インド映画 (2022)
この映画の最後に、映画の中の4人について標記されている。①トゥーシダス・シニアは、今でも妻と一緒にカルカッタに住んでいる。②2016年にYMCウェリントンが閉鎖されたが、ムハンマド・サラームは、今でもスヌーカーをプレーしている。③ゴティは、中東で銀行家として成功している。④ミディは、ムンバイに住んでいる。彼は、この映画の脚本家と監督だ。これらの記述から見る限り、映画は実話ではないかと思ってしまう。
この点に関して、2つのサイトからより具体的な状況を知ることができた。 ❶「The Telegraph online」の2025年9月8日の記事『トゥーシダス・ジュニア: ムリドゥル・トゥーシダスは、如何にして自らの伝記を国家賞〔第68回ナショナル・フィルム・アワードの最優秀ヒンディー語映画賞〕受賞の映画にしたか』、そして、 ❷「daakbangla.com」というヒンズー語のサイトの『カルカッタの子供時代を新鮮な視点で振り返る』。共に、監督ムリドゥル・トゥーシダスに対するインタビューがかなり長く書かれている。
その中から、まず、監督と父との関係について、❶では、「子供の頃、私は父の大ファンでした。8歳か9歳の頃から、父のスヌーカーの試合をよく観に行っていました。父は私のスーパーヒーローでした。私がスヌーカーをプレーし始めたのも、この映画を作ったのも、父がいたからです。でも、映画に反映されているのは父と息子の関係だけではありません。ご覧になる その他すべての人間関係も、私の実生活に極めて近いものです。ゴティとミディの絆は、まさに兄と私の関係そのものでした」と語っている。❷では、「『トゥーシダス・ジュニア』のアイデアは、父への思い、追憶、そしてもちろん、スヌーカーの世界から生まれました。父は私にとって名士でした。私は父のプレーを観るのが大好きで、勝てば熱狂し、負ければ打ちひしがれました」「父はこの映画の “心” です。父を心から愛せる人物にしたいと思いました。もちろん、クラブのメンバーらしくなければなりません—カルカッタのクラブ・メンバーの、自信や流儀に満ちたスタイルはご存知でしょう」と語っている。
次に、監督本人のスヌーカー歴については、映画のような勝ち方はしていないが、❶では、「カルカッタで育った私にとって、街のクラブはかけがえのない存在でした。ザ・サタデー・クラブ〔1875 年設立〕、トリガンジー・クラブ〔1895年設立〕、カルカッタ・スイミング・クラブ〔1887年設立〕、ベンガル・ローイング・クラブ〔1929年設立〕で多くの時間を過ごしました。それらの何が素敵かと言えば、一旦会員になれば、好きなスポーツを何でもできたことです。ムンバイにいる私の子供たちには そんなことはできません。カルカッタのそういうところが本当に懐かしいですね」とだけ語り、スヌーカーついての言及はない。❷では、「私は、スヌーカーがとても上手になりました。州のレベルまで勝ち進み、U-21〔21歳以下〕のカテゴリーではベンガル州3位になりました。でも、スヌーカーが上手くなったのはゲームのためだけではなく、人生のため、注目されたいため、そして何より、父のためでした」。
映画の舞台となったカルカッタについて、❶では、「私の人生の最初の20年はカルカッタで過ごしました。La Martiniere男子校に通い、それから、学士号のためにBhawanipur教育協会カレッジで学びました。カルカッタは私にとってかけがえのない存在です」「スヌーカーのシーンはムンバイで撮影されました。それは、室内を管理しやすかったのと、俳優全員がムンバイ出身だったからです。しかし、屋外撮影はすべてカルカッタで行いました。あの道路、路面電車、建物、人々の話し方、街の雰囲気は、ムンバイに限らず、世界のどの場所でも到底再現できません」と語っている。❷では、「正直言って、私はカルカッタのような場所で生まれ育った恩恵にあずかっています。カルカッタは、成長するのに最高の場所の一つです。カルカッタのように多様性に富み、文化的に活発な街で人格形成に重要な時期を過ごせたことを、本当に幸運に思います」と語っている。
もちろん、他にもいろいろな質問に答えているが、すべてカットし、最後に印象的な言葉で紹介を終えよう。❷のインタビュー: 「世の中は不思議な動き方をします。私たちは、Rajivさん〔トゥーシダス役の俳優〕と父が 亡くなる前に、なんとかこの映画を見せることができました。トゥールシダス・シニアの本物と俳優の両方を、ほんの数ヶ月で失ってしまったのです。今現在、映画がこうして評価されているのを見て、二人がきっとどこかで祝福してくれていると思います」。
日本のビリヤードの原点は、1871(明治4)年、東京にオープンしたアメリカ式の「キャロム・ビリヤード」の店で、白球2つと赤球1つ(または2つ)を用いるゲームだった。しかし、この映画に登場するのは、日本ではあまり馴染みのない、スヌーカーというゲーム。1875年に、インド駐留英軍のチェンバレン大尉が考案したもので、1885年にイギリス国内、その後、英連邦の諸国に広まっていった。ゲームの最初にテーブルの上に置かれる球の場所と数を、下の図に示す。
競技者(2人)がキーで打つ球(手球)は白球(1コ)。それに対し、的となる球は、赤球15コと、その他のカラー球6コ。競技者は、①赤球、②カラー球、③赤球、④カラー球… というように、まず、手球の白球で 赤球をテーブルの6ヶ所にある何れかの穴(コーナーポケット4ヶ所とミドルポケット2ヶ所)に入れ(ゲームの最初に手球を置く場所は、上図のDゾーン内ならどこでもいい)、それから、白球で自分の選んだカラー球をポケットに入れる。一端、ポケットに入ったカラー球は、即、元あった場所に戻される(カラー球がテーブル上を移動しただけの場合は、放置される)。従って、ゲームは、赤球がなくなるまで、カラー球を15回戻して続けられる(赤球がなくなった後は、点数の低いカラー球から順にポケットに入れていく)。一旦、ゲームが始まると、プレイヤーが、❶手球を的球に当ててもポケットに入らなかった場合か、❷ファウルをするまで、交代せずに続けられる。ファウルには、何種類もあるが、この映画に出てくるものを挙げると、(1)手球がポケットに入ってしまった場合、(2)手球が的球に一切当たらなかった場合、(3)打つ際に、キューの先端(タップ)以外の部分が手球に触れた場合、(4)両足が宙に浮いた状態で、テーブルに体を預けて打った場合。ゲームの勝敗は、点数で決まる。赤球をポケットに入れると1点、黄は2点、緑は3点、茶は4点、青は5点、ピンクは6点、黒は7点。高得点を目指すには、何度も黒球をポケットに入れるのが効率的。また、ファウル1回につき、対戦相手に4点が与えられる。また、プラスαの得点にはならないが、手球を的球に当て、その的球で別の的球を押してポケットに入れる高等テクニックは「プラント」と呼ばれる(映画でも2回登場する)。
題名のトゥーシダス・ジュニア役は、Varun Buddhadev(ヴァルン・ブッドデヴ)。2006年5月26日生まれ。撮影は2019年なので、撮影時13歳。2016年にTVに端役で出演したのがスタートで、翌2017年のTVドラマでは、全33のエピソードすべてに出演する脇役となり、2018年のTVドラマ『Mere Papa, Hero Hiralal』(40のエピソード)では主役となった。2020年からは映画にも出演し、本作が3本目。現在に至るまで俳優として活躍している。なお、この映画の主役を演じたことで、第68回ナショナル・フィルム・アワードで、特別賞を受賞している。なお、先に紹介した2つのサイトで、監督は、ミディ役の子役の選定について、オーディションへの参加は150~200名。ブッドデヴは、最後に残った3人のうちの1人。妻が13歳の頃の監督の写真を見せると、ブッドデヴは監督とそっくりだった… と選定の経過を語っている。
あらすじ
映画は、1994年のカルカッタ・スポーツクラブ・スヌーカー・チャンピオンシップの準決勝の開始場面から始まる〔カルカッタは、1858年~1947年の間、英領インド帝国の首都だった歴史的都市。従って、このスヌーカー・チャンピオンシップは、一都市のスポーツクラブのものではあるが、インドで最も権威あるチャンピオンシップとも言える〕。最初に紹介されるのが、この映画の主人公であるトゥーシダスの一家4人(1枚目の写真)。左が父、右が次男のミディ、ミディの後ろが母、その左で腕だけ見えているのが長男のゴティ。トゥーシダスは準決勝の対戦相手と握手し、きれいに並べられた22個の球の乗ったテーブルが映る(2枚目の写真)〔スヌーカーのテーブルは、ビリヤードのテーブル(2.90m×1.63m)よりかなり大きく(3.85m× 2.05m)、スヌーカーの球は、ビリヤードの球(直径57.1㎜)よりやや小さい(直径52.5㎜)〕。先攻のトゥーシダスがキューを持ち、眼鏡をかけてテーブルの前に立つと、ミディを見て眼鏡を上下逆さにかけ直し、それを見たミディが笑顔になる(3枚目の写真)。球を打つ場面はごく短く〔ゲームの終盤の球数が少なくなってからの約10シーン〕、トゥーシダスが準決勝の勝者となる。

トゥーシダスはミディを抱き上げると、「来い、ジュニア。見せるものがある」と言うと(1枚目の写真)、優勝カップの前に連れて行き、「明日、誰が父さんに このトロフィーを渡すか知っとるか? お前だ」と言う。そのすぐ後、トゥーシダスはクラブの友人にバーに行こうと誘われる(2枚目の写真)。父の酒癖の悪さを承知している母は、今から夫婦揃って結婚式に出ないといけないからと反対するが、父は、①1杯飲むだけ、②先に家に帰って着替えて、③10分以内に戻る、と言って別れる。次のシーンは、トゥーシダスの自宅。母は、もう赤いサリーに着替えている。そして、恐らくイライラしながら父の帰りを待っていると、ゴティが戸棚を開けているのに気付く(3枚目の写真、矢印)。母は、すぐ立ち上がると、ゴティが棚から持ち出したお金を取り上げる。

ゴティは、「僕、これからお祭りに行くから、80ルピー〔1994年のレートで約260円〕、下さい」と頼む。母は、50ルピーだけ渡す。ゴティが、「これじゃ足りない。あと30下さい」と頼んでも、「それで十分よ」と拒否される。そこで、ゴティは、ミディに、お祭りに行くからと言って50ルピーくれるよう頼めば、母は30ルピーくれると言い、やって来いと指示する(1枚目の写真)。兄の指示は絶対なので、ミディは素直に母の所に行き、「お母さん、50ルピーちょうだい」と頼む(2枚目の写真)。そして、兄の所に行くと、「母さん、30くれたよ」と言って、お金を渡す(3枚目の写真、矢印)。

ゴティはミディを連れて、お祭りに出店している「オモチャ銃で風船を撃つ」店に行く。店の壁には一面に風船が並び、「3回20ルピー、12回50ルピー」と書いてある。ゴティが店の男に、何がもらえるかと訊くと、「風船3つで、紙パックジュース1個」と言う。ジュースなんか欲しくないゴティは、お金の払い戻し金額ならどうなるかを訊くと、「風船3つで お金2倍、コイン3枚で お金3倍、釘3本で お金5倍」と答える〔的が小さくなるほど、当てるのが難しい〕。ゴティは、「風船3つ」と言い、20ルビーを渡し、銃身の長いオモチャ銃で風船を狙う。最初の2つは見事に風船を割り、ミディが拍手する(1枚目の写真、下にある緑の小箱は紙パックジュース)。そして、カメラは、最後の3回目で、男がオモチャ銃に弾を入れるフリをするところを映す。空砲なので、3つ目の風船は割れない。ゴティはオモチャ銃をミディに渡し、ミディは、「釘を3本」と言い、店の男はびっくりする。ゴティは 「弟が勝ったら、「5倍だ。100ルピー、チョコバー15本、紙パックジュース25個くれよ」と言い、男はニコニコする。そして、ミディは、4本だけ吊るしてある釘を狙い、最初の2本を見事に当てる(2枚目の写真)。そこでまた、男はオモチャ銃に弾を入れるフリをする。ミディは、さっきもそれに気付いていたので、3つ目の目標を男に訊かれると、「あんたの顔」と言い、オモチャ銃の先端を男の顔に向け、引き金を引くと、空気が出て男の髪が動く。ゴティは、「このペテン師! ひどいイカサマだ!」と怒鳴ると、見ていた他の子たちも一斉に文句を言い出し、その隙に、ゴティはお金を取り戻し、景品を2倍奪ってトンずらする。

2人は家に戻り、ゴティが 「母さん、いつ結婚式から戻ったの?」と訊くと、結婚式には行けなかったし、そもそも父がまだ帰って来ていないことが分かる(1枚目の写真)。その時、クラブから電話がかかってくる。受話器を取った母に、父の友人は、「旦那さんは、お酒をたくさん飲まれて、もう歩けません」と伝える。母は、ゴティに迎えに行くよう頼むが、ゴティは友達に見られると恥ずかしいからと拒否し、それを聞いたミディは自発的にクラブに向かう。ミディは、大きな父の体を支えながらクラブから出ると(2枚目の写真)、夜の街を何とか歩いて 父を家に連れ帰る。父を見た母が最初に発した言葉は、3つ前の節の「③10分以内に戻る」を踏まえ、「『10分』は終わったの?」という厳しいもの。その後は、結婚式に出なかったことに対する母の批判が続く。夫婦は同じ寝室を使わず、どのくらい前からなのか分からないが、父はミディ、母はゴティと寝ることが習慣になっていたので、この夜も、情けない顔をした父の隣にミディが横になる。父は、「愛してるよ、ジュニア」と、自分を見捨てない息子に感謝する(3枚目の写真)。

そして、翌日。決勝戦の日。クラブハウス前での記念写真を木の陰から見ているミディに、ゴティは自分の雑用をさせようとする。しかし、ミディは、「今日は、父さんの決勝戦だよ」と言って断る。ゴティは、「父さんの相手が誰なのか知ってるのか? ジミー・タンダンだ。誰もあいつには勝てん。俺がなんで決勝戦を見ないのか分かるか? あいつは、いつも父さんを負かすからだ」と、見ても嫌な思いをするだけだと話す。これに対し、ミディは、「見守ってあげようよ! きっと父さんが勝つ! 誰が父さんに あのトロフィーを渡すか知ってる? 僕だよ」と反論する。ゴティは、「じゃあ、賭けるぞ。負けた方は、ビンタだ。強くて本気のビンタ… 思い切りだぞ!」と脅す。そして、決勝戦が始まる。まず、先攻のタンダンが勝ってスコアを1-0とした後、トゥーシダスが失敗なく打って1-1、1-2、1-3とスコアを逆転させる(1枚目の写真、矢印は背後のスコア・ボード)。ここで15分の休憩が入る。父は、母に洗面所に行くと言って部屋を出る。母は、すかさず、ミディに見張りに行かせる(2枚目の写真)。バーの前まで来た父は、一瞬足を止めるが、そのまま洗面所に向かい、それを見たミディはホッとする。しかし、戻ってくる時、バーの前を通り過ぎようとした父に、バーの中から「トゥーシダス!」と声がかかる。父が足を止めて中を見ると、タンダンが手招きする。それを、バーのガラスの仕切り窓から、ミディは不安そうに見ている。ずるいタンダンは、毎年、負けそうになると、アルコール依存症のトゥーシダスをバーに呼び込んで酔わせてプレー感覚を狂わせてきたのに、トゥーシダスは性懲りもなく中に引き込まれていく。そして、ウィスキーを何杯も飲まされる(3枚目の写真、矢印)。それを、ミディは、悲しそうな目で見ている(4枚目の写真)。

戻って来た父は、酔っ払って、まともに球を打つことができず、すぐに交代したタンダンが、あっという間にスコアを逆転させて優勝しトロフィーを受け取る。優勝者の名前が記されたボードも、この卑怯な男の名前が6年間連続して並んでいる。単に酔っているせいなのか、それとも、酔っていても自分の愚かさを悔やんだのか、トゥーシダスは自分のキューを床に叩き付けて出て行き、ミディは、バラバラになったキューを拾い集める(2枚目の写真、矢印)。家に帰ると、ゴティが、「父さんは絶対負けるって言ったろ」とミディに言うと、ミディは、「ジミー・タンダンは、父さんを負かそうとインチキしたんだ。酒を飲ませた。だから、プレーできなかった」と、これまで母しか気づいていなかったことをゴティに話す(3枚目の写真)。ゴティは 「とにかく、負けは負けだ。ビンタを食らえ」と手を上げたところで、母が部屋から出て来る。ゴティは、慌てて手を自分の頭の後ろに持って行き、母は、2人を抱き締め、悲しんでいるミディの額にキスする。

ミディは、翌日、父の折れたキューを持ってクラブを訪れると、クラブの管理人(レマト)にキューを渡し、「僕、トゥーシダスの息子です。プレーしていいですか?」と尋ねる。返事は、「できない。君は16歳未満だから。入口に書いてあるよ」。そこで、試合を見る時の席に座っていると、“誰からも、一緒にプレーすることを断られた” 太ったおじさん(トゥトゥ)がいて、ミディにも 「やらないか?」と声をかける。もちろん、ミディは、笑顔で頷く。それを見たトゥトゥも喜ぶ(1枚目の写真)。2人がプレーしていると、そこにタンダンが現われ、ミディのキューを取り上げると同時にレマトを呼びつけ、子供なんかにさせたら 緑のクロスを傷つけると、汚い言葉で叱り付ける。悪役が出て行くと、トゥトゥが 「許可を得ればいい。委員会のメンバーが1人いれば…」と規則を言った後で、ちょっと考え、「私も、委員会のメンバーだった」と嬉しそうに言うと、レマトに紙を持って来させる。そして、白紙に 「私は、M. トゥーシダスに、毎週金曜の午後4~5時にスヌーカーをプレーすることを許可する」と書き、署名する(2枚目の写真)。ミディが紙を持って嬉しそうに階段を下りて行くと、下にいたゴティが、「こんなトコで何してる? お前を探したんだぞ!」と叱りつける。そして、許可証を取り上げると、「スヌーカーをやるだと? 正気か? こんなゲーム、ダメだ。父さんの負けっぷり見なかったのか?」と批判する。ミディが 「父さんの名前をボードに載せたい」と言うと、ゴティは許可証をくしゃくしゃにし、ミディの首を強く掴んで、「金を稼ぎ始める時が来た。言ってみろ、名前と お金、どっちが大事だ?」と訊く(3枚目の写真)。「名前!」。「バカ! 名前か お金か?」。「名前!」… ゴティはミディに、①自分には、優れたビジネスセンスがある。②ミディには才能がある(学業ではなくスポーツの)。③自分はミディのマネージャーとなって お金を稼ぐ、と有無を言わせず命じる。

ゴティが最初にミディにさせたのがクリケット(1枚目の写真)。しかし、あまりに下手なのであきらめる。次にさせたのがテニス(2枚目の写真)。これも全くダメ。3番目が乗馬(3枚目の写真)。ゴティはトレーナーに、何とかミディを教えるよう頼み込んで承諾される。ゴティはミディに、練習は午後4時からだと告げ、明日は学校まで迎えに行くと告げる。しかし、“明日” は大事な金曜だったので、ミディは、兄の姿を見ると、重い資料を山ほど持った女性教師の荷物を代りに運び、そのまま一緒に車に乗り込んで逃げる〔このエピソードは、全くバカげていて見るに堪えない。僅か80ルピーのお金の調達にも困っていたのに、3種類の新しいスポーツ服やラケットをどうやって買ったのか? いくらコメディと言っても、不可能なストーリーは許せない。いい映画なのに、残念だ〕。ミディは、待っていたトゥトゥに、クラブで基礎から教えてもらう。

金曜に教えてもらい始めて4週目。トゥトゥは、トリックショットを見せると言って意気込むが、何度やっても失敗する。トゥトゥは、ミディに、本物のプレーヤーになりたいならYMCで学ぶ必要があると教える(1枚目の写真)。どうしてもスヌーカーが上手になりたいミディは、何とかゴティをその気にさせようと、ゲームセンターで遊んでいるゴティの所に行き、「僕、ゴティをお金持ちにしてみせるよ。スヌーカーには、いろんな賭けがあるんだ。たくさんお金を稼げるよ」と嘘を並べ、「YMCに入るのを手伝って」と、全財産を差し出して頼む(2枚目の写真、矢印)。その気になったゴティは、自宅に帰るとさっそく調べ、「カルカッタには、YMCが2つある。1つはウェリントン〔架空〕に、もう1つはチョウリンギー〔都心部〕にある」と言い(3枚目の写真)、「どっちに行きたい?」と訊く。ミディは赤い布を渡し、ゴティは 「左に飛ばされたらウェリントン。 右に飛ばされたらチョウリンギー」と言って赤い布をミディに返し、天井のシーリングファンに向かって投げさせる。布は右に飛び、2人はチョウリンギーに行くことにする。

チョウリンギーは、都心にあるだけに紳士のプレーヤーばかりだが、ゴティが何かを訊こうとしても、プレーヤーからは 「しーっ」と言われ、管理人には 「静かに」と注意される〔赤字は英語〕。プレーを待っている人に訊こうとしても、また 「しーっ」。3度目の、最も丁寧な質問にも、「黙って、そこに座ってなさい」と叱られ、最後の手段で、管理人の胸ポケットにお金を入れて、「クラブの料金は幾ら?」と訊くと、他のプレーヤーから、「この子達は何なんだ。スヌーカーの部屋では静かにせんか」と強く叱られ、業を煮やしたゴティは、「ここは、くそスヌーカーの部屋なのか、図書館か? 他のYMCを試そう」とミディに、わざと普通の大きさの声で話し、「君たち、一体何なんだ?」と批判的に訊かれると、「黙って」と逆襲し、さっさと出て行く。次は、ウェリントン。そこに行くには、路面電車に乗るしかない。ミディは、生まれて初めて電車に乗るが、車内は貧しそうな人々でぎゅうぎゅう詰めだった。そして、電車は貧民街に向かう(1枚目の写真)。最寄りの駅で電車を降りても、人が溢れていてどちらに行っていいか分からず、訊いてもまともな返事がもらえず、ようやく街角の小さな屋台の男に教えてもらえる(2枚目の写真)。そして、遂に、YMCウェリントン・クラブに辿り着く(3枚目の写真)。

2人が、2階にあるクラブの部屋に入って行くと、白のブレザー姿のゴティを見て、ミディやゴティに 「よう、坊や。どうした?」。「おい。何とか言えよ」と声がかかる。奥のイスにミディを座らせたゴティは、そこら辺にいる男に、「会費は幾らですか?」と訊く。「会費は500ルピー〔1600円〕だよ。他に、1時間あたり10ルピー〔30円〕を払うんだ」。それを聞いたゴティは、相手が親切なので、今度は相手の肩に腕を回し、「賭けは何です?」と、一番知りたいことを訊く。「勝者には、卵1個とパン2枚」。それを聞いたゴティは、話にならないと思い、ミディに 「ここを出よう」と言うが、ミディは 「僕、ここでプレーしたい」と頼む。それでも、強引に両腕を掴んで引っ張っていかれるので、「ダメ、ゴティ。お願い!」と何度も頼む。外の、ベランダ廊下に出たゴティは、「お前、正気か? あそこの連中見たか? めちゃ危険なクソじゃないか。それに、一人でここまで来られると思うか?」と反対する。「僕、来られるよ」(2枚目の写真)。「母さんに見つかったらどうする?」。「見つからない」。「マズイことが起きたらどうする?」。「兄さん、マネージャーだろ。何とかしてよ」。次のシーンは、恐らく翌日。学校からミディが出てくると、スクーターに乗ったゴティが待っている〔ミディが初めて見るスクーターなので、ゴティが新しく買ったことになるが、前にも書いたが、そんなお金どこで手に入れたのだろう?〕。ゴティはミディを後ろに座らせると、「ズボンの右ポケットに手を入れて」と言い、1枚の紙を取り出させる。それは、YMCウェリントン・クラブの会員であることを示す紙だった(3枚目の写真、矢印)。喜んだミディが、「今日からプレーしてもいいの?」と訊くと。「そうだ。今度は、左ポケットに手を入れて」。それはお金だった。「それが、今日の使用料と交通費だ」。ミディは、「兄さん、もう一つお願いがあるんだ。僕、クラブの管理人のレマトに、父さんの壊れたキューを直してって頼んじゃった。レマトに100ルピー〔300円〕払わないと」と打ち明ける。ゴティは、ミディを連れてクラブまで行くと、レマトに向かって、「あんた、その子を騙せると思うのか? こんなことに100ルピーもかかるかよ、とんま」と暴言を吐くと、ポケットから少額紙幣を取り出して投げつけ、修理の終わったキューを取り上げて部屋から出て行く。レマトは、一人残ったミディに、「君の兄は、何て厚かましい奴だ。上部に苦情を申し立てるからな!」と怒鳴る。

これまでいつも通(かよ)ってきた午後4時に間に合うよう、ミディは路面電車に乗る。その際、一緒について来たゴティが、車掌に 「弟はウェリントンまで行くんだ。そこで下ろしてやってくれよ」と頼む。「任しとけ」。無事、YMCウェリントン・クラブに着いたミディだったが、そこはプレーヤーで溢れている。ミディの横にいた新米が、ミディを指して、「なあ、俺たちもプレーさせてくれよ」と言うと、管理人が 「先輩プレーヤーはみな夕方にプレーする。朝来ればガラガラだ」と教える(1枚目の写真)。翌朝、ミディは まだ眠っているゴティに声をかける。「僕、朝来るよう言われたんだ。空いてるからって」。「なら、朝行けよ」。「学校があるよ!」。「サボりゃいいだろ」。「どうやってたらサボれるの?」(2枚目の写真)。「病気になれ」。「どうやって?」。「こっちに来い」。ミディがそばに寄ると、ゴティはミディのお腹を強打する。あまりの痛さに、ミディはベッドに横になって呻き声を上げる。それを聞いた母が飛んできて、「どうしたのミディ。大丈夫?」と訊くが、ミディは呻き声を上げ続ける。そこに、父も駆けつける(3枚目の写真)。母は 「バグキ先生〔医師〕に電話してくるわ」と言い、両親が部屋を出て行くと、ミディは お腹を押さえながら立ち上がり、ゴティの前まで行く。すると、ボディは お金を渡し、「さあ、失せろ」と言う〔医師に電話した両親は、どうなったのだろう? ミディが突然いなくなれば、当然、心配して学校に電話し、学校をサボったこともバレると思うのだが… この辺りの脚本もいい加減〕。

次のシーンは、もうYMCウェリントン・クラブ。ミディがプレーしようとしていると、管理人が、「今じゃない。クラブ全体が予約済みだ。座って待て」と言う〔それなら、「朝来ればガラガラだ」という、前日の管理人の話と完全に矛盾する。なんという稚拙な脚本!〕。昨日、ミディに代って訊いてくれた男も、同様に管理人から止められる。このファヤズという顔の黒い男は、向かいの長椅子で横になっている男を見て、ミディに 「サラーム・バイを知ってるか?」と訊く。ミディが首を横に振ると、ファヤズは、サラーム・バイ(敬称ムハンマド・サラーム)は、インドの元全国チャンピオンだと教える。サラーム・バイは、顔を覆っていた布を取ると、起き上がり(2枚目の写真、矢印は布)、洗面に行って顔を洗い、顔を覆っていた布で水を拭き取ると、キューを持ち、ズボンに入れた小箱からキンマの葉〔南アジアの “噛む嗜好品”。特異な芳香があり、やや苦い〕を取り出して口に入れる。そして、白球を打ち始める(3枚目の写真)。ファヤズは、「彼は夜明けとともにプレーを始めるんだ。1時間プレーし、1時間寝る。一日中だ。ずっと一人で」と教える。

翌日、ミディがサラーム・バイのプレーを見ていると、昨日はいなかった軽薄そうな男が、手を叩いて大声で褒め始める。怒ったサラーム・バイは、いきなり男の顔を引っ叩き、プレーを中断して、いつもの長椅子に横になって顔を覆ってしまう。そこに、管理人がやって来て、「彼は、誰とも話さなのを知らんのか? 口を閉じてろ。そして、素晴らしいプレーをじっと見て学べ」と注意する(1枚目の写真)。次の場面では、サラーム・バイがプレーの準備を始めると、ミディも、それを “見て” 同じように行動し始める。壁から同時にキューを取ると、2台あるテーブルの後ろのテーブルの前に立ち、ポケットからトフィー〔飴菓子〕を取り出して口に入れる。サラーム・バイが右手で頭髪を撫でると、同じように撫で(2枚目の写真、矢印)、キーで白球を打とうとする〔赤球などはなく、Dゾーンの黄、茶、緑の3球のみ〕。しかし、サラーム・バイは打つのを止め、白球だけを置き、そのまま正面(トップレール)に向かって打ち、打った球が、キュー先端に正確に戻って来るのを何度も確認する(3枚目の写真)〔ここでも、納得できないことがある。昨日、管理人は、「今じゃない。クラブ全体が予約済みだ。座って待て」と言った。なのに、どうして、後ろのテーブルを使ってミディがプレーできるのだろう? 矛盾だらけだ〕。

それを見たミディも、3つのカラー球をコーナーポケットに入れ、白球だけを置いて打つが、何度打っても、白球は横に逸れてしまう(3枚目の写真、黄色の点線は、球の動きを分かり易く示したもの)。すると、突然サラーム・バイがミディの横に現われ、打つよう動作で指示し、ミディの右腕を指の先で押して垂直にさせ(2枚目の写真)、立ち去る。その状態でミディが白球を打つと(3枚目の写真)、トップレールに当たって戻ってきた白球は、キューの先端に当たる(4枚目の写真)〔ここまで、脚本の拙さが目立ったが、この辺りから、ようやくスヌーカーの技量が主役の楽しい映画へと、徐々に変貌していく〕。

別の日、ミディはサラーム・バイにどうしても訊いてみたいと思い、彼が長椅子から起き上がり、顔を洗い、布で拭き、キューを持ち、キンマの葉を口に入れ、打とうと白球を置いた時、思い切って話しかける。「サラーム・バイ…」。サラーム・バイは、いつもの怖い顔でミディを見る。「なぜ、あなたはいつも プレーの前に寝るのですか?」(1枚目の写真)。それを見ていた他の連中は、きっと殴られると思っていたが、サラーム・バイは、「なんでやってみんのだ?」と答えたので、全員がびっくりする。ミディは、さっそくハンカチを取り出すと、長椅子に横になり、顔をハンカチで覆う(2枚目の写真)。壁の時計が10時から11時になった時、ミディは管理人に起こされる。ミディは、すぐ顔を洗い、ハンカチで顔を拭くと、プレーを始める。すると、気持ちがいいように赤球がポケットに入ってくれる。翌日、ミディは、路面電車に乗っていて、ウェリントンの駅の手前で通りを歩いていたサラーム・バイの姿を見つける。ミディは、電車を下りると、サラーム・バイに駆け寄り、「サラーム・バイ、プレーの仕方を教えてもらえませんか?」と尋ねるが、その時は、じっと睨まれただけだった(3枚目の写真)

ミディは、サラーム・バイの後を追い、クラブの階段の下から、階段を上っていくサラーム・バイに向かって、「サラーム・バイ、あなたの言うことは何でも聞きます。やれと言われたことは何でもします」と頼む(1枚目の写真)。この時も、無視される。ミディは、長椅子に横になったサラーム・バイに向かって、「あなたが望む時に来て、あなたが望む時に帰ります」と言い、プレーを始めたサラーム・バイには、「このゲームを僕に教えられるのは、あなたしかいません。教えてくだされば、プレーできるようになります。お願いです、サラーム・バイ」と、必死に頼む(2枚目の写真)。サラーム・バイは、体を起こすと、球をテーブルに水平に持ち変え、緑のクロスに向かって叩き付けると、洗面所に入って行く。それを見た管理人は、「何してるんだ? 会員資格を剥奪するぞ」と警告する。ミディは、がっかりして、キューを持って長椅子の真ん中に座り込む。すると、2人の意地悪男がキューを奪う。「それ、父さんのキューだよ!」。でも、返してくれない。そのうちの1人が、「お前の親爺はいったい誰なんだ?」と、笑いながら訊く。「チャンピオンだ」。「そうか? 何に勝ったんだ?」。「勝っちゃいないけど、チャピオンだ」。「勝ってないのに、なんでチャンピオンなんだ?」。「ジミー・タンダンがズルしたから負けたんだ」。「ここでプレーを覚えて、そこで勝つ気なのか? そんなチビ助が? こてんぱんに殴られたいか? とっとと出てけ!」。そう言って振り上げたキューを、長椅子に戻って来てじっと聞いていたサラーム・バイが、立ち上がってぎゅっと握りしめる。それに気付いた男は、怖くなって引き下がる。サラーム・バイは、男から奪ったミディのキューを、ボトムレール(手前の枠)の上に置くと(3枚目の写真)、ベランダ廊下に一旦出て行くが、すぐ戻って来ると、ミディに向かって、「明日朝10時にここに来て眠れ。11時から訓練を始める」と言い、ミディは天にも昇る心地になる〔サラーム・バイが初めて “誰かを教える” 気になったのは、ミディの熱意に感心したのか、“ジミー・タンダンがズル” の言葉に反応したのか?〕。

翌日か、別の日、ミディは、サラーム・バイに、“眠った後にプレーすると なぜ上手くなるのか” を尋ねる。サラーム・バイは、ミディを暗い部屋に連れて行き、「明るい場所から暗い部屋に入ると、より暗く感じる」(1枚目の写真)「同様に、暗闇から光の中に入ると、一層明るく感じる」と言い、長椅子に戻ると、「はっきり物を見たければ、暗闇と友達になることだ」と教える。そして、すぐに長椅子に横になり、それを見たミディも、別の長椅子で寝る。1時間後、2人は、大勢が見守る中で、サラーム・バイが、ミディに 「赤球が15個と、カラー球が6個ある。黄、茶、緑、青、ピンク、黒だ。先に赤球、次がカラー球。赤球、カラー球」と基本を教えた上で、キューで、Dゾーンに置いた白球を狙わせる。サラーム・バイはミディの左手のブリッジ〔キューを支える手のクロスに対する圧力と強固な指の形〕を直させ、キューを持つ右腕の肘を真っ直ぐにさせ、最後に頭を下げさせる(3枚目の写真)。

次のシーンでは、サラーム・バイが、2種類の打ち方をやって見せる。「白球をそっと打ちたい場合は、『キス』〔頬に軽くキスをするのと同じように、そっと球同士を接触させる〕を使う」。そう言うと、白球で青球に向けてをそっと突き(1枚目の写真)、白球が弱く当たった青球は、ゆっくり転がってミドルポケットに入る(2枚目の写真)。「白球を強く打ちたい場合は『スラップ』〔ピシッと打つこと〕を使う」。そう言うと、白球を強く叩き、青球は瞬間的にミドルポケットに飛び込む(3枚目の写真)。

講義はさらに続く。ミディが、「球をポケットに入れるには、白球のどこを打てばいいんですか?」と訊くと、サラーム・バイは自分のお尻を叩いて、「ここを英語で何て言う?」と訊く。ミディが「バム〔bum〕」と言うと、「バムを叩けばいい」と答える。そして、さらに、「学校で線を引く時、定規を使うだろ。君の目で線を引くんだ。狙いはポケットだから、ポケットから球までまっすぐ線を引く」(1枚目の写真)。「そしたら、白球を、青球の線の反対側のバムに当てて、線の上を走らせるんだ」。そして、ミディに白球を打たせる(2枚目の写真)。白球は、正確に青球のバムに当たり、青球は狙い通り、コーナーポケットに入る(3枚目の写真)。

サラーム・バイは、映画で登場する英雄の悪漢に対する各種のパンチを例にとり、3つの基本的なショットについて教える。最初がフォロースルー〔follow-through〕で、打った手球が、的球に当たったあとも、前進を続ける打ち方。1枚目の写真は、手球が的球に当たった直後で、赤球はポケットに入る。そして、白球はポケットの手前まで転がって止まる(2枚目の写真、黄色の点線)。2つ目が、手球が、的球に当たったあと、その場所で停止する打ち方。3枚目の写真(1枚目とそっくり)は、手球が的球に当たった直後で、赤球はポケットに入る。しかし、白球は動かない(4枚目の写真)。3つ目が、手球が、的球に当たったあと、逆方向に戻る打ち方。5枚目の写真(1・3枚目とそっくり)は、手球が的球に当たった直後で、赤球はポケットに入る。その後、白球は手前に戻る(6枚目の写真、黄色の点線)。サラーム・バイは、最後に、1日8-10時間練習した後でのみ、ゲームをプレーできると注意する〔練習に没頭し、試合はするな、という命令〕。

しかし、家に帰ったミディは、母から、夏休みについて衝撃的な話を聞かさせる。「一家でダージリン〔カルカッタの真北500kmにある標高0000mの避暑地〕に行くのよ。3週間」。それを聞いてミディは真っ青になる(1枚目の写真)。サラーム・バイと練習ができなくなってしまうからだ。「2・3日、いつものディガ〔カルカッタの南西130kmにある海辺のリゾート〕に行こうよ」。「そんなのホリデーじゃないわ」。「ディガにしてよ、お願い」。「どうしちゃったの? ゴティだって、すごく喜んでるわ。最初は、お父さんと私の2人で行くつもりだったの。でもゴティが、みんなで行こうと言い出したから」。ミディは、すぐにゴティに会いに行き、①ダージリンに行くことにした理由を聞き、②そんなのやめて、僕たち2人はここにいようと提案するが、明確な理由は教えてもらえず、提案はすげなく却下される。ミディは、クラブに行くが、動揺のあまり、的球がポケットに入らなくなる。それを見たサラーム・バイは、ミディを外に連れて行き、何があったのか尋ねる。「ストレスがかると、頭が働かなくなるんです」。この言葉を、期末テスト中に思い出したミディは、正解を書いた答案用紙を自ら打ち消す(2枚目の写真)。結果として、成績はかってなかったほど悪く、母には、教師から補講を受けるよう指示されたと話す〔本当か嘘かは不明〕。かくして、一家は ミディをカルカッタに残し、3人でダージリンに出かける(3枚目の写真)〔この節の脚本は、はっきり言って支離滅裂なので、非論理的な場所はすべてカットし、結果のみ標記した〕。

邪魔者がいなくなったミディは、練習に没頭する(1枚目の写真)。家を出てから戻るまで12時間かかりきりなので、往復を考えると、5回、長椅子で1時間寝て、5回、1時間の練習をくり返しすことになる。2枚目の写真は、映画の中の練習や試合にはなぜか登場しないメカニカルブリッジ〔手でブリッジできない時に使う補助器具〕を、サラーム・バイが持ち、ミディの頭が上がらないよう指導しているシーン。この次の場面では、ミディが、「サラーム・バイ、なぜこのゲームを『スヌーカー』と呼ぶんですか?」と尋ねる(3枚目の写真)。サラーム・バイは、「知らん」と言い、後ろで聞いていた連中が嬉しそうに笑う。そのあと、サラーム・バイは、白、茶、ピンク、赤の4球を並べ、「スヌーカーは、一種の交通渋滞だ。障害物。これ、君ならどうする? どうやって白球を赤球に当てる?」と訊く。そして、「脇道を通るか、追い越すか?」と言うと、2つの方法を実際にやって見せる(4枚目の写真)。因みに、AIにスヌーカーの命名について訊いてみたら、非常に詳しい答えが出て来た。下記は、それを書き直したもの。1875年にチェンバレン大尉〔ただ、彼が大尉になったのは8月9日なので、それ以前なら中尉だし、11月7日以降なら少佐〕が、スヌーカーを考案した時には、名称はなかった。いつかは分からないが、この新しいゲームの最中、同僚が簡単なショットに失敗した時、チェンバレンは冗談で、「本当のスヌーカー〔当時、英軍内部の俗語で『士官候補1年生』を意味していた〕だ」と言ったのが起源とされている。この名称は、将校たちの間で、“新しいゲームに慣れていないため プレーが未熟になりがち” なので、軽い気持ちで採用された。

この節の4枚の写真は、サラーム・バイが最初に言った「脇道を通る」打法。手球の白球を、黄色の点線のように打ち、赤球に当てるもの。

この節の4枚の写真は、サラーム・バイが2つ目に言った「追い越す」打法。手球の白球を、黄色の点線のように回転させて、赤球に当てるもの。

ミディと友達2人が、何かの子供向き演劇(?)の入場券をゲットしようと、列に並んでいる。すると、そこに、教室ではミディの隣に座っている女の子ピアがやって来て、いきなり受付に行き、「列に並んで」と注意される。ピアは、ミディの前にするりと割り込むと、「場所取っといてくれてありがとう」と言う。ミディの前に割り込んだということは、ミディに気があるに違いないと3人とも思う。実際、ピアはすぐに振り向くと、「あなた、カーニバルのダンス、来る?」とミディに訊く。「僕が? ううん」。ピアは、もう一度振り向くと、「私、もう一枚、入場券持ってるの。よかったら、いらっしゃいよ」。「ダメ。僕 忙しいんだ」(1枚目の写真)。「分ったわ」。ピアが、入場券をもらっていなくなると、ミディの後ろにいた友達2人が、「いったいどういうつもりだ?」。「どうして、断ったんだ?」。「バカじゃないのか?」と呆れる〔なぜ、英語で話しているのだろう〕。そして、その日か、翌日のクラブで、ミディは手球でピンク球を打つのだが、何度やってもポケットに入らない(2枚目の写真)。見ていた男たちからは、「ピンキー問題だ!」と言って笑われる。ベランダ廊下に出たサラーム・バイは、ミディに 「こんな ことわざがある。『プレーヤーがピンク球をポケットに入れるのに苦労する時は、“女性問題” を抱えている』。女性と友達になれないか、なれても うまく付き合えないか。それが、ピンキー問題だ。だが、こうした問題は、君のような子供には当てはまらない」。それだけ一般論を言うと、「(当て)はまるのか?」と訊く。ミディは頷く。サラーム・バイはミディを靴屋に連れて行き、ピアとの身長差を訊き〔彼女の方が背が高い〕、ミディが 「このくらい」と5cmくらいを示すと、サラーム・バイは、靴の中に入れる5cmの厚さの底上げ材を、靴屋に作らせる。その間に、ミディに 「勇気を出して、自分の心を打ち明けろ」とアドバイス。2人の関係は、実に良好な “師匠と弟子” だ。ミディは、カーニバルのダンスに行く。すると、ピアは、誰とも踊らずに、一人寂しくポツンと立っている。ミディがピアのすぐ横まで行くと、ピアは 「私のこと 好き?」と訊く。ミディが何と答えたのかは分からないが、もちろん、イエスと言ったに違いなく、その後のシーンで、2人は笑顔で踊り続ける(3枚目の写真)。そして、次のクラブのシーンでは、ミディが立て続けにピンク球をポケットに入れる(4枚目の写真)。

ピンク球が成功すると、サラーム・バイは、手球と的球をテーブルの右端に置いて、的球をポケットに入れるよう指示する(1枚目の写真)。ミディは、いつものように右手で打とうとするが、体をいくら逸らしても、打てる体制にならないので(2枚目の写真)、「できません」と言う。サラーム・バイは、「全能の神は、君に何本の手を与えた?」と訊く。「2」。「もう一方の手でキューを持つんだ」。ミディは、左手でキューを持って白球を打つと(3枚目の写真)、球はぎこちなく転がって行き、ピンク球を何とかポケットに入れる。

その日、ミディは、両親とゴティが帰ってくるので〔ということは、もう3週間が経過した〕、いつもより早くクラブを出て、路面電車に乗る。しかし、“ドアが開いたままの入口” に立っていたミディは、小銭がない人を助けようとしてキューの入った袋を走行中の電車から落としてしまい、キューは車輪に踏まれてしまう。だから、3人が家に帰ってきても、ミディは暗い顔のまま。一方、ゴティは、ポニーレースで大儲けしてニコニコ顔(1枚目の写真、矢印は儲けたお金)。悲嘆にくれるミディを見て、理由を聞き、新しいキューを買ってやると言ってくれる。一方、家には、カルカッタ・スポーツクラブから、1995年のスヌーカー・チャンピオンシップの登録書が届いている(2枚目の写真)。ミディは、クラブまで行くとレマトの部屋に行き、「父さんの登録書が送られてきました。僕にも下さい」と頼む(3枚目の写真)。「16歳未満は対象外だ。君は参加できん」。ミディは、拳骨を振り上げると、「登録書を寄こせ。でないと顔を潰してやる!」と怒鳴る。

その時、部屋のガラスの向こうに、昔、“金曜の午後にプレーする許可証” を書いてくれたトゥトゥが見えた。親切なトゥトゥは、スヌーカーの部屋にミディを連れて行くと、ちょうどプレーをしていた会長に、直々に頼んでくれる。その時、プレーをしていたバーマンという男が、「その子は(小さ過ぎて)、テーブルにも届かないだろう」と言い、それを受けてか、会長は、「ここの水準は非常に高い」「プレーするには16歳以上でなければならない」と言い、受け付けてくれない。一旦家に戻ったミディは、父がクラブでお酒を飲んでいるという電話が入ったので、もう一度クラブに向かう。一方、クラブでは、酔っ払った父に、親切なトゥトゥが、先ほどの出来事を話し、競技大会に1人欠員があると教える。父は、さっそく会長の所に行き、「会長さん、もし1人欠員があるのなら、息子を遊ばせてやって下さい」(1枚目の写真)「1回戦で負けるでしょうが、彼を幸せにします」と頼む。それに対し、会長の横に座った生意気な男は、「トゥーシダス家は、いつも負けることが大好きとみえる」と言い、悪の権化のタンダンが笑い出す。そして、「16歳以上〔父のこと〕はダメだった。16歳未満〔ミディ〕に何ができる?」と言い、侮辱された父は、「何だと?!」とタンダンに向かっていくが、追い出される。腹の虫が収まらない父は、ミディが止めるのも聞かず、スヌーカーの部屋に行くと、2000ルピー〔6500円〕をクロスの上に投げ出し、勝負しようと言い出す。父が酔っていることを見た青服の男がOKし、最初に父が打つが、キューが手球にかすっただけ。その後もさんざんな出来なので、父は、「金は取っとけ」と言ってクラブから出て行く。そのことをミディから聞いたゴティは、ミディを連れてクラブに戻り、「おい、青シャツ、試合はまだ終わっちゃいない」と、いつもの強引な調子で文句を言う。青シャツが、「お父さんを連れて来い」と言うと、ゴティはミディを自分の前に出し、「彼がプレーする」と言う。相手が子供なので、青シャツはすぐにOKする。ミディの先攻で始まったプレーは、途中一度も交代することなく(2枚目の写真)、ミディの完勝に終わる(3枚目の写真)。途中から、部屋に入って来てプレーを見ていた会長は、その辣腕ぶりに感心し、自ら登録書にサインし(4枚目の写真)、「頑張れよ、坊や」と激励する。そして、青服は4000ルピーをゴティに渡す。

クラブに対戦表が掲示される。1回目の対戦は16試合。31人。なぜ32人でないかと言うと、リストの一番上に書かれた1994年のチャンピオンのズル男タンダンは、1回戦を免除されているから。ミディは一番下にある。上から2番目と、一番下に同じトゥーシダスの名前があるので、レマトは、区別するために 「何て書けばいい?」と尋ねる。「トゥーシダスの後に、ジュニアと書いて」。これが、映画の題目となっている。その夜、ミディが父と一緒にベッドに寝ていると、ゴティが新しいキューを渡し、「明日、ウェリントンに行って、先端を調整してもらうよ。お前、素晴らしいプレーヤーになったな。父さんのためにやってるんだろ? それは正しいことだ」と、ミディを褒める。翌朝、母が、掃除をしていると、夫とゴティが、遅くなると言って出かけた後で、ミディも 「僕も」と言って、出て行こうとする。母は、「どこにも行かせません。全く、毎日、一体どこに行ってるのやら」と、腕を乱暴に掴んで引き戻す。「お願い、行かせて」。「行かせません」。「行かせてください。1時間以内に戻るから。重要なことなの。お願い、行かせて!」。母は、仕方なく行かせるが、こっそり後をつける。ミディが路面電車に乗るのを見て驚くが、離れた席に乗って見張る。車内では、ミディが顔見知りの大人と楽しそうに話しているのを見て、心配になる(1枚目の写真、矢印)。ミディが下車したウェリントンの駅の真ん前には、エロ映画専門の映画館があるので、それを見た母は真っ青になる。幸い映画館には入らなかったものの、ミディは、下町の人々と楽しそうに声をかけ合いながら、人混みのなかをどんどん歩いて行く。そして、遂に、YMCウェリントン・クラブに入って行き、そこでプレーを始めると、母が 「こんな所で何してるの?」と叱り(2枚目の写真)、「ここが どのくらい危険な地区か知ってるの?」と言いながら、ミディを連れ出そうとすると、サラーム・バイが入口に立ち塞がる。「あなたは、道をふさいでいます」。「道をふさいでいるのは、あなたの方ですぞ」。そう言うと、サラーム・バイは母子をバルコニー廊下に出し、話し始める。「この子が、この近所にいるべきじゃないという意見には同意する。しかし、この子は、これまで11ヶ月、たった一つのことをするために、ここに通い続けた」(3枚目の写真)「ゲームをプレーするためだ。彼は、規則正しく、一生懸命に練習した。私は、これまで、これほどの集中力と熱意を見たことがない」。そこまで言うと、母に向かって合掌し、「彼を飛ばしてあげなさい。彼は、とても高く飛ぶでしょう」と言うと、部屋の中に戻る。母は、ミディの額にキスすると、何も言わずに立ち去る。部屋に戻ったミディに、サラーム・バイは、「トーナメントはいつだ?」と効く。「明日」。「今日は、ラインの練習〔狙った通りのライン上に手球を走らせる練習〕だけに集中しろ。新しいキューに慣れるんだ」と言って寝ようとする。ミディは、「サラーム・バイ、僕の試合 見に来てもらえます? そうすれば、ゲームがうんと良くなるんです」と頼む(4枚目の写真)。「決勝戦には行く」〔それまでは、確実に勝つと信じている〕。

1995 年のカルカッタ・スポーツクラブ・スヌーカー・チャンピオンシップが始まる。その最初の試合で、トゥーシダス・ジュニアは完勝。2回戦は、相手が先攻だったので、2-1で勝利。3回戦は、親切なトゥトゥ。そして、準々決勝に進む。4回戦の相手は、強敵バーマン。しかし、バーマンは試合開始の5分前になっても、まだ会場に現れない。ゴティは、「もしバーマンが5分以内に来なかったら、ここから出よう。不戦勝だ。準決勝まで進める」と言い、5分後にミディをクラブから外に連れ出す。遅れて到着したバーマンに、会長は、「バーマンさん、あなたは遅刻した。申し訳ないが失格です」と言い、恐らく遅刻に気付いていなかったバーマンは 愕然として去り、「準々決勝の最初の勝者は、トゥーシダス・ジュニアです」とのアナウンスが流れる。バーマンが車に乗って少し走ると、「バーマンさん」という声が聞こえる。バーマンは、すぐに停車させ、車をバックさせる。そこには、ゴティとミディがいて、ゴティが 「今度は、あなたがテーブルにも届かなかった」と言い、ミディと一緒に笑う(1枚目の写真)〔バーマンが、少し前に、「その子は、テーブルにも届かないだろう」と皮肉ったことに対する仕返し〕。その日、クラブに練習に行ったミディが、不戦勝のことをサラーム・バイに話すと、「なぜプレーしなかった?!!」と激しく怒鳴られる。叱咤は続く。「もし君が負けたとしても、私は認めただろう!! しかし、君はプレーもせずに勝った!! そんなことは認められん!!」。ここから、サラーム・バイは、自分の昔の話を始める。「スヌーカーを1回プレーするため、私は、一食抜いた!! プレーするため、ひもじい思いをしたんだ!!」(2枚目の写真)「だが、君はプレーしなかった!! 私は仕事を辞め、このテーブルとのつながりを保つため、記録係としてクラブで働いた!! 試合を1回するために!! 君は、試合をしなかった」。サラーム・バイは、長椅子に座ると、静かに語り始める。「1981年、私はスヌーカー選手権大会に出場しようとした。クラブは休暇を与えることを拒否し、私は辞めた。それはワールドカップの年だった。優勝したプレーヤーは、国を代表してロンドンに行くことになっていた。私は、スヌーカー協会から呼び出された。彼らは、私が国の代表として相応しくないと告げた。なぜ? 貧しかったから? 英語が話せなかったから? 私は懇願した。ちゃんとした物を着ると言った。英語も学ぶと言った。プレーさせてと。彼らは、多額の金をあげるから決勝戦には来るなと言った。彼らは、私が絶対来ないだろうと思った。だが、私は行き、プレーし、勝った。そして、そこから立ち去り、二度と戻らなかった。勝ったことなんか、どうでもよかったから。私は、プレーしたかったんだ。プレーさえできればよかった。だが、君はプレーしなかった」。サラーム・バイは立ち上がって再びミディの前に行くと、「スポーツマンシップと呼ばれるものがある。スポーツマンとしての第一の規範は、君の対戦相手にプレーをする機会を等しく与えることだ」(3枚目の写真)「そして、プレーする。全力で! 精魂を込めて! 喜びをもって! だが、プレーしないといかん!!」(4枚目の写真)「なぜ、君に、こんなことまで話したか分かるか? 君がプレーしなかったからだ」。

意気消沈したミディが家に帰ると、次の準々決勝の勝者は予想通り父だったと知らされる。父は、ミディの善戦を褒めるが、彼が冴えない顔で何も言わずに通り過ぎたので、心配になる。父の隣に座ったゴティは、「父さん、明日は 何が起きようと試合を見に行くよ。なぜだが分かる?」と訊く。「なぜだ?」。「どっちかのトゥーシダスが必ず勝つから」と言い、2人は笑いこける(1枚目の写真)。「お前の言う通りだ」。「じゃあ、投げてよ」。ゴティは、また赤い布を取り出し、「これが左に落ちたらシニア(父の勝ち)。右に落ちたらジュニア(弟の勝ち)」。投げるのは父。しかし、投げた布は、天井のシーリングファンの上に乗ってしまい、占いの結果は「未定」。そのあと、父は、食事も取らずにベランダに立っているミディの所に行き、息子が沈んでいる原因は自分との対戦を怖がっているからだと誤解し、「明日の試合にはハンディキャップが要るか?」と訊く。耳を疑ったミディは父の顔を見る。「40点?」。返事がないので 「 じゃあ、50点?」。ミディが、何も言わずに反対側を見たので、失言だと悟った父は、「ただの冗談だ。公平な試合であって欲しいな」と言い直す。それを聞いたミディは、再び父の顔を見て、「公平な試合をしたい?」と訊く。父が頷くと、ミディは、ウィスキーのコップを指して、「それを飲まずに試合に来て」と言う(2枚目の写真、矢印)。「父さんに勝てると思うか?」。「それを飲んでりゃ、勝てるよ」。「いいとも、明日の試合じゃ酒は飲まん。それで、父さんが勝ったら?」。「決勝戦の間中、飲んじゃダメ。二度と飲まないで! ママは一晩中待っててくれないよ。僕も、クラブまで迎えになんか行かないから」。そして、翌日、トゥーシダス親子の準決勝戦が始まる(3枚目の写真)。

2人のスコアは2-2となり、ここで15分の休憩となる。息子の上達ぶりに驚いた父は、ミディをベランダに連れて行き、「どうやったら、こんなプレーができるんだ?!」と訊く。「父さんこそ、すごく上手じゃないか」(1枚目の写真)。「父さんのことはいいから。このまま続けると、お前は父さんに勝つぞ」。「まさか。父さんが最高潮の時に勝てる人なんか いないよ」。2人は仲良く部屋に戻る。5試合目は、テーブルの上に赤球がなくなり、カラー球も黄と緑がなくなり、茶、青、ピンク、黒の4球だけが残っているシーンから始まる。ここで、「ジュニアが勝つには、4つのカラー球すべてを入れる必要があります」という説明アナウンスが入る。ミディは、茶、青、ピンクの順にポケットに入れ、「ジュニアが勝つには、後1個だけになりました」とアナウンスが入る。ミディは、緊張したのか、簡単に配置された黒球をポケットに入れ損ねてしまう(2枚目の写真、黄色の点線が白球の軌跡、白色の点線が黒球の軌跡)。ここで、「シニアが勝つためには。黒球を入れる必要があります」とアナウンスが入る。このことから、2人は接戦だったことが分かる。例えば、残り4球の時、185点:198点だったとすると、ミディが茶球(4点)を入れて189点、青球(5点)を入れて194点、ピンク球(6点)を入れて200点となる。ここで、もし父が201点だったとしたら、黒球(7点)を入れなくても勝ちが決まる。ということは、200点以下だったことになる(だから、仮に198点と書いたが、194~199点の間なら何点でもいい。もし、193点なら黒球を入れても200点なので、勝負はつかない)。次に父が打つと、手球の勢いが少し強すぎたのか、それとも、ワザと負けようと思ったのか、ポケットには、黒球だけでなく白球も入ってしまう(3枚目の写真、矢印の方向に両方落ちる)。ファウルとなって相手に4点が入り(204点:198点)、この試合、ジュニアの勝ちが決まる。

父は、試合後の礼儀として、握手をしょうと手を差し出すが(1枚目の写真)、ミディはそれを無視して部屋から出て行く。父は、後を追いながら、「お前は試合に勝ったんだ。握手しよう、友よ」と呼びかける(母とゴティも付いてくる)。ミディは、立ち止まり、振り向くと、「どうして あんなことしたの?」と非難する。「何をしたって?」。「父さんは、わざと負けた。僕のために試合を捨てた」(2枚目の写真)。そう言うと、ミディはベランダに出てしまう。父は(母と兄も)、ベランダまで追って行くと、「ミディ、息子よ、聞いてくれ。父さんは、今日、最高の試合ができた。お前も、一球一球、勝負してくれた。お前は勝った。それは、父さんも勝ったってことなんだ」(3枚目の写真)「父さんは、今すぐ酒をやめる。もう何も(試合も)せん。ただ座って、息子たちの成功を見守ることにする」〔さっきのファウルが、失敗だったのか、ワザとだったのか明言しないということは、ワザとだった可能性が高い〕。そして、4人で抱き合う(4枚目の写真)。その時、クラクションの音がして、下を見ると憎きタンダンがいたので、「おい、タンダン!」と声をかける。そこに、トゥトゥがやって来て、「勝ったのは あの子ですよ」と教えたので、タンダンとミディは睨み合う。

ミディは、明日の決勝が心配なので、小さな屋台のイスに座り、サラーム・バイに質問する。「僕、ちゃんと打ててます。でも、黒球になると、なぜしくじってしまうのか、分かりません」(1枚目の写真)。サラーム・バイは、原因は、ミディの技術ではなく、心構えにあると察し、哲学的な回答で応じる。「君は人生で、最初は成功しても、終わりに近づくと、しくじってしまう人にたくさん出会うだろう。これは、物事を完成させる段階で起きる問題なんだ。君も同じだ。君は、ソーダを飲み終えたことがないし、いつもパンの最後のかけらを残す」(2枚目の写真、矢印はパンとコーラ)「人生における、こうしたささいな事から終わらせるんだ。そうすれば、黒球だけでなく、宇宙全体をポケットに入れることができるだろう」。サラーム・バイが去ると、ミディはさっそく残したパンのかけらを食べ、瓶の底に残ったコーラを飲む。そして、家に帰ると、夕食でいつもは何かを残すのに、その日は、何も残さず食べて 母から褒められる(3枚目の写真)。

いよいよ決勝の日。ミディは、父から贈られた「白のワイシャツに、焦げ茶のチョッキ、蝶ネクタイ」というトゥーシダス・スタイルでカルカッタ・スポーツクラブに向かう(1枚目の写真)。試合会場には、ピアが来て、「頑張って」と激励する(2枚目の写真)。先攻のタンダンが勝って1-0となった時、ミディは、会場の入口で入場を断られているサラーム・バイに気付く。そこで、すぐに会長の所に行き、「会長さん、あの人、僕のコーチです。サラーム・バイ。ムハンマド・サラーム」。それを聞いたトゥトゥは、「元全国チャンピオンの?」とびっくりする。会長は、さっそくセキュリティに指示して、入場してもらい、「YMCウェリントンから特別なゲストがいらっしゃっています。元全国チャンピオン。トゥーシダス・ジュニアのコーチ、ムハンマド・サラーム氏に拍手をお願いします」というアナウンスが流れ、拍手が送られる。トゥーシダスは、サラーム・バイの両手を握り、ひたすら、「ありがとうございます。心から感謝します」とお礼を述べる(3枚目の写真)。

第2試合はミディが勝ち、スコアは1-1となる。第3試合で、ミディが見せた見事なプラントを、ここでは4枚の連続写真で紹介する(いつも通り、球の軌跡を点線で示す)。このプラントの素晴らしい所は、白球が第1の赤球に当たると、それが第2の赤球を押し出し、ワン・クッションして戻って来ると、第3の赤球に当たり、第3の赤球をポケットに入れるという複雑な打ち方。それを見た、いつもは厳格なレマトが、思わず拍手し、怒ったタンダンから、「仕事をせんか!」と叱られる。

第4試合でも、ミディは最後の黒球まで連続して打ち、スコアは1-3となり(1枚目の写真)、15分の休憩に入る。ミディはバーの前のガラス窓の仕切りに行くと、中にいるタンダンをじっと見つめる。すると、タンダンが中に招き入れる。ミディは、タンダンの横の席に座ると、レモネードを頼み、父に酒を飲ませたタンダンに仇討する。それを見たタンダンは、「同じだ。毎年、同じだ。トゥーシダスは常にリードする。が、最後に勝つのは誰だ? ジミー・タンダンだ。トロフィーを掲げるのは誰だ? ジミー・タンダンだ」と、聞こえるように独り言を言う。ミディは、「おじさん、レモネード飲んだ方がいいと思うよ」と言って、レモネードの入ったグラスをタンダンの左手の前に置く。すると、その機を逃さず、卑劣なタンダンは右手でミディの右手を掴むと(2枚目の写真、矢印はレモネード)、指を捩じり、ミディの顔は苦痛に歪む(3枚目の写真、矢印はミディの指を掴んだタンダンの指)。そして、ミディに向かって、「私は、君のお父さんのようなアルコール中毒じゃない。失せろ。負け犬の息子」と言って、手を放す。ミディは、バカなことをしてしまった自分が嫌になり、涙を流す(4枚目の写真)。

第5試合、ミディの手球は、すぐ横の黄球に当たるお粗末さでファウル。その後も、ワイシャツがボールに触ってファウル、両足が床から離れてファウルなど、手以外にも失敗を繰り返し、あっという間にスコアは3-3に(1枚目の写真)。休憩時間中に、タンダンが取り巻き連中に、「奴が二度とテーブルに近づけないようにしてやる」と言っているのを聞いたサラーム・バイは、立ち上がると出口に向かい、ミディを見て、布で顔を拭くと(2枚目の写真)、そのまま会場を出て行く。ミディは、ポケットからハンカチを取り出すと、親切なトゥトゥとその奥さんに頼んで席を空けてもらい、そこに横になると、ハンカチで顔を覆う(3枚目の写真)。母は、「きっと気分が悪いんだわ。家に連れて帰りましょ」と言い出し、父に止められる。タンダンは、「いったいどうなってる? 子供を家に連れ帰って眠らせたらどうだ?」と文句を言う。どのくらいの時間、ミディが横になっていたのかは分からない。それが、規則に違反するのか しないのかも分からない。ミディは、ハンカチを取って起き上がると、ゴティに買ってもらったキューを2つに分離してケースにしまうと、ミケースを持って部屋から出て行く。誰もが、諦めたと思った時、ミディは、ウェリントンの管理人に直してもらった父のキューを持って 再び部屋に戻って来る(4枚目の写真、矢印)〔父が折ったキューはカルカッタ・スポーツクラブの管理人のレマトが直し、ミディは、そのキューをYMCウェリントン・クラブで使っていた。しかし、電車からキューが落ちて車輪に踏まれたので、ゴティが新しいキューをかってくれた。ということは、「ウェリントンの管理人に直してもらった父のキュー」というのは、電車に踏まれたキューを、ミディがウェリントンの管理人に頼んで直してもらったのだろうか? 映画では、そうした説明は一切ない〕。

ミディは、そのままテーブルに向かい、父の方をチラと見ると、手球を三角形の赤球団に当て、見事に散らばらせ、1個はちゃんとポケットに入れる。それから先は、一度もタンダンと交代することなく打ち続け、ワン・クッションさせた手球で、プラントをやってみせる(これも、4枚の連続写真)。

その後は、サラーム・バイに教えてもらった左手打ち(1・2枚目の連続写真)や、完璧な右手打ちで点を稼ぐ(3・4枚目の連続写真)。

最後の華を飾ったのは、6回クッションを使って黒球をポケットに入れた神業的な一打(8枚の連続写真)。これで、相手に一度も打たせず、スコアが3-4となり、ミディの優勝が決まる。

「我らが新チャンピオンは、トゥーシダス・ジュニアです」のアナウンスを聞いたミディは、天を仰ぐように顔を反らせて喜びに浸る(1枚目の写真)。みんなが拍手しながら集まる中で、ゴティがミディを抱き上げ、母がミディの頬にキスする(2枚目の写真)。そして、驚いたまま一人イスに座っている父のところまで行くと、抱き着く(3枚目の写真)。父の顔は、喜びで輝く。

ミディは、表彰式などそっちのけで、サラーム・バイに報告したくて部屋を出て行く(1枚目の写真)。そして、カルカッタ・スポーツクラブの建物から走って出ると(2枚目の写真)、いつもの路面電車にも乗らずに〔電車の方がノロいので〕、走って追い越し(3枚目の写真)、YMCウェリントンに向かう。

ミディは、「サラーム・バイ!」と叫んでクラブに飛び込んで行き、笑顔で左手を上げる。これで、ミディが優勝したことが分かり、全員が拍手喝采する(1枚目の写真)。ミディは、サラーム・バイの所まで走って行くと、抱き着く。サラーム・バイは優しく抱き返し(2枚目の写真)、ミディを抱きかかえると、「ウェリントンの全員に卵とパン! 私のおごりだ!」と言い、またしても全員が喜ぶ。一方、カルカッタ・スポーツクラブでは、「1995 年のカルカッタ・スポーツクラブ・スヌーカー・チャンピオンシップの優勝者は、トゥーシダス・ジュニアです」と、恐らく副会長が言い、ミディがいないので、トゥーシダスが代わりに会長からトロフィーを受け取る(3枚目の写真)。トゥーシダスは、これまで何度もタンダンの悪質な策略で手にできなかったトロフィーにキスする。映画は、一番下に、「1995 TOOLSIDAS JR」と書かれた優勝者の名前が記されたボード(4枚目の写真)を映して終わる。
