ページの先頭へ

                                            トップページに戻る
少年リスト  映画(邦題)リスト  国別(原題)リスト  年代順リスト

Bruno ぼくが天使になった日

アメリカ映画 (2000)

アカデミー主演女優賞の受賞者(ノミネートは3回)で、かつ、『アウト・オン・ア・リム』などの神秘主義的な本を10冊以上執筆しているシャーリー・マクレーンが、唯一監督した作品。この映画の中で、天使が大きな役割を担っているが、それもシャーリー・マクレーンの影響かもしれない。この映画の中核的存在は、映画の題名にもなっている9歳のブルーノ。そして、それを演じているのは、アレックス・D・リンツ。子役をさっさとやめて、アメリカで最難関のUCLAバークレーに入学しただけあって、実に頭のいい子役。そのアレックスの演技能力の高さが100%堪能できる作品。しかし、映画そのものは、この映画1本しか経験のない脚本家のせいで、映画のラスト20分が暴走してしまった。それは、ブルーノが挑戦するスペリング・ビー〔英単語のスペリング力を競う大会〕の1回目でブルーノが着たのは、彼が事故による脳震盪の間に見た天使の衣装〔古代ギリシャの男性用のキトン〕で、男の子が男性用のキトンを着ても不自然ではないが、2回目の地区大会、3回目の州大会、最後の全国大会では、派手な女性用のドレスになっていて、その異様な変化に何の因果関係も示されないからだ。そして、その派手なドレスが映画の主題にすり替わってしまい〔ファッションショーと勘違いしているのでは?〕、肝心のスペリング・ビーは、地区大会と州大会では無視。こんなバカなことをせずに、最後まで天使の衣装のままで、スペリング・ビーを優先させた方が遥かに良かったのにと思ってしまう。それは、スペリング・ビーをテーマにした『Akeelah and the Bee(ドリームズ・カム・トゥルー)』(2006)が高い評価を得ているから。この未熟な脚本家を選んだ理由は、ブルーノの母を演じる “生涯を通して1度しか映画に出たことのないStacey Halprin という特異な女性” と知人だったというだけの下らない理由。Stacey Halprinは、1987年2月に体重550ポンド〔250キロ〕、1988年1月に380ポンド〔172キロ〕、1994年2月に514ポンド〔233キロ〕、1997年11月にこの映画への出演が決まり、映画の中では450ポンド〔204キロ〕という設定、という数奇な遍歴の女性(映画の出演が契機となり、2003年5月には218ポンド〔99キロ〕まで減量に成功、2009年には『Winning After Losing: Keep Off the Weight You've Lost—Forever(敗者のあとの勝者: 減らした体重をずっと維持するには)』という本も出版している)。しかし、せっかく登場したStacey Halprinも、映画のラスト20分には何の活躍もしない。この脚本家はなぜこんな失敗をしたのだろう? ところで、マイナス面ばかり強調したので、最後にもう一度、アレックスについて言及しておきたい。ブルーノはトランスジェンダーではないので、遊び心でドレスを着ているのだという軽い気持ちでみれば、アレックスのドレス着姿はこの映画でしか見られない素敵なプレゼントであり、まだ観たことのない方は、是非ともDVDを購入するか、レンタルされることをお勧めする。

体重が200キロを超え、食べるだけが楽しみのダメな母親アンジェラと、アイスホッケーのチームに入りながら、何もできないダメな少年ブルーノ。アンジェラは夫から離婚され、ブルーノはクルスチャンの学校で毎日虐めに遭っている。そこに大きな変化が訪れる。すごく派手で気ままな少女シャニクアが転校してきたのだ。シャクニアに虐めから救われたブルーノには、男女を問わず、初めての友達ができる。そして、その影響は甚大だった。「あたしたちは、自分らしさを表現しようとしてるだけの “自由に生きる人” なのよ」と主張するシャニクアの存在は、その直後にブルーノを襲った交通事故で、彼が昏睡状態の時に見た夢で “天使に与えられた衣装” を、再現しようとする強い意志をブルーノに与える。ブルーノは、天使の衣装を着て、スペリング・ビー大会に学校推薦の生徒を決める場に現れ、修道院長を呆れされ、母と子は生徒達から激しい辱めを受ける。そのショックもあり、心臓発作を起こした母が、1週間入院することになり、引き取りを父から拒否されたブルーノを預かったのは、これまでブルーノに何の興味のなかった祖母ヘレナ。最初は、衝突しかしなかった2人だったが、ブルーノが天使の衣装に強く拘る態度の中に、「ドレスを着たちっちゃな男の子にしちゃ、大した肝っ玉」を見つけた祖母は、態度を一変させ、ブルーノの強い味方になる。そして、地区大会、州大会、全区大会用に、それぞれ独自のドレスを用意して、ホモとは無縁の、“自分らしさ” を追及するブルーノを応援する。ブルーノの優勝は、父の意識も変え、彼は、優勝の最大の “お駄賃” であるローマ教皇のとの一対一での面会に旅発つ。

アレックス・D・リンツ(Alex D. Linz)は1989年1月3日生まれ。映画の撮影は1998年5月なので、撮影時は9歳。日本で言えば小学校3年生。このサイトで、多くの「映画の中の少年たち」を見てきたが、アレックスほど演技に幅があり(どんな役でも演じられ)、如何にも良い子で、かつ、可愛い子役は他にいない。2つ前に紹介した『スペース・ミッション/宇宙への挑戦』のメイキングの中で、マッギネス博士役を演じた女優は、アレックスについて、こう語っている。「これが11歳の子供です。でも、彼は子供ではないので、この表現は適切ではありません。彼は11歳ですが、振る舞いは40歳です。彼はまだ陽気な子供ですが、大人の成熟度と大人のプロ意識を持っています」。監督は、「彼は、役に入った出たりできる、天性の才能を持っている」と言い、チンパンジーと梁の上で話す台詞を聞いた時には、「彼は30秒、私を泣かせた」とも話す。再び、マッギネス博士役の女優が、「私は、彼から学ぶことができると感じています。それはある意味かなり驚くべきことです。この子は、私の歯車を大きく揺さぶったのです。“早熟” という言葉はアレックスを表すのに十分な言葉ではないようです」。その後で、アレックスの “以前 簡単に引用したインタビュー” が入る。「僕は、物理学の博士号が取りたい。僕は哲学の修士号を取りたい。特に、哲学の一分野である形而上学の修士号が」。11歳は、日本で言えば小学校5年生。5年生で、ここまで言えるのか? そもそも、形而上学〔基本的な哲学の仮説を批判的に考察し,存在するものはそれが存在するかぎり何であるかを明らかにしようとする哲学の一分野〕という言葉を知っている小学生などいないのでは? 子役をさっさとやめて、アメリカ最難関のUCバークレーに入学しただけのことはある。

あらすじ

映画は、ブルーノが、単語を発音し、その意味を述べるところから始まる。そこで上げられる単語は、名詞、形容詞、動詞が混じっていて、スペリング・ビーとよく似ている。「はみ出し者、並はずれた、反抗、天才、異なる、父親、神、スペル(綴り)、魅了、身なりの、常軌を逸した、特異な、ドレス、衣服、単語、幻影、少女、少年、神聖な」。これらの単語は、すべてこの映画に関連したものばかり。要は、「他の凡庸な少年異なるためはみ出し者なって虐められ、父親からは見放されたブルーノが、神聖幻影を見たことで魅了され、特異身なりの個性的な少女の助けを借りて、修道院長の命令に反抗し、常軌を逸したドレス衣服としてまとい、から与えられた並はずれた天才的とも言える “言語スペルを暗記して競う” 大会を勝ち進む」とでもなろうか。そのあと、ブルーノが夢について語る。「僕は、よく天使に追いかけられる夢を見た。逃げるのに必死だったから、彼女の姿など分からなかった。僕の母はすごく太っていたから、母とはまるで似ていなかった。僕が彼女のドレスを奪ったから、天使はすごく怒って、そんなことをすると、天国には行けませんよと言った。でも、僕は構わず走り続けた」(1枚目の写真、矢印は盗んだドレス)。ここで場面は翌日の朝に変わり、ブルーノが マザラッティという虐めの扇動者に追いかけられ、それに大勢の悪ガキが追随する(2枚目の写真)。「チビ助〔shrimp〕」「弱虫〔twerp〕」「同性愛〔pansy〕」「マスかき野郎〔Jack-off putz〕」など、カトリックの学校とは思えないような汚い用語も用いられ、小さなブルーノの上に大勢が山になってのしかかる(3枚目の写真)。そこに、力強い修道女が現われ、悪ガキどもを退散させ、丸く縮こまったブルーノを、そのままの形で掴み上げると、虐めに参加していた生徒達を一列に引き連れて、教室に向かう。「ニューヨーク州ロングアイランド」と表示される。
  
  
  

虐めたのはマザラッティで、ブルーノは犠牲者なのに、院長室に呼ばれたのはブルーノ(1枚目の写真、矢印は教皇の写真)。修道院長〔アカデミー主演女優賞を受賞したキャシー・ベイツ〕は、「バタグリアさん、あなたが普通に行動していれば、私達がこんなに何度も会うことはないでしょう。なぜ、あなたは、他の小さな男の子のように振る舞えないの? そうすれば、これほど多くの敵はできないでしょう。友達ができるかもしれませんよ。でも、ここに至っては、またしてもあなたのお母さんと話をしなくてはという、好ましくない見通しに直面しています。ブルーノ、私はあなたのお母さんと会いたくないの。正直言って、あなたのお母さんはあまり好きじゃないから〔don’t really like〕」と言うと、ペーパーナイフを机の上の板に突き立てる(2枚目の写真)(本当は、大嫌い〔really don’t like〕と言いたかったが、修道院長の手前 強い表現は控えた)。その言葉を聞いたブルーノは、一瞬、目を見張るが(3枚目の写真)、すぐに悲しくなって顔を伏せる。院長は、さらに、「なぜ、あなたたち2人は、心からの軽蔑〔heartfelt disdain〕を煽るよう、しつこく迫るのですか?」。この、あまりにひどい言葉に、ブルーノは トイレに行きたいと言い、逃れようとする。院長は、年配の優しい修道女を呼びつけ、ブルーノにホール・パス〔授業中に廊下に出てもいいという許可証〕を渡すことを命じたあとで、「バタグリア夫人がここに来たら、この部屋から50フィート〔15m〕以内に近づけないように」と、面会拒絶の命令を出す。
  
  
  

ブルーノは、便器の蓋の上に膝を曲げて座ると、目を閉じて平和なひと時を過ごす。「目を閉じると、天国ごっこができた。そこでは、僕は、2人の天使と一緒にいて、2人は僕の両親だった」(1枚目の写真)「僕たちは、手をつなぎ、笑い合い、そして楽しんだ。でも、そのあと、“父” 天使が手を放してしまう。『ママ、なぜパパは行っちゃったの? ママ?』」。そして、天国ごっこの中で、ブルーノは、「ママ!!」と大声で叫ぶ。すると、「ブルーノ、どこにいるの?」という母の声が聞こえ、トイレの個室のドアが開く。院長室の前の廊下では、真っ赤なカウボーイハットを被り、赤いカウボーイブーツを履き、2丁の玩具の拳銃を持った黒人の女の子がイスに座っている(転校生)。その姿を見たブルーノは、少女の前を苦しそうな表情で通り過ぎて、先ほどの優しい修道女のところまで行くと、「詰まっちゃって出て来ないの」と悲痛な顔ですがるように訴える(2枚目の写真)。それを聞いた修道女が、保健室に行くためのホール・パスを 背を向けて書き始めると、ブルーノは顔を覗かせた母に首を振って合図する。母は、よたよたと廊下を歩くと(3枚目の写真)、それに気付いた修道女が止める前に、院長室に入り込む。
  
  
  

院長は、ブルーノの母を見ると、「アンジェラ、また私を脅したら、警察を呼びますよ」と警告する。アンジェラは、すぐさま正論を述べる。「なら、私の息子を虐める子たちを、もっと何とかしなさいよ!」(1枚目の写真)。院長は 「悪いけど、手は尽くしましたよ」と、自分の不作為を棚上げし、「ブルーノが虐めを止めさせて欲しいなら、自分で対処しないと」と、無責任な主張をする。「どうやったら、そんなことができるの?」。「あんな めめしい態度を止めればいいでしょ!」(2枚目の写真)。「よくまあそんなに薄情になれるわね?!」。「薄情? 私はカトリックの修道女ですよ!」。「あなたの忌まわしい体には、カトリックのかけらもないわ!」。怒った院長は、警察に電話しようとする。母は、電話機を手で覆うと、「あたしがあなたなら、警察なんか呼ばずに、この電話で教皇に電話するわ」と言い捨てると、院長室を出て行く。
  
  

ブルーノと母は、玄関を出ると、回廊を歩いてゲートに向かうが、多くの生徒達がそれを見ている(1枚目の写真、矢印はブルーノ)。「時々、良き天使がやって来て、僕を連れ去ってくれるよう祈った。でも、どれだけ祈っても、そんなことは起きなかった」。意地悪な生徒の一人が、母親がいるにもかかわらず、「おい、ブルーノ、お前、女の子かよ」と声をかけ、ゲートを通って外の通りに出る頃には、「女の子、女の子…」「それ、お前の母さんか? 家みたいだな」と、大勢でからかう。ブルーノが。反撃しそうな母に、車に向かうよう何度も促すと、悪たれどもは、その言葉をわざとらしくくり返す。そして、「あの、よたよた歩き見ろよ」「車が傾くぞ」「あれだけ重くて動くのかよ」(2枚目の写真)。アンジェラの車は、30年前のキャデラック・コンバーチブル。外装は黄色に孔雀の羽根の絵が描かれていて、内部はピンク。アンジェラは、エンジンをかけると、バックを始める。それを見たマザラッティは、「あいつ、バックしてやがるぞ! デブのクソは運転もできん!」とあざ笑うが、バックしたのは、悪ガキどもにぶつかっていく勢いをつけるため。それに気付いた悪ガキどもは一斉に逃げ出す(3枚目の写真)。
  
  
  

ブルーノは、母から、「今日、学校はどんなだったの?」と訊かれると、「大丈夫」と悲しげに答えたが、「美を見つけに行きましょうか?」と訊かれると、急に笑顔になって、「いいよ」と賛成する(1枚目の写真)。母が言った先は、いつもの女性グッズ販売店。店主は、アンジェラに、新しく入荷したコロネーション〔カーネーションの名前の由来/カーネーションは、神にささげる花冠(コロネーション)を作るのに使われていた花だった〕・ピンクの頬紅をアンジェラの顔にブラシで塗り、同じ色の口紅やマニキュアもあると勧める。そして、店主もアンジェラもマニキュアをしているので、塗った感じをアンジェラに見せるため、何も塗ってないブルーノの手を取ると、爪に塗り始める(2枚目の写真、矢印)。そして、「今朝、誰が来たと思います?」とアンジェラに訊く。答えは、「あなたの元夫と付き合ってる あばずれ〔tramp〕」で、買った物は、今言ったものすべて。それを聞いたアンジェラは、対抗上、すべて2個ずつ同じ物を買い、費用はあばずれに付けておくよう言って店を出て行く。次に寄ったのが、ドライブスルーのハンバーグ店。マイクに向かって注文したものは、①チーズとベーコンのレアダブルバーガー5個。②タルタルソースたっぷりのclam strips〔ハマグリのフライ〕6個、③ポテトフライ3袋、④モッツァレラ・スティック2個、⑤クリスピーアップルパイ・アラモード〔サクサクしたアップルパイ、アイスクリーム添え〕4個、⑥ダイエットコーラの大。これだけ1人で食べれば、太るのは当たり前。母が、ブルーノに何を注文するか訊いても、「お腹が空いてない」と断る(3枚目の写真)。理由は、これから大嫌いなアイスホッケーの練習に行かないといけないので、食欲が沸かないから。
  
  
  

この先、一部、映画と順番が入れ替わるが、アンジェラは、ブルーノをアイスホッケー場の前で降ろすと、ブルーノの学校を運営する修道院主催のビンゴに出かける。そして、大きな体を揺すりながら会場に入って行くと(1枚目の写真)、2つのイスを並べて座り、ビンゴの時に鳴らす小さな “幸運の鈴” の代わりに、大きなカウベルをテーブルに置く。アンジェラに気付いた院長は、修道女に 「彼女を見張ってて。トラブルは困るから」と命じる。会場には、“あばずれ” と、アンジェラの元夫の母親ヘレンも来ていて、ヘレンは “あばずれ” に “幸運の鈴” の音を振って聞かせる。それを見たアンジェラは、対抗すべく、カウベルを鳴らす。それを聞いた “あばずれ” は 「あんなの あり?」とヘレンに訊く。ヘレンは 「あれはダメだと思うわ」と答え、その直後、院長も、アンジェラに向かって 「ビンゴ会場でカウベルなど もってのほかよ」と文句を付ける。“あばずれ” は 「てっきり、首にかけてるんだと思ってたわ」と、アンジェラを牛に例える。アンジェラは 「それ以上言ったら、これであんたの首をねじ曲げてやる」と反論。院長は、カウベルを渡せと要求するが、アンジェラは拒否。“あばずれ” は 「ディノが あんたをふって あたしを選んだので嫉妬してんのよ」「こんな素敵な体と結婚できるのに、あんたみたいな太った牛に誰が我慢すると思うの?」と言うと、立ち上がって、若い体を誇示して見せる(2枚目の写真)。アンジェラは、立ち上がると 「売春婦」と貶し、“あばずれ” は 「象」と言い返す。「スベタ」。「タンク」。言い争いを止めさせようとした院長を、アンジェラは押しのけ(3枚目の写真、矢印はカウベル)、“あばずれ” を殴り倒し、ビンゴ会場から追い出される。
  
  
  

一方、アイスホッケー場の前で降ろされたブルーノは、ゴーリー防具の入った 体よりも大きなバッグを背負うと、入口に向かう(1枚目の写真)。リンクの周囲の観客席の一角には、ブルーノの父を含めて5名の警官が座っている〔ブルーノの父が務めている警察署がこのチームのスポンサーになっている〕。その父の前で、ブルーノは、恥ずかしい失敗を繰り返す(2枚目の写真)。父は、途中でいたたまれなくなって席を立って出て行く。練習が終わり、チームのバスでブルーノが家の前で降り、がっかりしてバッグの上に座っていると(3枚目の写真)、そこに、元妻への公務の用事で父がやってくる。そして、ブルーノの前に 無言で立つ。ブルーノは 「ごめん。また転んじゃった」と謝るが、父は無言のまま。辛くなったブルーノは、バッグを放置したまま、家に走って逃げ込む。家に入ると、母から 「坊や、ホッケーの練習どうだった?」と訊かれ、「大丈夫」とだけ言って 2階に上がって行く。
  
  
  

そこに、元夫のディノが入ってくる。アンジェラは、アイスホッケーのことを訊こうとするが、ディノは、警察手帳を取り出すと、「今日の午後2時30分頃、1970年製のキャデラック・コンバーチブルが、聖アントニー・カトリック・グラマー・スクール〔イギリスでは7年生以上の中等学校を意味するが、アメリカでは5・6年生までの小学校のこと〕の前で大勢の子供たちをなぎ倒そうとした」と、読み上げる(1枚目の写真)。アンジェラは 「事故だったの」と弁解するが、ディノは 「嘘はいい加減にしろ。君の頭はどうなってる? 一体何を考えてる? なぜ、君は、始終 俺に恥をかかせ、面目を失わせるんだ?」と批判。「あなたって人は、いつだって自分のことしか考えない。たまには、私たちのことも考えて」。話がここまで進んだ時、着替えたブルーノが階段の上に現れ、2人の話を聞いている(2枚目の写真)。ここで、ディノはブルーノについても言及する。「ブルーノには、ホッケー場に二度と近づいて欲しくない」。そして、アンジェラには 「君がもし、あの学校から半径2マイル以内に入ったら、俺が個人的に君を逮捕する」と、警告する。これを聞いたブルーノは、「でも、誰もケガさせなかったよ」と、母を弁護する。その声で、階段の上を見たディノは唖然として(3枚目の写真)、「あれは何だ?」と訊く。「何?」。「彼が着ている物」。「ナイトシャツ〔長いシャツ型の寝巻き〕よ」。「いいや違う。あれはドレスだ」。「ナイトガウン〔ネグリジェ〕よ」。「彼は、ナイトガウンを着て何してる?」。「寝るんでしょ」。「あの種のことは、二度としないと話し合ったハズだ」。「あなたが、そう言っただけよ」。「ナイトガウンを着てベッドに行くようなのは、一体どんな男の子だ?」。「ホッケーをする子」。「ホッケーなんかしない。二度とな」。その口論に悲しくなったブルーノは、自分の部屋に行く。「僕たちは皆 原罪を持って生まれてきた。故に、決して赦しを得られないかもしれないと教えられた。僕の原罪は、一体何だったんだろう?」。
  
  
  

ブルーノが、大好きな天使の人形を抱いてベッドで横になっていると、そこに母が入って来る。母は、「スペリング・ビーの練習をしてみない?」と誘うが、「準備はできてる」と断る。そこで、母は話題を変え、「パジャマを買った方がいいみたいね」と言い、それに対しては、「そうだね」と答える。先ほどの元夫との口論の中で、「君は 太って450ポンド〔204キロ〕にもなるし、君の息子は ドレスを着て寝てる! 君に 俺の気持ちが分かるか?!」と怒鳴られたので、母は 「明日からダイエットを始めようかと思うの。どう思う?」とブルーノに尋ねる。これに対しては、ブルーノも積極的に賛成する(1枚目の写真)。その後のシーンで、1階の棚の上に並べてある昔の写真が映されるが、結婚した当時の母は、標準的な体重の女性だったことが分かる(2枚目の写真、矢印)。シーンは、すぐに2階に戻り、母の勧めに対しては拒否したが、ブルーノは、ランダムハウス大辞典〔2256ページもある〕を広げ、スペリング・ビーの勉強を始める(3枚目の写真)。
  
  
  

翌日、ブルーノが回廊を歩いていると、マザラッティと、昨日の黒人の女の子の2人が追いかけてくる。女の子は、「ねえ、あたしのこと覚えてる? あたしの名前はシャニクア・ヴァン・アダムスよ。あんたは?」と訊くので、仕方なく 「ブルーノ」とだけ答える。シャニクアは 「あたし転校生よ、ブルーノ。あたしと友だちになりたい?」と訊くが、ブルーノはマザラッティから逃げるのに必死で、答えてなどいられない。シャニクアは、怪しい動きをしているマザラッティを 「あんた、何 見てんのよ?」と突き飛ばす。それに構わず、マザラッティは手下に指令を出し、何人かで同時にブルーノに襲いかかり、ブルーノの両手両脚を持って動けないようにする(1枚目の写真)。そして、そのまま教室まで担いでいく。シャニクアは、「何すんのよ!」と、玩具の拳銃を何度も撃って脅かすが、誰も相手にしない(2枚目の写真、矢印はシャニクア)。教室に入ると、窓が開けられ、ブルーノの上半身が窓から外に出され、脚を捉まれているので落ちないだけの危ない状態におかれる(3枚目の写真、矢印)。マザラッティの横にいる少年は、「マジで落としてやる」と脅す。他の少年からも、「やっちまえ」という無責任な発言が出るが…
  
  
  

そこに、修道女の教師が入って来たので、悪ガキどもは、慌ててブルーノを教室内に引きずり込む。床に倒れ込んだブルーノの上には、シャニクアが守るように立ち、拳銃を構えると(1枚目の写真)、修道女に 「彼、窓からぶら下げられたの」と訴える。しかし、ブルーノは、復讐が怖いのか 「違います」と否定し、シャニクアは 「違ってないわ」と ブルーノに反論し、拳銃でマザラッティを指して、「あいつが、吊るしたの」と修道女に教える。ブルーノは再度否定し、シャニクアは再度反論すると、マザラッティに 「あんたを罰してやるからね」と言い、ブルーノをびっくりさせる(2枚目の写真)。修道女は、ブルーノを着席させ、チョークで黒板に円を描くと、マザラッティを呼んで円の前に立たせる(3枚目の写真)〔これが、この学校の罰の与え方〕。それが済むと、修道女は、シャニクアに向かって 「あなたが聖アントニーに転校したことは知っていますし、あなたが前いた学校では許されたかもしれませんが、ここでは、教室で “カウボーイとインディアン” ごっこは許されていません。銃を渡しなさい」と言うが、シャニクアは拒絶。修道女は、渡さないなら、マザラッティのように、黒板に向かって立たされると脅すが、シャニクアは断固拒否。修道女は 「銃を渡さなければ、あなたは、とっても惨めな思いをしますよ」と警告するが、シャニクアは 「あんたの顔ほど惨めじゃないわ」と言い返す。怒った修道女は、シャニクアを、座ったイスごと教室から出し、そのまま階段を引っ張って1階まで連れて行く。
  
  
  

次のブルーノの独白は、『ヨハネによる福音書』の第1章1節を短くしたのもの。「初めに言葉があった。言葉は神であった」。それに続く独白は、福音書とは無関係。「すべての言葉を知れば、僕は神と話ができ、神は僕に語りかけてくれると信じていた。でも、言葉を学べば学ぶほど、僕は神から離れていくように思えた」。そして、教室では、スペリング・ビーの予行演習。クラスの生徒達の中で、正解できたのはブルーノだけだった。ブルーノが正しく答えた単語は 「predacious〔強欲な、捕食性の〕」(1枚目の写真)。他の生徒は、どんどん黒板の円の前に立たされていく(2枚目の写真)。ランダムハウス大辞典で単語を暗記している子と、何もしない子とで、相違が出るのは当然だ。
  
  

昼休みの時間。ブルーノが、校庭の大木に登って本を読んでいると、そこにシャニクアがやって来て、「ねえ、ブルーノ、あたしのこと覚えてる?」と訊く。「うん」(1枚目の写真)。「そこで、ランチ食べたの?」。「うん」。「あたし、どこで食べたと思う?」。「院長室」。「当たり。帽子は取り上げられたけど、拳銃はスカートの中に隠したの。銃は好き?」。「ううん」。シャニクアは、木に登りながら、「スペリング・ビーはどうだった?」と訊く。「いいよ。勝った」。「だよね。あたし、見た瞬間に、あんたが利口だって分かったの」。しかし、その褒め言葉にもかかわらず、ブルーノは 木から降り始める。「ねえ、どこ行くの? 放課後に、一緒に犬の散歩しない?」。「ううん」。「あたしと友だちになりたくないの?」。「ないよ」(2枚目の写真)。「なんで?」。「君はハデ過ぎるから。僕の人生に、派手な女性は一人で十分なんだ」。「あたし、自己表現してるだけよ」。「どこか別でやってよ」。
  
  

シャニクアと話をするために、前を見ずに歩いていたブルーノは、マザラッティにぶつかってしまい、「何しやがる、このホモチビ」と言って、芝生の上に突き飛ばされる(1枚目の写真)。マザラッティが、さらに、「このくそったれ、ぶっ殺してやる」と言ったので、怒ったシャニクアは 「かまうの やめなさいよ!」と言って、マザラッティの胸を突き返す。マザラッティは、「ひっこんでろ、黒んぼ」と言うと、シャニクアを押し倒す。その差別用語を聞いて腹を立てたブルーノは、立ち上がると、マザラッティに面と向かって、「黒んぼなんかと呼ぶな!」と食ってかかる(2枚目の写真)。「命はないぞ、バ-ホモ-リア〔バタグリアをもじった言葉〕」。マザラッティは、再度、ブルーノを突き飛ばし、その上に大勢の悪ガキが山のように重なる。完全に頭に来たシャニクアは、1人ずつ引き離して行くが、それより効果があったのは、修道女の吹いた笛。悪ガキは一気に逃げ出し、真ん中に残ったのは、横たわったブルーノを守るために上に跨ったシャニクアだけ(3枚目の写真、矢印はブルーノのズボン)。
  
  
  

シャニクアは、ブルーノを虐めたと誤解されて、院長室に連れて来られる。院長は、シャニクアに、「あなたが来た所では、自分より弱い子を虐めてはいけないと、教わらなかったの?」と訊く。シャニクアは 「あたし、虐めてなんかいないわ。守ってたの!」と、当然の反論をする。「私が、それを信じるとでも?」。「当然でしょ」。シャニクアにうんざりした院長は、ブルーノに、「この件に関して あなたの言い分は?」と尋ねる。ブルーノは 「OK」と答える。これでは、返事になっていないので、「OK? 何のこと?」と訊く。ブルーノは、シャニクアを見ると、笑顔で 「OK。友だちになるよ」と言い、それを聞いたシャニクアは、すごく嬉しそうな顔になる(2枚目の写真)。そして、2人は、イスから身を乗り出して、フィスト・バンプをする(3枚目の写真)。それを見た院長は、また悩みの種が増えたと、額を両手で覆う。。
  
  
  

学校が終わると、2人は仲良く松林の中に入って行き、松の木に寄りかかって並んで足を投げ出す。シャニクアが 「あんた、タバコ吸う?」と訊くと、ブルーノは 「ううん。君は吸うの?」と訊き返す。「いいえ。体に悪いでしょ」。「ママは、タバコを吸うと 魂が黒くなるって言うんだ」(1枚目の写真)。そのあと、シャニクアが 「あたし、寒い」と言い出す。それを聞いたブルーノは、「僕のズボン履きたい?」と訊く。「それって何? 取りかえっこするの?」。「そうさ、僕のズボンと君のスカートを交換する。どうだい?」。「いいわ。じゃあ、来て」。シャニクアは、服を脱がなくてはいけないので、近くにある墓地にブルーノを連れて行く。ブルーノが怖がったので、2丁拳銃を構えて中に入って行く。しかし、墓地の中に子供の天使の像を載せた墓碑があるのを見ると、ブルーノも少しは気が楽になる(2枚目の写真)。シャニクアは、立派な石の屋根の付いた墓所を見つけると、扉を開けて中に入り、着替えてから出て来る。ブルーノは、ジャンプした拍子に真っ赤なカウボーイハットを落としてしまう(3枚目の写真、このシーンが2人の服装が一番良く分かる)。
  
  
  

そのあと、シャニクアは、昼休みの時に話していた犬の散歩のアルバイトをするため、ブルーノを連れて、老夫人が一人で住んでいる豪邸に行き、チャイムを押し、「ドレイコさん、生きてますか?」と声をかける。その時、ブルーノは玄関前の階段に座って、階段の両脇に立っている犬の石像彫刻を 怖そうに見ている(1枚目の写真)。すると、犬の吠え声がして、階段の真ん中に座っていたブルーノの脇を大きな犬〔グレート・デーン〕が走って行ったので、びっくり。しかも、手慣れたシャニクアは、門まで走って行った犬を呼び戻したので、自分に向かって走って来る犬を見て、ブルーノは悲鳴を上げて左に逃げる(2枚目の写真、矢印は犬)。その騒ぎで、飼い主の老夫人が出て来て、「一体どうしたの? ベイビー〔犬の名〕を怖がらせたの?」と咎めたので、シャニクアは 「違うの、ベイビーがあたしの友だちを怖がらせたの」と誤解を解く。シャニクアと犬は一緒に門に向かって歩き出し、ブルーノがその後を追う。老夫人は、2人に向かって、「さようなら、お嬢ちゃんたち」と呼びかける(3枚目の写真)。
  
  
  

散歩が終わると、ブルーノはシャニクアを自分の家に連れて行く。シャニクアは入ってすぐの所に置かれていたトルソー〔胴体だけのマネキン〕を見て、その巨大さに改めて驚く〔最初に学校に来た時、目の前で実物を見ている〕。そして、「どうして、こんなに大きくなったの?」と訊く。言葉に強いブルーノは 「Surplussage〔過剰、必要とされるよりずっと多い量〕」と答える。当然聞いたことのない単語なので、「それ、何?」と訊く。「ママはいっぱい食べるんだ」(1枚目の写真)「でも、今はダイエット中。すぐに痩せるよ」。その直後、どこか家ではない場所に停めたキャデラックの中で、アンジェラは、家ではダイエットと言った手前食べられないので、買ってきた山ほどの食べ物を貪るように口に入れている〔これでは、絶対痩せられない〕。次のシーンでは、もう一度ブルーノの家に戻り、シャニクアは、彼にピンクのノースリーブのシャツを着せ、カツラを被せる。そして、自分の家族のことをブルーノに訊かれると、①母は乳がんで亡くなった(本当)、②父は中国にいる(嘘)、③世話してくれるのは兄のヘンリーで美容院をやってる(本当)、という話をしながら、ブルーノにピンクの頬紅、ブルーのアイシャドー、濃いピンクの口紅を塗る。そんな状態で、ブルーノは、「僕、ドレスを着てもOKかな?」とシャニクアに訊く(2枚目の写真)。シャニクアは、「なぜダメなの? あたしズボン履くわ」と答える。「でも、それとこれとは違うよ」。「違わないわ。あたしたちは、自分らしさを表現しようとしてるだけの “自由に生きる人” なのよ」。そして、2人は、さらに派手に着飾ると、そのまま雨の降る屋外に飛び出して行き、走り回って遊ぶ。しかし、ブルーノがうっかり道路に飛び出した時、振り向くと、目の前に車が迫っていた(3枚目の写真)。
  
  
  

救急車で病院に運ばれたブルーノは、カツラを取られ、ドレスを脱がされるが、その時点で、初めて男の子だと分かる。ブルーノは脳震盪で意識を失い、酸素吸入を受け(1枚目の写真)、医師は頸椎と脊椎のCTを指示する。そのような状態で、ブルーノは夢を見る。大好きな天使の人形を抱いたブルーノの周りに4人の天使が現われる(2枚目の写真、矢印)。天使が羽でブルーノを一旦覆い、再び背筋を伸ばすと、ブルーノの服は、古代ギリシャの男性用のキトンに替わっていた。そして、ブルーノは両手を広げてクラミス〔マント〕の美しさを満喫する(3枚目の写真)〔オデュッセウスなども着ていた、あくまで、男性用の衣類〕
  
  
  

病院の待合室では、4人が待機している。恐らく、シャニクアがアンジェラに知らせ、アンジェラがディノに知らせ、ディノがヘレンに知らせ、なぜか “あばずれ” まで連れてきたのであろう。そこに、救急外来の先ほどの医師が現われ、「バタグリア夫人?」とアンジェラに話しかけ、「ドクター・パイクです」と名乗る。手には、ブルーノが被っていたカツラを持っている。アンジェラは動転しているので、冷静なヘレンが 「容態は?」と訊く。医師は 「大丈夫です」と言い、アンジェラは 「良かった」とホッとする。ディノは、医師が持っている物を、「それ、一体何です?」と質問する。「カツラです。幸い、彼はこれを被っていました」。ディノは、「カツラを被ってたんですか?」と驚く。「ドレスは切り裂きました。信じられないかもしれませんが、カツラのお陰で少年の怪我は最小限に抑えられ、軽い脳震盪だけで、問題は何もありません。今は眠っています。経過観察のため一晩預かりたいのですが、明朝には帰宅できます。しばらくお待ちになれば、会えますよ」。それを聞いたアンジェラは 「ありがとう」と言うが、ディノは “あばずれ” を連れて出て行こうとする(1枚目の写真、矢印はカツラ)。ヘレンは、それが父親の取るべき行動とは思えなかったので、「ディノ、どこに行くつもり?」と訊く。「家だ」。「聞きなさい、ディノ!」。ディノは無視して帰宅する。待合室に3人がいなくなると、アンジェラはすぐに自販機に直行し、袋入りの菓子を何個も買い、それをお腹の周りに並べる(2枚目の写真、矢印)。それをドアの外から見ていたヘレンは、呆れて帰ってしまう。アンジェラが長椅子に座ってお菓子を食べ始めると、医師が呼びに来て、立ち上がった拍子に、買った菓子が床の上に全部落ちる。医師が、病室の番号を教えた後、床に落ちた菓子袋を、体型に苦慮しながら拾う様は哀れとしか言いようがない。
  
  

翌朝退院したブルーノは、アンジュラに連れられていつもの女性グッズ販売店へ。ブルーノは、笑顔で 「やあ、ドロレス」と声をかける。店長のドロレスは 「瀕死の事故の犠牲者さん、差しつかえなければ、臨死体験を話してもらえる?」と訊き、ブルーノは 「良かった」と笑顔で答える。意外な返事に、「どうして? 神様を見たの?」と訊くと、「ううん、でも天使を何人も見たよ」と答える。アンジェラは、ブルーノを連れて来た理由を、「早めのイースター〔1999年4月4日〕のプレゼント」と説明する。ドロレスが 何が欲しいか尋ねると、アンジェラは 先日ディノに非難されたので、「パジャマ」と言うが ブルーノは 「それに、ドレス」と追加する。ドロレスは、服選びの前に 「それには香りが必要ね」と言い、“Eau de Céleste〔天空の水〕” という名の架空のオーデコロンをブルーノの顔に吹き付ける(2枚目の写真)。
  
  

そして、ブルーノはドレス探しを始め、ドロレスが抱えたたくさんのドレスと一緒に試着室に入る(1枚目の写真)。その先は、色々なドレスを試着したブルーノが試着室から一瞬姿を見せるシーンが続く。あまりに何度も試着するので、ドロレスも疲れてくる(2枚目の写真、矢印は試着したドレス)。ブルーノが気に入ったのは、病院で気を失った時に見た、天使に着せられた純白のキトンに一番似たドレス。ブルーノは、試着室から出て、三面鏡の前に立って、どのくらい似ているか確かめてみる(3枚目の写真)。そして、ドロレスの前まで歩いて行くと、「これだよ」と言う。ドロレスは 「これが、天国で見たものなの?」と訊く。「なんとなく。一番近いね」。
  
  
  

家に戻ったブルーノは、首の周りの付いている布を拡げて、天使にもらった服に近づけるよう、アンジェラにいろいろと指示を出す(1枚目の写真)。大きな変化は、①布にもっとドレープをかけること、②丈をうんと短くすること〔キトンは半ズボンに近い〕。③スパンコールを増やすこと(2枚目の写真)。こうして、学校のスペリング・ビーに出場する時に着る、天使の服が出来上がる。
  
  

いよいよ、スペリング・ビーの日。全校生徒の前で、院長が 「聖アントニーの第58回スペリング・ビーにようこそ。このビーの勝者は、来月行われる地区大会に出場します。地区大会の勝者は、州大会に出場します。そのビーの勝者は、ワシントンDCで開催される全米カトリック・スペリング選手権に出場します。この選手権で優勝すれば、ローマのバチカン市国まで全額無料で飛び、ローマ教皇ヨハネ・パウロ二世と二人だけで会見できます」と説明する(1枚目の写真)。そして、全員がうつむいて黙祷する中で、正面に設けられた壇上に出場者が入ってくる。制服を着た9人の中で、ブルーノだけが 天使の白衣をまとっている(2枚目の写真)。それに気付いた生徒達から声が漏れるが、院長がすぐに静かにさせる〔院長や、他の修道女たちからは、出場者が見えない〕。それでも、笑ってしまう生徒がいると、修道女は自分が笑われたと勘違いし、服装を正そうとする。院長は、「次に声を出した生徒は、退学に処します」と警告したので、会場は静まり返る。最初の生徒がマイクの前に立ち、問題は 「parsimonious〔しみったれた、みすぼらしい〕」。生徒は「parsimoneus」と言ってしまい、失格。2番目がブルーノ。ブルーノがマイクの前に立つと、ビーの出場者から笑い声が起き、それが会場へと拡がる。ブルーノは、それに構わず天を見上げる(3枚目の写真)。異常に気付いた院長が振り返って壇上を見ると、院長の目には ドレスを着たブルーノが立っている。院長の指示で、力持ちの修道女がブルーノを引っ掴んで退場させる。
  
  
  

院長は、大問題なので、大嫌いなアンジェラを呼びつけ、天使姿のままのブルーノと一緒に、院長室で詰問する。院長がアンジェラに 「あなたの息子は、ドレスなんか着て 一体何してるの?!」と訊くと、ブルーノが 「僕は 自分らしさを表現してるんだ!」と強く言い(1枚目の写真)、「それに、これはドレスじゃなくて、聖職者のガウンだよ」と反論する。「お黙り」。ブルーノは、「黙るもんか」と言って立ち上がると、「僕は、これからも、自分らしさを表現し続けるからね! 天使たちは このドレスで僕にパワーを与えてくれるんだ!」と主張する(2枚目の写真)。そして、男性のドレス着用についての例示が始まる。①スコットランドの男性のキルト〔スカート〕、②エジプトの男性のシェンティ〔腰布〕、③チベットのラマ僧の服〔はかま〕、④古代ギリシャの男性のキトン、❺シャム王のドレス〔ズボンなので間違い〕、⑥中国の皇帝のパオ〔ローブ〕、⑦イスラム教徒の男性のトーベ服〔ローブ〕、❽ハンガリーのカウボーイ・チコスの伝統衣装〔馬に乗る時両脚が分かれるのでドレスではない〕、❾アフリカの男性〔範囲が広すぎて特定できない〕、⑩天使〔絵画に描かれた時代によって異なる〕、⑪教皇のスータン〔ドレスとローブの中間〕。3枚目の写真は、「ローマ教皇もドレスを着てる!」と叫んだ時のもの。ブルーノは さらに 「教皇様に電話して、スータンを着るなって言うの?」と訊き、アンジェラも 「そうよね。教皇はドレスを着てるわ」と賛成する。
  
  
  

頭の固い院長は、「2人とも、何て哀れなの」と侮辱し、ブルーノに座るように命じる。そして、まず、アンジェラに向かって、「私は、ディノが あんたを捨てて “あばずれ” とくっついたのは、あんたが太ったからだと思ってた。だけど、そうじゃない。あんたは、太ってるだけじゃなく、狂ってるのよ。2人ともね!」と、激しく罵る。アンジェラが 「彼は、今でも私を愛してるわ」と 認識不足の反論をすると、院長は 「違うわよ。彼らは婚約してる」と言い、その言葉にアンジェラはショックを受ける。院長は、次にブルーノに向かって 「地区大会に行く時は、スーツにネクタイで行くのよ? 分かった?!」と言う。アンジェラは 「彼、婚約したの?」と院長に訊き、ブルーノは 「僕、地区大会に行くの?」とびっくりする(3枚目の写真)〔ブルーノは天使姿のままなので 出場はしていない⇒出場者の残り8人が全員不正解だった?〕。院長は、アンジェラの質問は無視し、ブルーノに対し、「教皇様の所まで行きなさい。もし、ドレスを着て出場したら、お尻をもぎ取ってやるからね!」と強く脅す。
  
  

2人が学校のゲートを通って外の通りに出ると、「逃がすな!」「ホモ!」という言葉と同時に、たくさんの生卵が飛んでくる(1枚目の写真)。2人が車まで行くと、生卵は車に向かって投げ付けられる。2人は車に逃げ込み(2枚目の写真)、フロントウィンドウを閉める。すると、マザラッティを筆頭に悪ガキどもが生卵を持って車までやって来ると、生卵を直接ウィンドウに叩きつけ、両手でガラスに擦りつける。ブルーノは 「ママ、お願い、早く!」と叫ぶ(3枚目の写真)。車は動き出すが、マザラッティは屋根に上ると、フロントガラスにも生卵を叩きつけ、手で拡げ 「この、ホモ野郎!」と嘲る。アンジェラは、1回目の時のように、悪ガキどもを制裁する余裕などなく、エンジンをかけると必死に逃げ出す。
  
  
  

警察署では、生卵に追われたキャデラックの逃走を、暴走と勘違いした放送が流れ、アンジェラの家の前にはパトカーが止まっている。しかし、警官が中に入ってみると、そこにいたのは、悪ガキどもに脅されて怯え切った哀れな女性(1枚目の写真)。女性巡査が、コップに入れた水を勧めても、アンジェラは 「ディノはどこ? 私の夫はどこ? ディノにいて欲しいの!」の一点張り。男性警官も 「彼は来たくないと言ってる。アンジェラ落ち着いて。俺だって、来てくれと言ったんだ」と、必死になだめる。それでも アンジェラは、「夫を連れてきて」と、何度も繰り返す。それを階段の上から見ているブルーノの顔は、卵と涙で濡れている(2枚目の写真)。この直後、アンジェラは発作を起こし、気を失って女性巡査の上に倒れかかる(3枚目の写真)。それを見たブルーノは、「ママ!!」と叫ぶ。
  
  
  

搬送された病院は、ブルーノの時と同じ。担当医も同じ。待合室に集まった4人は、アンジェラがブルーノに替わった以外は同じ。ブルーノが祖母のヘレンと一緒に座っていると、反対側の長椅子に座った “あばずれ” が、天使の衣装なのに運動靴を履いているブルーノを見て、「ママは、ドレスに合った靴を買ってくれなかったの?」と不適切で意地悪な質問をし、ディノに 「黙ってろ」と注意される。しばらくすると、医師がやってきて、「バタグリアさん?」と、ディノに声をかける。「彼女は、軽い心臓発作を起こしています」(1枚目の写真)「命に別状はありませんが、一週間ほど入院することになります」。それを聞いたブルーノは、自分がどうなるか心配になる(2枚目の写真)。最初に口を開いたのは、また、“あばずれ”。「あの子、どうするの?」。天使姿のブルーノは “受け入れて” という顔で父を見る。しかし、ディノは 「行くぞ。もううんざりだ〔I've had enough〕」と言い、立ち上がる。それを聞いたヘレンもすぐに立ち上がり、息子のディノに 「いったいどこに行くつもり?」と訊く。「家だ」。「あの子は?」(3枚目の写真)「あの子には、父親が必要よ」。ディノは、子供の頃、ヘレンに全く理解してもらえなかった辛い経験があるので、「小さな男の子に何が必要なのか、あんたに分かるのか?」と貶すと、邪魔になるヘレンを押しのけて、“あばずれ” と一緒に出て行く。ブルーノは、それまでずっと横に立っていた医師に、「お願い ママに会わせて」と頼むが、明日ならいいかもと断られる。ブルーノをここに一人で残してはおけないので、ヘレンは 仕方なくブルーノを自分の家に連れていく。
  
  
  

場面は、ヘレンの車の中(1枚目の写真)。ヘレンは、ブルーノの頭からティアラを取ると、チラと見て投げて返し、「家に帰ったら、真っ先に そのドレスを脱がせるからね」と 冷たく言う。車が、墓地の前の一時停止標識の前で停まると、ブルーノは助手席のドアを開けて逃げ出す(2枚目の写真)。ブルーノは、そのまま墓地の中に入って行き、ヘレンもすぐに後を追う。ヘレンは、差を詰めながら、「捕まった時には 覚悟しな。一人前の男にしてやる!」と怒鳴る。そして、捕まえると、逃げられないよう 倒れ込んで絞めつける(3枚目の写真)。
  
  
  

ヘレンは、ブルーノを家に連れ込むと、天使の衣装を脱がせ、青いカットクロスを掛けると(1枚目の写真)、理容革砥で剃刀を研ぎながら、かつての自分は理髪店の店主だったと腕を自慢する。そして、男の子らしい髪型にすると、ベッドに連れて行き、「明日の学校用に、新品のYシャツとズボンを用意したわ」と言って、ベッドの上に置く。「僕、あした学校に行くの?」。「もちろんでしょ。あんたが、どれだけ多くの言葉を知っていようが、そんなことはどうだっていい。学ぶことはいっぱいあるわ。ひとかどの人間にならないと〔make something of yourself〕」(2枚目の写真)。そして、最後に、「朝になったら、朝食はテーブルの上よ。放課後会いましょ」と言うので、ヘレンは早朝からどこかに出かけることが分かる。その先、一瞬だが、ブルーノが取り上げられた天使の衣装と、カツラを持ってどこかに行く短いシーンが入る〔恐らく翌朝〕
  
  

ヘレンが家に戻ると、ブルーノがいない。そこで、“逃げた少年” を捜しにでかける。最初に行ったところはアンジェラの家だが、映画にその場面はない。ヘレンが次に行ったのは、息子が務める警察署。ヘレンがロッカールームに捜しに行くと、ディノはカセットでオペラを聴いている。ディノに、「ここで何してる?」と冷たく訊かれたヘレンは、「あんたの子が、いなくなったの。アンジェラの家にも、私の家にもいない。あんたなら知ってるかもと思って」。「女物のブティックでも捜せよ」。「生意気言うのは止めなさい。助けが要るの」。「なんで俺が?」。「あんたの息子でしょ」。「あいつはホモだ!!」(1枚目の写真)「情けない なよなよしたホモ野郎だ! 俺と同じさ。覚えてるか?」〔彼は、子供の頃からオペラが好きだったので、厳しいヘレンにホモ扱いされて苦しんだ。だから、ヘレンを憎んでいる〕「自分で見つけるんだな」〔こんなにブルーノに厳しいのは、オペラ好きとドレス好きは、まるで別物で、自分とは異次元のクソチビだと思う偏見がある〕。ヘレンが次に行ったのは、アンジェラの病室。ブルーノは、この日、アンジェラの病室にも来なかった。そして、「悲しい時には、あの子 どこに行くの?」の質問に、アンジェラは 「家」と答える。ヘレンが出て行くと、アンジェラは、食事の皿にあった大きなケーキをゴミ箱に捨てる。そして、壁に掛けてあったイエスと十二使徒の絵を見つめる(2枚目の写真、矢印は絵、トレイの皿にケーキはない)。ヘレンが最後に行ったのは学校。そこでは、マザラッティと手下数人が、小さな生徒を虐めている。そこに割り込んだヘレンは、小さな少年を逃がし、残った不良どもに、今日、ブルーノを見たかと訊くと、マザラッティが 「何か関係があるんか、男女」と生意気な口を聞く。怒ったヘレンは、マザラッティを乱暴に掴むと、すぐ後ろにあった外灯の出っ張りに制服を引っかけて吊るし、「お聞き、この独り善がりのぼんくら、私が訊いてるんだよ!」と怒鳴る(3枚目の写真、矢印は鉄の輪)。「見てないよ」。ヘレンが、他の3人に、「次は誰だい?!」と言うと、3人は逃げて行き、マザラッティは吊るされたまま放置される。
  
  
  

夜になり、外は土砂降り。ヘレンは、昨日、ブルーノが車から逃げ出して墓地に入って行ったことを思い出し〔普通の子なら、わざわざ柵を開けて墓地に入らず、そのまま通りを逃げて行く〕、懐中電灯を持って墓地内に捜しに行く。すると、横長の墓碑の上に天使がうつ伏せになっている墓まで来た時、羽の向こう白い布が見える(1枚目の写真、矢印)。ヘレンが後ろに回って、ヘレンが 「ねえ、坊や!」と呼びかけると、天使の衣装にカツラを被ったブルーノが姿を現す(2枚目の写真)。「家に帰るわよ」。
  
  

食卓テーブルに座らされたブルーノは、「なぜ女の子になりたいの?」と訊かれる。ブルーノは、「女の子には なりたくない」と答える(1枚目の写真)〔トランスジェンダーではない〕。「なら、何になりたいの?」。「etymologist〔語源学者〕」。「それは一体何なの?」。「歴史文化的な知識に基づいて言葉の由来を調べる科学者」。「なぜ、こんなドレスを着たがるの?」。「これドレスじゃない、聖衣だよ」(2枚目の写真)「僕に力を与えてくれるんだ」。「どんな力?」。「お祖母ちゃんみたいな力。達者な〔mean〕力」〔meanは99%、意地悪な、卑劣なという悪い意味なので、ヘレンもそう解釈したのかも〕。「でもね、あんたがこうした聖衣を着てると、そのうち殺されちゃうかも」。「構わないよ」。「そうなの?」。「ぜんぜん。死ぬのは怖くない」。「ないの?」。「ないよ」。「気に入った。ドレスを着たちっちゃな男の子にしちゃ、大した肝っ玉があるのね」。「まあね」。「ウィスキー飲みたい?」。「OK」。ヘレンはグラスを2つ取り出し、1つには並々と、1つにはちょっぴり入れて、乾杯する(3枚目の写真、矢印)。そのあとで、ヘレンがタバコを吸ってもいいかと訊くと、シャクニアに言ったと同じように、「だけど、魂が黒くなっちゃうよ」と言い、ヘレンは吸うのをやめる。
  
  
  

ヘレンは、「あんたが これからもドレスを着続けるなら、自衛手段を教えてあげないと」と言い、部屋の中にロープで四角の空間を作り、ボクシング・ジムのようにする。そして、2人ともグローブをはめると、ヘレンは 「いいこと、私があんたを殴る前に、あんたは私を殴るのよ」と 教える(1枚目の写真)。しかし、ブルーノが手を下げたまま 突っ立っているだけなので、「両方の拳を構えて!」と言うと、その瞬間にブルーノの右手がヘレンの頬を猛烈な勢いで叩き、ヘレンは床に倒れる(2枚目の写真)〔思ったより ずっと強い〕
  
  

ブルーノとシャニクアは、ヘレンの車で 退院するアンジェラを迎えに行く。その時、シャクニアは 「ママは亡くなって、パパはアフガニスタンにいます」と ブルーノに言った説明とは、父の部分が違う〔父は、恐らく、妻が死んだ後、育児を放棄して出奔〕。そのあと、一同4人に、シャニクアの兄も加わり、新しいドレス作りが始まる(1枚目の写真)。ここからが、冒頭の解説で述べた “謎の変化”。聖衣は 「僕に力を与えてくれるんだ」というフレーズには説得力があるのだが、なぜ、いきなりダイアナ・ロス〔黒人のポップ・ソウルの女性歌手〕なのだろう? ブルーノは、「キラキラすればするほど華やかになるね」と言い(2枚目の写真)、ヘレンは、カツラを派手に膨らませる。急に方針が変わっただけでなく、性格まで変わってしまう。
  
  

そして、いよいよ地区大会。会場では、修道女が、「第33回全米カトリック・スペリング選手権のマンハッタン大会へようこそ」と挨拶する(1枚目の写真)〔聖アントニー校では、なぜ第58回だったのだろう?〕。しばらくすると、ディノも会場に入ってくる。そして、「第79地区から来た少年少女の出場者に温かい拍手を」の声とともに、正面の舞台に普段着の子供達が入って来る。全員がイスに座るが、1つだけ空いている。すると、会場の後ろのドアから、ダイアナ・ロス風に、腕を濃いピンクのマラブーで飾ったブルーノが入って来る(2枚目の写真)。それを見たディノは、会場から出て行こうとするが、ヘレンは、「私があんたにしたことを、くり返さないで」「彼は、歌いたいの」〔ディノも、オペラを聴くだけでなく、歌いたがった〕と引き留める。その時、舞台上では、修道女の 「一体全体何のつもりなの?!」という強い言葉と同時に、カツラが奪われ、2人がかりでブルーノの体を掴んで、運び出そうとしていた。ヘレンはすぐに助けに向かい、シャニクアの2丁拳銃を撃ち鳴らし、銃口を修道女に向けて、「放しなさい」と命令する。修道女が凍り付いていると、ヘレンは舞台に上がり、「放さないなら、祈り始めた方がいいわよ」と脅す(3枚目の写真)。修道女はブルーノを床に降ろす。ヘレンは、今度は観客席に向かって、「知らない人に言っておきますが、これは小さな男の子、ドレスを着た男の子です。受け入れ難い人は、出て行って下さい」と言う。出て行ったのは、ディノ1人。
  
  
  

ブルーノは、修道女に、「カツラを返してもらえますか?」と頼み、ヘレンが銃を向けて 「髪を渡して」と指示。カツラを被せてもらったブルーノは、空いていた席に座る(1枚目の写真)「予想していなかった時に 奇跡は起きる。みんな理解してくれた」。映画は、肝心のスペリング・ビーは一切映さず、次のシーンは小さな優勝トロフィーを持って会場から出て来たブルーノを取り囲む報道陣(2枚目の写真)。ヘレンは、記者の質問には応じさせず、写真を1枚だけ撮ることを許可する。そして、翌朝の新聞には、「男の子、ドレスを着て地区大会に優勝」の記事が載る(3枚目の写真)。
  
  
  

次の大会に向けた新しいドレス作り。ヘレンは、「王女様のようにしないと」と言い、ブルーノはドレスに使う生地を体に巻き付ける(1枚目の写真)。ヘレンは王冠を被せると、「ビーの女王ブルーノ」と呼び、それを聞いたアンジェラとシャニクアは大喜び。そして、今度は、会場での経緯すらなく、いきなり、州大会の優勝トロフィーを持ったブルーノが会場から出て来る(2枚目の写真)。ブルーノがびっくりした顔をするのは、前より遥かに報道陣が増えたから。
  
  

報道陣の要求は、前回のように簡単ではない。「カメラの方を見て」「お父さんはどこ?」「誰がドレスを作ってるの?」「もう有名人ね」。ヘレンは、質問はすべて無視し、群がる報道陣をかき分けて進むが、報道陣も必死なので、そんなに簡単に通してはくれない。そこで、インタビューを受けることに。TVの女性レポーターは、「私は、8歳のブルーノ・バタグリア君と一緒に立っています。異性装〔性別とは違う装い〕のスペリング・ビーの優勝者。クイーンのようなドレスを着て、クイーン〔マンハッタンのイースト川を挟んだ東側の行政区〕出身で、小さなクイーン〔ホモ〕だと言う人もいる」と言い、ここで、ヘレンからストップがかかる。レポーターは紹介を中止し、「ブルーノ君、話してくれないかしら。ドレスを着たいなと思ったきっかけは?」と質問する。「夢で見たから」。「どんな夢か話してもらえる?」。「ううん」。別の女性記者が、アンジェラに、「バタグリアさん、女装された息子さんを見て、どう思われます?」。「すごくきれいだわ」。ヘレンは 「あなたよりも ずっとね」と口を挟み、シャニクアの兄が笑う。3人目の女性記者は、ブルーノに、「ドレスを着続けるとどうなるか、怖くないですか?」と質問する。「ううん」。「もし負けたら? それでもドレスを着続けますか?」。「僕は負けないよ」(1枚目の写真)。「お父さんはどこに?」。ヘレンは、すぐに、「その種の質問はダメ。プライバシーよ」と割り込む。最初のレポーター:「予定されている抗議活動については、どうですか? Religious right〔キリスト教を信仰する保守的勢力の総称〕は あなたがたを阻止するために人間のバリケードを作ると言っていますが」。ヘレン:「誰も私たちを止められないわ」。その時、横の芝生で、マザラッティが、「おい。ブルーノ、お前ゲイか?」と言って笑う。怒ったブルーノの顔を見たヘレンは、トロフィーを預かると、「教えた通りに、あのぼんくらをやっつけておいで」と言う。ブルーノはマザラッティ目がけて走って行くと、何度も体をぶつけ合い、最後は、取っ組み合いになり、見事にマザラッティを投げ飛ばす(2枚目の写真)。そして、この時の写真は、新聞の一面を飾る(3枚目の写真)。
  
  
  

そして、いよいよ本番。ブルーノたち4人は 飛行機でワシントンまで飛ぶ。会場の前では、Religious rightの男性たちが、プラカードを持って、「ドレスを着て、地獄に落ちろ!」と叫んでいたが、一方では、女性達が 「ブルーノはブルーノらしく」「ブルーノ、サイコー」などのプラードを持って静かに行進している(1枚目の写真、中央の矢印が反対派、右の矢印が賛成派)。そして、ブルーノたち4人は、安全を確保するため、警官6名に守られて会場に到着する(2枚目の写真)。今回の衣装は、シャニクアのカウボーイ的衣装を派手にしたもの〔天使とは程遠い こんな奇妙な服を着ることに何の意味があるのか さっぱり分からない⇒悪いのは、脚本家か監督か?〕。そこに主催者側の修道女2人が笑顔で現れ、「みなさん、ようこそ」と歓迎する。年長の修道女が、「ブルーノ、あなたを待っていたのよ」と声をかけると、ブルーノも、「ありがとう」と笑顔で応じる(3枚目の写真)。ここで、ブルーノと3人は別れる。3人が観客席に入って行くと、拍手で迎えられる。聖アントニー校も 院長と3人の修道女が応援に駆けつけているが、3人が立ち上がって拍手すると、院長は座るよう命じる。
  
  
  

一方、ブルーノは、他の出場者と一緒に、客席との間に設けられた幕の内側で待たされる。他の出場者は一列に並んでいるのに、ブルーノは幕の切れ目まで行き、そっと客席を覗いてみる。すると、父の姿を発見し、ブルーノは、ワシントンまで来てくれたことに心を打たれ(1・2枚目の写真)、涙ぐむ。会場では、司会の修道女が、「今日は全米から20名のトップ・スペラーが出場します」と告げる〔聖アントニーでは、各州の代表と言っていたので、なぜ50名でなく20名なのか?〕。司会のスピーチは、「出場者の皆さんを心から歓迎します」で終わり(3枚目の写真)、ブルーノは涙を拭って、列に戻る。
  
  
  

この最後の決戦で、ようやくスペリング・ビーらしい場面が幾つかあるが、ブルーノの卓越さを示すのが、「Lederhosen」。普通は、出場者が、意味、使用例、語源、品詞を訊くのだが、この時は、司会者が 「意味が必要ですか?」と尋ねると、「ババリア地方特有の膝丈の革ズボン?」と、ブルーノはちゃんと知っている。ブルーノと最後まで争ったのは年上の女生徒。1枚目の写真は、その女生徒が間違えた後の最後の登場場面。優勝するかもしれないので、最前列にカメラマンが並んでいるのは別として、注目点は矢印のマイクの位置。女生徒が如何に背が高かったか〔年上だったか〕がよく分かる。2枚目の写真は、ブルーノが司会者と対話する場面だが、その時のマイクの位置(矢印)を比べると、身長の違いはかなりもの。ブルーノに課された最後の問題は 「Melanocomous」。意味は、「暗い色、もしくは、黒色の髪の」。使用例は、「グリーンランドからポリネシアまで、私たちは、Melanocomousの人々にしか出会いませんでした」。語源は、「ギリシャ語」。品詞は、「形容詞」。ブルーノは すべて尋ねたので、この単語が彼の知らない言葉だった可能性は高い。ブルーノは、「M-E-L-A-N」までゆっくりと口ずさむと、そこで迷う。「どこで中断したか、教えてもらえますか?」と尋ねると、「最初からやり直すことはできます」と言われる。そこで、ブルーノは、最初からやり直す方を選択し〔ここで、いたたまれなくなったディノは、会場から逃げ出す〕、天を見上げる。すると、彼の幻覚かもしれないが、髪が風で揺れる(3枚目の写真)。そして、啓示を受けたブルーノは、一気に。「M-E-L-A-N-O-C-O-M-O-U-S」と言い、正解。トロフィーを受け取ったブルーノをカメラが取り囲む(4枚目の写真、矢印はトロフィー)。
  
  
  
  

場面は、ニューヨークのジョン・F・ケネディ国際空港〔天井が低過ぎるので、もう少し空港らしい場所で撮影すべき〕。男の子らしい背広姿に、天使の人形を持ったブルーノが、ローマまで一緒に行くアンジェラと、見送りに来たヘレンとシャニクアとその兄と一緒に歩いている(1枚目の写真、シャニクアはブルーノの真後ろの赤いカウボーイハット)。このシーンの後に、全く違う別れがある。まず、シャニクアとの別れ(2枚目の写真)。ブルーノにとってシャニクアは心のすべて共有できる友だ。次がヘレンとの別れ(3枚目の写真)。そこには、以前は嫌われていた祖母から100%信頼されていることへの誇りと喜びがある。このあとで、シャニクアは赤いカウボーイハットをブルーノにプレゼントし、そのお返しに、ブルーノは大事にしてきた天使の人形をシャニクアにプレゼントする。そして、もう一度2人が抱き合った時…
  
  
  

ブルーノは、記者連中の後ろに父がいるのに気付く。彼は、記者連中に向かって、「パパと2人だけにしてくれない?」と頼む。そして、被っていたカウボーイハットを脱ぐと、父に向かって手を差し出す(1枚目の写真、矢印は帽子)。父は、その手を握ると、床に片膝をついて座り、目の高さを合わせると、「お前を誇りに思うぞって言いたくて」と、面と向かって初めて褒める。ブルーノは 「ありがとう」と言うが(2枚目の写真)、父の方も 「ありがとう」と言葉を返す。そして、2人は抱き合うが、この時の、形容し難いブルーノの顔が一番素敵(3枚目の写真)。父の最後の言葉は、「お前が戻って来る時、俺はここで待っている」。2人の未来を象徴する言葉だが、アンジェラと復縁するかどうかは不明。
  
  
  

バチカンまで行ったブルーノは、一対一で教皇と打ち解けた時間を過ごす〔ロケ地は、アメリカのどこか〕。このあと、エンドクレジットの最後まで、映画の冒頭と同じように、単語と その意味がブルーノによって語られる。「恩寵、声、美、脂肪、友、天国、両親、犠牲者、修道女、奇妙な、忌まわしい、美徳、優越、逸脱する、苦境、教皇、唯一の、母、倒錯者」。冒頭に比べて多いので、関連付けるのは難しい。「倒錯者」には、長い説明がついている。「奇妙な逸脱の一例として挙げられる 普通でない物、動物、あるいは、人。突然で、明らかに原因不明の事象の変化や転換。無意識の勇気や勇敢さを持った人」。映画の最後は3つの単語。「反逆者、驚異、天使」。これは 「驚異反逆者天使のブルーノ」と言いたいのか?
  
  

   の先頭に戻る              の先頭に戻る
  アメリカ の先頭に戻る          2000年代前半 の先頭に戻る