本を盗んだ者は、誰であろうと追放される』。何と恐ろしいことでしょう。王たる者は言ったことは守らねばなりませんから」。ここで、王子の妹のハミデがやって来て、「お父様、もし、兄のアルスランを追放されるのなら、私は兄と一緒に行きます」と言う。伯母は、しめしめと思いつつ、「あなたは、お父様を置いて、泥棒と一緒に行くのですか?」と訊く。「頑固で不当なお父様と留まるよりは、兄と一緒に行きます」。そして、王の判断は、「ならば、そなたを引き留めまい」というものだった(1枚目の写真)。しかし、その直後、王は伯母に、「王子は、私と同じように本が好きに違いない。愛情深い父親は、一時の怒りのために子供たちを追放すべきなのか? 2人とも連れ戻そう。砂漠での1週間で十分だ」と、常識ある決定を伝える(2枚目の写真)。そうなっては、元も子もないので、悪だくみにたけた伯母は、王と別れた後で、何でも平気でやってのける一番ワルの手下を呼びつけ、「袋には、金貨がいっぱい入っている。あの子たちを二度と戻らせないように」と命じ(3枚目の写真)、袋を渡す。そして、「砂漠は広大で無慈悲です。だから、2人とも…」。「お任せ下さい」。それを聞いたリッペルは、「やめて! 危険だ!」と、眠りながら口走る。一行は、馬に乗って城門を出て行く。「行っちゃだめだ。お前が何をする気か、ちゃんと分かってるぞ。行っちゃダメだ。危ない!。

我慢できなくなったリッペルは、傍観だけでは飽き足らず、遂に、自分の夢に登場し、「止まれ! 止まれ!」と言いながら、列の先頭の先まで走って行き、一行の前に立ち塞がると、「止まれ!」と叫ぶ(1枚目の写真、矢印)。そして、王子と王女には、「君たちのことはよく知ってる! 行っちゃダメだ! 伯母さんの話なんか聞かないで!」と言うが(2枚目の写真)、伯母の手下はリッペルなんか無視して砂漠に向かって突っ走る。ここで、汗びっしょりになったリッペルの目が覚める(3枚目の写真)。

再び眠りに落ちたリッペルは、馬の一行と一緒に砂漠を進んでいる(1枚目の写真)〔夢の中なので、好きなように変更できる〕〔因みに、このロケ地は、モロッコのワルザザートという有名な映画のロケ地。巨大な屋外城塞だけでなく、この砂漠もよく映画に登場し、観光地にもなっている〕。馬に乗ったリッペルは、ハミデに、「本を盗んだのはあなたの伯母だ」と打ち明ける(2枚目の写真)。「伯母さん? どうして、そんなことが言えるの?」。「僕を信じて。知ってるんだ。あなたのお兄さんが、3日間、口をきいていけないことも。それが、この国を危機を回避する唯一の手段だから」。ハミデは兄に、「この外国の人が言ってることは本当?」と訊き、兄はしゃべれないので頷く。「あなたは、誰なの? 魔術師?」。「違うよ。でも、あなたたちに、大きな危険が迫っている事を知ってる。あいつらは、あなたたちを殺すつもりだ」。その時、同行している2人の悪漢の1人が、「砂嵐だ!」と叫び、全員が砂漠から顔を出した岩陰に隠れるが、その混乱に乗じて、アルスラン、リッペル、ハミデの3人は、地面を這って逃げ出す(3枚目の写真、矢印はリッペル)。3人はつないであった馬に乗り、悪漢どもの馬も解放し、砂漠に向かって逃げ出す。3人は嵐が続く中を、馬に乗って砂漠を進んで行くが、そのうち、リッペルが馬から落ちてしまい、「アルスラン! ハミデ! 待ってよ!」と叫ぶが、2人とリッペルは別れ別れになってしまう。

いつしか、リッペルは、一人ぼっちで砂丘を歩いていた(1枚目の写真)。すると、砂漠の真ん中に、“悪路” を意味する道路標識にぶつかる(2枚目の写真)。そして、何でこんなものが思っていると、電話の呼び出し音が聞こえてくる。そして、気が付くとベッドに寝ていて、呼び出し音が続いている(3枚目の写真)〔夢と現実が連動した2つ目のシーン〕

リッペルが電話を取ると、それは、アメリカにいる父からだった。「やあ、パパ。なんで真夜中に電話するの? 何かあったの?」(1枚目の写真)。「そっちが夜だってこと、忘れてた。どうだ、元気か?」。ここまでの会話は、ヤコブがこっそりコードレスの子機で盗み聞きしている。「まあまあ」。「まあまあ? どういう意味だ? 話せよ」。「心配しないで、パパ。ヤコブさんは、時々… あのね、彼女、僕にいつもトマトスープを作って、無理矢理飲ませるんだ。僕のプリンも食べちゃうし、パパがくれた本も隠すんだ…」。しかし、こうした不満は父には伝わっていない。なぜかと言うと、“伯母” そっくりの悪女ヤコブは、「ヤコブさんは、時々…」のところで、電話機のコードを足で引っかけて抜いてしまったからだ(2枚目の写真、矢印)。父が何も言わないので変に思ったリッペルが、「パパ? なんか言ってよ」と言うと、ヤコブが顔を出し、「国際電話はときどきそんな風になるわ。回線が切れちゃうの」と、白々しい嘘を付く(3枚目の写真)。そして、まだ真夜中なので、リッペルはベッドに行かされる。

夢に戻ったリッペルが、1人放置されて泣いていると(1枚目の写真)、そこに犬のモックが近づいてくる。犬に気付いたリッペルは、「モック!」と大喜びで叫び、1人と1匹は走り寄って抱き合う。リッペルは、モックに、「何とか水を探さないと、喉が渇いて死んじゃう」と言い、広大な砂漠を一緒に歩き始める(2枚目の写真)。ある場所まで来ると、モックが吠え出す。リッペルが吠えている方を見ると(3枚目の写真)、馬に乗った2人がこちらに向かって駆けてくる。てっきり悪漢2人だと思ったリッペルはモックに 「吠えるな」と言うが、犬は、馬に向かって走って行く。リッペルは、「ダメだ!」と叫ぶ。

すると、目が覚め、目の前に、ヤコブの大きな顔があった。悪夢から目が覚めたので、「起こしてくれてよかった。でなけりゃ、悪漢に捕まってた」と、ある意味、感謝する(1枚目の写真)。学校に向かったリッペルは、いつも待ち伏せしているヘアマンがいないので、始業時間に間に合って玄関を入る。ところが、意地悪な教頭は 「フィリップ、来なさい」と呼び止める。そして、顔を近づけてリッペルをじっと見ると、目が変だからと、額に手を当てて体温をチェックする(2枚目の写真)。そして、熱があることが分かると、すぐ帰宅するよう指示する。家に戻ったリッペルは厚着をさせられ、フードまで被せられて、ベッドに寝かされる。そして、発汗には熱い飲み物がいいとかで、無理矢理飲まされ、汗まみれになって、強制的に眠るよう指示される(3枚目の写真)。

眠りに落ちたリッペルが見たものは、悪漢2人ではなく、アルスランとハミデだった。2人の元には、先にモックが到着し、それを見たハミデは馬から降りて、モックに 「モックだわ、宮殿からずっと付いてきてくれたのね」と言う。そこに、ようやくリッペルが到着し、嬉しくてハミデに抱き着く(1枚目の写真)。そのあと、リッペルは、「本を盗んだのはあなたの伯母だ」の背景となる事情をハミデに話す。「あなたの伯母は、自分が女王になりたいと思ってる。だから、そのために、あなたのお兄さんを排除しようとしたんです」(2枚目の写真)「お父さんは、あなたたちを許してて、1週間砂漠にいたら、戻ってくるよう望んでいます」。「じゃあ、ここでそれまで待ちましょう」。「それはダメ。ここは、悪漢が僕らを探しるから、もし見つかったら、僕たち殺されちゃう。だから、都に戻り、あなたたちのお父さんの前で、真実を話さないと!」。こうして、3人は2頭の馬に乗り、都に向かって走る。3人は、城壁の前の岩場まで行き、城門の様子を窺ったあと、近づいても安全だと判断すると、ラクダの群れに後を追うように、走って城門に向かう(3枚目の写真、矢印はリッペル)。

あと少しで門をくぐれる所まで来た時、悪漢2人が早駆けで城門までやってきて、入口に監視役として立ったので、簡単には入れなくなってしまう。3人は、リッペルのアイディアで、ラクダの背中を覆う布の中に隠れて城門をくぐろうとするが、女性の叫び声が聞こえたので、何事かと、リッペルが布から顔を出す(1枚目の写真)。ここ、場面はリッペルのベッドに変わり、つんざくような叫び声が聞こえ、リッペルが目を覚ます〔夢と現実が連動した3つ目のシーン〕。それは、生意気なヤコブがキッチンで叫んでいたもので、リッペルがわざわざキッチンまで行き、「何なの?」と訊くと、ヤコブはシンクの中を指して、「そこ、そこ」と言う(2枚目の写真、矢印)。そこにいたのは、すごく小さなクモ。そして、リッペルに取り除くよう頼む。リッペルが手でつかもうとすると、「手じゃダメ」。「じゃあ、どうするの? 足でやるの?」。ヤコブはマッチ箱に入れるよう頼む。リッペルは、結局手で捕まえてマッチ箱に入れる。怖い物がいなくなると、急にヤコブは支配的になり、熱があるからベッドに行けと命じる。自分勝手な女だ。場面は、再び夢の世界に。3人と1匹は、もう門の中に入っていて〔夢なので好きにできる〕、馬に乗り、松明を手にした悪漢どもが、侵入した3人を捜し回っている。3人と1匹は納屋の中に置いてあった藁の中に隠れる。悪漢の1人が納屋の前を通り過ぎそうとした時、藁の中から突き出しているリッペルの運動靴に気付く(3枚目の写真)。悪漢が仲間を呼び、中に入ろうとしたので、モックが吠える。リッペルは、藁の中から顔を出すと、「ダメ!!」と叫ぶ(4枚目の写真)。

すると、目が覚め、目の前にヤコブがいて〔夢と現実が連動した4つ目のシーン〕、リッペルの額に触って熱を調べ、「ダメだなんて言ってないで、起きて学校に行きなさい。熱は下がったわ」と言う(1枚目の写真、矢印は手袋、こんな厚手のポリ手袋なんかしていたら熱の有無なんか分からないのに、リッペルを汚物扱いして手袋で触るとは、何という恥知らず)。そして、改めて、「お早う、フィリップ」と言う。リッペルが、「お早う」と返事すると、「お早う、ヤコブさん」と言わせる。リッペルの学校では、生物の授業。少し変人っぽい教師が、自分が大切に飼っているタランチュラの入ったガラスケースを生徒達に見せる。そして、①自然の創り上げた傑作、②10年飼っている、③名前はシンデレラだと言い、毒の牙は抜いてあると言った上で、「誰か、シンデレラを手に取ってみたい子は?」と訊く。ドイツ人の子が全員嫌がる中で、アルスランが両手で受ける格好をする。教師は、シンデレラを優しくつかむと、アルスランの手の上に置く(2枚目の写真、矢印)。アルスランが、クモをリッペルの前に持ってくると、後ろにいた意地悪ヘアマンが、「何かに噛まれた」と嘘を付いて、横にいたハミデにぶつかり(3枚目の写真、矢印はヘアマン、手前にネズミのケース)、そのせいで、ハミデの横に置いてあったネズミが10数匹入った金網のケースが床に落ち、蓋が壊れ中身が床に散らばる。「誰がやった?」。脳ミソゼロのヘアマンは、トルコしか言えないので、「トルコの女の子」と罪をなすりつける(4枚目の写真)。

リッペルは、ヘアマンの悪事は見ていなかったが、ハミデを救おうと、「ううん、僕です、先生。ごめんなさい」と謝る。そのため、リッペルは、床に落ちたネズミを集めることを命じられる(1枚目の写真)。学校の外では、ヘアマンがリッペルにぶつける松ぼっくりを20個ほど並べ、出て来るのを待っている。リッペルが玄関から出て行くと、ヘアマンが 待ってたぞとばかりに手を挙げる(2枚目の写真、矢印は松ぼっくり)。その場に居合わせたハミデが、「さっきはありがとう」と言い、3人が並んでヘアマンに向かって歩いて行く。予想が外れたので、ヘアマンは、松ぼっくりを手にしたまま、どうしようかと迷ってしまう。すると、3人の真ん中にいるアルスランが、怖い顔で、「投げろ!」と怒鳴る(3枚目の写真)。ヘアマンは、松ぼっくりを落として、2・3歩下がる。アルスランが 「投げるんだ!」と再度怒鳴り、一歩踏み出すと、こそこそと逃げて行く。リッペルが、「ありがとう」と礼を言うと、アルスランは 「妹を助ける子は、誰でも助けるよ」と笑顔で答える。「ドイツ語話せないかと思ってた」。そのあと、3人は、パッサウの南を流れるイン川〔北はドナウ川が流れ、この町の先端で合流する〕に張り出した14世紀起源の観光名所シャイブリング塔の近くを仲良く歩く(4枚目の写真、矢印は イン川沿いの遊歩道とシャイブリング塔を結ぶアーチ橋、右側の川がイン川、その先がドナウ川との合流点)。ここだけ、あまりにきれいな場所なので、WEB上にあった同じ場所での写真を5枚目に掲載する〔映画が、いかに超望遠レンズでの撮影かがよく分かる〕〔電話ボックスは、スマホの普及で撤去された〕。そこから、話は、アルスランの祖父が飼っていた家畜に移る。リッペルは、夢の中で、馬に乗った悪漢に納屋まで追い詰められていたので、「馬のこと詳しい?」と尋ねる。「うん」。「馬って何を怖がるの?」。「どの動物もだけど、火さ」。「火なの? ホント?」。「そうとも」。リッペルは2人と別れて、急いで家に戻る。

途中で、また雨が降り出し、家の前に着いた時には土砂降り。家の前には、相変わらず、モックが寂しそうにリッペルを待っている。夢の中にも出て来たので、リッリルは、根性曲がりの家政婦に気付かれないよう、モックをこっそり家に入れてやる(1枚目の写真)。そして、日中にもかかわらずベッドに横になると、犬も一緒にベッドに入れ、“馬は火を怖れる” という情報を、夢の中のリッペルに伝えるべく、眠りに落ちる。リッペルは、さっそく、半日前にヤコブの悲鳴で叩き起こされ、その時にクモを入れたマッチの箱を取り出すと、マッチを擦って藁に火を点ける。藁はあっという間に燃え上がり(3枚目の写真)〔夢と現実が連動した5つ目のシーンだが、完全に一致したのは初めて(馬が火を怖がる、マッチを持っている)〕、馬は怖がって暴れ、悪漢を振り落とす。その隙に、3人と1匹は、納屋を抜け出す。

3人と1匹は、夜を過ごそうと旅籠に入って行く(1枚目の写真)〔なぜか、旅籠の名前はフランス語「chameau doré(金色のラクダ)」〕。中に入って行くと、5x5 グリッドのゲームをして遊んでいた旅籠の主人が顔を上げる(2枚目の写真)。この男は、現実の世界ではリッペルの学校の意地悪な教頭、対戦相手の息子は、当然、教頭の性悪息子のヘアマンだ。主人は、「3人のガキに、1匹の犬だと? どうせ、金もないんだろ?」と、乱暴な口で王子と王女を誹謗する。すると、弟とはかなり年齢差のある娘が、「父さん、7部屋も空いてるわ。1晩だけ、泊めてあげましょ」と言う。この女性は、映画の冒頭に出て来た “リッペルの父のレストラン” のセラフィーナだ。その暖かい言葉にも、冷たい主人は、「もし 8部屋 空いてたらどうする?」と変なことを言って拒否する。ハミデは、「今日は払えないけど、数日後に百倍払うわ。約束する」と言うが(3枚目の写真)、それも、「百倍だと? 何様のつもりだ。王家の子か? まだ、突っ立っとるのか、乞食ども。とっとと出てけ!」と追い払う。

ハミデは、いつも父、王から “どんな鳥よりも上手に歌うので、我がナイチンゲールと呼ばれている” と自慢げに言うと、街角で歌ってお金を稼ごうとする。そして、歌い始めるのだが、あまりに下手なので群衆から笑い声が起きる。リッペルが缶を持って回るが、誰も、お金など入れない。甘やかされて実力を知らないハミデが、「なんてケチなの」と批判したものだから(1枚目の写真)、3人に向かって、道に落ちているラクダの糞が投げつけられる。それを避け損なって、もろに顔にぶつけられたのはリッペル(2枚目の写真)。リッペルが、糞を拭い、手の臭いをかぐと、悪臭にうんざり。すると、ベッドでは、モックが眠っているリッペルの頬を舐め始め(3枚目の写真)、それが気持ち悪くてリッペルの目が覚める。リッペルは、「やめろよモック、臭いぞ」と言うと、犬をベッドの下に追いやる〔夢と現実が連動した6つ目のシーン。ここも、悪臭と言う点が一致している〕

リッペルは、ベッドに置いてあった懐中電灯に目を留め、手に取ると考える(1枚目の写真、矢印)。そして、懐中電灯を抱いたまま、「ショーは始まったばかり」と言いながら、眠りにつく。そして、夢が始まる。リッペルは、「ショーは始まったばかり」と、騒がしい群集に向かって叫ぶ。そして、「このまま、見ている人は賢い人です。リッペルの魔法のショーが見られるからです」「僕が持っているのは、魔法の銀の光です。まだ燃えていませんが、僕が 『Osram(オスラム)』〔ドイツ最大の照明品メーカー〕と言うと、明るい魔法の光を放ちます」。そう宣言し、如何にもという格好をして、厳かに 「オスラーム」と言って、懐中電灯のスイッチを入れると、それまで人々が見たことない白い光が、懐中電灯を振り回すことで(2枚目の写真)、群集の顔にも当たる〔夢と現実が連動した7つ目のシーンで、かつ、完全に一致した2例目〕。群集は、ひたすら驚き、光に魅せられる。リッペルが、『Risotto(リゾット)』〔映画の冒頭で父が作ったバイエルン風リゾット〕と言うと、光が消える。群衆からは一斉に拍手が起きる。リッペルは、さらに、「これは、マジックーショーの第一部でした。第二部では、火傷を負わずに素手で魔法の光の熱く燃える炎に触れます」「でも、その前に、ご覧になる方々に、少額の心付けをお願いします」と言う。群集は、積極的にお金を入れる。こうして、宿代を確保すると、もう一度、「オスラーム」で点灯し、まず、蛍光灯のすぐ近くまで手を持って行き、手のひらが光で白く輝く。リッペルは、如何にも手が燃え、熱さに耐えられない苦痛満ちた顔をしてみせる。それが終わって拍手を浴びると、次は、顔を逸らせ、その顔に向かって光を浴びせ、最後には、懐中電灯の先端を口の中に入れ、光で頬が燃えているように赤くなる(3枚目の写真)。それを見た群集からは、これまでで最も盛大な拍手が起こる。芸が終わり、それでも、まだ光を消さずに振り回していると、群集は感動のあまり踊り出す(4枚目の写真)。こうして、ショーは大盛況だったが、ショーの行われている小広場に悪漢の馬が入ってきたのを知ると、リッペルは、王子と王女に逃げるよう指示し、群集に向かっては、「あの者たち〔馬に悪漢ども〕を抑えて下さい。さもないと、偉大な魔術師があなた方を罰します」と叫び、信じきった群集によって悪漢どもは追い払われる。夢と現実が最高潮にミックスされた場面。よく練られた脚本だと感心する。

3人と1匹が旅籠に戻ると、野蛮な主人は、「また来たのか?! 乞食どもめ! タダの部屋などない!」と言うが、3人に付いてきた旅籠の娘は、ハミデが持っている “小銭が溢れんばかりに入った木の箱” を父に見せ、それに、リッペルが光を当てる(1・2枚目の写真、矢印)。主人は、「存じ上げませんでした。あなた方にご滞在いただけることで、私めのつつましい小屋に栄誉をもたらして下さるのであれば、光栄に存じます。どうか、最上の部屋にお泊まり下さい。虫など一匹もおりません」と、態度を一変させる。部屋に入り、片膝を立てて座り込んだリッペルは、膝の上にとまって鳴いている虫を手で追い払う。その時、ハミデが 「リッペル」と声をかける。「あなたがどこから来たにせよ、あなたの父上は王様です。それは、あなたが誠実な心の持ち主だからです」。リッペルは、「違うよ、僕のパパはシェフなんだ。一つ星の」。「アルスランが父上からもらい、父上はそのまた父上からもらったものを、あなたに差し上げます」。リッペルは、アルスランからもらったものを見て、「コンパス?」と訊く(3枚目の写真、矢印)。

翌朝、夢の中で リッペルは目を覚ます(1枚目の写真)。それは、起きたら兄がいなかったので、ハミデが 「リッペル」と呼んだからだ。心配になったリッペルは、朝の街に出て行き、アルスランを捜す。すると、黒い馬に乗った悪漢どもに追われたアルスランが、リッペルを見つけて警告する。アルスランが急にしゃべったので、リッペルは、逃げながら、「なぜ突然、話せるようになったの?」と訊く。「3日間が終わったんだ!」(2枚目の写真)。これで、王様に本当のことを言えるので、何としても魔の手から逃げないといけない。2人は、リッペルが先導する形で必死に逃げ、何とか旅籠に辿り着く。そこで、アルスランは、「宮殿に入る方法はない」と、1人抜け出して努力してみた結果を打ち明ける。「悪漢どもが、門を見張っている」。

すると、旅籠の中庭から主人の声が聞こえてくる。「セラフィーナ、遅いぞ!」〔名前も、現実の女性と同じ〕。「ごめんさない。山羊に餌をやっていたの」。「いつも言い訳ばかりだ」。それを聞いたリッペルは、主人のことを、「何て思い上がった猿だ」と批判する。中庭では、1頭の馬が引いた荷車にカボチャを山盛りに載せている(1枚目の写真)。そこに現れた悪戯小僧が、まだ地面に置いてあったカボチャ1個を足で蹴って割り、父から、「なんで、王様のカボチャを蹴るんだ?!」と叱られる。リッペルは、「王様のカボチャ」という言葉に注目する。つまり、王に届けるカボチャなので、中に隠れて行けば、宮殿の中に入れるということだ。王子と王女は、セラフィーナに “王家の指輪” を見せてカボチャの中に隠れ(2枚目の写真)、リッペルは、後を追って行く。カボチャを積んだ荷馬車が宮殿の入口に着くと、さっそく悪漢が馬車を停め、剣を抜き(3枚目の写真、矢印)、いきなり、カボチャに突き刺す。それを見たセラフィーナは、気丈に 「そんなことしたら、王様のコックが怒るわよ」と文句を言う。

それだけで、悪漢が止めるとは思えなかったが、その時、果敢なリッペルが、宮殿の入口の向かい側にある建物の屋上から、「やい! 壁の上に、リッペル様 参上だぞ!」と叫ぶ(1枚目の写真)。リッペルは、さらに、唇を指で振るわせて悪漢をバカにする。彼がリッペルに気を取られている隙に、セラフィーナは急いで馬車を宮殿の中に入れる(2枚目の写真)。リッペルは、さらに 「お前は子供が怖いんだ! 恐怖のあまり、漏らしてるんじゃないか。ここまで臭ってくるぞ」と愚弄する。しかし、リッペルが相手をバカにしてる間に、もう1人の悪漢が屋根の上に登り、リッペルをつかむと、屋根から投げ落とす(3枚目の写真)。リッペルはベッドから落ちたところで目が覚める(4枚目の写真)〔夢と現実が連動した8つ目のシーンで、“落ちる” という点の類似性までぴったりの抜群のタイミングが最高〕

リッペルは、ベッドに上がらず、そのまま眠ってしまう。すると、転落死は免れたが、後ろ手に縛られた状態で、宮殿内に連行される(1枚目の写真)。すると、中にはアルスランとハミデがいて、手のロープを外される。3人は手をつなぎ、アルスランが父上のところに行こうと言い、そのままカーテンで仕切られた王座に向かって進む。そして、段の前に膝を付くと、アルスランが 「高貴なる父上、私は本を盗んでいません。盗んだのは伯母です」と言い、その後をハミデが引き継ぎ、「伯母は、私たちを殺そうとしました。私たちの家に巣食った蛇を罰して下さい。伯母は邪悪です」と告発する。するとカーテンが開き、「邪悪? 私が?」という伯母の声がし、びっくりして3人が見上げる、そこには、伯母が 狡猾な笑顔を見せている。アルスランが 「私の父上、王様はどこにおられるのです?」と訊くと、伯母は 「あなたの父上は、愛する子供たちの死を聞かれて、悲しみに包まれたのです。だから、私が王座に座っているのです」。怒ったアルスランは、立ち上がると 「父上がもはや王でないのなら、私が王だ!」と伯母の不当な行為を強く非難する。伯母は、見せかけの笑顔を捨て、邪悪な顔に戻ると、「違う! お前は支配者にはならん! 絶対に!」と叫ぶと、手下に 3人を地下牢に入れるよう命じる。

そして、連れ去られる3人の背に向かって、何度も 「つまみ出すのじゃ」と言い続ける(1枚目の写真)。それは、本当は伯母が言っているのではなく、場面が変わり、家政婦のヤコブが、ベッドの下で寝ているリッペルに犬を 「つまみ出しなさい」と言っているのだと分かる(2枚目の写真)〔夢と現実が連動した9つ目のシーンで、言葉まで同じ 〕。ヤコブは リッペルが目を覚ましたのを確認すると、「勝手にこんな犬を連れ込んで」と叱りつけ、犬の首輪に直接触れないようハンカチでつかむと、部屋から連れ出そうとする。「やめてよ! どうする気なの?」。「こんな犬は収容所に入れないと。それまでは地下室行きね」。ヤコブは犬を部屋から出すと、リッペルが邪魔しないよう、部屋に鍵を掛け、モックを地下室まで連れて行くとロープに繋ぎ、電球を取り外して出て行く(3枚目の写真)。

そして、その後を左右する重要なシーン。ヤコブは、リッペルの部屋まで戻って来ると、「あの犬のせいで どれだけの細菌がベッドに付着したか分かってるの? 何て無責任な!」と批判し、リッペルも 「ひどいよ! 僕の犬なのに!」と批判する。ヤコブは、手袋をはめて枕カバーを外しながら、「あれは野良犬」と問題にしない。次のシーンでは、ヤコブがティアハイム(動物保護施設)に電話をかけ、「いつ引き取りに来てもらえますか? 犬は地下室に入れてあります」と言うと、住所を言う。リッペルは、それを悲しそうに聞いている(1枚目の写真、矢印はコードレスの子機)。この子機は、リッペルが父からの国際電話を受けた時に、ヤコブがこっそり盗み聞きするのに使ったもの。リッペルは、この子機をさっと奪う。そして、自分の部屋に戻ると、父が泊っているホテルに電話するが、父はホテルを出てしまってもういない。しかし、すぐに電話機が鳴る。ヤコブが受話器を取ると同時に、リッペルも子機を取る。それはヤコブの母親からだった。「彼、あと2日で戻って来る。でも、ママ、信じて。オットーはホントに魅力的な男よ。何か感じるものがあるって、すぐにピンと来たの」(2枚目の写真)「ううん、ちゃんとやる。今度はうまくいくわ。結婚祝いを考えてて」「心配しないで。ガキが邪魔したら、寄宿学校にぶち込むから」(3枚目の写真)。それを聞いたリッペルは、「そんなことさせるもんか」と誓う。しばらくして、ティアハイムから犬の引き取り手が来て、モックを連れ去る(4枚目の写真)。

リッペルは天窓から屋根に出て(1枚目の写真)、そのまま端の家まで行くと、雨樋をつたって路地に降りる。そして、向かった先は父のレストラン。そこでは、セラフィーナが、サプライズの内部改装をしていた。リッペルも、協力して一緒に壁のペンキをより明るい色に塗り替える(2枚目の写真)。作業の途中で、リッペルは、「あなたも、夢を見る?」と訊く。「もちろんよ」。「夢の中に、僕、出て来た? 僕のパパは?」と訊く。セラフィーナは、「リッペル、夢の良いところは、それがあなただけのもので、他の誰のものでもないってことなの」と答えるが、それを聞いたリッペルは、自分の夢の中にセラフィーナが出てくるのに、セラフィーナの夢には自分たちが出て来ないんだと感じて悲しくなる。それを見たセラフィーナは、リッペルを優しく抱き締める。リッペルは、「なぜ家政婦なんか要るの? 僕、もう大きいのに」と、涙を流す(3枚目の写真)。その夜、セラフィーナはヤコブに電話をかけ、今夜、リッペルが外泊すると告げる。そして、リッペルは、セラフィーナのアパートのソファで横になる。「ここで寝れば、あなたの夢は、きっとハッピーエンドよ」(4枚目の写真)。

しかし、寝た場所がいつもと違っていたためか、夢に現れた場所は、アラビアンナイトの世界ではなく、エジプトだった(1枚目の写真)。そこで、リッペルは、「エジプトには行きたくない!」と叫ぶ(2枚目の写真)。前にも述べたが、夢の中のシーンのロケ地はモロッコのワルザザート。そこにある、世界最大と称されるAtlas studiosには、かつて多くの映画で使われた巨大なセットの幾つかがそのまま残り、観光用に開放されている。このエジプトのセットもそうなので、参考までに、3枚目に現状を示す〔撮影は、逆方向から。映画の背後のギザのピラミッドはCG〕

リッペルが叫ぶと、今度は、正しく、地下牢へ(1枚目の写真)。床にはネズミが這いずりまわっている。リッペルは、アルスランとハミデに 「また ここに戻れて嬉しいよ」と言い、アルスランは 「こんな勇敢な友だち、初めてだ」と返す。それを聞いて、リッペルの顔が綻ぶ。その頃、殺人鬼の伯母は、王と3人の子供を殺すため、4個のカップに毒薬を入れていた(2枚目の写真)〔この場面が見られたということは、リッペルもこれを見ていることになる〕。毒入りのカップは、まず、3人が入っている地下牢に持って行かれる。「飲め。喉が渇いたろう」。リッペルが警告したので、誰も飲まない。次に、王が入れられている地下牢が映る。彼は、オットーの化身でもあるので、オットーと同じようにピスタチオを山ほど食べている(3枚目の写真、矢印)。

すると、カメラが下に移動し、王の地下牢の真下に、3人が入れられている地下牢がある。そして、天井に開いた隙間から、王が食べたピスタチオの殻が落ちてくる。それを拾ったアルスランは、「ピスタチオの殻だ」と驚く(1枚目の写真、矢印)。「父上は、この上におられる」。そして、リッペルに、「父上を除き、宮殿の誰もピスタチオを食べることが許されていないから」と説明する。さらに、「ハミデ、お前の指輪を寄こせ。リッペル、ネズミを1匹捕まえろ」と指示する。どちらも簡単なので、あっという間に用意ができ、アルスランはネズミの首にハミデの指輪を押し込む(2枚目の写真、矢印)。その頃、王にも毒入りカップが届けられる。アルスランは、牢の中で一番高い所に上がると、天井からネズミを押し込む。王は、カップを飲もうとするが、その時 ネズミの音に気付き、下を見ると ピスタチオの山の中から指輪を付けたネズミが出てくる(3枚目の写真、矢印)。王は カップを盆に戻すとネズミを捕まえ、指輪を見て 「ハミデの指輪だ」と気付き、ピスタチオの山をかき分けると、下に向かって 「ハミデ、アルスラン」と呼びかける。下からは、「父上。私たちここです! 真下に!」という声が聞こえる。嘘がバレたので、カップを持って来た一番ワルの手下は、急いで牢を出て鍵を掛ける。

一方、3人は、恐らくリッペルのアイディアで、毒を飲んで死んだフリをする(1枚目の写真)。そこにやって来た見張り2人は、「毒が効いた」と思い、鍵を開けて中に入る。すると、いきなり、リッペルが懐中電灯を点け、光で敵の顔を照らす(2枚目の写真)。初めての経験でびっくりした敵は、その場に転倒し、その間に3人は牢から出て、扉を閉め、鍵を掛けて出られないようにして(3枚目の写真)、上の階に向かう。

王の牢の様子を隠れて見ると(1枚目の写真)、一番ワルの手下が、まだ牢の前にいる。王は 「今すぐ鍵を開けよ。ハイエナの息子よ。王の命令だ」と言うが、死罪が確実なワルは、下を向いたまま。すると、真っ暗な壁に懐中電灯で光の環が出現する〔懐中電灯はハミデが持っている〕。そして、アルスランが両手を使ってハイエナの影を作って動かし、「見えるか? 運の尽きた男よ」と低い声で何度も囁く。ワルは、「あなたは、鷹の王ですか?」と恐る恐る訊く。「そうだ。近くに寄れ、運の尽きた男よ。わしには、お前の邪悪な魂が見える。お前は王を裏切っただけでなく、罪なき3人の子供を殺そうとした」。ワルが近づいて来ると、待ってましたとばかりに、リッペルが壺をワルの頭に叩きつける(2枚目の写真、矢印)。そして、ワルが持っていた鍵で王の牢の扉を開くと、王子と王女は父に抱き着く。3人は、感謝を込めてリッペルを見る(3枚目の写真)。

鬼の伯母の前に、全身を黒い衣で覆った人物がやって来る(1枚目の写真)。伯母は、相手が一番のワルだと思い、「申せ! お前は全ての命令を実行したか?」と訊く。男は頷く。「王と、ガキどもは死んだのか?」。「いいや、王は生きています」。「どこにいる?」。男は、覆いを取り、「お前の前に立っておる」。王を見た伯母は、恐ろしくなって逃げ出す。すると、正面からハミデが現われ、睨みつける。別の方向に逃げると、そこにはリッペル、逆に逃げるとアルスランが行く手を遮る。逃げ場を失い王の前で立ち止まった伯母に対し、王の横には、3人の子供達が並ぶ。伯母は 「ちゃんと説明できます」と最後の悪あがきを口にするが、王は、「嘘は十分だ。死刑執行人を呼ぶ。彼なら裏切者の頭を一撃で切り離す」と言う(2枚目の写真)。それに対し、アルスランは、「父上、伯母の助命を嘆願致します。父上は、先週、厳しい判決を下されました。彼女は、私たちが罰せられたように、罰せられるべきです。私たちの国からの永久追放です」と提案する。伯母は、住民たちから色々なものを投げつけられながら、城門から追い出される。アルスランは、「消えろ、価値なき者よ! 二度と我らが土地に足を踏み入れるな!」と告げる(3枚目の写真)。シンドバッドは、「あなたは正しく行動された。善が沈黙したことで、悪が正体を現したのです」とアルスランに言い、その横では、王とリッペルが、オットーとリッペルのように仲良く立っている(4枚目の写真)。

セラフィーナが言った通り、ハッピーエンドで目が覚めたリッペルは、「これだ」と思う(1枚目の写真)。「あの女は追い出された。あいつも追い出そう」。食卓では、セラフィーナが、「お早う、リッペル、お座りなさい。見て、ケーキを焼いたわ」と言うが、リッペルは、「僕、行かないと」と言い、ケーキを持って学校に向かう(2枚目の写真)。そして、玄関の横で待っていたロクデナシのヘアマンの前まで来ると、「君のために持って来たんだ」と言うと、それをヘアマンの顔に叩きつける(3枚目の写真)。それを玄関から見ていた教頭は、リッペルが玄関を入って来ると、呼び止めようとするが、リッペルは先手を打って、「8時1分前だよ、教頭先生」と言い(4枚目の写真)、文句を言う隙を与えない。教頭は、顔中に生クリームを付けて入って来た息子のヘアマンを、「恥を知れ」と叱りつける。

その日の授業が終わると、リッペルはアルスランとハミデを廊下で呼び止め、「助けて欲しい」と声をかける(1枚目の写真)。3人は、生物の授業のあった教室にこっそり入って行くと、アルスランがケースに入ったタランチュラを掴み、リッペルが持って来た容器に入れる(2枚目の写真)。次は、リッペルの家の前の路地に置いた大きな円形容器に、内容不明の橙色の液体を注ぎ込む(3枚目の写真)。そこにやって来たハミデが、「こんなに見つけたわ」と言って袋を見せる。

リッペルとアルスランは、ヤコブに気付かれないように家の中に入らなければならないので、石炭の搬入口からロープを使って潜入する(1枚目の写真)。そして、ドアを開けて中の様子を確かめる(2枚目の写真)。その時、玄関のチャイムが鳴り、ヤコブがドアを開けると、ハミデが、「お邪魔して済みません。社会科の調査をしてるんです」と断ってから(3枚目の写真)、「私たちの地区の清潔さに満足されておられますか?」と質問する。

ヤコブが悪口を並べている間に、リッペルは床に犬の糞を置き(1枚目の写真、矢印)、シンクの引き出しにタランチュラを入れ(2枚目の写真)、シンクの中には、ハミデが袋に入れて持ってきた “普通の大きめの黒いクモ” を全部入れる(3枚目の写真、矢印)。そして、調査が終わってヤコブがドアを閉めると、ハミデはリッペルから渡された鍵で、ドアを外からロックする(4枚目の写真)。

家の中で2人が隠れて見ていると、ヤコブはまず糞に気付き(1枚目の写真、矢印)、「キモイ! 何て嫌な雑種犬なの!」とブツブツ。次に引き出しを開けて、タランチュラを見てショック状態に。恐ろしくなって逃げようとしても、ドアが開かない。次に入った部屋のビリヤードの台の上には、ミミズが蠢いている(2枚目の写真)。そして、窓に近付くと、そこには、シンクから抜け出したクモが2匹歩き回っていて(3枚目の写真)、さらに、床にもソファにもいる。

ヤコブは、路地に面した窓を開けて逃げようとするが、別なクモに驚いて背中から窓の外に転落(1枚目の写真)。リッペルとアルスランが用意した円形容器にすっぽりと落下(2枚目の写真)。容器の中には、固体物(内容不明)も一杯入っていて、その気持ち悪さに絶叫。お陰でバランスを崩し、容器ごと路地に転倒する(3枚目の写真)。

リッペルは、ヤコブの部屋の窓を開け、ヤコブの持ち物を、次から次へと放り出しながら(1枚目の写真)、「消えろ、価値なき者よ! 二度と僕らの家に足を踏み入れるな!」と叫ぶ。そして、全部投げ捨てると、アルスランと手を握って 「やった!」(2枚目の写真)。それを下から見ていたハミデも笑い、後ろには逃げて行くヤコブが写っている(3枚目の写真、矢印)。すべてが終わると、3人はティアハイムに行き モックを引き取る(4枚目の写真)。

父がアメリカから帰国する日。リッペルはモックを連れ、駅まで父を迎えに行く。そして、列車が着いたので、父を見つけて 「パパ!」と言い(1枚目の写真)、父に向かって走って行く。それに気付いた父も、「リッペル!」と言って走る。そして、2人はホームで抱き合う(2枚目の写真)。「元気かい?」。「うん」。「なぜ一人なんだい? ヤコブさんは?」。「砂漠に追いやったんだ」。「それ、誰の犬?」。「モック。僕の犬だよ」。「お前の犬だって?」。「そう」。「一つお土産がある。骨董店の前を通ったら、あったんだ」。そして、父が渡したものは、夢の中で旅籠で王子からもらったコンパスだった(3枚目の写真、矢印)。

リッペルがコンパスをじっと見ていると、次の映像に変わる。リッパルは眠っている訳ではないので、これまでの映像と主旨は違う。リッペルの頭をかすめた “理想論” なのだろうか? 王の一行が、旅籠 「金色のラクダ」 に入って行く(1枚目の写真)。そんな偉い方のお越しに主人はびっくりする。中庭に入った一行の前に、主人とバカ息子とセラフィーナの3人が地面に座って迎える。「何という名誉でございましょう」。王は、その主人をすげなく追い払う(2枚目の写真)。そして、セラフィーナに向かって 「高貴な女性よ、お立ちなさい」と声をかけ、セラフィーナが立ち上がると、子供を救ってくれた礼を述べた後で、「あなたの心の広さを上回るものは、あなたの美しさだけです」と、ある意味、異様なことを言う(3枚目の写真)。「あなたは、私を赤面させます。王様」。「謙遜は忘れなさい。因みに私はオットーです」。

そして、現実の世界に戻り、オットーのレストランのテーブルで、彼が「ネルソンさん」と呼んでいた女性が、「私はセラフィーナです」と答える(1枚目の写真)。リッペルは、2人の仲の良さに満足している。3人は、乾杯する。これで、リッペルには、鬼婆ヤコブではなく、素敵なセラフィーナという、新しいママができた。

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