トップページに戻る
  少年リスト   映画リスト(邦題順)   映画リスト(国別・原題)  映画リスト(年代順)

Lemonade レモネード/ルーマニア移民の母の散々な日々

ルーマニア映画 (2018)

ルーマニアの若手女性監督による社会派の映画。オーステンデ映画祭(ベルギー)、サラエボ映画祭(ボスニア)、罪と罰国際映画祭(トルコ)など、マイナーではあるが7つの映画祭で受賞した作品。アメリカ人なら絶対に作らないであろう状況を、多くのルーマニア人の移住女性や子供にインタビューした経験に基づき、きわめてリアルに描き出している。映画の題名は、『レモネード』の一語。この言葉は、英語の成句、「When life gives you lemons, make lemonade」を思い起こさせる。普通は、「辛いことがあってもくじけず、それをよいものに変えよう」と訳される言葉だが、ここでは、敢えて、「人生がレモンのように酸っぱいなら、それを使ってレモネードでも作ろう」と訳そう。なぜかと言うと、この映画は、それだけでは終っていないからだ。「If you're not capable of turning the lemons into lemonade, then you probably deserve to chew on lemons?」。すなわち、「もし、レモレードも作れなかったら、レモンを噛みしめるしかない」。この映画の主人公、マラは、将来、レモネードを作れるのだろうか? それとも、レモンを噛みしめるのだろうか? 映画の主人公マラは、辛い経験し、それはひとまず回避できる、映画はそこで終るが、監督も指摘するように、その先もイバラの道が続く可能性は十分にある。旧東欧出身のシングルマザーの移民にとって、現代のアメリカで暮らしていくことは大変なんだとよく分かる。

先にアメリカで働いている友人の誘いで、マラは、理学療法施設と半年間の契約を結び、短期就労ビザで働いていた。その間に、ハシゴから落ちて手術を受け、施設に入ってきたダニエルと親しくなり、退所後も付き合ううちに気があって結婚する。アメリカ国籍を持っている人と結婚した場合、配偶者はグリーンカードを取得できるので、2人で移民局に申請に行く。その時、面接したモジは、一目でマラが気に入り、職権を悪用してセックスしようと考える〔恐らく常習犯〕。マラは、半年間、自分の母に預けておいた1人息子のドラゴシュを呼び寄せる。マラは、ドラゴシュの父とは気が合わず、結婚はしていなかった。ダニエルは、ドラゴシュを快く受け入れ、自分の家で仲良く暮らし始める。しかし、それから間もなく、マラに大変なことが降りかかる。1つは、移民局のモジから、申請書のことで訊きたいことがあるとの呼び出しを受け、そのまま車に乗せられ、連れて行かれた先で、巧妙でずるい質問の迷路にはまり、申請を取り消すと脅され、その対価としてセックスを強要される。マラは、何とか言い逃れ、その場は手淫だけで解放されるが、数日後に、マンションに来いと告げられる。解放されたマラが、ドラゴシュが待っているはずのモーテルに行ってみると、児童放棄の疑いで部屋の前には警官が2名いて、アメリカの法律に疎いマラには、何が起きているのかさっぱり分からないまま、厳しい取調べを受ける。大変な1日が終わった翌日、マラは友人の紹介で弁護士を訪ねるが、打つ手は、泣き寝入りか、録音装置を持ってモジのマンションに行くしかないと知らされる。弁護士は、この件を夫には話さないよう注意するが、夫を信じていたマラは、ダニエルに話してしまう。しかし、反応は彼女の予想外だった。夫はマラを一方的に責め、マラが反論すると暴力を振るう。それを見たドラゴシュは、ダニエルに拳銃を向け、彼がひるむ隙に、母と一緒に家を飛び出して逃げる。2人は、友人のアパートに身を寄せる。マラは、モジのマンションに行き、再度説得を試みるが、犯されそうになって逃げる。弁護士は、音声記録がないので、打つ手はないと告げるが、マラの顔の痣が夫に殴られたせいだと知ると、Uビザを取るため夫に対する「家庭内暴力」の裁判を起こすよう勧め、マラもOKする。映画は、ここで終わるが、その後、2人はどうなるのだろう? 夫に対する裁判を起こした以上、夫との和解の途は消える。シングル・マザーとして単純労働で働きながら、モジを育てていくしかない。単純労働ではグリーンカードは取得できないので、離婚した上でアメリカ国籍を有する男性との再婚を目指すしかない。あらすじでは、ドラゴシュが登場しない場面での写真は最小限に抑える。

9歳になるマラの一人息子ドラゴシュ(Dragoş)を演じるのは、ミラン・ハルドック(Milan Hurdoc)。ルーマニア語を話すので、ルーマニア人らしいということくらいしか情報はない。出番が少なく演技力は要求されないが、可愛くないと務まらない役。確かに、すごく可愛い。可愛いのに画像がどれも小さいので、あらすじの中で断っているように、画像処理にあたっては、今回に限り特別扱いをした。


あらすじ

ルーマニアでシングル・マザーだったマラは、一時雇用者の短期就労ビザ(H-2B)〔この場合は、有効期限は半年〕を手にアメリカに単身で渡ってきた。マラは、ルーマニアで看護師をしていて、アメリカでも似たような仕事に就いている。そして、たまたま担当となった “ハシゴから落ちた造園家” ダニエルの愛情を勝ち得て結婚する。彼女が次に目指したことは、米国市民である夫の申請によって永住権(グリーンカード)を得ること。そこで、ダニエルと一緒に移民局に申請に行く。ダニエルが先に係官と話している間、マラはなぜか耳に綿を込める。そのあと、スマホで時間を見ようとすると、ただちに、「奥さん、ここでの通話は禁止ですよ」と叱られる(1枚目の写真、黄色の矢印はスマホ、赤の矢印は面接係官、その左に座っているのは夫、その右・写真の右端に立っているのが文句を言った女性係員)。「時間を見ただけです」。「時計があるでしょ」。最初から 感じが悪い。夫が出てきて、マラがガラスで囲まれた部屋に入る。部屋に入ったマラに、係官はまず、「好奇心で失礼ですが、なぜ綿を?」と訊く〔これが、最初の黄信号。この男は、ガラスの部屋からマラの様子をチラチラ見ていた〕。綿を詰めたのは、エアコンなどが起こす空気の流れが、病気に罹らせたりや歯に悪いというルーマニアの迷信のため。そして、本題に入る。「あなたは、ルーマニアで看護学校を卒業しましたか?」。「はい」。「なぜ米国で働くことにしたのですか?」。返事は、友達アニコに誘われたから。「ご主人と出遭ったきっかけは?」。「仕事です。彼は、手術のあと理学療法をしていて」〔この手術は、ハシゴから落ちたことによる外傷によるもので、後で分かるように、腹膜透析が必要なダニエルの腎疾患のためではない〕。さらに、「包帯の交換などを手伝っている間に、話をするようになり、とてもいい人だったので」と付け加える。「彼から申し出が?」。「ええ、退所した後も、補助が必要でしたから。助けて欲しいと頼まれ、承諾しました」。「仕事としてですか?」。「お金はもらっていません。それから、デートをするようになりました」。その後、マラの子供について訊かれ、相手は前夫ではなく、結婚する気がなかったので別れたと告げる〔ここにも、付け入る隙が。脇の甘い女性と見られてしまった〕。2枚目の写真は、特に場面を定めない一般的なシーン。ピントのボケでいる左の男が、邪悪で不道徳な男モジ・ウィナルドゥム。恥さらしの権化の役なので、国籍不詳の名前にしてある。
 

マラとダニエルは、空港にドラゴシュを迎えに行く。後で、マラのビザが切れてことが分かるので、半年ぶりの再会ということになる。空港職員に連れて来られたドラゴシュは、母の顔を見ると、スーツケースを捨てて走り寄る(1枚目の写真、86%)。この映画は、マラに焦点を当てているため、ドラゴシュは常に小さくしか映されない。そこで、このあらすじでは、この映画に限り、写真を拡大し、ドラゴシュを少しでも大きく見せるよう工夫した。写真の後に、「」が書かれている場合は、フルサイズの写真の何%の部分を使用したかを示している〔数字が小さいほど拡大率が大きい〕。マラがドラゴシュと抱き合っていると、ドラゴシュを連れて来た女性職員が、「奥さん、あなたが、お母さんだと思いますが」と声をかける。「はい」。「何か証明するものはお持ちですか?」。マラはパスポートを見せ、息子には、「ドラゴシュ、ダニエルに会って欲しいの茶色字はルーマニア語〕と言い、夫の方を向かせる。ダニエルは、「やあ、俺はダニエルだ」と手を差し出す。「何か言ったら?」。「ドラゴシュ」(2枚目の写真)。その後、3人はダニエルの家に向かう。ドラゴシュは、疲れて眠っている(3枚目の写真、83%)。
  

家に着いたドラゴシュは、シャワーを浴びて長旅の汚れを落す。「おばあちゃんに電話した?」。「ええ。飛行機は楽しかった?」(1枚目の写真、87%)。「ううん。帰りは、ママと一緒がいい」。「大事なのは、あなたが無事についたこと。そのことは、後で話し合いましょ」。そう言うと、愛しげに抱きしめる。「あの男の人だれ?」。「ダニエルのこと?」。「うん」。「ママの 大事な お友だち。あなたがここに来る手配も、あの人が してくれたのよ」。そう言うと、歯を磨かせる。マラは、ドラゴシュを自分の寝室に連れて行くと、寝る前に絵本を読んで聞かせる(2枚目の写真、88%)。「もう寝なさい。夜遅いわ」。「一緒に寝ないの?」。「ママはすることがあるの。先に寝てなさい。後で来るから」。
 

マラは、ダニエルの部屋に行くと、腹膜透析の準備を始める。ダニエルはリラックスチェアに横になると腹部をむき出しにし、カテーテルを露出させる。マラは、マスクをはめ、手を消毒すると、カテーテルと透析装置とをつなぐ(1枚目の写真、矢印はカテーテルの挿入部)。しばらくすると、時差で眠れないドラゴシュが顔を出し、「それ何なの?」と訊く(2枚目の写真、97%)。「ダニエルの治療よ。寝てらっしゃい」。
 

翌日、マラは ドラドシュを遊園地に連れて行き、母に国際電話をかける。「…ううん。彼等が全額出さない限り、売っちゃダメよ」「もし、銀行が彼らのローンを認めなかったら、どうなるのかしら?」「ええ、知らせて」「あの子なら、遊んでる。今、遊園地にいるの」(1枚目の写真、矢印はドラゴシュ)「昨夜は、すごく くたびれてたみたい。今、代わるわ。気をつけてね、あの子には、まだ何も話してないから」。ここで、マラは振り向き、「ドラゴシュ! おばあちゃんよ」と呼ぶ。次のシーンは、遊園地の中の食堂。マラは、最初に、重要なことを打ち明ける。「ドラゴシュ、私たち、ルーマニアにはもう帰らないの」。「なぜ、もっと前に、言ってくれなかったの?」。「こんな大事なこと、電話で話したくなかったの」。「どうして?」。「電話で話すようなことじゃないでしょ」。「僕、ここじゃ、誰一人知らないよ」。「すぐに、できるわ、友達」。「おばあちゃんは?」。「たまに来てくれるわ」。「たまにじゃなくて、一緒に住みたいよ」。「いつか、きっとそうなるわ」。「とにかく、ここはイヤだよ。知らない人と一緒だなんて」。「ここにいるのに慣れれば、好きになるわ」。「好きにならないよ」。「きっと、好きになる。バスケットのチームのある学校を見つけたもの」。「だけど、英語なんか話せないよ」(2枚目の写真、86%)。「勉強すればいいでしょ」。「そうだね」。「ドラゴシュ、あなたは もう大きい子なのよ。理解してちょうだい。故郷に帰っても、ママの稼ぐお金じゃ暮らしていけないの。ここにいれば、ダニエルが助けてくれるし、いい学校に行ける」。「なぜ、彼と一緒に住まなくちゃいけないの?」。「彼が、いい人だから」。
 

翌朝、マラは、少し前まで働いていた理学療法施設にドラゴシュを連れて行く(1枚目の写真、95%)。そこにいた上司が、「今日はマラ、調子は?」と声をかける。「元気よ、あなたは?」。「最後の給料ちゃんと受け取った?」。「もういただいたわ、ありがとう」。「ならいいわ。その坊やは、あなたの?」。「ええ」。「ドラゴシュ、来なさい」「何て言うの?」。上司には、「恥ずかしがりなんです」と説明する。ドラゴシュは、「ハロー?」と自信なげに挨拶する。「大人の人には、『グッド・モーニング』って言うのよ」(2枚目の写真、87%)。「ハロー、坊や。はじめまして。私は、ミュリエルよ」。「ドラゴシュ」。2人は握手する。「ドラゴシュ、可愛い名前ね。どんな意味があるの?」。「ありません」。「すべて順調? 結婚したの?」。「ええ。後は、グリーンカードを待つだけです」〔結婚による永住権取得には約1年かかることをマラは知っているのだろうか?/しかも、結婚してすぐの申請なので、2年間の期限付き永住権になる〕。「結構。ブリックモアさんは、あなたと出会えて、すごくラッキーな患者さんよね」。「私たち2人とも。ラッキーなんです」。「そうでしょうとも」〔アメリカ国籍を持っている上司は、気付いていないが、真にラッキーなのはマラ1人。アメリカ国籍をもつ男性と結婚しない限り、永住権の取得はかなり困難⇒その他の方法には、①DV抽選永住権(年に1回の抽選に当選)、②米国への投資(100万ドル以上の投資)、③自己の才能および能力(「並外れた才能」の持ち主か企業の管理職)があるが、マラは何れにも該当しない〕〔その代わり、「結婚が純粋な恋愛の結果であることの証明」が強く要求される〕
 

施設を出る前、2人きりになった時、マラは 結婚したことをドラゴシュに打ち明ける(1枚目の写真、81%)。「ドラゴシュ、お願いだから悲しまないで。心配しなくていいの。結婚したからといって、あなたを愛してることに変わりはないのよ。ママを信じて。すべて、上手く行くわ。涙を拭きなさい。アニコに、そんな顔 見られたくないでしょ?」。次のシーンは、アニコの職場の近く〔休憩の名目で出てきてもらった〕。アニコは、マラの同郷の友人で、アメリカに先に来て、マラにも来るよう誘った女性。マラは、借金を返す。「家は売ったの?〔母親との電話の際にもチラと出てきたが、マラはルーマニアで住んでいた家を売ろうとしている〕。「まだよ」。「全部売っちゃって、こっちの銀行に送金するなんて、賢くないんじゃなくて?」(2枚目の写真、矢印はけん玉で遊んでいるドラゴシュ)。2人の会話は、状況がはっきりしないので、意味が分からない。マラは、「子供と一緒にトレーラーパークには住みたくないもの」と、家を売ろうとする理由を説明する〔ダニエルと結婚して、彼の家に住んでいるのに?〕。さらに、「家を借りるのは、お金の無駄使いよ。それよりは、ローンを払う方がいい」との持論も告げる〔しかし、永住権がないとローンは組めないので、名義はダニエルになる。このことは、現在の家はダニエルがローンで買ったもので、その支払いの一部を、今後マラが代替しようとしていることを意味するのだろうか?〕
 

家に戻ったマラは、お菓子を作っている。それをダニエルの部屋に持って行くと、彼がドラゴシュに拳銃を見せている(1枚目の写真、矢印は拳銃、89%)。「それ、本物の拳銃?」とダニエルに訊く。ドラゴシュは、「ここを開けて、中に銃弾を入れるんだ」とマラに教える。「英語で話して」。ダニエルは、机の上のものをどけて、クレープとジャムを置くスペースを作る。「クレープには何をつけるの?」。「ヌテラ」〔ヘーゼルナッツペーストをベースにした甘いスプレッド〕。ヌテラは商品名なので、意味が分かったダニエルは、「俺もだ」と言う。ここで、場面は、マラの寝室。ドラゴシュが初めて着いた日に言っていたように、マラはドラゴシュと一緒に寝ている(2枚目の写真、98%)。このことは、結婚していながら、ダニエルとマラは別の部屋に寝ていることを意味する。これは、後の、モジ・ウィナルドゥムとのやり取りの中で、マラが「嘘」を付いているという意味で、重要なシーンだ。
 

翌日、マラは、ドラゴシュを連れてスーパーに買物に行く。ドラゴシュが、ヨーグルトの大きなカップを持ってきて、「これ何?」と訊く(1枚目の写真、矢印、74%)。「歯に悪いものよ」。「でも、リンゴが入ってるよ」。「ダメよ。他にも砂糖と化学物質が入ってる。バナナでも探してきたらどう?〔マラの好きなプレーンのヨーグルトが売られていない〕。この時、マラのスマホに電話が入る。「ハロー。私です」「はい…」「どうして? 何か問題でも?」「何ですか?」〔移民局のモジからの電話〕。ドラゴシュがバナナを持って来る。マラは、カートに入れるよう指示する。「私は、どうすれば?」「今すぐ行けるかどうか分かりません。今、スーパーにいますから」「OK。分かりました。今すぐ行きます。どうもありがとう」。ドラゴシュが、容器に入った果物を持って来て、「これどう?」と尋ねる(2枚目の写真、88%)。マラは、今すぐ店を出ないといけなくなったので、カートに入れた物を戻し始める。バナナと、果物だけはドラゴシュに持たせ、「アニコと一緒に待っててね」と言う。マラは、スーパーから出てバス停に行くと、今度は、アニコに催促の電話をかけている〔ドラゴシュを スーパーまでピックアップに来てくれと、既に頼んでいた〕。「どこなの?」「急いでよ、私、もう遅刻してるの」「急いで、バスがそこまで来たわ」。マラは、ドラゴシュに、「ここで、アニコを待ってるのよ。ママはバスに乗らないといけないから」と言い、アニコには、「遊園地かどこかに連れてってね。OK、ありがとう」(3枚目の写真、95%)と言って電話を切り、急いでバスに乗り込む。これが、恐ろしい体験になろうとは 思いもしないで…
  

次のシーンは、15分以上も続く。登場人物は、マラとモジ・ウィナルドゥム。台詞のライン数は227もある。会話の流れを簡潔に紹介しよう。マラが、電話で指示された場所に行くと、モジは黒い車に乗って待っている。「ずい分、時間がかかりましたね」(1枚目の写真)。マラは当然の言い訳をし〔買物中に呼び出され、ドラゴシュの世話を友人に頼んできたので当然だが、立場が弱いので謝らざるをえない〕、後ろの車にクラクションを鳴らされ、モジの車に乗る。モジは、追加の質問があり、車の中で話せば早く終わると騙して、無人の場所に連れて行く。早く終わると言ったくせに、最初は、下らない自分の話から始める。モジを産んだ母が29歳で心臓麻痺で死んだとか、鉄道会社で働いていた祖父が31歳でラバとぶつかって死んだとか。その後で、真面目を装い、「説明を、もう一度確認したい」と言う。そこで話された内容をまとめると、①マラは6ヶ月の一時雇用契約でアメリカに来た(契約は3月27日まで)、②夫は造園家で、仕事中にハシゴから落ちた(入院期間は2月19日まで)、③マラの結婚は4月13日(ビザは4月15日まで)、の3点となる。モジは、「私がこうして質問しているのは、グリーンカードを得るために普通の結婚であるかのように装う『偽装結婚』が、多発しているからです」と、それらしく話す〔移民局が一番関心を持つのが、「結婚が純粋な恋愛の結果であることの証明」であることは事実〕。しかし、質問は、ここから徐々に変な方向に逸れていく。「こんなことを訊いて悪いが、彼を どう愛したんっですか?」。「どういう意味です?」。「愛し方ですよ。男を愛するには、いろいろな方法があるでしょ」。「そんなこと、申請と関連があるのですか?」。「関連の有無は私が判断します」。そして、話は、前にマラが話した、ドラゴシュの父にも及ぶ。「息子の父親とも結婚しなかったのに、5週間しか会っていない入院中の男性と恋に落ちたのは、グリーンカードのためではないと、本気で私に信じさせるつもりですか?」。マラが、夫への愛は心からのものだと答えると、“愛し方” の話題を蒸し返す。「分かりました。では、彼をどう愛したのですか? 息子さんを愛するように、夫を愛したのですか?」。「もちろん違います。妻として夫を愛しました」。「では、愛の営みをしたんですね」。「はい」。「そして、性交渉をもった」。「はい」。「それは、結婚前ですか?」。「はい、そう思います」。「では、結婚前に性交渉をもったんですね?」。「はい」。この、不適切な質問の後、モジは牙を剥く。「病院によれば、あなたの夫は、4月17日まで鼠脣部にギプスをはめていた。そして、私は、医師から『トラウマのため、勃起能力は回復しない』旨の所見を得ています。だから、あなたが言ったことは嘘だ」。「嘘じゃありません。愛し合いました」。マラの“愛し合う”行為の定義と、モジの“性交渉をもつ”という言葉の間には、マラの英語能力の問題もあり、微妙な差があるのだが、モジは一切容赦しない。そして、正式な記録のためと称して、「私は、夫との関係で嘘をつきました。私達は性交渉をもっていません」と証言させる。そして、「移民局職員に嘘をついたと分かれば、申請は却下されると分かっているね?」と脅す。そして、さらに、不適切な質問。「じゃあ言うんだ。何をしたんだね? 奴のチンポをしゃぶったのか?」。マラは当然、答えない。モジは、態度を一変させる。「俺が、なぜ真実を白状させたいか分かるか? それは公平じゃないからだ。何の役にも立たないくせに、この国から恩恵を受けようとやって来るなんて公平じゃない。考えてみろ、俺のじい様は少しはこの国に貢献した〔31歳で死んだ鉄道の作業員が?〕。もしお前が、ここに住みたいのなら、その努力に少しは報いるべきだ。この国に来たい奴を全員受け入れてみろ、何が起きると思う? 知らないか? なら、言ってやろう。そいつらは、多くの同胞が身を粉にして働いてきたものをタダ取りしやがるんだ。それが公平か? 違う。やるべきことをすべきだ。お前は、アメリカが嫌いなのに、ここに住みたいと思ってる奴らが、どのくらいいるか知ってるか? そして、それはなぜなのか? ここが、偉大な国だからだ」。トランプは、「アメリカは世界一偉大な国だ」と言っているが、それと同じようなことを、この、一介の冴えない下級の政府職員が威張って言っている。さしずめ、このモジは、トランプの熱烈な支持者に違いない。マラは、「私は、アメリカが好きよ」と反論する。「そうだろうとも。騙してまで入ろうとしたからな」。「騙してない」。「そうか。お前は、奴のチンポをしゃぶりたかったんだな。だが、しゃぶる相手を間違ってたな」。そして、運転席に座ったまま、ズボンのチャックを外してペニスを出す。マラは、車から出ようとするが、「お前が車から出たら、保証する、お前は、次の飛行機でこの国とはオサラバだ。分かったか?」と脅され、出られなくなる。「後部座席に移れ。その方が広い」。マラは、「お願い、行かせて! 1時間半の約束で子供を友達に任せて置いてきたの。もうずい分遅れてる!」と必死に頼む。そこで、モジは、マラを助手席に座らせたまま、無理矢理 手淫させる。マラは、手だけ伸ばし、抵抗のために そっぽを向いている(2枚目の写真)。射精が済むと、モジは、明日、モーテルで会おうとするが、マラが、息子を学校に連れていくと言うと、金曜に自分のマンションの部屋まで来いと、アドレスを教える。本当に、吐き気がする下司男だ。アメリカ映画では、絶対にできなかった脚本だ。
 

マラが、アニコから聞いていたモーテルの部屋に駆けつけた時、ドアの前には2人の警官がいた。ここでも、慣れないマラは大変な経験をする。理由は、ドラゴシュを1人で放置したことだが、いったい誰が通報したのかは分からない。マラが、警官に「何でしょう?」と声をかける(1枚目の写真)。男の警官は名乗った後で、「ここは、あなたの部屋ですか?」と訊く。「はい」。「ドアを開けてもらえますか?」。マラは、鍵を持っていないので、「ドラゴシュ」と呼びかけるが、警官からは、「児童に話しかけないで下さい」と制止される。「母親です。ドアを開けるよう 話そうとしただけです」。女性警官:「児童を、部屋に閉じ込めたのですか?」。「いいえ。ちょっとした問題ができたので、私の親友と一緒に、ここに残したのです」。「友達は、未成年者と一緒に中にいるのですか?」。「いいえ、用事ででかけました」。「では、未成年者は1人だったわけですね?」。「1時間半預け、最後の数分だけです」。中から、ドラゴシュが、「ママ?」と訊く。「そうよ、私よ。心配しないで。今、戻ったから」。「許可するまで、未成年者と話さないで下さい」。「ここにいると、言っただけです」。男性警官:「何語で話しましたか?」。「ルーマニア語です」。「イラン語?」。「いいえ、ルーマニア語」。「アラビア系の言葉ですか?」。「いいえ、ラテン系、ヨーロッパの言葉です」。「どうなってるの、ママ?」。「大丈夫よ、心配しないで」。「奥さん、許可するまで、児童と話さないで下さい」。「でも、息子です」。「証明する書類がありますか?」。「どんな書類です?」。「出生証明書」。「持ち合わせていません」。女性警官:「身分証のようなものは?」。マラはパスポートを見せる。「済みません。何が問題なのですか?」。「外国人ですね?」。「はい。でも、アメリカ人と結婚しています」。「少年もアメリカ人ですか?」。「いいえ、前の結婚の子なので」。「ママ、開けていい?」。「彼、ドアを開けてもいいですか?」。男性警官:「OK」。「ドアの鍵を開けていいわ」。女性警官:「彼に翻訳して下さい。名前は何ていうの?」。ドラゴシュは、母の翻訳前に「ドラゴシュ」と返事する(2枚目の写真、矢印、88%)。「じゃあ、英語が話せるんですね?」。「幾つか分かるだけです」。「姓は?」。「どうなってるの、ママ? この人たち、何の用?」。「知らないわ。心配しないで。何かをチェックしてるだけ」。男性警官:「我々の言葉の翻訳だけにして下さい」。「家族名を言いなさい」。「Scutelnicu」。「彼に、何と言いましたか?」。「名前を言えって」。「その前です」。「心配しなくていいって」。「他のことは何も言わないよう、翻訳に徹して下さい」。「OK」。女性警官:「あなたの姓と違いますね」。「父親の姓です」。男性警官:「OK。中に入ります」。
 

ドラゴシュが、チェーンを外すために一旦ドアを閉めると、女性警官は、先に自分が中に入るので、ドラゴシュを後ろに下がらせ、マラには外で待つように指示する。中に入った女性警官が、「クリア」と言うと、マラも中に入ることを許される。男性警官:「未成年者に、Tシャツをまくるよう言いなさい」。「なぜ」。「ただの決まった手順です」。「でも、なぜそんなことしたいの?」。女性警官が無線で、「彼女は、識別検査に同意しようとしません」と言う(1枚目の写真、74%)。マラは謝り、すぐにTシャツをまくり上げさせる(2枚目の写真、96%)。無線で、ドラゴシュの胸・腹部と背中を見た警官は、「確認できず」と言う〔虐待を受けていないかの、チェック〕。次に、女性警官は、マラを指して、「この女性の名前は?」と、ドラゴシュに訊く。「マラ・グレゴレ。僕のママ」。男性警官:「君のママ?」。「はい」。これで、やっと2人は抱き合える(3枚目の写真)。「奥さん、あなたはアンバーアラートについて知っていますか? 行方不明になった子供に対する州全体にわたる捜索です」。「それが、私たちとどう関係するんですか?」。マラだけ廊下に連れ出した警官は、「あなたの国の法律は知りませんが、ここでは、監督なしに子供を放置することは許されていません」と注意する。「児童放棄に対する召喚状を渡します。15日以内に警察署まで持参しなさい。署で、育児教室の手配をします」。こうした点について調べてみたら、「FindLaw」という法律相談のホームページの第4階層に、「When Can You Leave a Child Home Alone?(いつ、子供を家に1人で放置できるか?)」という項目があり、①子供が7歳以下の場合は、どんな短時間でも厳禁、②8-10歳では、日中もしくは早い夕方に限り1時間半までならOK〔ドラゴシュは9歳〕、③11-12歳では、夜遅くなく、周辺環境が悪くなければ、3時間までOK、という基準が書かれている。道理で、アメリカではベビーシッターの映画が多い訳だ。映画では、自宅でなくモーテルという場所が悪かったことになる。
  

2つに出来事で大きなショックを受けたマラだが、ドラゴシュを連れて家に戻ると、夕食の準備を始める。TVに見入るドラゴシュと一緒に座り、じゃがいもの皮を剥く。そして、「今日のことは私からダニエルに話すから、あなたからは何も言わないでね」と頼む(1枚目の写真、92%)。「いいよ」。マラがパンを捏ねていると、車が家に着く音がする。「ドラゴシュ」。「何?」。「英語の勉強してきなさい」。「TV見てるよ」。「もう十分見たでしょ。お部屋で勉強してらっしゃい」。入れ替わりに、ダニエルが入って来る。ダニエルの顔には落胆がありありと見える。そして、「保険会社は、ハシゴから落ちたのを、仕事上の事故と認めなかった。金がもらえるかと思ってたのに、当てが外れた」と話す(2枚目の写真)。「銀行も、払った頭金が少ないから、貸付を増やしてはくれん」。「困ったわね。何とかしないと。ドラゴシュが学校に行くようになったら、仕事をみつけるわ」。
 

マラが、ドラゴシュの学校について話していると、マラのスマホの鳴る音が聞こえ、ドラゴシュが、「ママ、電話」といって持って来る。気さくなダニエルは、「よお、元気か?」とドラゴシュに声をかけ、2人でハイタッチする(1枚目の写真、矢印はスマホ、94%)。それは、あのモジからのメールで、差出人不明で、分かれる前に口頭で言っていた穢らわしい自宅マンションの住所が書いてある。しつこい悪魔だ。「ママ、彼に、僕の描いた絵 見せていい?」。「もちろんよ」(2枚目の写真、94%)。そして、ダニエルに、「あなたに、絵を見せたいんですって」と言った後で、ドラゴシュに「英語で話しなさい」と付け加える。翌日、マラは破廉恥行為のことで アニコの職場に相談に行く。アニコは、セルビア人の弁護士を紹介し、「安心していいわ、彼ホモだから」と言う。マラは、かなり離れた場所にある事務所に向かう。弁護士は、「もう、ご主人に話しましたか?」と尋ねる。「まだです」。「言わない方がいいでしょう。もし、助言がお入用なら」。そして、本題に入る。「警察に届けたらどうでしょう?」。「できますが、あなたがグリーンカードを欲しいのなら、警察は役に立ちませんよ」(3枚目の写真)。「新聞社に行けば?」。「証拠がなければ、どうにもならないでしょう。それに、ご主人がニュースで見たら、快く思われないでしょう」。「じゃあ、どうしたらいいんですか」。「マンションに行かないのも手です。ただ、その場合、別の日を指定されるか、申請を却下されるかのどちらかでしょう。彼には、それができます。マンションに行くのも手です。ただし、その場合には、彼の性的暴行の確たる証拠をつかむ必要があります」。そう言うと、弁護士は、体表面あるいは体内に装着できる超小型の録音装置を渡す。「お幾らですか?」。「そいつの所に行かれたら、戻っていらっしゃい。その時、相談しましょう」。この弁護士が話したことで面白かったのは、事務所内の厳粛な雰囲気は、すべてフェイクだと明かす場面。「卒業証書、弁護士資格認定証、優秀弁護士の表彰状、ずらりと並んだ本もです」。理由は、“成功した弁護士”というイメージ作りのためだとか。
  

午後になり、ダニエルは、マラとドラゴシュを車に乗せ、学校に連れて行く(1枚目の写真、84%)。体育館のバスケットコートを見下ろすバルコニーで、3人は校長と会う。校長は、まず、ダニエルのケガを心配する〔彼が、ハシゴから落ちたのは、学校の中での仕事中〕。校長:「申し訳なかったわ」。ダニエル:「間々あることです」。「それでも、申し訳ないわ。保険はちゃんと出たかしら?」。「まだです」〔却下されたとは言わない〕。「お子さんは、ここが気に入ったかしら?」。「はい、とても。こんなに遅れたスケジュールで試験をしていただき、ありがとう」。「せめて、そのくらいはさせていただかないと」。「ほんとに、ご親切に」。マラ:「ドラゴシュ、校長先生に挨拶なさい」。校長:「ハロー、ヤングマン」。ドラゴシュは、無言で握手する(2枚目の写真、87%)。「ここは、気に入ったかしら?」。母が通訳する。「学校は好き?」。「はい」。「いいわね。英語の方は進んでる?」。ダニエル:「かなり」。「幸い、試験のほとんどは算数だから、ちゃんとできるでしょう」。「ありがとう」。その夜、マラは、ダニエルの体をマサージしている。ダニエル:「土曜日に、ドラゴシュをドッグレースに連れて行く」。「あの子から聞いたわ。私達に秘密はないの。祖母がそう教えたから」。「お母さんはどう?」。「元気よ」。そして、ルーマニアに残してきた家の話になる。「売れたわ。一部、前金を払ってくれるって」。ダニエルは、「俺たち、どこか 小さめの家を捜した方が良さそうだな」。そして、新しい家では、「ドラゴシュは、もう1人で寝てもいいんじゃないか?」と提案する。「引っ越したら、そうしましょ」。
 

翌日、マラは、ドラゴシュを連れて歩いていて、売り家を見つけ中に入って行く。中に入ると、かなり立派なので、マラは失礼にあたらないよう、ドラゴシュの帽子を取る(1枚目の写真、79%)。そこに、不動産屋の女性がやってくる。マラ:「見てるだけです」。女性:「プールを見たことは?」。「いいえ」。「こちらへ」。そして、キッチンからアクセスする小さなプールを見せる。ドラゴシュは、「ママ、こっち側、子供用だよ」と嬉しそうに言う。「どこから来られたの?」。「うんと遠く、ヨーロッパです。今は、グリーンガードを待ってるんです」。「あなたの、ご予算は?」。「この家は、お幾らなんです?」。「チラシでは248000です」〔2700万円。むしろ安価〕。「私たちには少し高過ぎるわ。見せていただいてありがとう」。女性は、ドラドシュに、飾りに置いてあったフロリダ産の新鮮なオレンジをプレゼントに渡す(2枚目の写真、矢印、88%)。新らしい家探しも大変だ。次に、母は、銀行に行って、ルーマニアから送金されてきたお金を受け取る(3枚目の写真、矢印)〔金額は不明〕
 

マラが家に帰ってくると、ドラゴシュがダニエルと仲良く話している。マラは、弁護士の忠告を無視し、「お話したいことがあるの」と話しかけ、ドラアゴシュには、「お部屋で勉強してらっしゃい」と命じて(1枚目の写真、92%)、夫と2人きりになる。次のシーンでは、もう車の中での痴漢行為を打ち明けた後。ダニエルの反応は、彼女の予想外だった。責任はすべてマラに押し付けられる。「よくそんなことができたな?」。「ごめんなさい。でも、びっくりしたから」。「なぜ電話しなかった?」。「車の中だったし、電源を切らされたから」。「そもそも、なんで、車なんかに乗ったんだ?」。「申請を却下するかもって、言われたから」。「申請なんかがなんだ!」。「あいつ、あなたの病院からの書類を持ってて、偽装結婚だって言うの」。「どんな書類だ?」。「あなたの手術後の勃起不能の問題よ。それに、性交渉について偽証したって責めるの」。「何で、そんなことを しゃべったんだ?」。「普通の結婚生活を送っているように思わせたくて」。「じゃあ、奴に嘘をついたんだ」。「良かれと思ったのよ」。「違う。自分のためだ! 下らんグリーンカードのためだ!」。「そんなことない。怒鳴るのはやめて」。「あの子に、母親が嘘付きの売春婦だとバレるのが怖いんだろ?」。「売春婦じゃないわ」。「お前と結婚したのに、最初にチンポを見せた奴とヤリやがって!」。「ヤッてないわ!」。「この嘘つきが! これまで他に幾つ嘘ついた?」。「ついてない。愛してる。あなたの いい奥さんになろうと頑張ってる」。「いい妻だと? 料理を作ってアイロンをかけてれば いい妻なのか? それなら、メキシコ人が下らんグリーンカードのためにやってることと同じだ!」。「私は、あなたを愛してるから結婚したの! あなたも愛してくれてると思ってた!」。「お前は、ただの くそったれの嘘付つきだ!」。頭に来たマラは、「あなたは、くそったれのバカで、前科者で、インポよ」と言い、頬を思い切り叩かれる(2枚目の写真、矢印は手)。ドラゴシュは、怒鳴り声を聞いていて、意味は分からないものの、心配でたまらない(3枚目の写真、92%)。
  

ダニエルが、「お前と結婚し、お前のガキを受け入れてやったのに、くそったれ野郎の車の中で手淫などやりやがって」と怒鳴り、マラがすすり泣いていると、そこにドラゴシュが現れる。手には拳銃を持っている(1枚目の写真、矢印は拳銃)。そして、拳銃をダニエルに向ける。「それを下ろせ、ドラゴシュ。俺に寄こせ」(2枚目の写真、矢印は拳銃、96%〔こんな重要なシーンでも、ピントはマラに合わせてある〕。「彼に、銃を渡しなさい」。「銃を寄こせ!」。ドラゴシュは、銃を床に投げ捨てて、家の外に逃げ出す。マラはドラゴシュを追いかける。「ドラゴシュ?!」。後から飛び出て来たダニエル〔銃を拾って手に持っている〕が、「マラ、戻れ!」と怒鳴る(3枚目の写真、赤の矢印はダニエル、黄色の矢印は通行人)。
  

マラは、ドラゴシュをバスに乗せ、アニコのアパートに向かう(1枚目の写真、96%)。アニコは、新しいシーツを敷き、ベッドを整えてくれる(2枚目の写真、85%)。アニコは、「パンツ持ってないから」と言って、何かを渡し〔映らない〕、「もう寝なさい」と言う。ドラゴシュ:「ママに、来てって頼んで」(3枚目の写真、84%)。アニコは、ドラゴシュを不憫に思って頭にキスし、ドラゴシュはアニコに抱きつく。その頃、マラは、ドアの所に立ってタバコを吸っていた。そして、戻って来たアニコに、マラは、「こんな顔して〔叩かれた頬を氷で冷やしている〕戻ったら〔ルーマニアに〕、何て言われるかしら。家まで売っちゃったのに」と、心配する。アニコは、「あんたが悪いんじゃない。アメリカのせいだと言ってやればいい」と慰める。
  

翌日、学校で、マラは 故郷の母に国際電話をかけている。「…お金、受け取ったわ。しばらく 送らないでもらえる?」(1枚目の写真)「問題はないけど、銀行の手続きが結構複雑なの」「ドラゴシュ? 今、試験を受けてるわ。英語よ。ほとんど算数だけど」。その時、担当の教師が呼びに来る。校長は、「このテストの 子供達の平均点は15ですが、ドラゴシュ君は17.5でした。だから、喜んで受け入れます。おめでとう」と、合格を告げる。「ありがとう」。「感謝の必要はありません。彼が優秀なのです」。「学校は、いつ始まりますか?」。「9月15日です。でも、興味がおありなら、夏期講習もありますよ。英語の勉強にはいいでしょう」。「考えてみます。住所は条件ですか? つまり、私たち、学校の近くに住む必要がありますか?」。「ここはチャーター・スクール〔公設民間運営校、授業料ゼロ〕ですから、どこに住まわれていても結構です」。その時、試験を受けていた教室から ドラゴシュが出てくる(2枚目の写真、88%)。
 

金曜日、マラは、指定された住所にあるマンションに行く。部屋には、シャンパンが冷やしてある。マラは、飲むのを拒否する(1枚目の写真)。そして、「なぜ、私が来たのか分かります?」と訊く。「グリーンカードをもらうためだろ?」。「話に来たんです」。「何の話だ?」。「座って下さい」〔モジはシャンパン・グラスを持ったまま立っている〕。「聞いてるぞ」。「お金を持ってきました。持ち物を売って 現金にしました。あなたが助けて下さるなら、喜んで払います」。「私を買収する気か? 頭がおかしいんじゃないか? 移民局職員を買収するのは、犯罪行為だと知らないのか?」。「性的行為を要求するのは犯罪ではないのですか?」。「何のことを話してる? 録音してるな? 出て行け! 即刻、アメリカから出てけ!」。「話をちゃんと聞いて下さい」。「服を脱げ」。「何ですって?」。「つんぼか? 録音装置を持ってないか確認する必要がある」。仕方なく、マラは服を脱ぐ。ブラとパンティまで脱ぐよう命令された時には、「一歩でも近づいたら叫ぶわよ」と言ってから、タオルで隠して脱ぐ(2枚目の写真)。「話していいですか?」。そして、マラは切々と訴える。①自分は何も悪いことをしていない、②夫を愛している、と。しかし、モジは、「お前は、かたわでインポの ほとんど知らない奴と結婚した。それを、愛のためだとぬかすんだな」と、せせら笑うだけ。「インポじゃない」。「そうか、なら、お前は1人とヤッた。だが、それだけでグリーンカードがもらえるかな。いいや、それじゃ足りん。お前が金のためにヤッたんなら、売春婦とどこが違う」。「お金のためにヤッてない」。「金のためと、グリーンカードのためと、どこが違うんだ?」。「私は夫を助け、彼は私を助ける。公正な取引だわ」。「我々の取引では、お前が持ってるのはマンコだけだ」。こう言うと、この厭らしい男はマラに近づこうとする。マラは、「やめて!」と大きな声を出す。「やめて!」。ここで揉み合いになり、男は、「このクソアマ!」と見切りをつけ、裸のマラを写真に撮る。マラは、服をかき集めて逃げ出す。
 

マラは、病院に行き、暴行を受けた証拠のため、殴られた部分の写真を撮ってもらう。そして、出来た写真を持って弁護士を訪れる。マラは、まず、写真を見せる。弁護士は、病院での診断書を要求するが、マラはちゃんともらってきていた。「素晴らしい。それでは音声記録を」。マラは、器械は返したが、録音はしていなかった。弁護士は落胆する。「そうなると、痣もあまり役には立ちませんな」。「私が証言しても?」。「あなたの意見でしかありません。目撃者はいませんか?」。「状況は、少し複雑なんです。ほとんどの打撲は、夫によるものなんです」。「ご主人? では、話したのですね?」。「はい」。「彼が叩いた時、目撃者はいましたか?」。「息子です」。「数に入りません」。「でも、それがどうかしたのですか?」。「するのです。この国では、犠牲者の権利は守られるのです。ですから、家庭内暴力で告訴することができます。その場合は、Uビザ〔犯罪の被害者となった外国人のためのビザ〕と呼ばれる特別なビザを請求できます。有効期限は3年です」。「グリーンカードが却下されても?」。「グリーンカードとは無関係です。裁判の間、滞在できます。3年あれば、いろいろなことが起きるでしょう」。「目撃者はいました。夫は拳銃を持って私たちを追いかけました。通りには、何人もいました」。「結構。完璧です」。「費用は、いかほどです?」。費用は、ルーマニアの家を売った前金の一部の1000ドルと、持ち合わせの250ドル、プラス、引越したばかりの弁護士のマンションの掃除で折り合いがついた。2人は、契約成立の握手をする(1枚目の写真)。映画の最後。、マラは、ドラゴシュを連れてマンションの掃除に出向く〔ドラゴシュを1人で残しておけない〕。マラは、部屋に入ると、ドラゴシュに、「お腹空いた?」と訊く。「何なの?」。「サンドイッチ」。「何の?」。「シュニッツェル〔子牛のカツレツ〕」。ドラゴシュは、サンドイッチを受け取る(2枚目の写真、82%)。食べ始めたドラゴシュに、マラは、「ママ、お話があるの」と話しかける。「あなたを、うっかり、モーテルの部屋で1人にしたでしょ」。「僕、怖くなかったよ」。「でもね、ここでは、それが許されていないの。ママはそれを知らなかった。でも、私たち、よく分かったわよね」(3枚目の写真、88%)。ドラゴシュは頷く。マラはドラゴシュを抱きしめる。マラは、作業用の服を被ると、掃除に取りかかる。
  

   M の先頭に戻る                 の先頭に戻る
   その他の国 の先頭に戻る          2010年代後半 の先頭に戻る

ページの先頭へ