オーストラリア映画 (2010)
この映画を紹介しようとおもって「パッ」と観た時は何の違和感も覚えなかったのに、細かく読み取っていくと、これまで観たどの映画よりも “山のように累積する欠陥” に腹が立ってしまった。もう止めようかとも思ったが、ここまで監督や脚本家がバカ(不勉強)になっていいのか、言葉を変えれば、どんな嘘八百を並べても、SFでもサイコでもなく、白血病という重い現実の治療法に誤解を与えるような映画を、“何の勉強もせずに、こんな形で平然と作ることが許されていいのか” を告発する意味で、敢えて紹介に踏み切った。
急性リンパ性白血病には、B細胞性とT細胞性があり、それぞれ、高リスクと低リスクがあり、その何れかにより、骨髄移植の可否や5年生存率も大きく違ってくる。移植の判定に使われるHLAの4つの型(A、B、C、DR)の中に含まれる抗原には、非常なバラつきがある。参考まで、日本組織適合性免疫遺伝学会(JSHI)と日本骨髄バンク(JMDP)の包括的な中央登録データ(2020~22年)の、全抗原の%を下の表に示す。この表によれば、抗原の種類により、出現率が全く違うことが歴然としている(他〔その他の意味〕が、B、C、DRで多いのは、基本の型から外れた変異型が無数に近くあるため)。日本で一番多い、A24、B52、C12、DR15のアレル〔遺伝子の型〕が全体の約8%、次に多いA24、B54、C1、DR4のアレルが全体の約2%。もし、患者のアレルがこの2つだとすると〔どの人も2つのアレルを持っている〕、ドナーの合致確率は0.08×0.02×2=0.0032で、312人に1人となる。しかし、「他」で示されているような極めてレアな場合だと、ドナーが見つかる可能性は極めて低くなる。世界最大の白人のドナーの場合、日本人と “主要な抗体” に大きな差があるため、日本人の利用度は非常に限られている。現在の医療水準なら、①一部の不適合を許容して移植したり、②親子間などの半合致移植をしても、移植の直後に特定の免疫抑制剤を投与することで、完全一致とほぼ同じ水準の5年生存率が叶うようになっているが、映画の作られた2009年当時は非常に厳しかった。
| A1 | 0.443% | B7 | 5.492% | C1 | 17.192% | DR1 | 5.672% |
| A2 | 24.505% | B8 | 0.041% | C3 | 3.174% | DR3 | 0.014% |
| A3 | 0.521% | B13 | 0.374% | C4 | 4.211% | DR4 | 23.441% |
| A11 | 9.083% | B14 | 0.012% | C6 | 0.612% | DR7 | 0.011% |
| A23 | 0.004% | B15 | 3.894% | C7 | 9.654% | DR8 | 8.512% |
| A24 | 37.094% | B18 | 0.023% | C8 | 10.952% | DR9 | 14.634% |
| A26 | 12.052% | B27 | 0.255% | C9 | 10.120% | DR10 | 0.004% |
| A30 | 0.231% | B35 | 8.261% | C10 | 12.190% | DR11 | 1.782% |
| A31 | 8.513% | B37 | 0.514% | C12 | 13.681% | DR12 | 4.271% |
| A32 | 0.021% | B38 | 0.312% | C14 | 9.943% | DR13 | 10.274% |
| A33 | 7.511% | B39 | 3.310% | C15 | 6.211% | DR14 | 5.321% |
| 他 | 0.022% | B40 | 8.003% | 他 | 2.060% | DR15 | 18.432% |
| B44 | 6.695% | DR16 | 2.453% | ||||
| B46 | 4.133% | DR17,8 | 0.005% | ||||
| B48 | 4.012% | B57 | 0.011% | 他 | 5.174% | ||
| B51 | 9.162% | B58 | 1.325% | ||||
| B52 | 11.091% | B59 | 0.782% | ||||
| B54 | 3.462% | B60 | 4.901% | ||||
| B55 | 5.411% | B61 | 9.102% | ||||
| B56 | 1.114% | B67 | 1.132% | ||||
| → | 他 | 7.176% |
HLAの地域による特異性を示した図(各国における推定対立遺伝子頻度の主成分分析)を下に示す。横軸は、地域差を一番はっきり示す第1主成分(PC1)、縦軸は二番目に強く示す第2主成分(PC2)。深い意味はないが、地域差を最も明確に示すためのパラメターだと思ってみればよい。この図を見ると、黄色の↓の日本がPC1では離島を除き、最も右に寄り、左に集まったヨーロッパ(緑色)、アメリカ(青色)、アフリカ(焦げ茶色)と離れていることが分かる。縦軸では、日本は、他のアジア諸国(オレンジ色)の中では最も欧米に近いことも分かる。この図の出典は「HLAfreq: Download and combine HLA allele frequency data(HLAアレル頻度データのダウンロードと結合)」、Journal of Open Source Software(2026)という論文。
最後に映画に戻り、ジャック役は、Tom Russell (トム・ラッセル)。1998年4月18日生まれ。これが3本目の映画出演。ベストの作品は『Last Ride(ラスト・ライド)』(2009)。フィン役は、Kodi Smit-McPhee (コディ・スミット=マクフィー)。1996年6月13日生まれ。これが11本目の映画出演。すでに『Let Me In(モールス)』(2010)で紹介済み。
あらすじ
日曜日、ジャックの両親が 学校の体育館を借り、サッカークラブの仲間や級友を呼んで、ジャックの誕生日会を開いている。参加者の前の舞台では、マジシャンが「フローティング・テーブル」、「ダンシング・シルク」、「人体切断」を順に見せている〔本格的なマジックで、マジシャンと助手への謝礼、特殊な装置(テーブル、ギミック・バーの付いたテーブル掛け、背景に貼った見えない糸、背景の大黒幕、切断箱、専用台、ブレード)などの運搬・搬入・設置が必要なため、かなりの高額になる〕〔子供たちは、みんな風変わりで派手な格好で統一されているため、母が貸し衣装店で手配した違いない〕。子供たちは、「すごい! どうやってあんなこと?」と大喜び。そんな時、最前列中央に座っているジャックに向かって、隣に座った父が、「糸、見えるか?」と訊く〔見えない糸(インビジブル・スレッド)の素材は、ポリウレタン、またはラテックスの極細芯線(光を吸収するマットな黒色)で太さは0.02~0.03mmなので、見えるハズがない〕。そして、さらに「なあ、いいかい、パパは今から会議に行かなきゃいけないんだ。ママに伝えてくれる?」と言う。「だけど、僕たちまだバースデー・ケーキ食べてないよ」(1枚目の写真)。「仕方ないんだ。ママには請求書を払ってもらわないといけないだろ」。そこで、ジャックは、一番端に座っている母に向かって、「パパ、もう行かないと」と、友人たちに順に伝言するよう頼む。そして、父は、途中で退席する。このシーンは、バースデー・ケーキのロウソクに母が火を点け、母から「願い事をして、ハニー」と言われたジャックが、「明日レイブンズに勝利を!」と言ったところで終わる。一方、父が向かった立派な会場では、老齢の司会者が、父のことを、「受賞されたゴードン新技術研究所の設計にも、この象徴的なビクトリア朝建築の見事な修復にも、等しく手腕を発揮された方です」と紹介し、「州首相、皆さん、デヴィッド・ヘイゲン教授をお迎えします」と言い、父は、ステージに上がって行く。場面は翌日に変わり、レイブンズの試合。ジャックはチームの主力選手として活躍しているが、フリーキックをした時、上手く蹴ることができずに転倒する(2枚目の写真、矢印)。ジャックの動作が弱々しいのに気付いたコーチがプレーを止めさせ、応援に来ていた母のところに連れて行き、「マリッサ、この子は、ハーフタイムからもうヘトヘトだ」と告げる。マリッサは両手でジャックの頬を触ると、「ええ、気づいてたわ」「あなた大丈夫?」と訊く。「うん」(3枚目の写真)。「決めたわ、リード先生に診せに行きます」。

ジャックと母が、病院に寄って帰宅する。そして、「パパ、ただいま。リード先生が僕の血を採って、そこに僕の名前を貼り付けたんだよ」と言って、注射のあとの脱脂綿を見せる。母も、「そう、ホントに勇敢だったわ、お利口さん」と褒める。ジャック:「そのあと、看護婦さんたちがサイコパス(psychopath)に渡したんだ」(1枚目の写真)。父:「パソロジスト(pathologis、病理医)だろ。ジャックは、ちょっとぼんやりしてるのか?」。母:「サッカーで疲れただけよ。リード先生は大丈夫だって言ってたわ。念のために検査をしただけ」。そう言うと、夫が出かける用意をしていたので、「仕事だなんて知らなかったわ」と訊く。「ああ、ごめん。ちょっとこれに出ないと」。「飛行機は何時?」。「30分後には出ないと」。その頃、ジャックは、ノートパソコンを見ていて、「マジかよ!」と大きな声で言う。それを聞いた母は、「罵倒や冒瀆はダメよ、ハニー」と注意する。「スウィフト・タトルって彗星がこっちに向かってる」。そう言うと、「お父さん、彗星だよ!」と叫びながら、走って行く。そして、ノックせずに父の部屋を開けて、「ちょっと見に来て」と言う(2枚目の写真、矢印はオリンパス製ICレコーダー)〔重要な伏線〕。電話中だった父は、「ごめん、ちょっと待って」と言うと、「ジャック、ノックしてくれよ」と注意する。「でもスウィフト・タトルって彗星がこっちに向かってるんだ」。「ああ。21年から26年頃に通り過ぎる予定だろ。それより、電話を終わらせていいか?」。ジャックは部屋を出て行く。自宅のシーンの最後は、豪邸の前に停車したJaguar S-Type 4.0 V8の後ろで、父がジャックに 「今日の午後、シロアリ業者が寄るかもしれない。リサイクルゴミは明日の夜だ。忘れないでくれよ」と言い、ジャックは 「うん、わかってる。でも、あれが恐竜を滅ぼしたって言われてるよ」と言い、父は 「何がだ? リサイクル? シロアリ業者?」と訊き、ジャックは 「スウィフト・タトルみたいな彗星だよ!」と言う(3枚目の写真)〔いかに優雅な生活を送っているかが分かる唯一のシーンなので、使用した〕。

父が出て行った後、病院から電話がかかってくる。受話器を取った母は、「もしもし、あら、リード先生」〔朝、会ったばかり〕(1枚目の写真)「はい、もちろん。今日の午後、連れて行きます」。次のシーンは、病院の検査室で待たされる2人。ジャックは、「ママ、どれくらいここにいなきゃいけないの?」と不満を漏らす。「ちょっと待ってて、ハニー」(2枚目の写真)。そう言うと、母は、どうなっているのか訊きに行く。リード女医は、「ジャックの白血球のカウント〔白血球数〕は間違いなく異常な高値です〔血液1μLあたり 10万個以上→「高リスク」の急性リンパ性白血病の可能性大〕。入院させて、様子を見ないといけません」と、ショッキングなことを言う。母は、「白血球のカウントが高くなる原因は、たくさんありますよね? ただの動きすぎかも」と言うが、女医は、「もちろん、さらに詳しい検査をします」(3枚目の写真)「原因を突き止めてから治療しましょう。いいですね?」と告げる。

追加の検査を受けたジャックは、キャスター付きベッドに乗せられて病室まで運ばれる(1枚目の写真)。ベッドは、2人部屋の窓側に運ばれて固定される。優しいポーターは、「しばらく眠るよ。さあ、これでよし、相棒」と言って出て行く。母は、ジャックを横向けに寝かせる(2枚目の写真)。病院の外に出た母は、夫の携帯に電話するが、「デヴィッド・ヘイゲン教授です。ただいま電話に出ることができません」の不在通知(3枚目の写真)。母は、「デヴィッド、私よ。電話して。緊急なの。デヴィッド・ヘイゲン、お願い」と伝言を残す。

その直後、目の前の道路で、トラムから長い木材を持った男性が下りて来て〔乗車中は、さぞや他の乗客に迷惑をかけたに違いない〕、木の棒を落としたので(1枚目の写真)、車道を邪魔されたドライバーが、クラクションを鳴らし 「おい、急いでるんだ」と文句を言うと、男性は 「わてもや、友よ」とアイルランド訛りで言う〔京都弁を使用〕。ドライバーがさらに、「トラックでも借りやがれ、この間抜け」と怒鳴ると(1枚目の写真)、トラムの運転手が 「クラクションを鳴らして座ってないで、車から降りて手伝ったらどうだ」と批判する。それを聞いたドライバーは、「中国に帰りやがれ」と怒鳴り、運転手は 「私は韓国人だ、このまぬけなタスマニアの丸目の白人め」と罵倒し、騒ぎの原因となった男性は 「おいおい、第三次世界大戦を始めるのはやめとこ」と言って止める〔この男性(フィンの父)が如何にも良い人間に見え、「私は韓国人だ、このまぬけなタスマニアの丸目の白人め」の文だけが、ネット上で拡散している状況は、すべて脚本に責任がある。責められるべきは、他の乗客の迷惑を無視して、長い木材をトラムに持ち込んだ非常識な男性を「寛大な人物」として描こうとするために、こんな口論をでっち上げた脚本家にある〕。カメラは、もう一度、母を映す。今度は、夫が泊ると言っていたホテルに電話をかける。その際の台詞。「パーク・ロイヤルですよね?」「いいえ、もう一度確認してみて。デヴィッド・ヘイゲン教授。H-A-G-E-N」(2枚目の写真)。でも、そんな人物は宿泊していない。ここで、場面は変わり、夫が、恐らくメルボルン市内の女性の家で、日中から愛し合っている姿が映る(3枚目の写真)。

アイルランド訛りの男性が手に持っていたのは、息子のフィンのベッドを、ボートの形にするため、ボート小屋で製作した船首の部分と、さっき道路で落としたマスト。それらを病室の片隅に置くと、フィンに 「おお、おったな! 船長を迎える準備がいつでもできとる一等水兵よ」と おどけて言う。「パパ、完成したんだね」。「一晩中かかったで」。そう言うと、半分完成した部品を電動ドライバーで固定していく。病院のベッドに直接固定したら器物破損になるので、どのように組み合わせたのかは、映画を観ているだけでは分からない。完成したボート型ベッドを見て、フィンは 「うわあ! オーガズミック(orgasmic、最高 or 性的快感の頂点)だ!」と言うが、二重の意味の片方は子供が使うにはヤバい単語なので、父は 「『オーガズミック』やと? それって、どないな意味や?」訊く(1枚目の写真)。悪い言葉を使ったかもと思ったフィンは、似たような発音の単語を探し、「えっと、殺虫剤を使ってない食べ物〔オーガニック(organic)〕のことだよ」と言う。父は、今まで空いていた窓側にベッドがあるのに気付き、「おお。あっちの水兵さんの名前はなんや?」とフィンに訊く。「さっき着いたばかりみたいだよ」。そこに、ジャックの母が入って来る。父は、フィンに、「あの女(ひと)なら、ジブ〔マストの前方に張られる前檣帆〕を分けてくれるかもしれんな」と言うと、ジャックの母に、「やあ! コートと交換しまへんか? あのシーツは、今すぐ出航するのに格好やさかいな」と言うが、シーツを渡したらゴツゴツしたコートの上で寝ることになるので、母は 「ごめんなさい、ウールは痒くなるの」と言って断る。父は、フィンに 「よし、乗組員配置開始」と言い、それを聞いたフィンはベッドに入り、信じられないことに、父は、汚い靴のままベッドに入る。そして、「面舵一杯! しばらく脚が落ちるで。おっ! 見てみぃ、地平線の彼方や。夜の間だけ姿を現す魔法の島々が見えるか? やけど(だが)油断したらあかんで。一瞬で消えてまうかもしれん」と、それらしく振る舞う。場面は夜となり、ジャックと母が一緒に寝ていると、カーテン越しに、ロウソクに照らし出されたフィンと父の影が見え、父が 「わてらの声を聞け、東の夜明けの精霊たちよ。望むのなら、わてらの仲間に加わるがええ。そなたたちの魔力を、わてらは心から歓迎し、必要としとるのや」と唱える(2枚目の写真)。ジャック:「ママ、あのお父さんも病気なの?」。「お祈りをしているだけよ、ハニー。もう眠りなさい。朝になったら個室に変えてもらうわ」。カメラがカーテンの向こう側を映すと、フィン父子が50本近いロウソクに囲まれている。「白き蝋燭よ、光の加護よ、昼も夜も、わてらを恐れから解き放ち給え」(3枚目の写真)〔病院内でのロウソクが許されるハズがない。それにベッドの改造も〕。

翌朝、母は、さっそく交渉に行き、「彼は共同病室を魔女の集会所に変えてるのよ」と苦情を言うが(1枚目の写真)、「ええ、蝋燭の件は同感です。ですが、無いベッドを魔法で出すわけにはいきませんから」と、半分おちょくるような返事をする。「どこかに個室があるはずよ。最高ランクの保険に入っているのに」。しかし、“ないものはない” で終わり。ここで、カメラは、ジャックの父の不倫現場の翌朝の状況を短く映す。女性が持って来た空のミルク入れを見たデヴィッドは、「牛乳 空(から)か? 私が行くよ」と言う。「いいえ、私が行くわ」。「いや、私が行く。君にはこれまで、たくさん無理をさせてきたから」(2枚目の写真)〔一夜だけの不倫ではない。あとで、非常に親しい間柄だと分かる〕。

病室に残されたジャックは、フィンに 「なぜ窓側のベッドにしなかったの?」と訊く(1枚目の写真)。「トイレに近いからだよ。グリベック〔分子標的薬〕を飲んでると、しょっちゅうおしっこしたくなるんだ〔グリベックを飲む場合、可能性としては、①B細胞性(後述)の急性リンパ性白血病の数%に見られるフィラデルフィア染色体陽性の患者(5年生存率は2009年当時70~80%)、②慢性骨髄性白血病の患者(小児白血病全体のわずか2〜3%程度。5年生存率は2009年当時90〜95%)の2つの可能性しかない〕。そして、「君は、どんな白血病なの?」と尋ねる(2枚目の写真)。ジャックは、寝耳に水なので、「白血病? 僕、そんなのじゃないと思うけど」と言う(3枚目の写真)。しかし、フィンの言葉は厳しい。「まだ聞いてないの? 君はがん病棟にいるんだよ」。「そうなの? じゃあ、ちょっとだけ白血病なのかも」。「白血病には、悪いやつと、もの凄く悪いやつの2つがあるだけ。僕は前、もの凄く悪いやつだったけど、治してくれたよ」〔子供の意見なので、間違っている([もの凄く悪いやつ」ではない)。将来は別として、この段階ではグリベックのお陰で安定した状態が続いている〕。そこに、個室への移動を断られた母が戻ってくる。ジャックは、さっそく 「僕、白血病なの?」と訊く(4枚目の写真)。母は 「そうよ。でも、ここの先生たちは治すのが上手だから大丈夫」と、よく分からないまま、慰めるように話す。

買物のため車に戻ったデヴィッドは、車内に忘れて来た携帯に気付くと、「不在着信:4、新着メッセージ:18」という数字を見て驚く。場面はすぐに病院に切り替わり、デヴィッドが病室に入って行く。妻は、「治療を始めるのにちょうどいい年齢だって言われたわ」と言った後で、「どこにいたの? 週末中、ずっとあなたに電話してたのよ。パーク・ロイヤルは、予約すらしてないって言ったわ」と訊く。「分かってる、すまない。予約の手違いがあったんだ。別の場所に行かなきゃいけなかった」。「ただ、一緒にいて欲しかっただけなの」。まだ夫を信じている妻は、一人だった時の心の重荷を、夫に抱き着くことで解放する。2人は主治医の説明を受ける。「かつて骨髄移植は最終手段とされていましたが、高リスクな症例においても、初期の抗がん剤治療の後に移植を行うことで、そのほとんどで寛解が得られています。T細胞は難治性です。そのためジャックの治療がより難しくなります」(2枚目の写真)「抗がん剤治療単独で完治する確率は5割以上でしょう。骨髄移植が加われば可能性はより高くなります。もし骨髄の型が一致する兄弟姉妹がいれば、可能性は飛躍的に高くなります」と言う(3枚目の写真)。この最悪最低の発言についての分析と、本来なら “こう話すべきだった” という例文をつけて解説する。「『高リスク』は、リード女医が『ジャックの白血球のカウントは間違いなく異常な高値です』と言った段階で、『高リスク』に分類された。ただ、これは暫定的なもので、治療開始後7日間のステロイド薬投与による8日目の血液中の白血病細胞数と、約1ヶ月後に骨髄の中にどれくらい がん細胞が残っているかの測定により、高リスクか低リスクかが確定する。『初期の抗がん剤治療の後に移植を行うことで、そのほとんどで寛解が得られています』は、『初期の抗がん剤治療だけで寛解が得られる』ため、観客に『移植』の良さをアピールするための作為文。入院したジャックは採血され、フローサイトメトリー検査の結果、T細胞性の急性リンパ性白血病だと判明する。急性リンパ性白血病には、B細胞性とT細胞性の2タイプがあり、それぞれ、高リスクと低リスクがある。B細胞性は全体の約 80~85%、T細胞性が約 10~15%とされる。B細胞性の高リスクは全体の約30~40%、2009年当時の抗がん剤単独での5年生存率は50~60%。低リスクは全体の約60~70%、5年生存率は90%以上。T細胞性の高リスクは全体の約60~70%、抗がん剤単独での5年生存率は20~30%。低リスクは全体の約30~40%、5年生存率は85~95%。目立つのは、T細胞性は高リスクが多く、5年生存率が極めて低いこと。主治医が『難治性』と言ったのは、ジャックが暫定的ではあるが、高リスクなT細胞性に該当したため。しかし、主治医の言葉で正しかったのは、『もし骨髄の型が一致する兄弟姉妹がいれば、可能性は飛躍的に高くなります』の部分だけ。骨髄移植に関する部分は、後で詳しく述べるのでここでは省略するが、『骨髄移植が加われば可能性はより高くなります』は全くの嘘だし『飛躍的』は言い過ぎ」。もし主治医が正しく両親に告げるとしたら、「当初の血液データから見て、ジャックの白血病は非常に高リスクな状態に分類されます。先程判明したT細胞性は難治性です。そのためジャックの治療がより難しくなります。抗がん剤治療単独で完治する確率は20~30%でしょう。ですが、もし骨髄の型が一致する兄弟姉妹があれば、骨髄移植をすることで可能性はより高くなります」でなければならない。主治医は、今後の対応として、「これから腰椎穿刺をします。それにより、現在の病状がより明確に分かります」と告げる〔腰椎穿刺の目的は、①中枢神経への浸潤の有無のチェック、②抗がん剤を髄腔内に入れるため〕。

そのあと、サッカーチームの子供たちがお見舞いに来るシーンがある。そこに、ジャックの母方の祖母も加わる(1枚目の写真)。子供たちが帰ったあと、祖母は、隣のボート型のベッドの前に置いてある大きな女性像を見て、フィンに何なのか訊くと、魔法の島々へのセーリングボートの旅の船首像で、名前はアシラムだと答える(2枚目の写真)。そこに、フィンの父が大きな扇風機を持って現れる。そして、帆を拡げるとそこに風をあて、帆が風をはらんでなびく(3枚目の写真)。

フィンの父は、ボート型に変えたキャスター付きベッドを廊下に出すと、後ろから扇風機で風を当てながら通路を進む(1枚目の写真)。そのうちに、病室にいた他の子供たちも加わってにぎやかな集団になる(2枚目の写真)〔問題点❶: ジャックとフィンの座っている場所が逆→編集ミス、問題点❷:扇風機のコードはそんなに長くない(この後も、どんどん先に進む)〕。

病室での、祖母を交えた母との楽しい会話から始まる重要なシーン。ジャックは、オリンパス製ICレコーダーを出して、「彗星撃退機のおかげで、スウィフト・タトル彗星は永遠に宇宙へと追放された」と架空のSFファンタジーを聞かせると、「一番いいトコは、もう一枚のカードに入ってるんだ」と言い、別の2GBのSDカードをICレコーダーに差し込む。なぜか、母は、「それ、パパの?」と訊き〔テーブルの上には3枚の2GBのSDカードが既に置いてあるのに、なぜ分かる?〕、ジャックは、「使用可能トレイから取り出したんだ」と答え、「これが一番のベストだよ」と言い、「そしてその子が世界を救ったので、ピザハットは彼に1,000万枚のデザートクーポンをあげました」の言葉を聞かせ、誇らしげに 「気に入った?」と訊く。その直後、ICレコーダーから、先日の会話が流れる。「お父さん、彗星だよ! ちょっと見に来て」。「ジャック、ノックしてくれよ」。「でもスウィフト・タトルって彗星がこっちに向かってるんだ」。「ああ。21年から26年頃に通り過ぎる予定だろ」(1枚目の写真)「それより、電話を終わらせていいか?」。そして、聞こえてくる恥ずべき言葉。「いや、まだだよ… だって… 最適なタイミングを見極めないと」「分ってるって」「ヴェロニカ、彼女とは別れるから」(2枚目の写真、矢印はICレコーダー)。衝撃を受けた母は、ICレコーダーを取り上げると、誰もいないシャワー室に行き、もう一度録音を再生する。「ヴェロニカ、彼女とは別れるから、いいね? ちゃんと別れる。私は… それに、正直なところ、彼女は気づきもしないと思う。彼女にとって大切なのはジャックだけだから」(3枚目の写真、矢印)〔この場面展開は、脚本の捏造。実際には起こり得ない。2番目の節の2枚目に、ICレコーダーが映っている。もし、これにスイッチが入っていたら、ジャックが「お父さん、彗星だよ! ちょっと見に来て」と叫ぶ以前の、父とヴェロニカの会話が入っているハズ。もし、携帯の録音機能が働いていたとしても、ドアの外のジャックの声までは拾えないし、当時使われていた携帯のカードはもっと小型なので、バソコンでデータ統合して、一部カットしなければならず、あり得ない。従って、このシーンは、夫の離婚の決意を妻に知らせるために、脚本が無理矢理仕組んだ作り話〕。

ジャックの最初の腰椎穿刺(1枚目の写真)。これではよく分からないので、真上からのショットの付ける(2枚目の写真、矢印は針を覆う細長い保護シース)〔実際の針の太さは0.5~0.7mm、体内に入る長さは3.5~4.2cm、全身麻酔、覚醒後の鈍痛〕。処置が終わったあと、廊下に出た2人。妻(マリッサ)は夫(デヴィッド)に、いきなり、「ヴェロニカって誰? 私が肺炎にかかった時、あなたの原稿の校正をした女(ひと)? その女(ひと)なの?」と訊く。その、衝撃的な質問に、デヴィッドは 「なに言ってるのか さっぱり分からんな」と とぼける。「いつから計画してたの? どんな計画? 彼女のために 私たちを捨てるのね。いつから?」。「マリッサ、君を捨てようなんて…」。「ジャックが病気だって知っていたのに、彼女のトコに行ったの?」(3枚目の写真)〔これは、いくらなんでも言い掛かり〕。「聞いてくれ。もし話の前後を抜きにして、そこだけ聞いたとしたら、悪かった。だが、それは間違いだ。誰のためだろうと、君を捨てやしない。いいかい? 私はここにいる」。「ジャックのためにいて。あの子にはあなたが必要なの」。

病室で、フィンと父が、ビューフォート風力階級の教育用フラッシュカードで遊んでいると、点滴スタンドを2人で持ったジャックと父が入って来る。ジャックは、「僕のせいで迷惑かけて、ごめんね」と謝る(1枚目の写真)。「君のせいじゃないさ、相棒。全部、私が自分でやったことだ。いいかい?」。そこにマリッサが入って来る。デヴィッドは、「もう行かなきゃ。いいかい? また後でね。愛してる」と言って出て行く。夜になり、マリッサは、ベッドの横に敷いたマットレスに横になって泣いている。すると、フィンの父が、「そっちの船乗りさん」と言って、ボートの帆用に使っていた細いロープをカーテンの上から落とす。そして、「真後ろへ急転、右を上にして左へ、左を上にして右へ」(2枚目の写真)「助けが必要なら信号弾を上げて。レーダーの不具合を検知。調査します」と、マリッサには意味不明の言葉をかける。そこで、マリッサは 「よく考えて、コナー。ロープ遊びをしたって、私たちの子供たちがホーン岬を回る助けにはならないわ」と批判する〔ここで初めて名前が出てくる(マリッサがいつどうやって名前を知ったのかは不明) → いきなり名を言うのは極めて不自然(脚本が悪い)〕。コナーは、「そうかもしれへんけど、この忌まわしい病気を治すには、薬だけやのうて、いろんな向き合い方が必要なんや。それに、アイルランド産のリネンが、役立たずやなんて言わんといて」と言って、リネンのハンカチを差し出し、「受け取って」と言う。マリッサがリネンで涙を拭いていると、「ビオン・フュン〔水の精霊〕の魔法の島々への行き方を教えてあげるわ。フィアナの戦士からキスを受けた子どもは、絶対に傷つかへんって言われとるさかいな〔アイルランドの古い伝承〕」。「そんな話、ホントに信じてるの? それでフィンはどうなるの? あの子に 『どこか神秘的な島へと船出するんだ』なんて信じさせるのが、正しいことだと思うの? こんな現実離れした儀式に何の意味があるの?」。「意味がない? 違うで! むしろ、これこそがすべてや。魂が死ぬとき、肉体もまた然りなんや。息子のフィンを、そんな目に遭わせとうないんや」(3枚目の写真)。

ジャックの両親は呼ばれて、主治医から詳しい説明を受ける。写真が小さくて字は読めないが、重要な場面なので2枚表示した。1枚目の写真に書かれていることは、「HLA-Aには24種類の型(抗原)がある、HLA-Bには52種類の型(抗原)がある、HLA-DRには20種類の型(抗原)がある」〔脚本家がHLA-C(12種類)を書き忘れたのは、大きなミス〕〔HLAは、ヒト白血球抗原(細胞の内部や周囲の状況をリアルタイムで免疫系に知らせ、がん細胞などの「異常な細胞」を正確に識別して排除させる機能を有する〕〔ボードに書かれた型(抗原)という表現は2009年としても古い言い方で、正しくはアレル(遺伝子の型)〕〔これは、骨髄移植をする際に重要となる情報で、専門用語を使えば、移植には 「主要組織適合遺伝子複合体であるHLAの主要4領域(HLA-A, HLA-B, HLA-C, HLA-DR)において、両親からそれぞれ受け継いだ一対(計2つ)のアレル(組み合わせ)がすべて一致する必要がある」〕〔それぞれのアレルには、よくあるものからレアなものまで様々だが、1995年頃から報告され始めた研究で、最終的に24種類あるHLA-Aは5つのグループに集約される。同様に52種類あるHLA-Bは6つのグループ、14種類あるHLA-Cは2つのグループ、20種類あるHLA-DRは9つのグループ。そのうち、HLA-AとHLA-Bについて、それを分かりやすく示した「Clustering HLA Class I Superfamilies Using Structural Interaction Patterns」(構造的相互作用パターンを用いたHLAクラス I 超家族のクラスター化/PLOS ONEの2014年1月27日)に掲載された図2 Dendogram based on Manhattan pair-wise distance matrix(マンハッタン距離(相違の距離感)の対比較行列(HLAの類似性全比較)に基づく系統樹)を下に示す。確認されている主要なHLA-Aは、
A1、A2、A3、A11、A23、A24、A25、A26、A29、A30、A31、A32、A33、A34、A36、A43、A66、A68、A69、A74、A80 なので、灰色の7つが抜けている(メジャーではない)。ただ、A1、A2(約30~45%)、A3が多数を占める状況では、「グループ数5」をそのまま使っても問題はないと仮定する。同様なチェックをBについてかけると、B7、B8、B35、B44 がかなり多いので、「6」で問題はないと仮定する。残りのCも「2」、DRも「9」とすれば、ドナーから移植する場合、2つのレアルがすべて合致しないといけないので、5×5×6×6×2× 2×9×9=291,600で、30万分の1の確率となる(2009年当時のオーストラリアのドナーの標準値)〕〔一方、こうしたことを無視し、A 、B、 C 、DRのそれぞれの数を掛けると24×24×52 ×52×14×14×20×20=122,108,313,600で、1兆分の1の確率になる。無意味な計算に見えるかもしれないが、映画の後半にこの方式が採用されている〕。2枚目の写真には、父(デヴィッド)、母(マリッサ)、息子(ジャック)について、1つのHLAについて、2つのアレルが表示されている。父の場合、「HLA-DRの中に7と32」が検出された。母の場合は、「HLA-Bの中に12と37」、ジャックは、「HLA-Aの中に1と32」〔HLA-Aは24種類しかないので32は間違い〕。移植する場合は、これらの数値が、全部合致している必要がある。しかし、もし、ジャックに兄弟姉妹がいた場合は、そのいずれも、ジャックの8つの型と合致する確率は25%に上昇する〔例えば、父のアレル1が(A1、B1、C1、DR1)、アレル2が(A2、B2、C2、DR2)、母のアレル1が(A3、B3、C3、D3)、アレル2が(A4、B4、C4、DR4)とし、ジャックが父のアレル1と母のアレル2を受け継いだとすれば、(A1,4、B1,4、C1,4、D1,4)となる。兄がいて、父のアレル2と母のアレル1を受け継げば、(A2,3、B2,3、C2,3、D2,3)となって合致しないが、もし、姉が父のアレル1と母のアレル2を受け継げば、ジャックと同じとなり、移植可能となる。その意味で、骨髄移植には、兄弟姉妹が必須となる〕〔もしも、映画のようにHLA-Cを入れ忘れると、確率は33%という、“すべての医学資料を無視” した数値となるが、映画の後半では平気で出てくる〕。

説明の最後に、主治医から、デヴィッドは、「残念ながら、あなたは希少な抗原をお持ちです。かなり稀な」と言われてしまう〔そうなると骨髄移植ができない。ジャックはT細胞性白血病なので5年生存率は医師の言葉で5割以上〕。外に出たマリッサは、「他に何人、女がいるの?」と訊く。「すまない。別の女性と会ってた。浮気してたんだ」。「じゃあ、あなたが手掛けたいろんな家の女たちとはどうなの? 他の州に何度も出かけた時は?」。「やめろよ」。「他に子供がいないって、どうして分かるの?」。「他に子供なんかいない! もうやめよう。ここは そんな話をする場所じゃない。家で話そう」。そう言うと、デヴィッドはマリッサを置いてさっさと出て行く(1枚目の写真)。この映画の脚本は最低の部類に属するが、この日の夜の場面もひどい。デヴィッドは家にいるハズなのに、マリッサは勝手にデヴィッドの仕事部屋に行き、大きな書棚の中から本を見ては床に投げ捨て、どこかに浮気した女性の名前が隠してないかを探る〔寝室を別にするような関係ではなかったので、夜、日中と同じ服装で、夫の部屋で大きな音を立てれば、夫が不審に思うハズ〕。マリッサは、机の引き出しの中から1冊のノートを見つけ(2枚目の写真、矢印)、そこの中に、名前を赤い線で囲った女性を見つける〔この映画の主目的は、マリッサが夫の不倫の子を探して骨髄移植させようというものだが、これこそが最低の脚本の主軸。不倫の子の母はマリッサではない。前の節の最後の解説で、不倫の母の母のアレル1かアレル2が、マリッサの母のアレル1かアレル2のどちらかと完全に一致しない限り(確率は35万分の1)、子供が見つかっても骨髄移植の対象にはならない(一致した場合の採択確率25%は変わらないが…)〕。

マリッサは、「赤い線で囲った女性」の家まで押し掛け、出て来た女性に、「もしかして… ジェレミー〔女性の子〕がデヴィッドの子ってことはない?」と訊く。当然、相手は、「何言ってるの?」と訊く。「浮気のことはもう知ってるのよ」。「帰って」。「もしそうなら、私の子の命を救えるかもしれないの」。「あの子は、違うわ」〔余分な会話は省略〕。家に戻ったマリッサは、今度は、家から別の女性に電話する。「1996年の8月、デヴィッドと浮気してた?」(1枚目の写真)「ジャネット、ジャネット、分かってるのよ! 聞いて、今の私にはそんなことどうでもいいの」。そこにデヴィッドが帰って来たのでので、マリッサは携帯を夫に渡そうとしながら、「ねえジャネット、この件は彼と直接話した方がいいわよ」と言う。ジャネットの名前を聞いたデヴィッドは、「ジャネットとは話さん。君、頭がおかしいぞ」と反発。そこで、マリッサは、「聞いて、ジャネット。私が知りたいのは一つだけなの… あなたの子、どっちか彼の子なの?」。それを聞いたデヴィッドは、「おい、いい加減にしろ! 電話を切れ!」と言うが、マリッサは、ジャネットの返事を聞いて、「まぁ… コンドームを着けてたの… 随分とお利口なことで」と言う。頭に来たデヴィッドは、「電話を切れ。切れよ! くだらない。何やってるんだ? 正気を失ったのか!」と怒るが、マリッサは無視(2枚目の写真)。逆に、資料を見ながら、「この通話記録の数字がどうしても気になるのよ。たとえば、6月にこの番号へ何度も電話してるでしょ?」と言う。「この人たちとは仕事をしてたんだ!」。「じゃあ、この朝の4時の電話は? 何をしてたの?」。「私たちの人生で、今一番大事なことに集中すべきだと思わないのか? ジャックのことだ!」。「ジャック… あの子のパパが娼婦と話してるのを聞かされた、あのジャックのこと? あんたが言ってるのはそのこと? ジャックが白血病でベッドに寝てるって時に!」〔事実と違う。脚本のミスか、マリッサの勝手な思い込みか〕。「あの子に、あんな話を聞かせてしまったことは謝る。すまんかった! これから一生、耐えてきゃいいんだろ!」〔デヴィッドは不在だったので、マリッサの言ったことを信じるしかない〕。「私が今何してると思ってるのよ?!」。デヴィッドは、半分切れて暴れるマリッサを抱き、「愛してる。愛してる。悪かった、分かってる」と言うが、マリッサは、「触らないで。 もう終わりよ。いい?」(3枚目の写真)「この家から出ていって」と専横的に発言する〔マリッサに追い出す権利はない〕〔非常に不愉快であり得ない脚本。何度も書くが子供捜しに意味はない〕。

病室では、化学療法に伴う脱毛に備えて、ジャックが、電気バリカンで丸坊主にされている。そこに、フィンの父コナーが “以前は真っ白だった” アシラム像に彩色を施して運んでくる。そこにいた、他の病室の子供たちは、きれいな像に 「わあ、かっこいい」「きれいだね」などと感心するが、フィンは、具合の悪そうな顔で笑顔一つ見せない。マリッサがコナーの履いている靴を見て、「あなたのブーツ、左右逆じゃない?」と言うと、コナーは、「そうやで、今日は木曜日やさかいな」〔『鏡の国のアリス』で、木曜日は 右と左を逆にする日〕と言うと、「なあ、フィン」と言って、右足をベッドの上に乗せる〔1枚目の写真をみると、右足には右足用のブーツを履いている→ここでもミス・ショット〕。この冗談を見ても、フィンの顔は暗い。そこに、フィンの主治医の女性が来て、「オブライエンさん、少しお話できますか?」と声を掛ける(1枚目の写真、矢印はアシラム像、右端は丸坊主になったので帽子を被ったジャック)。時間が経ってもコナーが戻って来ないので、マリッサが探しに行く〔普通ならわざわざ捜しになんか行かないので、コナーに気がある〕。あちこち探し回り、物置の奥に座り込んだコナーを見つける。コナーは、打ちのめされた顔で、「白血球が異常増加しとる。制御不能なんや」と言う〔フィンが、①B細胞性の急性リンパ性白血病の数%に見られるフィラデルフィア染色体陽性だった場合、わずかに生き残った非常に悪性度の高い急性白血病細胞が遺伝子を突然変異させた結果、グリベックが効かなくなったため。②慢性骨髄性白血病だった場合、がん細胞が突然凶暴化して「急性白血病」と同じ状態になったため〕。「それって、どういう意味?」。「言わせんといてくれ」(2枚目の写真)。「そんな、神様。コナー、私、てっきり彼は…」。「ほっといてくれへんか?」。「ええ。もし何かあれば…」。「出っててくれ!」。

数時間後、夜になり、病院の外で、マリッサがコナーに、「ジャスミンは?」と言って、お茶を勧める。コップを受け取ったコナーが、「花があったら、なにもかもうまくいくで」と言うと、マリッサは 「まぁ、水分は大切だから」と言う。見ていて不愉快な、マリッサのコナーへの接近のシーンの後、病院のフィンのいる階(5階以上)では、フィンが、必死の思いでアシラム像の乗った台車を階段室まで押して行き、階段の真上で台車を傾けて像を落とす(1枚目の写真)。像は、一回転して階段の下の明かり取り窓を突き破り(2枚目の写真、矢印)、そのまま建物の前に設けられた水盤の中に落下する。近くにいたマリッサは悲鳴を上げ、コナーは病院の中に駆け込む。そして、階段室の階段を駆け上がると、泣いているフィンの所まで行く。フィンは、抱こうとするコナーを何度も殴り〔よく、そんな元気があるなと、不思議〕、「あっちへ行け!」と叫ぶ。しかし、コナーが 「こっちへおいで、こっちへ。大丈夫や」と言うと、今度は抱き着く。「大丈夫だ。大丈夫やで、フィン。大丈夫やさかいな」。「死ぬのヤだよ」。「誰だってそうや」。「怖いよ」。「フィン、怖いのは当たり前や。わてらも怖い。だけど、お前は死なへん。いいかい、わてらは誰でも、自分の知らんことは恐れるもんや。わてらに分かっているのはこれだけやで。ビオン・フュンの島々には、フィンの大好きなママがおる。ママはそこで、お前を待っててくれてはる。これから、お前はようなる(良くなる)かもしれん」(3枚目の写真)「あるいは、ずっと体調が悪いままかもしれへん。それが何であれ、わてはお前と一緒にいる。わてらは一緒にこれを乗り越えるんや。時が来たら、一緒にあの島々に行こ。わてが連れていくかもしれんし、お前のママが連れていくかもしれん。どちらにしろ、お前は一人やない。お前は勇敢な子や。お前はフィアナの長ムリンの息子の名を受け継いだんや。あの、最も勇敢やった息子の名をな」。

まず、マリッサの、バカげた “夫の不倫の子探し” のNo.2。マリッサが1軒の家を訪れ、出て来た女性に、「ちょっと手短に話したいだけ。私の夫が10年ほど前にここにいたから。あなたの息子さんが9歳か10歳くらいに見えるのが、どうしても気になって。顔だって、どこかデヴィッドに似ている気がするの」と話しかける。その家の女性:「失礼。あなたが何を望んでいるのか分からないけれど、私 急いでいるの」。「私の息子は白血病で、骨髄移植しないと。その際、ドナーは夫と同じ抗原を持ってないといけない。つまり、兄弟姉妹じゃないとダメなの」。「この子はデヴィッドの子じゃないわ。彼が、あなたはヒステリックだって言ってた」〔台詞の半分カット〕。次のシーンは病室。フィンの父が、スプーンで食べさせようとすると、「パパ、自分で食べられるよ」と言われて、食器ごと息子に渡す。その時、事務員が、「少しお話できますか?」とコナーを呼びに来る。1人になったフィンに、ジャックが声をかける。「ねえ、フィン。フィン! 土曜に、僕とパパが何すると思う? 一緒にサーカスを見るんだ。 サーカスが、子供たちのため、特別にこの病院まで来るんだ! ピエロやアクロバットもいる。動物もいるかも。火を吹く人も。昨日、ポスター見たんだ。一緒に来てよ、フィン。君がいなきゃ楽しくないだろ」。フィン:「いいよ」。その頃、コナーは、“先日、マリッサがコナーの部屋の大量のロウソクについての批判や、個室への変更を頼んでも相手にしてくれなかった” 受付の女性から、フィンがアシラム像を落として壊した窓について、ボウリングの球が落ちたことにしたと知らされ、感謝する。

そのあと、コナーは、土砂降りの雨の中(夕刻)、アシラム像を回収して大きなポリ袋で包むと、ショッピングカートに置くと、トラムが来るのを待とうとする。そこにマリッサが車で通りかかり、屋根の上のルーフキャリアにロープで縛り付け、ボート小屋まで運んで行く(1枚目の写真)〔ずぶ濡れのビニールコートなので、座席のシートは芯までびしょ濡れだが、マリッサは気にもしない〕。コナーは、「水の女王に救われたわ」と感謝する。「黙って、じゃないと事故っちゃうわよ。どこに行けば?」。「ボートはな、ウィリアムズタウンに係留してあんねん」。「ちょうどよかった。私の店もそっちの方なの」〔マリッサが店を持っていることが初めて分かる〕。「ボート持ってるの?」。「店やってるん?」。そして、場面はデヴィッドの愛人ヴェロニカのモダンなマンション〔デヴィッドの設計?〕〕〔なぜか外は明るい→撮影時刻を無視して挿入した〕。デヴィッド:「しばらく、かかりきりになりそうなんだ」。ヴェロニカ:「ええ、もちろんよ。ジャックと一緒にいてあげないと」。「もちろん、彼を乗り越えさせたら、また会えるよ」。「デヴィッド、私、妊娠したの。変よね。私たち、アルバート・パークの車の後部座席にいる16歳の2人より、浅はかだったなんて」。「まさか、そりゃ素晴らしい」。「当然、どうすべきか悩んだわ。それに、ジャックと私たちの間に起こっていることを考えると… この子は産むべきじゃないと思うの」。「ジャックにマッチングするかもしれないんだ」。「ジャックに? 何よ、病気の子どもの “移植部品” にするため、赤ちゃんを産ませたいわけ?」。「何てことを、息子の命がかかってるんだ。それに、私たちの赤ちゃんは… いいか、私たち2人のものなんだ。弟なり妹が、たまたま私の息子にマッチングするかもしれない」〔バカな脚本の、主治医の「もし骨髄の型が一致する兄弟姉妹がいれば、可能性は飛躍的に高くなります」の言葉に惑わされた結果の発言。実際には、母が違うので、マッチングする可能性は、先に書いた35万分の1程度〕。「もう決めたの」。「考え直してくれないか?」。「もう帰って」(2枚目の写真)。一方、車に乗せてアシラム像をボート小屋まで運んだコナーは、マリッサにボート小屋の中を見せる。そこには、白色の像がいくつか置かれていたので、マリッサが 「これ、全部あなたが作ったの?」と驚くと、コナーの返事は 「いいや、ただのレプリカや。芸術なんかやあらへん。お金のためや。ありがたいことに、世の中には金はあってもセンスのない奴らがおるさかいな」。2人は、アシラム像を小さなボートに乗せると、海に浮かんだ帆柱付きのボートまで運ぶ(3枚目の写真)。大きなボートの中に入ったコナーは、真ん中のテーブルの左右に置かれた女性像に向かって、「やあ、お嬢さん方」と声をかける。そして、「フィンがおらんとボートの中が寂しいさかい、夕食の話し相手にヌーラを作り、彼女1人じゃ可哀想やさかい、この麗しのミイルを作ったんや」と説明する。マリッサは、「じゃあ2人は “耐塩シャンプー” の話で盛り上がったでしょうね」と冗談を言う。コナーは、「ええか、このボートに乗ったおなご(女性)で、自分でカップを持てたのはあんたが初めてやで」と言うと、飲み物の用意を始める。そのあと、外が真っ暗になってから、2人は初めてのキスを交わし、キャビンに入ると愛し合う。

病室では、ジャックが苦しそうに、「ママ! ママ!」と呼ぶ。それを聞いたフィンは、「君のママ、ここにはいない。君のお祖母ちゃんは、いびきをかいてる。どうしたんだ?」と訊く。「手がしびれてる。動かせない」(1枚目の写真)。「心配しないで。ただのカルシウム不足だ。抗がん剤治療のせいだよ」(2枚目の写真)。「でも、足もしびれてきたよ」。「間違いなくカルシウム不足だ」。「カルシウム不足で死ぬことってあるの?」。「ううん、そんなこと絶対ない。あのさ、ここの人たちって、口うるさく言わなくなるんだよ… 子どもへの話し方がちょっと変わるっていうか。だって、その子は死んじゃうんだから。自分専用のプレイステーション3がもらえるの、知ってる? DVDだって、一番最初に選べるんだよ」。「ねえ、フィン、死ぬちょっと前くらいで、僕専用のプレイステーションを手に入れる方法ってないかな?」。「聞いたことない」。朝になり、帆柱付きのボートから、手漕ぎボートで岸壁に向かっているマリッサは、「ジャックのレントゲンが8時なの。すぐ戻らなきゃ」と言う。「ボート小屋に行けば携帯の電波が繋がるで。あんたがいない30分なんて、この先に待っている現実を思えば、ジャックにとっては大したことじゃないやろ〔この言葉で、コナーが極めて自己中心的な考え方の持ち主で、自分がボートでマリッサを長く引き留めたことに何の罪悪感を抱いていないことが分かる〕。このあと、あまりにも無意味なシーンがあるので、それはカットし、レントゲンが終わったジャックがフィンにりんごを投げた場面(3枚目の写真、黄色の円の中がりんご)まで飛ばす。そこに遅れてやって来た母が、「いい、サーカスの開始は6時よ。その頃には、パパはもうここにいるはずよ」と言い、すぐに部屋を出て行く。

場面は、夕方のカフェに変わり、マリッサとコナーが仲良く席に付いている。マリッサは 「あのね、今日バーナデット・サクソンに会いに行ったの。彼女とは昔一緒に働いていてね、彼女の家のリフォームをデヴィッドに頼んだのよ」と言う(1枚目の写真)。ここで、場面は日中に戻り、バーナデットと再会する場面がチラと映る。場面はすぐカフェに戻り、マリッサは 「だから私、言ってやったの。『バーナデット、あなたの子どもたち、ひょっとしてデヴィッドの子じゃないでしょうね?』って」。場面はまた日中に戻り、バーナデットは、「かもね。彼、トゥルカナに行ったことある? ケニアの北部にあるのよ」と言うと、黒人とのハーフの子供たちを呼んでマリッサに見せる(2枚目の写真)。カメラがカフェに戻ると、コナーは、「まさか。ほんまかいな? 信じられへんなぁ」と笑う。マリッサは話題を変え、「私たちの子たち大丈夫かしら?」と言うと、呑気で責任感のないコナーは、「ええか、わてらがおらんだって、あいつら1~2時間くらい平気やで」と言う。一方のデヴィッド、病院に向かう車の中で、走行中にもかかわらずヴェロニカの携帯に電話する。「こちらはヴェロニカ・メンデルソンです。あいにく、ただいま電話に出ることができません」。それを聞いていて、赤信号を見逃したデヴィッドは、青信号になって発進した車とぶつかる(3枚目の写真)。

約束の6時を過ぎて6時35分になっても父が現われないので、ジャックは、「ねえフィン。何か最高に楽しいこと、してみたくない? くだらないサーカスなんかより、ずっといいことさ」と声をかける。「どんなこと?」。どう答えたのかは分からないが、次のシーンでは、2人が病室の入口から廊下の様子を窺っている。そして、病院の滞在歴の長いフィンが先導して、階段室の階段を降りて4階の廊下に入り、21号室に入る。そこには、何かの行事の際に子供たちが着用する着ぐるみがいっぱい掛っている。場面は変わり、フィンはコアラの着ぐるみ、ジャックはオレンジ色の鳥の着ぐるみを着て1階の廊下を歩いている(1枚目の写真)。玄関脇の受付の時計は7時25分を指している。2人が出て行くのを見た受付の男性は、「最高だな」と言って、女性に笑いかける〔この日は、6時からサーカスが病院内で開催されているのに、出て行くのを変だと思わないのも、実に奇妙〕。ジャックはすぐにタクシーを拾い、メルボルンに実際にあるルナ・パーク〔Luna Park、1912年開設〕に向かう。2枚目の写真は、Google Earthのルナ・パーク。あとで、海に近いという言葉があるが、確かに海のそば〔入口にあるのは、Mr. Moonが大きな口を開けた顔〕。最初に映るのは、2人がツイン・ドラゴン〔Twin Dragon〕に乗って楽しんでいる場面(3枚目の写真)。そのあと、夜の街をラブラブで歩くマリッサとコナーが映る。マリッサの携帯に電話がかかる。「もしもし。はい、そうです。いいえ、そんなに遠くにはいません。どうしたんです?」(4枚目の写真)「そんな、まさか。あの子たちは夫のデヴィッドと一緒よ。サーカス・イベントにいるわ」「ホントなの? じゃあ、デヴィッドはどこにいるの?」「ええ。できるだけ急いで戻ります」。電話を切ると、マリッサはコナーに 「あの子たち、行方不明なの、どこにもいないって」と話す。そして、携帯で夫に電話をかけ、「デヴィッド、一体どこにいるのよ!? あの子たちと一緒なんでしょ? 電話して!」と留守録に入れて病院に向かう。次の場面では、車の処理に追われていると思いきや、何と、デヴィッドは、ヴェロニカのマンションの入口で、大声で叫んでいる。「ヴェロニカ、いいか、君がそれを望むなら、赤ちゃんは養子に出したっていいんだ。だから頼むよ。私を愛しているなら、頼むから産んでくれ。お願いだ! 頼む! 息子の命がかかってるんだ!」。その後も、出て来たヴェロニカとの会話があるが、あまりにバカげているのでカットする〔なぜバカげているのか? ❶なぜ、父は、病院に電話して行けなくなったと伝えないのか? ヴェロニカ説得より、そちらの方がよほど大切。❷ジャックの高リスクのT細胞性の急性リンパ性白血病の場合、化学療法を初めて最初の寛解期(1~2ヶ月)での骨髄移植が成否を分けるので、赤ちゃんのHLAのアレルが奇跡的にすべて一致しても、生まれるまで半年以上かかり、かつ、新生児の骨髄液を採取は無理なので、それまでにジャックは死亡する。❸何度も言っているように、そもそもHLAのアレルの一致率は、約35万分の1〕〔マリッサの不倫の子探しに、デヴィッドの赤ちゃん騒動まで加わり、脚本の悪辣さ(あるいは、脚本家の無知さ)が一層極まった〕。

ルナ・パークでは、メリーゴーランドに乗っている時、急にフィンの具合が悪くなる(1枚目の写真)。ぐったりしたフィンを見たジャックは、ラクダを降りると、フィンの下まで行き、「フィン? なんで何も言ってくれなかったの?」と訊き、黙っているフィンを馬から降ろす。次のシーンでは、ボート小屋の近くを2人が歩いている。フィンは如何にも寒そうだ〔高熱〕。この数秒のシーンのあと、ボート小屋の簡易ベッドに横になったフィンに、ジャックが布団を掛けている。フィン:「すごく寒い」。ジャック:「フィン、誰かに電話しなきゃ。どうすればいいのか、僕には分かんないよ」。「火を点けて。そうすれば、きっと楽になる」。それを聞いたジャックは、大きなかまどに薪を入れる(2枚目の写真、矢印)。場面は病院の前に変わり、パトカーが1台停車したので、さっそくマリッサが、「何があったの? あの子たちはどこ?」と、警官に尋ねる。「大丈夫、無事ですよ。8時頃にルナ・パークで目撃されています」〔7時25分に受付を通過した2人。8キロ南までタクシーで20分。入場料を払うなどの時間を考慮しても、確かに7時50分頃には中に入っている。派手な着ぐるみ姿なので目撃者もあったに違いない〕。「どうやら、大はしゃぎで楽しんでいるようですよ。現在、パトカーを1台向かわせて捜索中です」。ボート小屋では、パトカーの音を聞いたジャックが外に出て行く。それを見て停車したパトカーから降りた女性警官は、「あなた、ジャック・ヘイゲン? 友達はどこ?」と訊く。「ボート小屋の中。すごく寒がってるよ」。そして、場面は病室に。フィンを診た医師が、「免疫力がここまで下がっている以上、少しのリスクも冒せない」と言い、女性の看護婦たちは 「もうすぐ40度です」。「パナドール(解熱剤)を投与しました」。「敗血症の精密検査を行っています」。「とりあえず点滴で様子をみましょう」。「熱が下がるといいのですが」などと話す。

一方、すぐ横のジャックのベッドでは、マリッサが、「大丈夫よ。彼はきっと良くなるわ、ハニー」と(1枚目の写真)、ジャックを慰めた後で、夫に向かって 「なんで忘れたの?」と6時に来なかったことを批判する。デヴィッドは、「車をぶつけてしまった」と言う〔本来なら、「なぜ、すぐ、病院に連絡しなかったの?」と非難すべき。連絡していれば、直ちにジャックに通知され、ルナ・パークに行くこともなかった。それにサーカスが病院内で行われていれば、職員が父に代わって連れて行くこともできた〕。ジャックは、父に、「ねえパパ、望遠鏡を使ったら、天国が見えるの?」と訊く。父は、「天国かい? 本当に強力な望遠鏡を使えば、地球の人間には想像もつかないような『新たな地平』が見えるんだよ」と答えるが、ジャックの知りたいのはそんなことではない。そこで、「友だちだった子どもたちは、死んじゃって、天国にいても、まだ友だちなの?」と訊き直す(2枚目の写真)。母は 「それは誰にも分からないけれど、でもね、きっとそうだと思うわ」と賛成する。

いよいよ、最悪の場面。父は、主治医が廊下を歩いているのを見て、部屋から急いで出てくると、「先生」と呼び止める。そして、「先生、お呼びでしょうか?」。「ええ、ヴェロニカ・メンデルソンが会いに来たんですよ。彼女は、お腹の赤ちゃんがジャックと適合するかどうかを確かめるための出生前診断を希望したのです」。デヴィッドは、前回、彼女のマンションの入口で叫んだ際、顔を出したヴェロニカから、「あなたって本当に不公平よ。よくもそんな重荷、私に押し付けられるわね! 私は子どもなんか欲しくなかった! 一度だって!」と言われていたので、びっくりして、「まさか」と驚く。「今では、非常に簡単に検査できますからね」〔ヴェロニカに対して行われたのは、当時、最新鋭の病院でしか行うことのできなかった「羊水穿刺による出生前HLAタイピング」〕〔この部分が、映画の中で最悪の箇所。マリッサが、確率が1兆分の1にもかかわらず、夫が不倫した可能性のある女性の家を何軒も訪れるという設定は、①マリッサがそんなにレアだとは知らない、②どうしてもジャックを救いたい、という必死の思いからだと考えれば、まだ納得できる。デヴィッドのヴェロニカに対する “お願い” も、➂それが無意味だと知らなければ、自分にできる唯一の罪滅ぼしとして、固執したのも納得できる。しかし、オーストラリアでNo.1の先進的な病院の主治医が、高リスクのT細胞性急性リンパ性白血病の少年に対し、「胎児が生まれるまで半年以上待ち、さらに、移植が可能になるまで半年以上待っていたら、少年は死んでしまう」ことが分かっていて、2009年の段階で「羊水穿刺による出生前HLAタイピング」を行う可能性は完全にゼロ。それを、堂々と主治医に口にさせた脚本は、当時の医学界を侮辱する以外の何物でもない。ジャックの病状を正確に言えば、化学療法だけでは「再発」のリスクが極めて高いので、最初の寛解導入療法が成功し、体内の白血病細胞が最も減る「第1寛解期」(化学療法を初めて1~2ヶ月後)に骨髄移植を行うのが、唯一、「5年生存率が高い状態でジャックが生き延びる」危険な状況だった〕。「そうですか。それで、やって頂けるんですか?」。「もうやったよ。彼女からあなたに伝えてくれと頼まれてね。残念ながら、マッチングしなかった」。そして、バカ脚本は、「彼女はかなり強力な〔頻度が高い〕抗原をセットで持っていてね、あなたの〔非常にレアな抗原〕を叩きのめしましたよ」という、全く “漫才” のようなことを主治医に言わせて、この愚かなシーンを終える。
マリッサによる庶子探しの三話目。クロムビー家。マリッサが家の前まで行くと、ジーンズヤンキー姿の娘ケリーが、オーストラリア風の家を囲むベランダの柱に頭より上に足を置いて、イスに座っている。そして、出て来た母親に、「あの人、誰?」と訊く。マリッサは、笑顔で 「マリッサ・ヘイゲンよ」と言うと、母親に向かって握手の手を指し出す。母親は、「物売りならお断りよ。宗教の勧誘なら、隣の家へ行きな。あいつらには導きが必要だからね」と乱暴な言い方で追い払おうとするが、マリッサは、「あなた、ジャニス・クロムビー?」と訊く。ジャニスは、「やっぱりね。あんた召喚状持って来たんだ。ジャニス・クロムビーはここには住んでないよ」と嘘をつくが、その時、前を通りかかった車が停まると、男が笑顔で、「よお、ジャニス! 俺のおふくろに頼まれてたカーテンできたか?」と声をかける。嘘がバレたジャニスは、「絶妙だね、ビル。消えて!」と怒るが、ケリーは 「ねえママ、過去イチの彼氏じゃん。ゴミ扱いすんなよ」と宥める。これで相手が確定したマリッサは、「あなた、デヴィッド・ヘイゲンを覚えてる? 16年前、彼に会ったでしょ。あなたは、コリンズ通りの合同教会〔聖ミカエル連合教会〕で、マイヤー〔老舗の高級百貨店〕の撮影モデルをやってたし、彼は教会〔歴史的建造物〕の修復責任者だった。あなたは彼と関係を持ったようね」と言う。「まるで『クイズ100人に聞きました』ね」。「あのね、彼は私の子供の父親なんだけど、その子が今、白血病なの。 私は、彼が父親かもしれない他の子供を探しているだけよ」。すると、横で聞いていたケリーが 「すげえ! みんな同じ白血病にかかってるかも、ってこと?」と訊く。マリッサ:「そんな仕組みじゃないのよ」(1枚目の写真)。ジャニス:「あたしらだって、まるっきりの馬鹿じゃない」。ケリー:「どうだか怪しいけどね」。ジャニスはケリーを追い払う。マリッサは 「ねえ、あの子がデヴィッドの子供である可能性、少しでもある? 私が知りたいのはそれだけなの」と訊き、ジャニスは 「もしあいつが父親だなんて少しでも思ってたら、立ち上がれなくなるくらいたくさん養育費をむしり取ってやってたわよ」と答える。ここで、場面は病室に変わり、フィンにところに来た主治医(何を告げたかは不明)に、フィンが 「じゃあ、点滴はやめるってこと」と訊く。「ええ、そうよ、フィン」(2枚目の写真)。フィンは父に、「僕たちボートに戻れるね」と言うが、父は、「ボートで暮らしていけるか分からへんわ、フィン。ボート小屋はすぐ近くにあるやろ」と言う。「でも、パパ、前はボートで暮らしてたじゃない。どうしてダメなの?」。すると、隣のベッドで訊いていたジャックが 「だったらボートを漕げる看護婦さんを呼べば解決じゃん!」と口を出す。ここで、話の方向が不自然にがらりと変わり、フィンが 「セーリング〔帆走〕でもいいよ。セーリングに行けるよね」と言い、ジャックに 「ジャック、セーリングに行きたい?」と訊く。ジャックは、母に 「ママ、行ってもいい? お願い!」と頼む。マリッサ:「ええ。ダメな理由なんてないわ。どうせ週末には家に帰ってくるんだし」。「ジャック:やった!」(3枚目の写真)〔映画の前半で、コナーが医師から「白血球が異常増加して制御不能」と言われて愕然とし、フィンはアシラム像を階段から突き落とす。そして、そのあと、ジャックと一緒にルナ・パークに行って40度の高熱も出す。こうした症状から判断すると、一度危機に瀕したフィラデルフィア染色体陽性の白血病の少年に対し、医師の対応が無責任すぎる脚本になっている。この失敗の結果は、その後の悲劇として明らかになる。要は、ここでも、あり得ない状況を、映画は平然と描き出している〕。

コナーは、ボート小屋に、「ERIN GO BRAGH(アイルランドよ永遠に)」の旗を掲げ、フィンに 「これで、お前の乗船が知れ渡る。配置完了。嵐が通り過ぎるまで、ここで投錨する」と、これまで時々あったように、船乗りとして扱う。「少なくとも、これなら船酔いしないね」。「ああ、絶対せえへんわ」。ここまではいいのだが、この次のシーンで、フィンとジャックの乗った赤い帆のスループが現われると、「これは一体なんだ?」と思ってしまう〔コナーのボートは、中にキャビン(船室)のある本格的な「遠距離用のクルージング・ヨット」。そして、ボート小屋と、クルージング・ヨットを往復するために借りた小さな手漕ぎボートの2隻だけ。突如として出現した赤い帆のスループは、息子のために借りたのだろうか? とにかく、説明がなさ過ぎる〕。フィンは、未体験のジャックに、「移動する準備して。いくよ、ジャック。今だ、向こう側に渡って! ジブシート〔三角帆のロープ〕を引いて。ブーム〔横帆げた〕に気をつけて!」と教える(1枚目の写真)〔この親子は、アイルランドをクルージング・ヨットで出発し、途中で寄港しながらオーストラリアに来る直前か、直後にフィンの容態がおかしくなり、急遽病院を訪れ、そのまま入院生活を始めたとしか思えない。そのそも、フィンは、いつスループの操船法を習ったのだろう? クルージング・ヨットでの長期間の航海中とは思えない。ということはアイルランドで?〕。コナーとマリッサは、その様子を小屋の前で見ている。そして、「少し風上に向けるんや」と指示し、フィンは 「分かってるよ、パパ」と言う。初体験を終えて、自宅に戻ったジャックは、大量の薬を飲んだ後で、父に 「明日もまた仕事なの、パパ?」と訊くと、「週末はずっと一緒だよ。おやすみ、坊や」と言って額にキスする(2枚目の写真)。デヴィッドは、追い出されて以来マリッサとは別れて暮らしているので、「あの子がまた自分のベッドに戻れた姿を見られて、本当に良かった」と言うと、「じゃあ私はもう行くよ。明日の朝、また戻ってくるから」と言って出て行こうとする」。それに対して、マリッサは 「泊まっていけば?」と言う。ボート小屋の前では、父コナーが作った城の前で、フィンが寒そうに座っている(3枚目の写真)。そのあと、久しぶりに愛し合うデヴィッドとマリッサ。しかし、終わったあと、マリッサは 「ジャックのためだった」と言う。デヴィッドが、「妊娠しようとしているのか? 兄弟姉妹でも一致する確率は3分の1しかないと知ってるだろう」と言うと、マリッサは 「私たちが今直面している10億分の1という確率よりはマシよ」と言う〔この部分が、前半で言及した部分。脚本家が、HLA-Cをホワイトボードに書き忘れたために、兄弟姉妹のマッチングの確率が、HLA-A, HLA-B, HLA-C, HLA-DRの4つがある場合の4分の1から、HLA-A, HLA-B, HLA-DRの3つしかない場合の3分の1に上がるという矛盾。さらに、確率は、前述の1兆分の1から、14×14=196がなくなるので2桁減って10億分の1になる〕〔さらに、そもそも、今から妊娠して、出産して、移植する頃には、高リスクのT細胞性のジャックはもう死んでいる〕〔まさに、「呆れた」の一言で蹴落としたい脚本〕。

その日の夜、ジャックは大量の鼻血でびっくりして目が覚める。「ママ! 白血病だ! その匂いがするよ!」(1枚目の写真)。母は 「違うわ、大丈夫よ。ほら、落ち着いて」と慰める。「どうして止まらないの?!」。今度は、父が 「ちょっと見せてごらん。大丈夫だから。ただの鼻血だよ。病院に電話するからね」。そして、翌日、病室に来た主治医は、検査結果を見て、父に 「シクロホスファミド〔抗がん剤〕の副作用でした。めったに起きません。ただ、わずかな気圧の変化でも出血することがあるので、気をつけて下さい」と言い、ジャックには 「大丈夫かい、チャンプ?」と声をかけ、ジャックは頷く(2枚目の写真)。「よし、いい子だ。じっとしてなさい」。一方、ボート小屋では、フィンの容体が急に悪化している〔2つ前の節に書いたように、そもそもフィンを病院から一時帰宅させ、よりによってセーリングなんかさせるという設定そのものが狂っている〕。コナーは、簡易ベッドに寝たフィンの手をさわり、「これ、何て冷たい手なんや」と言う。フィンは 「お願い、僕を病院に戻さないで。パパ、お願い」と頼む。コナーが毛布をかける場面の後、ボート小屋まで出張診療に来た主治医が出て行く場面に飛ぶ。そのあとに残った看護婦〔係員?〕が、「病院にいても同じです。何も変わりません」〔もう、手の打ちようがない〕「どなたに連絡しましょうか?」と、コナーに尋ねる〔あまりにも不自然な、天国から地獄への急変〕〔観客に悲劇を突きつけるためだけに用意された「悪辣な脚本」〕。ここからは、意識が消えかけたフィンが父に話す言葉。「作ってくれる…? もう一つの… もう一つの、お城… 作ってくれる… 今夜のために。そうすりゃ、ママ… ママは、僕たち ここにいるって分かる」。「もちろんやとも」。しばらくして、連絡を受けたマリッサが入って来る。「何かできることは?」。「南風の日や。ジャスミン茶がちっとも うもうないわ」。マリッサは、「私がついているわ」と言い、涙を流すコナーにキスして慰める。時間が経ち、父は外で砂の城を作っている。マリッサは、フィンに付き添っているが、フィンはずっと眠っている。半分眠りながら、フィンが 「ママ… ママなの?」と囁く。「マリッサよ、ハニー」。その時、外で、車の音がしたので、すぐに出て行く。ジャックを連れたデヴィッドは 「ジャックは聞き入れようとしなかった」と言い、ジャックは 「僕、フィンと一緒にいたいんだ!」と言う(3枚目の写真)。

小屋の中での長い会話。主役はジャックなのに、完全に逆転している。ジャック:「痛い?」。フィン:「ううん。ただ、すごく眠いんだ。聞いて、ジャック… 僕のプレイステーション、もってて」。「ダメだよ、フィン。君、もってて。君は良くなるよ。そしたら僕が遊びに来て、一緒にゲームやろう。いつでもね」。「君にあげる。でも、僕のためにやって欲しいことがあるんだ。約束してよ」。「約束する」。「僕の代わりにパパの面倒を見て」(1枚目の写真)「僕がいなくなって寂しがるから。助けてあげて。いい?」。「うん」(2枚目の写真)。そして、死の直前となり、横にはコナーが座る。フィン:「ママが来るまで、目を開けていたいんだ」。コナー:「ファンジー〔世界で最も長生きした野生のイルカ〕と一緒に、波に乗っとるところを思い浮かべてごらん」。「もうすぐだ… ママが、来たよ」。「あの妖精の島々が、お前の我が家なんや。息子よ」。フィンは死亡し、看護婦〔係員?〕が死亡時刻を確認する(3枚目の写真、矢印)。

この先、話はダラダラと続いていくので、本筋に関係のない箇所はカットする。フィンの死の恐らく翌日か翌々日、マリッサがボート小屋を訪れると、コナーの叫び声とともに、彫像が海に投げ込まれ(1枚目の写真、矢印)、小屋の前の「城」もどんどん崩壊していく。病院に戻ったマリッサは、主治医に、「小さな男の子が亡くなるのを見ました。お願い、ジャックを同じ目に遭わせないで。救う手立てはあるんでしょ」とすがりつく。「登録データの中に、完全に適合するドナーは一人もいません」。「なんて高慢ちきな抗原なんでしょう」。「完全適合を待つより、一部適合を探す方が現実的です」(2枚目の写真)「私の子供なら、一部適合での移植を選択します。なぜなら、病気は進行している、本当に進行しているのです」〔ジャックが高リスクで、デヴィッドが非常にレアな場合、この選択肢はあり得ない。2009年当時の欧米におけるハプロ(半部だけ一致する血縁者からの)移植は、ごく一部の施設における「初期の臨床試験」の段階で、一般の子供たちに使える治療ではなかった。ミスマッチ(8つのHLAのうち1つ不一致)移植の5年生存率はフルマッチの30~40%から15~25%に低下したので、極力避けたい選択肢だった。ここも100%嘘の脚本〕。この嘘を聞いた母は、4人目、5人目の女性と会うが恥をかいただけ。コナーは、アイルランドの故郷の海にフィンの遺灰を撒くため、クルージング・ヨットで帰国する。ヴェロニカの最後の登場シーンは、偶然スーパーで出会ったデヴィッド(3枚目の写真)。デヴィッドは、「電話しようと思ってたんだ。検査を受けてくれたことにお礼を言いたかったから」と、“今さら” というお礼。「うまくいかなくて残念だわ。私の中絶は土曜の夜よ」。「土曜の夜? 病院が開いているとは思わなかったな」。「働く女性のための、専門のサービスなの」。「君なら素敵なママになれるのに。何か力に…」。「いいえ」。この言葉で、2人の関係は終わったことが分かる。映画は、デヴィッドがどこでどのように暮らしているのか、一切知らせない。彼の将来も不明。

ある日、突然、ケリーがジャックの部屋に入ってきて、「あんたがジャック?」と訊く。「みんな、そう呼ぶよ」。「あたしはケリー。あんたのお姉ちゃんだよ」。それを聞いたジャックは、びっくりして食べていた物を吐き出す(1枚目の写真、黄色の円の中が吐しゃ物)。それを見たケリーは、「こんなじゃ、映画に連れてけるわけないじゃん。ったく」と言う。ジャックは、「お姉ちゃん? 僕、お姉ちゃんなんていないよ」と言う。「ふーん、今できちゃったのよね」。「どうやったら僕のお姉ちゃんになれるの?」。「それマジ? あんたのパパが、あたしのママとヤったからじゃん」。「は?」。「おっと、やべ」。そう言うと、ケリーは、ジャックの前に座り、「いいかい、あたしなら、あんたを助けてあげられるかも」と言う。ここで、アイルランドに帰ったコナーが。手漕ぎボートに乗り、遺灰を海に流しに行くシーンが入る。そして、もう一度、病院(廊下)。おそらく数日後。こんどは、ケリーの母ジャニスもいる。マリッサは、さっそく、「来てくれてありがとう」と感謝する。しかし、ジャニスは、「言っとくけど、あたしはまだこれ、納得してないからね」と、ケリーの決断に反対する(2枚目の写真)。ケリーは、「ママ、黙ってなよ。あたし、ジャックに会って来る」と言い、病室に向かう。マリッサは、「ジャックなら、彼のパパと一緒よ」と教える。場面は、ジャックの病室に変わり、入口で、ケリーが、「よっ。入っていい?」と声をかける。ジャック:「うん、もち」。デヴィッド:「やあ、ケリー」。ケリー:「やあ、パパ。えっと、ママが話あんだってよ」。「なあ、ケリー、できればそういうのは…」。「『パパ』なしね? じゃあ、『おじさん』とか『パパちゃん』はどう?」。「デヴィッドでいいよ」。「おっけー、おじさん」〔ケリーが一番楽しい登場人物〕。父が出て行き、ケリーが、ジャックに 「で、どんなん?」と訊くと、ジャックは 「ボロボロ。だけど、僕が元気じゃないと、みんな心配するんだ」と言う。「あのね、あたし、マシュマロ調べられたんだ」。「マシュマロ?」。「骨髄(Bone marrow)、マシュマロ(marshmallow)」。再び廊下で。ジャニス:「あの子にやらせるべきじゃないと思うわ」。デヴィッド:「リスクは微々たるものなんだ、ジャニス」。ジャニス:「へぇー、ご心配どうも、デヴィッド」。そして、全員がジャックの部屋に入り、主治医から検査結果について聞く。「さて、皆さん。こちらのケリーさんが、ジャックのドナーになれるかどうかの検査を受けてくれました。結果ですが、HLAの適合マーカーが6箇所中6箇所すべて一致しています」(3枚目の写真)「これ以上ないというくらい完璧な適合です。つまり、ドナーが見つかりました。おめでとうございます」〔ここでも、HLA-Cの “入れ忘れ” がそのまま尾を引き、『8箇所中8箇所』と言うべきところが間違った形で告げられる〕。マリッサは、ジャックに 「ケリーがマッチしたわよ、ハニー」と喜びを伝え、デヴィッドは、ひたすら、「素晴らしい、なんて素晴らしいんだ」。しかし、この期に及んでも、ジャニスは、ケリーに 「あんた、ホントにやる気なの?」と問題視する。ケリー:「ママ」。ジャニス:「あんたは15歳よケズ。あたしの同意が必要。それに、どうやら彼のもね」。デヴィッド:「いや、まさか…」。ジャニス:「だろ、あんたならね、昔からそうだったもの」。マリッサ:「お願い、ジャニス」。ケリー:「あたし、ずっと弟が欲しかったんだ」。ジャニス:「初耳だけど」。ケリー:「ママ、マジもうやめて。ねえ… ほら、うなずくだけでいいんだ。こんな風にさ〔頷いてみせる〕。ママ、あたし、ホンキでこれやりたんだ。頼むよ」。この言葉で、ようやくジャニスも承諾する。

骨髄移植に成功し、白血病もきれいに消え、元気一杯のジャックが、赤い帆のスループを操ってレースのトップを維持している(1枚目の写真)〔2009年当時、高リスクの小児白血病で同種造血幹細胞移植を受け、退院して「普通の生活(学校への本格的な復帰など)」が送れるようになるまでには、スムーズにいった場合でもおよそ1年~1年半が必要だった。そして、兄弟姉妹からの骨髄移植の場合、ドナーの免疫細胞が攻撃しないのでGVHD(合併症)は起きないが、白血病を攻撃する力(GVL効果)が非血縁者に比べて著しく弱くなり、1~2年後に再発する可能性が高くなる。映画で、ジャックがスループで一位になったことは、当時の移植時の5年生存率30~40%を克服したことになる〕。そして、ゴールを一番で通過する。応援していたマリッサのところに、久し振りにコナーが現われる。「いつ戻ってきたの?」。「2、3日前やな。あんたの店、行ってみたんや」。「ずっと店には出てないの」。「あんた元気か?」。「電話したかった。でも、どこか分からなくて」。「かまへんよ。それで、ジャックは?」。「元気よ。さっき、レースで一位になったばかりなの」。「何やって? 彼に会いに行かなあかんな」。「ええ。あの子、きっとすごく喜ぶわ」。「索具外しを手伝うで。もう食べたか?」。「食べたかって、まだ5時よ?」。「土曜日やろ」。「あなた… 会えて良かったわ」。「わてもやで」(2枚目の写真)。映画の最後は、コナーによるスループの後片付けの指導。「準備はいいか、ほら… 降りてくるで。下ろすんや。一番下まで。そうや。よし」「ほら、降りてきた。降りてきた。完璧や! 素晴らしいわ」「次はジブ〔前帆〕や。それを上げろ。準備はいいか? 下に引くんや」(3枚目の写真)「引き続けろ。もっと引け。よくやったな」「次は舵や。よし、クリップ外そか。1、2、3。いいぞ」「それはお前に任せるで。クリップ留められるところをママに見せてやりな。お前は天才やな」。ここで映画は終わる。この映画の脚本は何度も “クズ” だと書いてきた。唯一気に入ったのは、ケリーというユニークで、かつ、ジャックに命を与えてくれた存在。そのケリーを、この最後の節〔白血病を克服したジャックを描いた映画のラスト〕に一度も登場させなかったのは、“クズ” の最後のダメ押しになってしまった。

最後は、脚本の批判には触れず、どこをどう変えたら、この映画が、素晴らしい作品になる可能性があったかを、提案したい。最大のポイントの1つは、フィンに傾倒しすぎていて、ジャックを無視した脚本を変えるために、2人の病気を入れ替えることが是非とも必要だ。そのサジェスチョンは、映画の中にもある。それは、フィンの 「白血病には、悪いやつと、もの凄く悪いやつがあるんだ。その2つだけ。僕は前、もの凄く悪いやつだったけど、治してくれたよ」の台詞。映画の中では、ジャックが、高リスクのT細胞性の急性リンパ性白血病(抗がん剤単独での5年生存率は2009年当時20~30%、骨髄移植は必須だが、①第一緩解期(治療開始後1~2ヶ月に行う必要があり、②父が非常にレアな抗原を持っているため、ドナー移植がほぼ不可能)な状況にある一方で、フィンはB細胞性の急性リンパ性白血病の数%に見られるフィラデルフィア染色体陽性(5年生存率は2009年当時70~80%)。それにも関わらず、フィンは何回も危機を迎えて最後には死んでしまう。そんな矛盾をなくすには、ジャックをB細胞性のフィラデルフィア染色体陽性とし、フィンを高リスクのT細胞性の急性リンパ性白血病にすればいい。そうすれば、映画のように、フィンが2度目の緩解期の後、無理をして死亡しても何ら不思議ではない。この設定の良いところは、普通、B細胞性の場合、骨髄移植は行わないが、フィラデルフィア染色体陽性でこじれた場合には骨髄移植が必要となること。そして、その期間には1~2ヶ月という制約がないこと。だから、ジャックの父を浮気癖のある男性にしなくても、ジャックの母が、不倫の夫の子供を探し回らなくても、排卵誘発剤を飲んで2人で愛し合い、三つ子でも生み、その中の一人がジャックとマッチングすれば、フィラデルフィア染色体陽性の場合、1年以上待つことは可能なので、ごく自然に25%の確率を乗り越えて、白血病から救われる可能性が高い。この構成を骨子として、感動的に話を組み立てて行けば、優れた脚本になる可能性があったのに、と指摘しておきたい。