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The Rocket ロケット

オーストラリア・ラオス映画 (2013)

ラオスに投下された史上最多の爆弾のうち、約30%と推定される不発弾が社会与える影響を描いたドキュメンタリー映画『Bomb Harvest』(2007)の監督キム・モルダント(Kim Mordaunt)が、同じテーマを劇映画化した作品。世界の多くの映画祭で上映され、28の賞(31のノミネート)を受け、Rotten Tomatoes 95%、IMDb 7.3の高い評価を受けた作品。テーマの選択と内容の珍しさ、題名になっているロケット競技の迫力などから高い評価を得たと思われるが、細かな点を見て行くと、本格的な映画の脚本を手掛けたのが初めての監督の甘さが随所に見られる。問題点を幾つか指摘すると、あらすじでは省略したが、意味不明で、ラオスの神秘性を強調するような、不必要なシーンが各所に入っている、双子の片割れのアローが、善なのか悪なのかわざと交差させ、結末を除き、悪の方に傾いているように描いている、主要な登場人物の1人、パープルがあまりにも浮いていて、現実離れしている、ここから先は、あらすじで指摘しているように、「ラオスで、コウモリの糞は、伝統的にバンファイ・ロケットの火薬の原料として使われてきた」という過去形の英語記述はワンパターンで各所に書いてあるが、現在は黒色火薬が使われているとも書いてあり、アローだけが使用したのか観客には全く分からない。アローが受け取る賞金の額があまりに少なすぎる。これらは、すべて脚本の説明不足に起因している。ラオスという共産主義国家の住民に対する専横的な非人道的な扱いを、ダム建設を媒介と映像化して点は評価できるし、ラオス特有の自然の風景を映画で観られるのもプラスに働くが、上記のがもっと巧みに処理されていれば、より優れた映画になっていたに違いないと思うと残念だ。

映画は、主人公アローが、 “双子を極端に嫌う” という、ラオスの中でも数少ない部族の一員として産まれるところから始まる。弟が産直後に死んだことで、母の強い希望で、アローは双子の1人ではなく、1人しか産まれてこなかった子供として育てられる。その秘密を知っているのは、母とお産に付き合った義母のみ。アローが10歳になった時、住んでいた村を、ダム建設のために出て行かされることになり、その際、ボートを持って行くことに固執したアローのせいで、母は事故死し、祖母は、アローが “邪悪” な子だと確信する。政府の “ガラクタをあげるから勝手にテント小屋でも作って住みなさい” という命令にしたがって、ひどい住環境に住むうち、アローは、キアという小さな女の子と親しくなるが、彼女は、パープルという風変わりな酔っ払いと一緒に住んでいた。それが転機となり、アローは、ダム移住者の中の嫌われ者となり、一家はその場所に住み続けられなくなる。そこで、キア、パープルと一緒にそこを脱出し、パープルがかつて住んでいた村に行くが、そこは不発弾が未処理のため放棄された村だった。そこで、次に行った場所は、年に一度のロケット競技会が開かれる町で、その競技会は3日後に迫っていた。優勝すれば多額の現金がもらえるとあって、アローは反対を押し切って自分一人でロケットを作ることに決め、かつてアメリカ軍の兵士として戦ったパープルにロケットの飛ばし方について教えてもらい、孤軍奮闘を開始する。

主人公のアロー役は、ストリートチルドデンの1人だったと書かれているSitthiphon Disamoe。この映画で、3つの賞(2つのノミネート)を受けたが、その後の映画出演はない。ラオスに住んでいれば、当然かもしれない。

あらすじ

マリという女性の初産が、夫トーマの母タイトクの助けで始まっている。生まれたのは男の子。タイトクは嬰(えい)児を抱き、を取り出しマリに見せる(1枚目の写真)。2人は幸せに浸る。すると、マリがまた痛みに襲われ苦しみ出すと、タイトクの表情が変わり、「違いない…」と厳しい顔で言う。「何に?」。「2人目の赤ちゃん。双子だよ。どうすべきか、知っとるじゃろ? それを捨てんといかん」〔字幕は “get rid of it” と単数〕。しかし、愚かなマリは、部族のしきたりを破り、「嫌よ、出てって!」と義母に向かって怒鳴る(2枚目の写真)。そして、マリは二人目を産んでしまい、産んだ子は既に死んでいたのか、生まれてすぐ死んでしまう〔どちらかは分からない〕。すると、マリは、「なら、あたしは双子を産まなかった」と、勝手なことを言い出し、最初に生まれた子を抱きながら、「お願い、この子を殺さないで」とすがるように頼む(3枚目の写真)〔よく分からないのは、生まれて来る前に殺せば、双子にならないという論理(“it” と単数だった)。生まれてくる前は、お腹の中で二人は生きていたので、死産であろうがなかろうが、両方とも双子であることに変わりはない〕〔彼らの考え方によれば、双子が生まれた場合、どちらか一方は祝福を受けたいい子になり、もう一方は、呪いを受けた悪い子になる。だから、どちらがどちらか分からないので、両方とも殺すという論理〕。次のシーンでは、マリが穴を掘って死んだ赤ちゃんを埋め、タイトクには、「息子さんには知らせないで」と、双子を産んだことを黙っているよう頼むが、タイトクは 「双子の片割れなのじゃ。どっちかが呪いを受けておる。そっちの方かもしれん」と、マリが抱いている子の方を見ながら言う。「そんなことありません」。「何で分かるんじゃ? もし、それが不幸を呼び始めたら…」。「この子は、そんな子じゃありません」。

そして、タイトルが表示され、10歳になったアローと名付けられた少年が、川でボートを漕いでいる(1枚目の写真)。彼は、1匹の魚をぶらさげて野天市場に行くと、顔見知りの女性に、「魚だよ、1キロ」と言って見せる。「それが1キロ?」。「そうさ」。「そんなにないわよ」。女性は、魚を秤に乗せる(2枚目の写真、矢印)。「ほら、ないでしょ」。アローは 「もうちょっとで1キロだよ」と言うと、葉タマネギ、コリアンダー、小ナス、青ナスも渡す。満足した女性は、アローの予定通りのお金をくれる(3枚目の写真、矢印)。「ありがと」。「また来てね」。

ある日、村の中で役人が、「これ読んで」と言いながら、オレンジ色の紙を村民に配っている(1枚目の写真)。一方、高床式で竹の網代壁、茅葺きという伝統的な作りの家では、マリがアローと一緒に白い綿布をインディゴで青く染めている。それを見たタイトクは、インディゴの量が少ないからなのか、「色が悪いわね」と批判する(2枚目の写真)。気を悪くしたマリは、「自分でやったら?」と言ってインディゴを投げる。タイトクは、それには構わず、オレンジ色の紙を渡し、「2つ目のダムを造るんだとさ」と言いながら、手渡さずに地面に放り、「バカどもが、説明会をやると言っとる」と言う。何事にも楽天的なマリは、「何を提案するのかしら。ひょっとしていいことかも」と言うと、アローに向かって 「あんた、ダム見たい? 巨大よ。父さん、探してらっしゃい」と行かせる。

トーマはアローを連れて、説明会行きの乗り物の屋根に乗る。そこから、アローは巨大な発電所と、その、向こうに聳えるダムを見上げる(1枚目の写真)。説明会までは時間があったので、アローはダム直下の階段を上がって(2枚目の写真、矢印)、ダム本体の中に入ると、ダムの天辺まで登って行き、反対側にある湖を眺める(3枚目の写真)〔こんな巨大な構造物なのに、このダムをネット上で見つけることはできなかった〕

そのあとの説明会では、村民を前に、カラー映像を簡易スクリーンに映写して、ダムの説明を始める(1枚目の写真)。この工事の主体は、オーストラル・ラオス水力発電という〔架空〕の企業体でhttps://go.gale.com/ の1994年の記事に、オーストラリア政府がラオスのダム建設に13億ドルの規模の水力開発で主要な役割を果たす覚書を調印したと書いあったので、オーストラル・ラオス水力発電は存在しなくても、そのような両国が密接な関係にあったことは確か〕、その企業体が既に造ったナム・ディー〔Nam Dee〕ダム〔架空〕の下流側に、ナム・ディー2という新ダムの建設を直ちに始めるというもの。スクリーンには、2つのダムが映し出される(2枚目の写真)。そして、2つのダムに挟まれた地域、この説明会に呼ばれた人々が住んでいた村は、ダムが完成すれば完全に水没することが示される(3枚目の写真)。この先が、非常に不明瞭なのだが、建設も始まっていないのに、「あなた方は、移住することになります。離村の準備を初めて下さい」と急き立て、さらに、すぐに分かることなのだが、「でも、心配は不要です。ナム・ディー移住村があなた方を待っています。新しい家、良い土地、そして多額の賠償金もあります。水と電気もたっぷりあります」と、平気で嘘をつく〔オーストラリアは、そのことを認識していたのだろうか? 任せきりにしていたのだろうか? これはオーストラリアの映画なので、過去における自国の過ちを批判していることになる〕

その話を聞いたマリは、家の敷地内に1本だけ生えているマンゴーの木に登ると、アローに籠を持って来させ、「この木は、お祖母ちゃんがここに来た時からあったの」と言い、「マンゴー1つ1つに、こんな木になれる種があるのよ」と教える(1枚目の写真、矢印)。それを聞いたアローは、「母さんのマンゴー」と言い、マリは、「新しい家に植えましょ」と言ってマンゴーの実を渡す。一家4人は、何を持って行き、何を残すかで論争になる。トーマは、「そんなにたくさんは持って行けない」と言い、アローが 「僕のボートは?」と訊くと、トーマは 「そんなもん丘の上まで運び上げられん」と反対する。しかし、アローは、「僕、ボートが欲しい」と主張。アローが嫌いなタイトクは、「この意地っ張り! ボートのことなんか忘れるんじゃ!」と猛反対。様子を見に行ったアローは、住民の全員がそれぞれ1人では運べるだけの荷物を持って、木と、細いワイヤーでできた吊り橋の上を渡っているのを見る(2枚目の写真)。これでは、とてもボートなんか運べない。次のシーンでは、川原に置いてあるアローのボートの脇でマリが山ほどの荷物を抱えて立っている(3枚目の写真)。そして、マンゴーを入れた籠をボートに乗せる。それを見たトーマは籠をボートから出すが、マリは、「ボートを持ってくわ。そうよねアロー」と言いながら、籠をボートに戻す。そのあと、トーマとマリが籠を出したり、戻したりをくり返し、最後に、トーマが 「大きな山だよ、マリ。そんなことできるのは神様だけだ」と愚行を諫める。そこに雄牛を連れた男がやって来たので、ボートをあれで丘の上まで引っ張り上げて、トラックに乗せましょ」と言う。謝金を渡して牛を借りると、飼い主が牛を誘導して斜面を登らせ、一家4人がボートを押して牛を助ける(4枚目の写真)。この場面の直後、どこかにつかえてボートが動かなくなる。アローは、ボートの最後尾に行って押し始め、「助けて!」と言うと、マリがやって来て、一緒に押し始める。そして、牛を含めて全力を出すと、ボートは邪魔していた物の上を乗り越えて前進し、それを見たアローは嬉しそうに笑い出し、マリもつられて笑う。

その時、上の方から叫び声がし、マリが顔を上げた瞬間、上から滑り落ちてきたボートがマリの体を直撃する(1枚目の写真)。アローは、自分がボートにこだわった結果に呆然とする(2枚目の写真)。死んでしまったマリの頬を両手で触っていたタイトクは、右手を挙げ、アローを指差して、「あいつじゃ! 死ぬべきじゃった!」と叫ぶ(3枚目の写真)。何のことか分からないので、アローがタイトクをじっと見ていると、タイトクは 呪いの言葉を浴びせ続ける。「子宮の中で、弟と一緒に死んでれば」。その言葉に、トーマもびっくりして、母であるタイトクを見る。「お前は。双子なんじゃ!」。その言葉を聞くと、アローは逃げ出す。

夕方になり、タイトクは死体を川できれいに洗う(1枚目の写真)、そして、白い布で包むと棺に入れ、トーマが 「愛しい君へ。君の旅は長い」と声をかける(2枚目の写真)。翌朝、斜面で放置されたボートで目が覚めたアローは、母が首からかけていた赤いコットン布を大事そうに拾うと、籠から落ちて地面に散乱していたマンゴーを拾い、コットン布の上に集める。そして、トーマとタイトクがマリの棺の上に石を置いて墓を作っているところに、マンゴーを入れた赤いコットン布を持って現れる(3枚目の写真、矢印)。それを見たトーマは、「お前の母さんの希望通り、それを植えよう。元気に育つ場所を見つけないと」と言うと、2人でマンゴーの入った布を持って丘を降りて行く。

暗くなってから、一家3人は、他の移住者と一緒に、トラックの荷台に乗せられてナム・ディー移住村に向かう。ところが、いざ着いてみると、そこは、既に移住してきた人々の仮テントで埋まったひどい場所(1枚目の写真、矢印はトラック)。一緒に乗って来た係官は、「あなたたちの、新しい家に着きました。でも、それはここではありません。あなたたちの家は向こうです」と言って指示した場所には、大きな看板だけが立っている(2枚目の写真)。「ただし、家ができあがるまで待たねばなりません。パニックにならないで、心配いりません。とりあえずは、無料の資材を利用してください。ほんの少しの間だけです」。何という無責任で非人道的な行政だろう。1964-73年の間、ベトナム戦争中に最大の被害を受けた。それについて、https://www.history.com/ では、「アメリカによるラオス爆撃は、ベトナム戦争中に北ベトナムとソ連と同盟を結んだ共産主義組織パテート・ラオから権力を奪取しようとするCIAの秘密工作の一環であった。公式には中立国であったラオスは、アメリカとソ連の冷戦の戦場となり、アメリカの爆撃機はラオスに200万トン以上のクラスター爆弾を投下した。これは第二次世界大戦中に投下された全爆弾の総量を上回っている。アメリカ空軍は1964年にラオスの標的への爆撃を開始し、タイを拠点に秘密任務でクラスター爆弾を満載したAC-130やB-52などの航空機を飛ばした。アルジャジーラによれば、アメリカは最終的に9年間にわたり、1日24時間、8分ごとに航空機1機分の爆弾に相当する量を投下した」と、日本語の他の信用できるサイトと同じことが書かれている〔こんな事実を知らない人は多いハズ〕。総務省の「ラオスの行政」という2006年の資料には、「ラオスでは、1986年にNEM(新経済メカニズム)が始まり、国有企業の改革、行政基盤の確保、地方分権および公務員の能力強化が行われ、1994 年からはUNDP(国連開発計画)の支援を受けて第1期事業PAR(行政改革、1994-96)、第2期事業GPAR(ガバナンス・行政改革、1997-2000)も行われた」と、改革が進んだように書かれている。しかし、最新の外務省のデータを見ても、「2021年1月13日から15日、第11回党大会(5年毎)が開催され、政治局員13名、党書記9名を含む中央委員71名が選出された。党書記長にはトンルン首相(当時)が昇格した。党大会では、前回と同様に党の指導力強化、汚職撲滅、人材育成の必要性、環境に配慮した持続的な開発などが強調された。また、経済社会開発方針について5か年計画(国家社会経済開発5か年計画)に加えて5~10年の中長期計画が承認された前回とは異なり、今次党大会では5か年計画のみが審議・承認された」と、典型的な共産主義国家の状態を維持している。映画の設定年代は不明だが、できてもいない村に、村民を “着の身着のまま” 状態で強制移住させ、行った先には、ガラクタのようなトタン板や材木の破片が置いてあるだけで、立派な看板のみが目立つのは、何の改革も進んでいない証拠だ。翌日になり、旅人たちは有り合わせの材料を使って、何とか暮らしていけるテントを必死で作っている(3枚目の写真)。

住民たちのテント村の横には、柱、床、屋根しかない剥き出しの2階建てのRCの建物が一杯建っているが、断面が黒くて汚いので、建設途中のナム・ディー移住村ではない。そこの2階に、下水もないのに便器だけ置いているパープル色の上着を来た変な男がいる(1枚目の写真、矢印)。アローがあちこち歩いていると、そのうち、女性の係官がやって来て、「オーストラル・ラオスとナム・ディー2のお陰で、月末までにもっとたくさんの建築資材が届きますので、確保して下さい」とアナウンスする〔仮設テント用の資材であって、本格的な住宅建設とは無関係〕。横には、如何にもオーストラリア人らしい男も一緒にいる。移ってきた住民からは、連れてきた家畜を心配する声が上がるが、自分の担当ではない質問なので、無視して資材のことばかり話す。その後ろを、先ほどのパープル色の上着を来た変な男が、口琴を鳴らして妨害し、家畜を無視された農民は、係官の近くの地面に向かって唾を吐く。そのパープル色の上着の男には、オレンジ色のTシャツを着た8歳くらいの少女も一緒にいて、アローの方をじっと見る(2枚目の写真)。一方、仮設のテントでは、トーマがそこら辺の木片を集めて作った守護霊の家を台座の上に置いている。設置が終わり、マンゴーを1個供えようとすると、アローがマンゴーを奪い、「母さんは、無駄に使うんじゃなくて、全部植えて欲しいと思ってたよ」と言う。それを聞いた隣の老女と、タイトクはイヤな顔をする。アローはタイトクの前に立つと、「何かいいたいことある?」と訊き、無視されると、父の前に行き、「マンゴーのための土地を探さないと。僕、見つけてくる」と言って出て行く。タイトクは、トーマに、「何て子だい」と言うと、トーマは 「まだ子どもだよ、母さん」と冷静に応じる。草木の茂った方に探しに行ったアローは、守護霊の家に食べ物が置いてあるのを見つけると、平気で盗んで行き、食べながら茂みの中の野道を歩く。すると、上から花が降って来たので、見上げると、さっきの女の子が、パープル色の花をちぎっては、上から落としてくる(3枚目の写真)。アロはー、食べ物を地面に置くと、落ちてくる花を掴むのに熱中する。少女は、木から降りてくると、落とした花を籠に入れ、「これで、かなりのお金になるの」と言う 。

そのあと、2人は野天市場に行き何とか花を買ってもらい、少女は少額のお金をもらう(1枚目の写真、矢印)。次に、2人は野原に行くが、そこでアローが、「マンゴー、どこで育つか知ってる?」と訊き、少女が 「あんたの母さん、何も教えてくれなかったの?」と訊いたことで、なぜかアローは急に不機嫌になり、この辺りに蚊が多いから行く、行かないで喧嘩になり、少女は、「バカ!」と言って1人で去って行く。翌朝、アローとトーマが水道水のバケツ2杯の順番を待っていると、ちょうど水を容器に入れていた少女が、後続の村人から、「もう一杯なんだから、どきなさいよ」と言われ、両手で容器を持って去って行く。それを5番目くらいで見ていたアローに、トーマは、「あの小さな子は、マラリアで家族全員を失ったんだ」と教えられ、昨日の自分の態度を反省し、手伝おうと思って後を追いかける。そして、陽気の1つを持って一緒に “家” まで行く(2枚目の写真、矢印)。そこは、打ちっぱなしで表面に一杯穴の開いたコンクリートの階段を登った2階だった。壁はないので、部分的に布で覆ったり、竹で作った日除けが掛けてある。少女は、自分が運んできた容器の水を全部タライに入れる。アローは、「君の家族や母さん、残念だったね」と言って、昨日のことを謝る。すると、竹の簾の1つが巻き上げられ、パープル色の服の男が現われる。後ろの竹壁にはアメリカのソウル歌手だったジェームス・ブラウン(1933-2006)のポスターが数枚貼ってあり、男は、「ジェームス・ブラウン」とだけ言う。それが男の名前だと誤解したアローは、「お早う、ジェームス・ブラウンさん」と言い、少女が思わず笑う。夜になり、2人は男のベッドの上に座っている。「男が、パープル色の服を着たまま、少女が汲んできたタライの水で全身を顔や胸をタオルで拭いているのを見たアローは、「君の叔父さん、着替えたことあるの?」と訊くと、少女は、「覚えている限り一度も」と答える。そして、「アメリカ大使館からのプレゼントと言うと」、アローは 「ここに爆弾落としたのアメリカだったよね」と、天井を見上げて言う(3枚目の写真)。

翌日は、村人3人の棺が運ばれ、それに多くの村人が花を持って列に並ぶ(1枚目の写真、矢印はアロー)。その時、斜め前方を、パープル色の服の男性と、少女が野原の方に歩いて行くのを見たアローは、「パープルおじさん!」と叫ぶと、「アロー、戻れ!」のトーマの命令を無視して、「パープルおじさん」と言いながら後ろから付いて行く(2枚目の写真)。それを見ている村人の目線は冷たく厳しい。後で昔兵士だったことが分かるパープル〔以後、パープルと標記〕は、「忘れたいことを思い出させる」と、葬儀の行進を毛嫌いしている。そのうち、小さな小川があったので、魚を捕ろうとアローが走って行くと、中に大きな爆弾が放置されている。それを見たパープルは、「眠ってる虎だ。君を月まで吹き飛ばすくらいの威力がある」と言い、「カチカチ… バン」と両手を拡げる(3枚目の写真、矢印は爆弾)。それを聞いたアローは、「おじさん、兵隊だったの? アメリカ人を殺したの?」と訊くが、何も答えない。少女と2人きりになったアローは、大事に持っているマンゴーを見せて、「このマンゴーは樹齢400年の木から採れたんだ。これを植えれば。何千個ものマンゴーが実る」と言う。すると、少女は、いい土がある所までアローを連れて行く。

アローは、さっそく仮設のテントに戻り、トーマに、「母さんのマンゴーを植える土地を見つけたよ」と自慢げに話す(1枚目の写真、矢印はマンゴーの入ったポリ袋)。しかし、トーマがアローに告げたのは、褒め言葉ではなく、「あの男と女の子には、もう会うんじゃない。あの2人は “のけ者” だ。あんなのと付き合ってると、俺たちの家族が悪者になってしまう」と注意する。それを聞いたアローは、タイトクを睨みつけると、眼の前に置いてあった高さ50cm、直径30cmくらいの金属製の筒を掴むと、それを振り回して、トーマが作った守護霊の家を叩き壊す(2枚目の写真、矢印は筒)〔これでは、アローは 「呪いを受けた悪い子」そのものだ〕。隣の家族も、悪鬼を見るような目で、アローを見ている。アローが向かった先は、パープルのいる2階。ベッドに座って何かを食べているパープルに向かって、アローは 「おじさんとキアには、もう会うなと言われた」と言う〔少女の名前が、ここで判明する〕。「君の父さんは、俺が “社会のはみ出し者” だと思ってるんだな?」(3枚目の写真)。アロー:「型破り」。パープル:「その通り! ビンゴ! それが俺だ。型破りさ」。テントには戻れないので、アローは、部屋の中で一番興味のあったTVを見てみようと、触るが動かない。それを見たパープルは、「この住みかには、妖精の光はない」と言い、キアは、「ここには電気がないの」と、まともな言葉で説明する。しかし、壁のない空間からは、電気の点いている建物見える。アローが、「じゃあ、誰が電気を持ってるの?」。「水力発電のボスどもだ。アジアの奴らに電気を売っちまうと、俺たちにはなんも残らん」〔電源開発(株))が刊行する「Global Edge」の2019年4月発行のNo.57には、「ラオスは、東アジアを代表する大河、メコン川やその支流を有する水資源の豊富な国だ。その包蔵水力を利用して発電を行い、その全発電量の6割以上(2015年は、全発電量165億kWhのうち、約65.7%を輸出)を隣国のタイなどに輸出して外貨を獲得、“東南アジアのバッテリー”とも呼ばれる水力発電大国だ」と書かれている〕

〔ヤギや牛の睾丸などは、日本以外では、それなりに食べられているようなので、アローが嫌がったのは、お酒の中に生のまま入っていたからかも?〕

アローは、“呪いを受けた悪い子” ぶりを発揮し、ボスの家に電気を送る配線板から電気を盗もうと、電線を巻きつけた輪を転がして行く(1枚目の写真、矢印)。しかし、配電盤など見たこともないアローなので、「僕は呪われた子なんかじゃない」と言いながら、電線の先端でネジに触れると火花が飛び散り、ボスたちの家の明かりがすべて消える。アローは、犯人を捜しに出て来た連中に見つかり、必死に逃げる(2枚目の写真)。しかし、最後に逃げ込んだ土管の両側を塞がれ、捕まって地面に突き倒されると、相手は、地面に落ちて割れたヤギの睾丸酒のビンからヤギの睾丸を取り出すと、アローの口に無理矢理突っ込み(3枚目の写真、矢印)、二度とやるなと強く警告する。

翌日、木の上でキアに会ったアローは、花束を渡す(1枚目の写真)。しかし、それを見たキアは喜ぶどころか、「守護霊の家から盗んだの? こういう花は、お葬式の儀式のためのものよ」と、やってはいけないことをしたアローを批判する。アローは、「僕は双子だ」と、“呪われた子” だから何をしてもいいんだと言わんばかりのスネた口調で言うと、花束を奪い取る。しばらくして、反省したアローが、花束を盗んだ守護霊の家に花を戻そうとする(2枚目の写真)。しかし、そぐそばに集まっていたその守護霊の家を作った一家に、花ではなく、供養の食べ物を盗もうとしていると勘違いされ、びっくりして後ろに下がると、後ろにあった別の守護霊の家を倒してしまう(3枚目の写真、矢印は倒れる守護霊の家)。アローは逃げ出すが…

倒れた守護霊の家には、供養のためにロウソクが供えてあり、その火が守護霊の家を燃え拡がる(1枚目の写真)。怒った一家は、アローとトーマとタイトクの仮設テントに、燃料をかけて火を点ける。気がついて走り寄ったトーマとタイトクに、アローは悪魔の子だと罵り、何もかも燃やそうと、村人総出で破壊を始める(2枚目の写真)。トーマとタイトクには、もう何もできない。みるみるすべてが燃やし尽くされていく。パープルの所に逃げて行ったアローは、パープルから、「今日から、俺は、この村で2番目に嫌われている奴だ〔それまでは1番だった〕。一等賞は、君だ」と言われる(3枚目の写真)。

パープルは、トーマとタイトクが隠れている所まで行くと、「ここから立ち退いた方がいいかもしれん。ここは無法地帯だ。あんたの息子さんは、スケープゴート以外の何者でもない」と言った後(1枚目の写真)、「奴らは、ここを出ていくすべての車両をチェックするだろう。1台を除いて」と付け加える。そして、真夜中。集めた不発弾を満載したトラクターが映る(2枚目の写真)。これだけ不発弾があれば、誰も近寄りたくないのは当然だ。この不発弾の山の中には、トーマの一家3人と、パープルとキアが隠れている。中で、パープルは平気でタバコを吸っているが、トーマとタイトクは、トラクターが悪路でガタンと揺れる度にヒヤヒヤして乗っている。場面は朝になり、トラクターは道の分岐点で停まる。トラクターはChomsavan〔架空の町〕に向かい、5人は、パープルの家のある村に向かうため、ここで分かれることに(3枚目の写真)。トラクターの運転手の横に座っていた女性がお金を要求し、お金を管理しているタイトクが、1cmほどの厚さの紙幣の束を渡す。

5人が野道を歩いていると、反対側からサイドカー〔豚を1頭乗せた荷台〕付きの3輪バイクがやってくる。ここでもタイトクがお金を渡し、全員を荷台に乗せてパープルの村まで送ってもらう(1枚目の写真、矢印)。その途中の俯瞰映像の中で、日本にはない岩山の風景が映る(2枚目の写真、矢印はバイク)。そして、バイクから降りた5人は、山麓の村に向かって歩いて行く(3枚目の写真)。

村に着いても、誰一人いない。トーマが 「みんなはどこに?」と訊くと、パープルは 「みんな出てっちまった。だが心配ない。俺たちの村は、誰であろうと歓迎する。家を選んで。2つでもいい」と言い、アローとキアを先に行かせる。2人は喜び勇んで村に入って行き、家の中にも入り込む。外に出て行くと、キアが地面に落ちていた丸い果物を投げ、アローが棒をバッド代わりにして打つ。3球目にキアが拾ったのは、赤黒い球。キアが投げ、それをアローが打とうとすると、パープルが手を伸ばして玉をキャッチする(1枚目の写真、中央上の矢印は球、右下の矢印はバッド代わりの木の棒)。キアが、「叔父さん、遊んでるだけよ!」と、邪魔したことを責めると、パープルは嫌がるキアの髪の毛をつかんで引っ張っていくと、キャッチした球を野原に向かって投げる。すると、爆発が起きる(2枚目の写真)。その音を聞いて、1軒の家の入口に座っているパープルのところに、トーマが 「今、何が起きたんだね?」と訊きに行く。すると、横に置いたあった “さっきと同じ赤黒い球” を手に持つと、「ボンビー〔不発の小型爆弾〕。果物みたいだろ? だけど、中には、数百発の弾丸が詰め込まれてるんだ。だから、バン」と言うと、自分の横に置く。そして、「もう、家は決めたかね?」と訊く。トーマは、「ここは。死の臭いがする。明日はChomsavanに行くよ」と、この危険な村に見切りをつける(3枚目の写真、矢印はボンビー)。

翌朝、パープルは 爆撃でできた穴の中で、酔っ払って眠っている。トーマとタイトクは、直接Chomsavanまで乗せてもらえば楽だったのに、わざわざこんな危ない所まで連れてきたパープルなんか置いて行こうとするが、キアが、「わたし、父さんに、伯父さんの面倒をみるって約束したの。置いてはいけない」と言ったので、村で見つけたリヤカーに酔っ払いを乗せて、出て行く〔リヤカーを押しているのはトーマとキアの2人だけ。アローはパープルを見放した〕。しかし、次の坂道を登るシーンでは、4人全員でリヤカーを押している。パープルはどこまでも迷惑な人間だ。こんな手段で、どうやって長い距離を乗り切ったのかは分からないが、次のシーンでは、近代的な橋の上を多くの車や人々が渡っている(1枚目の写真)〔背景の山が印象的〕。トーマが、他の人たちが進む方向とは逆方向にリヤカーを牽き、その前をアローが歩いている。すると、車に乗せた拡声器からの声が響きわたる。「皆さん、史上最大のロケット競技会まであと2日です。優勝すれば多額の賞金がもらえます」(2枚目の写真)。それを聞いて立ち止ったアローに、トーマは 「早く先に行け」と言うが、アローは競技会に出たくなり、たまたま横に立派な家が見えたので、どうやって説得したのかは不明だが、次のシーンでは全員でその空き家に移っている。その不法占拠を誰かが報告したらしく、バイクに乗った2人の男性がやってくる。そして、年長の方が、「悪いな。みんながここに住みたいと思っとる、だが誰にも許されとらん。あんたたちもだ。明後日のロケット大会を楽しんだら…」。そこに、アローが割り込む。「おじさん、優勝したら賞品もらえるの?」と訊く。トーマは 「アロー、町長さんだぞ」と諫めるが、どうして町長だと分かったのだろう? 話を邪魔させられたにも関わらず、町長は、「今年は実に雨不足でな。雨が降るようお願いして、ロケットを打ち上げるんじゃ」と説明する(3枚目の写真)。すると、パープルが突然奇妙なことを言い始める。「コウモリの糞… これで爆発物を作れば… ドカーン! とんでもない爆弾ができる。何があっても、こんなトコには住めんな」。それを聞いて呆れた町長は、トーマに向かって 「2日経ったら出て行け」と命じて去って行く。

アローは、「僕、ロケットを作りたい」と言い出す(1枚目の写真)。「僕らが勝てば、ここを買うことができるよ」と言うが、その言葉は、誰からも完全に無視される。そして、タイトクはキアにお金を渡し〔アローは信用ゼロなので渡さない〕、アローと一緒に米を買ってくるよう命じる。2人は遊園地の原始的な回転式フライングチェアに乗って遊ぶ。次のシーンでは、アローが、簡単なロケットを作っている僧侶にいろいろと質問をして、最後に導火線が要ると教えてもらう(2枚目の写真)。そこで、小型のロケットを作っている別のグループの所まで来ると、キアにその前でダンスをさせ(3枚目の写真)、製作メンバーがそれに気を取られている隙に、アローが導火線をかっぱらう(4枚目の写真、矢印)〔盗みは悪い行為なので、敢えて、あまり使わない日本語で表記した〕

ご機嫌で仮の住まいに戻ってきたアローは、タイトクに米袋ではなく、いろいろな物の入ったポリ袋を渡し、彼女が文句を言うと、余ったお金を返して、「ロケットを作りたい」とくり返す。タイトクが袋の中身を口に入れ、変な味なので、焚き火に向かって吐き出すと、火が燃え上がる。キアが 「爆薬よ」と言ったので、タイトクは 「わしらの頭を吹き飛ばしたいのかえ?!」と怒る。アローは、トーマに向かって、3度目になるが、「僕、ロケットを作りたい。勝てばすごい賞金もらえる。土地と家、マンゴーを植える場所まで買えるよ」と言う(1枚目写真)。それに対し、初めてトーマが意見を言う。「ダメだ。マンゴーのことは忘れろ。腐っちまう。明日、俺たちは町に行く。そこにはたくさん工場があるから、みんなで働けばいい」と常識的だが、弱気な発言をする。それに対し、アローは 「イヤだ。ロケットを作って、お金を勝ち取ろう。工場で働くよりいい。お願いだ、父さん、僕に作らせて」と頼む。それに対し、一部意見を変えたタイトクは、「ダメじゃ、お前はわしら全員を殺しちまう」と言うと、今度はトーマに向かって、ロケットを作るよう強く促す。それを聞いたアローが、「僕、手伝うよ」と言うと、①アローは他人の守護霊の家を冒瀆した、②爆発でみんなを殺しかけた、③マリはアローが双子だということを隠していた、ことを挙げて拒絶する。それを聞いたアローは、「自分でやるよ。大嫌いだ!」と叫ぶと、仮の住まいから走って離れて行く。アローは、ロケットの本体となる真っ直ぐで、太さが変わらず、断面が真円に近い竹を探して歩くが、なかなか見つからない。そこにキアが現われてアローを慰める。アローは、「みんなを殺しちゃったら、どうなる?」と不安を覗かせる。それに対し、キアは、「わたし、幽霊だと思う」と言い、その言葉で何となくホッとしたアローは、トーマから奪ってきたマリの唯一の形見、赤いコットン布をキアに掛ける(2枚目の写真、矢印)。2人は、ロケットに一番適した竹を切り出すと、仲良く担いでいく(3枚目の写真)。

1人になったアローは、「危険!! 不発弾〔UXO〕!!」という赤い鉄板が掲示してある場所(1枚目の写真)にわざと入っていく。それは、中にある爆弾からロケット用の火薬を採取するためだった。アローが中に入ると、爆弾が半分以上埋まったまま放置されている。アローは、「眠ってる虎だ」と言い、先端の尖った部分に開いている穴から木の枝を突っ込み、こじって開けようとするが、簡単に枝が折れてしまう(2枚目の写真)。そこで、今度は持って来たロープを先端の尖った部分に巻き、そのロープに枝を入れて尖った部分を回転させ、大きな石を拾って頭上に上げ、それを先端にぶつけるが、びくともしない。がっかりして林から出て行くと、先ほどの衝撃に遅延して反応したのか、爆弾が爆発し、凄まじい爆煙が立ち上(のぼ)る(3枚目の写真)。アローは運良くケガ一つせずに済んだ。

1人でやることを諦めたアローは、役立たずの飲兵衛のパープルに助けてもらおうと、酔っ払って眠っているパープルの顔に、バケツ1杯の水をかける(1枚目の写真)。そして、謝りもせずに、「あんたは、アメリカ人のために戦った。コウモリの糞から、どうやって爆薬を作るんだい?」と乱暴に訊く。パープルは、歩きながら、「コウモリの糞をバケツ2杯、硫黄と木炭を少々用意して、混ぜろ。そしたら、お前さんの竹竿は月まで飛んで行くだろう」。2人は発射台の前を通り過ぎる(2枚目の写真、矢印はアロー)。「いいか、ロケットが勝つためには、目を見張らせないとな。一番大事なのは塩だ。ナトリウム〔塩はNaCl〕を入れると派手になる。そして、ポイットから曲げた銅の棒を取り出して見せる。「銅だ。これをやすりで削って混ぜる。銅を入れると青くなる。空一面、壮観だぞ」。そして、最後のアドバイスは、「アンモニアだ。火薬に小便をかけると、ばく進するぞ」(3枚目の写真)。https://mytour.vn/ というサイトの「コウモリに関する最も興味深い事実トップ15」の中の一つに、「科学者の分析によると、コウモリの糞には硝石、つまり硝酸カリウムが大量に含まれている。この化学物質は、多くの種類の肥料の主成分であるだけでなく、火薬や導火線の製造にも使用される。過去において、特に南北戦争中、コウモリの糞は両陣営にとって重要な資源と考えられていた……コウモリの糞から火薬を作るプロセスは非常に簡単で、洞窟の中でコウモリの糞を水に溶かし、濃縮して乾燥させ、木炭の粉と混ぜるだけで出来上がる。木炭は還元剤として機能し、硝石は酸化剤として機能する」と書かれている。また、別の場所には、「南軍にとって幸運だったのは、火薬の製造に必要な 3 つの成分、硝石、木炭、硫黄があったから」と言う記述があり、これらは、パープルの 「コウモリの糞をバケツ2杯、硫黄と木炭を少々用意」という言葉と一致する。また、日本のサイト 「写録番外編」というサイトの「タイ追憶48: 百万匹のコウモリと火薬の話」の中で、「昔は、タイの輸出品の第一位は米で、第二位はコウモリの糞から取った火薬の原料だった」と書かれている。そのあと、徹底的に調べてみたら、「ラオスで、コウモリの糞は、伝統的にバンファイ・ロケットの火薬の原料として使われてきた(Traditionally, guano was the source used in Laos for the manufacture of gunpowder for Bang Fai rockets)」という一文があった。しかも、この一文は、全く同じ単語で、多くの本、pdfなどにワン・パターンで使われている。要は、同じ引用を、それが正しいかどうかチェックせずに使いまわしているにすぎない。この一文が事実だとしても、問題は、「いつまで?」という点にある。現在では黒色火薬が使われていると書いた資料もある。実際はどうなっているのだろう? アローだけがコウモリの糞を使い〔しかし、実質1日で、糞が火薬になるとは、どこにも書いてなかった〕、他の参加者は黒色火薬だったのだろうか?

アローはコウモリが飛び交っている山肌にある洞窟の中に一人で入って行く〔パープルは中に入るのを拒絶した。その時の 最後の言葉は 「キアの世話を頼む」〕。ロウソクを持って真っ暗な洞窟に入っていったアローは、天井にいっぱいいるコウモリなど気にせず、床に落ちた糞をかき集める(1枚目の写真、矢印は糞)。アローが洞窟から出て行くと、守護霊の家の前にパープルはおらず、1枚の少年兵士の古い写真が置いてあり、裏には、「Yang Pao 1966」と書かれていた。パープルの昔の写真だ。なぜ彼が置いて行ったのかは分からない。パープルは、他にも、曲げた銅の棒も残しておいてくれた(2枚目の写真、矢印)。よして、翌日になり、いよいよロケット競技会が始まる。主催者は、マイクで、「お早う、みなさん。今年のロケット競技会は、当委員会が主催するこれまでで最大のものとなります」とアナウンスする。辺りでは、食品が用意され、賭けも行われ〔出場者も公表させていないのに、どうやって賭けるのだろう?? この中に、アローやトーマの名は、もちろんない〕。「今年は、史上最大のロケット「ミリオン」が登場します。このロケットは昨年優勝しました。チームは500 万キップを獲得しました。しかし、今年の賞金はさらに大きくなり、1000万キップの現金がもらえます」〔1キップは2012年が当時の約0.00996円、2010年が約0.01063円、2005年が約0.010344円なので、1000万キップは約10万円。あまりに違いすぎるので、これだけでは価値が分からない。そこで、「ラオスの高所得層の住環境とエネルギー消費」という学術論文を見ると、2012年の所得階層別の月当たりの平均消費額の表があり、上位20%の階級の消費額が約456万キップとあるので、1000万キップは、この映画が公開前年の社会を描いているとすれば、上位20%階級の僅か2ヶ月分となる。一方、下位20%の消費額は約78万キップ。これだと1000万キップは約1年分に相当する。何れも、たいした額ではない。ラオスの消費者物価指数の推移の表を見ると、もしこの映画が1990年を舞台としていれば、物価は2012年の0.038と極端に低く、これだと先ほどの下位20%の消費額も3万キップとなり、1000万キップは28年分に増加する(この時代には、高所得層はもっと少なかったので、単純な比較はできないが、他に資料がみつからなかった)。2000年とすれば、0.429とかなり増加し、1000万キップは2.5年分にしかならない〕。一方、アローは、もう競技が始まるというのに、竹筒に木炭〔どこで手に入れたのだろう?〕の粉を入れる(3枚目の写真)。その間にも、ロケットはどんどん打ち上げられて行く。トーマも自分で作ったロケットを持って順番を待っている〔ロケットの知識もないのに、どうやって一人で作ったのだろう? 僅か1日で材料の調達はどうやって?〕。アローは、銅も削って粉末状にしている(4枚目の写真)。

アローは、コウモルの糞を練ったような物を手に取ると、「テストしてみないと」と言い、藁で作った小さなロケットに糞を入れ、火を点ける。すると、小さな煙が 「プシュ」と噴き出して終わる(1枚目の写真)。アローは、練った糞に塩を混ぜる(2枚目の写真、矢印)。今度は、もう少し大きな音がして、煙もたくさん出る(3枚目の写真)。そのあとも、アローはいろいろと試すが、その結果どうなったかは映らない。

ロケット競技会では、それまでに失敗作もあり、そうした場合は作った男が泥水の中に投げ込まれるという制裁が加えられる。また、ロケットがその場で爆発して、作った男が吹き飛ばされて地面に落下、重傷を負う場面もある(1枚目の写真)〔なぜ、男がロケットと一緒に、打ち上げ台の頂部にいるのか? ⇒⇒ それは、ロケットはどこにも固定されておらず、打ち上げる男がロケットを手で押さえ、他の物に、最下部の導火線に点火してもらい、火が点いてからしばらくしてタイミングを計って手を放すと、ロケットが飛び出すという、きわめて原始的なやり方。だから、タイミングが悪いと、うまく飛ばなかったり、変な方向に飛んだりし、その “下手さ” が泥水制裁の理由だった〕。その後も打ち上げは続くが、タイトクは用意を進めるトーマに向かって、「競争なんかやめた方がええ。町にはわしらにできる仕事がようけある」と言い、危険な挑戦をやめるよう言い出す。しかし、トーマは自作のロケットを持って発射台に登って行く。そして、現場で拡声器を持った男から、ロケットの名前を訊かれ、そんなこと考えたこともなかったので首を振ると、下から、タイトクが 「ラッキー!」と叫ぶ。そこで、ロケットの名前はラッキーになる。導火線に点火され、火が筒の中に入った時、別のロケットが隣の発射台から発射され、それを見て驚いたトーマは、手を放してしまう。トーマのロケットは、彼が手を放して少し下に落ちてから噴射を始めたので、変な方向に飛んで行き(2枚目の写真、矢印はトーマ)、タイトクは、「すぐに放すなと言ったじゃねぇか!」と叱る。降りてきたトーマは、その拙さから、泥水に放り込まれる。その頃、アローは。出来上がって、あとは竹筒に詰めるばかりになった火薬に小便をかける(3枚目の写真)。これで、パープルに教えられたことはすべて完了したことになる。

会場では、いよいよ、「ミリオン」が打ち上げられる。1枚目の写真は、その発射の場面。大勢の人が発射を見守っている。このあと、ロケットは空に向かって真っ直ぐ上昇していき、誰もが、優勝は「ミリアオ」だと思う。その時、審査員の席が映るが、テーブルの上には、分厚い札束が最低でも20個は入っていそうな布の袋が置いてある(2枚目の写真)〔後の疑問につながる〕。周辺にいた人々がお祝いをしている中、竹筒を1人で持ったアローが発射台に近づいて来る。そして、「どいて! どいて!」と声をかけて、邪魔な人混みのなかを通って行く(3枚目の写真)。発射台の下まで着いたアローに、拡声器の男が名前を訊く。アローは、「ナキヤ」と言う〔英語の字幕では bat(コウモリ)になっていて、如何にもそれらしいが、ラオス語のコウモリはໂຕເຈຢで、発音はot che y。アローが本当はどう言ったのかは確定できなかった〕。アローが発射台を登り始めると、拡声器の男は、「ガキは、登っちゃダメだ」と言い、審査員の1人(町長)が立ち上がって、拡声器の男に、「その小さな子を降ろすんだ。登らせちゃいかん」と命じる(4枚目の写真)。

下に降りたアローは、トーマの前に来ると、「父さん、僕のロケットの打ち上げ手伝って」と頼む。トーマは何も言わない。そこに、タイトクが、群集を押し分けてやって来ると、「トーマ、おやめ。あんなの打ち上げたら、絶対ダメじゃ。お前の頭が吹っ飛ぶし、他の連中のもじゃ。アロー、やめるんじゃ。許さん。お前は誰にでも死と悲劇をもたらす。お前は悪魔の子なんじゃ!」(1枚目の写真)。この怒りと侮辱に満ちた非難を受けても、アローは、観衆に向かって、「僕のロケットの打ち上げ、誰か助けて! お願い手伝って! 僕のロケット、絶対打ち上がるから、お願いだよ!」(2枚目の写真)。しかし、タイトクの脅しが効いたのか、誰も動こうとはしない。アローは、もう一度発射台に登ろうとして排除される(3枚目の写真)。

絶望したアローは、会場から出て行く。それを見たトーマは、アローのロケットを持って発射台に登って行く(1枚目の写真)。キアは、すぐにアローを呼びに走って行く。キアから話を聞いたアローが、走って戻る。発射台では、頂部化までロケットを持って登ったトーマが、導火線への点火を求める。そして、ロケット本体から勢いよく火が噴射される(2枚目の写真、矢印はトーマ)。それを見たアローは、もう一方の低い発射台に無断で登っていくと、トーマに向かって、「放して!!」と叫ぶ(3枚目の写真)。

タイミングが良かったお陰で、ロケットは見事に上昇を始め(1枚目の写真)〔「小便をかけると、ばく進するぞ」〕、雲を突き抜けてどんどんと上昇していく(2枚目の写真)。そして、「銅を入れると青くなる。空一面、壮観だぞ」の言葉通り、雲の中で花火のように光を放つ(3枚目の写真)。それを見た審査員たちは高得点を点けるが、そこに、待ち望んでいた雨が降り出す。

雨に濡れたアローとキア。キアは、「アロー、これって、あんたの母さんが送ってくれたメッセージよ」と言い(1枚目の写真)、アローを喜ばせる。トーマは、息子を誇りに思い、高く持ち上げてじっと顔を見る(2枚目の写真)。そこに現れた町長は、「あのロケットは本当に高くまで飛んだ。天空の神々の尻を突いたから、しょんべんが雨となったのだ。あんたの息子さんは大したもんだ。あんたたちは、っこに住んで、好きな物を植えるといい。あんたたちは幸運な一家だ」というと、分厚い札束を1個アローに渡す(3枚目の写真、矢印)〔ここが、先に述べた「疑問」。アローが受け取った札束は、審査員のテーブルの上に山積みになっていた札束の1つに過ぎない。他の札束はどうなったのだろう? 雨を降らせたのはアローのロケットなのに、残りは、「ミリオン」に渡したのだろうか? それとも、袋に入らないほどの札束の量なので、取り敢えず1個渡し、後から家に残りを届けるのだろうか? 何となく、釈然としない〕

最後は、厳しかったタイトクも、人が変わったようにご機嫌になり、トーマはキアをわが子のように扱う(1枚目の写真)。それを見届けたパープルは、三輪の荷車に乗って、アローに敬礼して去って行く(2枚目の写真)。これは、彼が最後に行った言葉、「キアの世話を頼む」を意味する、別れの挨拶なのだろうか? そのキアからは、芽を出したマンゴーを渡される。アローは、「マリのマンゴー」と言って微笑む(3枚目の写真)。持って来た10個ほどのマンゴーを、新しい土地に植えれば、母が夢見ていたマンゴーの林が出来上がる。一人増えて一家4人となったアローの一家は、農民として幸せに生きていくことができるであろう。

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