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Jesus Henry Christ ヘンリー・アンド・ザ・ファミリー

アメリカ映画 (2012)

5人兄妹の1人として生まれたパトリシアが10歳になった時、立て続けに、母、3人の兄を亡くし、残る1人の兄も戦争忌避で逃げ出し、彼女は、癖のある父のスタンを1人で面倒みなくてはならなくなる。パトリシアは、そのため男嫌いになってしまい、突然赤ちゃんが欲しくなった時に、スタンの協力で精子バンクに高額の費用を払って、試験管ベイビーを産む。それがヘンリー。ヘンリーは、生まれた時から見たものすべてを記憶して絶対に忘れないという天才児で、それが、幼稚園を追い出される原因にもなり、10歳の時に、飛び級で入っていた中学校も退学になる。ヘンリーが生まれてまだ9ヶ月の時に問題を起こしたスタンは 老人ホームに入っていたが、退学になったヘンリーに重大な秘密を明かす。それは、これまでパトリックが口を濁して教えなかったヘンリーの誕生の秘密。スタンは、ヘンリーが試験管ベイビーだったことだけでなく、賄賂を使って、精子のドナーの情報に限りなく近い、ヘンリーの異母姉の名前を教える。その12歳の異母姉オードリーは、父の大学教授オハラが、娘を題材にして一種のレスビアンの暴露本を出版してしまったので、学校中の笑い者になり、父を激しく怨む。そこに突然現れたヘンリーは、オハラにとって、新たな魅力的研究素材となる。しかし、ヘンリーが、自分の精子から生まれた子だと分かると、オハラとオードリーの家族に、事態を一変させる衝撃を与える。オハラにとっては、娘に対する自分の行いを反省するきっかけとなり、オードリーにとっては ふざけ合うことのできる唯一の友達ができる。こうして、このコメディはハッピーエンドに終わるのだが、あらすじの最後で指摘するように、看過できない重大なミスが平然と存在する失態には、呆れる他はない。映画の中で、時代が常に前後しているので、誤解が誤解を生み、誰もそれに気付かなかったとしか思えない。

映画の中で、「Jesus H. Christ」という表現が何度も出て来る。この「H.」が「Henry」になるのは、映画のタイトルと、ヘンリーの異母姉オードリーが映画の最後に そう書いてみせるだけなので、ここでは、そもそも「Jesus H. Christ」とは何かについて、1つの説を紹介しよう。これは、現在、マサチューセッツ州のブランダイス大学の修士の学生のSpencer McDanielが唱えている説。彼女は、まず、イエス・キリストの名前の由来から語り始める。イエスは、初期のヘブライ語の「יְהוֹשֻׁעַ (y'hoshuaʿ)」の短縮形「יֵשׁוּעַ (yēšōă')」が、古代ギリシャ語で「Ἰησοῦς (Iēsoũs)」となり、それがラテン語化されて「Iesus」となったもの。この「yēšōă'」は、特別なものではなく、AD1世紀初頭のユダヤとガリラヤで最も一般的な名前だった。キリストは、イエスの姓であると考えられがちだが、名前ではなく称号だった。ヘブライ語の「מָשִׁיחַ (māšîaḥ)」が語源で、古代ギリシャ語で「神の油そそがれし者」を意味するΧριστός(クリストス)をラテン語化したもの。この「māšîaḥ」という称も、古代においては「神の油そそがれし者」なら誰にでも使われるものだった。そして、イエスを現わすモノグラム(組み合わせ文字)の1つに、右のようなものがある。これは古代ギリシャ語の「Ἰησοῦς」の最初の 3 文字を取ったもの(ηの大文字はH、σの大文字Σは三日月形のシグマCで代用される。つまり、「IHC」)。それを、19世紀の初頭に、ギリシャ語のアルファベットに無知なアメリカ人が「JHC」と読んでしまい、JはJesus、CはChristだろうと思い、なら、「Jesus H. Christ」とは何だろうと、冗談の種になったものだと書かれている(https://www.quora.com/)。正しいかどうかは、他に、仮説が見つからないので判断できない。

主役のヘンリー役はジェイソン・スペヴァック(Jason Spevack)。カナダ出身。1997年7月4日生まれ。撮影は、2010年の6月5日~7月11日なので、撮影時は12-13歳。映画の設定の10歳よりかなり年上だが、子供っぽい顔なので10歳にも見えなくはない。映画やTVへの出演は数多く、これが何と30作目の出演。演技は手慣れているが、撮影監督が顔のクローズアップを撮らないタイプなので、このサイトの4種類のリストに使う映像がなくて困るほど。この子役の一番の問題点は、IQ310の天才児には全く見えないこと。IQがこれほど高くなくても、秀才には特有の雰囲気がある。『ものすごくうるさくて、ありえないほど近い』(2011)のトマス・ホーン(Thomas Horn)のように。そういう意味ではキャスティングの失敗と言える。

あらすじ

映画の冒頭、この映画の主人公のヘンリーと母パトリシアの間の短い会話が入る。パトリシア:「死んでも、私をママと呼ばないの? 一度くらい? どうなの?」。ヘンリー:「みんな、パトリシアと呼んでるよ」。「あなたは 『みんな』じゃなくて、私の息子なのよ」。「あなたは、僕のパトリシアだ」。そして、パトリシアはヘンリーを抱き締める。そして、ヘンリーの独白:「僕には写真記憶があると、みんな思ってる。でも、それは正確じゃない。僕のは、それよりもビデオ・カメラに近い。見たものをすべて記録し、理由は分からないが、それをずっと覚えてるんだ」。そして、アルバムが出され、その表紙には、映画のタイトル『イエス・ヘンリー・キリスト』が書かれている。そして表示される1枚の写真。ヘンリーが生まれるかなり前、パトリシアが子供だった頃の家族の集合写真だ(1枚目の写真)。一番左がパトリシアの母、そこから右へ彼女の兄が4人(最初に生まれたビリー、次が双子、そして、なぜか金髪のジミー)、一番右が父のスタン。写真の中央下が少女時代のパトリシア。独白では、ジミーの後に男児が2人生まれて死亡し、パトリシアは予期せぬ妊娠の結果誕生した唯一の女の子と紹介される。次に、1973年と表示され、その日は、パトリシアの10歳の誕生日。バースデーケーキには10本のロウソクが一列に並べられ、母は 夫スタンの金のライターを借りて左から順に火を点けていく。そして、3つ目まで火を点けた時、袖に火が点いているのに気付く(2枚目の写真、矢印)。驚いたスタンが、目の前に置いてあったアルコール度数の高い酒の入ったコップの中身を妻に向かって浴びせると、妻は一気に燃え上がって焼死〔グラス半分で焼死するハズがないのでコメディ〕。最初の写真で、母の部分が焼けこげる(3枚目の写真)。

ヘンリーの独白:「祖母の死は、始まりに過ぎなかった」。パトリシアの双子の兄は、揃って警官になり、2人一緒にパトカーに乗っていて、助手席側Aが 「俺がスタスキーで、お前がハッチだ」〔映画『スタスキー&ハッチ』〕と運転席側Bに言うと、Bは 「勝手にやってろ。スタスキーはホモだ」と言い返す。それを聞いたAは、拳銃をBの額に向け、Bは銃を下ろせと言うが、その瞬間、タイヤが穴ぼこの水溜まりに入り、そのショックで銃が発砲、Bは死ぬが、アクセルを踏み込んだため、車はスピードを上げて正面の倉庫に激突して(1枚目の写真)Aも死亡、写真から双子が消える(2枚目の写真)。そして、一番若かったジミーは、エイズでひっそりと死に、写真から消える(3枚目の写真)。そして、最後に、臆病者の兄ビリーは18歳になったのでベトナム送りを避けるためカナダに逃亡しようとし、必死に止めるパトリシアのお願いを振り切って出て行く(4枚目の写真)〔10歳のパトリシアは、傲慢で、家事など何一つしない父スタンの面倒を一人で見なくてはいけなくなる〕

そして、10歳のパトリシアは、食卓の前でスパゲティをむさぼり食う父の前のテーブルに長い包丁を突き立て(1枚目の写真)、「自分が望む変化は自分で起こすわ」と、ガンジーの名言を引用して、決意を述べる。そして、1984年と表示される。パトリシアらしい女性が憲法のERA〔平等権利修正条項(女性の権利の平等)〕の批准を目指して、多くの女性に混じって「ERA」と叫んでいる一コマが示される〔批准は、法改正が必要な38州にわずか3州足りなくて失敗〕。表示は、すぐに1993年に変わり、パトリシアは「I Believe Anita Hill」〔セクハラ疑惑のアニタ・ヒルの証言却下に対する抗議運動〕のプラカードを掲げ、1997年には、「Keep Your Rosaries Off My Ovaries(ロザリオを私の卵巣に近づけるな)」(2枚目の写真)〔中絶の権利への支持とカトリック教会の中絶反対の立場への批判〕のプラカードを掲げている〔1973年の24年後なので、パトリシアは34歳になっているが、まだ未婚〕。1人の無知な黒人女性が、パトリシアを 「赤ちゃん殺し!」と罵ったのをきっかけに、パトリシアは、精子バンク〔ドナーは匿名〕を通じて精子を購入し、「Jesus H. Christ(イエス・H・キリスト)」と叫びながら、独身で赤ちゃんを産む(3枚目の写真)。

超音波検査で女の子だと聞かされていたパトリシアは、生まれたのが男の子だと知らされて、「壁紙もピンクにしたのに!」と医師に文句を言うが、赤ちゃんを抱くと怒りが収まる。そして、赤ちゃんに 「ハロー」と言うと、赤ちゃんも 「ハロー」と返すが、小声で明確な発音ではないので、その重大さにパトリシアは気付かない。次のシーンは生まれて9ヶ月。祖父のスタンが、すりおろしニンジンをスプーンに入れて、「ニンジンは、おいしいぞ」と言いながら食べてみて、あまりに不味いので吐き出す。すると、赤ちゃんが。はっきりした声で 「面白かった。もう一度やって」と言い、スタンとパトリシアはびっくりして顔を見合わせる。そして、言葉の悪いスタンは、「わしの孫は、“freak”(へんてこな)天才だ」と言い、それに対しパトリシアは 「誰にも言っちゃダよ」と言い、赤ちゃんは 「パトリシア、“freak” って何?」と訊く(1枚目の写真)。パトリシアは、「“freak” ってのは、特別な人って意味よ」と、スタンの失言を誤魔化す。このロクデナシのスタンは、すぐに仲間にこの話を洩らし、結果的にスタン、パトリシア、赤ちゃんの3人が車で老人ホームの前まで来た時、スタンが後部座席の赤ちゃんに見せた『アメリカの暴露』という新聞(?)の表紙には、ヘンリーの顔写真とともに、「遺伝子異常。それとも、ひゃー天才」「話す赤ちゃん」という派手な見出しが躍っている(2枚目の写真)。約束を平気で破る祖父に愛想が尽きたパトリシアは、「もう世話なんかしない」と宣言し、それを聞いたスタンは、「ここに残る」と言い出す。その時、車の横をグラマラスな看護婦が歩いていったので、スタンはすぐさま2人に別れを告げると、車から走って出て行くと、看護婦の後を追い、看護婦の手を取ってキスし(矢印)、頬を叩かれる。

次のシーンは、5歳のヘンリー。教師が、同じ年頃の幼児を対象に、「Y」の字を示し、何度も発音させ、「Yで始まる単語を教えてくれる子、いるかしら?」と訊く。すぐに手を上げたのはヘンリー。今までも生意気な態度で嫌われていたらしく、教師は、諦めた顔で 「ヘンリー」と言う。ヘンリーは、「なぜ(Why)?」と訊く。YでなくWから始まる単語だったので、教師は間違いを指摘し、他の子供達も 「このバカ」、「変人」と悪口を言う。ヘンリーは、「僕は、『なぜ』 こんな下らないことやってるの、という意味で言ったんだ」と言い(1枚目の写真)、怒った教師はヘンリーを停学処分にする。幼稚園の前で、迎えに来たパトリシアは、小学校に入学させることにする。「早熟な子は罰するんじゃなく、先に進ませないと!」(2枚目の写真)。

次のシーンは、10歳のヘンリー。場所は、カトリック系の中学校。授業参観の日で、教室の一番後ろには、スタンが立っている。修道女は、「まだ、お話しして頂いていないお父さんは? ヘンリーはどう?」と訊く。ヘンリーは、「父さんは謝っていました、シスター。でも、世界を救うために出かけて不在なんです」と嘘をつき、「でも、代わりに僕の…」と、スタンを紹介しようとすると、意地悪な黒人の生徒が、「ショックだな。それ誰だ? ワンダーウーマンか? 透明人間に違いない。誰だって、お前にパパがいないことぐらい知ってるぞ」と言う。ヘンリーは、「少なくとも、養子じゃないぞ、マルカム」と、マルカムが養子であることを指摘する(1枚目の写真)。怒ったマルカムは、「俺が養子だと!」と怒鳴る(2枚目の写真、矢印は、スタンと黒人の養父)。「君の父さんが尋常性白斑〔皮膚の色素の一部分が抜けて全身に広がっていく自己免疫疾患〕じゃない限り、そうさ」。「何だって?」。「マイケル・ジャクソンの病気さ」。黒人は、「俺は養子じゃない」と言うと、後ろに立っている奇抜な格好の白人男性に向かって、「そうだろ、パパ?」と訊く。スタンは、さっそく 「鏡で見てみるがいい。君は黒人だ」と言う。すると、マルカムの父が、「黒人歴史月間(Black History Month)を2月にしたのは誰だ〔歴史学者カーター・G・ウッドソン〕? 1年で一番短い月を〔エイブラハム・リンカーンの誕生日が2月12日、フレデリック・ダグラス(元奴隷の奴隷制廃止運動家)の誕生日が2月14日なので〕? 白い悪魔だ〔カーター・G・ウッドソンの両親は元奴隷〕!」と、無知をさらけ出して怒鳴ると、隣にいたスタンに、「文句があるか?」と挑みかかる。スタンは 「どこかで会わなかったか〔Don't I know you〕?」と、後になって正しいと分かることを訊く。忘れっぽいバカは 「汚れた豚公なんかと関わったことなどない!」と言い、スタンに顔を引っ叩かれる。生徒達は、一斉に 「ケンカだ!」と煽り始め、スタンは、口だけのバカの腕をねじると、床に跪かせる。

その日、家に帰ったヘンリーは、タイプライターで長い文章を打ち始める。題名は、「Manifesto on the Nature of Truth(真実の本質に関する綱領)」。綱領の最初は、「みんな、目を覚ませ。君たちは、長いこと真実から目を逸らされてきた。イースターのウサギ〔子どもに贈り物を持って来る〕はいない。歯の妖精〔乳歯をコインやプレゼントに代えてくれる〕も、サンタクロースも。悪魔もいない。そして、神もいない」と、後にいくほど過激な表現が見られる。そして、この紙は、カトリック系の中学校の玄関に掲示される(1枚目の写真)。そして、「みんな嘘だ!」と言いながら、掲示したものと同じ紙を、生徒達にも配る。「人間は 真実が見えると信じて自分をごまかしているので、嘘がまかり通る」とも主張する。結果は、学校の校長を務める神父の部屋に、パトリシアと一緒に呼ばれる。神父は、「君は神を信じないのか?」と質問する。「疑っています」(2枚目の写真)〔顔が汚れている理由は、あとで分かる〕。「なら、なぜ君はここにいる?」。ヘンリーが 「なぜ僕たちがここに? 僕たちはなぜ存在するのですか?」と話を一般化する。神父は、質問は、そもそも なぜヘンリーがカトリックの学校にいるのかだと、質問の要点を突く。そして、ヘンリーの異端の信仰が学校の食堂で引き起こした大騒動に対してパトリシアを非難する〔怒った生徒達が、ヘンリーに食べ物をぶつけた。それでヘンリーの顔が汚れている〕。車に戻ったパトリシアは、「全科目Aなのに、全生徒の前での謝罪か退学のどちらかですって? 選択の余地などある? 退学よ」と決めつける(3枚目の写真)。

その意気込みに対し、ヘンリーは、「僕の父さん、誰?」と(1枚目の写真)、パトリシアにとっては困った質問をする。答えたくないので、「そんなことは重要なことじゃないの」と誤魔化す。「あなたには、私がいるじゃない。何よりもあなたを愛している母親が」。「でも、誰にでも父親はいるよ」。「なぜ、他の子と一緒になりたいの? あなたは、他の子とは違う。すごく特別なの」。「僕のこと、“freak” って言ったよね」。「あなたは “freak”(へんてこ)じゃないわ」。「パトリシアが言ったんだよ、『“freak” ってのは、特別な人って意味よ』って」。「覚えてないわ」。「僕は、ちゃんと覚えてる。何もかもね」。パトリシアは、話題を逸らそうと、「誕生日おめでとう」と言い、スタンからのプレゼントだと言って紙箱を渡す。家に帰ったヘンリーは、自分の部屋に行くと、さっそく箱から中身を取り出す。その中には、新聞紙にくるまれた別の紙箱が入っていて、箱の上には、「まず、読め! そしたら、燃やせ!」と書かれた付箋紙が貼ってあった。ヘンリーが、「まず、読め!」を無視して箱を開けると、中にはスタンが息子に継がせたいと願っていた金のライターが入っていた(2枚目の写真)〔窪んでいるのは、ヒッピーが銃でスタンを殺そうとした時、弾がライターに当たってスタンが死なずに済んだから〕。箱をくるんであった新聞は、生後9ヶ月のヘンリーに、老人ホームに入る直前にスタンが見せた暴露記事。一方、パトリシアは、10という数字の入ったバースデーケーキの2ヶ所に火を点けようとするが、過去の悲劇が邪魔して、火が点けられないでいる。そこに現れたヘンリーは、スタンの所に行くと言って、あっという間にいなくなる。そして、老人ホームに行くと、庭のベンチに座ってヘンリーと話し始める。そして、スタンがタバコを口にくわえ、ヘンリーがもらったライターを差し出すと、スタンは、老人ホームで覚えたスペイン語で話し始める〔全体の色調が黄色っぽく変わる〕。ヘンリーが、「そしたら、燃やせ!」を無視して持参した新聞を見せ、「ここに書いてあること、何なの?」と スペイン語で質問すると、スタンは、燃やさなかったことに驚き、周りを見回して、秘密を教えるように、「この中に真実がある」と言う。「何もかもが真実なんだ。そして、その真実とは、君は現代医学の奇跡なんだ」と、これまでパトリックが隠していた重要な情報を教える。

そして、話は10年と9ヶ月以上前に戻り、スタンとパトリシアは、精子バンクに行き、匿名のドナーの精子を購入し、それをパトリシアに受胎させる交渉をする。費用はすべてスタン持ち。受付に座っているのは、10年と9ヶ月後に、カトリックの中学校で、スタンと争うことになる黒人を自称する変な白人。スタンは小切手にサインする。日付は1997年9月4日。金額は14999.99ドル〔2020年の約24000ドル≒260万円〕。スタンは小切手を受付に渡すが、なかなか小切手から手を離さない(1枚目の写真、矢印)。「巧くいかなかったら、返金されるよな?」と念を押す。受付の男は、カウンターの下に書いてある 「NO REFUNDS / NO EXCEPTIONS(返金なし / 例外のなし)」の表示を指差し、小切手を奪い取る。パトリシアは、「ありがとう」と スタンに微笑みかける。受付の男は、延々と並ぶ引き出しの任意の場所まで梯子をずらして行くと(横20×縦8=160の引き出しのグループが、10以上見える)、梯子を一番上まで登り、そこから冷凍した精子を取り出す。ここで、現在に戻り、「2万ドル払った価値はあった」。そこに、パトリシアがバースデーケーキを持って、こっそり現れ、2人の話を盗み聞きしている〔パトリシアはほとんどスペイン語が分からない〕。「1万4999ドル99セントだって言ったよ」。「事を円滑に進めるために、知りたいことにお金が入り用になることがあるんだ」。そして、「賄賂」と表示され、“日付 2008年10月18日、金額 5000ドル1セント” の小切手が映る〔5000ドル1セントなのは、1997年に支払った14999.99ドルと合わせてぴったり2万ドルにするため〕。この時は、カトリックの中学校の授業参観でスタンがバカの顔を殴った後なので、受付の男の右目が黒く腫れている。スタンは暴力をふるったことに対し、「起訴しないでくれて感謝する。息子さんの前で、恥をかかせる気はなかった」と、養子ではなく息子と言って、相手の主張を認めたのかと思いきや、「あんたが本当に黒人だったら、(目の黒痣は)そんなに目立たなかったろうに」と、相手が白人であると釘を刺す。男は 「俺はホントに黒人だ」と主張した上で、「不渡りにならんだろうな?」と疑う。「保証する」。「白い悪魔の二枚舌は嘘だらけだ」。それを聞いたスタンが帰ろうとすると、相手は、小切手が換金できた後で、必要な情報は渡すと言って、スタンの小切手を受け取る(2枚目の写真、矢印)。男は、さらに、教えたのが俺だと誰にも言うなと念を押す〔スタンは、その約束を破ってヘンリーに話している〕。ここで、映画は現在に戻り、ヘンリーは、「僕の父親が分かったの?」と訊く。その言葉を木の陰からパトリシアが聞いている。「まあ… そうだな… パパまでは分からんかった。そこまでの金はなかった。だが、君の姉さんが誰かは分かった。異母姉だ」。「僕の異母姉が分かったの?」。「そうさ、彼女は12歳だ。名前は…」。

ここで、画面は切り替わり、全く別の一家が登場する。最初に印象的な形で現れたのが、ヘンリーの異母姉。彼女が中学の廊下を歩いて行くと、周りから一斉に 「Lesbo(レスビアンを軽蔑した用語)」が連呼される。それを一切無視し、無表情なオードリーが廊下の真ん中を歩いて行く(1枚目の写真)。オードリーは自分のロッカーの前まで来ると、そこには、彼女が 「Lesbo」とはやし立てられる原因となった、“オードリーの父が出版したばかりの本の表紙と裏表紙のコピーが一杯貼り付けてある(2枚目の写真)。その本の標題は、『Born Gay or Made That Way(生まれながらの同性愛か、それともそうなったのか)?』というもので、レスビアンの娘オードリーについて分析したもの。オードリーは、父が、自分のことをあからさまに世間に公表し、そのために全校生徒から からかわれる事態となったことに対し、怒り心頭。ロッカーに張られたコピーを、「大嫌い」と言いながら すべて破り捨てる。その頃、オードリーの父オハラ博士は、TVの番組に出ている。「あなたがお嬢さんにしたことは児童虐待ではないかと思っている人が大勢います」という厳しい問い掛けに対し、オハラ博士は、「私はジェンダーバイアス〔男女の役割について固定的な観念を持つこと〕や、人々を非人間化する固定観念の束縛がないように娘を育てようとしたのです」と弁解に追われる。そして、次のシーンでは、大学のそばの書店のショーウインドウに “話題の新作” として貼られていた本の表紙のポスター3枚を剥がし(3枚目の写真、矢印はオハラ)、本屋に置いてあった本をすべてカートに投げ込む。

5つのカートに山盛りに本を入れたオハラは、店員に、「これで全部だろうな?」と訊く(1枚目の写真)。店員は、ヘンリーが見ていた本を指差す。一方、パトリシアは、西英辞書を持ち出し、ヘンリーが最後の頃に話したスペイン語の単語の意味を調べている。そして、それを付箋紙に書いて、並べてみる。「you – found – my - father」。それを見て、パトリシアは(自分も知らないので)驚愕する。ここで、場面は本屋に戻り、オハラは、ヘンリーの前まで行くと、「その本、渡してくれるか?」と訊く。ヘンリーは、「もう呼んだよ」と言って渡す(2枚目の写真)。オハラは、「君がこれを本当に全部読んだのか?」と、冗談だと思って訊く。「見たり読んだりしたものは、頭に記録されるんだ。常に何でも覚えちゃう」。オハラが全く信じないと、ヘンリーは、本の一部を暗唱する。「異性愛か同性愛のどちらかを受け入れ可能な規範として選択することで、両親は子に特定の性的指向を助長することができるものと肯定的に仮定する。2ページ。第2段落」。それを聞いたオハラは、背を向けて本を開き、内容を確かめる。今のが、本の最初の方だったので、オハラが 「その他の不調の中でも、被験者は…」と読み始めると、ヘンリーがすぐに 「原因不明の眩暈恐怖症の強烈な感覚に悩まされている。目まいに対する恐怖は、しばしば悪心や嘔吐を引き起こす。142ページ」と続ける。オハラが 「第4段落」と言うと、ヘンリーは 「第3段落。142ページの最初の段楽は、前のページの続きだから」と言い、それに気付かなかったオハラがそれを確かめると、確かにその通り。これで、ヘンリーには、写真記憶のあることが納得できたので、そんなすごい子と会ったことがないオハラは、握手の手を差し出し、「スラヴキン・オハラ」と名乗る。ヘンリーも、「ヘンリー・ジェームズ・ハーマン」と言って、握手する(3枚目の写真、矢印は本が山積みになったカート)。

ヘンリーは、オハラの著書がカートに入っているのを見て、「何してるの?」と訊く。オハラは、「ゴミ出しを手伝ってくれないか?」とヘンリーに頼む。そこで、5台のカートを連結し、ヘンリーが前を持って方向を定め、オハラが後ろから押して本を家まで運んで行く(1枚目の写真、落ちた2冊はヘンリーが拾ってカートに戻す)。ヘンリーの目的は、スタンから聞いた異母姉に会うことだったので、オハラの家に着くと、「娘さん、家にいる?」と訊く。「オードリーなら学校だ。君は、学校に行かなくていいのか?」。「退学になった」。「どうして?」。「異端信仰」。次のシーンでは、プールに山積みにした本に、ガソリンを掛け、火を点けようとするがライターがない。そこで、ヘンリーがスタンのライターを貸し、オハラは、どうして10歳の子がライターを持っているのかは問わず、それを使って本に火を点け、一気に燃え上がる(2枚目の写真)。ヘンリーは 「オハラ博士、気が楽になった?」と訊く。「いいや。そうでもないよ」。そのあとのヘンリーの質問は、急所を突くものだった。「なぜ、精子ドナーになったの?」。オハラは、10年以上前の話なので、「何だって?」と訊く。「本に、精子のドナーになったって書いてあった。なぜなの?」(3枚目の写真)。「さあな。他に、どうしたらいいか 分からなかったからかな? 予防措置だったんだ」。「何に対する?」。

ここで、映画は12年以上前に戻る。医師に検査結果を訊きにきたオハラは、精巣癌だと告げられる〔12年経っても健康なので、医師のミス?〕。そして、このいい加減な医師は、将来2人目の子供が欲しくなった時のためにも、精子バンクに精子を保管しておくことを勧める(1枚目の写真)。そこに、一緒に話を聞くことになっていたオハラの妻が、1時間遅れてやって来ると、医師は 「アリス」と親しげに声をかけ、アリスは 「ごめんグンター、遅刻しちゃった」と笑顔で医師のところまで歩いて行き、頬にキスする。医師は、かなり膨らんだアリスのお腹に優しく手を触れ(2枚目の写真)、アリスは 「優しいのね、グンター」と言いながら笑う。オハラは、癌の宣告を受けたことよりも、アリスと医師の異常な仲の良さに非常に違和感を覚える〔お腹の子は、自分の子ではなく、グンターの子じゃないかと疑い始める〕。そのあと、オハラの横のイスに座ったアリスは、グンターに対して取った態度とは違い、冷たい顔で、夫に対し 「私を待たずに始めたの? スラヴキン、仕事を早引けしてここに来たのよ。あなたって、すごく利己的なのね」とオハラを非難する。オハラが 「君の姓に変えたじゃないか」と言うと、「アリス・ストラヴィノウスキー? みんなに何て思われるか」と笑う。ここで、現代に戻り、オハラは、ヘンリーに 「腫瘍医に妻を奪われた。だが、少なくとも私は健康だ。フラワーズ博士よりはずっと」と言う。ヘンリーが 「フラワーズ博士はどうなったの?」と訊くと、①フラワーズはアリスと結婚し〔妊娠中の “将来のオードリー” を出産してから〕、②その後のフラワーズはアリスの尻に敷かれっ放しで、③最後には、ゴミ出しの最中に事故死した、と教えられる。次に、オハラがヘンリーに質問する。「君は、今、学校に行ってないわけだ。どうする気だ?」。「そのことは、まだパトリシアと話してない」。「パトリシアって?」。「僕のお母さん」。「君は、お母さんをファースト・ネームで呼ぶのか?」。

家に帰ったヘンリーは、パトリシアと一緒にTVのニュースを見ながら、「僕、大学に行きたい」と提案する(1枚目の写真)〔父オハラと親しくなるため〕。「あなたの年頃の子供たちは、大学になんか行かないわ」。「10歳だった時、家族みんなの面倒見たじゃない」。「選べなかったから」。「僕もだよ、パトリシア」。パトリシアは、息子を1人で遠くの大学に行かせることに断固反対するが、ヘンリーは、パトリシアが学生食堂で働いている大学〔オハラがいる大学〕に入り、家から通うと言うと、反対はしなくなる。そして、時期外れなので、1人だけの入試を受ける(2枚目の写真)。30分で30問に答える試験。試験開始後2分でヘンリーは席を立ち、答案用紙を試験監督のところに持って行く。「どうかしたのか?」。「終わりました」。「あり得ない。まだ28分ある。全部やりなさい」。ヘンリーは、その場で立ったまま抜けがないかチェックし、「終わりました」。次のシーンは、学長室。ヘンリーがパトリシアと一緒に座っている。学長は、「大学は通常、これほど幼い年齢の学生を受け入れることはありません。しかし、前例のない試験結果〔2分で満点〕を考慮しますと、年1万2000ドル〔2020年の14400ドル≒150万円〕の奨学金を提供します」と言う。それに対し、強気のパトリシアは、「サリヴァン学長、はっきり申し上げますが、私の同意がなければ、ヘンリーは大学に行きません」と、申し出を断る。学長:「2万ドル」。パトリシア:「息子は、売り物ではありません」。「3万ドル」。ここで、パトリシアは 「10万ドル」と一気に値を上げる。「5万」。「8万」。「6万」。「7万5000〔2020年の1000万円弱〕」。2人は、この金額で折り合う。パトリシアは、さらに、奨学金の運用方法に対しても取り決めを要求し、①ヘンリーが唯一の受益者、②奨学金の50%は優良株への投資信託、③奨学金の50%は米財務省の中期証券と言うが、この先が意味不明の部分。それは、これらのお金を受け取ることができるのは、ヘンリーが18歳の誕生日を迎えた日と規定するが、ヘンリーは今10歳。この頭脳なら2-3年で卒業なので、その時点で12,13歳。それ以後は、この大学にいないかもしれないのに、18歳まで渡さないというのは、理に反している。2人が、すべての契約に同意して握手する頃には(3枚目の写真)、パトリシアの金銭ずくの交渉に嫌気がさしたヘンリーは、部屋から出て行ってしまう。

パトリシアはヘンリーを探しに外に出て行き、何度も 「ヘンリー」と呼ぶ。その声を聞いたオハラは、ヘンリーが近くにいるのかと、声がする方に向かって、「ヘンリー」と呼びかける。パトリシアは、ヘンリーを見つけると、「今すぐ、そこで止まりなさい」と命令する。ヘンリーは振り返ると、「サリヴァン学長を押し切った?」と訊く。「押し切ったわ」。「そりゃおめでとう、パトリシア」。その言い方が、気に喰わなかったので、パトリシアは 「何なのその皮肉」と批判し、ヘンリーも 「僕を利用しないで。そんなお金いらない」と反論する。「今は、そうかもしれないけど、18になったら、きっと感謝するわ。あなたのためにやったのよ」。ヘンリーは、天才という設定なのに、なぜかパトリシアの努力が理解できず、「自分のためにやったんだろ、パトリシア!」と怒鳴る。「私に向かって怒鳴るなんて、あなたの母親なのよ! 私がいなかったら、天才君は生まれてなかったのよ」。「僕が天才だとしても、その遺伝子は、パトリシアから来たんじゃないって断言できるよ」(1枚目の写真、矢印はオハラ)。「私じゃないのなら、誰なのよ?」。「彼だ」(2枚目の写真)。パトリシア:「彼?」。オハラ:「私?」。ヘンリー:「卵子と精子の出会いだ」。オハラに向かって 「精子さん、僕の母親、パトリシア・ハーマンだよ」。今度は、パトリシアに向かって 「オハラ博士は、たまたま、僕の生物学上の父親なんだ」。パトリシアは、それを聞いて驚きのあまり卒倒しそうになり、オハラが飛んで来てそれを支える。そして、ヘンリーに向かって、「悪いが、ヘンリー、今言ったことをもう一度繰り返してくれないか」と頼む。「生物学上の父親の部分?」。「やっぱり、そう言ったのか? 私は君の父親なのか」(3枚目の写真)「どうして、そうなる?」。「僕、試験管ベイビーなんだ」。オハラは、この衝撃の事実を聞いた時のオードリーの反応を心配し始める〔オハラは、本の出版後、これまでも大量に飲んできた精神安定剤を倍に増やしたので、全くショックは受けていない〕

オードリーが学校の玄関から出ると、車のクラクションが鳴らされ、いつもは迎えに来ない父が手を振っている。それを見たオードリーは悲鳴を上げ始める(1枚目の写真)。悲鳴を訊いて、生徒達が続々と出てきてオードリーの前に集まる。オハラが 「すぐ戻る」と言って車を出ようとすると、ヘンリーは 「差し支えなければ、オードリーには 自分で言いたい」と言い、車から出て真っ直ぐオードリーに向かう(2枚目の写真)。ヘンリーが目の前まで来ると、オードリーは叫ぶのをやめる。ヘンリーが改めてほほ笑んで、「オードリー?」と声をかけると、「ええ、私よ。あんた誰?」。ヘンリーはオードリーの体を両腕で抱くと、「君は、もう一人じゃないよ、オードリー」と言う。それを見た、オードリーの同級生で、一番イヤな奴は 「Lesbo」と囁き、ニヤニヤする。オードリーは、自分がレスビアンじゃないと主張すべく、「僕は、君の異母…」と言いかけたヘンリーを抱き締めると、いきなりディープ・キスをする(3枚目の写真)。長いキスが終わり、ヘンリーが 「弟」と途切れた言葉の続きを言うと、生徒達から 「おえっ」という声が上がる。

ヘンリーは、オードリーと車の助手席に乗り込むと、すぐに 「僕、君に話そうとしたんだ。だけど、すぐにキスし始めた」と言う。オードリーは、両手で耳を塞いで 「何も聞こえない」と言う(1枚目の写真)。その言葉が終わるや否や、ヘンリーは 「僕、これまでパトリシア以外の女性にキスされたことなんかない。それに、パトリシアは、君みたいに舌なんか使わない」と言い、それを聞いたオードリーは 「吐きそう」と言い、実際に車内で吐き始める。そのあと、オハラは、3人を連れて大学の教員専用のレストランに行く。長い会話なので、重要な部分だけピックアップすると、ヘンリーが、オードリーに向かって、「祖父が 僕の異母姉が分かったと話した時、僕たちは、君が僕みたいな試験管ベイビーじゃないかって思ったんだ。だけど、そのあとで、オハラ博士から、君は、“博士が癌だと診断される前に妊娠していた” と聞かされ、そうじゃないと分かった。君は、僕の異母姉だから、僕たちの遺伝子の半分は同じだよ。母親が違うから、同じ遺伝子の出どころは一つだけ」と言って、オハラを見る(2枚目の写真)。すると、オハラは あれこれと口を濁した後で、「考えてみれば、生物学的に言って、君が僕の娘でない可能性がある。ほんの僅かで、無限小なんだが」と、フラワーズが父親である可能性を、矮小化して白状する(3枚目の写真)。オードリーが、いつからそう思っていたか尋ねると、「君が生まれる前から」と正直に答え、再度、無限小をくり返す。「私があなたの娘でないとしたら、父親は誰なの?」。「私が父親だ」と、フラワーズの名前は伏せるが、「多分」と、余分な言葉を付け加える。

オードリーは、オハラが大嫌いなので、実の父でない可能性が無限小でもある限り、知りたいと主張し、精子バンクに行き、いつもの受付けの男の前に現れると、男は、同行したヘンリーに 「君が、俺に どれだけ迷惑をかけたか知らないだろ。お陰で、息子は自分が養子だと知ってしまった」と文句を言う〔もともと、黒人の生徒が、ヘンリーに意地悪を言ったから原因なので、ヘンリーのせいではない〕。それを聞いたオードリーは、「何やらかしたの、家庭破壊者?」とヘンリーを誹謗し、ヘンリーは 「彼の息子は養子だ」と、事実を述べて反論する(1枚目の写真)。男は、自分が黒人でないことを認めた上で、心は黒人なので、マルコムは自分の息子だと説明する。オードリーは、その意見に賛成した上で、自分にも重要な親子関係の問題があると述べ、「私の義父の精子を出して」と要求する〔フラワーズも、この精子バンクのドナー〕。受付けの男は、違反行為に当たるので即座に拒否。それでも、オードリーは 「私には、グンター・フラワーズが生物学上の父親かどうか知る必要があるの」と言う。男が、「なぜ、本人に訊きに行かない?」と訊くと、2人揃って、「彼は、もう死んでる」と答える(2枚目の写真)。「もし、君たちが父親が誰か知りたいなら、検査を受けるしかないな。最高裁の判決があるから、死んだ義父の許可なしに、俺にできることは何もない」。そこで、4人はDNA鑑定を受けることにし、採血した指の先に赤い絆創膏を巻いてエレベーターに乗る(3枚目の写真、矢印は絆創膏)。

少し順番がずれるが、パトリシアがオハラの研究室を訪れるシーンがある。壁は付箋紙で覆われている。その理由を、オハラは、「私はヘンリーと違い、記憶力はごく普通だから、考えたことはその場で書き留めておかないと」と説明する(1枚目の写真)。パトリシアは、その大切な “考えたこと” を付箋紙なんかに書いて飛んで行かないか心配し、オハラが ハリケーンが来たって大丈夫と説明する長いシーンがある。平和だった話し合いは、パトリシアが 「被験者の結果はIQ310」と書かれた付箋紙(2枚目の写真)を見つけて一変する。「被験者?」。「ヘンリーのIQは、史上2番目に高いんだ」https://www.usatoday.com/、その他によれば、William James Sidis(1898-1944)はIQ200-300の神童で、11歳でハーバード大に入り、16歳で卒業し数学者になったが活躍することなく消えていった。数値が想定されてギネス記録になっているのはMarilyn vos Savant(1946-)で、IQ228。ヘンリーに一番近いのは、写真記憶を持っていたJohn von Neumann(1903-57)。推定IQは250-300。11歳でプロテスタント系のギムナジウムに入学。12-13歳の時、ブダペスト大学の数学講師が個人教授をした。大人になってからは科学者として活躍した〕。この言葉に対し、パトリシアは、オハラがオードリーを研究してレスビアンの本を出版したように、ヘンリーも研究対象にされると直感し、オハラを強く批判する。これに対し、オハラは、「当初は、確かにヘンリーについて書くつもりだった。昨日になって、ヘンリーが息子かもしないと分かるまでは」と弁解する。オハラのことが信用できないパトリシアは、「あの子の母親は私よ! あなたは、試験管に入っただの精子じゃないの! あなた以外の誰かが、オードリーについてあんな本書いたら、あなたならどうする? 私なら、こうしてやる」と言うと、付箋紙に 「ゆっくりと、断固として」と書き、それをオハラの額に貼り付け(3枚目の写真)。「あんたを殺してやる」と脅して出て行く。

一部のシーンは、パトリシアがオハラに会う前。トイレに行くと嘘を言って中学から逃げ出したオードリーは、玄関を出た所で、待ち構えていたヘンリーとバッタリ出会う。オードリーが 「ボコボコにしてやりたい」と言うと、ヘンリーは 「怒って当然だよ。いろいろ迷惑かけちゃったから」と 素直に謝る。「大学にいるんじゃなかったの?」。「学校にいなくていいの?」。「質問に質問で答えるなんて 許せない」。「そうだね。僕は、大学にいるべきなんだ」。「じゃあ、ここで何してるの?」。「君のことが心配で」。その言葉で、ヘンリーへの敵意が消えたオードリーは、「学校をサボったことは?」と訊く。「ないよ」。それを聞いたパトリシアは、ヘンリーの前を通って、学校の外に歩いて行く。「どこに行くの?」。「Anger-obics〔怒りを鎮め、解決策を見つけるのに役立つ一連のテクニック〕」。この先に、前節の、パトリシアとオハラのシーンが入る。そのあと、オードリーは、ヘンリーを屋内型遊園地に連れて行く。エスカレータに乗りながら、ヘンリーは、「僕、遊園地に来たの初めて。何かに乗ろうよ」と言う(1枚目の写真)。「乗らないわ」。ヘンリーは、オードリーについての本を読んでいるので、「暴露療法(エクスポージャー)は 『眩暈恐怖症の強烈な感覚』を乗り越える最善の方法だよ」と言い、オードリーを誘って “なるべく過激でないライド” に乗る。席に座ると、興奮したヘンリーは、「Jesus H. Christ」と言う。「その、Hって何なの?」。「知らない。HolyのHかな?」。「何でも知ってるのかと」。「何でも覚えてるだけ」。「何でも?」。「僕が見たものはね」(2枚目の写真)。「いつから」。「生まれた時から」。その時、ライドが前進を始め、オードリーは悲鳴を上げ始める。しかし、最後の頃には悲鳴が止まる。そして、一旦停止したライドが後ろにバックし始めると、悲鳴が微笑に変わる。そして、再度前進を始めると、ヘンリーより先に、両手を上げて叫び始め、ヘンリーも同調する(3枚目の写真)。そのあと、2人は2種類のライドに仲良く乗る。姉と弟のように。

ライドの後、ヘンリーは、銃で画面上の敵を倒すゲーム機の前に連れていかれる。そこには、過去のハイ・スコアの記録が8位まで示されるが、何れもオードリーが出したもの。ヘンリーは、オードリーの指導を受けて銃の撃ち方から教えてもらう。最初は、すごく下手だったヘンリーだが、最後に挑戦した時には(1枚目の写真)、敵の全員を倒す。驚くオードリーに、ヘンリーは 「悪人の出現のプログラムには、単純な方程式がくり返し使われているんだ」と、同じパターンで敵が現われるから全員仕留められたと話す。ゲーム機の前には、何人か倒すごとに1枚出てくるチケット1万枚が、うず高く溜まっていたので、オードリーは何に交換してもらえるか楽しみにしながら、運んで行く(2枚目の写真、矢印)。こんなに沢山のチケットに対する商品がなかったのか、よほどケチなのか、2人がもらったのは、先端に小さな人形の付いたボールベン2本だけ(3枚目の写真、矢印)〔帰りのバスの中〕

バスから降りたオードリーは、「パパが本で得たお金はすべて信託ファンドに入るの。私が18になったら、お金持ちよ」と自慢する。ヘンリーも、「僕が18になると、自分のお金が持てるんだ」と話す。オードリーは 話題を変え、「賭けない?」と訊く。「何に?」。「私のパパは、私たちのパパじゃない方に賭ける」。「じゃあ、僕は、君のパパが僕のパパだって方に賭けるの?」(1枚目の写真)。2人は、この条件で賭けをするが、買った方が何をもらえるかは、映画の最後まで分からない。2人は、そのあとで、老人ホームまで行ってスタンに会おうとする。廊下を歩きながら、オードリーは、「憂鬱になっちゃう」と感想を漏らす。「どうして?」。「私たち、こんなトコで終わるの? モスボール〔防虫剤〕やメンソール〔芳香剤〕臭い老人たちに囲まれて、ただ死ぬのを待ってるだけ?」。「スタンは違うよ、 タバコとウィスキーの匂いだ」(2枚目の写真)。ヘンリーが、ソファに座っていた4人の老人に、「スタンはどこ?」と訊くと、4人は下を向いてしまう。横にいた顔見知りの看護婦に 「おじいちゃんはどこ?」と訊くと 急に嗚咽する。そこに、パトリシアとオハラが近づいてくると、パトリシアが、「ヘンリー坊や」と声をかける。「パトリシア、スタンは?」。パトリシアはヘンリーを呼ぶと、抱き着いたヘンリーにスタンが亡くなったと伝える。一方、オハラがオードリーに、「なぜ、学校にいない?」と訊くと、オードリーもオハラに抱き着く。嫌われるだけの娘に抱き着かれたオハラはびっくりする(3枚目の写真) 。

その日の夜は嵐。学長室に呼ばれたオハラに、学長は、「本校の輝かしい歴史で74人のノーベル賞受賞者がいる」〔この映画の舞台がどこかは不明だが(ロケはカナダ)、現時点でノーベル賞受賞者(教員・研究員、卒業生を含む)が80人を超えているアメリカの大学は6校。ハーバード、バークレー、シカゴ、コロンビア、マサチューセッツ、スタンフォード〕。しかし、終身在職権を持つ教員がオプラ〔TVの有名なトーク番組〕に出演した例はない。まあ、あれも宣伝にはなるが。君が次に、新しい本でオプラに出演する時には、きっとうまくいくだろう」。「次の本などないよ、チャールズ」。「君の仕事に、資金をつぎ込んだのに?」。「ヘンリーは、私の仕事じゃない」。「違う? じゃあ、何なんだ? 彼は、君が、ここにいて欲しがったから、ここにいるんだ」(1枚目の写真)「彼は、君のために、大金を払ってここにいる」。「そうですね、チャールズ。ヘンリーは、私のために ここにいる」。「分ってくれればいい、スラヴキン。君は、出版するか、ここから消えるかだ」。しかし、オハラは、学長が最初に言ったように、終身在職権を持っているので、「クビにはできませんよ」と言って、意気揚々と 部屋から出て行く。オハラが研究室に戻ると、真っ暗な室内にヘンリーが デスクに座って待っていた。ヘンリーは、背を向けたまま、話し始める。「神童から大人への移行は非常に難しい。社会に適応した大人になることに成功する神童は100人に1人」。それだけ言うと、イスを180度回転させ、オハラの顔を見つめる。「あなたは 10004枚の付箋紙で研究したんだ。何らかの結論に達したに違いない。僕は、100人の仲の1人になれる?」。オハラは、ヘンリーは、1世紀に1人あるかないかの桁外れの存在だと言う。「桁外れなんか嫌だ。あなたの次の本の被験者になんかなりたくない!」。オハラは、「君の本は書かない」と断言し、「付箋紙のことは忘れて欲しい」と頼む。しかし、写真記憶のヘンリーは、「忘れられない」と見放すように言う(2枚目写真)。そして、ヘンリー宛に届いたDNA鑑定の手紙を残していく。そこには、「母親: パトリシア・ハーマン、子供: ヘンリー・ハーマン、推定される父親: スラヴキア・オハラ、父親としての可能性=99.99%」と記載されていた(3枚目の写真)。これで、ヘンリーが、オハラの精子で生まれた試験管ベイビーであることが確定した。

この結果を見たオハラは、視覚的にもヘンリーに確信してもらおうと、外は嵐なのに、窓と廊下側のドアを開け放つ。すると、猛烈な風で次々と付箋紙が剥がれ、部屋の中を舞う付箋紙の中で、オハラは喜びの叫び声を上げる(1枚目の写真)。付箋紙は窓からどんどん外に出て行き、翌朝、構内を歩くヘンリーは、それを写真記憶として記憶に留める。オハラが約束を守って、ヘンリーに関する本など絶対に出版しないことが分かったので(2枚目の写真)。

パトリシアの家で、スタンを偲ぶ会が行われていると、そこに、パトリシアの兄ビリー35年ぶりに帰ってくる(1枚目の写真)〔18歳の時にカナダに逃げて行った時の写真と 同じような構図〕。この直後、パトリシアはビリーの左頬を2回、思い切り引っ叩いて、兄の前からいなくなる。ビリーは、2階にあった自分の部屋を見に行く。それを見ていたオードリーは、「あれ、誰?」とヘンリーに訊く。「伯父さんだと思う」。ヘンリーは、2階に上がって行くと、「ビリー伯父さんなの?」と、声をかける。振り向いたビリーは、「君が俺の甥ならな」と答えたあとで、「ここは俺の部屋だった」と言う。「カーター大統領が徴兵忌避者に恩赦を与えた時〔1977年1月21日〕、なぜ戻って来なかったの?」(2枚目の写真)。「すぐ帰るのは、恥ずかしかったからさ」〔そうだとしても、1977年から31年も経っている〕。ヘンリーは、スタンが “息子に継がせたいと願っていた金のライター” を取り出して ビリーに渡すが(3枚目の写真、矢印)、自分には資格がないと思ったビリーは 「君はスタンの孫だ」 と言ってヘンリーに返す。

部屋の片隅で、仲直りしたパトリシアが、ビリーと昔の写真アルバムを見ていると、部屋の反対側ではヘンリーとオードリーが話し合っている。「無理していなくても いいんだよ」。「私にだって、上品で、礼儀正しいフリくらいできる。ティーンエージャーだから」。「12歳だ」。「来週13歳になるわ。だから、あんたなんか無視するフリをして楽しんでもいいんだけど、やめとくわ。だって、あんたは私の弟なんだから」。その言葉でピンと来たヘンリーは、オードリーを見つめる。「グンターがパパじゃないと分かってホッとしたわ。バカな奴だったから」。「報告書を見たんだね?」。オードリーは笑顔で頷く(1枚目の写真)。「てことは、君は、賭けに負けたんだ」(2枚目の写真)。オードリーは、ヘンリーを突き飛ばす。そのあと、パトリシアとビリーが昔のアルバムを見ながら意味のない会話を続ける。そして、オードリーは、ラベルライターでテープに文字を打ち始める(3枚目の写真)。

一方、ヘンリーは、引き出しの中にあった昔の写真を取り出して見ていると、中に、写真記憶の持ち主でも覚えのない写真を見つける(1枚目の写真、矢印はヘンリー)。そこで、その写真を持ってパトリシアのところに行き、「これ、誰?」と尋ねる(2枚目の写真、矢印)。「ジミー伯父さんよ」。「ううん、こっちの方」。「あなたよ、ヘンリー」〔下に書いたが、最低最悪の恥ずべき脚本。「だけど、ジミー伯父さんに会った記憶はないよ」。「当然よ。あなたは生後一週間未満で、眠ってたんだから。この日なのよ、私がジミーに、彼の名をあなたに付けたって話したのは。ヘンリー・ジェームズ・ハーマンって」(3枚目の写真)。「僕の名前、ジミー伯父さんからもらったんだ」。「1週間後に、伯父さんは亡くなった。覚えてる?」。「うん」。この部分は、200%間違っている。ジミーが死んだ年ははっきり示されていないが、最初の “写真から順番に消えていく” シーンでは、ジミーが死んでから、18歳のビリーがカナダに逃げる(1973年)。その時パトリシアはまだ10歳。ヘンリーが生まれるのは、スタンが精子バンクに行ったのが1997年なので、誕生は1998年。なぜ、1973年に死んだジミーが、1998年に生まれたヘンリーを抱けるのか?  呆れて物も言えない!! パトリシアは、その欺瞞の写真をアルバムの空いたページに貼り、アルバムを閉じる。そこに、ラベルライターを打ち終えたオードリーが 完成したテープをアルバムの表紙に貼り付ける。そこには、「JESUS HENRY CHRIST」と刻字されていた。これが映画の題名になっている。

約1週間後、オードリーとヘンリーが、オハラの研究室で、彼の前に糾弾するように座っている。オードリーは 「過去に戻ることができるとしたら、それでもあの本出版する?」と訊く。最初、オハラは、「あの本のお陰で 意図しなかった素晴らしいことがたくさん起きただろ」と 弊害ばかりじゃなかったことを訴える。そんな詭弁には納得できないオードリーは 「質問に答えて」と要求する。オハラは 「そうだ。私は、絶対確実に〔most certainly〕、しなかった〔would not〕」と、強い意志を示す否定形を使う(1枚目の写真)。「だが、過去は変えられん」。そこに、ヘンリーが口を出す。「でも、未来は変えられる」。オードリーは、ヘンリーに 「その通り」と言うと、オハラに 「今日は私の誕生日。大人になった今、私は、世界をより良い場所にするために援助する道徳的責任があると思うの」と言うと、法律用語的な口調で 「私、オードリー・オハラは、18歳の誕生日に、信託基金の20%を以下の団体に寄付します」と述べる。それを聞いたヘンリーが軽く咳払いをすると、「分かった、25%にする」と訂正し、ヘンリーが強く咳払いをすると、「33と1/3%〔3分の1〕、これが最後よ」と ヘンリーに言う。そして、寄付先を書き留めるよう、オハラに要求する。オハラがペンがないと言うと、ヘンリーがゲーム機で勝ち取った人形付きのボールベンを渡す(2枚目の写真、矢印)。オードリーがあげた団体は、N.O.W.〔全米女性同盟(女性の権利やLGBTの権利)〕、E.D.F.〔環境防衛基金(環境保護)〕、National NGLTF Task Force〔全米ゲイ・レズビアン・タスクフォース(LGBTの社会的地位向上)〕の3つ。

映画の最後はオードリーの誕生日。3人が歌い、誕生日を祝い、心から嬉しそうなオードリーの顔が初めて見られる(1枚目の写真)。バースデーケーキのロウソクに火を点ける段になり、ヘンリーはパトリシアにライターを渡すが、1973年の10歳の誕生日の際、同じライターで祖母が焼け死んだので、ヘンリーの10歳の誕生日の時もそうだったが、今回も手が震えて火が点けられない。しかし、今度はオハラがいて、パトリシアの手を支えて、一緒に火を点けてくれる(2枚目の写真)。パトリシアは 「ありがとう、オハラ博士」と感謝し、オハラは 「どういたしまして、ハーマンさん。今後は、スラヴキンと呼んで、スラヴキン・ストラヴィノウスキーだ」と、オハラの名を捨てる。この先、4人は一つの家族になるに違いないと暗示して映画は終わる。

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