イギリス映画 (2013)
映画の題名の元となった『わがままな大男』は、アイルランドの19世紀の作家オスカー・ワイルドが1888年に出版した『幸福な王子』という童話集に含まれる5編の物語の一つ。しかし、映画は この童話と直接の関係は何もない。原作の童話の大男の家には 「柔らかい緑の草が生えた、広くて素敵な庭」がある。大男が7年間不在にして戻って来ると、子供達が庭で楽しく遊んでいた。そこで、大男は子供達を締め出し、庭の周りに高い壁を巡らせ、立入禁止の札を立てた。それ以後、大男の庭は常に冬となる。そういう意味で、多くの評論家は、この庭が、映画の中の金属スクラップ集積場に該当するのではないかと述べている。ということは、スクラップ場の持ち主キトゥンが “わがままな大男” ということになる。確かに、彼は、主人公のアーバーには、もっと上等の銅を持って来るよう要求し、スウィフティには愛馬ディーゼルの世話を要求する。キトゥンは常に厳しくて悪い男だったが、最後にアーバーを救う。これは、童話の中で大男が、“一人の男の子” を抱き上げて木に乗せてやることで、事態が一変する場面を連想させなくはない。しかし、映画の中でわがままな大男はキトゥンだけではない。アーバーが廃品回収による金儲けに没頭するあまり、最大の悲劇を生んでしまうという映画の本編の状況は、アーバー、イコール、“わがままな大男” であることを強く示唆している。アーバーはスウィフティの代わりに馬を愛する少年になるが、この部分が、わがままな大男の改心に相当する。そうなると、もう一人の主人公スウィフティは何なのか? それは、わがままな大男の心を変えた “一人の男の子” であろう。この男の子は、原作の最後で、イエス・キリストだと分かる。どこまでも優しく、最後は、イエスが磔にあったように、死んでしまうスウィフティ。まさに、“一人の男の子” にぴったりだ。こういう風に見て来ると、この映画は、十分に原作を反映していると言うことができる。
上記の紹介では、ほとんど関係がないとされる原作と対比し、言われているより多くの類似点のあることを指摘した。ここでは、19世紀に栄えた産業の町が、如何に衰退してしまったかという視点から映画を見て行こう。2人の主役のうち、アーバーは、母子家庭。兄は麻薬中毒で、本人は多動性と衝動性を2症状が特徴のADHD。多動性は 「好きなこと以外に対する集中力がなく ほとんど関心や興味を示さない」症状で、彼が好きになったのは、銅製品を主体とする “金目になる金属” の回収と窃盗、衝動性は 「よく考えずに即座に行動に移す」症状で、それは回収と窃盗の仕方に100%現われている。ここで、産業の町との関連性は、人口規模の割に巨大な金属スクラップの集積場があること。そして、銅線を用いた各種のケーブルを盗み、痕跡を完璧に隠すような窃盗犯が横行し、それがアーバーに強い影響を与えるような社会であること。もう一人の主役のスウィフティは、両親を入れれば10人家族で、居間にはテーブルやイスもないほど生活に困窮した家庭だ。その原因は、働く気の全くなさそうな父親と、子供の世話で手一杯でアルバイトもできない母親にある。これが、活気のない没落した町ではなく普通の町だったら、こんな家族はできなかったかもしれない。2つの家族共に、かつての大英帝国の負の遺産を濃厚に感じさせる。映画そのものは、アーバーの金属スクラップ回収が一種の趣味と化し、どんどん深入り行き、それにスクラップ回収業のキトゥンが絡み、より危険な窃盗へと駆り立てる。スウィフティは、そのようなアーバーを止めようとしてもできない。キトゥンは本業のスクラップ回収業よりハーネスレース用の馬との交流に傾倒し、それがアーバーの嫉妬を生み、彼は、見放されたと感じた分、ますます過激になっていく。そして、その頂点としての非常に危険な地下ケーブルの盗み。これが3人の人生を大きく変える。その変え方も、如何にも崩壊の危機に瀕したミッドランド地方に相応しい暗澹たる雰囲気に満ちている。
この映画の地方訛りはかなりひどく、シカゴトリビューン紙のレビューには、「『わがままな大男』は、英国を舞台とした英語の映画でありながら、字幕が付いている」と書かれている。つまり、シカゴで劇場公開された時に、英語字幕があったのだ。それくらい、聞き取りにくい方言なので、この紹介でも その雰囲気を活かすことにした。以前、『Billy Elliot the Musical Live(ビリー・エリオット/ミュージカルライブ)』(2014)を紹介した時、舞台が、ダラム地方なので博多弁を使用した。今回のブラッドフォードは、ダラム地方よりは100キロ以上南にあるが、共に、産業革命期の大英帝国を産業で支え、今では没落した地方という点では似ているので、ここでも博多弁を使用する(標準語からの変換に当たっては、いつもお世話になっている、https://www.8toch.net/translate/ を利用させていただいた)。
アーバー役は、コナー・チャップマン(Conner Chapman)、1998年6月8日生まれ、撮影が2012年夏とすれば、撮影時14歳。映画に出演したのはこれが初めて。ロンドン映画批評家協会賞の今年の若手英国俳優、ロンドン映画祭の最優秀英国新人賞(審査員賞)、ハンプトン国際映画祭の審査員特別賞を受賞。スウィフティ役は、ショウン・トーマス(Shaun Thomas)、1997年5月30日生まれ、撮影が2012年夏とすれば、撮影時15歳。映画に出演したのはこれが初めて。ロンドン映画祭の最優秀英国新人賞(審査員賞)を共同受賞。
あらすじ
夜、ブラッドフォード(Bradford)〔市のホームページによれば、町は当初、羊毛の紡績や織物で栄え、19世紀半ばには人口10万の “世界の羊毛の首都”となり、その後の各種産業の成長で急速に人口が増え、1897年に市となったとある〕に住む2人の13歳の少年、アーバーとスウィフティが、市の外れにある野原で見つけた荷役用の馬に乗って鉄道を跨ぐ煉瓦アーチの上で(1枚目の写真、矢印は子供達)、大きな缶入りドリンクを交互に飲んでいると(2枚目の写真)〔何を飲んでいるかは不明〕、橋の下の複線のレールの片側を、2人の男が懐中電灯を持って歩いて行く。スウィフティは、何をしてるのか見に行こうと、馬を歩かせて、橋の下まで行くと、見つからないよう馬を隠して近寄って行く。そして、レールに平行して設けられた “蓋を被せた管路” の中から黒いビニールで覆われたケーブルを引き出し、レールの上にS字状に重ねていく。しばらくすると、そこに電車がやって来て(3枚目の写真、矢印はケーブル)、レールの上を走って行く時、ケーブルをすべて切断していく〔このケーブルが何なのかは映画では分からない。たまたま見つけた読売新聞のオンライン記事(2024年3月15日)に、「山口県内のJR西日本・宇部線、山陽線で2月、線路の部品レールボンドが切断されてなくなる事件が相次ぎ、窃盗容疑で3人が逮捕された」と書いてあった。しかし、「レールボンド」を調べてみると、レールの継ぎ目でレール同士を電気的につなぐもので、短く、映画のケーブルとは全くの別物。しかし、こちらも銅線の窃盗行為であることに違いはない〕。
2人の窃盗犯は、切断されたケーブルを集め始める(1枚目の写真、矢印はケーブル、右側の髭男がミック、左側のタレ目がラルフ)。すると、2人が急に走って隠れる。それは、レール上を鉄道の検査員1人が懐中電灯を持って線路を歩いて現れ、携帯で 「もうすぐ現場です」と話すのが聞こえたから〔ケーブルが切断されたとすぐに分かったことになる〕。そして、切断現場に着くと、「道具が放置。確実です。何人か寄こして下さい」と知らせる。その時、アーバーが忍び寄って来るのが見えたので、2人目の窃盗犯が、「失せろ」と小声で言うと、それを聞き付けた検査員が懐中電灯で照らし、男に向かっていき、逆に男に殴られて倒れる。その隙をついて、アーバーは置いてあったケーブルを掴むと逃げ出す。それを見た窃盗犯2人は、馬に乗って逃げて行く2人に向かって、「こんクソチビぬすとめ!」と怒鳴るが(2枚目の写真)、相手が馬に乗っているので何ともできない。2人が向かった先は、ブラッドフォードにある「クリス・ケイン金属」という金属スクラップ回収業者のゲート。番犬が吠える中、アーバーは、「この施設は閉回路テレビで監視されている」と書かれた板をバンバン叩いて、「入れてくれ!」と叫ぶ(3枚目の写真)。
馬に乗ったスウィフティは、遠くまで見えるので、「誰か来る。斧ば持っとー」とアーバーに教えると、すぐに、スクラップ回収業者が 「まだ開いとらん。お前たち誰や? なん用や? 俺ん馬になんで乗ってやがるったい?」と立て続けに訊く。アーバーが、「ケーブルばい、見つけたんや」と見せると、回収業者は、スウィフティを馬から掴んで降ろし、ゲートを開けたので、2人は中に入って行く。アーバーは、「僕ら、あん馬借って、ブラブラ乗っとったんだ。あんたん馬やと知らんやった。野原につないであったけん」と弁解するが、つないであったのなら、持ち主に無断で乗ったことに変わりはない。叫び声を聞いて出てきた女性に、回収業者は 「大丈夫や」と声をかける(1枚目の写真、矢印はアーバーが背負ったケーブル)。この回収業者は、通称キトゥン〔子猫〕という、実態とはかけ離れた愛称で知られている名立たる違法売買の業者。2人を作業場に連れて行くと、ビニールで被覆された銅線を見て、キトゥンは、「どげんバカでも知っとるぞ。外被に番号があるけん、俺に渡す前に剥がしとかないかん」と注意する。そう言うと、機械にかけて簡単に剥がしてみせる(2枚目の写真)。そして、「マークが付いとる場合は燃やしぇ」と言う。アーバーが、「マークって?」と訊くと、小さなUV懐中電灯で2人の顔をそれぞれ照らすと、顔にいっぱい線が付いている。「どこで付いたと?」。「スマートウォーターや」〔化学物質の組み合わせにより、100億通りにのぼる2進数コードを表現できるという液体。盗品に塗布されていれば持ち主を突き止めることができるほか、皮膚や衣服に何ヵ月も残るため、容疑者の身体から検出された場合は有罪の決定的証拠となる。紫外線を当てると蛍光色の斑点が浮き出る〕「こげんもん持って、二度とここしゃぃ来なしゃんな」。そう言うと、2人を外に出し、それぞれ、20ポンド札〔当時の3000円弱〕を1枚ずつ渡す(3枚目の写真、矢印)。
一晩眠らなかったアーバーとスウィフティは、アーバーの家に行くと、アーバーは居間の小さなソファに、スウィフティはその下の床に寝る(1枚目の写真)。麻薬中毒の兄は、2人の前の小さなソファ〔居間には、2人用のソファが2つ置いてある〕に座ると、意味不明のことを喚きちらして、2人を眠らせない(1枚目の写真)。そこにアーバーの母が入って来ると、「ほら起きて。クリニックん予約があるやろ。こんどナメたら許しゃんけん。2人とも起きて。たいがいにんしゃい。学校、ずる休みする気?」と、何が何でも2人を起こす。すると、アーバーは 「お金ば稼いだんや」と自慢し始める。母が 「どこで、もろうたと?」と訊くと、「稼いだて言うたろ」と言い返す。「どこでもろうたんか言いんしゃい!」。「ばり頑張ったんや、あんたんために!」(2枚目の写真、矢印はお札)「なんに、認めようともしぇん! こんクソ恩知らず!」と、ADHDを丸出しにする。母は、アーバーが薬を飲んでいないと思い、薬を飲んだか尋ねると、そこに麻薬中毒の兄まで入って来て、ますます口論がひどくなり、スウィフティは呆れて見ている(3枚目の写真)。
学校でのアーバーは、勉強なんかそっちのけで、離れた席のスウィフティに呼びかけたり(1枚目の写真、右の生徒のさらに3人向こう)、教師が前に来て注意すると、生徒全員に渡されていた紙〔試験問題?〕を鉛筆と一緒に投げ捨て、「すぐに拾いなさい」と何度も注意されると、「んじゃあ、吸い上げるか」と言い、生徒達を笑わせる(2枚目の写真)。その後も、拾う、拾わないでモメ続け、授業が終わるベルが鳴ると、一番に部屋から飛び出して行く。教師が、教室に戻るよう声をかけても、「なんてクソな日や。教室なんかばり好かん」と、面と向かって教師に言い(3枚目の写真)、そのまま出て行く。
学校からの帰り、2人はスウィフティの家の近くを歩いている(1枚目の写真)。スウィフティは背が高い分、首を下げて歩くため、それが弱いイメージを与え、クラスメイトによってバカにされる原因になっている。2人が家に入って行くと、スウィフティには7人の年下の弟や妹がいるので、狭いキッチンの中は子供達で溢れている(1枚目の写真)。父は定職に就いているようには見えず、電気代にも困っていて、母は大勢の子供達の世話もあって 疲れ切っている。父は、母から食事の皿をもらったら、居間に行って食べろと順に指示し、子供達がテーブルのない居間で、ソファに座って食べている。すると、玄関がノックされ、父は子供達を立たせる。そこにバイヤーが入って来て(3枚目の写真)、人工革のソファを(父は300ポンドと言ったが)250ポンドで買うと言い、2人で狭い玄関ドアからぎりぎり運び出す〔今後、この家では、立ったままか、床に座って食事をすることになる〕。
翌日、2人は学校に行く途中、アーバーは、キトゥンの金属スクラップ集積場に入って行き、「もっと、ケーブル欲しか?」と声をかける。一方、キトゥンは、ハーネスレース〔1頭の馬が、ハーネスと呼ばれる軽量の人用二輪車を牽いて速歩で速さを競う競技〕に出す愛馬と青年を敷地内で走行させて様子を見ていて、アーバーは邪魔なだけ。キトゥンは、青年に向かって、「もっとうもう〔巧く〕やらんか!」と不満げに叫ぶ(2枚目の写真)。馬が好きなスウィフティは、「手綱ばきつう握りすぎとーばい。やけん、進もうとするとば引き戻しとーったい」と教え、キトゥンは青年に向かって 「手綱ば緩めれ」と注意する(3枚目の写真)。馬が向こうに行くと、キトゥンは、「そげんこと、どこで覚えた?」とスウィフティに訊き、彼は、「小しゃか頃、ロードレースに連れてかれたけん」と答える。アーバーは、ケーブルの話を無視されて、スウィフティが評価されたことが面白くないので、半ば けなすように 「こいつ〔スウィフティ〕、馬に夢中なんや」と キトゥンに言う。
2人は、そのあと学校に行くが、放課時間中、校庭の隅でスウィフティがロクデナシのクラスメイト1人に、虐めとも言える嫌がらせの言葉を浴びせられている。「お前んお袋は能なしだ。それに、親爺は生まれつきん精神障害や。お前んちは一生ひどか借金ば抱え続くるぞ」(1枚目の写真)。それに気付いたアーバーが駆けつけると、ロクデナシは 「サイコんダチが来たったい」と貶す。アーバーはロクデナシを羽交い絞めにすると(2枚目の写真)、「スウィフティ、くらしぇ〔殴れ〕。バカにしゃれっ放しにしなしゃんな。やっちまえ!」と煽り、スウィフティが思い切り殴ると(3枚目の写真)、相手はノックアウトされて地面に倒れる。すると、結果しか見ない愚かな教師がやって来て、2人を校長室に行かせる。
校長室の前でウロウロするアーバーには、中で怒鳴る母と、役立たずの校長の声だけが聞こえる。「なしてそげんこと話すと? うちば脅したかと? あんたに言うとくわ。うちゃあんたなんかいっちょんえずうなか〔全然怖くない〕。うちゃ2人ん子ばこん学校に通わしぇたばってん、あんたは2人とも見捨てたとよ」。ここで校長の門切り型の言い訳 「もっと大きな視点で物事を見ないといけませんよ」が入るが、母は、その言葉を打ち消すように、同時に怒鳴る。「追い出しゃれたら、あん子は、彼はどうすりゃよかと? だって、他に誰も引き受けてくれんやなか?」。「フェントンさん、私たちが同時に話したら、お互いに言っていることが聞こえなくなってしまいます」。「あんたん話なんか、もう聞きとうなか」。「彼にとって、普通の学校は適切な場所ではないと思います。残念ですが」〔代案を提示しないまま退学させる校長は最低だが、イギリスの教育制度はそんなにお粗末なのだろうか?〕。アーバーの母は、校長の話の途中で、さっさと部屋を出て行くと、外でスウィフティと並んで座っていた息子に、「あんた、退学ばい」と言う(1枚目の写真)。あとから出てきたスウィフティの母は、息子に、「あんた、10日間の停学ばい。相手は脳震盪ば起こして、病院に連れてかれた」と言うと、アーバーの母は 「アーバーが彼ば守っとったと。そして、彼んために立ち上がったと」と、ある意味、自分の息子の関与を弁護する(2枚目の写真)〔しかし、「殴れ」と強く促したのはアーバーで、彼がそう言わなかったら、2人とも退学や停学にはならなかった。だから、この母の言葉には、ADHDの息子を御しきれない甘やかしへの無反省が感じられる〕。そのあと、アーバーは、スウィフティの母に、「彼ば、トラブルに巻き込むつもりはなかったとです。ごめんなしゃい」と謝る〔こちらは、完璧な謝罪の言葉〕。アーバーとスウィフティは一緒に学校から出て行き、その少し後を、2人の母親が付いて行く。アーバーは、スウィフティに 「すごかね。学校に行かんでよかばい。スクラップば集めて金ば稼げるぞ」と話しかけるが、返事はない。
恐らく翌日、2人がシャッターの閉まった10軒ほどの商店の前を歩いていると、ポストの横に設置された正規のゴミ箱に、ベビーカートが畳んで立て掛けてある。アーバーは、さっそくそれを “頂く” と、それを金属ゴミの回収・運搬用に利用する。最初に入れたのが、ヤカンや鍋などの典型的で小さな金属ゴミ(1枚目の写真、矢印はアルミ鍋)。ある程度集めたところで、キトゥンの金属スクラップ集積場に持って行く(2枚目の写真、左上端の黒い爪は廃棄場用のクレーンの “掴む” 部分、その下のオレンジ色はフォークリフトの後部)。2人が持って来た物が、如何に小さくて “屑” なのかがよく分かる。キトゥンは、アーバーが誇らしげに見せたアルミの鍋など無視し(3枚目の写真。矢印はアルミ鍋)、他の子供達4人がやっている作業を手伝うよう命じる。
そこに白いバンが入って来るが、中にいたのは、映画の冒頭で、レールの脇のケーブルを盗もうとした髭男のミックとタレ目のラルフ。キトゥンが、何を持ってきたのか訊くと、ラルフが 「元電気ケーブル。識別マークなし、追跡不能、ピカピカん銅線。40。それぞれ、銅10キロ」と言い、銅線を四角く板状に押し潰した物を見せる(1枚目の写真)。そして、ミックが、「幾ら出す?」と訊く。「2500ポンド〔2 1/2 grand〕ばい」〔当時の約35万円〕。「バカ言いなしゃんな! 3500ポンド〔3 1/2 grand〕や」〔50万円〕。銅の相場は決まっているので、キトゥンは重量を軽く判断し、持って来た側は重く判断したので、結局、計ってみることにし、アーバーにベビーカートに移して運ばせる。最初に計ったのは、アーバーが持って来た銅の取っ手で、こちらは5ポンドが、会計係の女性メアリーから渡される。そして、問題の銅線を押し潰した塊に対しては(2枚目の写真)、2960ポンド〔約41万円〕が支払われる(3枚目の写真)。
ベビーカートを使った金属ゴミの回収では小銭しか手に入らないと悟ったアーバーは、「僕とスウィフティに馬と荷車ば貸して、ちゃんとしたスクラップば持って帰らしぇるってんなどげん?」と、スウィフティの意向も訊かずに勝手にキトゥンに提案し(1枚目の写真)、「やったこともなかしぇに」と笑われ、「ちゃんと学校に行くったい」と言われる。「学校なんかばり好かん。僕はクズんごたー生徒やし」(2枚目の写真)。それを聞いて笑い出したのが、後ろで聞いていたミック。アーバーは、「ねえ、待ちんしゃい、こっちは、ちゃんとした働き手ばい」と、またもスウィフティの意向を無視して、勝手に友人を利用する〔多くの映画評と違い、私はこの嘘つきの、友人に対する配慮ゼロで、自分のことしか考えないアーバーは大嫌いで 観ていて反吐が出る〕。アーバーとスウィフティが出て行くと、ミックは、キトゥンに、「あんた、やる気あんのか? 日曜、A65のチップ・アンド・ピン対ディーゼル戦」と訊く〔A65はブラッドフォードからまっすぐ北に向かう国道〕。「当たり前や」。キトゥンは2人を連れて外に出て行くと、ハーネスレース用の愛馬ディーゼルと、パッとしない騎手を見せるが、ちょうどその時、1人の作業員が10キロ以上ある鉄の切れ端を、巨大な分別用の鋼鉄カートに投げ込んだため、ディーゼルは急にいなないて暴れ出し、ダメ騎手はそれを制御できない。そのぶざまな姿を見てミックとラルフは大笑い。結局暴れるディーゼルを静めたのは、馬が好きなスウィフティだった(3枚目の写真)。
そして、映画中盤の見どころ、早朝のハーネスレース。多くの乗用車や小型トラックに囲まれるように、二輪車を牽いた競走馬が、A65を占領して走って来る(1枚目の写真)。ディーゼルが牽く二輪車も、チップ・アンド・ピンが牽く二輪車も、左右を車に挟まれ、非常に危険な状態でCGなしで走っている(2・3枚目の写真)。騎手が下手だったことが最大の原因となり、キトゥンのディーゼルは大差で負ける(4枚目の写真)。競争の後で、キトゥンが騎手の青年に 「失しぇろ!」と怒鳴ると、青年の方も、「あんた ただんジプシー野郎なんに、自分は偉か馬主やて思うてっから、みんな陰で笑いよーぞ」と、思い切り悪口を叩き、かんかんに怒ったキトゥンに首を絞められ、「今度会うたら、殺しちゃる!」と言われる。スウィフティは、騎手がいなくなったディーゼルの手綱を持つと、キトゥンに 「僕に任しぇて」と言う。アーバーは、「スウィフティ、僕ら、スクラップば回収するっちゃろ」と勝手に決めたことで反対するが、スウィフティはディーゼルを馬の運搬車に乗せる。
次のシーンは、スウィフティの家。男がドアをノックし、くたびれた顔の妻がドアを開けると、男の顔を見て、「お金なんかなかばい」と言う。男は、「なら、ソファば代わりに持っていく」と言うが、とっくに夫が別の男に250ポンドで売ってしまったので、「ソファもなかと」と言うしかない。その時、スウィフティが母の横に来ると、財布を渡す。財布の中にはお札が入っていたので、「これ、どげんしたと?」と息子に訊きながら(1枚目の写真、矢印)、男に渡すと、男は満足してドアを閉める〔ここで、絶対に変な点は、ソファは250ポンドで父が売った。つまり、この男に渡すべき借金は、ソファに相当する程度の金額となる。しかし、スウィフティがもっているのは、アーバーがもらった5ポンドの半額だけ。どうしてそんな少額で男は去ったのか?〕。母は、スウィフティに、「あれって、不正なお金なんやろ?」と訊くが、返事がないので、「あんたが、将来ちゃんと暮らしていきたかなら、学校に行かな」と言う。「今、停学中ばい」。「心から謝りゃあ、許してくれるかも」。次に、アーバーがスウィフティの家のドアをノックした時、母は 「あん子は、今、学校におるわ。あんたと、ここでぶらぶらしとーより、学校におる方がよかと」と言い、すぐにドアを閉める。アーバーは、窓を叩いて 「ばってん、僕、彼ば弁護したばい」と文句を言う〔自分が事件の発端となった反省が一切ない〕。一方、不親切極まりない学校では、スウィフティは校長室の秘書の前で、どれだけ待たされても、一向に校長が出て来る気配はない。アーバーは、まず、キトゥンの所に行き、「トミー〔冒頭に出てきた荷役用の馬〕ば連れてスクラップ拾いに行ったっちゃよか?」と訊くが(2枚目の写真)。「ダメだ」とあっさり断られる。「ねえ、チャンスくれや」。「ぐちゃぐちゃ言うな。ダメと言うたらダメだ」。「じゃあ、トミーは一日中つながれとーだけ。僕、ケーブルん束見つけたんや。手に入れらるーばい」。それを聞いたキトゥンは、「25ポンド〔quid〕あるか?」と訊く〔馬と荷車の貸し賃〕。「20ならあるばい」〔このお金はどこにあったのだろう? スウィフティの家よりはゆとりがあるので、小遣い?〕。スウィフティが、まだ校長室の前でボーっとして待っていると(3枚目の写真)、荷馬車をトミーに牽かせたアーバーがやって来るのが見える(4枚目の写真)。待たされるのにうんざりしたスウィフティは、外に出て行く。
アーバーは、そのままスウィフティを荷馬車に乗せて、目当ての場所に向かう〔スウィフティの服は、校長室に行った時と同じ〕。次の場面では、市街地で工事中のケーブルドラムごとスウィフティが転がして盗んでいく(1枚目の写真、矢印)。そして、それを郊外の野原に持って行き、斧で短く切ったケーブルを焚火に投げ込んで表面のビニールを燃く(2枚目の写真)。アーバーは焚き火のすぐ近くにある、木製の支柱の上に張られたより高圧の電線を見上げ、そこから下に伸びている、より太いケーブルを見て、「君ん腕と同じくらいんケーブルやけん、500ポンド〔quid〕かな」と欲張ったことを言い、スウィフティに 「そげんこと考えたらダメだ」と言われる。それをキトゥンのところに持って行くと、もらえたのは220ポンド〔約3万円〕(3枚目の写真)。そして、半額の110ポンドを、「君んママん電気代になるばい」と言ってスウィフティに渡す(4枚目の写真)。
別の日、キトゥンの金属スクラップ集積場に行ったアーバーは、キトゥンの目を盗んで、密買品の置いてある小屋に入って行き、先日、ミック達が持って来た1個10キロの板状銅線の中にあった、半分以下の大きさの軽いものを手に取ると、それをジャンパーの中に隠す(1枚目の写真、矢印)。そして、スウィフティが馬のトミーの背中の “荷車を牽くための装具” を外してやっていると、寄って行き、「あんケーブル、高圧電線塔から外しぇるて思う?」と訊く。「危険すぎるばい」。「儲かるばい。ばってん僕一人じゃできんっちゃ」(2枚目の写真)〔どんどん悪い方に誘う〕。すると、そこにキトゥンがやって来て、スウィフティに、「朝一番、6時に会おう。ディージェルば道路で走らしぇてみれ。お前がどれだけやるーか見てみたか」と言い(3枚目の写真、奥に、それを聞いてブチ切れたアーバーが映っている)、スウィフティは笑顔でOKする〔アーバーは、廃金属回収以外で、スウィフティがキトゥンと親しくなるのが気に食わない〕。ここで、後で重要になるシーンの事前状況が映る。発電所のそぐそばで、専門の工事会社の従業員が作業をしていて〔何の作業かは分からない〕、作業が終わると、一辺が1mくらいはありそうなコンクリートの立方体を鉄の蓋の上に置き、誰も蓋の下のケーブルに触れられないようにする。その日の夜になり、コンクリートの立方体の周りに、キトゥンやミック達の盗難業者が集まっている。そして、立方体の上においてある、黄色の 「死の危険」と書かれた警告板を見て、誰かが 「これじゃあ まるで広告やなかか。ガメって〔盗んで(nick)〕くれって言いよーみたいな」と言う。そこにアーバーが現われて、一緒に話を聞いている。ミックは、「こん下には、少のうとも4000ポンド〔4 grand〕ん銅がある」と言うが、ラルフは、「132,000V〔日本国内の電力伝送は400,000V、275,000V、132,000Vの3種類〕? そげん危険ば冒すには、頭がおかしかか、自暴自棄か、バカか、そん全部でなきゃな」と、ニヤニヤしながら言う(4枚目の写真)。
翌朝、早朝、スウィフティは、キトゥンの見ている前で、ディーゼルが牽く二輪車に乗って、ゆっくり走らせる。すぐ横で、それをアーバーが見ているので、キトゥンは 「誰が、お前ば誘うたんや」と訊くと、アーバーはそれには答えず、「スウィフティにレースばしゃしぇるつもり?」と訊く。アーバーが質問に答えなかった以上、キトゥンもそんな質問は無視する。アーバーの一方的な質問はさらに続く。「レースでどげんしてお金ば稼ぐと? ディージェルってどんくらいん価値? 1万〔10K〕? 2万〔10K〕〔約280万円〕? レースに勝ちゃあ価値は上がるよね?」。無知なアーバーの、下らないおしゃべりを、キトゥンは「しゃあしか〔うるさい〕!」と言って黙らせる。ディーゼルの後ろから大型トラックが近づいてくる(1枚目の写真)。しかし、何事もないように走り続けるディーゼルを見たキトゥンは、「よかぞ、集中力がある」とスウィフティを褒める〔アーバーに話している訳ではなく、つぶやいているだけ〕。それを耳にしたアーバーは、「僕にだってでくる〔できる〕」と言い出し、「でくるハズなか」と言われる。大型トラックがディーゼルの横を追い抜いていっても、走りに何の変動もない(2枚目の写真)。ディーゼルが戻ってくると、キトゥンは、「ようやった、スウィフティ」と褒め、それを聞いたアーバーの顔は嫉妬に歪む(3枚目の写真)〔彼は、自分勝手なだけでなく、自分以外の他人が褒められると、それが一番の友人でも、気に食わない〕。そこで、スウィフティがキトゥンと仲良く話していると、わざと大きな缶入りドリンクを渡して栓を開けさせ、それを見たキトゥンは、スウィフティに、「お前、あいつん召使か?」と、バカなことをしないよう言った上で、アーバーには、「そげんもん飲みよーと、精神安定剤が必要になるぞ」と注意する。その言葉通り、アーバーは勝手にディーゼルの二輪車に乗ると、急に馬が走り出し、キトゥンとスウィフティは馬がケガをしないかと、心配になって追いかける。幸いゲートのところで勝手に止まってくれたので、馬は無事だったが、激怒したキトゥンはアーバーを二輪車から引きずり下ろすと、「5万ポンド〔50 grand〕〔700万円〕の価値がある馬や。こんバカガキめ」と怒鳴ると、あとはぐったりして、スウィフティが操る二輪車に乗って去って行く。アーバーは、惜(くや)しそうにそれを見ているだけで、その原因となった自分の愚かな行為に対する反省は一切ない。
別の日、アーバーの家に警官が2名やってくる。目的は、アーバーに対する聞き取り調査。それを聞いたアーバーは、靴のまま中に入ろうとする警官に、「そん靴、脱げや」と要求する(1枚目の写真)〔自分が入る時は靴のままなのに〕。そして、脚ごとソファに乗って携帯で遊び出したアーバーに向かって、警官は 「これは、警告の下での正式な尋問〔formal interview under caution、犯罪を犯したと疑われる人物を起訴するかどうかの決定を下す前に、警告の下で行う尋問〕だ。フェントン〔アーバーの姓〕、理解したか?」と警告するが、アーバーはゲームに夢中で何も聞いていない。「分かったのか?!」。アーバーは、「ああ」とだけ言う。警官は、「目撃者は、2人の若者が鉄道もしくは通信用のケーブルを燃やしているのを見た」と話すが、アーバーは、そんな話は無視し、横を向いて缶を取るのに熱中。母は 「息子には関係なかばい」と、知っていても庇う。警官は、母に向かって、「ケーブルの窃盗は非常に重大な犯罪です、フェントン夫人。線路への不法侵入には1,000ポンド〔約14万円〕の罰金が科せられます」と警告するが、アーバーは横を向いたまま、「僕、そんなトコには行ってない」と嘘を付く(2枚目の写真)。「公共物の悪意ある破損。他人の命を危険にさらす行為。最高刑は終身刑ですよ」。母は 「彼はまだ子供ばい。ケーブルなんか ガメってましぇん。あんたは、間違うた場所ば捜しとーと」と嘘を重ねる。一緒に来た婦警が、「彼は、あなたがおっしゃる通り、フェントン夫人、未成年者です。でも、世の中には、自分たちが警察に処罰されないよう、子供たちに汚れ仕事をさせる悪辣な者がいるんです」と優しく話しかけるが、母は 「うちが息子ば見よーと」ときっぱり否定する。ここで、警官を見たアーバーが、「それだけ? じゃあ、とっとと靴履いたら?」と言い、携帯で遊び始める。警官が出て行くと、母は、①アーバーはキトゥンに利用されている、②二度と行くな、と注意するが(3枚目の写真)〔息子が悪事を働いたと知っていて、警察に平然と嘘を付いた〕、説得力ゼロの弱い言葉に、アーバーは耳を貸さない。
翌日、アーバーは、ディーゼルの世話をしているスウィフティのところに行き、やってはいけないことをして、スウィフティに邪魔者扱いされる。そのあと、やって来たキトゥンに、追い払われる。キトゥンがいなくなると、ハーネスレースに出場して、前回失ったメンツを取り戻してくれと激励されたスウィフティが上機嫌でいると、さっそく、アーバーは、勝ってもキトゥンは一銭もくれないと嘘を付き、自分勝手な火消しに大わらわ。そして、トミーに牽かせた荷馬車に、捨ててあった、メチャメチャに壊れて、茶色に錆びた、二束三文の廃車を乗せるのを手伝わせる。そして、後続車が非難の警笛を鳴らして列を作る中、廃車を乗せた荷馬車に付き添って歩きながら(1枚目の写真)、キトゥンの所まで運んで行く。キトゥンは、ガラクタの安い金属なんかを運ばせて馬に負担をかけたことを怒り、アーバーに馬と荷車の代金をちゃんと返せと迫り、もっと回収して稼いで来いと命じる(2枚目の写真)。堕落したアーバーは、自分が好きで始めた廃品回収なのに、キトゥンの倉庫からの銅の盗みに専念することにし、より重い銅の板を、ジャンパーの中に隠して荷馬車に乗る(3枚目の写真、矢印)。
アーバーが、荷馬車で次に向かったのが、自分の家の脇にある小さな倉庫。その中には、キトゥンから盗んできた四角い板状の銅線が山のように積んである。それを見たスウィフティは、「それみんな、どこで手に入れたんや? キトゥンからチョロまかしたんばい〔chor〕? そげん悪かことしたら、厳しゅう罰しぇらるーぞ〔get your head kicked in〕」と注意する。その誠意ある警告を無視し、アーバーは「15個。600ポンド〔quid〕〔約8万円〕」としか言わない。「君は、いっちょん〔ちっとも〕分かっとらん。僕は、こんレースがやりたかばい」。アーバーは自分勝手な理由をつけて、レースに反対する。そして、次にアーバーが連れて行ったのが、以前、焚き火をした時に見つけた、木製の支柱の上に張られたより高圧の電線ケーブル(1枚目の写真、矢印)。「こんケーブル、生きとーかな?」。「しゃあな〔さあな〕。危険ば犯すとはイヤや」〔どうせ、アーバーは、自分では試さず、スウィフティに電流が流れているか触って調べさせるから〕。自分の目論見が崩れたアーバーは、近くにいた子馬に目をつけ、馬を連れてきて、感電するかどうか試そうとする(2枚目の写真)。その、自分のことしか考えない残酷なやり方に頭に来たスウィフティは、アーバーは地面にねじ伏せると、「なら自分で試してみるがよか」と言って、アーバーの手をケーブルの切断面に近づける(3枚目の写真、矢印)。こうしてお灸をすえた後で、スウィフティはアーバーを解放し、“残酷かつ自分勝手な弱虫” は走って逃げて行く。
アーバーは、盗品を一杯荷馬車に乗せて、ブラッドフォードの隣の町ハダーズフィールド(Huddersfield)〔ブラッドフォードの南約15キロ〕に向かって、交通妨害をしながら歩いていく(1枚目の写真)〔他人の迷惑を一切考えない〕。しかし、その町の金属スクラップ回収業者の所に行くと、馬車は中に入れてもらえない。そして、アーバーがブラッドフォードから来たと言うと、正気じゃない阿呆〔daft bastard〕だと言われ、門の横に馬車を置かされる(2枚目の写真)。アーバーが待っていると、そのうち白いバンが目の前で停まり、ミックが助手席から 「それ、キトゥンの馬やなかとか?」と訊く。そして、バンに金属スクラップを積み込むよう命じる。しかし、アーマーが馬車のカバーを外した瞬間、ミックは、“四角い板状の銅線”=“自分がミックに売った物” だと気付く。ミックは、すぐにアーバーを掴むと、「きしゃま、キトゥンからガメったな? こりゃ、俺が集めたやつだ」と、盗んだことを責めた後で(3枚目の写真)、「構うもんか、もいっぺん売って儲けちゃる」と独り言を言うと、馬車の荷台を空にする。ミックと白いバンは一旦いなくなり、しばらくして戻ってくると、アーバーから取り上げた物をキトゥンに売って儲けた札束をアーバーに見せつけ、当然、アーバーには一銭も渡さずに去って行く。
一方、スウィフティがディーゼルを連れて野原に行くと、先日の子馬が、ケーブルのすぐ横で死んでいる(1枚目の写真、左の矢印はケーブルの先端、そのすぐ右に子馬の頭)。それを見たスウィフティは、ディーゼルを厩舎に連れて行くと、壁にもたれ、「アーバーなんかばり好かん〔大嫌い〕」と言いながら涙を流す(2枚目の写真)。アーバーがキトゥンの金属スクラップ集積場に戻ると、キトゥンは 人目があるので、アーバーを穏やかに作業場に連れて行く〔この時には、スウィフティもスクラップ集積場にいたので、一緒に付いて行く〕。作業場のドアを閉めるとキトゥンの態度は一変し、アーバーに 「お前は、俺に1000ポンド〔1 grand〕ん借りがある。あん銅ん塊には印が付いとったんだ、こんバカクソチビ!」〔印の付いた銅の塊を再度買い取ってお金をミックに渡したキトゥンもプロにしては不注意〕と言うと、「手ば切り放しちゃる、こん盗っ人んクソチビ!」と怒鳴りながら、ケーブルの皮を剥ぎ取る機械にアーバーの腕を突っ込もうとし、アーバーは必死になって手を穴に入れまいとする(3枚目の写真、手前の左端がアーバーの頭、右端がキトゥンの肩)。
アーバーの手を切り落してもメリットは何もないので、キトゥンは、こうして極限の恐怖を与えたところで、「俺から盗んだ銅ば、別ん銅で返してもらう」と言うと、「地下んケーブル室に入る鋼板ば捜しぇ」と言うと、太いケーブルを切断する道具をバッグに投げ入れると、ゴム製のブーツを履かせ、作業を始める前に 金属のジッパーの付いたジャンパーを脱ぐよう注意した上で、出て行かせる(1枚目の写真)。次の場面では、アーバーはトミーを連れて、かつてミックが 「こん下には、少のうとも4000ポンドん銅がある」と言っていたコンクリートの立方体の所まで行く。そして、トミーに立方体を引っ張らせようとするが、全然動かない。そこに、スウィフティがやって来て、「トミーば見に来たんや。君が、無理なことしゃしぇとらんか確認しぇな」と言う。そして、トミーの様子をチェックしながら、「君は子馬ば殺した」と非難する。「何んこと言いよーとか分からんばい」。「君は完全に精神異常者や! 君は、制御不能なんや!」(2枚目の写真)。「僕んこと、君が警察に通報したと?」(3枚目の写真)。「よかや〔いいや〕、ばってん〔でも〕そうしとけばよかった」。「そげん僕が好かんなら、なんで戻って来たと?」。「みんなが言うとーごと、僕が鈍か〔thick〕けんしゃ。僕って優しか〔soft〕やろ?」。そう言ってスウィフティは立ち去ろうとする。アーバーは、「スウィフティ、待って、聞きんしゃい。僕、そげんこと〔子馬の感電死〕しとらんって、命にかけて誓うばい。君ん助けが必要なんや。お願い」と嘘で勧誘する。優しいスウィフティは、「よし、じゃあ、引っ込んでろ。でなかと、動かしぇん」と言い、トミーに話しかけ、コンクリートの立方体は簡単に鋼板の上を滑って、邪魔しなくなる。
スウィフティは、地下溝の上の鋼板を止めていた金具を切断し、2人で力を合わせて鉄板を投げ捨てる。そして、ゴム手袋をはめたアーバーが溝に飛び降り、太いケーブルをノコギリで切断すると、それを背負い、スウィフティに手を引っ張ってもらうが(1枚目の写真、矢印はケーブル)、体力がないので、ケーブルを下に落としてしまう。スウィフティは、アーバーを退(ど)かすと、アーバーが 「ほら、手袋が要るよ」と言うのを無視して下に降り、ケーブルを首にかけて自力で這い上がり、それをアーバーが手を握って引っ張る(2枚目の写真、矢印はケーブル)。その時、火花が散って、光と煙が出る(3枚目の写真、矢印はケーブル)。辺りは夜になり、朝が来て、アーバーが意識を取り戻すと、スウィフティは黒焦げになって冷たくなっていた(4枚目の写真、矢印はケーブル)。
唯一人の親友を自分のせいで死なせてしまったアーバーはショックを受ける(1枚目の写真)。そして、遺体を荷馬車に乗せてビニールで覆い、キトゥンの所に向かう。そして、金属スクラップ集積場に到着し、キトゥンが姿を見せると、近づいて行って股下を蹴り上げ、キトゥンが地面に立入れた隙にゴミの山から太い針金を拾ってくると、「クソ野郎!」と怒鳴りながら、針金で首を絞めて殺そうとする。そこに、騒ぎを聞きつけたメアリーが走って来て、後ろからアーバーをつかんでやめさせようとする(2枚目の写真、矢印は針金の一部)。そこに、他の作業員も大勢駆けつけ、アーバーを全員で担いでプレハブの小屋に入れると、鍵をかける。キトゥンは荷車に近づき、メアリーがビニールを取ると黒焦げのスウィフティが見えたので衝撃を受け、キトゥンは目を逸らして悲しむ(3枚目の写真)。さっそく警察が呼ばれ、プレハブ小屋を開けると、アーバーが飛び出して来る。キトゥンは、警官に押さえられたアーバーの耳元で、「なんも言うんやなか」と囁くと、警官に 「俺がやらしぇた」「あん子が死んだんな俺のしぇいだ」と言い、即座に逮捕される(4枚目の写真、矢印は手錠)。アーバーは、警官が放すと、一目散に走ってスクラップ集積場を出て行く。
アーバーは野原に行き、死んだ子馬の前に行き、しばらく悲しみに浸る。そして、土砂降りの雨の中、歩いてスウィフティの家のドアをノックする。ドアを開けた母親は、アーバーを見ると(1枚目の写真)、何も言わずにドアを閉める。しばらく家の外の木柵に背中をつけて時間をつぶした後、もう一度ドアをノックする。今度は父親がドアを開け、「会いとうなかそうだ」と言ってドアを閉める。降りしきる雨の中でかなりの時間をつぶしてから、3度目のノックをすると、今度は、父親に顔を叩かれる(2枚目の写真)。夜になっても、アーバーが木柵のところにいることを知った母親は、アーバーの母に電話で連絡する。すると、翌日、明るくなってからアーバーの母がやって来てアーバーの横に座り、慰めようとするが(3枚目の写真)、何をしても払い除けられる。その先、家に連れ戻されたアーバーがベッドの下に籠って出て来るのを拒むシーンがずっと続く。そしてある日、幻のスウィフティがベッドの横の絨毯の上に現れ、アーバーの手を握る。これによってアーバーは別人のようになり、スウィフティが可愛がっていたディーゼルの厩舎に行くと、手で優しく表面を何度も撫ぜ、毛を整える(4枚目の写真)。