ベトナム映画 (2023)
映画では、冒頭に 「作家 Đoàn Giỏi の同名小説と TVシリーズ 『Đất Phương Nam』から着想を得た作品」と表示され、その次に 「この映画にはフィクションの要素が含まれており、すべての偶然は意図的ではありません」と表示される。この映画の題名で検索してもヒットは少ないが、この映画の主人公12歳のアンの父ハイ・タンがボスになっている反仏の反乱軍チン・ギア・ホイ(Chính Nghĩa hội)で検索すると多くの批判を目にする。まず、穏健なものから挙げれば、原作の設定は、1945年以降の数年間にわたる孤児アンの生活を描いたものなのに、映画では、時代設定を1920~30年代とし、母はすぐ仏軍に射殺されるが、父は反仏の反乱軍チン・ギア・ホイのリーダーとして、映画の最後にアンと再会するというハッピーエンドに変えてしまっている点。そして、社会的に大きな批判を浴びたのは、映画の最初のバージョンに登場したナム・ホア・ドアン(Nam Hòa đoàn)、ギア・ホア・ドアン(Nghĩa Hòa đoàn)という2つの反乱軍。歴史上、前者は1901年に中国で解散し、後者は1916年に解散している。批判の矛先は、時代設定を1920~30年代と、原作を20年も遡った点と、その時代以前に消滅した “中国主導” の軍を登場させた点〔原作では、反乱軍による戦闘は主題ではなく、あくまでアンの人生を描くことがメイン〕。そのため、最終的に、前者は、チン・ギア・ホイ(Chính Nghĩa hội)、後者はティエン・ディア・ホイ(Thiên Địa hội)という架空の名称への変更を余儀なくされた。原作の読者に “嫌われた最大の点” は、主人公のアン(An)以外の登場人物がほとんどすべて違っていること。①原作では、蛇捕りの60歳近いハイ(Hai)がアンの養父となる。このハイは、映画の中のチン・ギア・ホイ反乱軍の首領で、アンが小さい頃に別れたきり会ってない父ハイ・タン(Hai Thành)と名前だけ似ているが、全く違う人物。映画でも蛇捕りは登場するが一瞬で、名前も不明。唯一、原作と映画で一致しているのは、蛇捕りの一人息子がコー(Cò)という点だけ。②映画で、もう一人の主役とも言える “アンの友達で詐欺師” のウト・ルク・ラム(Út Lục Lâm)は、原作には全く登場しない〔似たような人物もいない〕。③映画で、ラムの次に重要な役、医師兼中国武道家でナム・ホア・ドアン反乱軍の一員でチン・ギア・ホイ反乱軍にも協力するテウ(Tiều)と、その娘でアンが惚れるサン(Xinh)も原作には登場しない。ただ、市場の祭りの一環で、こんな一文が1章にある 「黒い中国服を着た武道家は漢方薬を売り、“火の輪をくぐり抜ける10歳の少女” という大道芸を始めた」。これと似た場面をテウとサンがする場面が映画にもある。しかし、原作では、この2人に名前もなく、ただの市場の祭りの賑わいを描く文章の一部でしかない。④原作では、アンがチャック・バン(Chắc Băng)という辺鄙な村の運河の交差部にある小さな市場の食堂の女性店主トゥ・ベオ(Tư Béo)に会った時、アンは 「髪は首筋を覆うほど長く伸び、目は深くくぼみ、首はコウノトリの幽霊のように細い。学校の制服の白いカーキ色の上着は今ではおかゆの色に変わり、ウールの半ズボンは色褪せて、まるで魚につつかれたようにボロボロになっていた」(2章)という状態だった〔映画とまるで違う〕。トゥ・ベオはアンの髪を短く刈らせ、運河に行って石鹸で体を洗わせ、新しい半ズボンを渡し、店のウェイターとして働かせる。映画では、食堂の女性店主はトゥ・ウー(Tư Ù)と名前を変え、ただの端役。そもそも、アンは食堂で働かない。⑤その食堂に来て、突飛な嘘を並べて客を喜ばせるのは、原作ではバ・グー(Ba Ngù)、映画ではバ・フィー(Ba Phi)。⑥原作では、このあと、1945年らしく、南部レジスタンス本部のフィッ・タン(Huỳnh Tấn)が登場するが、映画は時代が違うのでもちろん登場しない。⑦チン・ギア・ホイ反乱軍で、もう一人、映画で活躍するヴォ・トン(Võ Tòng)は、最初、広場で首吊りにされかかったり、アンに会いにきた父ハイ・タンをカッコよく助けたりするが、原作のヴォ・トン(Võ Tòng)は、同名でも、森に住んで動物を捕るだけのおとなしい男でしかない。⑧映画で、あと目立つのは、最初は小学校の教師で、逃亡後は劇団長となってアンを助けるバイ(Bảy)だが、原作には登場しない。⑨最後に、フランス軍の司令官デュリー(Durie)将軍の愛人で、映画の最後には、アンを殺そうとまでする悪女トゥ・マム(Tư Mắm)は、原作では、スパイの男性として登場し、その妻も同じくスパイ(4章)。アンが妻の極秘文書を見たことから、アンはチャック・バンから逃亡し、途中で熱を出し(6章)、哀れに思った蛇売りの老人が自分の養子にする。蛇捕りハイの一人息子コーが、アンと一緒にカヌーから降りた時、母から 「その子 誰なの?」と訊かれたコーは、「弟と僕だよ、母さん」と言う(7章)。7章では、そのあと、ハイがなぜ蛇捕りになったかについて、ベトナムの好色な地主に意地悪される悲しい物語が展開する。原作では、8章~10章までは、アンの森の中での体験、11章がフランス空軍3機による銃撃と爆撃による森の焼失、14章が、アンを苦しめたスパイへの復讐、15~18章が、行き場を失ったハイ一家4人の放浪、19章が南部レジスタンス本部でのフィッ・タンとの再会、20章がそれを受けて、アンが15歳で反乱軍の一員になるところで終わる。その時の、養父ハンの、本部での言葉が感動的だ。「親愛なる司令部の皆さん、そして同胞の皆さん、これがアンです。養子ではありますが、わしら夫婦は実の子以上に彼を愛しています。なぜそんなことを言うかというと、兄弟よりも友達の方が好きな人が多いと思うからです。兄弟には、同じ両親から生まれ、同じ血統を共有する人々特有の感情的な関係があります。しかし、わしらの血統が異なる場合、友達でいるほど楽しいことはありません」。この先、あらすじで映画に触れれば分かるように、映画は、原作のように淡々としたものではなく、ハリウッド的に、アクションと戦闘シーンに多くの時間を割いている。チン・ギア・ホイ反乱軍、もしくは、ティエン・ディア・ホイ反乱軍とフランス軍〔といっても、司令官以外はベトナム人〕との戦いが、①橋の上、②反乱軍の有名な一員ヴォ・トンの絞首刑、③うらぎり、④牢屋からの脱出、⑤最後の戦い、の5つも描かれている。もう一つ、日本人には状況も理由も分からないが、上記のテウが、中国の武侠映画を彷彿とさせる点、中国語なまりのベトナム語を話す点も批判の対象となっている。さらに言えば、主役の2人、アンとウト・ルク・ラムが中国服〔私は全く気付かなかった〕を着ていることも批判を浴びている。最後にもう一度、違う観点から指摘しよう。原作と比べ、同じ点は主人公の名前だけという映画、時代も違い、アンの体験も違い、登場人物の名前もほぼすべて違うのに、なぜ監督、脚本家、映画スタッフは、作家 Đoàn Giỏi(1920-89年)の小説(1957年)の題名をそのまま使ったのだろう? 冒頭に引用した「…に着想を得た作品」とは とても思えない。結果として、https: //phapluatxahoi.kinhtedo thi.vn/ の2023. 11. 9付けの記事に、「かつてはベトナムの映画館で最高の映画だったが、公開から3週間が経った現在、この映画は収入が惨めに落ち込んでいる」とまで書かれている。
以上は、ベトナム人から見た映画の評。次は、ベトナムのことなど何も知らない私の視点から見た映画の評。私は自動車のファンでも何でもないが、いつも自動車をチェックすることにしている。この映画には、あらすじの写真にも出て来るが、フランスの支配下にあっただけに、シトロエンの1930年代の乗用車が2台映っている。それだけで、どこかの評の「1920-30年代」という表現の、前半は消える。すなわち、何も考えなければ、この映画は1930年代を舞台にしている。次に、ベトナムの歴史サイト 「GRE」(https://gre21.com/vietnam/history)の「フランスの植民地支配(1858年~1945年)」を見ると、1883年のフエ条約で、ベトナム全土がフランスの保護下(植民地)に入ったと書かれている。そして、ベトナムは3分割され、この映画の舞台の南部は「コーチシナ」と呼ばれた。ベトナム南部では商品作物のプランテーション経営が進められ、メコンデルタに網の目のような運河を掘りめぐらした。また、行政文書上のベトナム語はローマ字で記すことが定められた〔17世紀にフランス人宣教師アレクサンドル・ド・ロードによって考案されたもの〕。のちにベトナム共産党の創立者となるホー・チ・ミン(1890~1969年)は、1930年に香港でベトナム共産党を創立する。こうした時代背景のもとで、映画を鑑賞することにする。映画の冒頭、アンと、捜査令状の出た母がバスに乗って田舎に逃げる際に、母の持っている懐中時計の蓋の裏に、一家3人の写真が貼ってある。それを見ると、たとえ、その写真を撮った直後から父が反乱軍を率いて出奔したとしても、アンは、当時の記憶+その写真で、父を見れば一目で分かる状態だと分かる。そして、バスに途中から乗り込んだ、盗みを専門にしている怪しげな青年。目ざといアンは、さっそく母の懐中時計を隠す。バスが大きな橋に差し掛かると、フランス軍の命令でバスや車両は一切通行禁止で、バスの乗客も付近の住民も歩道を歩いて渡らされる。そこに、反乱軍が攻撃を仕掛ける。その際、アンの母は、捜査令状しか出ていないのに、なぜか兵士によって意図的に射殺され、それを見た青年ラムは、アンを可哀想に思い、懐中時計と交換にアンを橋から投げ落とし、自らも川に飛び込んで、アンを助ける。そこから、2人の珍道中が始まる。最初は、アンも警戒するが、次第にラムを信頼するようになるストーリーには説得性がある。ラムがアンを仕込み、一緒に “有名人” になりきって盗み食いをする場面も面白い。フランス軍に捕まった反乱軍のヴォ・トンの首吊り場面で、仲間の反乱軍が助けに来る前に、ラムが飲ませたお酒で酔ったアンが無茶な行動に出て、それを救おうとラムがせっぱ詰まって取った行動が、ヴォ・トンの救助に貢献する場面もよくできている。その後、反乱軍が本格的に乱入し、アンが荷車に押されて気を失なうと、太極拳のできる反乱軍のテウに助けられ、小舟に乗せられる。そこでの、生活には、娘のサンと、蛇売りの息子のコーが加わり、都会出のアンが泥まみれになって鍛えられる場面が面白い。そこに、反乱軍とフランス軍の戦闘以降に別れ別れになっていたラムが、アンを遠くから見守る形で現れ、フランス人司令官の愛人のスパイが、反乱軍を一掃しようと企むのを察知し、アンと協力して2人とも女性に化けて指令本部に侵入してスパイを妨害するのも面白い。それに比べ、反乱軍の戦闘や、アンの父との面会の場面は、特撮の下手さと、面会の不自然さであまり面白くない。何といっても、最後までしぶとく生き延びる、アンとラムのコンビが映画の華だ。はっきり言って、面白くも感動もない66年前の古い原作に敬意を表するような文言をやめ、タイトルも変えていれば〔例えば、An ở Đất Rừng Phía Nam(南の森林地帯のアン)〕、非難合戦になるような映画にはならず、ベトナムの珍しい90年前の風景が見られて、それなりに観る価値のある映画だと評価されていたと思う。
主人公のアン役は、フィン・ハオ・ハン(Huỳnh Hạo Khang)。2010年生まれ。映画の撮影は、2022年12月~2023年3月なので、撮影時恐らく12歳。あるサイトによれば、最初はコー役でキャスティングされていたが、最後になって入れ替わったと書かれているが、映画を観れば当然の変更だと思われる。
あらすじ
アンが通う小学校のクラスの黒板の更に上には、「Tous pour un, un pour tous(一人はみんなのために、みんなは一人のために)」という、『三銃士』で三人の銃士とダルタニャンが叫ぶ有名な言葉が、大きく表示され、黒板には、狼(フランス)と子羊(ベトナム)の絵が描かれている。その前で、子羊の紙の仮面を被ったアンが、狼の仮面の少年と一対一で闘っていると、担任のバイが入って来る。慌てて争いをやめ 仮面を外したアンに向かって、ベイは 「荷物を持って一緒に来なさい」と言う(1枚目の写真、矢印はアン)。叱責のためにクラスから追い出されると勘違いしたアンは謝るが、ベイは 「急いで」としか言わない。一方、「Nhà May/Bính An/Tailleur」(仕立て屋 ビン・アン)とベトナム語とフランス語で書かれた真上のテラスで、アンの母が果物の捧げものを台に乗せて祈っていると、「探し出せ! 邪魔だ! どけ!」という荒っぽい言葉と共に、9名の兵士がこちらの方に向かって来る(2枚目の写真、矢印)。危険を察知した母は 鞄を1つだけ持つと 1階に走り降り、戸棚から貴重品の入った箱を取り出すと、懐中時計を手に持つ。その時、玄関のドアを強く叩く音がし、兵士が 「捜索令状がある! 開けろ!」と命令する。母が裏口から出て行くと、鍵を壊した兵士が玄関に現れる(3枚目の写真、矢印)。母は、途中で近くの家に入って行き、中にいた女性に仕立てた服を託し、客に渡すよう頼む。女性に 「アンはどうするの?」と訊かれると、母は 「一緒に連れて行くわ」と答える。母は、再び外に出ると市場のような場所を歩くうち、ベイに腕を掴まれる〔ベイは、予め、逮捕の危険が迫ったら、①アンを連れて行く、②市場で会おう、と指示していた?〕。そして、ベイが指で チン・ギア・ホイ〔Chính Nghĩa hội、“正義の社会”〕反乱軍の暗号を出すと、それを見た男が、人力車に向かって走る。一方、母がアンに駆け寄ると、アンは 「お母さん、何が起きてるの?」と尋ね、母に抱き着く(4枚目の写真)。
ベイは、用意した人力車に2人を乗せ、自分は、自転車に乗って並走する。アンは、さっそく、「お母さん、どこに行くの?」と尋ねる(1枚目の写真、矢印はアン、右に自転車のベイ)。それに母がどう答えたのかは分からない。次の大通りのシーンでは、人力車に乗った母に、ベイが説明する。「ボスの正体が暴かれてしまいました。あなたとアンは すぐに立ち去らないといけません。ここにいれば、危険にさらされます」(2枚目の写真、矢印はアン)。そして、2人に向かって、「指の暗号を覚えておいて」と言うと、4つのパターンを見せる。母は 「はい」と答える(3枚目の写真)。アンが、ベイに 「僕、もう学校には行けないのですか?」と訊くと、ベイは 「学校に行かずとも、人生から学べばいい」「必要な時は、強い子羊になれ。どんな狼にも決してひるむな」と教え、去って行く。そのあとすぐ、ベイは兵士に遭遇し、銃を向けられる。ここまでがイントロで、そのあと、オープニング・クレジットで、ベトナム南部の森林地帯を背景に、まず主演のアンの俳優の名が示される(4枚目の写真)。
2人を乗せたバスが、水路に沿って走っている(1枚目の写真)。アンは母の膝の上に頭を乗せ、母は、アンに歌いかける。そして、歌が 「でも一緒にはいられない…」まで来ると、アンは 「先生だね」と言う(2枚目の写真)。「状況が落ち着けば、また会えるわ」。「お父さんに会いに行くの?」。「ずっと会ってないから寂しいの?」。「お父さんも、寂しがってるかな?」。「あなたをとても愛しているから、あなたの将来のために遠く離れて働いてるの」。母はそう言うと、懐中時計の蓋の裏の写真を見せ(3枚目の写真)、2人が会ったらどうなるかを話し始める。母:「お父さんが仕事から帰って来た」。アン:「お父さんに向かって走る」。母:「アンは、お父さんの顔に触れる」。アン:「そしたら… アンは頬にキスする」(4枚目の写真)。2人は、こうして仲良く空想の世界を楽しむ。
バスが来るのを、木の上に座って待っていた青年が、「おーい!」と手を挙げ(1枚目の写真、矢印)、木から飛び降りてバスの前で “乗りたい” と手を振り、乗せてもらう。空いた席は、アンの斜め前。アンは青年の顔を見て(2枚目の写真)、うさん臭く感じたので、それまで母が手に持って開いていた懐中時計の蓋を閉じる(3枚目の写真、矢印)。その間、バスの車内では、最近の社会情勢について話が進んでいる。きっかけは、母の隣の男が 「昨夜、カウ・コー〔Cầu Kho、サイゴンの中心部の約2キロ東〕で事件があった。反政府勢力がフランス当局を攻撃した」と話し始めたこと。それに対し、青年に隣の空いた席を、“2人分払った” と言って譲らなかったデブが、「恥知らずな反逆者どもめ。すべてが台無しになった。もうどこにも行けなくなる」と、植民地の支配者を擁護するような破廉恥な発言を平気でする。別の女性が、非愛国者の発言は無視し、「タン・アン〔Tân An、サイゴンの約40キロ南西〕でヴォ・トンの処刑が発表されたわ」と言うと、別の男が、「大丈夫。ヴォ・トンは普通の人間じゃない。数日以内に逃げるさ」と言う。それに対し、またデブが反対意見を言うと、懲らしめてやろうと思った青年は、足元に置いてあった “うなぎの入った籠” をひっくり返す。出て来た大量のウナギを見て、都会生活しか知らないアンは 「蛇だ! 母さん、蛇がいる!」と怖がる。母は 「ウナギは危険じゃないわ。怖がらないで」と言うが、青年は 「任せて、捕まえてやる」と言い、ウナギが逃げ込んだアンの股に手を突っ込み、ズボンの上からペニスに触れて 「芋虫だ」と言って笑う。その時、バスが急停車し、その隙に、青年は、デブの服に手を突っ込んで何かを盗む。バスが急停車したのは、この先の橋の通行が禁止されていたためで、乗客は、全員バスから降ろされ(4枚目の写真)、橋の外側に付けられた歩道を歩いて渡るよう指示される。
デブは、バスから降りた後も、「これは、みんなヴォ・トンみたいな奴の…」と言い続けるので、青年はもっと盗んでやろうと、彼の後ろに付いて行く。一方、アンと母は、少し遅れて橋を渡っている(1枚目の写真、矢印は右から母とアンと青年)。橋の途中には、捕まった反乱軍の1人が兵士から暴行を受けている。その隣の反乱軍の男〔実は、反乱軍に成りすました卑怯者であることが後で分かる〕が、指で反乱軍の暗号を示すと、それを信じた隠れ反乱軍の男が、彼の手を縛った縄を切る刃物を渡してくれる。同じ頃、橋の向こう側からは、「俺たちは、普通のベトナム人だ!」と叫びながら、多くの男女が抗議のために橋を渡ってくる。スパイの男は、「バスの運転手はナム・ホア〔Nam Hòa〕反乱軍の一員だ!」と扇動し〔運転手は兵士に発砲し、射殺される〕、「俺たちは、普通のベトナム人だ!」の男女の後からやってきた、燃えた二輪の荷車を押して橋に突入した本当の反乱軍に対し(2枚目の写真)、橋を守っていたフランス軍のデュリー将軍は、兵士に一斉発砲を命じる(3枚目の写真、矢印は将軍)。母とアンは、混乱の中で離れてしまうが、兵士がなぜかアンに銃を向けたことに気付いた母は〔どうして、アンを識別できたのだろう?〕、必死になって駆け寄り、アンを抱き締めると、180度回転し、銃からアンを庇う。その瞬間、銃が発射され(4枚目の写真)、母の心臓に当たる。このベトナム人のフランス兵は、他にも、橋の歩道を逃げている罪なき同胞のベトナム人を平気で撃ち殺しているので、悪鬼フランスの無知な配下の典型と言ってもよい。
通路に倒れた母を見て、アンは、母に大変なことが起きたのを初めて知る。そして、「ママ! ママ!」と必死呼びかける。母は、家から持ち出して来たお金を その時、偶然すぐ近くまで逃げてきていた青年に渡し、「息子を助けて下さい」と息絶え絶えに頼む。青年は 「分かった、分かった、俺が助けるよ」と言う。アンは、「母さんも助けて」と言うが(1枚目の写真、矢印は母)、その時には、もう死んでいる。「ママ!」と何度も呼んで、母から離れようとしないアンを見て、青年は、アンを担ぎ上げると、手すりから川に投げ落とす(2・3枚目の写真、矢印)。そして、自分もすぐに飛び降り、泳げないのでパニックになっているアンを掴むと、岸に向かって泳ぎ、何とか砂地の上に引き揚げる(4枚目の写真)。
意識を取り戻したアンは、立ち上がると、橋に向かって 「ママ!」と叫ぶ。アンのシャツの端を 青年が逃げないように掴んでいるので、「放して! お母さんを助けに行かなくちゃ!」と叫ぶ。青年は 「どうやって助ける? 頭がおかしいんじゃないか?」と動かないように抱き留め、それでもアンは 「ママ! 放して!」と叫び続ける。青年が 「お母さんは死んでる」と言うと、叫ぶのをやめて絶望した顔になる(1枚目の写真)。次のシーンは、説明がないのでよく分からない。2人は川原にいて、アンの前には盛った土があり、その前でアンは、朽木を石で削って墓碑を作っている〔“盛った土” は母の墓だと思うが、どうやって遺体を運んだのだろう?〕。青年が 「お祖父さんに会いに行くんか? どこだ? 連れて行ってやる」と言うと、アンは 「母さんは、警官に嘘付いた〔そんなシーンはなかった〕。僕を連れて父さんを探しに行こうとしてたんだ」と話す。「お父さんでも お祖父さんでも どっちだっていい。どこにでも連れて行ってやる」(2枚目の写真、矢印は朽木の墓碑、その左が墓)。アンは、青年が手にしながら話している懐中時計を見て、「それ、母さんのだ」と、盗んだことを責める。「お母さんが、俺にくれたんだ。お前を助けるための お礼さ」。アンは 「母さんの形見だ! 返してよ!」と言って、奪い返そうとする。青年に突き飛ばされると、アンは 「あんた悪人だ! どっかに行っちまえ!」と怒鳴り、青年は去って行く。アンは墓碑に字を刻み、時間は流れて辺りが薄暗くなり、雨まで降り出す。アンの母と約束した青年は、近くで焚き火を焚いて待機していたが、心配になって墓にもたれかかるように寝ているアンに、「起きろ!」と声をかける(3枚目の写真)。しかし、どうやっても起きないので、救いを求め、雨の中を背負って走る(4枚目の写真)。
青年が 「助けて!」 と言いながら駆け込んだのは、お坊さんの家。玄関を入ってすぐの高床の上に横たえられたアンの意識を取り戻そうと、青年は頬を叩いたり、体を起こしたりする(1枚目の写真)。僧は、陶器の器に薄い粥のようなものを持って来る。中に何も入っていないので、青年が 「坊様、ただの白粥ですか?」と尋ねると(2枚目の写真、矢印)、僧は「A Di Đà Phật〔阿弥陀仏〕」とだけ答える。因みに、ベトナムは大乗仏教なので、祈りの言葉は「Nam Mô A Di Đà Phật〔南無阿弥陀仏〕」。発音も、日本語とほぼ同じ。翌日、青年は、焼いた鶏を1羽ごと持ってきてアンに見せる。「また盗んだんだ」。「どっちだっていいだろ。お前が食べんのなら、俺が全部いただくぞ」。そう言うと、ももを手でもぎ取り、自分の鼻に押し付け、「いい匂いだ」と言う。そして、ももをアンに差し出し、「食べろよ。買ったんだ。心配するな」と勧める(3枚目の写真、矢印)。食べる気になったアンは、場所が場所だけに、「ここで肉を食べてもいいの?」と訊く。次の場面は、家の外の池のほとり。アンが鶏肉を旨そうに食べているのを見たラムは、「たくさん食べてるな。言い忘れたんだが、肉は盗んだ金で買ったんだ」と言って、おどけた顔をする。アンは、「この詐欺師!」と言って、食べていた肉をラムに投げつける。ラムは、「そうでもしなかったら、お前には食べる物もなく、俺にこれを投げつける力もなかっただろ」と言うと、投げ付けられた肉を拾って食べる。そして、「何て名だ?」と訊く。「アン」(4枚目の写真)。「俺の名前は訊かんのか?」。「言いたいなら、言いなよ」。「ウト・ルク・ラム〔Út Lục Lâm〕。兄貴って呼べよ」。「似合わないね」。「厳しいな」。
それでも、アンはラムと一緒に行動することにする。アンは裸足で都会っ子だったので、野道を歩くと、いろいろな物が落ちていて痛くて歩けない。それを見たラムは、自分が履いていたベトナムの農家風の麻草鞋(わらじ)を、その場に残して裸足で歩いて行き、アンは 「ありがとう」と言って履く。ラムが 「お父さん、どこにいるんだ?」と訊くと、アンは、母から渡された紙をラムに見せる。そこには、「タン・ミー〔Tân Mỹ〕」とだけ書いてあった〔父のいる場所〕。そのすぐあと、アンは、麻草鞋(わらじ)が大き過ぎて歩けないと訴え、昨夜と同じように、ラムはアンを背負って竹林の中の道を歩くことに(1枚目の写真)。次のシーンでは、ラムが、木の棒に刺した “肉と骨だけにした野ネズミ” を焚き火で焼いたものをアンに差し出す。アンは、最初嫌がっていたが、お腹が空いていたので受け取って食べる。3番目のシーンで、2人は、水路を農作物を満載して運んでいた農夫に頼んで 木舟の先端に乗せてもらう。ラムは、アンズの実のついた枝を足の指で挟んでアンに渡す(2枚目の写真、矢印)。4番目のシーンは、ラムがヤシの木に登って実を2個取ってきて、自分の実に穴を開け、中のココナッツウォーターを飲むところ(3枚目の写真)。このあとで、アンが飲んでいると、ラムは、ヤシの葉の上に集めておいた5~6匹の蛆虫を1つ取り上げ、アンに渡そうとして即拒否され、自分で食べて見せる(4枚目の写真、矢印)〔このあと、本当に生のまま食べる〕。
2人は初めて人里まで行くと、その村では、闘鶏が行われていた。ラムは、観衆の1人にタン・ミーの場所を訊くと、ヴィン・ロン〔Vĩnh Long〕だと言うが、別の男はバック・リュー〔Bạc Liêu〕だと言い、それを聞いた中高年の女性は、ラック・ジャー〔Rạch Giá〕にもハー・ティン〔Hà Tiên〕にもあると言う〔このうち、正しいのはヴィン・ロンだけ。あとは、海岸沿い。しかも、タン・ミーはヴィン・ロンの周囲に4つもある。一番近くて南30キロ、次が西北西40キロ、あとは北西60キロと東70キロ。これは、現在の地図なので、当時は1ヶ所だけだったかも〕。旅費のために金を稼ぐいい機会だと思ったラムは、アンに 「俺が頭を掻いたら、叫べ」と命じ、“カモ” を探す(1枚目の写真、矢印は、ラムが頭を掻いているのに、無視しているアン)。ラムは、叫ぼうとしないアンに、手を振って合図するが、アンはそれも無視。そこで、ラムは、アンの麻草鞋(わらじ)〔ラムが子供用のを買ってやった?〕を思い切り踏み(2枚目の写真、矢印)、アンは痛くて叫ぶ。その叫び声で、誰かが注意散漫になったようには見えないが、ラムは1人の男のポケットから布財布(?)を盗む(3枚目の写真、矢印)。それを見たアンは、ラムを指差して 「泥棒!」と大声で叫ぶ(4枚目の写真)。ラムは、多くの村人に追われて必死に逃げ惑う〔幸い、捕まらなかった〕。
1人になったアンが、タン・ミーの場所を訊いていると、いきなり襟をつかまれる。そして、ラムに水路まで連れて行かれ、水の中に頭を突っ込まれる。窒息しそうになって水面まで出してもらえたアンは、「許して! 先生に 『悪い人を見たら叫びなさい』 と言われから」と謝る(1枚目の写真)。「先生は、感謝しろって言わなかったのか?」。「言ったよ」。「お前に食べさせてやったのは、先生か? 俺か?」。「ごめん、ごめん」。「これからは、俺がお前の先生だ。言われたことは、ちゃんと聞くんだ。分かったか?」。こう言うと、ラムはもう一度アンを水に入れようとしたので、アンは必死になって、「分かったよ、分かったよ」と完全完敗(2枚目の写真)。「それでいい。お父さんを見つけたいなら、勇気を持たないと」。その後、水辺に沿った道を歩きながら、ラムは 「お父さんが家を出てった時、お前いくつだった?」と訊く。「5歳だよ」。「顔は覚えてるか」。「ぼんやり」(3枚目の写真)〔懐中時計の写真の顔もすごく小さい〕。そのあとの会話で、ラムの両親は他界したことが分かる。ラムは、話題を変えようと、アンが先生に何を教わったか訊く。「いっぱい教えてくれたよ。西洋の言葉も」。「何か言ってみろ」。「何がいい?」(4枚目の写真)。「愛してる〔Anh yêu em〕」。「ジュ・テーム〔Je t'aime〕」。「ル・テーム〔Gờ tem〕」。「違うよ、ジュ・テーム」。
次のシーンでは、ドーム状の屋根を持つ円筒形の煉瓦納屋(?)の、ドームと円筒の境に2人が座っている(1枚目の写真、矢印)。アンは、先ほど中断したラムの両親の話を蒸し返す。「両親がいなくて寂しくないの?」。「俺は、お前の半分くらいの年だったから、何も分かんなかったけど、腹が減ると悲しいよな」と言うと、立ち上がって、アンに向かってオナラをする。そして、夜になると、2人は、もう使われなくなって何もない納屋の中で焚き火を焚き、藁の上で横になって眠ろうとする。しかし、脚が絡み合って眠れないアンは、起き上がると、「盗み方、教えてよ」と言う(2枚目の写真)。それを聞いたラムは、「お前が、どのくらい勇敢か見てみよう」と言って、眠る。翌朝になって目が覚めたアンは、昨日のお返しとばかりに、ラムの顔に向かってオラナをし、納屋から逃げ出す。ラムは 「このガキ、勇敢だな!」と言って追いかける。「教えてくれたじゃない!」。「捕まえたら、思い知らせてやる!」。次のシーンでは、2人は、水路の上に設けられた2基のトイレの中にそれぞれ座っている〔四角い枠の中は、2枚の木の板が、隙間を開けて並べてあるだけの簡単な構造。中には何もないので、入口の手前の岸辺に雑然と置いてある紙を何枚か拾ってから中に入るのが昔の一般的な水上トイレ〕。アンは 「こんなのイヤだ!」と言うが、ラムは 「何回か魚を食べたから、今度は、魚に餌をやらんとな」と言う(3枚目の写真)。そして、ハミングさせたり、深呼吸させたり、リキませたりして、アンに排便させ、アンは笑顔になる(4枚目の写真)。
この映画で最もよくできたコメディの部分。ラムは 盗んだ真っ白な背広を着てレストランに現れる。お付きの少年はアン。それを見て駆けつけた店主は 「フックさんですね?」と声をかける〔Lê Công Phướcは実在の人物で、“白王子” の愛称で有名〕。ラムは 「君は誰なんだ? どうして私のことを知っている?」と偉そうに訊く。「良いニュースはすぐに広まります。この町では誰だってあなたの特徴的な白い背広に気付きます」(1枚目の写真)。「西洋から帰って来たばかりなのに、気付かれてしまったか」。「さっそくご馳走を用意致します」。そして、テーブルの上には、レストランの名物料理が並べられる。ラムとアンはおいしい料理を堪能する。アンが 「ここの牛肉は西洋牛肉と同じくらい柔らかいですか?」とラムに訊くと、ラムは 「私は、西洋の牛肉に慣れているので、この牛肉には少し違和感がある」と答える。それを聞いた店主は、「我が国の牛は耕作も行いますので、肉が少し硬いです」と弁解したあと、「この料理は西洋では何と呼ばれるのですか?」と訊く。さっそく、アンが 「Boeuf sauce au vin〔牛肉のワインソース添え〕」と、フランス語で答え(2枚目の写真)、店主は 「おお、召使いでもフランス語が話せるのですか」とびっくりする。ラムは 「フランス語が話せないような召使いは雇わない」と笑顔で話す。すると、アンがラムに向かって、笑顔で 「悪者、泥棒、無学」とフランス語で言うが、ラムも店主もフランス語は分からないので、褒められたと思ったラムの笑顔が面白い。すると、店の前の道路に真っ白なシトロエンが着き、運転席には、本物の “白王子” が乗っている(3枚目の写真)。それを見た店主の仕草も実に愉快(4枚目の写真)。
車を降りた白王子は、店に偽者がいることにすぐに気付く。そして、偽者が着ているのが、自分から盗んだ服なので、捕まえるよう2人の召使に命じる。ラムとアンは逃げ出し、2人の召使い、白王子、店主の4人が追いかける。水路上のトイレまで行ったところで、白王子はそれ以上追いかけるのを諦める(1枚目の写真、矢印は、ラムとアンが使った、水中で息をするための “茎が中空の水生植物”)。4人がいなくなった頃、まず、ラムが水中から徐々に出て、様子を窺う(2枚目の写真)。誰もいないことを確認すると、アンも水中から出て来て、「水を飲み過ぎて、食べた物 吐いちゃった」と言う。それを聞いたラムは、そこが、トイレのすぐ近くだったので、「水は飲んでもいいが、(汚物を食べた)魚を食べるのは怖いな」と言ったので、アンは真っ青になる(3枚目の写真)。その後、2人は場所を移し、水路沿いの木に、濡れた服を掛けて乾かす。その前を、数百羽のガチョウ(?)が泳いで行く(4枚目の写真)。そのうち、アンは、「母さんがいなくて寂しい。父さんは、僕を探してるのかな?」と言い出し、それを聞いたラムが、懐中時計を取り出して、「お父さんを探すために、バス代と交換しようか」と言う。アンは、すぐに 「それは売っちゃダメ。母さんの形見だ。父さんに会えたら、父さんに買ってもらう」と反対する。それが分かっているので、ラムは、逆手にとって、「じゃあ、金稼ぎを手伝えよ」と要求する。
2人はかなり繁華な町を歩いている。その日はちょうど旧歴の5月5日。ベトナムでは端午節〔Tết Đoan Ngọ、殺虫の日〕の日なので、人出が多いのはそのため。ラムは、背広を売り、バスの切符2枚と僅かな食べ物を買うお金を得たが、その食べ物代で、端午節ならではの餅米酒〔cơm rượu〕を2つ購入し、片方をアンに渡す。ヤシの実で作ったお椀に入った餅米酒に顔を近づけたアンは、「何て臭いんだ!」と文句を言うが、ラムは 「端午節の名物だ」と言う。「お酒なんか飲めないよ」。「ご飯と、僅かなお酒だ」。「やめとく」。「食べて。お腹の中の虫を殺してくれる」〔殺虫の日〕。一口すくって食べたアンは、「おいしい」と笑顔になる。ラムは、自分の分も渡しながら 「お酒は飲まないんじゃなかったのか?」と冷やかすと、2人分を手にしたアンは 「これは、お米だよ」と 嬉しそうに言う(1枚目の写真)。ラムは切符を買いに行き、アンは一人で食べ続ける。すると、3人の僧侶が目の前を通って行くが、先頭を行く僧侶が指で反乱軍の暗号を出し、それを見た一人の男が、僧侶の持つ托鉢に紙切れを入れて行く。食べ終わって、少し酔っ払ったアンは、大勢の人が集まって拍手しているのに興味を持ち、近寄って見てみる。そこでは、後でアンの世話をしてくれる医師兼中国武道家のテウが、薬を渡したり、体の痛みを武術的な方法で治している(2枚目の写真、右の矢印がアン、左の矢印がテウ)。すると、木製の仮設台の2階から山椒の販売セールスの大きな声が聞こえたので、そちらを見上げると、そこでも反乱軍の暗号が出されている。それを見たアンは、昔、教師のバイが教えてくれた暗号と同じなので、自分の指でもやってみる(3枚目の写真)。そこに、ラムが戻って来て 「何してる?」と訊いたので、アンは 「反乱軍の暗号を出してる人が、何人かいる」と答える(4枚目の写真)。
すると、急に兵士が列を作って群集を押しのけ、1台の車が入って来て、フランス軍の司令官デュリー将軍とその妻が降りる。銅鑼が叩かれ、大勢の兵士が広場に突入し(1枚目の写真)、広場の警護に就く。広場の前に着いたトラックの荷台からは、頭に袋を被せられた囚人が降ろされる。一方、先のデュリーとその妻は、広場の中央に並べられた長細いテーブルの中央に座る。そして、囚人は、テーブルの奥に設(しつら)えられた首吊り台の上に連れて行かれる(2枚目の写真、右の矢印が囚人、左の矢印が将軍の妻)。囚人の横に立った役人は、群集に向かって、フランス保護領の当局を代表して、政府職員を殺害した反乱軍のヴォ・トンの死刑を宣告する〔この日を選んだのは、今日が “殺虫の日” なので、他のすべての害虫(反乱軍)を壊滅するため〕。一方のアンとラム。酔っ払ったアンが 「ここには、お金持ちがいっぱいいるね」と言い出す。ラムは 「ここじゃ、歓迎されん。行くぞ」と言うが、アンは 「何か盗もうよ」と言うと、勝手に群集の中に入って行く。ラムは心配になって 後を追いかける。アンは、兵士から手榴弾を盗み、事もあろうに、将軍のテーブル〔クロスで覆われている〕の中に潜り込む。ラムも仕方なく中に入って行き、お尻を叩いて振り向かせると、「どこに行くんだ?」と訊く。「あのね、すごく素敵な物、持ってるんだ」と言うと、手榴弾を見せる。それを受け取ったラムは、「お前、バカか? なんでこんな物、盗んだんだ?」と言う。「重い物ほどいいって教えたでしょ」(3枚目の写真、矢印)。「このピン抜くと爆発するんだぞ!」。テーブルの下で騒いでいるのに気付いた将軍の妻が、クロスをめくり、2人は見つかる。助かる道は一つしかないので、ラムはテーブルの下から飛び出ると、将軍の妻を後ろから抱き、顔の前に手榴弾を出して爆破させるぞと脅す(4枚目の写真、中央の矢印、左の矢印は酔っ払って笑顔のアン)。
膠着状態は、ベトナム特有の獅子舞をしていた男〔反乱軍〕が、“極彩色の獅子の被り物の口の中に入れておいた飾り付きの球状爆弾” を地面に落とし、足でトラックの下に蹴り、それが爆発したことで破れる(1枚目の写真)。それと同時に、木製の仮設台の2階にいた反乱軍の2人が銃で兵士を撃って、地面に飛び降りる。広場の一角の建物の屋上からは反乱軍の4人が火の点いた藁の塊を投げ、混乱に乗じてロープを垂らして、それまで兵士がいた場所に攻め入る(2枚目の写真)。ラムとアンは予想外の展開に慌て、アンが 「どうしよう?」と訊くと、ラムは 「逃げろ!」と言うと、司令官の妻を司令官に向けて突き飛ばして逃げ出す〔ここまでが、ラムの1回目の登場。その間約30分、原作に全く登場しない人物は、映画を楽しくすることに大きく貢献した〕。司令官は、兵士達にヴォ・トンを殺せと命令するが、それを聞いた中国武道家のテウが、ナイフを首吊り縄に投げて、縄を切断。ヴォ・トンは台の中に落ち、兵士が銃で撃てなくなる。アンは、ラムのように、さっと逃げることができず、どうしたらいいか分からない(3枚目の写真)。ヴォ・トンは、絞首台の下の台から飛び出すと、持ち前の “猛獣のように獰猛” な戦い方で、次々と兵士を倒していく(4枚目の写真、矢印は首に残ったままの首吊り縄)。
アンは、子供なので、兵士と反乱軍のどちらからも無視されるので、物陰に隠れて戦闘を見ている。すると、おぼろげな記憶の中で、父じゃないかと思える男が、銃を撃ちまくっている(1枚目の写真、矢印)。そこで、隠れておらずに、確かめようと近づいて行く。すると、“父” の背後にいた男が拳銃で “父” を狙っているのを見つけ、「気をつけて!」と叫ぶ(2枚目の写真)。それを耳にした “父” は(3枚目の写真、矢印は男)、一瞬振り返り、すぐに身を屈めて銃撃を避ける(4枚目の写真、上の矢印の男は、アンの母が殺された時、橋の上で反乱軍になりすましていた悪漢、下の矢印は “父”)。
ヴォ・トンの逃走が確認できると、反乱軍の1人が信号弾を撃ち上げ、反乱軍はすぐに引き上げる。しかし、市場にいた住民は混乱状態にあり、そのうちの1台の馬車に跳ねられてアンは気を失って地面に倒れる(1枚目の写真)。アンが意識を取り戻すと、そこは舟の上。背を向けた男が、アンの焦点の会わない目に入ったので 「父さん?」と声をかけると、横にいた少女が 「父ちゃん、目覚めたよ」と知らせる。少女の父は振り向き、体を起こしたアンと向き合う(2枚目の写真)。アンは、その男(テウ)が、市場で医師の腕を披露して喝采を浴びていたことを思い出し、「おじさん、あなたは…」と言い始めると、テウは それを遮り、「君たち2人は、何かの組織の一員か?」と訊く。「僕たち、2人だけです」。「処刑場に、なぜ手榴弾を持って来た?」。「僕が、盗んじゃったから」。「君は 泥棒か?」。「餅米酒で酔っ払っちゃって、わけが分からなくなったんです」(3枚目の写真)。そう言うと、「あなたは、いい人ですね。ヴォ・トンを助けたのに、黙ってた」と言うと、テウは、「ヴォ・トンを助けたことはない。今日のことは忘れろ」と強い調子でいい、アンも認めざるを得ない。少女は 「さっき、『父さん』って呼んだでしょ。父さんいないの?」と訊く。「うん、探してるんだ」。その時、アンのお腹が「グー」と鳴ったので、次のシーンでは、動き出した舟の中で、食べさせてもらっている(4枚目の写真)。
その頃、デュリー司令官は、ヴォ・トンの死刑を宣告した男と、反乱軍になりすましたスパイを呼び出し、「捕まえたヴォ・トン〔チン・ギア・ホイの有力メンバー〕には逃げられ、助けに来たハイ・タン〔チン・ギア・ホイのリーダー〕も逃(のが)したな!!」(1枚目の写真、矢印はスパイ)「何たる不始末だ!! 何が何でも捕まえろ!! 出て行け!!」と怒鳴り、2人の間の床に向かって銃を撃つ。テウは、漕いできた舟を 岸の木の杭にロープで縛り付けると、娘のサンに市場に行かせ、アンと2人きりになる。テウは 「君のお父さんを知っているかもしれない。試練に耐えられるなら、私たちと一緒に来なさい。君のお父さんについて調べるのを手伝ってあげる」と申し出る。しかし、ラムと楽しい人生を送って来たアンは、「でも、僕にはウト〔ラム〕が…」と、あまり乗り気ではない。テウが 「自分の世話もできん男に、君のお父さんが探せるのか?」と言うと(2枚目の写真)、「でも、僕にはウトしかいないんです」と、孤独でいることの辛さを訴える。「分かった。じゃあ彼の行方も探そう」。この言葉で、満面の笑顔になったアンは、「ありがとう、おじさん。一緒に行かせてください。僕はどんな試練にも耐えられます」と言う。テウが試練と言ったのは、アンを反乱軍の一員にしたこと。その日の夜、アンは、舟の先端にテウと並び、3本の線香を持ち、「これから私はナム・ホア・ドアン、チン・ギア・ホイの一員です」(4枚目の写真)「私は、天を父とし、地を母とし、正義を指針とし、人道と信頼を基盤とします。欺瞞に満ちた生活を送り、師を欺き、友を裏切れば、天と地に滅ぼされ、悲惨な死を遂げます」と入団の誓いを唱える。
翌日から、団員としての特訓が始まる。テウが中国武術の達人なので、アンも武術の初歩から教えられる(1枚目の写真、矢印はアン)〔なかなか上達しない〕。次のシーンは、ナイフ投げの訓練(2枚目の写真)〔こちらの方は、早くも2投目で中央の円の中に刺さる〕。恐らく別の日、3人が舟の中にいると、そこにナムという老人が、舟を漕いでやって来て、「肩が痛い」と言う。ナムは、テウの舟に乗り込むと、向かい合って座る。そして、まず、テウが両手で拳を作って 「首領〔Bang chủ〕」と言い、その後で、ナムが黙って拳を出すので、ナムはナム・ホア・ドアンのリーダーということになる〔チン・ギア・ホイより小規模〕。ナムから、「外にいる子は誰だ?」と訊かれたテウは、「おそらくハイ・タンの息子だと思います」と答える〔なぜ分かったのだろう?〕(3枚目の写真、矢印はナム)。その頃、大事なお客が来たので追い出されたアンとサンは、2人だけで細い桟橋の上にいる。アンが 「いつも、あっちこっちに行って暮らすのって寂しくない?」と訊くと、サンが 「ちょっと辛かったけど、今はあなたがいるから寂しくないわ」と答えたので、アンはうつむいて照れくさそうに微笑む。「なぜ、そんなに顔が赤いの? また酔ってるの?」〔アンの初恋〕。そこに、一人の女性がやって来て 「サン」と呼びかける。サンは嬉しそうに 「トゥおばさん!」と 嬉しそうに応える。桟橋まで降りて来たトゥ・マムは、「それ、誰?」とサンに訊く。「アンよ」。トゥ・マムは、アンに 「新しい弟子?」と訊く。「はい、おばさん」(4枚目の写真)。サンは、「父さんは患者を診てます」と言うが、会談が終わったナムが出て行くと、トゥ・マムはお土産に持って来た長さ60センチはありそうな大きな魚をテウに渡す〔2人の関係は、この時点では分からない〕。
次のシーンは、圧巻の運河沿いの水上マーケット。収穫した野菜や果物、捕獲した魚などを満載した舟が運河を埋め尽くしている(1枚目の写真)〔50隻以上の木造舟が映画のために造られた〕。矢印はアン、テウは舟の最後尾で漕いでいるので、橋が邪魔して映らない。それを、別の角度から撮ったのが2枚目の写真〔アンとサンは恋人同士のように仲がいい〕。ついでに、この場面の全景も映るので、折角なので3枚目に示す〔サイゴンの西約180キロ、カンボジアの国境から僅か10キロの地点/CGではない〕。舟から降りたアンは、お店の人に 「最近誰か泥棒〔ラムのこと〕に遭いましたか?」と訊く(4枚目の写真)。そのあと、カメラは、どこで稼いだか分からないが、立派なチャコールの背広に、同色の帽子まで被ったラムが、同じ市場の中を歩いている姿を映す。
その先が少し分かりにくい。トゥ・マムは舟には乗っていなかった。そして、サンに言わせると、“彼女が よくここにくる市場” まで行くと、そこでまたトゥ・マムと出会う。さっき、トゥ・マムを舟まで送って来た馬車は帰ってしまったので、トゥ・マムはどうやってこの市場まで来たのだろう? テウ、サン、アンの3人とトゥ・マムは市場で出逢い、市場で唯一の大食堂に行く。そこでは、バ・フィーという陽気な男が、ヴォ・トンを首吊りから救ったのは自分で、鎌を投げてロープを切ったからだと嘘をついて、その場を盛り上げている。そして、さらに 「わしが口笛を吹くと、水牛の群れが市場に突入し、警備員を邪魔したからヴォ・トンは逃げることができた」と、話はエスカレートする。事件を見ていない客は、その話に感心するが〔ナイフを投げてロープを切ったテウは黙っている〕、それを妨害したのはアン。「水牛なんかいなかったよ」と、バ・フィーを批判する(1枚目の写真)。テウは 「アン、失礼だぞ」と注意し、アンは弟子なので 「はい」と言うが、面目を潰されたバ・フィーは、アンに 「これでも食べて黙ってろ」と、テーブルに置いてあった何かをアンに渡す(2枚目の写真、矢印)。すると、別の男が 「どんな風に鎌を投げたか見せてくれ」と言ったので、バ・フィーは適当に誤魔化す。そこに、店主の太った女性トゥ・ウーがやって来て、テウにもらった薬がよく効いたとお礼を言う。一方、ラムは古物商のところに行き、懐中時計を見せて、いくらで買うか訊く(3枚目の写真、矢印)。「60が限界です」。「もう一度、よく見て」。「50」。「下げるなんて問題外だ」。そう言うと、ラムは、アン一家の写真を剥がしにかかる。店主は、買い取り価格を20まで下げる。ラムは、売るのをあきらめ、「なあ、最近、若くて背が高くてちょっと間抜けな子、見なかったかい?」と訊くと、「橋の上に一杯いますよ」と言われる(4枚目の写真)。
そして、異質な場面。真っ暗な森の中にある沼に、反乱軍の舟が集まっている。そこに、やって来たのが、ナム・ホア・ドアンのリーダーのナム。すると、反乱軍の連絡役となっている男サウ〔Sáu〕が、フランス軍に捕まったメンバーの救出への今後の協力について話し合うのが今夜の目的だと告げた後で、ヴォ・トンの救出に協力したテウに感謝し〔テウも出席している〕、来週、反乱軍の囚人の移送が行われるとの情報があると話す。その頃、舟に残されたサンは中国柳南〔Liễu Nam〕劇団〔柳州市の市轄区。柳州市は1928年に広西省の省都になり、1930年代は蒋介石戦争で省都でなくなる〕のを代表する『忠誠の血のしずく〔Giọt Máu Chung Tình〕』という曲を歌っている。歌い終わると、サンは満月を見ながら、母が亡くなった時の悲しみについて語る。それを聞いたアンは、「誰にも、君を泣かせはしない」と言った後で、「Je t'aime」と言う。「de tem」って何?」。「フランス語。僕たち、友だちにならなくちゃ」って意味〔誤魔化す〕。「分かったわ、『de tem』、アン」。そのままだと、「Je t'aime, An〔愛してるわ、アン〕」になるので、アンは幸せそうな笑顔になる(1枚目の写真)。ここで、もう一度、森の中に戻る(2枚目の写真)。有力メンバーのトリ〔Trí〕が、「ヴォ・トンの件をみると、それ〔囚人の移送〕は、さらなる大きな罠の可能性がある」と発言する。すると、最後に参加したナムは、それに対し、ヴォ・トンの時、ナム・ホア・ドアンはすぐに協力した、来週、チン・ギア・ホイは放置するのか、と批判する。司会のサウは、「ナムさん、落ち着いて。もっと大きな視野で見てみましょう」と言うが、断トツに年寄りのナムは、「主義主張の違う人間が一緒に計画を立てることはできん。あんたがわしらと一緒にいなくても構わん」と言い出す。「放置するとは言ってません…」。「参加すれば解決策は見つかる。巣に隠れる亀みたいな言い逃れは止めてくれ。ハイ・タンさんの息子アンはまだ10歳くらいなのに、あんたらより勇敢だ」。「子供は無垢です。巻き込まないでください」。「アンは道徳心を持った子で、血の誓いで、ナム・ホア・ドアンの一員として生き、チン・ギア・ホイの一員として死ぬと誓った。他に議論することがなければ、わしは出て行く」。そう言うと、ナムはボートを漕いで、会合から去って行く(3枚目の写真、矢印)。サウは、「まさか、そんな子がテウさんと一緒にいるとは思わなかった」と驚く。トリは、サウに 「ハイ・タンさんもじき合流します。父と息子の架け橋になってくれませんか」と頼む。場面は再度アンとサンに戻り、サンは月に向かって 「父さん忙しいから、私、いつも一人ぼっちでした。でも、今はアンが一緒にいてくれます。それに、最近、トゥおばさんがよく遊びに来てくれます」と話しかける(4枚目の写真)。
先の会合で、「来週、反乱軍の囚人の移送が行われる」という情報に対し、主流派のギア・ホア・ドアン反乱軍は、「さらなる大きな罠の可能性がある」と捉えて対応しないことにしたが、ナムをトップとするナム・ホア・ドアンは、囚人の救助を行うと言って決別した。テウは、ナム・ホア・ドアンのNo.2なので参加せざるをえない。そこで、アンを呼び、「私は出かけねばならん。その間、バ〔Ba〕おじさんに従いなさい」と言う。「はい」。すると、テウはいきなり右手、左手、左手の順にアンに攻撃を仕掛けるが、アンは見事に攻撃を受け止め、「よくできた」と褒められ、「ありがとうございます、お師匠〔sư phụ〕と答える。テウは 「私がいない間、何をするにも注意を払わねばならん。一つの小さな間違いが、多くの人に影響を与えかねん。分かるな?」と注意する。「はい。お師匠、安心して行って下さい」(1枚目の写真)。そのあとの場面で、アンは 蛇捕りの息子コーに蛇で脅される(2枚目の写真)。アンは、コーとサンに水牛に乗せられる(3枚目の写真、矢印)、そのまま泥の中に転落する。最後にアンは、タマヌとタマリンドの木で出来た “泥の上を滑る台” を使いこなせず、顔から泥に突っ込む(4枚目の写真)。
泥の中でトビハゼとカニを捕まえた3人は、水上マーケットに行き、コーが、食堂の店主のトゥ・ウーに声をかける(1枚目の写真、矢印はアン)。トゥ・ウーは、喜んで全部買ってくれる。次に、サンが捕ったハゼを渡し、トゥ・ウーはサンが岸に上がれるように手を貸してくれる。最後に、アンが舟を降りてきて、「初めてだったから 1匹しか捕れなかった」と言うと、「初めてにしては十分よ」と言って、それも買ってくれる。すると、そこにトゥ・マムが現われ、「お父さんはどこ? なぜ、3人だけでいるの?」とサンに訊く。「お父さん、数日、出かけたの」。「どこに? 誰と?」(2枚目の写真)。その時の顔が、尋常じゃなかったので、軽薄なサンが 「お父さんは…」と話し始めると、怪しいと睨んだアンは 「お師匠は、薬を買いに出かけました、トゥさん」と、嘘で事実を庇う。それを信じたトゥ・マムは、3人を食事に誘う。一方、ラムは 食材を頂こうと食堂に入って行くと、トゥ・ウーが戻ってきたので、“ただ食い” から客に変身し、運河に面したテーブルに座る。すると、アンが、美人の女性と一緒に舟に乗っているのを見て(3枚目の写真、矢印はアン)、トゥ・ウーに、「3人も子供がいるのに、美しい人だな」と言うと、トゥ・ウーは、「違うんですよ。3人の子供たちは、1人が蛇捕りの息子、1人は薬を売ってるテウさんの娘、そしてあの美少年はテウさんの新しい弟子なんです」と教える。ラムが 「あの子、アンだろ?」と言うと(4枚目の写真)。「ええ、そうですよ。なぜご存じなの? あの美しい女の人はトゥ・マムさんで、テウさんが好きなの。子供たちのためにも、私は応援してます」と話す。一方、反対側から、司令官デュリー将軍とその妻が乗った舟がやって来る。トゥ・ウーは、将軍の妻のことを、「カラスみたい」と蔑む。
柳南劇団が、水上マーケットのある町にやって来る(1枚目の写真、右の矢印は劇団長)。サンは、アンとコーの肩の上に乗って(左の矢印はアン)、劇団と一緒に歌っている。劇を観ていて、出演者の声を聴いたアンは、団長の声がバイ先生に似ていたので、劇が終わった後、こっそり舞台裏を覗きに行く(2枚目の写真)。団長は、奥の鏡の前に座って化粧を落としていて、覗いただけでは確認できなかったので、アンは近くまで寄って行き、「ベイ先生?」と声をかける。その言葉で振り向いたベイは 「アン、なぜここにいる?」と訊き(3枚目の写真)、さらに 「お母さんは、お父さんに会ってないのか?」と疑問を投げかける〔とっくに会ったと思っている〕。アンは、「母さんは、撃たれちゃった。僕、今は、師匠やサンと一緒に舟で暮らしてます」と、涙を浮かべて答える(4枚目の写真)。そして、逆に 「なぜ、この一座にいるんですか?」と尋ねる。「私は君のお父さんと同じ愛国者だよ。私にとって、歌うことは多くの人の心と魂に触れる方法なんだ」。そう説明すると、「私と一緒に来てくれれば、お父さんを見つけるよ」と言う。アンは、「師匠が戻るまで待って下さい。でも、安心して。師匠も愛国者で、僕の父さんを探してくれてます」と、テウとの約束を守る。ベイは、「私も一緒に探してあげる。何か分かったら、すぐ知らせるよ」と言ってくれる。
ナム・ホア・ドアンは、橋の上で反乱軍の囚人の移送を待ち構え、敵が近づくと、一気に攻勢に出る(1枚目の写真)。しかし、囚人が入っていると思ったトラックの荷台のカバーを外すと、そこにいたのは、薄ら笑いを浮かべたスパイだった〔映画の冒頭で、囚人を装っていて逆襲に出たり、ヴォ・トンの時は不始末で司令官から叱咤された男〕。スパイは、銃を取り出すと(2枚目の写真)、カバーを開けた戦闘員を射殺する。そこから、スパイによる攻撃が始まり、テウは肩を撃たれ、顔も剥き出しになるが、逆に、スパイを武術で拘束する。そこに、デュリー将軍自ら大勢の兵士を連れて現われ、ナム・ホア・ドアンの戦闘員をほぼ皆殺しにし(3枚目の写真)、首領のナムも射殺する。テウが自分の楯にしていたスパイすら、デュリーは躊躇も容赦もせず射殺する(4枚目の写真、右の矢印はデュリーの拳銃、左の矢印はその拳銃で撃たれたスパイ)。デュリーは、テウに向かって、「お前は卑しい虫だが、奴〔スパイ〕もそうだ」と言う〔フランス人にとって、敵も味方も、ベトナム人はみんな卑しい虫〕〔パリ・オリンピックの報道で 「フランスは多様性に寛容な国だが、一部のフランス人はアジア人を露骨に差別している」という記述があった〕。テウは、利用価値があるので、囚人として連行される。
父がなかなか帰ってこないので、サンはアンやコーと一緒に劇団に行き、サンがお姫さま、アンが太鼓叩き、コーがサンの座る台となって遊んでいると、1人の男が入って来てバイに紙を渡す。紙を見たバイはアンを呼び、「中秋節〔旧暦の8月15日〕に劇場まで来なさい。お父さんに会えるよ」と言って、先ほど受け取った紙を渡す。アンが1人になってから渡された紙を見ると、そこには、「お父さんが仕事から帰って来る。アンが走り寄る。まず、アンは首を抱きしめる。次に、アンは頬にキスする。アンの手はひげを引っ張りながら 『僕の飴はどこ?』と尋ねる」と書かれている(1枚目の写真)〔①反乱軍のリーダーが書いたとは思えない甘ったるい内容で、非常に不自然、②どこにも中秋節に劇場でと 書かれていない〕。一方、森の中のチン・ギア・ホイの隠れ家では、ハイ・タンに対し、左側に座ったトリから批判的な意見が寄せられる。「こんな時期に、なぜあなたがアンに手紙を渡したのか分かりません。危険過ぎます」。ここで、ハイ・タンの手元にある紙が映される(3枚目の写真)。そこには、「魂の伴侶と一緒なら、秋の月はもっと輝く/時はめぐり、燃える情熱はじっと待っている」と書かれている〔このメモは、先のアンへの手紙よりももっと理解を越えている。①そもそも、誰が誰に送ったのか? ②何を言いたいのか全く分からない。③トリの批判とどう関係するのか?〕〔因みに、この映画の字幕翻訳にあたっては、常に、ベトナム語、タガログ語(フィリピン)、インドネシア語、英語の4ヶ国語の字幕を併用した。アジア系言語のGoogle翻訳のレベルが低く、翻訳の結果が常にバラバラなので、もっともらしい内容のものを4つの中から選択する手法を採用したので、手間と時間がかかった〕 。トリの発言は続く。「内部にスパイがいるとの報告があります。ナム・ホア・ドアンが壊滅し、テウが逮捕されたのも、スパイのせいです」。それを聞いたハイ・タンは 「だから、アンとテウの娘に会おうと思ったんだ」と言う(4枚目の写真)。「テウが裏切るかもしれないし、他にも罠があるかも。私たちの組織を最優先に考えて下さい」。「テウが裏切ることはないと信じている。母を亡くしたアンに、父から見捨てられたと思って欲しくない。私は、これまで全力で責任を果たしてきたが、父としての責任は一度も果たさなかった。今、それをしなかったら、もう機会はないだろう。理解して欲しい」。「捕まったら、最後ですよ」。
原作には出て来ないウト・ルク・ラムの二度目の大活躍がここから始まる。ラムは、フランス軍兵士の服を着て、デュリー司令官の建物に窓から侵入し、テーブルの上に置いてあったコニャックを少し拝借する(1枚目の写真)。すると、デュリーの声が聞こえてくる。誰かに 「愛しい女(ひと)〔Bébé〕」と何度も呼び、「いい知らせがあるよ」と言う。声が近づいてきたので、ラムは急いでベッドの下に隠れる。すると、「全員捕まえました?」という女性の声が聞こえる。「奴らの一団を殺して、君のテウを捕えた」。とい言うと、デュリーは調書を女性に渡し、「それはアンのだ」と言う。女性は、「ご褒美下さいね。毎日あの野蛮人の前で可愛く振る舞うのが、どれだけ嫌だったかご存じ?」と言う。ラムはベッドの下から、2人の男女を見てみる(2枚目の写真)。すると、デュリーの愛人は、先日ラムが食堂で、アンと一緒にいるのを見た女、店主が 「あの美しい女の人はトゥ・マムさんで、テウさんが好きなの」と言っていた女だった。これで、ラムは、誰が “スパイ” かを いち早く知ることになる。その直後、デュリーはトゥ・マムを “ラムが隠れている” ベッドに運んで行ってじゃれ合うが、カメラは、それまで2人がいたテーブルの上に残されたアンの学校での調書を映す(4枚目の写真)。
牢獄に入れられたテウの前に、デュリーとトゥ・マムがやって来て、もっぱらトゥ・マムが尋問する。「お宅の反乱軍が、ヴォ・トン救出に協力してたことは知ってるわ。何か言いたいことは?」と言った上で(1枚目の写真)、「あんたが正義の人であることは知ってる。たとえ死ぬほど尋問しても、自白なんかしない。だけど、サンとアンはどうかな?」と、テウが最も恐れることを平気で言う。それを聞いたテウは、言葉にならない叫び声を上げ続ける。そして、その様子を、窓の外からラムがちゃんと聞いている(2枚目の写真)。しばらく後で、アンとコーがトイレの中で話をしている。話が、だいぶ前、食堂で “ヴォ・トンを助けたと嘘を付いたバ・フィー” のことになり、アンは、「ヴォ・トンを助けたのは、僕の師匠とウト・ルク・ラムだ」と言う(3枚目の写真)。当然、コーにとって、ラムなんて名は聞いたこともないので、「それ誰なんだ?」と訊くと、近くのハスの葉の間からラムが顔を出し 「アン!」と呼ぶ。別れたきり寂しがっていたアンは、「ウト!」と叫ぶと、トイレの中なのでパンツなしの状態で水路に飛び込み〔あまりきれいな水とは言い難い〕、ラムのところまで泳いで行く(4枚目の写真)。ラムは 「大事な用がある」と言い、アンの笑顔は消えて真面目な顔になる。
女スパイのトゥ・マムは、先ほどテウを脅したことを実行すべく、サンに会いに行く。そして、「一緒に行きましょ。新しい服を買ってあげる」と嘘を付く。脇の甘いサンは、余分なことを言ってしまう。「アンにも買ってもらえない? もうすぐお父さんに会うから、新しい服が必要なの」。トゥ・マムは、しめしめと思いつつ、「アンのお父さんは誰なの? 合わせないといけないから」と訊く(1枚目の写真)。「ほんとに知らないの。でも、中秋節に会うんだって」。それで満足したトゥ・マムは、サンを司令部に連れて行き、テウの牢獄に放り込む(2枚目の写真)。そして、テウに、「沈黙を貫いても構わないわ。でも、娘さんが口をきけなくなったら、可哀想よね」と脅す。一方、ラムから衝撃の事実を聞かされたアンは、「僕って、どこへ行っても、愛する人たちが傷つけられ、殺されるのはなぜなの?! 僕、何か間違ったことしたの?!」と 空に向かって叫ぶ(3枚目の写真)。ラムは 「お前のせいじゃない。戦争とはそういうものだ。でも、お前には、まだ探せる父親がいる。俺には誰もいない」と、不満を漏らす。アンは 「僕は、あんたの家族じゃないの? ぜいたく言わないで。一人でいるより いいじゃないか」と慰めた後で、「策略がある」と言い出す(4枚目の写真)。
ここからは、コメディ。かつて、デュリーの妻を手榴弾で脅したマムは、身近で見たその女性を真似て赤毛のかつらを被り、おつきの少女に、アンに女の子のかつらを被せて一緒に司令官の館に向かって庭を歩いて行く。そして、警備の兵士に近づくと、「ボン、ボン〔Bon, bon〕」と言い、ぴったりくっついたアンが、「ボンジュール、ボンジュール〔Bonjour, bonjour〕」と囁く。その先は、フランス語が全く話せないラムが、フランス語の真似事をわめき、それに対し、同様にフランス語が分からないベトナム人の警備兵が戸惑い、アンが疑われないよう、兵士に向かって、ベトナム語で 「マダムは、街に向かう途中で労働争議があったため、戻らなければならなかったと言ってます」(1枚目の写真)と言いつくろい、それでも兵士が離れないので、「争議を止めて下さい。マダムは1人で入って行けます」と追い払おうとするが、兵士は離れない。建物の中では、デュリーとトゥ・マムがイチャついている。ラムとアンは建物の中に入って行く(2枚目の写真)。誰もまともにマダムを見ないので、疑われないで済む。ラムは、1人の兵士の前でよろめいたフリをして、拳銃をこっそり奪う。兵士は、驚いて恐縮し、アンは 「マダムはめまいがします。薬を取って来て」と命じる。こうして、邪魔な兵士はいなくなる(3枚目の写真)。マダムの帰還が伝えられると、浮気中のデュリーは不運を呪う。一旦は建物の中に入ったラムとアンは、建物の外の、テウの牢獄の近くまで行くと、ラムは急にトイレに行きたくなったフリをし、アンが兵士に向かって、「マダムの邪魔にならないよう、離れて!」と兵士を追い払う(4枚目の写真)。獄内でその声を聞いたサンは、「アンだよ、父さん」と知らせる。
誰もいなくなると、アンが指笛を吹き(1枚目の写真)、塀の外で待機していたコーが、先端に二爪錨を付けたロープをテウの牢獄の格子窓に向かって投げる(2枚目の写真)。デュリーがどうしようかと焦っている間にも、①ラムは手榴弾の起爆装置を外し、②アンの2回目の指笛で、コーは水牛に二爪錨のロープを引っ張らせ(3枚目の写真)、格子窓が吹っ飛ぶ(4枚目の写真)。
そして、③ラムが投げた手榴弾は、敷地内の木造の小屋を全焼させ(1枚目の写真)、司令部を混乱に陥れる。④格子窓がなくなった壁の穴からは、テウとサンが逃げ出し(2枚目の写真)、⑤駆けつけた3人の兵士を、テウとサンとアンが武術で倒し(3枚目の写真)、⑥テウが支持役となって、サン、アン、ラムは塀を飛び越えて、敷地外の溝に逃げる(4枚目の写真、矢印は最後に自力でジャンプするテウ)。この場面で謎なのは、燃え盛る小屋の前まで来ていたデュリーに、兵士から、テウの牢獄が空だと知らされた時、横にいたトゥ・マムが、テウがアンに塀を越えさせるのを見て、やったとばかりにニタニタする場面〔なぜだか、全く理解できない。かつらを外したアンを、瞬間的に見分けられたとしても、それが満足しきった笑顔と結びつくとは到底思えない。こういう無意味な場面が、折角のアンの策略を ”失敗” に終わらせ、映画を駄目にする〕。
そして、中秋節の日の夜、柳南劇団の舞台では、劇が始まり、5人の団員が並び、「王朝は崩壊しつつある。若き王は、王位についたばかりだった」と歌っている。その時、舞台裏では、バイがイライラして待っていると、そこに青い服のアンがやってくる。バイが 「なぜ、こんなに遅れた?」と訊くので、服の色〔脱獄シーンと同じ〕から、先ほどの脱獄シーンは、中秋節の日の日中に行われ、アンは、司令部から柳南劇団のある町まで走って来たらしい。アンは、質問には答えず、「父さんはどこ?」と訊く。バイは 「お会いしてない。そもそも、みえるかどうか分からない」と言うと、即興で劇をやるので、すぐに着替えるように指示する。そして、多くの観衆に前に、王様らしく着飾ったアンと、将軍のようなバイが登場し、アンは、布を被せた “うつ伏せになった団員” の上に座る。バイは、アンの横に片足で跪くと、「陛下、国境から勝利の知らせが届きました」と言う(1枚目の写真)。アンが、どう答えていいか分からないでいると、バイが小さな声で、「立つのだ」と教え、アンが 「立つのだ」と言うと、バイは立ち上がる。その時、客席に、生意気な女スパイのトゥ・マムが座るのが映る。バイは再び、「知らせを待っておった」と小声で教え、アンが大きな声でくり返す。そう言いながら、アンは自分が座っている台座代りの人が父だと悟る(2枚目の写真)。バイは3度目の長文を教える。アンは、「南部の国には繁栄の時代もあれば衰退の時代もあるが、いつの時代にも英雄はおる」と、そのままくり返す(3枚目の写真)。その “陛下” の発言を踏まえて、バイが侵略者による国家の危機について話すと、“父の上に座っていられなくなった” アンは、いきなり立ち上がり、それまで座っていた場所に向かって、「僕、親不孝でした」と言うと、王冠を外して跪き 「どうか、この服従を受け入れて下さい」と頭を垂れる。劇が異様な方向に進んだので、バイは 「陛下は、ご先祖様に敬意を表しておられます」と言いつくろい、片足で跪く(4枚目の写真)。
アンが、小声で 「父さん」と呼ぶと(1枚目の写真)、僅かに開いた布の隙間から、ハイ・タンが 「息子よ」と囁く(2枚目の写真)。すると、観客の中央を裂くように、デュリーを先頭にフランス軍が舞台に向かって入ってくる(3枚目の写真、矢印はデュリー)。それを見たバイは、舞台の中央に立ち上がり、「忠誠心を保て! 外国からの侵略者を排除せよ!」と啖呵を切り、その間に、他の団員が旗で舞台を隠し、ハイ・タンはすぐに消え、アンも後を追う(4枚目の写真)。
舞台裏で、ハイ・タンとアンは抱き合う(1枚目の写真)。アンが 「父さんに会えて幸せです」と言うと、ハイ・タンは ある意味、非情にも 「もう行かないと」としか言わない。アンは、事情を知っているくせに、かつ、テウの弟子のくせに、「だめ! 父さんから離れたくない」と、舞台での非常識な行為に続き、自分勝手なことを言い出す。父:「私も離れたくないが。至る所で兵士たちが私を包囲している」。「お願い、父さん… 父さんと一緒に生き、一緒に死なせて下さい」〔この台詞で、一気にアンの評価が下がる。アンは、自分のために、父を殺そうとしていている→観ていて不自然に感じられる〕。その時、外では、デュリーが、舞台の上の全員を逮捕するよう命じる。それを聞いた食堂の店主のトゥ・ウーが、「ただのお芝居じゃないの!」と文句を言い、観衆からも不満の声が上がる。上級兵士が、舞台の前に立ち、観衆に向かって、「この劇団は、お前たちに保護政府と戦うよう煽っている」と警告する。すると、今度は、達弁のバ・フィーが 「どうかしてるぞ! ただの芝居だ!」と怒鳴り、観衆の立ち上がり 「お金を払って切符を買ったんだ。邪魔するな!」と抗議する。バイも 「これは私たちの伝統的な文化であり、違法なことは何もしていません」と、舞台の中央から大きな声で擁護する。「そうだ、そうだ!」の観客の賛同に対し、デュリーは 「黙れ!」と一喝し、「反逆軍を守る奴は反逆軍だ」と言うなり、バイを撃ち殺す(2枚目の写真、矢印)〔フランス人は 何と野蛮なのだろう〕〔フランスは、現在に至るも、加害者となったかつての植民地政策に対し、政府として謝罪も補償も行っていない〕。バ・フィーは、「なんで殺したんだ!」と怒鳴り、群集からは、「人殺し!」の非難が一斉に上がる。バ・フィーは、舞台に上がると、ベトナム人でありながらフランス軍の一員となっている兵士に向かって、「諸君! 君たちは、祖国のお米を食べて大きくなった。なのに、同胞に銃を向けるのか? ご先祖様の祭壇によく顔向けできるな!」と怒りをぶつけ、女スパイのトゥ・マムに撃ち殺される(3・4枚目の写真、矢印)。トゥ・マムは、単なる妾のくせに、兵士達に向かって 「一座全員を捕まえろ。反抗する奴は殺せ!」と、まるでデュリーの副官のように命令する。
それでも、団結した団員たちは、バイが最後にアン(君主)に言わせた言葉、「南部の国には繁栄の時代もあれば衰退の時代もあるが、いつの時代にも英雄はおる」を くり返して抵抗する(1枚目の写真)。一方、舞台裏では、アンはバイが殺されたのを見ているにも関わらず〔責任の一旦はアンにある〕、父ハイ・タンと別れるのを拒み続ける。お守り役のバが、「お父さんが逃げられるよう、君は出て行くんだ!」と言っても、父を放そうとせず(2枚目の写真)、貴重な時間がどんどん消えて行く。そして、遂に、デュリーが 「ハイ・タン! 出て来い!」と叫ぶ(3枚目の写真)。それでも、アンは嫌がって離れようとしない〔ハイ・タンの息子としては、完全に失格〕。アンのせいで逃げる機会を失ったハイ・タンは、「ここにいるぞ!」と言い、堂々と舞台に出て行く(4枚目の写真)。そして、「捕えるなり、殺すなりするがいい! だが、ここにいる罪のない人々に手を出すな!」と言う。デュリーがハイ・タンに銃を向けると、いきなり雷が轟く。それを聞いたトゥ・ウーは、「天が私たちの祈りに応えてくれたわ!」と、バ・フィーに向かって言う。
騒ぎ出した群集にデュリーが躊躇していると、屋根の上に弓を引いたヴォ・トンが飛び出し(1枚目の写真)、矢は、見事にデュリーの胸を貫く(2枚目の写真、矢印)。司令官がいなくなった植民地兵の軍隊は、愛人を失って気が狂ったようになったトゥ・マムを除き総崩れ。ハイ・タン、ヴォ・トンにテウが加わり、一方的に植民地兵をやっつける(3枚目の写真、矢印はハイ・タン)。戦闘の途中で顔の合ったハイ・タンは、テウに 「アンを頼む」と声をかけ(4枚目の写真)、テウは舞台裏に向かう。それを見たトゥ・マムは、アンを捕まえようと、近くにいた兵士を引き連れて後を追う。
テウ、バ、アン、サン、コーの5人は森の中に逃げ込み(1枚目の写真、紺色の服がバ、その前がアン、後ろがテウ)、それを狂気のトゥ・マム達が追う(2枚目の写真)。地形は、森から次第に泥沼となり、5人全員が “泥の上を滑る台” で素早く逃げ、追う方は泥地を徒歩なので遅くなるハズだが、映画ではその差が出ない。そのうちに、いつ紛れ込んだのか分からないが、兵士姿のラムが、撃とうとしたトゥ・マムの邪魔をし、アンの所まで走って逃げて行く。ラムを助けようと、テウとコーがナイフ投げと、飛び道具で兵士を2人殺す。ラムは、アンのすぐ近くまで行った時、トゥ・マムがアンを狙って撃ったのを見て飛んで楯になり、弾が当たって倒れる(3枚目の写真)。一方、同時にアンが投げたナイフはトゥ・マムの肩に刺さる(4枚目の写真、矢印)〔ケガだけ〕。
それを見た他の兵士達は逃げ出す。アンは、倒れたラムが死なないよう、必死に声をかける(1枚目の写真)。それを見たトゥ・マムが、銃でアンを撃とうとしたのを見たテウがナイフを投げ、アンより腕は立つので、胸に命中して命を奪う(2枚目の写真、右下の矢印がテウのナイフ、左の矢印がアンのナイフ)。死んだと思われたラムは、運のいいことに、弾がアンの母の懐中時計に当たったため、しばらく死んだと思い込んで倒れていたが、気が付いて時計を出して見せる(3枚目の写真)。アンは喜んでラムに抱き着き、2人とも泥まみれになる(4枚目の写真)。本編の最後は、泥の平原を進む5基の “泥の上を滑る台” の遠景(5枚目の写真)〔矢印は、「ありがとう、母さん!」と叫んだラム。最後の台に、テウとサンが乗っているのかも〕。
事後談。テウの舟に、アン、サン、ラムの4人、そして、恐らくコーの父の蛇捕りの舟に、コーとバが乗って、運河を航行している(1・2枚目の写真)〔アンが浮かない顔をしているのは、父が心配だから。テウが、連絡役のサウが状況を知らせてくれるから、心配するなと言っても、心は晴れない〕。すると、前方に板に乗った犬がいる。犬は、助けてもらえると思って、舟に向かって泳ぎ始めるが、それに気付いて近寄ってきた大きなワニが口を開けて犬を食べようとした瞬間、槍が飛んで来て、ワニの口を串刺しにする(3枚目の写真)。投げたのはヴォ・トン。ヴォ・トンが守ってくれていると知ると、父も安泰なので、アンは 「父さんと仲間たちは この国のために戦ってる。だから、この国の人々も、父さんたちを守ってくれるに違いない」と言い(4枚目の写真)、映画は幕を閉じる。