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Will ウィル/夢をかなえる旅

イギリス映画 (2011)

サッカー少年の映画は、はっきり言って山ほどあるが、特定のサッカーチームのファンで、そのチームの選手に関する知識が天才的なほど豊富な主人公の映画は、これ1本くらいで、他に例がない。そして、その少年が、偶然が重なり、はるばるイギリスからトルコまで、家出をする形で欧州サッカー連盟(UEFA)のチャンピオンズリーグの決勝戦を見に行くというストーリーも、他に例がない。もう少し、途中の苦労が多く、ラストがこれほどハッピーエンドでなければ、もっと高い評価を得ていたのかもしれない。つまり、女子修道院が運営する学校で、父親に捨てられて3年、半分孤児のように育ってきた11歳のウィル少年が、父と再会、すぐに死別し、父からもらった唯一のプレゼントの決勝戦のチケットを持ってパリに行くところまでは、結構ハラハラさせられる。パリに着いてからも、父の財布を盗られて全財産を失くし、父からもらった大切なチケットが偽物と分かった段階で、危機は最高潮に達する。そこまでは面白いのだが、パリで偶然会った “関係の良く分からない2人” から厚遇をうけてからは、トルコへの旅は、まるでウィルの凱旋のようになる。なので、苦労してトルコまで辿り着いた熱烈なファンという印象が薄れてしまう。「夢をかなえる旅」という、日本の副題は100%正しいが、逆に言えば それは “ほとんど苦労を伴わない旅” に過ぎない。映画のハイライトは、トルコの競技場でかつての国宝級の名選手と実際に会い、現役の有名な2選手とも会うシーン。ラストで、ウィルは栄光に包まれるが、現実問題として、こんなことがあり得るだろうか? ただ、暗い映画が多い中で、コメディでもないのに、こうした真に明るい映画はほとんどないので、貴重で稀少な存在と言えるかもしれない。そういう意味では、一度は必見に値する。

映画は、大きく8つのパートに分かれる。
 ①は、妻が死んで心が打ち砕かれた父親に捨てられたウィルのもとに、3年ぶりに父が現われ、ウィルの信頼を勝ち取る。その際、サッカー好きの父は、同じくサッカー好きのウィルに、1ヶ月ほど先にあるチャンピオンズリーグの決勝戦のチケットをプレゼントし、一緒に観戦に行く約束をする。
 ②父は、その翌日に病死し、ウィルは打ちのめされるが、2人の友達の支援を受けて、試合に間に合うぎりぎり前に学校から抜け出し、トラックに隠れて英仏海峡を渡り パリに向かう。
 ③パリに着いた途端、ウィルは2人の不良に父の財布を盗まれる。その絶望的状況を、偶然の重なりが救い、結局マチュとアレックという2人の部屋に泊ることができる。事情を聞いたアレックは、決勝戦のチケットを見て怪しいと思い、金券ショップに行き偽物だと判明する。お金もチケットもないウィルは、イギリスに戻らざるをえなくなる。
 ④しかし、マチュという変わった男は、「金が子供の夢の実現に使えないんなら、何の役に立つんだ?」と言って、アレックに大金と素敵な車を貸し与え、決勝戦が行われるトルコに向かわせる。
 ⑤その結果、ウィルは、「リヴァプールのNo.1のファン」としてマスコミでもてはやされる。
 ⑥ボスニアで、アレックの過去が明らかになる。
 ⑦イタンブールの競技場の前で、ウィルは何とか密売チケットを1枚手に入れ、そこに現れたかつての名選手のお陰で、アレックも競技場に入れてもらえる。
 ⑧名選手はウィルを選手出場口まで連れて行き、選手は、ウィルに素晴らしいことをさせる。

ウィル役は、ペリー・エグルトン(Perry Eggleton)。これが映画初出演で主役。彼を選んだ理由として、「ペリーがドアを通った瞬間、特別な輝きを放った。彼はとても自然で、リズムと音程も完璧、そして、素晴らしい記憶力を持っていた」と書かれている。しかし、子役時代に他の映画への出演はなく、2017年に端役で出演しただけで、映画界からは去っている。特に賞はもらっていないが、ハリウッドの並みの子役に比べ、遥かに上手で、印象的だ。

あらすじ

映画は、妻を病気で亡くし、8歳の一人息子ウィルを残して消えてしまった無責任な父親が、3年後に馴染みのパブに戻ってきたところから始まる。父親の持ち物は小さなバッグ1つだけ。友達のように親しかった年上のパブの店主から暖かく迎えられた父親は、2階の部屋に案内され、そこに大事に持って来た「大樹の絵」をベッドサイドに置く〔亡き妻が好きだった木〕。そして、何をしていたかと訊かれ、息子と一緒に住むためのマンションを買うお金を貯めていたと答えるが、後の展開から見て、この返答は嘘 もしくは 実現しなかった希望で、大したお金も持ち合わせていない。それでも、ウィルを引き取って3年間面倒を見てくれた女子修道院が運営する男子校に行き、院長にウィルの引き取りを申し出る。父:「子供は両親と暮らすのが一番です」〔片親なのに、なぜか両親と言っている〕。院長:「それは、両親が責任を果たせる場合の話です、ブレナンさん。私は、ウィルを守りたいだけです」(1枚目の写真)「私たちは、この3年間、ウィルが知っている唯一の家族です。あなたが、またウィルを見捨てたら、彼は打ちのめされてしまいます」。「息子は、私が一緒に連れて行きます」。「あなたが 親としての責務に飽きたら、私たちに戻すんでしょ? 1週間か、1ヶ月か1年で」。「そんなことは起きません」。「あなたは3年間、ウィルを放置したのですよ。あなたにとって困難な時期だったことは理解できますが」。「『困難な時期』? トレーシーが死んで、私の心は引き裂かれたのです。だからといって、私がウィルにしたことに 弁解の余地がないことは認めます。でも、主は私に試練を乗り越えさせて下さいました。私は息子と一緒にいたいのです」。この最後の “主” という言葉で、院長には赦しの心が生まれ、ブレナンをウィルに会わせることを認める。授業中のウィルは院長室に連れて行かれ、そこで父と3年ぶりに対面する(2枚目の写真)。父が 「やあ、ウィル」と笑顔で声をかけると、ウィルは 「何しに来たの?」と冷たく訊く。「一人息子に会いにきちゃいけないなんて法律あるか?」。院長は、このやや不適切な言い訳を、「ウィル、父さんはあなたに会うために遠くからいらしたのですよ」と言ってサポートする(3枚目の写真)。
  
  
  

父は、ウィルに、自分の部屋まで連れて行ってくれるよう頼む。ウィルは喜んでOKするが、院長は、その前に、ウィルが自分のサッカーボールを他の生徒に奪われた時に喧嘩になったことを、父親としてちゃんと注意するようブレナンに求め、彼がそれにきちんと対応し、ウィルが院長に 「ごめんなさい。二度としません」(1枚目の写真)と正しく謝ったので、ボールを返してもらえる。ウィルは、そのボールを持って、父を自分の2人部屋に連れて行く(2枚目の写真、ドアの両側に映っているのは、ウィルと同室の宇宙大好き少年サイモンの望遠鏡と太陽系を模した天井飾り)。部屋の半分のウィルの側の右側の壁には、リヴァプールFCの旗とポスター、それにウィルが描いた選手の絵が10枚以上貼ってある(3枚目の写真)。左側の机の上には、まだウィルが小さかった頃に、両親と3人で撮った写真も飾ってある。父は、机の上に置いてあったスケッチブックを見て、そこに描かれた絵が あまりに上手なので、「お前は ホントの芸術家だ。母さんそっくりだな」と褒める。
  
  
  

その後、右側の壁に貼ってあるケニー(Kenneth Mathieson Dalglish)の絵に気付き、「最高だ。ゲームが大きいほど、プレーが冴える」と漠然と言うと、ウィルは、「リヴァプールで172ゴール。チャンピオンズリーグ(UEFA)3回、ネーションズリーグ(UEFA)6回、FA杯(イングランド)2回、リーグ杯(イングランド)4回、ダブル(リーグ戦とカップ戦の2つに優勝)1回、トレブル(1シーズンで3つの主要大会で優勝)1回」と、サッカーデータの天才ぶりを発揮する。「ダブルはいつだ?」。「1986年」(1枚目の写真)。父は、「知ってるか、チェルシーをやっつけてリーグ優勝した年、俺はスタンフォード・ブリッジにいたんだ」と自慢する。「知ってるよ」。「お前と同じくらいの年だった。ドックは閉鎖寸前で、親父は仕事を奪い合ってた。それでも切符を2枚手に入れ、汽車賃も借りた」。その後も試合の話は続き、ケニーが決勝ゴールを決めた時の話の背後には、当時のTV映像が流れる(2枚目の写真)。映画の最後に2005年のケニーが顔を見せるので、それと対比するにははっきり判った方がいいので、3枚目にこの時の白黒写真を示す。そして、「親父は俺の腰に腕を回し きつく抱きしめたので、俺は試合が終わって欲しくなかった」と言いながら、ウィルを抱き締める(4枚目の写真)。2人ともサッカー大好き人間… かくして、2人の息はぴったりと合う。
  
  
  
  

父は、真面目な顔になると、「ママが死んだ時、一緒にいてやれなかった。ごめんな」と謝る(1枚目の写真)。そして、「俺は元気になった。そして、ここにいる… お前とやり直したいから。一緒にな」と希望を述べる。それに対し、ウィルは、それに対し直接答えず、変わったことを言い出す。「僕、夢を見た。リヴァプール。準決勝。1対0〔onenil〕。ガルシアのゴール」(2枚目の写真)。父は、「ジェラードでなく?」と、信じられないといった顔で訊く。「ガルシア」。「アルフォンソでもなく?」。「ガルシアだよ、絶対」。「ガルシアはイケてないぞ」。「違うよ、一流だ」。「夢を信じてるんだな?」。「だと思うよ」。その後、父は、ウィルや他の生徒達と一緒にサッカーをして遊び、それが終わると、大事にしている「大樹の絵」〔恐らく、死んだ妻が描いた〕の場所まで、ウィルと一緒に歩いて行く(3枚目の写真)〔ということは、一家はこの近くに住んでいたことになる〕。そして、2人は太い幹の上の最初の枝分かれした部分に座ると、コメディアンのSpike Milliganが1959年に作り、1998年に イギリスで最も好まれたコミック・ポエム『On the Ning Nang Nong』を交互に言い合って楽しむ。
  
  
  

その後、2人はパブに行き、ウィルはダーツを4本投げ、そのすべてがボードの中心に突き刺さり、父はびっくりする。そして、パブの主人は、「腕を磨け、ウィル。エージェントと契約できるかもな」と冗談を言うが、父はウィルに 「お前は最も稀有な人種の前にいるんだぞ… 約束を守る男〔a man of his word〕だ」と主人を紹介する。その流れを汲んで、父は、「ウィル、デイヴィーに夢の話、したか?」と訊く。「ううん」。父は、主人のデイヴィーに、「彼は、チャンピオンズリーグの準決勝で、リヴァプールがチェルシーに1対0で勝つって夢を見たんだ。ガルシアのゴールで」と話す。デイヴィーは、パブにいたサッカー賭博の賭け屋にオッズを訊くと、しばらく計算して、「11対1」という返事。それを聞いた父は、財布から100ポンド〔2005年の100ポンドは、当時の約2万円〕取り出すと、ウィルが夢に見た内容で賭けると言い、お金を渡す(1枚目の写真、矢印はお札)。ウィルは、デイヴィーに「じゃあ、1100ポンドになるね?」と言う〔22万円〕。それを聞いた父は、「旅行のために小遣いが要るからな」と言い、それを聞いたウィルが 「何の旅行?」と父の方に行くと、ダーツボードに紙が留めてある。ウィルがそれを外すと(2枚目の写真、矢印)、イスタンブールで開催されるチャンピオンズリーグの決勝戦のチケット2枚だったので、びっくり。「僕たち、行くの?」。「チケット、持ってるんじゃないか?」。「僕、これまで どこにも旅行したことがない」。「じゃあ、しないとな」。「だけど、すっごく高かった〔cost you a bomb〕んでしょ?」。「すごくいいオファーがあったからな」〔つまり、思ったよりずっと安く買えた〕「これまで、一緒にイスタンブールまで行ったことないよな?」。「ないよ」(3枚目の写真、矢印はチケット)。「チャンピオンズリーグの決勝戦でリヴァプールを一緒に応援したこともないよな?」。「ないよ」。父は、ウィルを抱くと、「これからは、食事をするのも、旅行するのも一緒だ。一緒にいる限り」と、ウィルを喜ばせる。
  
  
  

翌朝、ウィルは、父が来てくれるのを待って、校庭にスケッチブックを持ち出して絵を描いている。ところが、なかなか父が現われない。ようやく、1台の車が正門の前にやって来たので走り寄ると、何と降りて来たのはパブの主人。ウィルが隠れて様子を見ていると、肩を落とした主人が、学校の中に入って行く(1枚目の写真、右の矢印はスケッチブック、中央の矢印はデイヴィー)。そこで、ウィルは院長室の前の窓まで移動し、中の様子を窺う。すると、主人と会った院長が、思わず眼がしら押えるのが見える(2枚目の写真)。院長は、ウィルが外から見ているのに気付き、主人を連れて校庭に出て行く。ウィルは何が起きたのか知りたくて近くに寄って行く。すると、パブの主人に何か言われたウィルが、持っていたスケッチブックを落とし(3枚目の写真、矢印)、走って逃げ出す。ウィルはそのまま正門を飛び出し、遠くの校門までまっすぐ伸びるアクセス道を全力で走る。そして、パブまで行くと、父が泊っていた部屋に 「父ちゃん」と叫びながら駆け上がって行き、中に飛び込むが、中には誰もいない。ウィルは、中から鍵を掛けると 悲しげにベッドに横になる。すると、父が髪を撫でてくれているような気がする。
  
  
  

そこに、パブの主人が急いで帰って来て〔彼は車、11歳のウィルは駆け足、余程パブは近くにあるのか?〕、体当たりでドアの鍵を壊して部屋に入って来る。ウィルは、「父ちゃん、どこ?!」と訊く。「天国に行った。脳出血だった。眠ったまま目覚めなかった」〔脳出血は高齢者に多い病気なので、30歳代のウィルの父の場合は、高血圧に起因する脳内出血の可能性大。そして、若年性高血圧の原因は、塩分の過剰摂取、肥満、運動不足、アルコールの過剰摂取、喫煙、ストレス、遺伝とされるが、彼の場合は、ストレスが最大の原因で、アルコールの過剰摂取もあるのかもしれない〕。ウィルは、3年ぶりに最高の形で父と再会でき、夢が膨らんだ翌日に起きた突然死に泣き崩れる。そして、学校に連れて行かれると、父の遺品として、デイヴィーが櫛、財布、「大樹の絵」、チケットの入った封筒を、院長のテーブルに置く〔実に身軽〕。ウィルが封筒を手に取って、中身を確認し(1枚目の写真、矢印)、「デイヴィー、連れてってくれる?」と尋ねると、「その日は、弟がロンドンで結婚する。わしはベストマン〔結婚式で新郎のサポートをするアッシャー(世話係)の代表者/未婚男性の役なので デイヴィーは独身〕なんだ」と断られる〔映画の最後の映像で、嘘ではないことが分かる〕。院長は、「どうするか決まるまでチケットは私に預らせて。そんなに大切なものをあなたの部屋に置いておくのは危険よ」と言い、ウィルは渋々封筒を院長に渡す(2枚目の写真、矢印)。父の財布を手に取ったウィルは、ノートルダム大聖堂の前で、赤ちゃん時代の自分が、母に抱かれている白黒写真を見て、「僕、ひとりぼっちだ」と悲しそうに言う。院長は、「一人じゃありませんよ、神様がいつも一緒よ」と、修道女らしい慰め方をするが、それを聞いたウィルは、「神様がイスタンブールに連れて行ってくれるの?」と訊く。院長は、ある意味無責任に、「神様は、あなたをどこにでも連れて行って下さるわ。必要なのは信じる心よ」と慰める。院長の実現不可能な返答に頭に来たウィルは、父が死に、イスタンブールにも行けなくなったと分かると、部屋に走って行くと、壁に貼ってあったスケッチを一枚残らず剥がし、リヴァプールFCの旗を破るように引きずり落し、ポスターは一部を残して破り取る。次に、自分の机の上に置いてあったリヴァプールFCについての色々な資料を床に捨てる。そこに、リッチーとサイモンが入って来る(3枚目の写真、右の矢印はポスターの残り、左の矢印はサイモンが床から拾い上げた資料。中央の少年が一番助けてくれるリッチー)。
  
  
  

リッチーは、ベッドに座り込んだウィルにチケットを見せてくれと言うが、ウィルは持ってない、院長が「僕を試合に連れてってくれる人が見つかるまで保管してる」と答えるが、わざわざイスタンブールまで連れて行ってくれる人などいるハズがないので、「もう、どうだっていい」と悲しみにくれる。それを見たチェルシー・ファンのリッチーは、「そうだな、まずリヴァプールが(準決勝で)勝たないと。だが、そんなことありえないって、誰でも知ってる。だから、こうしよう。リヴァプールが負けたら、ここにいろ。勝ったら、行けよ」(1枚目の写真)。そして、いよいよ準決勝の日(2005年5月3日)、ウィルとサイモンの部屋に他の生徒も集まってラジオの中継を聞いている。そして、ウィルが以前夢で見たように、ガルシアがゴールを決め、1対0でリヴァプールが決勝進出を決める。しかし、ウィルの顔は冴えない(2枚目の写真)。リッチーは、悔しがるが、「もしチェルシーが決勝で戦い、僕がチケットを持っていたら、七か国軍でも僕が行くのを止められないぞ」〔A seven nation army couldn't stop me from going/これは、The White Stripesのヒット曲『Seven Nation Army』の「七か国軍でも俺を止められないぜ(A seven nation army couldn't hold me back)をもじったもの/サッカーの応援歌にもなっている/七か国軍は救世軍(Salvation Army)に由来〕と言い、サイモンも 「僕もだ」と同調する。ウィルが 「旅費はどうするの?」と言うと、リッチーは、「父さんが賭けて、君が勝ち取ったお金がある。いいか、行かないのは、君や、君の父さんや、サッカーファンのタマを蹴るのと同じだ。君には権利がある」。そして、マグナカルタ〔王権を制限し、都市の自由を規定した1215年の憲章〕を引き合いに出し、院長のことを、「自由なイギリス人としての君の権利を踏みにじってる」と批判する。それから2週間が経った5月19日、黒板には、月の満ち欠けを書いたカレンダーが書かれていて、翌20日の欄が満月。リッチーは、「満月は出発に最適」だと言い(3枚目の写真)、さらに、「招かれる者は多いが、選ばれる者は少ない」〔『マタイによる福音書』 22章14節〕「君の番だ」 と鼓舞する。
  
  
  

20日の夜、旅の服を着てベッドで横になっていたウィルのところに、顔に迷彩色を塗ったリッチーが呼びに来る。一緒に行くには気弱なサイモンは、ウィルが投げ捨てたリヴァプールFCの旗を、「必要になるかも」と言って渡し、「地図は持った?」と訊く。「うん。ありがと、サイモン」(1枚目の写真)。そのあと、ウィルはリッチーと一緒に院長の部屋に侵入する。一番可能性の高いのは、「ウィル・ブレナン」の名前の入った箱なので、リッチーが土台となり、その上にウィルが乗って、何とか箱を床に降ろして蓋を開けてみる(2枚目の写真、矢印)。しかし、その中にチケットは入っていなかった。2人は手当たり次第に引き出しを開けたり、置物の下を見たり、本をパラパラめくったりするが、どこにも見当たらない。ところが、ウィルが偶然ステンドグラスを見ると、その前に置いてあるマリア像の右手に封筒が挟んであったので、2人はびっくりする(3枚目の写真)。ウィルが手から封筒を取り、中からチケットを取り出すと、リッチーは盗まれるといけないので靴に隠すよう指示するが、その前に、「ちょっと持たせて」と頼み、宝物のようにチケットに触る。ウィルは、てっきりリッチーも一緒に来るのかと思っていたので、「来ないの?」と訊く。リッチーは 「いいか、日の出までに数時間ある。僕は、ここに留まって、追っ手をまかないと。僕に吐かせようとするだろうけど、3日は持ちこたえてみせる。その頃には、君はイスタンブールに着いてる」と 健気なところをみせる。
  
  
  

あと必要なのは旅費なので、ウィルはパブに行く。そして、まだ仕事をしているデイヴィーの部屋をノックする。ウィルの顔を見たデイヴィーは、「お金のために来たんだろ? 君をトルコに行かせるために金など渡せん」とすげない。「父さんは、正々堂々と勝ったんだ」。「彼に代わって、正しい行いをしないといかん」。「僕もだ」(1枚目の写真)。「ウィル、どうなるか知っとるのか? わしが10歳の子に…」。「11歳だ」。「わしが 学校から逃げ出してイスタンブールのチャンピオンズリーグの決勝戦に行きたがってる11歳の子に1000ポンド以上のお金を渡したことが警察にバレたら、一番近い木に吊るされちまう」〔5月3日から2週間あれば、そして、ウィルのことが大切なら、自己資金を追加してでも介添え付きの旅行の手配くらいできたハズなので、デイヴィーはかなり不誠実でケチな人間〕。それでも、ウィルが 「時間がなくなっちゃう。どうかお金ちょうだい」と頼むので、デイヴィーは 「君が1100ポンド持っているのを警察が見つけたら、君が盗んだって証言するからな」と冷たいことを言い、金庫から取ってくると嘘を言い、隣の部屋に行くと院長に電話をかける。その頃、レジ係の女性が、売上金を入れた箱を持って ウィルが待っている部屋に入って来て、「デイヴィーはどこ?」と訊く(2枚目の写真、矢印)〔イギリスのパブの営業時間は法律で夜11時までとされているので、「日の出までに数時間」あるというリッチーの言葉は間違いで、この時間は、深夜12時よりも前でないとおかしい〕。ウィルが 「パパの賞金を取りに」と答えると、このまともな女性は、「よかったわね」と言ってくれる。ウィルは、箱の中に少しはお金が入っていたので〔1100ポンドも売り上げがあったハズはないので、ずっと少額〕、信頼できないデイヴィーを待つのをやめ、売り上げ金を頂戴してパブから逃げ出す。隣の部屋から戻って来たデイヴィーは、箱が空なのを見て事態に気付くが(3枚目の写真、矢印)、愚かな自分の行為のために、かえってウィルを危険に曝してしまったことに気付いたとは思えない。
  
  
  

ウィルがいた修道院の学校は、あとでケント州にあることが分かる。ウィルが向かったドーヴァー港はケント州の東端にあるので、まだ暗いうちにドーヴァー港のトラック・ターミナルに着いたとしてもおかしくはない。それにしても、真夜中に、どういう交通手段でターミナルまで辿り着いたのかは不明。ウィルは作業員の目を盗んで、1台のトラックの荷台に乗り込む(1枚目の写真)。中には、イギリス風のトピアリー〔立体的な幾何学模様に刈り込んだ低木〕の鉢植えが並んでいた。ウィルは、一番の奥の木に隠れて外の様子を窺う(2枚目の写真)。幸い、見つかることなくリアドアは閉められ、トラックはフェリーに乗り込む。そして、ウィルを乗せたフェリーはフランスに向けて出港する(3枚目の写真)。
  
  
  

トラックは、パリ郊外のランジス食品卸売市場に到着し、ウィルは見つからずにトラックから降りる。そして、広大な卸売市場の中を歩いていて、果物の卸業者の前を通りかかると、優しいおばさんが、イチゴを1個食べさせてくれる。トラックがどこに着いたか分からないウィルは、「ここ、パリ?」と尋ねる。すると、英語の分かる主人が呼ばれ、彼は 「パリ郊外だ。どこに行きたい?」と訊く。「駅。東駅空色はフランス語〕。主人は、①バスでメトロの駅まで行く、②4号線か7号線に乗る、と教えるが、そうした経験に乏しいウィルは困った顔になる。そこで、主人は、外でバンに荷物を入れているまだ若い男性を指して、「アレックに乗せてもらえ。毎日パリまで運転してる」と教えてくれる。ウィルは 「ありがとう、ミスター…」と言うと、主人は「ミスター・ウォン」と言い、ウィルは、「ありがとう、ミスター・ウォン」と笑顔で言い直す(1枚目の写真)。ウィルがアレックの近くまで行くと、1人の男がアレックに最初は外国語で話しかけるセルビア語クロアチア語ボスニア語かは不明〕。「あんたなんだろ? 俺はサラエボから来たんだ。なあ、あんた。俺はサラエボ〔サッカーチームの名〕のサポーターだ。オヤジも、ジイサンもだ。見た目は変わったけど、あんただろ。覚えてるぞ」。それまで、男を無視してきたアレックは、乱暴に男につかみかかると、「何を覚えてるんだ?!」と怒鳴り、突き飛ばす。そして、「もう終わったんだ! 分かったな?」と、さらに怒鳴る。男は、「ごめん、ズーケチャック。悪意はなかった」と謝り、胸に入れた「NK Sarajevo」のマークを見せて、何度もチーム名を叫ぶ〔ズーケチャックが、サラエボの選手だったらしいことが分かる〕。アレックが荒々しく運転席のドアを閉めると、キーがない。その時、ドアがノックされ、踏み板に上がったウィルがキーを見せ、「あなた、アレックだよね? パリまで乗せて行ってくれる?」と頼む(2枚目の写真)。「何だと?」。「ウォンさんが、あなたが乗せてくれると言ったんだ」。「ウォンさんを知ってるのか?」。「父さんが、彼と一緒に働いてる」。ウィルは乗車を許され、助手席に座る。しばらく走ると、アレックは、「どこで降ろせばいい?」と尋ねる。「東駅。そこでパパと会うんだ」。
  
  
  

ランジス食品卸売市場はパリ南部〔パリ中心のシテ島の南10キロ〕にあるので、パリ東駅〔シテ島の北3キロ弱〕に向かおうとすれば、北上して シテ島を横切るのは当然なのだが、その先の撮影は奇妙。というのは、アレックのバンが、ノートルダム大聖堂の正面を横切るシテ通り〔Rue de la Cité〕からに向かって走っている〔逆方向なので あり得ないのだが、この道は一方通行なので、撮影上やむを得ない〕。すると、左手に大聖堂が見え、ウィルが突然 「止まって、お願い!」と言い出したので、アレックはバンを左折させてすぐの所で停車(1枚目の写真、矢印、因みに右が南で左が北)。ウィルは 「あれ、ノートルダム?」と訊き、「そうだ」と言われると、「ここでいいよ」と降り、東駅までどうやって行くか訊き、「ありがとう」で別れる。外はかなりの雨だ。ウィルは、父の財布に入っていた写真と、自分が今いる場所が同じだと確かめる(2・3枚目の写真。矢印 )。ウィルにとっては、すでに亡くなった両親と自分を結びつけることのできた 貴重な瞬間だ。
  
  
  

ウィルは、まだ朝食を食べていなかったので、クレープの屋台でイチゴの絵を指差して注文する。そして、ぎっしり小額紙幣の詰まった財布を取り出して、20ポンド紙幣を1枚取り出していると、それを2人組の街のチンピラに見られてしまう。店主からイチゴのクレープを受け取ったウィルが(1枚目の写真)、お金を渡そうとすると、「君は、フランスにいるんだ。ユーロを使え」と言われるが、何を言われたか察したウィルは、「僕、これしか持ってない」と答える。店主は、すぐに食べないと意味のない商品を渡してしまったので、仕方なくウィルを追い払う。ウィルが食べていると、そこに2人が駆け寄り、一人がウィルを背中から押さえ、ポケットから財布を盗み取る(2枚目の写真、矢印)。2人は、セーヌ河沿いの歩道に逃げ、ウィルが必死に後を追う(3枚目の写真)〔正面に見えるのは、プティ・ポン橋〕。2人は橋の下をくぐって大聖堂の真向いまで来ると、立ち止まる。そして、財布を盗んだワルが、財布からお札を抜き取ると自分のポケットに入れ、思い出の写真の入った財布を川に投げこむ〔最低のクズ〕。ウィルは茫然として、川を見て立ち尽くす〔もし、ウィルが無事に財布を持って東駅に行った場合、2005年の状況は不明だが、2020年時点で、パリ~マンハイム(ドイツ)~ミュンヘン(ドイツ)~ブダペスト(ハンガリー)~ブカレスト(ルーマニア)~イスタンブールを経由しての2泊3日の旅行となり、旅費は最低250€。2005年5月の金額は不明だが、200€だと仮定すれば、当時の換算額で27000円。これなら、パブの売り上げ金で行けた可能性はある。ただ、11歳の子供が一人で乗車できたかどうかは分からないが〕
  
  
  

映画では、少し前のシーンになるが、学校では、院長の部屋にリッチーとサイモンが呼ばれ、刑事からの尋問を受けている。リッチーは、「僕は、何も言わないから」と、ウィルとの約束を守る。刑事が、「もう一度訊く。ウィルはどこだ?」と問い詰めると、「きっとリヴァプールじゃないかな」と、とぼける。それを聞いた院長は、「リチャード! 嘘は止めなさい。後悔しますよ」と警告する(1枚目の写真)。刑事は、弱々しそうなサイモンをターゲットにしようと、「君は、何か話してくれるか?」と優しく訊く。頭のいいサイモンは、「弁護士の立ち会いを希望します」と発言する。「それは罪を認めたということかね?」。「告発された場合、僕には、法的助言を受ける権利と、警察の行動規範をチェックする権利があります」。次のシーンでは、学校の門の前で、TVのレポーターが話している。「ウィル・ブレナン君は 今どこにいるんでしょう? 熱狂的なリヴァプールサポーターの11歳のウィル・ブレナン君は、チャンピオンズリーグ決勝のわずか4日前、ケントにあるこの学校から逃げ出しました」(2枚目の写真)。修道院の中では、院長が、「私たちは彼を試合に連れて行くべきでした。それが、彼に残されたすべてでしたから。私たちが、彼にとって良かれと思って取った行動が、彼の希望を奪ってしまったのです」と、後悔している(3枚目の写真)〔「私たち」は、「私」の責任転嫁〕
  
  
  

お金を盗まれて、どこにも救いを求める場所もないウィルが、大聖堂の背後の公園のベンチにずっと座っていると、そこに、その日の路上での仕事を終えた黒人が寄って来て、「きれいな教会だろ」と声をかける〔朝は雨だったが、夕方には晴れている〕。「何て言ったの?」。「イギリス人か? なんでアレックを知ってる?」と訊く(1枚目の写真)〔朝、アレックの車から降りるのを見ていた〕。さらに、「アレックを待ってんのか? 車で迎えに来るんか?」とも。次のシーンでは、親切な黒人は、アレックのアパートまでウィルを連れて行ってくれる。そして、アレックが出て来ると、「迎えに来るの忘れたろ」と言ってウィルを見せる。アレックは戸惑い、ウィルは申し訳なさそうな顔で黒人を見る(2枚目の写真)。黒人は、「知り合って、どのくらい?」とアレックに訊く。「今朝、ランジスから乗せてやった」。「それだけ?」。そこに、この部屋の主人の初老の男が、鶏の丸焼きを持って入って来ると、「やあ、セルジュ」と声を掛ける。そして、ウィルをみつけると、「やあ」と笑顔で言い(3枚目の写真)、「わしはマチューだ。君は?」と 初対面なのになぜか英語で訊く。「ウィル」。「やあ、ウィル」「一緒に食べてくか、セルジュ?」。セルジュは、断った上で、「このチビ君は、腹ペコだ」と、親切に教える。アレックは 「ここに、置いてくのか?」と文句を言うが、主人は 「まず食べよう。それから考えればいい」と言い、ウィルを食卓に座らせる。
  
  
  

アレックは、ウィルが東駅で父と会うと言ったのを覚えていたので、「お父さんはどこだ?」と訊く。「トラブルがあって」。「どんな?」。「ノートルダムで財布 盗られて、お金も電話番号もなくなった」(1枚目の写真)。主人は、アレックに向かって、「ムカつく話だ。子供から盗むなんて」と言った後で、ウィルに 「どこから来たんだね?」と尋ねる。「南イングランド」。「家族はそこに?」。「ううん。パパはリヴァプールから。ママは3年前に死んだ」。主人:「可哀想に」。アレック:「なぜ、パリにいる?」。「イスタンブールに行く途中」。主人:「チャンピオンズリーグの決勝かい?」。「そう。リヴァプール対ACミラン」。主人:「がっかりさせて悪いが、リヴァプールに勝ち目はないな」。ウィルは主人に向かって 「どうかしてるんじゃない?」と言うと、アレックに 「どう思う?」と訊く。「彼は正しい。ミランは強大だ」と言うと、代表選手の名を挙げる。ウィルも負けじと、リヴァプールの代表選手の名を挙げる。ウィルがサッカー少年だと分かると、アレックの顔が緩む。ウィルは、居間のソファで眠り、翌朝、アレックが朝食を運んできて目が覚める。ウィルが、靴の中に折って入れておいたチケットをアレックに見せる(2枚目の写真、矢印)。そして、「行きたい?」と尋ねる。チケットが偽物だと気付いたアレックは、「どこで手に入れた?」と訊く。「僕のパパ」。「お父さんはどこにいる?」。アレックに何度も訊かれたウィルは遂に泣き出し、「死んじゃった。学校が行かせてくれなかったので、逃げ出したんだ」と打ち明ける(3枚目の写真)。深く同情したアレックは、「きっとうまくいく」と慰める。
  
  
  

アレックはウィルをバンに乗せて狭い街角で停車すると、「ここで待ってろ。すぐ戻る」と言い、チケットを持って金券ショップに行き、チケットを診てもらう。店主は、このチケットは偽物だが、本物なら最低でも1万ユーロ(当時の135万円)、高ければ1.5万か2万ユーロだと言う(1枚目の写真、矢印はウィルのチケット)〔この値段は信じられない。なぜかと言うと、同じチャンピオンズリーグ決勝で、翌2006年のフランス(サン=ドニ)の闇取引のチケットが1000ポンド(当時の21万円)で大問題になり、UEFAが調査に乗り出したとの記事がイギリスのThe Guardianに載っている。また、もっと格の高いワールドカップで、2010年の南アフリカ大会の決勝の闇チケットの最高額が37万円〕。そこに、アレックがチケットを持って行ったきりなかなか戻って来ないので心配になったウィルがやってきて、「何してる? 僕のチケット返せよ」と言って(2枚目の写真)、アレックから奪い取る。そして、「友だちだと思ってたのに、他のみんなと同じで嘘つきだ!」と罵倒して逃げ出す。アレックは、店主から、4月14日に終わったユヴェントス対リヴァプールの準々決勝の売れ残りのチケットを借りると、ウィルの後を追う(3枚目の写真、階段の下にいるのがウィル、上にいるのがアレック)。
  
  
  

ウィルが角を全速で曲がると、後ろからトラックが走って来て(1枚目の写真)、急ブレーキの音がする。アレックは、てっきり轢かれたと思って停車したトラックの前まで恐る恐る歩いて行くと、ウィルはトラックの数10センチ手前で立ちすくんでいた(2枚目の写真、矢印はトラック)。アレックは、凍り付いたようになっている運転手に目で合図して礼を言うと、ウィルをトラックの前からどかせる。それでも、ウィルは、「あんたも、他の誰も要らない。僕一人でイスタンブールに行く」と言うが、アレックは 「残念だが、うまくいかないだろう」と否定する。「どういうこと?」。そこで、アレックは、店主から借りて来たチケットを見せ、ミシン目の部分にホログラムが付いているのを見せる。しかし、ウィルのチケットにはそれがない。「君のお父さんは騙されたんだ。この2枚は偽物なんだ」(3枚目の写真、矢印は正規のチケットのホログラム)。これで、ウィルのすべての夢が崩れ去る。
  
  
  

アレックは、アパートの部屋の主人が経営している店まで行き、修道院の院長に電話をかける。そして、「彼は少し動揺していますが、大丈夫です」と知らせる(1枚目の写真)。院長は 「彼と話せますか?」と頼み、ウィルが携帯に出る。「大丈夫なの?」。「うん」(2枚目の写真)。院長は 「すぐに会いましょうね」と言って電話を切る。その直後、店の主人が、分厚い封筒をアレックに差し出す。アレックが 「何です?」と訊くと、「9000ユーロ入っている。チケット代だ」という返事。アレックは、「マチュ、彼は逃亡者だ。俺は、今、彼の学校に電話をかけて、彼を戻すと言ったところだ。刑務所行きになる」と反対するが、マチュは 「助けないのは犯罪だ」と意見を変えない。「マチュ、俺にはできない」。「金が子供の夢の実現に使えないんなら、何の役に立つんだ?」(3枚目の写真、矢印は封筒)。
  
  
  

アレックは、マチュの助言を断り、ウィルをバンに乗せて パリの女子修道院まで連れて行く。待ち合わせの場所に着くと、ウィルは、「全部イカサマだ。チケットもイカサマ。僕のパパもイカサマ、僕を引き取ると言って死んじゃった。学校もひどいイカサマ。院長はたくらみの根源だ、『あなたをずっと世話する』だって? 大きくなったら、路上に放り出すだけだ。イカサマと嘘の世界だ。もし、あれが本物のチケットなら あんたにあげたのに、本物じゃなかった。僕もイカサマだから」と、悲しそうにアレックに話す(1枚目の写真)。それだけ言うと、「誕生日おめでとう」と言って、アレックを描いたスケッチを渡す(2枚目の写真)。それ見たアレックは、「なぜ、サッカーのユニフォーム着せた?」と訊く。「似合うと思って」。その時、バンの外で、修道女の「ボンジュール」という声が聞こえる。アレックは、修道女に笑顔を見せると、エンジンをかけ、バンを急発進させる(3枚目の写真、矢印は取り残された修道女)。
  
  
  

ウィルは、びっくりして 「何するの?」と尋ねる。「何だと思う?」。「イスタンブール?」。「そうだ」。「だけど、どうやって中に入るの?」。「何とかするさ。信じないのか?」。「よくわかんないけど、僕には、あんたしかいない」。それを聞いたアレックは笑顔になり、それを見たウィルも笑顔になる(1枚目の写真)。マチュの店の前まで来ると、ウィルは真っ先にバンから飛び出て、ちょうど店の前にいたマチュに、「僕たちトルコに行くんだ! 見れなくて惜しかったね。アレック、凄かったんだ!」と叫びながら駆け寄る(2枚目の写真)。「トルコか? そうこなくっちゃ〔That's more like it〕! 素晴らしい!」。マチュは、そう喜ぶと、バンから出て来たアレックにお金の入った封筒を渡し、2人は抱き合う。2人が、そのままバンで行こうとすると、マチュは、「待て待て、学校に行ったのか?」と訊く。アレックが頷く。「バンを見られたか?」。次のシーンでは、マチュが先導して店の奥に行くと、そこには、真っ赤なシトロエンDSカブリオレが鎮座していた。ウィルが 「こんな凄い車、見たことない! リヴァプールの赤だ」と喜ぶと、マチュは 「これぞ、わしの誇りと喜び、1966年からのタイム・トラベラーだ」と自慢する〔2005年なので、40年近く昔のクラシックカー〕。アレックは、「マチュ、他の車を見つけるよ」と遠慮するが、マチュは車のキーを渡す。2人はDSカブリオレに乗り込み、トルコへの長旅に出発する(3枚目の写真)。
  
  
  

高速道路をゆっくりと走るDSカブリオレの横を、熱狂的なリヴァプールFCのサポーターを満載したバスが追い抜いて行くが、その際、リヴァプールFCのユニフォームを着たウィルは、FCの旗を両手に持ってかざし、それを見た乗客が、窓から身を乗り出して、それに応える(1枚目の写真)。バスの横に赤い字でなぐり書きされた 「YOU’LL NEVER WALK AKONE」は、リヴァプールFCの応援ソングの題名。映画では、その歌が流れ、束になった新聞がベルトコンベアーの上を流れていくのが映る。イギリスでの一面トップの大見出しは、「LIVERPOOL No.1 FAN」。副題は、「ヨーロッパを横切る猛ダッシュは何百万に感銘を」。同様の新聞は、パリでも。大見出しは英語と同じ「リヴァプールのNo.1サポーター」(2枚目の写真)。新聞は、大会のあるトルコでも、「リバプールの一番のファン」と言う大見出しで売られている(3枚目の写真)。
  
  
  

セルビアのフードトラックの店で、さっきのリヴァプールFCのサポーターがケバブなんかを買って食べているが、そのうちの2人が議論を始める。「お前は、キャラガーのことなど何も知らん」。「お前より、よく知ってる」。「いや、俺だ。なんせブートルから来たんだ〔キャラガーはブートル出身〕」。「お前がキャラガーの家に住んでたって構わん。本人じゃないんだ」。「俺は大のリヴァプール・ファンだ。いいか、教えてやる。キャラガーが最初にゴールを決めたのはミドルズブラとの初戦だ」。「いいや違う。それはアーセナル戦だ」。ここで、ウィルが割り込む。「すみません。言いにくいんだけど、ホントは、キャラのデビューは1997年1月8日のミドルズブラ戦。コカ・コーラ・カップでロブ・ジョーンズに代わって投入された時。彼のプレミアシップ初先発は1998年1月18日のアストン・ヴィラ戦で、得点を挙げたんだ」。生き字引のような知識に驚いた2人は、「リヴァプールの天才だ」と驚き(1枚目の写真)、仲間の方に連れて行く。一方、店の主人は、ピンときたので、新聞を取り出して見てみる。そこには、セルビア語で、「リヴァプールの最も熱狂的なファン」の大見出しの下に、「ウィル・ブレナンは決勝戦に行き着くだろう」と書かれている(2枚目の写真)〔後で、店主が警察に通報したことが分かる〕。ウィルはバスの前まで連れて行かれ、さっきの男が、「リヴァプールの天才を紹介しよう」とみんなを呼び集め、ウィルは キャラガーについて生い立ちから話し始め(3枚目の写真)、喝采を浴びる。
  
  
  

ウィルのことは、全世界のTVでも話題になっている。太平洋を背景にしているので、イギリスの放送局とは思えないキャスターが、「リヴァプールのナンバーワンファンとして知られるイギリス人の少年、ウィル・ブレナンはいったいどこにいるのでしょう」と話し(1枚目の写真)、次が、中東のどこかの国の放送局(2枚目の写真)、3番目がインド、4番目は、一国二制度が生きていた時代の香港(3枚目の写真)、5番目がイタリア。そして、再び最初のキャスターに戻り、「彼は果たしてやり遂げるでしょうか?」で終わる。警察は違法行為として監視しているのに、マスコミは、一方的に応援しているので、何だか変な気がする。
  
  
  

先程のセルビアの続き。バスが一般道を走っていると、そこにパトカーがやって来て、前に回り込んで強制的に停車させる(1枚目の写真)。そして、全員をバスの前に一列に並ばせ、「行方不明」と書かれたウィルの紙を見せ(2枚目の写真)、「この少年は、このバスと一緒にいた。彼は、イギリスから家出した。名前は、ウィル・ブレナン」と説明し、「どこにいる?」と1人に訊く。彼は 「俺がウィル・ブレナンだ」と言い(3枚目の写真)、別の男が 「違う、俺がウィル・ブレナンだ」と言い、この発言は連鎖し、女性まで 「私がウィル・ブレナンよ」と言い、警察は困ってしまう。
  
  
  

その頃、ウィルとアレックは、山の中に作られたサッカー場の真ん中にDSカブリオレを停め、夜を過ごそうとしている。アレックは、「君がファンだとは知っていたが、天才とは知らなかった。大きくなったら、リヴァプールでプレーしたいのか?」と尋ねる(1枚目の写真)。ウィルは、100%無理だと否定する。翌朝、アレックが起きると、ウィルがボールをゴールに蹴り入れて遊んでいる。アレックは、ウィルが取り損ねたボールを使い、脚を使って見事なボールさばきをしてみせる(2枚目の写真)。それを見たウィルはびっくりし(3枚目の写真)、「どこで習ったの?」と訊く。答えたくないアレックは、「君は、どこで絵を習ったんだ?」と話をすり替える。「パパは、僕がママから遺伝子を受け継いだと言ってた。それに、いっぱい練習したから」。アレックは、さらに話題を変える。「トルコに着く前に、もう一泊しないと」。「家族に会うの?」。「昔知ってた人たちだ」。
  
  
  

この先の一連の場面は、映画の中で一番 “無意味” かつ “ない方が良い箇所”。それは、何のためのわざわざ寄ったかの意味が最後まで分からないし、寄ったことで事態が少しでも変わったとは思えないから。アレックは、石で出来た村の奥まで入って行ってDSカブリオレを停める(1枚目の写真)。最初家にいた男は、アヴド。アレックとの関係は最後まで分からない。アヴドは、アレックに、「すぐに戻る。10年待ったんだ、数10分くらい待てるだろう」と言うので、アレックは別の人物に会いに来たことが分かる。そして、そこにミナという女性が帰って来る(2枚目の写真。右の女性がミナ、座っている男がアヴド)。ミナはアヴドの妻。祖母は、アレックに 「今までどこいたの?」と訊く。「パリ」。次に祖母はウィルに、「あなた、ボスニアの子じゃないわね?」と訊く〔ここは、ボスニア・ヘルツェゴビナ/会話がすべて英語なのは奇妙〕。「僕、イギリス人だよ」。祖母は、ウィルのことをニュースで知っていた。そして、一家での夕食のシーン(3枚目の写真)。その時、アレックの横に座った祖母が、「わしが幼い頃、お前さんの曽祖母のアイーダが最高のハルヴァ〔お菓子〕を作ってくれた」と話すので、アヴドとその祖母とアレックとの間に血のつながりはない。そのあと、祖母が会話の中で使った「家族」という言葉を聞いたミナは、「彼は家族の何を知ってるの? 何も起きなかったふりをすることなんかできない」とアレックを咎める発言をし、ウィルを見て、「その子に、あんたが私の息子に何をしたか話しなさいよ!」と迫る〔“my son” と言っていて、“our son” ではないので、アレックが、かつてミナの妻だった可能性は低い〕
  
  
  

ここから、過去の話が始まる。①アレックはサラエボ〔FKジェリェズニチャル・サラエヴォ〕の選手で、戦争が終わった年〔1995年/アヴドが「10年」と言っていたので、ちょうど符合する〕の週末にたくさんサッカーボールを持って凱旋帰村した(1枚目の写真)〔この撮影場所は、トルコのジュマルクズク(Cumalıkızık)の可能性が高い/2枚目の写真参照〕。②アレックは 「ボールが欲しい子」と言って、子供達にサッカーボールをプレゼントした。③ゼノというシャイな少年が、離れて見ていたので、アレックはゼノを呼んで1個渡した。④ゼノは一人で遊び始め、蹴ったボール(3枚目の写真、矢印はボール)が立入禁止の場所に入った。⑤そこには、「NE PRILAZITE/MINE〔近づくな。機雷〕」とクロアチア語で警告表示がされていたが、ゼノは無視して入っていき(4枚目の写真、矢印)爆死した。
  
  
  
  

この話が終わった後、アレックは 「許してくれ、ミナ」と謝るが、ミナが許したかどうかは分からない。そもそも、アレックがなぜ責められなければならないのか、さっぱり分からない。ゼノの爆死はアレックのせいではなく、むしろ、“そこには近づくな” と教えてこなかった母ミナ、ゼノから目を放した母ミナのせいだ。さらに言えば、ミナは、“傲慢” に責めるだけで、アレックに赦しも与えなかった。こんな場所に、“ウィルを4月25日までに届ける” という責務を負っていながら、なぜ立ち寄ったのか、理由はさっぱり分からない。この映画の脚本の最大の欠点と言える。翌朝、アレックは鞄の中から持って来たユニフォームを取り出す。それは、リヴァプールFCの正式のユニフォームで、背中には、ウィルが描いたのと同じ、ズーケチャックの名と3番の数字が書かれていた。「僕の絵と同じだ」。「そうだ」(1枚目の写真)。「ちょっと待って、リヴァプールでプレーしたの?」。「サラエボで活躍したから、有名なチームから声がかかった。バルセロナ、ACミラン、アーセナル、そして、リヴァプールだ。いいトライアルを見せたから、これをくれた。入りたかったが、その時、ゼノが…」。それだけ説明すると、記念のユニフォームをウィルに投げてよこし(2枚目の写真)、ウィルはさっそく着てみるが、あまりに大きくて膝まで届く(3枚目の写真)。
  
  
  

アヴドの祖母が、アレックのユニフォームを、ウィルが着れるように小さく縫い直していると(1枚目の写真)、そこにアヴドがやって来て、「アレック急がないと。君の車を見た隣人が署長に電話した。ウィルのことがニュースになってるから、注目を浴びようと逮捕しに来るぞ」と言う(2枚目の写真)。ウィルは、できあがったユニフォームを着ながら走ってくると、アレックが待っているDSカブリオレに飛び乗る(3枚目の写真)。
  
  
  

ボスニアのどこかは不明だが、モスクがあるので南西部だとすれば、イスタンブールまでの直線距離は約1000キロ。真っ直ぐな道はないので、かなりの時間がかかったと思われが、試合開始が夜の9時45分なので、十分に間に合い、まだ明るいうちにアタテュルク・オリンピック・スタジアムに到着する(1枚目の写真)。車では近づけないので、2人は歩いてスタジアムに向かう。ウィルは、「アレック、チケット売ってる人なんかいないよ」と心配する(2枚目の写真)。アレックは訊いて回るが誰もいない。売人を最初に見つけたのはウィル。アレックを放っておいて男の前まで行ってしまったので、ウィルがいなくなったと思ったアレックが駆け付け、「勝手にいなくなるな」と叱ると、「彼がチケット持ってる」と教える(3枚目の写真)。アレックは、さっそく 「チケット、持ってるのか?」と訊くと、男は 胸ポケットから1センチくらい引っ張り出して見せる。ウィルが「魔法のシールどこ?」と訊くと、男は チケットを引っ張り出してホログラムを見せる(4枚目の写真、矢印)。アレックが 「幾ら?」と訊くと、「12000」という返事。「9000しか持ってない」。「そりゃ、運が悪かったな」。「そんなこと言わずに、これは重要なんだ」。「そうさ。だから12000なんだ」。「取引しよう」。「断る」。
  
  
  
  

そこに、バスの最初の2人の男が寄って来て、「おい、リヴァプール一番のファンじゃないか!」と言い(1枚目の写真、矢印はチケット)、ウィルの様子を見て、「どうした、坊や」と訊く。「チケットが買えない」。「チケット、持ってないのか?」。アレックは 「取引してくれよ、頼む」と再依頼。バスの男も、「おいおい、この子知らないのか? 有名人だぞ」とサポートする。売り手は 「今 分かった。TVに出てた子だな」とウィルに向かって言うと、アレックには 「悪いが、10000で買ったんだ」と言う。アレックは、すぐに 「それだけ集められたら、10000で売ってくれるか?」と訊く。「俺も気が弱いから、10000でいいよ」。それを聞いたバスの2人の男は、1人がウィルを肩車し、もう1人が帽子を手に持ってお金を集め始める。ウィルの名は知られているので、あっという間に寄付が集まる(2・3枚目の写真、矢印はお金)。
  
  
  

集まったお金は不足分の1000を超えていたので、男は喜んでチケットを渡す(1枚目の写真、矢印)。しかし、当然、それは1枚で、アレックが思っていた2枚ではなかった〔パリで、最低1枚1万と店主が話すのを聞いていたのに、こうした言動は奇妙〕。アレックは、「これは君のチケットだ。さあ、中に入って試合を楽しんで来いよ。俺はここで待ってる」と言って(2枚目の写真)、チケットを渡そうとするが、ウィルは 「一緒じゃなきゃ行きたくない」と反対する(3枚目の写真)。
  
  
  

その時、柵の向こう側から、「ウィル、君なんだろ?」という声がして、一人の老人が寄って来る(1枚目の写真)。その老人を見たウィルは、「ケニー・ダルグリッシュ」とびっくりする〔Kenneth Mathieson Dalglish本人〕。ウィルは、「ここまで来たのに…」と悲しそうに言う。「どうした?」。「2人いるのに、チケットは1枚だけ」。それを聞いたケニーは、自分が首にかけていた招待客用のパスの付いたリボンを丸めて柵から出して、「これを持ってゲートまで行くんだ。そこでまた会おう」と言う(2枚目の写真)。それを見ていたバスの2人は、超一流選手が見せた心遣いに感激する。次のシーンは、もう柵の中で、ウィルはケニーと一緒にいて、観客席ではなく、招待客用の入口に向かう(3枚目の写真)。
  
  
  

一方、修道院学校では、院長と一緒に生徒達もTVを見ている。レポーターは、「アンフィールド〔リヴァプールFCのスタジアム〕のレジェンド、ケニー・ダルグリッシュさんが、リヴァプールNo.1のファンと一緒です。ケニーさん、インタビューさせていただき感謝します。今夜の試合について一言お願いします」と述べる(1枚目の写真)。ケニーは、「リヴァプール・サッカークラブにとって “特別な時” であるだけでなく、大変な苦労をしてここまで辿り着いたウィルにとっても “特別な時” です。素晴らしい夜になることを期待します」と、ウィルに配慮して発言する。レポーターは、次に、ウィルにも、「ウィル君、世界が見てるよ。何か言いたいことはあるかい?」と訊く。ウィルは、「セント・リーク〔修道院学校の名前〕のみんな、特に、サイモンとリッチーに」と断った上で、カメラの方を向き、「ねえ、見てる? ここまで来たよ! ケニー・ダルグリッシュと一緒にいるんだ!」と言い(2枚目の写真)、生徒達は 「やった!」と歓声を上げる(3枚目の写真)。
  
  
  

ケニーは、特別な通路を通り、2人を選手出場口まで連れて行く(1枚目の写真)。2人の前方では、両チームの選手達が一列に並んでいる。ケニーは、ウィルに顔を寄せ、「選手と一緒に走り出したいかい?」と小声で尋ねる。ウィルは 「怖いよ」と答える。ケニーはさらに顔をウィルに額につけると、「秘密を守れるか?」と訊く(2枚目の写真)。ウィルが頷くと、「私もだ」と打ち明ける。そして、「さあ、お行き」と前に押しやる。ウィルは、リヴァプールの選手団の方に向かって進み出る(3枚目の写真)。アレックが 「どうもありがとう」とケニーと握手すると、ケニーは通路の奥に戻って行く。
  
  
  

ウィルが最後尾の選手のところまで行くと、彼は、「ウィル、君は誰にも止められないと知ってたよ」と言い、さらに、「先頭のスティービー〔スティーヴン・ジェラード〕の所まで行き、一緒にチームを進ませろ。君に相応しい」と続ける。「ありがとう、キャラガーさん」(1枚目の写真)。ウィルが先頭まで行くと、ジェラードは 「会えて嬉しいよ、我が友よ。さあ、進むんだ、先に」と言う〔因みに、2人とも選手本人〕。会場では、一斉に、「ウィル! ウィル!」との掛け声が繰り返される。ウィルは、誰よりも先にグラウンド向かって歩いて行く(2枚目の写真)。そして、遂に、グラウンドに向かって走り出す(3枚目の写真)。ここで、その後姿を映し続けるTVをみていた、パブの主人デイヴィーが、ロンドンの式場のTV室で、シャンパングラスをTVに向けて、「行け、息子よ」と言うシーンは、観ていて不愉快だ。だって、彼は、あれほどウィルのイスタンブール行きを妨害した人物なのだから。成功したから褒めるというのは、一番卑怯なやり方だ。これに比べれば、生徒にTVを視聴させた院長の方が余程偉い。この短い不快なシーンの後、ウィルはグラウンドの中央まで行くと、足を止め、両腕を上げてぐるりと一周する(4枚目の写真)。因みに、このシーンについて、映画のプロダクション・ノートには、「大きなチャレンジは、炎天下、言葉の壁が大きい中で、如何に千人のエキストラを満足させ、我々の希望する場所に座らせるかという点でした」「許可された撮影日数は僅か3日でした」と書いてあるので、76000人収容のスタジアムを如何に満席に見せるかは、CGを使っても大変だったことが分かる〔サッカーではないが、こうしたボール競技映画のベストだと私が確信するクリント・イーストウッド監督の『インビクタス/負けざる者たち』では、南アのニューランズ・スタジアム(52000人収容)の撮影に、数千人のエキストラを使い、南ア・チームの全試合を見せている。それに対し、ウィル登場だけのためにエキストラ千人は凄い〕
  
  
  
  

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