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Oliverio y la Piscina オリヴェリオとプール

メキシコ映画 (2021)

離婚寸前の父の突然の病死と、セラピストでありながら 自分の息子を “セラピストの目” でしか見ないダメ母に絶望した13歳のオリヴェリオは、自宅のプールサイドのマットレス・チェアから絶対動かないと宣言し、チェアで寝て、起きてもチェアに寝転がっているだけの生活を送り始める。この非常に変わった、そして、非常に制限されたカメラ空間の中で、とてもよくできたストーリーが展開される。映画は11の賞に輝き、主役のオリヴェリオ役のAlejandro Areánも、ワールドフェスト・ヒューストン国際映画祭で新人賞を受賞している。脚本で感心するのは、母とその恋人が同じメンタルヘルス・クリニックに勤めるセラピストという設定。セラピストとしてはあり得ないような難解な言葉で、顧客を心理的に困惑させる2人だが、母はその態度を夫と息子にも貫き、それが、夫との離婚、息子の離反へと直結していく。脚本でもう1つ感心するのが、プールサイドのマットレス・チェアでの1週間の生活を、無理のない出来事で観客に倦怠感を抱かせず、最後まで楽しく観させることに成功した点。それには、オリヴェリオ役のAlejandro Areánの、控え目だが多様な演技と、メキシコ映画の中で一番のハンサムさが貢献している。

学校から帰宅したオリヴェリオを待ち受けていたのは、父の離婚話。しかし、その詳細が話される前に、父は大動脈瘤の破裂で即死。葬儀のパーティの際、プールサイドのマットレス・チェアを見たオリヴェリオは、パーティの雰囲気がたまらず、一人になりたくてマットレス・チェアで一晩を過ごす。翌日は、父の遺体を火葬場に運び、代わりに遺灰をもらいに行くため、嫌いな母と一緒に長時間車に乗るが、帰宅するとすぐ、遺灰の入った壺を持ってプールサイドのマットレス・チェアに戻り、そこから動こうとしない。翌日、学校に行くのを拒んだオリヴェリオに対し、怒った母は、「そこに住みなさい! そこが あなたの生活空間よ!」と言ってしまう。さらにその翌日、学校に電話した母は、学校を休んでも欠席としないという嬉しい判断を聞き、嬉々としてオリヴェリオに知らせに行くが、息子の無関心な態度に再度怒り、「これからは、お腹が空いたらキッチンに行き、自分で何か作りなさい!」と言ってしまう。これで、マットレス・チェアから動かないオリヴェリオは、食事もできなければ、排便もできなくなる。セラピストのくせに、息子の感情も理解できずに、崖っぷちに追いやる母は最低だ。彼を救ってくれたのは、こっそり食べ物を融通してくれた、お手伝いさんのロシータと、学校が学業遅れを避けるためにくじ引きで送り込んだマリアンナというクラスの同級生。特にマリアンナは、その特異で前向きな発想で、内に閉じ籠ったオリヴェリオの心を徐々に開いて行く。それに加えて、離婚騒動の原因になった母の恋人の不手際で、2人の関係が永遠に終わり、オリヴェリオはようやく父の死を乗り越えることが出来る。

オリヴェリオ役のアレハンドロ・アレアン(Alejandro Areán)については、これが映画初出演ということ以外〔3年前のTVドラマに端役として出ていた以外〕、何も分からない。

あらすじ

映画の冒頭、仲良しの2人の少年が 車1台いない通りの中央を、自転車を並走させている。その中に、主人公のオリヴェリオが笑顔で乗っているごく短いシーンもある(1枚目の写真)。オリヴェリオが自宅に近づくと大きな木の扉が自動的に開き、オリヴェリオが中に入って行く(2枚目の写真)。扉の中は、自然の森になっていて、オリヴェリオはカーブを曲がったところに自転車を倒して置くと、現代的なデザインの邸宅に向かう(3枚目の写真)。

家に入ったオリヴェリオに最初に声をかけたのは、お手伝いさんの “男みたいな中年の女性” ロシータ〔有名な男優 Jorge Zárateが演じている〕。「今日はどうでした?」。「いいよ」。「何か冒険でも?」。「ううん」。そこに父が現われ、「学校はどうだった?」と訊く。「いいよ」。そして、ドアのところに立っている父を見上げると、父の横を通り抜ける。一方、オリヴェリオの母リリは、市街地にあるメンタルヘルス・クリニックで、セラピストとして、幼い男の子と両親に対し、「こうした好奇心は、両親がベッドで何をしているのか知りたいと思う欲求というよりは、彼自身の性別を知りたいという子供として当然のものなのです。このような状況は、私にはゴルディロックスを思い起こさせます。パパ熊のベッドのヘッドボードが高すぎるのです。ママ熊のフットボードも高すぎるのです。このことは、お互いの結び付きや親密さが、ゴルディロックスにとって手の届かない状況だということを示しているのです。来週またお会いしましょう。でも、覚えておいて下さい。長く続く緊張に成熟した方法で対処し、エディプス・コンプレックスを乗り越えようとしない人たちには、幸せはあり得ないということを」と話している。しかし、こんなことを言われても、両親は何一つ理解できずに困惑している。これで、リリが自己陶酔型の2・3流のセラピストだと分かる〔因みに、“ゴルディロックス” とは、熊の親子の留守中に、ゴルディロックスという女の子が、勝手に熊の家に入り込み、ポリッジ(おかゆ)を食べ、椅子をこわし、ベッドに寝ているところを、帰宅した熊たちに見つかったので、森に逃げる話。“エディプス・コンプレックス” とは、3歳~6歳の時期に見られるもので、男児が母に強い好意感情を抱き、母を自分のものにしたいという感情から、同性の父に敵意や対抗心を抱くという無意識の心理状態のこと〕。リリは、同じクリニックで働いているマタという男のセラピストに 「今日は、これからオリヴェリオに話すわ」と言った後、激しいキスをする。母が家に戻り、3人での夕食が始まる。それは夕食というよりは、今後どうするかをオリヴェリオに伝える場なのだが、会話を聞いても、結局、どうしたいのか 良く分からない。母→息子:「これがみんなにとって最善のなの、オリ〔オリヴェリオの愛称〕」。息子→父:「どこに住むの?」。父→息子:「とりあえず、スサンナと」。息子→父:「スサンナなんかと?」。母→息子:「スサンナのどこが悪いの? あなた、スナンナ好きだと思ったけど」。父→息子:「これは一時的なものだ。ちゃんとした配偶者を見つけるまでの」(2枚目の写真)。息子→父:「パパ、出て行きたいの?」。父→息子:「いいや」。父→母:「出て行きたくない」。母→息子:「誰も、出て行くことを望んでない」。息子→父:「それなら、出て行かないで」(3枚目の写真)。父→息子:「そんな単純なものじゃないんだ」。母→息子:「そんな単純なものじゃないの」。ここで、父は立ち上がり、隣の部屋に何かを取りに行く。母はオリヴェリオに、「大げさに考えないで。これは、誰にも容易じゃないけど。みんなにとってベストなことなの」と話す〔なぜ、父は出て行くのか? 母とマタ医師が夫婦になりたがっているからなのか? この立派な家は、元々母のものだから、父が出て行くのか? その時、オリヴェリオはどうなるのか? 特に、オリヴェリオがどうなるかのかが全く分からない〕。すると、隣の部屋で大きな音がする。夫が床に倒れているのでリリが飛んでいく。母は、部屋の入口に立っているオリヴェリオに、救急車を呼ぶのでスマホを取ってくるよう命じる(4枚目の写真)。しかし、リリが脈をみると、夫が死んでしまったと分かる〔原因は大動脈瘤の破裂〕

葬儀のパーティに出ていた人々から、同情で肩を触られたオリヴェリオだが、誰とも話すこともなく、父の棺の前に行くと、しばらく父を見つめる(1枚目の写真)。棺のすぐ横がテラスになっていて、そこに立つと、下のプールと、2つのマットレス・チェアが見える(2枚目の写真、左端の黒い部分はオリヴェリオ)。オリヴェリオは、誰一人親しい人はいないので、プールサイドまで降りて行くと、マットレス・チェアの一つに座って悲しみに耐える(3枚目の写真)。

パーティ会場には、亡くなった父の双子の兄弟だったレモスが現われ、顔が似ているので、衆目を集める。レモスはロシータと悲しみを分かち合った後、棺に眠る双子と面会し、すぐ横のテラスから、プールサイドにいる甥に気付く。そこで、プールサイドにあるもう一つのマットレス・チェアに座ると、オリヴェリオに話しかける。「君の気分を良くするために、何て言葉をかけようかと考えてた」(1枚目の写真)「だが、何も思いつけなかった。ごめんよ」。オリヴェリオは、「パパが死んだ時、胸騒ぎした? 双子って、特別なつながりがあるってされてるから、片方が危険にさらされると感じるとか。何も感じなかった?」と尋ねる(2枚目の写真)。「いいや、何も。ロシータからの電話で知った。一緒に中に行かないか?」。オリヴェリオは とんでもないという顔をする。レモスは 「何か必要なことがあれば、何でも言ってくれよ。誰でもそう言うが、私は本気だ。どんなことでも。いいね?」。オリヴェリオは頷く。それだけ言うと、レモスはパーティ会場には戻らず、階段を上がって出口に向かう。途中でリリとマタが話し合っているのを見て、「今晩は」とだけ言って上がって行くが、リリは、相手が死んだ夫の双子の兄弟なので、放っておけなくて、マタを残してレモスの後を追う。門まで来ると、そこには、レモスが待たせてあるタクシーが停まっている〔双子の顔だけ見て、すぐ帰るつもりだった〕。リリは、泊ってくよう勧めるが、スサンナのところに滞在すると言い残してタクシーに乗る〔スサンナは、映画には出て来ない。一体、2人とどのような関係にある人物なのだろう?〕。リリがマタの所に戻ると、この破廉恥男は、「今夜、泊って欲しいか?」と尋ねるが、さすがにリリは断る。

翌朝になり、ベッドから起きてオリヴェリオを起こしに行った母は、彼がベッドで寝た形跡がないのに気付くと、2階に探しに行き〔普通の家とは逆で、一般道に面している2階が食堂とか一般スペースで、寝室は1階にある〕、朝食用意中のロシータに 「オリヴェリオはどこ?」と訊く。ロシータは、搾りたてのオレンジジュースを差し出しながら、「自分の部屋にいませんか?」と訊く。次のシーンでは、オリヴェリオがプールサイドで寝ているのに気付いた母が、階段を降りてプールまで呼びに行く(1枚目の写真、母は右端)。そして、「ここで寝たの?」と訊き、棺が搬出されるので2階まで来るよう告げる。オリヴェリオはプールの水で顔を洗おうとするが、ネクタイが垂れ下がって邪魔になるので、ネクタイを外して顔を洗う(2枚目の写真、矢印はネクタイ)。そして、棺が運び出されるのを見送る(3枚目の写真)。

そのあと、母の車に同乗して火葬場に向かうが、オリヴェリオ〔ネクタイはプールに放置〕は、助手席の窓から外を見て、母とは一切口をきかない。火葬場で青い陶器の壺に入った遺灰を母が受け取ると、オリヴェリオはすぐ壺を奪い取り、さっさと車に向かう。そして、帰りの車の中でも、壺を抱いたまま、助手席の窓の外を “抜け殻状態” で見ている(1枚目の写真)。車が家に着き、オリヴェリオが降りようとすると、母が 「あなたが泣いているところ 一度も見てないわ。こんな時には、弱さを見せたっていいのよ。泣くことで解放されるから」と言うと、オリヴェリオは 「じゃあ、なぜ泣かないの?」と、涙一つ見せない母を批判し(2枚目の写真)、さっさと出て行く。そして、壺を持ったままプールサイドのマットレス・チェアに横になる(3枚目の写真、上の矢印は壺、下の矢印はネクタイ〔そのまま残っている〕、左端の黒い部分は母)。ここから、オリヴェリオの “イスから動かない生活” の第一日目が始まる。スマホの着信音がしたので、スマホを見てみると、クラスメイトからの短いメッセージがたくさん入っているが、ハンサムでモテるので、ハートだけの表示も多い。それに腹を立てたのか、オリヴェリオはスマホをプールに投げ込む。

母は一人で夕食をとりながら何事か考える。その結果なのか、プールサイドではロシータが持って行った夕食を、2人で仲良く食べている(1枚目の写真、矢印はネクタイ〔場所が動いている〕、壺はテーブルに移動)。暗くなり、ロシータが皿などをシンクで洗っていると、そこに母が布団を持ってやって来て、「これをオリヴェリオに持って行って」と頼む(2枚目の写真)〔優しそうにみえるが、外で寝るのを止めさせる気はない〕。あたりが真っ暗になった頃、父が隣のチェアに笑顔で座る。オリヴェリオは、「ここで何してるの? ここにいちゃダメだよ」と言うと、父を森まで送って行ってサヨナラする。すると、マットレス・チェアに横になっていたオリヴェリオの目が開くので、夢だと分かる〔布団を被ってないので、寒くて目が覚めた? オリヴェリオは、この後も、いろいろな短い夢を何度か見る〕。そこで、布団を全身にかけてもう一度眠ることにする(3枚目の写真)。

2日目の朝、水平にしたマットレス・チェアの上で横になっているオリヴェリオに向かって、母は 「学校に行かないつもり? オリヴェリオ、片付けないといけないことがたくさんあるけれど、あなたは 普通の生活を続けながらそれをしないといけないわ」(1枚目の写真)「責任を無視すれば、良くなるどころか、悪くなる一方よ! 雪だるま式にね。感情的な問題として始まったことが、現実的な問題に変わっていくの。あなたはお父さんを亡くした。誰にとっても辛いことよ。私もショックを受けている。でも学校で遅れをとりたくないでしょ? オリヴェリオ、起きて、シャワーを浴びなさい!」と、セラピスト風に長々とは話す。「行かないよ!」。怒った母は、「そこから動かないの? 完璧ね。偉いわ。そこに住みなさい! そこが あなたの生活空間よ!」(2枚目の写真)「自分の島で もがいてなさい!」と怒鳴って去って行く〔これが、セラピストの態度?〕〔因みに、ネクタイはもうない〕

日中になって暑くなってくると、オリヴェリオは喪服の上着を脱ぎ、それでも暑いので、テーブルの上のナイフを見る(1枚目の写真、矢印)。そして、ナイフを掴むと、Yシャツを脱ぎ、肩の辺りを切り裂き始める(2枚目の写真、矢印)。そして、腕の部分がなくなって涼しくなった袖なしYシャツを着てマットレス・チェアに横になる(3枚目の写真、矢印)。

次のシーンでは、隣のマットレス・チェアにレモスが横になっている。オリヴェリオは、遺灰について、「それ、海にまくの?」と尋ねる。「彼は、海が嫌いだった。一番モダンな家具の上に、壺のまま置いておけばいい」。オリヴェリオは、「僕の父さん、変わった人だった」と話題を変える(1枚目の写真)〔サングラスはどこで手に入れたのだろう? レモスもサングラスをしているので、オリヴェリオの分まで持って来たのだろうか?〕。「そうだな」と笑顔。「あなたたち2人が、(双子なのに)全然違ってたのは、もっと変だね」。「そのことは、君のおばあちゃんが話してくれなかったか?」。オリヴェリオは首を横に振る。「私たちが生まれた時、母は何らかの理由で乳房が片方しかなかったから、私がお乳を全部飲んで、ロムルス〔オリヴェリオの父〕は哺乳瓶から飲んだんだ〔液体ミルク、粉ミルク、解凍した母乳や搾母乳〕を飲んだんだ」。「どうして交代しなかったの? しばらく おじさんが飲んで、それから父さんが飲むとか?」。「知らない。一度もしなかった」。夜になり、母は、ロクデナシのマタとスマホで話している。マタが 「あの子は良くなったか?」と訊くと、母の返事は 「悪くなってる。どうしていいかわからないわ。断固として私を寄せ付けないの」。「リリ、落ち着いて。時間と空間を与えるんだ」。「あの子が、私をどんな風に見てるか知らないでしょ。まるで暗殺者よ」。「非難するのも、過程の一部さ。明日、話してみるよ。中立的な立場の人間なら受け入れてくれるだろう」(2枚目の写真、矢印は精神安定剤)。

3日目の朝、スマホで学校の教師と話し合った直後、母はスマホを手に持ったままオリヴェリオの前に立つと、「学校の人たちはとっても理解があるわ。あなたのつらい経験を理解して、休んだ日数はカウントしないそうよ」と、嬉しそうに話す。その間も、オリヴェリオはロシータが持って来てくれた朝食を食べている(1枚目の写真)。母はさらに、教師の話として、欠席による学業の遅れが生じないよう、クラスの生徒が助けに来てくれると、付け加えるが、オリヴェリオは、それに何の興味も示さず、ひたすら食べ続ける。母が、「オリ?」と声をかけても、2回目にようやく、「何?」と言っただけ。「聞いてたの?」。「うん」。「そのひどいシャツ。あなたは、自滅的なスパイラルに陥ってる。自分自身のために何とかしないといけないわ」。母は、そう言うと、オリヴェリオの皿を取り上げ、「これからは、お腹がすいたら、キッチンに行って、自分で何か作りなさい!」(2・3枚目の写真)と、無茶なことを命じて立ち去る。オリヴェリオは、その背中に向かって、「いいね、いますぐ 僕を餓死させろよ!」と言うが、母は喚いただけ。キッチンに行った母は、ロシータに、「もう食事を与えたり、甘やかさないで。自分でさせるのよ。“鬱(うつ)のサイクルから抜け出すにはエンドルフィン〔日々の幸せ感を高める脳内ホルモン〕を作らせないと」と命じる(4枚目の写真)。まさに、冒頭の、3人の親子にとって意味不明のアドバイスをした2・3流のセラピストらしい意見だ。

学校の教師が約束した通り、授業が終わった頃、映画の冒頭で仲良く自転車を走らせていた一番の親友が訪ねてくる。そして、プールの中に落ちているスマホを見つけると、「あれ、君のスマホか?」と尋ねる(1枚目の写真)。返事はなかったが、「さあ、遊びに行こう」と声をかける。ようやく口を開いたオリヴェリオは、「うんざりだ」と答える。「来いよ」。近くで仕事をしていたロシータは、「オリは、もうそこから動かない。そこが、オリの生活空間なの」と説明する。親友は、「いったい どうした?」と訊き、オリヴェリオは、「ここから動かない」と答える。「どこから、動かないんだ?」。「ここから」と、マットレス・チェアを指す(2枚目の写真)。呆れた親友が、「なんで動かないんだ?」と訊くと、「なんでそんな労力を? いつ動脈が破裂して、死ぬかもしれないのに」という変な返事。「学校には来ないんか?」。オリヴェリオは首を横に振る。「どこで、ウンチする?」。「水にしゃがむ」。「飛び込み台でもありゃいいけど、水の中じゃできないぞ」。「まさか、お尻を乗り出すさ」。親友は、「なあ、遊ぼうよ」と言い、オリヴェリオの足を掴んで、マットレス・チェアから引きずり出そうとする。しかし、オリヴェリオがもう片方の足で親友の顔を蹴ったので、彼は、弾き飛ばされる(3枚目の写真、左の矢印は倒れる方向、右の矢印は丸めた布団の上の喪服)。怒った親友は帰ってしまう。

夜になり、リリはマタに悩みを打ち明ける。「もう、どうしたらいいか分からないわ。今日、あの子は、一番の親友に暴力を爆発させたの。悲劇で終わる可能性すらあったし、結局、あの子は、あそこから動かなかった。あの子が私に対して抱いている憎しみを心配してたけど、今では相手構わず憎んでいるわ」。それを聞いたマタは、セラピストとしてオリヴェリオと話してみると言い、プールサイドまで降りていく。そして、オリヴェリオの隣のマットレス・チェアに座ると、「悲しみ方は人それぞれだ。君には 痛み、苛立ち、やましさを感じる権利がある。君のお母さんは素晴らしいセラピストなので、君に起きていることを、お母さんと共有しないのは危険なんだ。今、君には、出口の見つからない情動のスパイラルが発生していて、それは時限爆弾みたいなものだから」と、2・3流のセラピストらしい、聞き手を惑わすだけの話をする(1枚目の写真)。そして、その先は、初めて普通の言葉で続ける。「君のお母さんと私には計画がある。君はその一部になれる。ただし、役割は果たしてもらわないと。チームの一員として。私は、君のお父さんの代わりになるつもりはない。君はもう大きいから。私たちは、親しい仲間になれる。でも、今すぐ、私たちは君のお母さんを助けてあげないと。お母さんも辛いんだ。難しい時期なのに、君が話すのを拒んだり、こんな場所に籠ったりしていると、事態はますます悪くなる」。それに対して、オリヴェリオは、「どこが、“難しい時期” なのか分からないな。ママは、繁雑な手続きなしにパパを処分したじゃないか。そして、すべて手に入れた。だから、幸せで一杯。すべてが望んでいた以上に うまくいったんだから」と、皮肉たっぷりに反論する(2枚目の写真)。何も言えなくなった、ダメ男は、早々に退散する。そして、家に戻って、リリから 「どうだった?」と訊かれると、恥知らずにも、両手の親指を立てて、“大成功” だったと嘘をつく。

その夜、オリヴェリオは、パンツ1枚で、飛び込み台〔存在しない〕の先端から、強制的にプールにジャンプさせられる。プールの中は水ではなく、汚物(1枚目の写真)。悪夢が覚めると、一度もトイレに行ってないので、便が出そうになっている(2枚目の写真)。そこで、マットレス・チェアから出ると、家に駆けこみ、母に見つからないよう、2階まで駆け上がると、トイレに飛び込む。そして、溜まったものを出してすっきりする(3枚目の写真)。その時、母が2階のキッチンまで来て、冷蔵庫を開けたのでヒヤりとするが、母はゴキブリに注意を逸らされて、抜け出したのがバレずに済む。

4日目。オリヴェリオは、何もすることがないので、つまらなそうにマットレス・チェアに寝転がっている(1枚目の写真)。そして、午後になり、ロシータが呼び鈴に応えて門を開けると、1人の少女〔マリアンナ〕が立っていて、「オリヴェリオが授業に遅れないようにするため、来ました」と言うので、さっそく招じ入れられる。マリアンナがプールサイドに案内されると、そこでは、オリヴェリオが昨日のナイフで長ズボンを切って、半ズボンにしている最中だった(2枚目の写真、矢印はナイフ)。マリアンナは、「何してるの?」と訊き、オリヴェリオはびっくりして、見覚えのない顔を見上げる。そして、「ここで何してるの?」と尋ねる(3枚目の写真)。マリアンナは、それには答えず、背負っていたバックパックを隣のマットレス・チェアの上に置くと、「小川があるの?」と言って、林の中に入って行く(4枚目の写真)〔邸宅の大きさがよく分かる。マリアンナが立っている石の擁壁の向こうには 自然の渓流が流れている〕

オリヴェリオは、マリアンナが戻って来ると、サングラスをかける。マリアンナは隣のマットレス・チェアに靴のまま上がると、教科書を取り出し、ニュートンの第二法則(運動の法則)の項を読み上げ始める。オリヴェリオは、その姿を見ているが(1枚目の写真)、教科書の内容が耳に入っているとは思えない。そのうち、ロシータがやって来て、軽食を一緒に食べようと誘う。2階のテラスの屋外テーブルにマリアンナを連れて行ったロシータとの会話。ロシータ:「オリヴェリオの友だちじゃないの?」。マリアンナ:「いいえ、ぜんぜん。彼のこと好きじゃない。お高くとまってるから」。「じゃあ、なぜここにいるの?」。「くじを引いたら負けちゃって、ボランティアにされたの」(2枚目の写真)。ロシータは、リリから禁じられた “オリヴェリオのための食事” の代わりに作ったサンドイッチの紙包みをマリアンナに託し、マリアンナはそれを 「また、明日ね」と言って壺の横に置く(3枚目の写真、矢印、テーブルの下の小さな黒い物は、昨日切ったズボンの下部)。「明日もまた来るの?」。「もちろん。あなたが学校に戻るまで毎日」。マリアンナが去ると、朝から何も食べてなくて お腹が空いていたオリヴェリオは、さっそく紙包みを取ると、中のサンドイッチにかぶりつく(4枚目の写真)。

その日の夜、レモスがギターを持ってやって来ると、演奏してくれる。家の2階では、リリとマタが “双子のおじ” の来訪がオリヴェリオに及ぼす影響について議論している。その中で、マタはレモスのことを 「元義兄(弟)」と呼び、自分とリリの間に割って入る迷惑な存在とみなし、リリは、死んだ夫とは離婚した訳ではないので、“元” ではなく、これからも義兄(弟)であり続けると注意する。2人は、プールサイドに降りて行くが、その際、マタは自分が愛用してきた望遠鏡を、オリヴェリオの “治療” に役に立つと思って持ってくる(1枚目の写真、右端にリリと、三脚付きの望遠鏡を持ったマタ)。母は、レモスに、マタが 「オリのために望遠鏡を持ってきたの」と言い、一緒に食事をしないかと誘うが、レモスは 「スサンナとデートするから」と言って すぐ立ち去る。母は 「オリ」と呼びかける。「何?」。「一緒に来ない?」。オリヴェリオは 「ママたちの ロマンチックなひとときを台無しにしたくないから」と断る(2枚目の写真)。それを聞いた母は、「もう耐えられない!」と怒り(3枚目の写真)、さっさといなくなる。残ったマタは、「これは、あげるんじゃなくて、貸すだけだ。きっと面白いぞ」と笑顔で言う。

2階の食堂に戻った母は、ワインの2本目を開け、酔っぱらうと、マタを寝室に連れて行き、婚前セックスを始める(1枚目の写真)。マタが置いていった望遠鏡であちこち見ていたオリヴェリオの目に、母の部屋でマタがセックスをしている姿が入ってきて(2枚目の写真、矢印はマタ)、オリヴェリオは、穢れた物のように望遠鏡から離れる(3枚目の写真)。真夜中過ぎにトイレに行きたくて目が覚めたマタは、トイレで死んだリリの夫ロムルスに出会う。夫は 「私の妻を、私のベッドで犯すとは、敬意のかけらもない。なんて野郎だ!」とマタを詰(なじ)り、マタは 「あんたが決してできなかったことを奥さんにしたからか?」と、平気で反論する。ロムルスは、「お前は、私を殺した」と言い、いつの間にかマタの手に握られたナイフが、ロムルスの腹を刺していて、飛び散った血がマタの顔にかかる。その時、ベッドでマタが悪夢から覚め、ベッドから出ると恐る恐るトイレに行くが、今度は誰もいない。

5日目の朝、母はベッドで寝ていたマタに家を出て行ってもらい、ロシータと一緒になって、1匹のギキブリを退治すべく、すべての食器、調理器具をビニール袋に入れて家中に殺虫剤をまくが、ゴキブリの死骸は見つからない。この大騒動が終わった午後、約束通りやってきたマリアンナはいきなり服を脱ぎ始める。びっくりしたオリヴェリオが、「何してるの?」と訊くと、「ストリップショー」という返事(1枚目の写真)。しかし、実際には水着姿になって、プールに飛び込んだだけ。マリアンナがひとしきり楽しんでプールの底に足を置いて立つと、オリヴェリオは 「君って、すごく変わってるね」と言う。マリアンナは水面でバタバタしている働きバチを見て 「この虫、幸せね」と言って 細い木の枝でハチをすくい取ると、プールから出してやる(2枚目の写真、矢印は働きバチ)。オリヴェリオは、「そんな虫、どうせ数日しか生きられないよ。幸せについて考えてる時間なんてないんだ」と言う。マリアンナは、「命がそんなに短いなら、生きるのって とってもキツいわね」と言葉を返すと、オリヴェリオは、「それ元気になると、君を刺すかも。そしたら、“キツい” のは君だよ」と言う〔伏線〕。次のシーンでは、マリアンナは服を着て教科書を読み上げているが、どこで水着を乾かしたのだろう? マリアンナが読んだ項目は、運動量保存の法則(3枚目の写真)。教科書には、2台の車両の衝突が例にあげられていたので、マリアンナはわざわざ持参した2台の玩具のトラックの1台をオリヴェリオに渡し、10メートルほど離れて向かい合い、トラックを正面衝突させる。どっちのトラックも壊れず、運転手の人形が吹っ飛んだのはオリヴェリオの方なのに、なぜか彼は 「僕の勝ちだ」と笑顔で言う(4枚目の写真)。すると、マリアンナは悲しそうな顔で帰り支度を始める。「どうしたの? 僕、何かした?」。「私のパパ、交通事故で死んだの」。それを聞いたオリヴェリオは、暗く沈んだ顔になる。

夕方、マタが花束を持ってやってくる。マタは、今夜もセックスで楽しもうと思って来たのだが、リリは半日かけて行った消毒と掃除でくたびれているので、マタなどお呼びではない。そこで、すぐに帰らされることになったマタは、「せめて、息子さんに話してきていいかな?」と訊き、手で “どうぞ” と言われる〔それほど疲れている〕。マタが、水平になったマットレス・チェアで寝ているオリヴェリオに 「今晩は」と声をかけると、オリヴェリオは 「おじさん、今、ここに住んでるの?」と訊く。「いいや。君のお母さんに渡す物があって来たんだが、もう帰る。君が、どうしているか見たかったんだ」。オリヴェリオは 「夢をどう解釈するか知ってるの?」と尋ねる。マタは、夢の解釈について専門用語を並べ立てて博学であることを見せびらかした上で、「不安になる夢を見た?」と訊く(1枚目の写真)。「変な夢だった… あなたがトイレで僕のパパを殺す夢… ナイフで突き刺して」。その夢は、マタが昨夜遅くに見た夢と同じだったのでびっくりする。マタは、動揺から逃れるために、すべてをオリヴェリオのせいにする。「君の役割は父親を殺して一家の主になることだったが、運命に先を越されてしまった。今、君は自分の欲望に罪悪感を覚えている。父親の死を願ったことについて」(2枚目の写真)「私を父親の死の犯人にすることで、君は罪悪感を消そうとしたんだ」。そう言うと、薬剤ビンを取り出し、テーブルの上に置き、「朝1錠、夜1錠だ」と指示する(3枚目の写真、矢印)。

マタが階段を上がってプールから去るのと入れ替わりにロシータが夜食を隠し持って来て、オリヴェリオに食べさせる(1枚目の写真、矢印)。マタは、シャワーを浴びている最中のリリを見つけると、さっそく服を脱ぎ始めるが、リリーに、「明日、会いましょうと」と、きっぱり拒絶される。場面は、再び、プールサイドに戻り、オリヴェリオは 「もし、父が死なずに離婚してたら、ロシータは誰と一緒にいた?」と尋ねる。「あなたと一緒にいましたよ」〔この台詞でも、離婚したあと、オリヴェリオがどちらに引き取られたのかは確実には分からないが、父がロシータと親しかったことから、オリヴェリオが父に引き取られた可能性の方が高い〕。そのあと、夜なのに、マリアンナが水着姿でプールに現れ、水着の上半身を外して、オリヴェリオの方を向こうとしたところで(2枚目の写真)、目が覚める。オリヴェリオは、その夢のせいか、自慰行為を始める(3枚目の写真、矢印)。

6日目の朝、オリヴェリオを訪れたレモスは、望遠鏡を覗きながら、マタのことを 「変な奴だ」と批判し、「今、奴は、君の母さんのボーイフレンドだな」と、面白くなさそうに言う。そして、目がテーブルを向いた時、そこにある薬剤ビンに気付く。それが抗うつ薬だと分かると、レモスは真剣な顔になり、「これ、どうした?」と訊く(1枚目の写真、矢印)。「ママのボーイフレンドがくれた」。「なぜ?」。「たぶん、ママとヤッてる間、僕をモウロウとさせておくためだよ」(2枚目の写真)。「飲んだか?」。オリヴェリオは、まさかという顔をする。「これ、持ってくけど、いいな?」。オリヴェリオは頷く。レモスは、すぐにスマホでリリに電話する。「奴は、一体何を考えてる? 子供に抗うつ薬なんか飲ませるか? 奴はアホウだ。リリ、二度とさせないと誓え。さもないと、奴を殺すぞ」。その頃、クリニックでは、手にナイフを持ったマタが、若い男性に、訳の分からない説話を聞かせている。「私たちの社会がとてつもなく誤った方向に進むもう一つの誘因は、しきたりの喪失だ。私が本当に戦争に行くわけではないことは明らかだ。しかし、このナイフを研ぐ時、私は自分のために戦う用意をする。たとえ私の戦争が、観念や思索の領域であろうが」。この時、部屋のドアが乱暴に開けられ、リリが入って来る。そして、「あなた、オリヴェリオに抗うつ剤を与えたの? 私の息子に投薬しようなんて、二度と考えないで!」と抗議する。マタが 「あなたが助けを求めた。これはプロの判断だ!」と反論すると、リリはドアの横に置いてあったものをマタに投げつけ(3枚目の写真)、「オリヴェリオに必要なのは父親代わりの存在で、クソ薬局じゃない!!」と怒鳴って出て行く。その時の、恐怖に満ちたマタの顔を見て、若い男はニヤニヤする。

午後になり、マリアンナがやって来て、ニュートンの第三法則(作用・反作用の法則)を読み上げ始め(1枚目の写真)、それが終わると、事例として話したロケットの上昇について実験で見せようと、プールサイドに置いた小さなロケットの導火線に点火する。ロケットは垂直に上昇し(2枚目の写真、矢印)、パラシュートを開いて打ち上げ地点の近くに落下する。そこにロシータがやって来て、娘に会いに出かけてくると話す。ロシータがいなくなると、マリアンナは水着姿になってプールサイドに横たわると、「何を言っても怒らない?」と尋ねる。「何なの?」。「怒らない?」。「怒らないよ。何なの?」(3枚目の写真)。

「あなた臭うわ〔1週間体を洗っていない〕。最後にシャワーを浴びたのはいつ? プールに入りましょ。塩素が役に立つわ」(1枚目の写真)。オリヴェリオが迷っていると、「私たちしかいない。誰にも言わないから」と言われたので、上半身裸になると、プールに飛び込む。2人は水中でじゃれ合い(2枚目の写真)、そのあと、プールサイドに並んで横になり、お互いの父について話し始める。「僕、時々、自分の中にパパを感じるんだ。僕が、決まったやり方で しかめっ面したり、行動したり、何かを言ったりする時… 実際には、パパがやってるんじゃないかって。だけど、それはパパじゃない… パパみたいに振る舞ってる僕なんだ。それは、一種のコピーで、とっても奇妙なんだけど、今までそれに気付かなかった」(3枚目の写真)。「そのうち、そんな思い消えてくわ。私、父について いろいろ聞いたけど、思い出そうとすると写真のイメージしかないの」。「僕のパパが映した写真を、見るべきだ」。

オリヴェリオは、1階にある父の部屋にマリアンナを連れて入る(1枚目の写真)〔庭から直接入ることができる〕。部屋の中は、片付けられておらず、父が死んだ日の朝に誤って倒したボール箱の中身が、そのまま床に落ちていて、その中にイスを映した写真が何枚もあり、マリアンナは床に座り込むと、それを拾って見てみる。部屋の中には、イスの写真が額に入って飾ってあり、マリアンナが開いたアルバムにも、イスの写真が溢れている〔オリヴェリオの父の職業が何だったかについての説明は一切ない〕。オリヴェリオは、棚から1冊の厚い本を取り出してきて、マリアンナに見せる。本のタイトルは、『感情の対麻痺』〔著者は母〕。対麻痺は、“両下肢の、対称性の運動麻痺” を意味する専門用語だが、ロムルスが生きていた時の映像からは対麻痺のような運動障害は見られなかったので、イスの写真に固執する夫を心理的に分析した内容なのか? マリアンナが別のアルバムを見ていると、そこにはオリヴェリオの眠っている顔が一面に貼ってある(2枚目の写真)。マリアンナが、「この写真のこと知ってた?」と訊くと、オリヴェリオは首を横に振る。マリアンナは 「すごく可愛らしいわ」と言うと、思わず、オリヴェリオの口にキスしてしまい(3枚目の写真)、オリヴェリオは初めての経験に嬉しくて笑顔になる(4枚目の写真)。

その日の夜も、レモスがギターを弾きに来る。そして、「もし 輪廻転生が実際にあって、君がミミズになったら?」と変なことを言い出し、それを「ミミズになったら」という歌にして奏でる。そして、歌い終わると、「こういう視点から見ると、私たちはうまくやってると思う」と言い、オリヴェリオは笑顔になる(1枚目の写真)。レモスは、「私は、日曜の夜にこの街を出て行く」と、オリヴェリオに別れを告げる。2階に上がっていったレモスは、ワイングラスとビール瓶でリリと乾杯し(2枚目の写真)、もうすぐいなくなることを告げずに帰って行く。

7日目。昨夜レモスが、別れを込めて 「日曜の夜」と言っていたので、今日が日曜なのかもしれない。だから、朝早くから、普段着を来た一番の親友がやって来て、プールを調べ、「プールのろ過機、動いてるな。クソが入ってない。それとも便秘なんか?」と、オリヴェリオがマットレス・チェアから離れていないという主張に疑問を呈し、「着替えて来いよ」と言う。オリヴェリオは。「僕がここから動かないのは知ってるだろ」と嘘をつくと、どこから情報を入手したのか、「ガールフレンドとロマンチックな散歩をしてるって聞いたぞ」と言う。その時、やはり普段着で、学校帰りではないマリアンナが階段を降りてくるが、オリヴェリオは気付いていない(1枚目の写真)。そこで、「僕にはガールフレンドなんかいない」と言う。「マリアンナはどうなんだ?」。「マリアンナはガールフレンドじゃない。彼女とヤるために、ここから離れる気もない」と言ってしまう(2枚目の写真)。それを耳にしたマリアンナは、「このバカ!」と言い、持って来たボールを投げつけて立ち去る。

1人になると、オリヴェリオは長いタモを使って、“プールの水に入ってアップアップしているハチ” をすくい取る(1枚目の写真)〔このタモ、どうやって手に入れたのだろう?〕。そして、すくったハチをプールサイドの上に落とすと、どんなハチか顔を近づけて見てみる。すると、ハチは飛び立ち(2枚目の写真、矢印)、オリヴェリオの鼻に止まると刺したので、手で叩いで殺す〔恩人を刺すとは、ハチもバカ〕

午後になると天気が急変し、空は黒い雲に覆われ、雨が激しく降り始める。オリヴェリオは上着で頭を覆うと、布団で全身を覆う(1枚目の写真)。しかし、布団には防水効果がないので、水を含んでずぶ濡れになっただけ。そこで、雨が止むと、オリヴェリオはパンツだけになって、早く乾かないかと、体を丸めて寒さに耐えている。そこに、母が、暖かいスープの入った鉢と、バスタオルを持って階段を降りて来る(2枚目の写真、矢印は鉢)。母は まずバスタオルを渡し、オリヴェリオはタオルで全身を覆う。母は、「出かけるけど、早めに帰るわ。何か要るものある?」と訊くが、オリヴェリオは何も言わない。しかし、母がいなくなると、すぐ温かいスープを飲み始める(3枚目の写真、矢印)。

オリヴェリオは、バスタオルだけでは寒いので、家には誰もいないので、服を持って階段を駆け上がる(1枚目の写真、矢印)。そして、パンツ以外のすべてを洗濯機に入れると、乾燥モードにしてスイッチを入れる(2枚目の写真)。そして、待っている時間に、久し振りにTVでゲームを楽しむ(3枚目の写真)。

すると、車が入って来る音が聞こえたので、急いで洗濯機まで戻り、半ズボンを履き、その他の物を手に持って出口に向かおうとすると、母とマタが階段を降りて来る〔オリヴェリオは、ソファの陰に隠れる〕。マタは 「これは邪悪な行為としか思えん。母性の名の下(もと)に、君の倒錯と自己中心癖が隠れている」と、セラピストの用語を使って、リリの対応を批判する。セラピストらしさをなくしたリリは、「取りに来たものを取りに行って!」とだけ命じる。マタは、プールサイドに降りて行くと、望遠鏡を掴むと(1枚目の写真)、オリヴェリオなんか見たくもないので、マットレス・チェアに誰もいないことにも気づかす、「貸すだけだと言ったハズだ。幸運を祈る」とだけ言い、さっさと引き上げる。そして、リリに対し、最後の希望を込めて、「すべてが順調だったのに、理解できん」と、“つき合い停止” に異論を投げかける。リリは、「今、オリヴェリオが私にとって唯一の優先事項だと理解するのは、難しくないハズよ」と、平然と言い放つ〔母は、セラピストの目で息子を見るのをやめ、ようやく、母親として見るべきことに気付いた〕。「母親としての責任は理解しているが…」と粘るマタに、「恥をさらす必要はないわ。もう帰って」と最後通牒(2枚目の写真)。マタは、それ以上何も言わずに、望遠鏡を抱いて階段を上がって行き、ソファの陰で聞いていたオリヴェリオは、“悪” が永遠に去ったと知り、幸せに浸る(3枚目の写真)。プールサイドに戻ったオリヴェリオは、周辺を歩き回って考える。

8日目の早朝、プールサイドにオリヴェリオの姿はない(1枚目の写真)。陽がさすようになってから、寝室のカーテンを開けた母は、それを見てびっくりし、すぐにオリヴェリオの部屋に行くと、そこには、普段着姿のオリヴェリオがベッドで眠っていたので、笑みが漏れる。母がベッドに腰を降ろすと、オリヴェリオが目を覚ます。母は 「ごめんなさい」と謝る(2枚目の写真)。そして、さらに 「いろいろごめんね。何もかも間違ってたわ」と言い、オリヴェリオの胸に手を置く。オリヴェリオのその手の上に、自分の手を重ねる。2人が朝食を取っていると、数日留守をしていたロシータ が戻って来る。そして、オリヴェリオがテーブルに座っているのを見ると、「戻ってくれて良かったわ」と言いながら抱きしめる(3枚目の写真)。オリヴェリオは、食事を終えると、学校に行くため席を立つ 。

自転車に乗ったオリヴェリオは、途中でスクールバスに出会うと、遅れまいと全速で後を追う。そして、バスがマリアンナの家の前に着き、彼女が乗ろうとすると、「マリアンナ!」と何度も叫ぶ(1枚目の写真)。その声を聞いて、バスに乗らなかったマリアンナに、オリヴェリオは、「ごめん。僕、どうかしてた」と謝る。マリアンナは一歩近づくと、オリヴェリオのサングラスを外し、自分の顔にかけると、鼻の先端の赤い点を見て、「その鼻、どうしたの?」と訊く(2枚目の写真、矢印は赤い点)。「君が助けた ちっちゃなハチ、覚えてる?」。その頃、プールサイドでは、母とロシータが掃除をしている。母は、オリヴェリオが使っていたマットレス・チェアをプールの反対側に置こうとして、ロシータが持ち上げた拍子に、足元に置かれていた壺が転がってプールに落ち、ロムルスの遺灰がプール中に拡がる。最後のシーンは、笑顔のマリアンナが、笑顔のオリヴェリオの自転車の後ろに乗って学校に向かう姿(3枚目の写真)。こういうハッピーエンドは、ごく自然で、観ていて こちらも嬉しくなる。

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