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Last Resort せっぱ詰まって

イギリス映画 (2000)

受賞歴13、批評家の評価を示すRotten Tomatoesで94%と高い得点を上げているポーランドの監督の作品。タイトルの『Last Resort』の意味は、「最後に唯一残された選択肢」という意味〔ただ、隔離施設の17階建ての高層アパートの背後には、放置された遊園地(実際には、現役のドリームランド・マーゲイト)があるので、リゾートに皮肉を込めた意味を持たせたのかも〕。ここでは、映画の主人公ターニャの焦りを表象するように、「せっぱ詰まって」と仮題を付けた。ターニャは12歳の息子アルチョームを連れて、婚約者マークに会いにヒースロー空港に降り立つ。しかし、マークに頼るつもりだったので所持金85ドル〔2020年の$132≒14000円〕とあまりに少なかったので、入国を認められず、事情を聴かれる。そこで、婚約者に会いに来たと答えるが、空港で待っている約束のマークは、アナウンスにもかかわらず現れない。そこで、ターニャは、それがどういう結果をもたらすか考えもせず、政治的な危険を理由に亡命と保護を要求する。2人はマーゲイト〔ドーヴァーの北約30km〕にある亡命希望者の隔離施設に連れて行かれる。そして、審査が終わるまで1年以上かかると告げられる。そして、頼みのマークからは見捨てられ、絶望にかられたターニャは、政治亡命は嘘で、難民ではなく、祖国に帰りたいと申し出るが、その審査にも3~6ヶ月かかると言われる。お粗末な部屋と、食事と洗面道具の無料券は配布されるが、婚約者には見放され、労働許可がないので働くこともできず、所持金はゼロに近く、何もすることがない状態での3~6ヶ月は地獄だ。自らの失言が招いた事態とはいえ、せっぱ詰まったターニャは、無謀な手段を含め、あらゆることにトライしては失敗する。ニューヨーク・タイムズの映画評の標題は、『希望は失われたが、人間性は失われなかった』となっていて、そこには、「世界中に存在する無規範と混乱の際立ったイメージ化」とも書かれている。映画には、元ボクサーで刑務所に入っていた割には、とても親切で、アルチョームと友情を築くアルフィーという素晴らしい男性も登場するのだが、ハリウッド映画のようにハッピー・エンドにはならない。

アルチョーム役は、ペテルスブルグ生まれのアルチョーム・ストレルニコフ(Артем Стрельников/Artyom Strelnikov)。1987年11月18日生まれなので、撮影時は恐らく12歳。母、ターニャと違い、すぐにマーゲイトの暮らしにも慣れ、難民の子供達と悪さもし、アルフィーとも親しくなる。2度の離婚歴を持つ母は、彼と結婚することを望むが、思ったようには事が進まない(母との会話はロシア語。アルフィーとは片言の英語)。この映画は、子供映画ではないが、重要なパートを担っている。撮影監督の特徴として、遠望とクローズアップのどちらかしないので、結構何度もクローズアップされる。

あらすじ

ヒースロー空港に着いたターニャとアルチョームは、入国審査官の前まで行く(1枚目の写真)〔実際には入国審査のブースはもっとたくさん並んでいるし、柵も長く、並んでいる乗客も多い〕。「どのくらいイギリスに滞在するつもりですか?」と訊かれたターニャは、「まだ分かりません」と笑顔で答える。「所持金は?」。アルチョームが、「えーと、85ドル」と言う(2枚目の写真)。「かなり少ないですね」。入国審査官は、パスポートと航空券を預かった上で、子供と一緒に待機しているよう指示する。そして、2人は、待合室のような場所で時間を潰す〔普通は、入国審査の場所には何もなく、こんな飛行機の見える待合室などない。一体どこにいるのだろう?〕。暇を持て余したアルチョームは、イギリスについて紹介する英語の本を読み上げている。「イギリスでは、友好的な人々はウェダーの話題から会話を始めます」。「ウェザー〔天気〕よ」(3枚目の写真)。そのあとも、何度も間違えるので、英語は苦手だと分かる。
  
  
  

入国審査官は、事務室にターニャを入れると、所持品のチェックを始め、その中に額装した絵を見つけ、普通の旅行者はこのようなものを持って入国しないと疑問を呈する。ターニャは、その絵は、自分が児童書のために描いたものだと話す。「英国で仕事を見つけるつもりですか?」。「はい。婚約者のために」(1枚目の写真、アルチョームが部屋の外で待っている)。「ここに婚約者がいるのですか?」。「はい、彼はイギリス人です」。「彼の名前は?」「マーク・ワロー」。「名前と電話番号を書いてもらえませんか?」。「でも、彼、ここにいますわ」。「到着ロビーに?」。「ええ、私たちを待ってます」(2枚目の写真)。この言葉で、2人は先ほどの場所に戻され、ターミナル内にアナウンスが流れる。「マーク・ワローさん、空港案内デスクに連絡してください」。その間も、アルチョームはさっきの本を読み上げている(3枚目の写真)。
  
  
  

2人が座っている場所は、先ほどまでの待合室とは違う〔イスが違う〕。そして、母は絶望のあまり顔を覆って泣いている。それを隣に座った黒人女性が見ている。アルチョームは、ロシア語で 「家に帰ろうよ、ママ」と言い出す(1枚目の写真)。「ママ、家に帰るのが、一番だ」とも。そして、じっと母を見続けている黒人女性を、「あんた、何で見てるんだ?」と批判する。意味が通じた訳ではないが、顔を見て言われたので、見るのを止める。母は、顔を上げて息子を見ると、「待ってて」と言うと(2枚目の写真)、立ち上がり、先ほどの入国審査官に会いに行く。
  
  

入国審査官に会った母は、何を思ったのか、「私には政治亡命が必要です」と言い出す。「政治亡命?」。「はい」。「なぜなら… モスクワでは私の命が危険にさらされているからです」(1枚目の写真)。それを見ていたアルチョームは、「ママ、頭がおかしくなった」とつぶやく。入国審査官は、「あなたは3回も話を変えたので、信じ難いのですが、対応しましょう」と言う〔3回も変えていない〕。それをアルチョームがじっと見ている(2枚目の写真)。
  
  

2人は別の部屋に移され、係官が母の顔写真を、正面、右向き、左向きから撮影する。アルチョームは 「僕たち、逮捕されたの?」と心配する(1枚目の写真)。「黙ってなさい!」。「何したの?」。写真が終わると、2人は警官と一緒にターミナルから外に出され、他の亡命希望者と一緒に車に乗るよう促される。アルチョームは、「ママ、僕たちどこに連れていかれるの?」と訊くが、母にとっても驚きの展開なので、何も答えられない。アルチョームは、「僕、どこにもいかないよ」と乗車を拒否する(2枚目の写真)。そして、一旦乗せられた車の反対側から出ると、取り押さえようとする係員に、「僕に触るな! 放せ!」と抵抗する。母が、アルチョームの抵抗を力づくでやめさせると、息子の前に座り込み、「聞いて! ママは 難民だと言ったの。だから、マークに何が起きたか分かるまで、イギリスにいられるわ」と話す。しかし、係員に早く乗車するよう命じられると、「後で、ちゃんと説明する。正しいことをしてるの。信じてちょうだい」と すがるように頼み、一緒に車に乗る。その間、警察犬が吠え続けている。
  
  
  

パトカーに先導された難民申請者の車3台は、石炭火力発電所の冷却塔の近くを通る(1枚目の写真)。この発電所は、恐らく Richborough石炭火力発電所〔目的地のマーゲイトの南南西約9キロ〕。1962年に稼働を始め 1996年に廃止された。高さ97mの冷却塔3基は 2012年に爆破破壊。その時の動画映像は 「 ここ」をクリックすれば見られる。パトカーは海沿いの検問所を通過。すると、潮の引いた入江の向こうに、18階建ての高層ビルが見えてくる(2・3枚目の写真)。
  
  
  

このビルの前で降ろされた2人は(1枚目の写真)〔この建物は、Arlington House。1963年に完成したアパート。海岸の行楽地マーゲイトで唯一の高層ビルのため、景観上問題があるとみなす住民も多いが、見晴らしがいいのでアパートとしては人気がある。ビルの東にはドリームランドという遊園地あり、映画が作られた当時は営業していたが2005年に閉園。廃墟と化したが2017年に再オープンした。ビルの周辺の店舗は映画にも登場するが、現在は廃墟と化している〕、17階の部屋があてがわれ、さっそく行ってみるが、そこは何もない殺風景な部屋(2枚目の写真)。壁紙の一部は大きく剥がれている。母は、「電話してくるわ」と言って出て行き、1人残されたアルチョームは、眼下に見える突堤〔Margate Harbour Arm〕を、汚れたガラス越しに見ている(3枚目の写真)。右側には、誰もいないドリームランドも見える〔映画の中では、廃墟という設定〕
  
  
  

母は、アパートの1階まで行き、マークに電話しようとするが、通じない。そこで、近くの男性に訊くと、電話機は故障しているので、建物の外の公衆電話を使うしかないと教えられる。そこで、母はアルチョームを連れて海岸沿いに公衆電話まで行くが、そこには列ができていた(1枚目の写真)。母が、そのうちの1人に、「電話の小銭はありませんか?」と訊くと、中東難民の1人は、「この電話にはコインは使えない。カードだけ」と答える。「カードは、どこで?」と訊くと、ビルの近くの店舗で売っていると教えてくれる。そこで、2人が店に入って行き、「ここで、テレホン・カード、売ってると聞きました」と言うと、機械の修理をしていた店主のアルフィーはポケットからチップ・カードを取り出し、好きな柄を選ばせ、10ポンド〔当時の約1800円〕要求する〔母は 85ドル(≒53ポンド)を、いつポンドに両替したのだろう?〕。アルフィーが 「使い方、知ってる?」と尋ねると、母は首を横に振る。「見せてあげようか?」。「ええ」。アルフィーは使い方を教えるが、日本のテレホン・カードと全く違うので、ターニャもだが、私も分からない。そこで、親切なアルフィーは、ターニャと一緒に先ほどの公衆電話まで一緒に行き〔アルチョームは店のゲーム機で遊んでいる〕、通話中の難民の男性を、「緊急だ。1分間、マダムに電話を掛けさせてくれ」と中から追い出すと、ターニャと一緒にボックス内に入る。そして、実際にカードを使い、通じてから受話器をターニャに渡す。ターニャは、「もしもし、愛しい人。ターニャよ」(2枚目の写真)「今、イギリスにいるわ。どうしたの? どこにいるの? あなたが空港にいなかったので、私たち連行されたの」と話し、アルフィーに、「すみません。ここはどこ?」と訊き、「Stonehaven」と言われる〔架空の地名。英国にStonehavenという場所は、あるが、ロンドンから車で10時間以上かかるスコットランド北部の海沿いの村なのであり得ない〕。「海辺のStonehavenって所で、私たちアパートに入れられたわ。お願い、迎えに来て。あなたに会えなくて寂しいわ」。夜になり、母は、夕食代わりの缶詰を開けようと何度やっても失敗。アルチョームは、「彼、来ないよ」と言い、「それ貸して」と缶詰を取り上げると、「心変わりしたんだ。彼、ノイローゼだから。ママも、まともじゃないし。2人とも、お似合いさ」と言いながら開ける(3枚目の写真)。
  
  
  

翌朝、母は、アルチョームと一緒に、荷物を持ってアパートを出ると、海岸にそって歩く(1枚目の写真、2人の間に立っているのは、マーゲイト記念碑〔古い救命胴衣を着た男性の像〕)。2人の姿は、監視カメラに捉えられている(2枚目の写真)。2人は、マーゲイト駅の中に入って行くと、プラットホームへの通路にはシャッターが下りている。そこにいた係員に、「ロンドン行きの切符はどこで買えますか?」と訊くと、「残念ですが、駅は閉まってます。奥さん」という返事。駅を出て歩きながら、アルチョームは 「なぜ、駅、閉まってたの?」と訊く。「多分、改装中なのよ。それともストライキとか」。「じゃあ、歩いてロンドンまで行くの?」。「いいえ、車に乗せてもらいましょ」。そこにパトカーがやって来ると、2人の前で止まる(3枚目の写真、アパートから直線距離で800m)。
  
  
  

ターニャは管理事務所に連れて行かれ〔アルチョームは外で待たされる〕、係官は、空港で撮った写真に、情報が書き込まれた画面を見ながら(1枚目の写真、一番左上に生年月日)〔ターニャの生年月日は1974年2月2日。映画では1999年の冬なので25歳くらい。それで、12歳の息子がいるということは、12・13歳で妊娠したことになるが…〕、確認のために名前を訊く。「タチアナ・クルーシナ」。係官は、昨日登録すべきだったと言いながら、説明書と、1週間の食事と洗面道具の引換券を渡す〔昨日、直接アパートに直接連れていった警官が悪い〕。ターニャは、「でも、こんなもの要らないわ。ロンドンに行きたいの」と安易に言うが、「それは、できません」と言われてしまう。「なぜ?」。「あなたが政治亡命を申請したからです。申請者は、指定された待機場所に留まらないといけません。それが、ここなのです」。「ここを出られないってこと?」。「そうです」。「でも、なぜなの? お金があって、ロンドンに泊る場所があれば、なぜそこに…」。「それが許可されたら、だれもかれも〔the world and his wife〕ロンドンに行くでしょう」。「でも、私の婚約者がロンドンにいるんです」。「そうかもしれませんが、あなたの申請は、ここで処理されます」。「どのくらい時間が?」。「状況によりますが、12~16ヶ月です」。「まさか、冗談でしょ?」。これは、うっかり政治亡命だなどと言ってしまったターニャにとっては、信じられないような悪夢だった。強いショックを受けて外に出て行くと、アルチョームが、柵の外の年上の少女から、ヒーターを売り付けられて抱えている(2枚目の写真)。「それ何なの?」。「ヒーター、買ったんだ」。「どうして? すぐここを出るのよ〔ターニャは、まだ自分の置かれた状況を理解していない〕。「役に立つよ」。2人は、一旦アパートの部屋に戻り、荷物を置くと、アルフィーに頼ろうと店まで行く。そして、「私、ロンドンに行かないと。どうすればいい?」と質問する。「難民なんでしょ?」。「うっかり 難民になっちゃった。でも、どうしても行かないと。どうすれば、ロンドンへ?」。「違法に運び出す連中がいることは知ってる。だが、それには金がかかる」。「いくら?」。「知らない。安くはない。訊いてあげてもいいが」。「お願いするわ」(3枚目の写真)。ここで、アルチョームが、「行こうよ、お腹が空いた」と言ったので、ターニャは、「行かないと。どうもありがとう」と言ってアルフィーと別れる。
  
  
  

2人が食堂に行き、「5」と書かれた食券を2枚渡すと、魚のフライの入った皿が渡され、ターニャが変更を望んでも、撥ねつけられる。アルチョームは、フライをめくってみて、英語で、「魚はどこ?」と訊くが(1枚目の写真)、係員は無視。テーブルについたアルチョームは、衣(ころも)をナイフとフォークでめくってみて、「中に、魚なんか入ってない。衣ばっかりだ」と指摘する。すると、2人連れの中年男が寄って来て、「ちょっと話してよろしいですか?」と話しかける。最初に話しかけて、素早くターニャの横に座ったのがレス、横から顔を出したのがフランク(2枚目の写真)。レスは、突然押し掛けたことを詫びつつ。「ちょっとした用事で来たところ、すごく魅力的な〔drop dead gorgeous〕若いレディを見たので、矢も楯もたまらず、お話ししようと思いました」と言い、「インターネットを使った仕事です。イアンターネットはご存じですか?」と訊く。そして、「私たちはですね… 私たちのために働いてくれる素敵な若い女性たちを、いつも探しているのです。そして、あなたはそれにぴったり当てはまります。1日につき250~300ポンド〔当時の46000~55000円〕お支払いします。それに、拘束する時間は僅かです。これが私の名刺です。興味あれば、電話して下さい」と、誘うように話しかける。アルチョームは、値踏みするように、レスをじっと見ている(3枚目の写真)。2人が去った後、アルチョームは母に、「あいつらポン引きだって分かってるよね」と注意する。アパートの部屋に戻ると、ベッドは1つしかないので、アルチョームは母と一緒にベッドに寝る。母は 「何が起こっているのかを知るために 彼に会う必要があるわ」と、ここをどうしても出て行く必要を訴える。アルチョームは 「僕より、あいつの方が好きなんだ。僕を こんなむさ苦しいトコまで連れてきて…」と不満をぶつける。母は 「誰よりもあなたを愛してるわ。私のたった一人の可愛い坊や。私のマークへの愛は、違ったものなの」と苦しい弁解をする。
  
  
  
  

何とか、ここから逃げ出すための資金が欲しいターニャは、洋服店に行き、シベリア産のセーブル2匹分〔1匹数万円〕を売ろうとするが、商売の対象外なので相手にしてもらえない。一方、アルチョームはアルフィーの店にあるクレーンゲームを壊してしまう。アルフィーは修理をしながら、「パパはどこ?」と訊く。「パパ 死んだ」(1枚目の写真)。アルフィーは、「俺の親父も死んだ」と言う。英語がよく理解できなかったアルチョームは、「あなたのパパ、死んだ?」と訊く。アルフィーは頷き、「どうして死んだんだ?」と訊き返す。アルチョームは、死んだ理由を知らなかったのか、語学力が足りなかったのか、「死んだ」とだけ答える。「マークは、何が問題なんだ?」。「ママのフィアンセ」。「君は彼が好きか?」。「ううん。ママ、彼のためにイギリス来た。でも、空港来なかった」。「ママは、彼を愛してるのか?」。「ママ、自分を泣かせる男、好き」。それを聞いたアルフィーは、クレーンゲームのベスト商品の腕時計をプレゼントする。一方、ターニャは、一軒の店のガラスに張られた山ほどの求人広告を見て上で、店に入って行き、雇ってくれないか尋ねる。店主は、労働許可を取ったかと訊き(2枚目の写真)、ターニャが否定すると、許可なしでは何もさせられないと断る。道を絶たれたターニャは、仕方なく、レスの所へ訪ねて行き、どんなことをするのか見せられる(3枚目の写真、左端では、全裸の女性が足を広げて見せている。それをビデオカメラで撮影し、インターネットで会員に流している)。それを見たターニャは、そんなことは、婚約者がいるのに とてもできないと思い、申し出を断る。
  
  
  

そして、唯一可能な “お金を得る手段” として、献血を行う(1枚目の写真)〔現在のWEB上で、600ccで100ポンド(300ccで50ポンド)と書いてあった。1999年の状況は不明〕。一方、ターニャとアルチョームが気に入ったアルフィーは、中古のTVを手に入れると、食券よりはまともな食品と一緒に2人のアパートを訪れる(2枚目の写真)。アルチョームに呼ばれて出て来たターニャは、インターネット配信の現実にショックを受けて、不機嫌な表情を見せたが、アルフィーが 持って来た食べ物について面白く説明を続けていると、次第に笑顔になる。しかし、いろいろな食べ物を持って来てくれたのに、部屋にはスプーンもないと言うと、気の利くアルフィーは、両方のポケットに入っていたスプーンを、両手でさっと取り出す(3枚目の写真)。そして、「ここから出るには300ポンド必要だ」と、集めた情報を披露する。「いくら持ってる」。「僅か」。アルフィーは、「腎臓を売ったら?」と冗談を言った上で、ロシアでは何をしていたか訊く。「子供向けの本にイラストを描いてたわ」。そう言うと、壁に掛けてあった絵を見せる。アルフィーは、その絵を見て感心する(4枚目の写真)。
  
  
  
  

TVまでプレゼントしてもらったのに、ターニャは、アルフィーに対して恩知らずな一方で、空港にも来なかった上に アパートにも会いに来ないマークのことしか頭にない。そこで、お金がないなら、自分で逃げようと再度試み、ある意味 犠牲者のアルチョームを連れ、荷物を持って逃げ出す(1枚目の写真)。目敏いアルチョームは、写真の鉄道橋をくぐる時、橋桁に監視カメラが点いているのに気付く。そこで、その先は、道路ではなく、茂みの中を歩くようにするが(2枚目の写真)、それでも、2人が向かった鉄のフェンスの向こうには、警察犬を連れた見張りが待っていて 捕まってしまう。そして、そのような逃亡者の集団の前に現れた怖そうな顔の役人は、「指定された収容エリアから逃げようとして捕まった者は全員連れ戻される。もし再度逃げようとしたら、その者には良いアパートも食券もない。刑務所の独房に入ってもらう」と、強い言葉で警告する(3枚目の写真)。
  
  
  

ターニャは公衆電話から2度目の電話をマークにかける。しかし、留守録になっていたので、ターニャは 「マーク、こんな場所、気が狂ってしまう。お願いよ、助けに来て」という伝言を残す(1枚目の写真)。すると、すぐに折り返し電話がかかってきて、ターニャは 「もしもし、マーク!」と満面の笑顔で電話に出る。そこで、このシーンは終わり、次のシーンでは、アパートのベッドに横になったターニャが泣き続け、それをアルチョームが歌って慰めている(2枚目の写真)。そして、歌い終えると、「あいつ、ノイローゼだと言ったろ」と、ある意味、マークなんかにこだわった母を責める〔一番迷惑したのはアルチョーム〕
  
  
  

翌朝、ターニャは、さっそく管理事務所に行き、「家に帰して下さい。本当は、難民じゃありません」と願い出る。「あんたは、虚偽の申請をしたのか?」。「はい」。「で、気が変わったから、家に帰りたい?」。「そうです」。「分かった。その場合、あんたは、クロイドンの内務省に手紙を書いて、申請を正式に取り下げる必要がある」。「どのくらい時間が?」。「3~6ヶ月だ」。その言葉に、ターニャはショックを受ける。取り下げるだけでも、運が悪ければ半年、こんな惨めな場所で、何もせずに暮らさなければならない。それにターニャはまるで気付かないが、アルチョームは中学1年の残り半分の学業を受けられないかもしれない。これは将来に甚大な影響をもたらす。ターニャは、アルフィーに助けを求めるが、彼は、もっと最悪の事態もあると言い、ターニャの自分勝手な嘘による懲罰は当然だと指摘し、アルチョームはそれを店の中で聞いている(2枚目の写真)。アルチョームは、店のシャッターのボタンを押して、シャッターを下げ始め、アルフィーに注意される。アルフィーは、「あんたには、息子がいるし、彼は元気にやっている。英語もぼちぼち覚えてる」と、ターニャに 母親としての自覚が足りないことも指摘する。
  
  
  

一家の長期滞在の悲惨さを少しでも和らげようと、親切なアルフィーは、破れた壁紙のある侘しい部屋を明るくしようと、ペンキや道具類(壁紙剥がし、刷毛)を持って訪れる(1枚目の写真)〔もちろん、ターニャへの想いもある〕。ターニャは不在だったが、その頃、この “マークが嘘つきで婚約者ではなくなった後も、何が何でもここを出たい” と思う単純思考の女性は、禁断のヌードのインターネット配信でお金を稼ごうと、再度、レスの所に行く。レスは、ターニャが何をすればいいかを、自らが(ブレザー姿のまま)やってみせる。その行為は、挑発的な姿勢で女性の裸体を視聴者に見せるものだが、あくまで単独行動で、男性が絡むような卑猥なものではなかった。この不愉快な場面のあと、場面は再び部屋に戻り、アルフィーとアルチョームが、仲良く、楽しみながらペンキを塗っている様子が映される(2枚目の写真)。ペンキを塗り終わると、アルフィーが、アルチョームに長椅子の前の部分を持たせて 2人のガランとした部屋まで運んで行く様子が映される(3枚目の写真)。
  
  
  

レスの所では、ビデオカメラの前で、ターニャがレスに言われた通りに、徐々に服を脱いでいく。しかし、まだブレジャーを付けた状態で、テディベアを抱いて体を撫でるよう指示されると、自分のしていることが情けなくなって、泣き出す(1枚目の写真)。その頃、すべての作業が終わった部屋では、ベランダに向かう狭い通路で、2人が背中と脚を使って壁を登る競争を始める(2枚目の写真)〔アルフィーによれば、スパイダーマンの真似〕。2人は親子のように仲がいい。そこに、精神的に打ちのめされたターニャが帰ってくる。アルフィーは、「目を閉じて。俺を信じて」と言い、ペンキを塗った部屋に入れる。アルフィーは 「気に入った? 良くなっただろ?」(3枚目の写真)「壁紙は最悪だったから、撤去した。これで、前より 家らしくなったんじゃないかな。長椅子にはノミがいっぱいいたから、燃やした。こっちの方がいい。これ見て」と言って、取り換えた天井の照明器具も見せる。しかし、ターニャの顔には笑顔はない。アルフィーは、喜んでくれると思っていたので、「大丈夫か?」と訊く。ターニャは、ようやく笑顔になり、「ホント、素敵ね」と言う。「どこか変えて欲しいんなら、変えるよ」。「いいえ。ホントに素敵よ。気に入ったわ。どうもありがとう」。アルフィーはさっそく誘いをかける。「俺は君を連れ出したい」。「いいわ」。
  
  
  

アルフィーが連れて行った先は、ビンゴ会場。中には、大勢の白人のお婆さんたちがいる。アルフィーは数字を読み上げる係〔ここで、絶対に不合理なのは、中東移民が一人もいなくて、100人を超える英語の分かる老人(恐らく、老人ホームのイギリス人)がいること。だから、どう見ても、ここが難民収容施設の中だとは思えない。なのに、どうしてターニャは入れたのだろう? 矛盾があるとしか思えない〕。そのターニャは、日中体験した屈辱を晴らそうと、酒に溺れている(1枚目の写真)。ビンゴが終わると、誰もいなくなった席の1つに2人は座り、アルフィーは ビンゴが如何に老人に適したゲームかを熱心に話している。すると、突然、ターニャが両手で頭を抱えて泣き出す。びっくりしたアルフィーは理由を聞くが、インターネットでの屈辱の話など恥かしくてできないので、自分の過去の失敗に話に すり替える。「それは、私がこれまでに犯した間違いに対する罰なの。私、すごくいっぱい間違いを犯してきたから」。アルフィーは、人間とはそういうものだと慰めるが、ターニャは、「私には必要なの… 恋をしてることが。愛なしでは生きられない」と、自分の異常な心理状態を告白する。「二度の離婚は、私にとっても息子にとっても、すごく悪いことで、今、私たちがここにいるのも〔3度目の結婚をしようとした〕、私が間違いを犯したからなの」(2枚目の写真)。このあと、2人は外に出て、アルフィーが簡単なワンハンドフードを購入し、2人で食べながら、アルフィーは自分の過去を打ち明ける。①8歳の時、ボクシング・ジムに連れて行かれ、同年配の子に3発ぶち込んでノックアウトし、才能に目覚めた、②誰かを殴って、刑務所に入り、戻る所もないので、6年前にここに来た(3枚目の写真)。アルフィーは、アパートの入口でターニャと別れる際、明日、3人で一緒に出掛けようと誘い、ターニャもOKする。
  
  
  

翌日、アルフィーは、2人をアパートのすぐ近くの海岸に連れて行く。そこには、1隻のヨットが砂浜に乗り上げていて〔潮が満ちていない〕、3人は乗ってみて雰囲気を楽しむが、アルフィーは、すぐに 「これは俺のもんじゃないから、降りた方がいい」と言って、ヨットから降りる。そのあと、海沿いの遊歩道に立って海を見ていると、突然、大きな波が打ち寄せ、3人は頭から波をかぶる(1枚目の写真)。3人はすぐにアパートに戻り、ターニャはアルチョームを洗面所に連れ込むと、海水をタオルで拭き取る。その時、アルチョームは、「ママ、なぜ彼とラヴしないの?」と訊く。「マークよりイイじゃない」(2枚目の写真)。ターニャは、「心が勝手に決めることなのよ。彼、マークよりいい人なんだけど」と、ラヴできない理由を話す。そのあと、アルフィーは 自分が頬を叩かれて鼻血だらけになった時のことを早口で話すが、ターニャはニコニコしているだけなので、 「俺の話、聞いてないな?」と訊くと、「知ってるでしょ。あなたの英語、ほとんど分からないの」〔結構普通に話していたが…〕「でも、あなたを見て、声を聞くのが好きなの」と答えたので、アルフィーは満足する(3枚目の写真)。
  
  
  

恐らく次の日。海岸沿いの歩道で、ターニャの話は続く。「私は森の中で、母、祖母、曾祖母の3人の女性と一緒に育ったの。それが、私をこんな変人にした理由。みんなが同じ間違いをくり返したから。ロクデナシと結婚し、子供を連れて別れた後、一生愛を求め続けたの」(1枚目の写真)。その頃、難民の子供達と仲良くなったアルチョームは、レスのスタジオで何が行われているかを見てしまう(2枚目の写真)。その日の夜、アルチョームと仲間の2人は、鍵を壊して店に押し入り、ビール缶を1箱盗み出す。一方、誰もいないビンゴ会場では、アルフィーが音楽をかけてターニャと踊り、キスを交わす(3枚目の写真)。
  
  
  

翌日、アルフィーは、ターニャが描いたイラストの額を壁にかける(1枚目の写真)。そのあと、問題が起きる。部屋のドアがノックされ、レスが現われる。レスは、「ターニャ、何と言えばいいのか。先日のことを詫びに来たんだ。君は人気者なんだ。恥ずかしがり屋の女学生が気に入ったというメールが殺到してる。だから、また戻ってきてくれないか?」(2枚目の写真)〔ターニャが恥ずかしくて中断したところまで、インターネットで配信されていた/これだけ反響がなかったら、レスはきっと来なかった〕「あの日の分、まだ払ってなかったろ」と言うと、250ポンド渡す。「戻って来てくれたら、300ポンド払うからね」。そう言うと、レスは帰って行く。しかし、その話は、アルフィーとアルチョームに聞かれていた。アルフィーは 「どういうことだ?」と訊く(3枚目の写真)。「何かの間違いよ」。それが嘘だと分かっているアルフィーは、「そうだろうとも!」と言うと、さっさと部屋から出て行く。レスのスタジオの中で何が行われているか見てしまったアルチョームは、母もあれと同じことをしていたと思うと、恥ずかしくて耐えられなくなり、母をじっと睨む(4枚目の写真)。
  
  
  
  

母は、夕食を用意するが、アルチョームは席につかず、窓に寄りかかっている。「食べないの?」。「お腹空いてない」。そして、「あのお金、何なの?」と訊く。「あなたには関係ないわ」。「あの男はポン引きだ」。「違うわ。座って」(1枚目の写真)。「何やったの?」と言うと、返事など聞きたくないので、「散歩して来る」と言って 部屋を出て行く。アルチョームは、仲間の2人と一緒になって、ウォッカを回し飲みし、酔っ払いって歌い出す(2枚目の写真)。そのあと、3人は、遊園地のコーヒーカップに乗り、自分達で回転させて遊ぶ。アルチョームは気持ちが悪くなり、カップから降りる。暗くなりかけても息子が帰ってこないので、ターニャは心配して探しに行くが、見つからない。翌朝になり、アルフィーが店のシャッターを上げると、店の前で吐いたまま倒れているアルチョームを発見し、抱き上げると(3枚目の写真)、客が開店を待っていたのに 店を閉めてしまう。
  
  
  

恐らく、それから数時間後、レスのスタジオで若い女性が淫らな役割を演じていると、そこに角棒を持ったアルフィーが乱入してきて、手当たり次第に破壊し始める(1枚目の写真)。アルフィーが出て行った後には、殴られて気絶したレスが床に倒れ、それがインターネット配信の画面に映っている(2枚目の写真)〔アルフィーの顔は、6年もここにいるので知られているハズ。こんなことをした以上、今まで通り 店を続けられるのだろうか?〕。次のシーンでは、部屋に戻ったアルチョームを、ターニャが抱いている。「あそこで 何したの?」。「カメラの前で、裸になれと言われたの」(3枚目の写真)。「裸になったの?」。「いいえ。始めたんだけど、バカみたいに泣き出したの」。「でも、お金くれたじゃない」。「私に、戻って欲しいから」。「戻るの?」。「まさか、戻るもんですか」。「じゃあ、僕たち、これからどうするの?」。「分からない」。そこにアルフィーが、「ドアが開いてた」と言って入って来ると、「荷物をまとめて」と言う。「なぜ?」。「ここから連れ出してやる」。「いくら?」。「要らん」。「さあ、行くぞ。俺を信じろ」。
  
  
  

夜になり、入江の周りの道路上の見張りがいなくなると、それまで道路擁壁の砂浜側に隠れていた3人は姿を現わし、アルフィーは、数日前に乗せたヨットに行くようアルチョームに指示する(1枚目の写真)。アルチョームは、ぬかるんで歩きにくい砂浜を歩いてヨットに這い上がる(2枚目の写真)〔以前より潮が引いて海が遠くなっている〕。次いでターニャがヨットまで行き、手に持った額をアルチョームに渡してから、両手を使ってヨットに上がる。ターニャがヨットの室内に消えると、最後はアルフィー。次のシーンは、狭いヨットの内部に座り込んだ3人。アルチョームが、「どのくらいここ いるの?」とアルフィーに訊く。「潮が上がるまで」(3枚目の写真)〔干満の潮位の差は3~4m〕。アルチョームが眠ってしまうと、ターニャは、「私… あのポルノの場所に行った時、何もしなかった」とアルフィーに話しかける。アルフィーは 「聞きたくもないし、知りたくもない」と冷たく答える。ターニャは、「傷付けてしまってごめんなさい」と謝る。「心配ない」。「あなたがとても好き」〔love ではなく like と言っているので、親切への感謝の意味で、愛情とは無関係〕
  
  
  

潮が満ちてくると、ヨットは海面に浮かぶ。アルフィーは錨を引き上げ、ヨットの小さくて音の低いエンジンを始動させ、ゆっくりと湾から出て行く(1枚目の写真、アパートからは、まだそれほど離れていない)。ヨットは、波の荒い外洋に出て進む。そして、浜の沖に停めると、3人はそこから海を少し歩き、ぬかるんだ浜辺に辿り着く(2枚目の写真)。まだ暗いので、アルフィーは砂浜で焚き火をしてアルチョームを眠らせる。ターニャが寄り添うように横になったので(3枚目の写真)、「なぜ、俺と一緒にいない?」と訊くと、「私は夢を見続けないと。これまでずっとそうしてきたように。故郷に戻って、また人生を始めないと」と冷静に答える。
  
  
  

明るくなり、3人が海岸から離れていくと、映画の最初の方に出て来た石炭火力発電所が見えるので、ヨットは、海外沿いに南に進んだことになる。そして、自動車専用道の脇まで来ると、アルフィーが腕を上げて、ヒッチハイクのサイン(1枚目の写真)。アルチョームは、アルフィーが好きなので、「ママ、なぜ、ここで彼と一緒に暮らさないの?」と訊くが、自分のことしか考えないターニャは、黙っている。すると、親切な大型トラックが停まってくれる。アルフィーが運転手に 「どこに、行くんだい?」と訊くと、「ロンドン」という返事。「2人、乗せてってくれないか?」。OKが取れたので、「彼がロンドンまで連れてってくれる」とターニャに告げる。「いくら?」。「タダ」。ターニャが荷物をトラックに入れていると、アルチョームが抱き着いてくるので(2枚目の写真)、アルフィーは強く抱き締める〔結局、この2人の仲が一番いい〕。アルフィーは 「ママの面倒を見るんだぞ」と言って、トラックに乗せる。ターニャには、「家に帰ったら、すべて上手くいくといいな」と声をかける。それに対し、ターニャは 「あなたのこと、いつまでも忘れない」と笑顔で言う(3枚目の写真)。一旦トラックに乗り込んだターニャは、絵の額を取り出すと、アルフィーにプレゼントする(4枚目の写真)。映画はここで終わるが、アルフィーは一体どうするのだろう? 盗んだヨットでマーゲイトに戻るのだろうか? かなり危険を伴う行為だし、レスに対する暴行と器物破損で逮捕されるかもしれない。しかし、彼は、カバンも何も持って来なかった。これでは、アルフィーが可哀想過ぎる。
  
  
  
  

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