南アフリカ映画 (2011)
今回は、解説の代わりに、「African Journal of Psychiatry(アフリカ精神医学ジャーナル)」の2011年7月号に書かれた記事の一部を転載する。
南アフリカ映画でこれほど多くのレベルで心に響く作品に出会うことは滅多にないが、これはまさにそのような映画だ。Jan van Tonderの同名の小説に基づいた映画 『Roepman』 は、オランダ改革派教会とフルウールト首相のアパルトヘイト政府を主体とするアフリカーナ〔オランダ系移民〕によって完全に掌握された1966 年の南アフリカを舞台としている。そして、アフリカーナの鉄道コミュニティと、彼らの文化や感情にまつわるユニークで深く考えさせる問題を扱っている。
ユーンは鉄道員の呼び出し係で、当時は鉄道のシフト勤務が始まる人を呼び出すための職員がいた。しかし、ストーリー展開におけるユーンの役割は “人間目覚まし時計” というだけでなく、保護を必要とする人々の非公式の保護者であり、鉄道コミュニティの隠された暗い側面の予知者でもある。
映画は、政府と教会に縛られたコミュニティを特徴づける構造的な混乱に巻き込まれた 11 歳の少年ティムス・ラーデマンの目を通して語られる。映画で描かれていることが、アパルトヘイト政府を支えたアフリカーナのコミュニティすべてで起きたわけではないが、似たようなことは多くの家庭で実際に起こった。しかし、これまでのところ、南アフリカの映画界は、『Paljas』(1997)で名声を博した有名な映画監督Katinka Heynsを除き、その過程で多くの人々の人生に傷を残した、言語に絶する、文化的に縛られたこの出来事を描いていない。
ティムスは、非常に厳格で暴君的な父アブラムの4人の子供たちの末っ子だ。ラーデマン家では、アブラムの妻アダを含めた全員がアブラムに屈従し、家族やその一員に対し彼が言ったことはすべて法律となる。日曜日は教会で過ごし、カルヴァン主義キリスト教徒による国家の期待と規則からはみ出た者は、言語に絶するトラブルと苦悩に見舞われる。ティムスは、思い違いをしてしまった地元の変質者ハインの不幸な犠牲者となる。ティムスの純潔は失われ、多くのアフリカーナの少年たちのように、自分の体験にどう対処すべきか途方に暮れる。
『Roepman』 のような映画によって、語られなかったことが語られるようになり、アパルトヘイト政府と厳格で支配的な教会が アフリカーナの若者達にどのような衝撃を与えたかが分かるようになる。映画 『Roepman』 は万人受けする作品ではないが、アフリカーナの若者達の生活がどのようなものであったかを垣間見たいなら、観る価値のある映画だ。映画では多くの事が起こり、観終わった後で複雑な気持ちにさせられる。しかし、このユニークな作品を製作したPiet De Jagerに喝采を送りたい!
映画は11歳のティムスの視点で作られているが、実際に起きることは、ティムスの2人の姉と、映画の題名になっているコールマンを務めるユーン、及び、隣の家での事件まで含め、広範囲にわたっている。ティムスに個人的に起きたことは、ケープタウンの桟橋でプカプカ浮いているコンドームを見つけた時から始まる。それが何かを知りたいティムスは、不良のハインと親しくなり、それが仇となって、性的虐待を受け、ショックを受ける。長女のライキーは、もうすぐ21歳で成人式を迎える。彼女は、その時のパーティでダンスをしたくてたまらないが、父はどうしても許そうとしない。次女のエリカは、父とは宗派の違う男性と親しくなり、将来の結婚を望むが、父に断固拒否され自殺を図る。隣に住む父の同僚の機関士の妻と長女メリンダは、拳銃騒ぎを起こしたり、スポーツカーで乗り付けるヤクザ男のゼインと問題を起こす。そして、映画の題名のコールマンのユーンは、時々ティムスを助けてくれ、他にも困っている人を助ける “神秘の人” だが、それは心が優しいからで、神意ではない。そして最後に、ハインとゼインによって殺される。ティムスやライキーやエリカの父はアブラム、母はアダ、母方の祖母はマッキー。父アブラムは、アパルトヘイト政府を強く支持し、それを正当化したオランダ改革派教会の熱烈な信者で、家族を人間とは思わずに、単に支配する。母アダは、不満を漏らすことはあっても抵抗はせず、すべては夫の言う通りにしかしない。祖母マッキーは、一番面白い人物で、発言力はないものの、娘婿から孫たちへの被害の軽減に努める。登場人物が多くて分かりにくいので、人物紹介に留めた。なお、この映画には、英語字幕が1つあるのみで、その英語訳は非常にお粗末。台詞の訳に当たっては、前後関係から分かりやすく修正・加筆した。
主役のティムスを演じるのは、Paul Loots。これが映画初出演。その後、2014年まで1年ごとに映画やドラマに出演するが、その後は映画界から去っている。右の写真は、主役を演じた『Agent 2000: Die Laksman Paul Loots』(2014)のポスターの中央上部。
あらすじ
映画の冒頭、主人公のティムスの声で、映画の原題 “Roepman〔英語のCallman〕” の解説が入る。「コールマンは、鉄道の作業員が時間通りに仕事に行けるよう起こす人で、ユーンがその係なんだ。彼は、その日のシフトの勤務者全員の名前と、勤務開始時刻の書かれた帳面を持ってる。缶焚き、機関士、転轍(てつ)夫、車掌、車輪点検係などだよ。彼は、みんなの家を順番に回って起こしていき、帳面にサインさせる。サインした後に眠っちゃったら、大変なことになるよね」〔時代設定は1966年7月〕。そして、夜明け前に起きたユーンが、制服を着て母親に会いに行く(1枚目の写真)。「ローシーおばさんは、ユーンのお母さん。彼女は口がきけないんだ」。その姿を、ティムスが窓から覗いている。ティムスが道路脇に立って見ていると、ユーンの自転車がやって来る(2枚目の写真)。ティムスやユーンが住んでいるのは、白人の中では労働者階級に属する鉄道員専用の住宅地なので、ユーンは、勤務開始時刻の早い順に該当者の家の寝室の窓までいき、窓を叩いて開けさせると、そこから帳面を渡し、起きた作業員がそれにサインして、窓からユーンに渡す。ティムスは、自分の家に戻ると、両親の寝室のベッドの脇の床に置かれたマットレスに横になる(3枚目の写真、矢印はマットレス)。外が明るくなった頃、そして、ティムスがもう一度眠った頃、寝室の窓がノックされ、目を覚ました父がカーテンを少しずらして窓を少し開け、ユーンから帳面を受け取る(4枚目の写真、矢印は窓の開口部)。そして、サインすると、「ご苦労さん」と言って帳面をユーンに返す。ユーン:「どうか、よい一日を」。
「僕の一家はラーデマン」。もうすぐ21歳になる長女と、ほとんど年が違わない次女の部屋が映る。「僕の2人の姉さん、ライキーとエリカだよ。サルモンはエリカの彼氏で、結婚するつもりなんだ」。ライキーが廊下に出て行く。「1ヶ月くらい前、おじいちゃんが亡くなって、マッキーおばあちゃん〔ティムスの母アダの母親〕が僕んちで暮らすようになると、僕とブラムの部屋が取られちゃった。だから、兄さんは廊下のキャンプ用ベッドで寝てるし、僕は、両親の部屋で寝てるんだ。ライキーとエリカに言わせると、僕は同居するには大き過ぎるんだって」。ティムスが、キッチン・テーブルに座っていると(1枚目の写真)、一番に食事を済ませた長女ライキーが出て行き、そのすぐ後に、父アブラムもティムスの頭を撫でて出て行く(2枚目の写真)。次女エリカが後を追い、しばらくして兄のブラムが出て行く。最後に、鞄を持ったティムスが出かける用意をしてキッチンを出て行き、入れ替わりに、祖母のマッキーが入ってくる。母アダは、ティムスに向かって 「靴を履くのよ!」と呼びかけ、マッキーはアダに 「裸足で歩き回らせないで」と注意する。
学校でのシーンはなく、学校から戻ったティムスは〔服が違う〕、桟橋の先端に座って水面を見ている(1枚目の写真)。そこに、手下4人を連れた黒服のハインという高校生の不良がやってきて、からかってやろうと、「よお、ティムス」と声をかける。ティムスは、「こんちわ〔Howzit〕、ハイン」と言うと、水面を漂っているものを指差して、「あれ何?」と訊く(2枚目の写真)。指差したのがコンドームだったので、手下は笑い出す。ハインは 「泡状の尿が出たら教えてやる」と、変なことを言う〔泡状尿の原因は、尿中の異常なタンパク質(腎臓が正常に機能していない)〕。5人が去った後、ティムスは、階段を下りて、直接調べようと思って手を伸ばすが(3枚目の写真)、バランスを失って海中に落ちる。泳げないのでバタバタと焦っていると、救い上げてくれたのは、コールマンのユーン。彼は、ティムスを庇護するように階段を登っていくと(4枚目の写真、彼の定番の自転車が置いてある)、彼を自転車の荷台に乗せてティムスの家に向かう。
ここで場面は変わり、道路上の小石を拾っては手提げ袋に入れているおばあさん〔ユーンの母ローシー〕がいる(1枚目の写真、矢印)。その前を、ティムスを乗せたユーンの自転車が通り過ぎていく。自転車が歩道に上がると、ティムスはユーンの肩につかまって立ち上がり、歩道の上に張り出した木の枝につかまってぶら下がる(2枚目の写真)。そして、片手を離して、振り向いたユーンに手を振る。ここで場面が変わり、長女ライキーが、「ヴィク待って」と、1人の男性の腕をつかんで振り向かせる。ヴィクは 「どうしろって? 君の親爺さんは僕が嫌いなんだ」と言う。「そんなに待たせないから」。「もう、うんざりなんだ。君の親爺さんにはな。やれ、バイクには乗るな。夜の10時には帰宅しろ。週末もだぞ! それに、居間に飾ってある忌々しいフルウールト〔当時の首相Hendrik Frensch Verwoerd。反英国のオランダ系の首相で、英連邦から離脱し、有色人種の選挙権を剥奪し、アパルトヘイト政策を強力に推進した極悪人〕のあの写真! 君の親爺さんが2人いるみたいなもんだ! 君の手を握ってるだけで、罪悪感を覚える」。「もうすぐだってば、ヴィク、あとちょっとで21歳よ。そしたら、何だってできる(3枚目の写真)」〔南アの成人年齢は21歳〕。それを聞いたヴィクがオートバイに乗ると、ライキーが後ろに座り、玄関から出てきた母が 「ライキー、バイクから降りなさい!」と言うのを無視して発進する。オートバイがいなくなると、枝から逆さまにぶら下がったティムスが、そのすぐ後ろにいたことが分かる(4枚目の写真)〔どうやって捉まっているんだろう?〕。
それからかなりの時間が経ち、ライキーも父アブラムも戻っている。父が、「あのバイクに乗ってたの、お前だったのか?」と、叱るような口調で訊くと、母は、「あなたの目の前の女の子、見えなかったの? でも、ライキーを見てると、もうすぐ21だなんて信じられないわね」と助け船を出し、父がそれ以上何も言わずに去ったので、ライキーは母に感謝する。そのあと、キッチンでは夕食の準備が終わり、料理を運んでもらおうと、ちょうどそこにいたティムスに 「グラディス〔黒人のメイド〕に食事の準備ができたと伝えて」と頼む。ティムスは一歩も動かず、ふり返って、「グラディス!」と叫んだので(1枚目の写真)、「そんなことなら、ママにできたわ」と、ナマクラぶりを批判する。グラディスがやって来て、テーブルの上に料理の載った皿が並べられる。そして、家族全員が着席すると、父が両手を差し出し、全員が隣の席の手を握ると、父が、オランダ改革派教会〔南アのアパルトヘイトを正当化し、そのための宗教的根拠を与えた当時南アで最大の宗派〕式の食前の祈りを唱える〔彼は、この宗派の狂信的な信者で、それが彼の偏見に満ちた強権的な態度を生み出している〕。祈りが終わると、ティムスはすぐ 「ユーンがまた僕の命を救ってくれたよ」と言って、額の傷を指す(3枚目の写真)。しかし、父は、何が起きたも聞かず、「ティムス、何度言えば分かるんだ。人生は物語じゃないと」と叱る。ティムスは、「でも、パパ、ホントなんだよ」と悲しそうに言うと、父は、じっと見ただけだが、隣にすわっていたマッキーおばあちゃんは、「あんたの言うこと、信じるよ」と言ってくれる。
ラーデマン家の隣に住んでいるのは、機関士のハリーとその妻、赤いスポーツカーに乗った真のワルのゼインとつき合っているメリンダと脚の悪い少女。そして、ハリーが、何もかもメリンダの好き勝手にさせている妻を怒鳴りつけるシーンが入る〔次の節と関係する〕。そして、次の場面では、長女のライキーと彼氏のヴィク、次女のエリカと彼氏のサルモン、兄のブラムとティムスの6人が、ハリーの乗った蒸気機関車を見ている。すると、ブラムが 「みんな、蒸気機関車の中 見たことないんです」とハリーに声をかけ、ハリーは 「乗った、乗った」と快く受け入れる。女性を除く3人が中に乗り込んで缶焚きの経験をし、ティムスは下からそれを見ている(1・2枚目の写真、矢印)。その日の夕方、家に戻ったブラムとティムスは、一緒にお風呂に入っている。ティムスは、ハインに言われたことを思い出し、「初めて泡状の尿を出したのいつ?」と訊く(3枚目の写真)。そして、「僕にはできないから、ハインが からかうんだ」とも言う。兄は 「ハインには近づくな」と警告した上で、「やろうと思えばできるんだ」とも言う。「どうやるの?」。兄は、窓の所に置いてあった粉末洗剤の箱を見せる(4枚目の写真)。
久し振りに、ティムスの解説が入る。「毎月末、その日の仕事が終わると、ハリーは風呂に入り、きれいな服を着ると、給料の小切手を持って店に行くんだ」〔1966年7月31日〕「今日は、お酒と、カーネーションの花束、そして、まだ封筒に入ったままの残りの給料を持って戻ってきた」(1枚目の写真)「全部、奥さんのマリーに渡すんだ」。それを窓から見ていたアブラムの妻アダは、「私が、最後に花をもらったの、いつだったかしら?」と夫を皮肉るが、アブラムは新聞を読んでいて話すら聞いていない。ハリーは玄関から花を持ったまま出て来て、今度は小屋に向かう。そこに、浮気の虫のメリンダが走って家に戻ってくる。その直後、ティムスが、「お隣、何か変だよ」と言いながら家に入って来る。そして、当のメリンダも、「アブラムさん、大変なことが起きたの。ママがパパの銃を持ってる」と言いに来る。アブラムはメリンダと一緒に隣に向かうことにし、妻には、牧師に電話して銃のことも話し、警察には何も言わないよう指示する。その間に、ティムスはいつも何かと助けてくれるユーンの家に走って行くが、彼は自転車の分解修理中で(2枚目の写真)、何が起きたか話しても動こうとしないので、また家に戻る。一方、電話を聞いた牧師、それも単なる地元の教会の牧師が、メルセデス・ベンツ W111という当時のフラッグシップの新車に乗ってやって来る〔オランダ改革派教会の異常さの象徴〕。しかし、牧師は行動力ゼロで、やって来ても積極的に何一つせず、ハリーが家の中の妻に向かって話すのを聞いているだけ。アブラムに、何か言うよう促された牧師は、「パウロが 『コリント人への第一の手紙』で話していることを聞いて下さい」と、説得にもならないことを言い出す。そして、第13章の4節を唱え始める。「愛は寛容であり、愛は情深い。また、ねたむことを…」。ここで、頭に来た妻が、窓から拳銃をぶっ放す。今度は、アブラムが窓を叩き、「マリー、窓を開けて。そしたら、話せるよ」と言うが(3枚目の写真、矢印は役立たずの牧師)、中からは 「話し合いには、もううんざり」という返事しかないので、アブラムは 警察を呼ぶしかないと言い始める。そこにやって来たのがユーン。窓の斜め下に置いてあったバケツを取ると、窓の下に上下逆に置き、その上に立って窓から何事かマリーに話しかける〔小さな声なので聞こえない〕。しばらくすると、ユーンはバケツを下り、ハリーをじっと見つめると、閉じ籠った小屋のドアをノックする。すると、拳銃を持ったマリーの手が出てきて(4枚目の写真)、ユーンはそれを受け取り、最後に疲れた顔のマリーがユーンに支えられて出て来る。アブラムは、前を通り過ぎようとするユーンの腕を捉え、「ユーン、牧師さんに任せた方がいいんじゃないか?」と言うが、ユーンは 「必要ありません」と言うと、マリーを連れて玄関から入って行く。牧師は車に乗り、頑固なアブラムは、“牧師は何も悪くない、ユーンがでしゃばって牧師の邪魔をした” と思いながら、役立たずの金満牧師を見送る。これは、ユーンに不思議な力があることを示す最初のシーン。
その日の夕食の最中、マッキーが 「今日の午後、隣で起きたこと、アブラム、一体何て…」と言い始めると、アブラムは 「母さん、ここはもう農場じゃないんだ。鉄道住宅なんだ。あんなことだって起きる」と言う。すると、ティムスが、すぐに 「でも、たまにだよ、おばあちゃん。それも、お隣さんだけ」と補足(1枚目の写真)。アダが、「ユーンが来てくれてホッとしたわ」と言うと、ガチガチのオランダ改革派教会の信仰者アブラムは 「教会がすべきことをやっちゃいかん」と、牧師が全くの役立たずだったのを見たにも関わらず、強弁する。しかし、公平なマッキーは 「これでコールマンの役目がよく分かったわ」と言い、ティムスが、すぐに 「ユーンは最高なんだ、おばあちゃん」と言う。アブラムは 「あんな斜視〔ユーンは斜視〕に、何がまともに見えると言うんだ」と貶す。それでも、マッキーが 「でも、ユーンはみんなを起こして仕事に行かせてる。立派な仕事よ」と言うと、アブラムは 「白人が鉄道でできる最低の仕事だ」と断定し、席は静まり返る〔アブラムたち鉄道従業員は、南アの白人社会の中では底辺の白人労働者階級だった。これは、「下には下がいる」という思い上がった発言〕。翌朝、ティムスがチーズをナイフで削いで食パンに載せ食べていると、グラディスがやってきて羽根はたきで居間のホコリを払い始める。ティムスがじっと覗いていると(2枚目の写真)、彼女が最も念入りにきれいにしているのは、フルウールト首相の写真立て(3枚目の写真、矢印)。「フルウールト首相、お元気ですか? お顔をきれいにしましょうね。国のボスなんだから、当然ですよ」と、ズールー語で話しかける〔アブラムの強い命令? 後で、そうらしいことが分かる〕。
ティムスは、家の前の木に登って、あちこち覗いている(1枚目の写真)。そこでは、エリカがマッキーと話している。「おばあちゃん、私、ホントにサルモンが好きなの」。「彼も、あんたを愛してるよ。目を見りゃ分かる。彼をしっかりつかみなさい。結婚相手に最適じゃよ。あんな男性は少ないんだから」(2枚目の写真)。そう言った後でマッキーは、「あたしも、あと5、6歳若かったら、あんたと張り合ったのに」と冗談を言って笑わせる。そのシーンの最後に、ティムスが木から降りて、「グラディス、ジョン〔メイドの夫〕が来たよ!」と言って走って来る。グラディスは満面の笑顔になる。すると、オレンジファンタの瓶を2つ持ったジョンが口笛を吹きながらやってくると、裏口をノックし、出てきたアダに、手に帽子を抱えて〔敬意の態度〕、「今日は奥様」と挨拶し、アダも笑顔で 「今日はジョン、元気?」と訊く。ジョンは、ファンタ1本を差し出し、「元気です、奥様、これを持って来ました」と言って差し出すと(3枚目の写真)、「グラディスがお持ちかねよ」の言葉に、「ありがとうございます」と言うと、残りの1本を持って裏庭に向かう。
翌日、ティムスは学校から帰って来ると、鞄、上のシャツ、下のズボンを両親のベッドの上に放り投げ、普段着のシャツとズボンに履き替え、庭の大木から1mほど離れた草の中に、紙袋に入れて持って来た粉末洗剤を撒く。そして、素足で均して見えなくすると、右手を伸ばして幹との位置を測る(1枚目の写真、矢印)。キッチンに行き、母から宿題のことを言われたティムスは、鞄を取りに両親の部屋に行くがベッドの上には何もない。ティムスはベッドの下を覗き、それでもないのでキッチンに戻り、母に鞄のことを訊く。母が首をふってNoのサインをしたので、今度は 「おばあちゃん?」と 祖母を疑う。マッキーは 「知らないわ。ベッドの下じゃないの?」と言う。「ベッドの上も下も、戸棚も全部探したよ」。「窓から捨てたんじゃないの?」。ティムスは首を横に振る。夕食の席で、ライキーは祖母マッキーに 「21歳の誕生日まで、あと数週間なの、是非来て下さいね」と招待する。成人式の中で、ダンスの話が出ると、アブラムが 「ダンスなんか許さん」と言う。マッキーは、すぐに 「何だって、アブラム? ダンスがない成人式なんて、どうやってやるんじゃ? それじゃなるで、学校鞄のない小学生じゃないかえ?」と、ライキーを擁護する。それを聞いたティムスは 「そうだ! 僕の鞄、今日、消えちゃった!」と言う。兄は 「また、どっかに置き忘れたんだろ」と言うが、ティムスはオーバーに 「ううん、一瞬、宙を舞ったかと思うと、次の瞬間、パッと消えたんだ」と言い(2枚目の写真)、アブラムは 「お前の作り話にはうんざりだ」と相手にもしない。マッキーは、ここでも、「アブラム、この子は、見たものを見たの。天恵を失ったあんたやあたしは、子供からそれを奪うべきじゃない。天真爛漫さは純粋な天恵で、主はそれが長続きしないことを知っておられる」と、ティムスを擁護する。ティムスが祖母に 「純粋って何?」と訊くと、「純真とは、失って初めて価値が分かるもの」と言うが、ティムスは 「なら、そんなもん持ってても仕方ないじゃん」と言う。その夜、待ち合わせていたのかどうか分からないが、ハインが通りを歩いて来る。ティムスは、暗いところがいいと言って、洗剤を撒いた木の下に連れて行き、そこで並んでおしっこをする(3枚目の写真)。すると、洗剤で尿が泡立ったので、「あれ何だったのか教えて」と訊く。何を教えてもらったのか分からないが、次の場面では、家の中に飛び込んできたティムスは、ちょうど祖母と一緒にいた兄に、「OMO〔洗剤メーカー〕のこと、兄ちゃんの言った通りだった」と報告する(4枚目の写真)〔鞄がどこに消えたのかは、結局分からない。翌朝、ティムスは(何の説明もなく)鞄を持って学校に行くので、これは無意味なシーン〕。
親分のハインからティムスの泡のことを聞いた4人の子分は、ティムスを川原に連れて行き、ティムスのことを 「鉄道住宅一の泡出し屋」と褒めた後、「OMOの泡で溢れた洗濯機よりマシだ」と、ティムスの策略を笑う。そして、「俺たちの前でやってみせろ」と言うと、目の前の川で何本もの瓶に汲んできた水を無理矢理飲ませる。そして、「さあ、おしっこしてみせろ」と迫る。すると、ティムスはズボンの中に “お漏らし” してしまい、嘲笑される(1枚目の写真、写真は漏らした跡)。そこにハインがやってきて 「何があった?」とティムスに訊く。彼が、「みんなで僕を虐めた」と答えると、怒ったハインは 「彼は俺のダチだ。あの写真を見せてやれと言ったじゃないか」と叱り、ティムスに「プレイボーイ」を渡す。その前に立ちはだかったのが、ユーン。「プレイボーイ」を取り上げて不良の一人に渡すと、ティムスの肩に手を置いて一緒に川に入って行き、ティムスの鼻を指で押さえると、全身を水の中に沈める(2枚目の写真)。これで、体はきれいになり、ズボンの漏らした跡もなくなる。ユーンは、右手でティムスの肩、左手で自転車を掴むと、5人の存在を完全に無視してティムスの家に向かう。同じ日、ハインは庭の柵でティムスに会うと、「ごめんな」と謝り、「あのクソどもに言ってやった。今度お前に触れたら、ブッ飛ばしてやるってな」と言うと、お詫びにクジラの歯を渡す(3枚目の写真、矢印)〔年下のティムスにこれほど配慮する裏には、当然、下心がある〕。
ハインがゼインの赤いスポーツカーに乗っている。ゼインが先日のマリーの拳銃騒動のことを言い出し、ユーンの活躍について話し始めると、ハインは、ユーンのことを「鉄道住宅のクソ自称救世主」と呼んで侮辱し、ゼインの恋人のメリンダとよく一緒にいる〔単に、慰めているだけ〕と言って、ワルの危機感を煽る。すると、車の横を、いつも通り、ユーンの口のきけない母ローシーが石を拾っていく。ゼインは、メリンダに手を出すなとユーンに話すよう ローシーに警告して車を出す。同じ日、これも、いつも通りティムスが木に登って辺りを見ていると、隣の家でメリンダが吐いているのを見て〔つわり?〕、木から落ちてしまい、腕を折って悲鳴を上げる(1枚目の写真)。母が飛んで来て、映画にはないが、すぐに医者に連れて行く。だから、次のシーンで、ティムスが祖母マッキーと一緒に外を(裸足で)歩いている時、右手は石膏のギプスで固定されている。ベンチに座ると、マッキーは、「ローシーさんは、いつも石を拾ってるじゃろ。道路をきれいにしようとしてるだけだと言っとる連中もいる」と言う。ティムスは、「道路をきれいしたいんなら、どうしてゴミも拾わないの? ママは、お互い石を投げたりしないよう、拾ってるんだって言ってる」と別の見解を話す。「みんな違っとる。ローシーさんはね、息子の天職(calling)は、信ずる者が如何に生きるべきかを人々に示すことにあると、信じとるんじゃ。ユーンはいつも空を見上げて神様の望みを知ろうとしているから、彼がつまずかないよう石を拾っとるんじゃよ」(2枚目の写真)。以前 出てきた『コリント人への第一の手紙』の第7章の20節に、「Let every man abide in the same calling wherein he was called〔すべての者は、自分が召されたときの天職(天から授かったつとめ)に留まりなさい〕」という使徒パウロの言葉がある。この言葉に含まれる “call” の意味を踏まえれば、ユーンの職業であるコールマン(Callman)は、“(作業員を)呼ぶ人” であるというだけでなく、同時に、“(神意を)召す(招く)人” という意味にもなり、それはローシーが思っているユーンの天職とも一致し、この映画におけるユーンの役割とも一致している。そのあと、2人は海まで歩いて行く(3枚目の写真)。
ある日、ライキーとヴィク、エリカとサルモン、ブラムとティムスが ラーデマン家の前で仲良く座っていると、玄関にアブラムが出て来て、エリカとサルモンを家に入るよう呼ぶ。ブラムは10セント〔1966年の約8円≒現在の60円くらい〕やるから、中に行って見て来いと言い、ティムスは20セントでOKする。ここからは、家の中での、アダを交えた4人の話し合い。長いので台詞の訳はせず、大まかな内容を示す。①アブラムはこれまでエリカがサルモンとつき合うのを放置していたが、2人の真剣度が増して来たので、危険だと判断し、2人の仲を裂くことに決めた。②理由は、サルモンがオランダ改革派教会に属していないから。アブラムは、そのことを、聖書を取り出して、「牛とろばとを組にして耕してはならない」と言う(1枚目の写真)〔旧約聖書の『申命記』の第22章の10節〕。これに対し、エリカが、「もし、私がサルモンの教会に改宗したら?」と言うと、「絶対に許さん」という断固たる返事。それを聞いたサルモンは、怒り心頭で立ち上がる(2枚目の写真)。そして、“こんな穢らわしい家、さっさと出て行ってやる” とばかりに、エリカも無視して出て行く。それを傲慢な顔をしてのけぞって見ているアブラムの顔は、悪鬼そのものだ。エリカは、「サルモン待って」と後を追う。後からついてきたアダは、ただ単に夫の弁護をするだけ。だから、アダが 「さようなら、サルモン」と言って手を差し出しても、サルモンは無視し、エリカの額に別れのキスをして、“魔の家” から永遠に去って行く。そのあと、自分の部屋に行って、悲しんでいるエリカを、アダとティムスが見ている(3枚目の写真)。エリカは、手元にあった聖書を、母の制止を振り切って、ゴミ箱に投げ捨てる。その夜、ベッドで、アダはエリカの将来について心配するが、冷酷なアブラムは聞く耳を持たない。エリカが放心状態にあると言っても、「こっちが降参するのを期待して、ワザと神経を逆撫でしようとしてるだけだ」と見当違いの惨(むご)い言葉を平気で吐く。それに対し、アダは、最後に、アブラムが心酔しているオランダ改革派教会のことを、“神に見捨てられた忌まわしい教会” と批判する(4枚目の写真)。
そして、日曜ミサの日。“お隣” の不祥事では無用の長物だった牧師が、ミサを始めようと両手を上げると(1枚目の写真)、外で鐘の音がする。何だろうと、ブラムとティムスが走って見に行くと、エリカが、鐘の鎖を首に巻いて自殺していた〔未遂で済んだ〕(2枚目の写真)。2人は教会に駆け込んで、大声で「パパ!!」と叫ぶ。家族全員と他の参列者が出て来ると、ユーンがエリカを鎖から外して抱いていた(3枚目の写真)。エリカを受け取ったアブラムに、ユーンは 「首が折れているようです」と伝える。エリカが救急車で搬送される場面の直後、大勢の参列者に混じって出てきた祖母が転倒するのが一瞬映り、3度目のティムスの解説が入る。「ユーンは、ギリギリ間に合ってエリカの命を救った。それに対し、おばあちゃんは不運だった。転んだ時に腰の骨を折り、医者は二度と歩けないだろうと言った」。家の前で、車椅子に座ったマッキーに、ティムスが 「エリカ、また笑うようになる?」と訊くと、「すぐには無理じゃね」と答える。さらに、「エリカ、どうして何も言わないの?」と訊くと(4枚目の写真)、「あの子のパパに、何か伝えたいんかも」と答える。その時、家に帰ってきたライキーに、入口で水を撒いていたアブラムは、「成人式でダンスしていいぞ」と言い、ライキーは父にキスすると、大喜びで家の中に走って行く。
翌日、外で待っているハインのところに、ティムスがやってくる。「誰かに見られたか?」。「みんな、エリカがしゃべらなくなったことへの心配と、おばあちゃんの腰の骨折で忙しいんだ」(1枚目の写真)。「よし、じゃあ行くぞ」。ハインがティムスを連れて行った先は、ケープタウン港。ハインは、「ガールフレンドいるのか?」と訊き、ないと知ると、「女の子に触ったことくらいあるんか?」と訊く。ティムスが頷くと、「エロいことだぞ。誰かの口に舌を入れたりとか」(2枚目の写真)。もちろん、ティムスは否定する。そのあと、ハインはティムスをサポートしながらクレーンに登り、てっぺんから眺望を満喫する(3・4枚目の写真)。
下に降りたハインは、キッチンカーに行き、ティムスの好きな物を選ばせる。ティムスが頼んだのは、マトン〔ヒツジの肉〕のバニーチャウ〔くりぬいた分厚い食パンに肉とヒヨコ豆を入れたトマト・カレーを詰めた南アの伝統的なファーストフード〕で、カレーは激辛。ハインは、チキンのバニーチャウで、カレーはマイルド。2人は、誰もいない海岸沿いの小道を歩き、暑いからと茂みの中に入って行く。そして、バニーチャウを食べ終わると、ハインは持って来た筒の中から「プレイボーイ」を出してティムスに見せる(1枚目の写真)。どうして、ハインは、こんなにティムスにサービスするのか? それは、そのすぐ後で発覚する。ティムスが夢中になって「プレイボーイ」を見ている隙に、ハインはスボンのチャックをこっそり下げて、ペニスを剥き出しにしていたのだ〔もちろん、映像は全くなく、単に連想させるだけ〕。そして、「写真は子供向けだ。ここに本物がある。見てみろ」と言う。ティムスは、ふり返って見てみる(2枚目の写真)。「本物、見てみたかったろ? きれいだろ? 感じるだろ?」。ティムスは、「ううん」と否定し、また前を向く。当てが外れたハインはティムスの顔を掴むと、ペニスをティムスの口に突っ込む。ハインは気持ち悪いので暴れに暴れ、ペニスに噛みつく。あまりの痛さにハインはティムスを放し、ティムスは斜面を上がって逃げ出す。後を追おうとしたハインは、自分の手が血と唾液だらけになっているのを見て諦める(3枚目の写真、矢印)。ティムスは、穢れた口を手で拭いながら、茂みから抜け出す(4枚目の写真)。そのまま、海岸沿いの小道→港の埠頭→鉄道住宅へと走り続ける。
ティムスは 泣きながら家に入ると、母に抱き着いたまま激しく泣き続ける(1枚目の写真)。しかし、母はその理由を訊こうともしない。それは、母がすっかり誤解してしまったからだ。そして、居間に置いてある新聞が映る。そこには、「フルウールト死す/襲撃犯はメッセンジャーだった」と書かれている。首相のフルウールトが開会中の議会で、臨時の国会議事堂メッセンジャーとして雇われていた48歳のツァフェンダス〔ギリシャ系モザンビーク人〕によりナイフで刺し殺されたのは、1966年9月6日14時15分。そのニュースが全国に広がって新聞が出されたのは、翌7日。だから、ティムスがハインに性的虐待を受けたのは9月7日だったと特定できる。母の大きなミスは、子供には興味のない首相の暗殺なんかで、ティムスがこんなに激しく泣き続けたことに疑問すら抱かなかったこと。一方、フルウールトを支えてアパルトヘイトを推進したオランダ改革派教会の熱烈な信者であるアブラムは、フルウールトの死に呆然とする。だから、ライキーの成人式がある9月10日が葬儀の日だと分かると、エリカの自殺未遂のあと一旦は許したダンスを禁止する。ライキーは 「約束は約束よ」と言うが、アブラムは 「フルウールト博士はどうなった?」としか言わない。「彼は死んだけど、私は生きてるわ」。何を言っても、この悪魔男に通じないのは、エリカの時と同じ。そして、これもエリカの時と同じように、夜、ベッドで夫婦は話し合う。「私、あなたが約束を破るの、これまで見たことがない。(こんなことを続けると)子供たちがみんな離れていくわ。みんな辛い現実を 嫌と言うほど見て来たから。私たちが住んでいるこのひどい場所は、子供を育てる場所じゃない」。「アダ、わしに何を期待してるんだ?」(3枚目の写真)。「あなたが子供たちを支えること」。当然、話し合いは失敗に終わる。
事実を話せば恥をかくだけなので、ティムスは鬱な気分に閉じ込められてしまっている(1枚目の写真)。そんなティムスを見たユーンは、「ちょっとこっちに来て」と呼ぶ。ユーンに呼ばれたので、ティムスは素直に近寄って行くが、いつもの元気さは全くない。「どうしたんだい?」。「どうして助けてくれなかったの?」。「何があったんだい? 話してくれたら、助けてあげられるかもしれない」。それを聞いたティムスは、両手で目を覆って泣き出す(2枚目の写真、矢印は変態男のハイン)。2人が何を話しているのかは分からないが、話し終えると、同時にハインの方を向いたので、すべてではないにしろ、ハインの悪事を打ち明けたことは間違いない。ユーンは助けに行けなかったことを 「ごめんな、ティムス」と謝る。それに対し、ティムスは 「パパは正しかった。あなたは、何もできないんだ」と、ひどいことを言い、立ち去ろうとする。それを聞いたユーンは、ティムスを呼び止め、誰も乗っていない自転車を手で押して遠くまで自走させると〔これだけでも凄いので、ティムスは喜ぶ〕、次に足元の土を叩く。すると、水が沸き出してくる(3枚目の写真、矢印)。そして、水の勢いはどんどん強くなっていく〔奇跡でなければ、この下で水道管が切れていて、少しのショックで水が吹き出した〕。
その頃、家の中では、ラジオから楽しい音楽が流れ、それに反して、ライキーを筆頭に、マッキーもブラムも暗いムードに沈んでいる(1枚目の写真)。そこに、ティムスが飛び込んで来て、「どうしたの、ライキー?」と訊く。「私の21の誕生日なのに、ダンスもできない。クソったれのアフリカーナ〔オランダ系白人〕の国全体が喪に服してるから」。ライキーが自嘲気味にそう言った時、アブラムが入ってきて、ラジオから楽しい音楽まで消してしまう。最低の自分勝手な男だ。ティムスは、苛立つライキーに、「見に来て、奇跡だよ!」と声をかける(2枚目の写真)。外では、近所の人たちが大勢集まり、頭上よりも高く舞い上がった霧のような水を浴びながら、楽しんでいる。アダとライキーは、マッキーの車椅子を押し、久々に笑顔が蘇る。人々は、次第にダンスを始める(3枚目の写真)。この奇跡は、ダンスを禁じられたライキーのものだ。そして、水でふやけた石膏のギプスを外したティムスのものでもある。しかし、次第に水の勢いは弱くなり(4枚目の写真、矢印)、それとともに人々の至福の時も終わりを告げる。
その日の深夜、両親が熟睡している中で、床に寝ていたティムスが目覚め、カーテンを開けて “お隣” を見てみる。すると、ゼインがノアをノックし、中で電気が付く。すぐに変態野郎に成り下がったハインがドアから出て来て、2人一緒に立ち去るのが見える〔意味不明〕。そこで、ティムスは両親の寝室から抜け出すと、上から羽織る物を手にし、廊下の簡易ベッドで寝ている兄の横でセーターを頭から被ると(1枚目の写真、矢印は兄)、家から出て行く。2人の悪漢が道路の木陰で隠れていると、そこに、コールマンのユーンが、定刻通り、自転車に乗ってやって来る。2人は、その前に突然現われて行く手を遮り(2枚目の写真)、手を掴んで自転車から引きずり降ろすと、森の中に連れて行く。それを、後を追ったティムスがずっと見ている。ユーンは、列車の連結器に押し付けられ、「もうすぐ、ダチの機関車がやってくるぞ」と脅される(3枚目の写真、矢印はユーン)〔機関車がくれば、ユーンが縛り付けられた連結器で後続車両と合体する。そうなれば、ユーンは無残に押し潰される〕。児童虐待犯から殺人犯になったハインが 「お前はメリンダとキスしてたな」と言うと、ユーンは 「私は彼女を慰めてたんだ」と答える。ゼイン:「なんで?」。「怖がってた」。「何をだ?」。「なぜかは、君が知ってるだろ」。「ああ、そうだ。だから、俺たちは機関車が来るのを待ってるんだ。メリンダのガキは誰の子なんだ。教えろ」〔以前、メリンダが吐いている場面があったが、やはり彼女は妊娠していた〕。その時、機関車が近づき、遮断機の警告音が鳴り出す。ゼインは 「誰の子だ?」と再度訊くが、時間がどんどんなくなっていくので、早く答えるよう強いるが、ユーンは何も言わない。機関車がすぐ近くまで来たので2人は焦る。そこに、いきなりティムスが姿を現わし、駆け寄って来たので2人は逃げ、ユーンは押し潰される。ゼインは 「俺は、真実が訊きたかっただけだ」と自己弁護し、もっと悪質なハインは 「みんなお前のせいだ」と、責任をティムスに転嫁して逃げていく(4枚目の写真)。
大切な友人を亡くしたティムスは、泣きながら家に戻ると、両親の寝室に行き、ベッドの端に座る。2人は目が覚め、父が 「ティムス、なんでそこに座ってる?」と訊く。「ユーンが死んじゃった」(1枚目の写真)。母は 「悪い夢でも見たのよ」と言ったので、ティムスは 「車両の間に挟まれたんだ」と説明するが、母はあくまで 「ただの夢よ」と抱き締め、父は寝てしまう。朝になり、父は、ティムスの腕を乱暴に掴んで 「これがまた、お前の作り話だったら、その時は、今日が安息日〔アブラムは信仰のことしか頭にない男なので、日曜日のことをキリスト教的に言っただけ〕だろうと構わん、お前の体から空想癖を叩き出してやる」と警告し、ブラムと一緒に現場を見に行く〔ユーンが朝、起こしに来なかったのに、なぜ変だと思わないのか?〕。昨日、盛大な噴水のあった後の現場では、市の水道局の職員が原因を調べている。それを見た父は、ユーンの奇跡の実態を指摘する。それに対し、ティムスは 「誰も、信じたくないからだ」と、父に聞こえないように不満を漏らす。3人は森を抜けて線路まで行き、ティムスは 「この辺りだったよ」と言うが、そこには何も残っていない。父はさっさといなくなり、兄は、夢だったと言うよう説得するが、ティムスは、ユーンの母ローシーが小石を拾っては入れていた手提げ袋が落ちているのを見つけ、「あのおばあさん、天国に行ったんだ」と言うが、問題にもされない。結果として、家に戻ったティムスは、父に何度もお尻を強打される(3枚目の写真)。そこに、自殺未遂以後口をきかなかったエリカが飛び込んできて、「止めて!」と叫ぶ。そして、打つのを止めた父を、“自分の娘や息子を虐待するのが趣味” の常軌を逸した人非人だと断定した目で睨む(4枚目の写真)。自分が自殺に追い込んだ娘に対しては反論などできないので、父は出て行き、泣き続けるティムスを母が抱き締める。そして、顔を拭いてやろうと、洗面所に連れていって水道の栓を回すが水は出て来ない〔昨日の奇跡は、市の水道管の破損が原因だった〕。
ティムスは、祖母に、ローシーの石の入った手提げ袋が線路の横に落ちていたと話す。それを聞いた祖母は、アダに、「ローシーはユーンがまだ生きてたら、決してあの手提げ袋を放さないよ。彼女は、息子の後を追って、そのまま天国に行ったんじゃ」と言う(1枚目の写真)。その時、激しくドアがノックされる。アブラムがドアを開けると、ハリーが入って来て、①ユーンが車両の間に挟まれて死んでいたこと、②今朝は霧が深くて誰も気づかなかった。③車両を側線に入れたりしたから、死体はひどく損傷していた、と話す。それを聞いたアブラムは、目を閉じて顔を上げる(2枚目の写真)。如何にも尊大な顔に見えるが、これまで自分が3回、姉と妹とティムスの言うことを無視し、傷つけてしまったことを思い、強く反省したのであろう。それを、ティムスも見ている(3枚目の写真)。ハリーが、ローシーに伝えてもらえるかと頼むと、先ほど、ティムスが祖母に話していたことを漏れ聞いていたアブラムは、一緒にユーンの家まで行くと、「ローシーさん、ここにいないだろう」と言う。それを聞いたハリーが中に入って行く。その時、アブラムは、横にいたティムスの肩に手を置き(4枚目の写真)、“お前の言った通りだった” という顔でティムスを見る。しばらくして、ハリーは一人で家を出て来る。ここで、4度目で最後の、ティムスによる解説が入る。「鉄道会社はユーンの代わりに新しいコールマンを任命しなかった。もうみんな自分で起きることができるから。だけど、そんなことはどうだっていいんだ。ユーンのような人は二度と現われないから」(4枚目の写真)「パパは昇進し、僕たちはスタンガー〔現在の、クワドゥクザ〕に引っ越すことになったけど、一緒に行くのは、ママ以外は、僕とおばあちゃんだけ。ライキーとエリカとグラディスは今いる場所にいるし、ブラムはもうプレトリアにいる」。「怖い夢を見て目が覚めると、ユーンの顔が見えるまで暗闇をじっと見つめるんだ。そうすれば、もう怖くなくなる」。