ドイツ映画 (2016)
この映画の原作者ヴォルフガング・ヘルンドルフ(Wolfgang Herrndorf、1965~2013年)は僅か48歳で亡くなっている〔映画を観ることはできなかった〕。彼は、最初の小説を出版した2002年の8年後、2010年の初頭に脳腫瘍と診断され、同年3月22日から抗癌剤テモゾロミドと放射線療法を開始。その前後から、日記を書き続けている(https://www.wolfgang-herrndorf.de/2010/09/acht/)。ここでは、その中で、原作と関係した部分だけ抜き出してみよう。
3月24日: 「6 年前に書き、以来保留中で、現在再執筆中のヤングアダルト小説は、死についての考えでいっぱいだ。若い語り手は、『60年後に死ぬか、60秒後に死ぬか』などに違いがあるかどうかを常に考えている。このままにしておくと、みんな私が後で書いたと思うだろう。でも、削除したほうがいいのかな?」。
3月28日: 「ここ数日、私はヤングアダルト小説を見直し、再編成している。概要の作成、各章の改訂、新しい章の起草だ。では、最初から: 少なくとも毎日1章。遅くとも52日後には完成する。今日、第一章」。
4月19日: 「私は、12歳の時に読んだ本と同じように、今書いている物語に夢中になっている」。
4月25日: 「2 日間、ほとんど何もできず、脳が回復するのを見守った。時々ひどく集中力が途切れる問題は治まり、眩暈もほぼ治まった。この数週間、苦労してまとめた章がうまくいったかどうかは分からない。小説の執筆は第一章こそ簡単だったが、次第に筋の把握が難しくなってきた。なぜ少年は 第二 章で惨めな思いをしたのに、次の章は楽観的で熱意に満ちた感じで始まるのか? 父親の件は話の流れを妨げていないだろうか? 全体像がつかめないので、最終訂正までこれらの問題を先送りする勇気がない」。
4月28日: 「小説のプロットだが、巧妙に盗み出されたラーダは、遂にベルリンから抜け出す。私は少年たちに高速道路を走らせるが、彼らが音楽を聴けないというアイディアには密かに笑った。現代のヤングアダルト文学では、主人公が自分たちのアイデンティティを形成する音楽を聴くことが必須事項だ。だが、ラーダには残念なことに、ラーダのカセットレコーダーのテープはもつれている。少年たちはカセットデープなんか持っていない。ところが、少年たちはフロアマットの下から、リチャード・クレイダーマンの名作を見つける。なぜそれがそんなに笑えるのかはわからないが、彼らは今、不確かな運命に向かって『渚のアデリーヌ』を聴くことになる」。
5月11日: 「宇宙について書くことで得られる快適さ。今日は星空なので、『スターシップ・トゥルーパーズ』と夜空のシーンを入れてみた。星空を見るとなぜこんなにも心が落ち着くのだろう」。
5月16日: 「耳に常に圧迫感があるのは心気症〔思い込み〕によるものか、隣人の騒音と戦っている耳栓の副作用なのか、それとも別の何かなのか? 月末から毎日、朝から晩まで狂ったように取り組んできた本のことなどどうでもいい、世界もどうでもいい、何もかもどうでもいい。やがて私は眠りにつき、ぐっすり眠る」。
5月23日: 「仕事の日々。パッシグが来て前半を読み、まあまあの出来だと言う」。
5月29日: 「化学療法最終日の5日目以降の副作用は、疲労感だけのようだ。小説にはうんざりする。もう続けられない。でもそれは、この2ヶ月間、朝から晩まで休みなく書き続けたせいかもしれない」。
5月31日: 「鉛のような疲労感。疲れている時の仕事は、集中できない時よりずっと難しい。6 月中旬の締め切りは重要じゃない」。
6月1日: 「疲れは消えた。それに、1 日に 3つの 章を書くこともできる。ドイツ青少年図書賞が、一瞬で書き上げた原稿と徹底的に編集された原稿を見分けられるかどうか、見てみよう」。
6月8日: 「コンピューターの文字が読めない。文字を2倍に拡大して、さらに30秒作業をするが、それも読めない。腫瘍専門医の緊急番号に電話すべきか?」。
6月12日: 「パッシグが完成した小説の校正にやって来る。締め切りに間に合うはずだったが、昨日オルデンブルクから電話があった。青少年図書賞のコンペは中止、予算なし、最終決定は1ヶ月後だ。完全に調子が狂い、疲れ果て、一日中立っていることもままならない。私は疲れ果てて横になっている間に、パッシグが訂正してくれた。私が物議を醸す点について議論したいと言うと、彼女は、『あなたが死んでから私と議論すればいい』 と冗談で私を楽しませる」。
6月14日: 「ティム・アタヌッチと一緒にカフェテリアで座っていると、ウーヴェがアレクサンダー・フェストからのオファーを受けて電話をかけてきた。私が聞いたのは出版日だけだったので、私は「頑張ろう」と言った。9月1日でも可能だが、マーケティング上の理由で、ブックフェアが終わるまで待ちたいとの話だ。原稿は月曜日までに仕上げなければならない。だから、まず最終章を書いた上で、問題のある章を修正しないといけない」。
6月29日: 「少なくとも、今は校正者の添削が家にある。週末までに目を通さないといけない。マルコスは正しい接続法を消し、間違った接続法に置き換える: まだこんな体験ができるとは。彼は調子を整えることで、文章を完全にする。エリノア(Elinor Matt)は原稿を読んでがっかりした。彼女は筋書きが気に入らないし、信じられないようなアクションも気に入らない。夜になり、私はこの本に強い疑念を抱き、ロウホルトからの資金が正規のルートで入ったのか、それとも援助者が手を貸したのかと自問した」。
7月14日: 「熱波、無気力。原稿を渡し、ブックカバーとフラップ〔カバーの折り込み部分〕はほぼ完成」。
7月19日: 「3 月の最初の暖かい夜、開けっ放しの窓辺に座って仕事をししながら、それが生死に関わる問題だと思っていたことを覚えている。そうだったかもしれない。だが、それは小説には反映されなかった。ありふれたアイディアの、全体の構成がなっていない、文体的に疑問の余地のある男子生徒の散文だ。そして、ランストシーンも… だからなに?」。
8月5日: 「2つ目の失態。Aが話す-Bが話す-Bが話すというタイプの失敗を見つけるのに10秒かかる。カティアは電話で、他の箇所にも再度 目を通すと約束した」。
9月11日: 「『Tschick』の最初のコピーが届く。午前中ずっと訂正に費やした。スペル・ミスはほとんどなかったが、不適切で間違った文章がたくさんあるが気になった」。
映画は、後半の一部を除き、原作にかなり忠実に作られている。上記で、原作者が特に例を挙げた『渚のアデリーヌ』と『スターシップ・トゥルーパーズ』も、ちゃんと台詞として登場する。あらすじでは、ほとんど忠実に映画を解説したし、日本で劇場公開されているので、これ以上の解説は省略する。なお、訳出にあたっては、原則、ドイツ語字幕を利用したが、時々、台詞の一部がカットされていたので、その場合のみ英語字幕を併用した。。
主役のマイク役は、トリスタン・ゲーベル(Tristan Göbel)。2002年8月7日生まれ。端役やTVドラマまで含めると、これが12作目なので、かなりのベテランだ。その他の代表作は、『Westen』(2014)、『Helle Nächte』(2018)、『Stadtkomödie: Geschenkt』(2019)で、現在に至るまで俳優として活躍している。この映画では、ドイツ新人賞の特別賞を受賞した他、ドイツ批評家協会賞の主演男優賞にノミネートされている。もう一方の主役であるチック役は、アナンド・バトビレグ・チョローンバータル(Anand Batbileg Chuluunbaatar)。2001年生まれ。この映画が、映画初出演。現在に至るまで、数は少ないがTVドラマに出演している。受賞歴はトリスタン・ゲーベルと同じ。
あらすじ
映画は、いきなり未来の出来事から、何の説明もなく始まる。そこは、夜の高速道路。道路には豚が何十頭も動きまわり、パトカーや救急車が集まっている。それを手前から見ているのは、この映画の主人公マイク(1枚目の写真、矢印は豚の群れ)。その後も、多くの消防隊員〔feuerwehr〕が、鉄梯子を使って豚の群れを一ヶ所に集めている。そして、顔中血まみれになったマイクが振り返ると、「チック〔Tschick:映画の原題〕!」と叫ぶ(2枚目の写真)。そして、タイトルが表示され、すぐに場面は夜間の高速に戻る。ストレッチャーに乗ったまま救急車に乗せられたマイクは、ひどくケガした左下肢のスボンを切り開かれて傷が向き出しになり、そのまま気を失う(3枚目の写真2.)。救急隊員が2人で対応に当たる。その時、マイクの、解説が流れる。「タチアナがいなかったら、僕はここにいなかっただろう。彼女は、一連の事態とは全く関係がないのに。僕が何言ってるのか、分からないよね」。
そして、場面は1ヶ月ほど前に戻り、中学校の教室にいる、黄色の龍が前面についた緑のタンクトップを着たタチアナを、授業中、マイクがじっと見ている。「世界一可愛いいタチアナ・コーシックは、この物語には全然出て来ない」(1枚目の写真)。タチアナが1枚の紙を、通路の向こうの男子生徒に渡し、彼は、それを同じ机の男子生徒に渡し、彼は、通路の向こうの男子生徒に渡し、彼は、前の席のマイクに渡す。マイクは、その紙に 「ナタリーへ」と書いてあるのに、勝手に開いて中を読んでみる。そこには、「ねえ、ナタリー。私の誕生日は3週間後。夏休み最初の土曜日。パーティー!!! 招待状送るわね。タチアナ」と書いてあった(2枚目の写真)。マイクが紙を次の生徒に渡すと、その授業は、生徒が書いた “過去の家族の出来事” を、本人に読み上げさせる時間だったが、マイクが最後の発表者に指名される。立ち上がったマイクは、ノートを飲み上げ始める。「僕の母とヘルス・スパ〔Meine Mutter und die Beauty-Farm〕。マイク・クリンゲンベルク」(3枚目の写真)。
「僕は母が好きです。彼女は、他の阿親とは違います。彼女はとても面白い人です。ほとんどの母親はそうとは言えません。彼女は いつもテニスをしていて、テニスの達人です」。ここでやめておけばよかったのに、マイクは、母の実態について、より詳しく話し始める。「ウォッカを一瓶飲んでいても、クラブの選手権大会で優勝しました」(1枚目の写真)「こんな会話が交わされたことがありました。対戦相手のウェーバー夫人が母にこう尋ねたのです」。ここから、選手権大会後のカフェの中でのシーン。夫人が、「夏の大会でも、対戦すると思いますか?」と尋ねる。すると、マイクの母は、アルコール飲料の入ったコップを手に、夫人の方を振り向くと、如何にも酔っ払いみたいに、「心配しないで、ここにはいないから」と言う(2枚目の写真)。「どこかに行かれるの?」。「Beauty-Farm〔ドイツ語では、“プール、ソラリウム、サウナ、フィットネスセンター、各種マッサージサービスを備えた温泉施設を意味する〕よ」。「すると、それを言葉通りに受け取った人が、信じられないほど機知に富んだ発言をしました」。カフェで、夫人の斜め横に座っていた男性選手が、「(あなたは美しいから)クリンゲンベルクさん、そんな必要、全くありませんよ」と言う。すると、母が 「冗談よ。(アル中の)リハビリ施設よ」と言う。「母は もう運転できなくなったので、僕たちは手をつないで家に帰りました。僕が彼女の重いラケットバッグを運ぶと、彼女はこう言いました。『私から学ぶことなど、あまりないわ。でも、これだけは覚えておきなさい。何を言っても構わない。そして、他人がどう思おうと気にしない』」。ここまで読んだところで、生徒の一人が 「サイコ!」と大きな声で発言し、みんなが笑う。教師は、「静かに」と制すると、マイクには、「ありがとう、マイク」と止めるよう示唆する。「まだ終わってません」。「あと、どのくらい?」。「6ページ」。「もう十分だ、ありがとう」。その直後のシーンは、授業が終わり、教室で2人きりになると、マイクは、さっきの発表について、教師から 「あの発表は、私の30年の教師人生の中で出会った最も不快で恥知らずなものだった。反省しなさい」と、ひどい言葉で強く批判される(3枚目の写真)。「僕は、明らかに間違いを犯した。でも、僕には、なぜだか分からなかった。先生は、(何故かを)何も教えてくれなかった。『反省しなさい』だって? 僕は、今でも何を反省したらいいのか分からない」〔私にも、この教師のバカげた憤慨の意味が全く理解できない〕。
「しかし、僕の頭の中にあったのは、タチアナの誕生日のことだけだった。クラスの全員が招待されるって噂だから、僕が考えていたのは、一体何をプレゼントしようかってことだけ」。そして、マイクは自転車に乗って自宅に向かう。その時、最初に映るのが、大きな看板(1枚目の写真)。そのほとんどは、同じ形をした3階建ての鉄筋コンクリートの家で、小さなプールも付いている。その左下には、マイクの父と、マイクじゃない別の子と、マイクの母が笑顔で並んでいる。その下の5文字は、「ここに住めば幸せが」というキャッチフレーズ。右端の最上段は、「クリンゲンベルク不動産」。つまり、父が社長をしている不動産会社だ。そして、ハートの印の場所には、「マルツァーン〔ベルリンの都心の東北東11~12kmほどの郊外〕の緑豊かな中心部/96棟の高品質な一戸建て住宅がここに建設されます/あなたとあなたの家族のための夢のマイホーム」と書かれている。カメラが、その看板の右へと移動すると、野原の真ん中に1軒だけ “看板の絵と同じ” 形の家が建っていて、そこに向かってマイクが自転車を走らせる(2枚目の写真、矢印)。これを見ただけで、この宅地開発事業は大失敗に終わったらしいことが分かる。マイクが家の裏から入って行くと、父が電話しているのが聞こえる。「破産管財人? そんなクズなんかどうだっていい! あのクソッタレ野郎め!」。マイクが芝生の上に自転車を捨てるように倒して裏口に向かうと、父は、「マイク、玄関があるんだぞ」と注意するが、マイクは無視(3枚目の写真)。父は、「エコファシスト〔人間よりも環境を重視する人〕どもに見せつけてやる」と会話を続ける。
マイクは自分の部屋に行くと、自分が通っている中学のサイトにアクセスし、クラスの生徒の写真の中からタチアナの写真を選ぶと、拡大してプリンターで出力し、その上から鉛筆で格子状に線を引き、横に置いた画用紙にも格子状に線を引き、写真を見ながら忠実に鉛筆でタチアナを描いていく。「僕が努力したってことを、タチアナに知って欲しかったんだと思う。努力を知れば、あとは想像できるから」。翌日、マイクはタチアナをじっと見つめている。すると、そこに、学期末近くにも関わらず、転校生を連れて担任が入ってくる(1枚目の写真)。そして、黒板の前まで一緒に行くと、紙を見ながら、転校生の名前を言おうと努力するがうまくいかない。「アンドレイ・チチャ…チョーロフ」。発音が間違っていたので、転校生は 「チチャチョフ〔Tschichatschow〕」と言い直す。教師が、「自己紹介したらどうかな?」と勧めると、「やめとく」と嫌そうな顔で断る(2枚目の写真)。そこで、教師は、「新しいクラスメイトの名前はアンドレイ・チチョフで、彼は果てしないロシアの地からやって来ました」と名前を言い間違え、空いていた唯一の席、マイクの隣に座らせる。「僕は、最初からチックが好きじゃなかった。誰もがそうだった。チックはイヤな奴で、見た目もズバリその通りだった」。マイクは、できる限りチックと離れたいので、机から身を乗り出して座った(3枚目の写真、矢印)。「ひっくり返りそうになるほどの臭いがした」。
「1週間後、数学のテストの結果が知らされた」。女性の教師が、席順に答案用紙を返しながら、「奇跡が起きたわ。1(最高)を取った人がいるのよ」と言う。マイクの評価は2⁻〔1がベストで、6が最悪〕。教師は、「アンドレイ、おめでとう」と言って、「1」と書かれた答案を返す。そして、「黒板に行き、2番の問題をどうやって解いたか、みんなに紹介して」と笑顔で言う。チックは無言で立ち上がると、背が飛び抜けて高いので、猫背で歩いて机の最前列まで行くと、偶然かワザとか、机の上に食べた物を嘔吐する(1枚目の写真、矢印)。クラスの中は大騒ぎ。次のシーンでは、授業後、チックが猫背で校舎の外を歩いていると、同級生が、「その新しい靴、絶対盗まれるぞ、このバカめ」と言い、嘔吐の話を聞いた上級生が、「おいプーチン、酔っ払ってんのか?」と声を掛ける。さっきは無視したチックは、上級生に向かって歩いて行くと、耳元に何か囁く(2枚目の写真)。すると、上級生はショックを受けたような顔になり、そのまま黙ってチックを行かせる。「そのあと、チックの家族はロシアン・マフィアだという噂が一気に広がった。そうじゃなきゃ、他に誰が、たった数語であのバカを黙らせることができただろう?」(3枚目の写真)。
それから2週間が経ち、マイクが描いていたタチアナの絵が完成する(1枚目の写真)。そして、タチアナが着ていた龍のタンクトップに合わせようとネットで注文しておいた龍のジャンパーも届く(2枚目の写真)。学期で最後の日、マイクは、さっそくそのジャンパーを着て学校に行く。タチアナは、たくさんの招待状を机の上に置き、生徒達に配り始める。いつものように、マイクの後ろの生徒がマイクに連絡物を渡すが、今回は、それが招待状だった。マイクがそれを見てにっこりすると、前の席の男子生徒が、「おいサイコ。それ寄こせよ、俺のだ」と奪って行く。マイクが教師から成績表を受け取りに行き、振り向くと、生徒達全員が招待状をもらって、それを手にしている(3枚目の写真、矢印)。「誰もが招待状をもらっていた。ほぼ全員。チックももらっていなかった。当然だ。サイコとバカは招待から外された」。
マイクは、最後に、タチアナが 「うっかり忘れていたわ。ごめんなさい」と言って招待状をくれるに違いないと思ってじっと机に座っていたが、タチアナは無視して教室を出て行ってしまう(1枚目の写真、矢印)。がっかりしたマイクが、教室から出て行くと、それまで一度も言葉を交わしたことのないチックが、「超カッコいいジャケットだな」と声をかける。さらに、「カッコいい。売ってくれ」と言う。「お気に入りだ。売りもんじゃない」(2枚目の写真)。「どこで買える?」。返事がないので、「おい、待てよ。どこ行くんだ?」。返事がない。「最後まで座ってたよな」。「そんな大きな声、出すなよ」。「オール5(不可直前、恐らく補講)だったとか?」。「さあな」。「これから どうする?」。「家に帰る」。「その後は?」。「君に関係ないだろ」。そう言って、マイクは立ち去る。家に戻ったマイクは、苦労して描いたタチアナの絵を破ろうとして、途中で止める(3枚目の写真)。
夕食の時間になっても用意がされていないので、マイクは冷蔵の中の物を口に入れているうちに、母がいないことに気付く。そこで、マイクは家じゅう探した後、「ペストリーショップ、アイスクリームパーラー、高級ベーカリー」と書かれた閉店した店舗の前で、屋外テーブルに1人頭を垂れて眠っている母の所まで自転車で迎えに行き、母を後部座席に乗せて家に戻る(1枚目の写真)。母は、「明日、また施設に行くわ」とだけ言う。そして翌朝、家の前にタクシーが停まると、スーツケースを牽いた母、マイク、父の順に玄関から出て来る。タクシーの運転手はスーツケースを受け取ってトランクに入れる。身軽になった母は、寄って来た夫の頬にキスすると、夫は、頑張れとでもいうように母の頬をトンと叩き、さっさと家の中に向かう。マイクは母に抱き着いて別れを悲しみ、母はマイクの唇にキスする。そして。マイクをじっと見つめた頃には、夫は玄関をくぐっている(2枚目の写真、矢印は父)〔2人の仲が如何に破綻寸前かが分かる(そもそも、なぜタクシーなど呼ぶのだろう。夫なら、自分の車で送るべきでは?)〕。マイクが自分の部屋でコンピューター・ゲームをして遊んでいると、そこに父がやってきて、「仕事の約束がある。もうすぐ迎えに来るから、行かなきゃならん」と言う。「どのくらい?」。「14日ぐらいだ」(3枚目の写真)〔中学生を、臨時のベビーシッターも雇わず、2週間も放置するとは信じられない〕「200ユーロ渡しておく」〔当時の相場で28000円。1日あたり2000円。これで、朝、昼、晩を食べろというのは、いくら何でもひど過ぎる〕。そして、パソコンなんかで遊ばず、造るのに費用のかかったプールで泳いで来いと言う。
マイクが、言われた通りに小さなプールにフロート・マットを浮かべ、その上に横になっていると、そこにモナという妙齢の美女がやって来てマイクに優しく声をかける。そこに父が来て、モナとは一種に働いていると紹介する。そして、何かあったら電話しろと言うと、2人は仲良く手をつないで去って行く(1枚目の写真、矢印)。それを見たマイクが、2人が2週間イチャイチャして過ごすと思うと腹が立ち、指を拳銃の形にした2発撃つ(2枚目の写真、矢印)。その結果、マイクの想像の中では、父とモナは2人とも死んでしまう(3枚目の写真)。
マイクが、ピストル型の散水ノズルの付いたホースで庭木に水をやっていると、「庭でうんちをしたゲイの男みたいだ」という声がしたので、頭に来たマイクが声のした方を見ると、おんぼろの小型車〔ロシア最大の自動車メーカー、アフトヴァースがフィアット124をベースに生産しているラーダ・ニーヴァ〕の前でチックがニヤニヤしながら立って見ている(1枚目の写真)。マイクは言われたことに腹を立てたもの、14歳のチックが運転してきたことに驚き〔ドイツでは、単独運転が認められるのは18歳以上〕、思わず 「それ、盗んだのか?」と訊く(2枚目の写真)。「ちゃう、借りただけさ。あとで返す」。しかし、マイクが助手席のドアを開けて中を見ると、配線を変えて無理矢理エンジンがかかるようにしてあるので、盗んできたことは一目瞭然だ。そこで、「刑務所行きたいのか?」と言うと、「俺はまだ14だ。刑事責任を問われるのは15歳からだ」と答え〔13歳までは問われない。14~17歳は部分的に刑事責任が問われて少年刑法が適用される。18歳以上は刑事責任が完全に適用される/少年刑法では、①軽い場合は教育的措置、②重い場合は少年刑(施設内での自由の剥奪)〕、「来いよ、マイク、一回りして来よう」と誘う。マイクは即座に断る。しかし、それを聞くと、ずうずうしいチックは勝手にマイクが出て来た裏口から庭に入り、プールに感心し、そのまま家の中にまで入り込む。そして、「お前、ここの出身じゃないだろ」と言う。「父さんが、2年前にここに連れて来たんだ」。「何してる?」。「不動産」(3枚目の写真)。「それで、そんなに金 稼いでるんか?」。「あんまり。父さんは、ここに団地を造りたいと思ってた。だけど、そのあとで珍しいカエルが見つり、建設はストップ。この家だけが建ったんだ。それで、この家の今の所有者は銀行ってワケ」。
その後、“よそ者” 同士の2人は息が合い、ソファに座ってTVゲームを始める。そして、チックが、「タチアナのパーティ、行くのか?」と訊く。「招待されてない」。「マジ? 俺だけかと思ってた」(1枚目の写真)。「どうせ、つまんないさ」。「お前、実はゲイなのか?」。「頭、変なんじゃないんか?」。「だってよ、女の子に興味ないんだろ?」。マイクは、そうじゃない証拠に、タチアナに渡すハズだった絵について話す。次の場面では、2人はチックの下手な運転でパーティ会場に向かい、チックは会場の前で車を停める。マイクは、下りるのを拒むが、チックは丸めたデッサン画を手に持つと、車から降りてしまうので、仕方なくマイクも後を追う。そして、「チック、やめてくれ」と頼むが(2枚目の写真、矢印)、チックは 「大丈夫」と言って会場の中に入って行く。そして、クラス全員が踊っている中で、招待しなかった2人が立っているのにタチアナが気付くと、チックはマイクに丸めた絵を渡す(3枚目の写真、矢印)。
絵を手にしたマイクは、そのまま前に進んでタチアナに絵を渡す。マイクは、「これ… 絵だ… 君に」と言って丸めた紙を渡し〔上部の破れたところはテープで止めてある〕、タチアナが見ていると、チックがマイクを呼びにくる。マイクが振り返ると、ほほ笑みを浮かべたタチアナの顔が見える(1枚目の写真、矢印)。2人は、そのままパーティ会場から出て行くと車に乗り込む。すると、チックが、「奴らに見せてやろうか?」とマイクに訊く。「やりたいようにしろよ」。車を停めておいた場所で急発進すると、くるくると回り始める。その音と、変わった行動に、会場の全員が全面ガラスの壁からそれを見ている(2枚目の写真)。こうしてクラスの脚光を一身に浴びたことで満足したマイクは、そのままチックに家まで送ってもらう。マイクが、「明日も会う?」と訊くと、「分かった。10時に来る」と言うが、「このまま、でかけるってのは どうだ?」と逆提案する。「どこへ?」。「ヴァラハイ〔Walachei〕にじいさんがいる」。マイクは、そんな地名聞いたことがないので、架空の場所だと思って相手にしないが、チックは 「俺のじいさんはそこに住んでるんだ」と主張する〔ヴァラハイはドイツ語表記の発音、ワレキア(Wallachia)は英語表記の発音、ルーマニア語ではヴァラヒャ(Valahia)/14~19世紀に存在した国で、現在はルーマニア南部の地域名。ルーマニアの北西部がトランシルヴァニア、北東部がモルドヴァ、南部がヴァラヒャ〕。2人は、夜遅いにもかかわらず、マイクの家から必要な物を持ち出して車に乗せる(3枚目の写真)。
2人は、朝になってから出発し、ヴァラハイに向けてベルリンから南に向かう〔正しくは南東に向かう必要があるが、2人は、どこに行くべきか知らない〕。車の中で、マイクはチックに、「君、何人? ロシア人? ヴァラハイ人?」と訊く。「ドイツ人」。「どこから来たの?」。「いろいろ混ざってる。ヴォルガ・ドイツ人〔ロシア帝国時代にロシアに移民したドイツ人の子孫〕、カルムイク人〔ロシアのカルムイク自治共和国に住む西モンゴル人〕、ヴァラハイ人、ユダヤ系ジプシー」(1枚目の写真)。「ユダヤ系ジプシーなんて存在しないよ」〔これは正しい〕「君は、ユダヤかジプシーのどっちかだ」。これに対し、チックは、「ユダヤは宗教で、ジプシーは家のない人だ」と 屁理屈をこねる。マイクが調べてみようとスイホを取り出すと、チックは 「見せて」と言い、渡されると、そのまま窓の外に捨てる。「あれ高かったんだぞ!」。「捨てないと、俺たちの居所がバレちまう」〔これは正しい〕。マイクは、仕返しに、チックが持っていたウオッカの瓶を投げ捨てる。地図もスマホもないから、目的地には絶対行けないとマイクが言っても、チックは 「南に向かえばいい」と気軽に言う。マイクは、もう一度、後部座席を徹底的に探し、車の元の持ち主が持っていた古いカセットテープを見つけ出す。それは、リチャード・クレイダーマンの名曲 『渚のアデリーヌ』 だった。それを聴いたマイクは気に入るが、チックは 「お前、ホントにゲイじゃないのか?」と(半分期待して)冷やかす。しばらく走っていると、目の前にT字路が現われ、真っ直ぐ進めなくなる(2枚目の写真、矢印)。チックは、「時計の針の一方を太陽に向けると、もう一方が北を指す」と言うが〔正しくは、短針を太陽の方向に向けると、文字盤の12時と短針の中間の方角がおおよその “南” になる〕、マイクも間違った反論をし、結局、チックは意味もなく右折する。その直後のシーンは、真っ直ぐな道が素晴らしい(3枚目の写真)。
途中で、道が変わったのか、走っていると突然 道の正面に5つのコンクリート・ブロックが並んで進入できないようになっている。マイクが 「もう行けないよ」と言うと、チップは 「後戻りなんかしないぞ」と言い、脇道に入って行く(1枚目の写真)。しかし、すぐ先にはトウモロコシ畑が広がっている。チックはマイクの制止を無視し、畑の中に突っ込んでいく。マイクが後方を見ると、トウモロコシがなぎ倒されて車の通った後が凵型にえぐられている。それを見たマイクは、急に面白くなり、「名前の形に走れよ! グーグル・アースでも読めるように」と声をかける。その結果、チックは旧カーブを切ったりして走り始めるが(2枚目の写真)、どこが “T” に該当するかは分からない〔なぜなら、このあと、マイクが 「次は “S” だ」と言うから〕。車は、トウモロコシ畑を飛び出すと、牧草地に出て、乳牛の群れに囲まれる(3枚目の写真)。それを見た農業主が、怒ってトラクターで迫ってきたので、チックは必死になって逃げる。そして、警察に通報されているかもしれないので、車を隠すことにし、巨大な風力発電用の風車が並んでいる場所に行くと、茂みの中に車を隠す。
風車の鉄塔の真下に行った2人(1枚目の写真、矢印)。点のように見えるので、如何に風車が大きいかがよく分かる〔これに該当するかどうかは分からないが、この時点でドイツ最大の風車の高さは135m〕。チックが、バッグから食料として大きな缶詰2個を取り出すと、マイクは 「缶切りあるのか?」と訊く。マイクは、そのバカさ加減を笑う。当然、チックも 「お前、何 持って来たんだ?」と訊く。チックは、マイクのバッグを奪って中から冷凍ピザ。缶切りなら簡単に買えるが、電子レンジはどうしようもない。チックはその大いなるバカさ加減を笑う。それでも、マイクは 半日走って解凍し始め、少し曲がったピザをチックに持たせて、下からライターの火であぶる(2枚目の写真、矢印)。あまりの無意味な行動に、呆れたチックは、冷凍ピザを足で蹴飛ばしてバラバラにする。そして、夜になり、2人は巨大な風車を見上げる形で、ごろ寝マットの上に寝袋にくるまって横になる。チックが、「『スターシップ・トゥルーパーズ』〔1997年のアメリカ映画〕観た?」と訊く。「猿が出て来るやつ?」。「バグだ」。「最後は、ブレイン・バグ出て来る?」(3枚目の写真)。「ああ」。その後も、夜空を見上げながら この映画の話が続く。
翌朝起きて、お腹が空いていたチックは、昨日は、数日車を隠しておくと言ったのに、「何か食べなきゃ、死んじまう」と言う。2人が車に乗って田舎道を走っていると、「ノーマ プロイツリッツ店 1キロ」の大きな看板を見て、やったと喜ぶ〔Preußlitzは、ベルリンの南西約140キロなので、ヴァラハイとは逆方向〕。村の手前でチックは車を道端の木陰に停めると、歩いて村に入って行くが、どこにスーパーがあるのか全く分からない。途中で出会った三輪車に乗った少年に、チックが 「ノーマ、どこにある?」と訊くが、「ボクんちは、スーパーなんかで買わない」と言われてしまう。「だけど、どこにあるんだ?」。「ボクんちは、フルーリヒさんちで買ってる」。「スーパーはどこだ? 食べ物買いたいんだ」。「フルーリヒはあっちだよ」。混乱した会話が続いていると、少年の母親が 「フリーデマン。来なさい、12時よ」と呼ぶ。チックが、「ノーマがどこにあるか知ってます?」と、その母親に訊き、少年が 「食べ物が買いたいんだって」と告げる。それを聞いた少年の母親は、「私たちこれから昼食なの。一緒に食べる?」と2人に言ってくれる。断る理由はないので、喜んで頂くことに。一品なけど量の多い肉料理が皿に盛られると、2人はすぐに食べようとするが、母親が 「ダメ」と止める。そして、「私たちは手をつないでお恵みに感謝します。すべてが育つ愛しい地球が…」まで来たところで(1枚目の写真)、「今日は短くしましょう。この食事に祝福を」とだけ言い、マイクとチックに食事をさせる。マイクは 「すごいや」と言い、チックは 「おいしい」と言い、残さずに平らげる。食事が終わると、少女が、大きなトレイを持ってやってくる。中には、大小の差をつけたデザートのカップが置いてある。母親は、「メローピー・ゴーントは、スリザリンのロケットで何を手に入れた?」とクイズを出す。さっきの少年が「12ガレオン」と言い、同じくらいの年の少女が「10ガレオン」と言い、正解を言った少女が最初のカップを取る(2枚目の写真)〔『ハリー・ポッターと謎のプリンス』に出て来る純血の魔女メローピー・リドル(旧姓ゴーント)。このマールヴォロ・ゴーントの娘は、愛の妙薬を使って無理矢理結婚したトム・リドルに捨てられ、ロンドンで貧困生活を送るうち、ゴーント家の家宝であるスリザリンのロケットを10ガリオンでカラクタカス・バークに売って命をつなぎ、ウール孤児院で赤ちゃん(夫と同じ名前のトム・リドル、後のヴォルデモート卿)を産んで死んだ〕。次の質問は、「アレクサンダー・フォン・フンボルト(Alexander von Humboldt)が乗った船の名前は?」。さっき間違えた少年が、「ピサロ」と言い、2つ目のカップを取る〔プロイセン王国(北部ドイツ)のフンボルト(1769-1859)は、近代地理学の父と言われる大旅行家であるとともに、植物学者、生態学者、博物学者、動物学者、地質学者、気候学者、民族学者でもある。1799年6月5日に、スペインのコルヴェット艦「ピサロ号」で新大陸に向けて出航、1804年8月3日、新大陸の調査を終えてボルドーに到着、以後、『コスモス』を筆頭に数多くの著作を残した〕。そして、その後のどの質問にも答えられなかったマイクとチック用に、極小のカップ2個が残っていた。2人に対する母親の問題は、「ドイツの初代大統領は誰?」。当然、2人には答えられない。そこで、母親の代わりに、一番小さな子が、「ドイツの首都はどこですか?」と訊き、マイクは、「ベリリンだと思うよ」と言い、一番小さなカップを食べることが許された(3枚目の写真、矢印は極小カップ)。
2人は、楽しい一家に見送られて家を出ると、村を出て車の方に向かう。途中でマイクが道端で小便をしていると、自転車に乗った巡査がジロジロ見ながら通って行く。巡査は、次に50mほど先でエンジンをかけたチックの横を通る時、明らかに18歳以下の少年が運転席にいるのを見て急ブレーキをかけ、運転席の横に来ると窓を叩いて、「運転免許証を見せなさい」と言う(1枚目の写真)。「ちょっと待って」。「何歳だ?」。チックがアクセルを踏んで逃げようとすると、「ドアを開けろ!」と叫ぶが、チックはどんどんスピードを上げて行く。巡査は全力で追って追うが、チックは 「マイク、ごめん」と言って加速し、振り払う。一方、それをずっと見ていたマイクは、次は自分が叱られる番だと思うと、自転車の所まで全力で走って行くと、巡査の自転車を盗むと逆方向〔村の方〕に向かって逃げる(2枚目の写真)。村を出てから走り続けていると、パトカーのサイレン音がかすかに聞こえて来たので、急いで道路に沿った森の中に逃げ込んで隠れる。「どうすればいいんだろう? 僕はベルリンから100キロか200キロ南にいた。チックは青いラーダに乗って警察の捜索から逃げている。どうやったら、また会えるのか見当もつかない。普通なら、別れた所で再会するものだけど、ここじゃそうはいかない。村の巡査が見張ってるかもしれないから」。森の中で一夜を過ごしたマイクは、翌朝決断する。「別れた場所で会えない場合は、最後に安全だった場所に戻るしかない。風力発電。それが最も単純な解決策だった。僕は、チックもそう考えるだろうと確信していた」。そして、マイクは、風力発電用の風車の所まで自転車で戻る(3枚目の写真)。
夕闇が迫る頃、青いラーダがやって来る。風車の階段から駆け下りたマイクと、車から降りたチックは抱き合って喜ぶ(1枚目の写真)。翌日の早朝、2人は車で出発する。チックが戻って来るのが遅かったのは、自分で車に黒いペンキを塗り、どうやって盗んだのかは分からないが、ナンバープレートも替わっていた(2枚目の写真、矢印)。しばらく幹線道路を走っていると、ガソリンがほとんどなくなったので、道路標示に従ってパーキングエリアに入る〔そこで、気になるのは、この標識に 「Raststätte Am Kahlberg」と書いてあること。このパーキングエリアはベルリンの中心から南南東僅か約40キロの場所(E36号線沿い)にあり、1つ前の節の「僕はベルリンから100キロか200キロ南にいた」とも食い違うし、Preußlitzの村とも方向も距離も全く違う。例えば、東京の人が、都心から約45km離れた東名高速の海老名SAは誰でも知っていても、その次にある都心から約60km離れた中井PAの名前は知らない人の方が多いことを考えると、映画監督がこんな矛盾にはドイツ人も気付かないだろうと思ってこの場所で撮影した理由も分からないではないが、好ましいやり方ではない〕。このパーキングにはガソリンスタンドがないので、ガソリンの補給ができない。だから、2人は冒険旅行をあきらめかけるが、マイクが 「そうだ、他の車からガソリンを抜き取りゃいいんだ」と言い出す。「どうやって?」。「ホースが要る」。そこで、2人は車から降りると、ホースを探しに出かける(3枚目の写真)。
2人は、パーキングエリアの柵を乗り越えて、その向こうの野原に歩いて行く。かなり歩くと、森の際に放置してあるゴミが次第に増えてくる。2人は、森に生えているブルーベリーの実を腹一杯食べて朝食代わりにしたが、そのため口の周りは赤紫になってしまう。そして、食べ終わって森から出て来ると、目の前に打ち捨てられた工場があり、その周りには産業廃棄物が山のように集積されている。2人はその上に上ってホースを探すが、どこにも見当たらない(1枚目の写真、矢印)。すると、工場の廃墟の窓から、女子が 「ここから出てけ!」と叫ぶ。マイク:「何だって?」。「バカ野郎!」。「頭がおかしいのか?」。「聞こえたろ、バカ! お前の仲間もバカだ!」。チック→マイク:「あのクソ女は誰なんだ?」。「お前なんか、セックスするにはバカすぎる」(2枚目の写真)。チック:「クソでも食って、黙ってろ!」。「クソ東洋人!」。「俺はロシア人だ!」。「ロシアのホモ野郎!」。「そっちに行って、とっちめてやる!」。「来いよ意気地なし。おおコワ!」。チック→マイク:「あいつ、絶対変だ」。「何、探してたんだ?」。マイク:「僕たちホースを探してる」(3枚目の写真)。女性〔実は2人とほぼ同年の少女〕は、「ホースなら、あっち」と、自分がいる建物の中の奥を指す。
2人はさっそく建物の中に入って行くと、一番奥にホースがいっぱい積んであるのを見て、さっそく選定に始める。その時、工場の入口から、先ほどの女性が、「それ何に使うの?」と訊く(1枚目の写真、矢印)。最初から女性を嫌っていたチックは、「親爺の誕生日用さ」とタチの悪い冗談を言う。女性は、「ゴミがどこにあるか教えたんだ。だから、なんで欲しいのかちゃんと言いなよ!」と怒る。そこで、チックは 「俺たち車を盗んだ。次は、ガソリンを盗むのさ」。女性は、「確かにバカ野郎たちだ!」と怒鳴りながら2人に近づいてくると、すぐ近くに座ると、「好きなようにしな」と静かに言う。一方、チックは、気に入ったホースが見つかったので、ホースをマイクに渡し、女性に対してお礼も言わず、立ち去ろうとする。女性は、2人の背中に向かって、「何か食べる物ある?」と訊く。チックが 「持ってるみたいに見えるか?!」と怒鳴るように言ったので、女性も 「お前、ホントのバカだ!」と怒鳴り返す。「同じことしか言わねえな」。それを聞いた女性は、再び立ち上がると、マイクに向かって走って行き、顔がぶつかるくらいに近づいたのでマイクをびっくりさせる(2枚目の写真)。そして、「お腹空いた」と言う(3枚目の写真)。チック〔後からゲイだと分かる〕と違って女性に親切なマイクは、「向こうの方にブラックベリーがあるよ」と教える。それを聞いた女性は、「なんだそうか。あんたたち、口紅つけてるみたいだから、てっきりホモだと思っちゃった」と笑顔で言う。「で、車で、どこ行くの?」。「ヴァラハイだよ」。「あたし、プラハに行きたい。ちょうどそこだね」。それを聞いたチックは、「違うぞ!」と乱暴に否定し、女性も 「こいつ!」と怒鳴る。チックは、「お前、すごく臭いって知らんのか? クソの臭いがする。こっちに来るな!」と怒鳴り、女性は、恨めしそうにチックを見るが、それ以上動こうとはしない。パーキングに戻る途中で、マイクが 「臭いなんて言わなきゃよかったのに」と言うと、チックは 「言うべきことは言わないと。あの女、ホントに臭かった」と言う。
パーキングに並んで停まっている大型トラックの間にこっそり入って行くと、チックは、ホースをガソリン・タンクに入れ、ホースの反対側を吸ってガソリンを容器に入れようとするが、片膝をついただけの高い位置で吸っているので(1枚目の写真、矢印はホース)、サイフォンの原理が働かず、ガソリンは一滴も出て来ない。すると、そこにさっきの女性が現われ、「このバカ!」と叫ぶ。そして、チックからホースを取り上げると、タンクからガソリンを吸い出し、タンク中のガソリンより下にいないとダメだと教える(2枚目の写真、矢印はホース)。女性は、大きな助っ人になったので、当然、悪臭は無視して車に乗せてもらえる。「あたし、イーザよ」。チックは 「そうかい」とすげない。マイクは 「プラハで何するの?」。「腹違いの姉貴に会うの」。すると、雨が降っているのにチックが窓を開ける。イーザが、「暑いの?」と訊くと(3枚目の写真)、「ちゃう。君が臭いからだ。髪の毛の中に何かいるんじゃないか?」と、相変わらず毛嫌いが続く。そして、一夜を車の中で過ごすことにしたチックは、道路から外れて、舗装道路の終わりまで行ってヘッドライトを消す。
翌朝、3人が車から降りると、そこはダムの上だった(1枚目の写真)。ダム湖の遠くの方に桟橋が見えたので、チックは車を桟橋の手前まで移動させ、そこから2人で桟橋の先端に向かう。チックはマイクに目で合図を送り、臭くてたまらなかったイーザをダム湖に突き落とす(2枚目の写真、矢印は1枚目の写真の場所)。イーザが、「このバカ!」と半分笑顔で言うと、チックは、「贈りもんだ、石鹸だぞ。使ったことないだろ」と言って投げる。それを見たマイクが、「ちょっと可哀想じゃ…」と言いかけると、チックはマイクも湖に突き落とす(3枚目の写真)。チックは服を脱いでパンツだけになると、「これが、紳士のやり方だ」と言って、ダバコに火を点けてくわえると、そのまま飛び込む。
3人は石鹸(プラボトル入りの液体石鹸)を使い回して体と服をきれいにする(1枚目の写真)そして、桟橋の上にきれいになった濡れた服〔チックだけは洗っていない乾いた服〕を着て横になる(2枚目の写真)。チックは、「食い物を手に入れてくる」と言うと、車で出かける。2人だけになると、イーザはビクトリノックスの小型のマルチツールを取り出し、「髪を切って」とマイクに頼む。「髪なんか切ったことない」。「いいから、全部切って。Tシャツに毛がまとわりつくのが嫌いなの」。そこで、マイクは、恐る恐るイーザの髪を短くしていく(3枚目の写真)。イーザは、「見た目、ひどい?」と訊くと、マイクは、相手が思ったより若くて自分と同じ年頃なので、「素敵だよ」と答える。
それを聞いたイーザは、「セックスしたことある?」と訊く。そんなこと訊かれたこともないマイクは 「え?」と訊き返す。イーザは同じ質問をくり返し、マイクは 「ううん」と答える。「で?」。「で、何?」。「したい?」(1枚目の写真)。「したいって、何を?」(2枚目の写真)「でも、君の手が僕の膝にあるっていいね」。「なぜ? 震えてるわよ」。「分かってる」。「何も知らないのね」。「知ってるよ」。「なんなら、今はキスだけでもいいわよ」。そう言うと、イーザはマイクにキスしようとするが(3枚目の写真、矢印は車)、その時にチックの車が来たのでやめる。
3人がその後、人工的に細工された岩場の観光地に行き、鉄の階段を登り(1枚目の写真)、岩の上に行くと、そこに来た多くの人が “何年に誰が来たか” を彫っているのに気付く。一番古い年は1906年。映画の公開年から110年経っているので、チックが 「死んでるな」というと、イーザが 「100年後のあたしたちみたい」と言う。ると、チックがナイフを取り出して、座っている真下の岩に彫り始める(2枚目の写真、矢印)。この場所のロケ地は、レーゲンシュタイン(Regenstein)の城砦跡〔ベルリンの西南西約180キロ〕。Regensteinのサイトにあった写真を3枚目に示す。チックが彫った文字は、「AT MK IS 16」(4枚目の写真)。これだけだと何の意味もないが、マイクは すぐに、「O、R、E」を足せば、「ATOMKRISE 2016〔核危機 2016〕」になると気付く〔映画の公開2016年、原作の出版は2010年、特段の核危機とは無関係〕。
3人が城砦跡の駐車場に停めておいた車に向かっていると(1枚目の写真)、「CPT〔City Public Transport〕PRAHA」のバスが目の前を横切って行く。プラハに行きたい一心のイーザは走って行って運転手に尋ねる。そして、走って戻ってくると、マイクに向かって 「30ユーロ持ってない? 送り返すから。腹違いの姉貴はお金持ってる」。それを聞いたマイクはイーザに30ユーロ渡す。イーザは、まずチックに抱き着き、次いで、マイクに向かって、「あんたとは、絶対うまくいかないわ」と言うと、今度こそ、唇にキスして別れを告げる(2枚目の写真)。そして、バスに乗ると、満面の笑顔を見せる(3枚目の写真)。その間、マイクは一度も笑顔を見せなかった。チックはマイクに、「また恋してるのか? お前って、女性とうまくやる名人だな」と言うが、それでもマイクの顔は冴えない。。
2人が1本道を走っていると、後ろから数台のパトカーがサイレンを鳴らして追いかけてくる。巡査に遭遇してから数日経っているので、強盗犯みたいに追跡されるハズがないのに、危機感を覚えたマイクは 「チック!」と叫び、チックはちょうど見つけた脇道に入って行く。脇道に入ると、すぐにパトカーが4台走って行くのが見える。警察はチックの車が脇道に入ったことを知っていて無視したことから、安心して引き返せばいいものを、一旦こうと決めたら止めないチックは、そのまま森の中をどこまでも進んでいく(1枚目の写真)。そして、この誰も通らないような凸凹の細い道は、突然、池〔原作によれば、Braunkohletagebaugebiet(褐炭露天掘りの採掘地域)〕に設けられた木材を並べただけの簡易橋の前に出る(2枚目の写真)。それでも、チックは引き返さず、そのまま危険な橋を渡って行く。チックは、「何だって、やろうと思えばできるんだ!」と自慢した直後、3~4本の丸太が折れて穴が開いている場所がある(3枚目の写真)。こんな所にタイヤが落ちたら、二度と走れなくなるので、強引なチックも直前で停車する。
2人は池の中に入って丸太を集め始める。しかし、すぐにチックが悲鳴を上げて、丸太橋に這い上がろうとする。マイクが手助けして丸太の上に横にすると、チックの分厚い靴底に直径5ミリはありそうな短い木の棒(?)が刺さっている。チックは苦痛に呻きながら棒を抜き取ると、靴と靴下を即座に脱ぎ、傷を手で押さえる。マイクはトランクを開けると、車に最初から入って来た救急箱を探し出し、チックのケガした足に包帯を巻く(1枚目の写真)。チックが 「これじゃ運転できん」と言うと、マイクは 「これで終わりだ」と言う。「終わるもんか、お前 運転しろ」。「頭も変になったんか?」。「お前は、アクセル踏んで、ハンドル回すだけでいい〔オートマチック車の運転のすべて→無茶な話〕。ギアは俺が変える」。「ダメだ」。「なんでだ?」(2枚目の写真)。「僕は臆病でつまらない奴だからさ」(3枚目の写真)。「つまらなくなんかない」。「タチアナは、僕をパーティーにも呼んでくれなかったんだぞ!」。「言っとくが、イーザに比べりゃ、タチアナなんかでくのぼうさ。俺にはよく分かる。女の子になんか興味ないからな」。
マイクは、隙間に丸太を詰めてタイヤがハマらないようにすると(1枚目の写真)、運転席に座る。チックは、「左にあるクラッチを踏んで」と言うが、教える前から、マイクの右足はアクセルの上にある。チックの運転を見ていたのだろうか? 第一回目は、クラッチを一気に放したのでエンジンが止まるが、その次からは、チックの指導もあって、徐々に進み始める(2枚目の写真)。しばらく経つと、池の上の丸太橋の上を順調に走って行き(3枚目の写真)、再び森の中に道に。
マイクが、歌いながら夜の高速を走っていると、追い越していった “豚を満載した大型トラック” が、マイクの前に急角度で割り込んでブレーキをかける(1枚目の写真、矢印)。いわゆる、危険運転だ。怒ったチックは追い抜くように指示するが、マイクが追い越し車線に出ると(2枚目の写真)、トラックも追い越し車線に出て(矢印)、抜かれるのを妨害すると同時に、急ブレーキをかける。チックが、右から追い越すよう指示し、マイクがトライすると、今度も急に割り込んで妨害。そこで、マイクは、路肩〔結構広い〕を通って追い抜こうとするが、トラックは邪魔しようとして、路肩にぶつかってハンドル操作を誤り、そのまま横倒しに転倒する(3枚目の写真)。
転倒すれば、動かなくなるので、マイクが急ブレーキを踏んでも間に合わず、横転したトラックにぶつかることは避けられない(1枚目の写真)。横転したトラックからは豚が高速道路上に逃げ出し、後続車がその前で停車する(2枚目の写真)。車から抜け出したマイクとチック。マイクは顔中血だらけだし、チックはそれほどでもないが、池で刺さった足の傷のため歩けない。自分で事故の原因の作った家畜運搬トラックのバカな運転手は、車の下から手だけ見えるが、「この豚ども! 腰抜け野郎!」と、反省の色もなく怒鳴りちらしている。マイクは、「大丈夫か?」とチックに訊く。「ああ。お前は?」。マイクは、血まみれの指を見せて、「自分で切ったらしい」と言う(3枚目の写真)。チックは、「マイク、俺 行くぞ。でないと施設に入れられちまう」と言い出す〔以前、チックが 「俺はまだ14だ。刑事責任を問われるのは15歳からだ」と言ったのは嘘を承知の上だった〕。マイクは、その嘘に気付かず、片足を引きずりながら去って行くチックを呼び止め、彼が欲しがっていた龍のジャンパーを着せてやる。ここから先は、映画の冒頭のシーンへとつながる。
入院後、どのくらいの日数が経ったのか分からないが(1枚目の写真)、ベッドで寝ているマイクのところに警官がやってきて、生年月日を尋ねる。マイクは、「2002年5月14日」と答え、「僕はまだ14歳です。刑事責任を問われません」と言う。しかし、警官は、「いや、問われるとも」と否定する。「15歳からだと思ってました」。「いや、14歳からだよ」。次のシーンでは、傷はさらに治り、もう退院して家に戻っている。父は、離婚を決め、マイクを引き取ることを拒否したのか、「何か言わんか!!」と、マイクに向かって大声で怒鳴りつける。マイクも、「何をさ! 『はい』って言ったじゃないか! 『はい、分かりました』って」と怒鳴り返す。父は、愛情のかけらもなく、「お前は、何一つ分かっとらん!!」と、さらに怒鳴る(2枚目の写真)。「僕らがドジったのは知ってるよ!」(3枚目の写真)。「お前じゃない! お前のロシア人のダチ、あの反社会的なクソ野郎がドジったんだ!」。こう言った後で、父は、「いいか、(家庭)裁判所じゃ何も言うな。何があったかは、弁護士が裁判官に話すからな」と命じる。
裁判官と事務官、弁護士と父と母、それにマイク本人しかいない家庭再難所で、弁護士が訴える。「アンドレイ・チチャチョフの逃亡は、罪を認めたためと思われます。車を盗んだのは彼でした。事故が起きた時も、彼は車を運転していました。マイクはずっと彼と一緒でしたが、それが彼がアンドレイを恐れていたからです」。それを聞いたマイクは、父の方を振り返り、立ち上がると、「それは、本当ではありません」と証言する(1枚目の写真)「ラーダで行くのは2人で決めました。高速道路で運転していたのは僕です」。父は、怒って立ち上がると、「やめろ!」と怒鳴るが、裁判官により、「クリンゲンベルクさん、あなたの意見は聞いておりません」と制止され、裁判官は 「マイク、それは本当ですか?」と質問する(2枚目の写真)。「はい、裁判官」。どのような判決が下ったのかは紹介されないが、次の場面では3人が裁判所から出て来る。マイクと母は笑顔で並んで歩き、その後を、憮然とした顔の父が続く。裁判所の門に近づくと、いきなり父がマイクに走り寄り、そこで、映画は一時ストップし、「学校では、こう教えられる。『暴力は解決策ではない』。でたらめだ」の言葉が入ったあとで、父がジャンプしてマイクの顔を殴り、マイクは地面に倒れる。母は父に怒鳴った後でマイクに駆け寄り、父はさっさと出て行く(3枚目の写真、矢印は父)。「ハンマーみたいに顔をぶっ叩かれれば、それが “解決策” なんだと分かる」。
次のシーンでは、殴られた右目が黒くなったマイクが2階のベランダから見ていると、普段着の父とモナがトランクに荷物を詰めて一緒に車に乗る。助手席に乗る前に、父はじっとマイクの顔を見ている〔息子に対する最後の別れ〕。マイクは、ベッドに横になって考える。「僕はいろいろ考えた。これからどうなるのか、この家にどのくらい住むのか、両親はいつ正式に別れるのか、父はモナとの間に何人も子供を作るのかって」。すると、下の方で音がする(1枚目の写真、矢印は黒い目)。マイクが起き上がって見に行くと、母は、プールサイドに持って来た全身鏡を抱えると、プールに投げ込んだところだった。マイクが、「母さん、何してるの?」と訊くと、「手伝って」と言われる。そこで、プールサイドに置いてあったソファの所まで走って行くと、母と一緒に持ち上げてプールに投げ込む(2枚目の写真)。そのあと、母がプールに飛び込んだので、マイクも仲良く飛び込む。そして、一緒に水の中に潜って泳ぐ(3枚目の写真)。「プールで息を止めながら 何を考えたか、今でも覚えている。アルコール依存症の母よりも、いなくなった父よりも、悪いものがある。息は永遠に止めていられない」。
そして、夏が終わり、学校が始まる。マイクが家を出ると、すぐにパトカーが寄って来て、学校まで送るから乗るよう指図する(1枚目の写真、矢印は警官の腕)。そして、車内で、チックがどこにいるか質問する。マイクが 「知りません。何かあったんですか?」と尋ねると、警官は、一昨日ラーダが盗まれ、今日、大破して見つかったと告げる〔ベルリンのこの地区でラーダを盗んだことがある者はチックしかいない〕。マイクは、「僕は、何の関係もないですよ。昼間はモンゴル人たちと一緒に社会奉仕活動してたし〔原作によれば、判決は30時間の社会奉仕活動〕、夜は母と一緒だから」と否定する(2枚目の写真)。しかし、心の中では、「チックめ、僕に手紙を書く代わりに、ラーダを壊して見せるなんて」と、その大胆な行動に驚く。パトカーで学校に乗りつけたマイクに生徒達はびっくりする。しかし、マイクは、以前と違い 非常に引き締まった表情で、誰にも声をかけずクラスに向かう(3枚目の写真)。
授業中、マイクに関心を持つようになったタチアナは、マイクに紙を回して寄こす。そこには、「夏休み中、どこにいたの? タチアナ」と書いてあった。「彼女は僕を見ていた。遂にタチアナが僕を。夏の前なら、僕はびっくりして大喜びしただろう。でも今じゃ、奇妙だけど、どうだってよかった」(1枚目の写真)。そして、マイクは、紙の上部に 「ヴァラハイにいた」とだけ書いて返す(2枚目の写真)〔原作では、マイクはイーザから手紙をもらうが、映画ではカットされている〕。マイクは隣の空席を見る。「僕が期待したことは、チックにもう一度会うことだった。チックがいなかったら、あんな凄い体験は絶対できなかった。最高の夏休みだった」。そして、場面は、3人が最後に一緒だった城砦跡の岩場に戻る。あの場面の後に、マイクが言った重要な会話が挿入される。「50年後に、またここで会おう」(3枚目の写真)「2066年7月28日だ。その時、何をしてようと。これって、変かな?」。イーザは、「ううん。そうしましょ」と答える〔この最後の言葉から、日本語の題名の『50年後のボクたちは』が来ているが、こうして観てくると、映画の内容とは何の関係もないことが分かる〕。