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Race to Space スペース・ミッション/宇宙への挑戦

アメリカ映画 (2001)

1957年11月3日にソ連がスプートニク2号でライカ犬を打ち上げた〔ライカ犬は地球を4周した後、熱シールドがなくなりカプセル内の温度が急上昇して死亡したが、今も昔も嘘しかつかないソ連の放送は11月12日まで生きていたと主張。打ち上げ後すぐに死亡したことを認めたのは1993年〕。アメリカは、何とか追い着こうと1958年7月29日にNASAを設立し、10月7日から有人飛行を目的としたマーキュリー計画が開始された。無人ロケットの打ち上げは1959年9月18日。同年12月4日にはアカゲザルのサムを乗せたLittle Joe 2(5機目)を高度88キロまで打ち上げ、サムは無事回収された。翌1960年1月21日にもアカゲザルのミス・サムを乗せたLittle Joe 1B(6機目)が打ち上げられた。その後は、無人機の打ち上げが続き、12機目の打ち上げとなったのが、1961年1月31日。チンパンジーのハムを乗せたロケットの打ち上げが行われ(Mercury-Redstone 2)、アメリカ史上初の宇宙飛行を実現した。この映画は、この12機目の計画から打ち上げに至る経緯を、史実とは異なり、ヴェルナー・フォン・ブラウンを意識したドイツ人を主任研究員として想定し、NASAの渉外担当が、アストロCという架空の企業からの依頼を受けて打ち上げを妨害することでスリルを持たせ、ドイツ人の息子ビリーに当時最高の子役アレックス・D・リンツを配して色々と重要な役割を持たせ、チンパンジー・ハムとの交流も最近のCG動物よりもリアルで温かく描写し、最後の打ち上げでは、実際に起きた数々のトラブルを上手に脚色して、ビリーを各所で活躍させている。右の写真は、スミソニアン航空宇宙博物館に保存展示されているハムの乗ったカプセル。

ニューメキシコからフロリダに転校してきたビリー、本名ウィルヘルムは、1958年に設立されたNASAで、マーキュリー計画の中核的存在となったドイツ人科学者ウィルヘルム・フォン・フーバーの息子。名前に「二世」が付いてことからからかわれ、ナチスだともからかわれる。こうした差別が原因で、英語はちゃんと話せるのに、友達ができず、学業も振るわない。学校から呼び出された父は、降年〔学年を1年下げること〕を勧められ、反撥し、NASAに来させて自分の監視の下で勉強させると強弁して出て行く。NASAの父の研究室の一角で勉強させられることになったビリーは、忙しくて父が全然かまってくれないことから、ある日、立入禁止の掲示に興味を抱いて、格納庫を改造したチンパンジーの訓練施設に入って行く。ビリーはすぐに追い出されるが、チンパンジーに会いたくなって翌日まだ施設に侵入し、チンパンジーのマックと仲良くなる。ちょうど担当の訓練士がマックの悪戯に怒って辞めたところだったので、訓練の責任者のマッギネス博士は、ビリーがフォン・フーバーの息子ということもあって訓練士として働いてもらうことに。この決定は成功するが、父に見つかり問答無用と止めさせられる。マッギネスは、誰にもなつかないマックの訓練にはビリーが欠かせないと思い、最初の宇宙飛行に使うチンパンジーの選出〔複数の候補から1頭だけ選ぶ〕を行わないとフォン・フーバーを脅し、ビリーを訓練士に戻す。ビリーは、訓練のさ中にマックたちと建物の外で好きな野球を始め、それが見つかって大目玉。しかし、それがきっかけとなって、アメリカ最初の宇宙飛行士となるアラン・シェパードと出会い、親しくなる。最初の宇宙飛行チンパンジーの選出は、ビリーの貢献があって、マックが勝ち取る。そして、そのTV中継の日、担当者はビリーを出演させ、フォン・フーバーは 息子がアラン・シェパードとも親密な関係になっているのを見て、自分の育児方針を反省し、少しでもアメリカ流にしようと、フォルクスワーゲンのビートルを、派手なアメリカ製のスポーツカーに変える。そして、1961年1月29日(レッドストーンロケット打ち上げの2日前)、これまで議員団の施設見学の対応をしてきたスタントン〔これまで、何かとドイツ人をバかにしてきた〕が、民間宇宙船の会社の社長から副社長の席を用意され、ロケットが打ち上げ時に爆破するよう 金で釣った技師に工作させる。そして、翌30日の夜に 酩酊状態でマックの檻まで行き、「お前は、明日、片道旅行をするんだ。そして灰の山になる。レッドストーンが爆発するからな」と話す。しかし、檻の中には、ビリーがマックに話しかけて落ち着かせるための無線装置が入っていて、スタントンの脅迫的な言葉は、そのままビリーの耳に入る。ビリーはすぐにNASAに向かい、それに気付いた父が後を追い、父をドイツ時代から助けてきた2人の助手を交えて、ロケットの緊急点検を開始。決定的な破壊工作を見つけ、ここでも、修理にビリーが活躍する。そして、打ち上げの日。初めての本格的な打ち上げは、途中、いろいろな困難に遭遇するが、最大の難関は、無重力状態になったあと、大気圏への再突入にあたってカプセルの向きが反転してくれなかったこと。これだと確実に着水は失敗する。それを救ったのは、訓練中に偶然ビリーがマックに教えた野球の話。最後は、史実通り、カプセルは無事に回収され、フォン・フーバー親子は、マックと共に幸せに浸る。

私の大好きなアレックス・D・リンツ(Alex D. Linz)の最初の紹介作品なので、詳しく解説しておこう。アレックスが生まれたのは1989年1月3日。この映画の出演時は11歳なので、2年後にユダヤ教徒の成人式バル・ミツワーを受けている。代表作は、『One Fine Day(素晴らしき日)』(1996)、『Home Alone 3(ホーム・アローン3)』(1997)、『My Brother the Pig(ジョージ)』(1999)、『Bruno(ぼくが天使になった日)』(2000)、『Bounce(偶然の恋人)』(2000)、本作、『Max Keeble's Big Move(マックス・キーブルの大逆襲)』(2001)、『Full-Court Miracle(コートに賭ける奇跡)』(2003)。すべて何らかの形で日本でも公開もしくは放映、DVDかVHSが発売されている。アレックスの “売り” は、何と言っても笑顔と演技力。子役として活躍後は、UCLAバークレー校で科学、技術、社会の学士号を取得し、UCLAのラスキン公共政策大学院でMURP(都市および地域計画の修士)を取得。この映画のDVDのメイキングの中で、「僕は、哲学で修士、物理学でPhDを取りたい」と言っていたが、実際には、違う分野で修士まで取って社会に出たことになる。その後は本人が積極的に “姿を消した” ため、情報は何もない。「2022年3月現在、アレックスは独身のようで、結婚しておらず 子供もいません」と書いたサイトもあったが、それが正しいかどうかも分からない。下の写真は、あるサイトに掲載されていた3枚の写真のうち2016年〔大学院時代〕のものを差し替えたもの。

あらすじ

アメリカの小学生にしては相応しくないYシャツにネクタイ姿のビリーが、自転車に乗って転校先の小学校に行き、映画のタイトルが表示され、すぐに、「1960年11月」と時期も示される。ビリーが教室に入って行くと(1枚目の写真)、全員が半袖の簡単な服装なので〔ケープカナベラルに近いオークランドの11月の平均最高気温は26℃〕、生徒達は失笑。女性教師は、ビリーを空いた席に座らせる。ビリーは、すぐにネクタイを取り、一番上のボタンも外す。教師が、ビリーの名前を、資料をみながら、「ウィルヘルム・フレデリック・ヴォン・ハバー〔Hubberと見間違えて発音する〕・セカンド(二世)」と紹介すると、無知で意地の悪い生徒が、「セカンドって何だ、二流ってことか?」と笑いながら訊き、生徒達が一斉に笑う(2枚目の写真)。ビリーは、教師に 「僕の名前は、ビリー〔ウイルヘルムの英語名はウイリアム。その短縮型の1つがビリー〕・ヴォン・ヒューバー〔Huber〕です」と言い、教師も 読み間違いを認めて 「ヴォン・ヒューバー」と言い直す。そして、「あなたのお父さんは、宇宙計画に携わるドイツの科学者ね」とビリーに言うと、今度はクラス全員に、「ビリーのお父さんは、宇宙で 共産主義者をやっつけるのを助けてくれます。みなさん、ビリーは、ニューメキシコから引っ越したばかりです。温かく歓迎してあげましょう」と最大限の歓迎をするが、さっきの意地悪は、黒いクシを鼻の下に当ててヒトラーのチョビ髭の真似をし、意味も分からず映画か何かで聞いた戦争映画のドイツ語を使って 「よく来たな、マイン・フューラー〔Mein Führer、総統閣下〕」と言うと、右手をぴんと上げて 「ジーク・ハイル〔Sieg Heil、勝利万歳〕」と叫び(3枚目の写真)、生徒達はまた笑う。教師は、「黙りなさい、エドワード」と注意する。その時、一人の少女だけは、優しそうな顔でビリーを見る。そのあとすぐに、外で大きな爆発音がして、ビリー1人が机の下に隠れる。エドワードは、「何だよ、ドイツ野郎は、ソニックブーム〔音速より速く飛ぶ飛行機の衝撃波が出す爆音〕 も聞いたことないんか」と笑い、生徒達も3度目に笑う。

NASAの打ち上げ記録によれば、Mercury-Redstone 2の前で失敗したのは1960年11月21日のMercury-Redstone 1。だから、1枚目の写真で、発射5分前にもかかわらず、ビリーの父ウィルヘルムが先頭に立って打ち上げの最終準備をしているのは、このロケットなのかもしれない。そこに、やってきた渉外担当のスタントンが、「ウィルヘルム、この鳥、飛ぶんだろうな?」と失礼な言い方をしても、ドイツ式が抜けないウィルヘルムは 「私のレッドストーン、設計通りに飛ぶ、スタントンさん」と、こんなヤクザ男に敬語を使う。「なら、結構。これまで、爆発するよう設計されてるからな〔1つ前のLittle Joe 5(11月8日)、2つ前のMercury-Atlas 1(7月29日)は失敗〕。あんたのボスのヴェスタルさんも、怒って爆発しないだろう」。そう言うと、作業中のウィルヘルムを呼んで、議員が乗ったバスを見せ、議員の見ている前で失敗すると、資金が絞られると脅す。そして、僅か4人の議員がスタントンと一緒に見守る中、10からカウントダウンが始まり、1のあと 「ブースター点火」。そして、ロケットは上昇を始める。それを複数の担当者が双眼鏡や映写機で追う(2枚目の写真)。しかし、ロケットはすぐに軌道を外れ、修正が不可能な状態に。ロケットは横倒しになり、街に向かって落ち始めるので爆破が命じられる(3枚目の写真)。それを遠くから見ていた、アストロCの社長は大喜び。

ビリーが、屋外のテーブルに1人で座ってランチを食べていると、そこに、エドワードを先頭に4人の悪たれがやって来る。エドワードは、ビリーのランチのトレイ、皿、パンなどをテーブルから突き落とし(1枚目の写真、矢印)、「お前は、ドイツ野郎立入禁止区域で食べてた。ここは、アメリカ人専用だ、ウィルヘルム」と罵倒する。ビリーは、「僕は、君らと同じアメリカ人だ」と反論する。エドワードは、「そうか? じゃあ、今年、ヤンキースのハンク・バウアーとトレードされたのは誰だ?」と訊くと、野球が好きなビリーは、すぐに 「ロジャー・マリス。彼はMVPも取るよ、エドワード」と 少しバカにしたように答える(2枚目の写真)。エドワードは、「お前のオヤジは、ナチのロケット野郎の1人だから、お前も汚くて悪臭プンプンのナチだ」と言って笑い、「ウィルヘルム・ヴォン・ヒューバー」の代わりに、「ザウアー・ヴォン・クラウト〔酢漬けのドイツ野郎、ドイツのザウアークラフト(キャベツの酢漬け)にひっかけた侮辱言葉〕」と呼ぶ。怒ったビリーは、エドワードの頬に強烈な一発。ビリーは残りの3人に押さえられ(3枚目の写真、矢印はビリー)、エドワードに何度も殴り返される。

失敗の翌日、ウィルヘルムとスタントンは、NASAの統括責任者の前に呼び出される。責任者は、「昨日は、一体何が起きたのか、説明してくれんか?」とウィルヘルムに訊く。ウィルヘルムが、「遠隔測定のデータ、誘導システムの誤作動、示してます」と答えると、失敗の直接原因ではなく、なぜ失敗を繰り返すのかの責任について問題視したかった責任者は、「バカげた たわ言だ。教科書的な発言が欲しけりゃ、教科書を買っとるわい。軍の情報部によれば、赤どもは人間を宇宙に送る準備にかかったそうだ〔ガガーリンの打ち上げは1961年4月12日〕。議会からは、マーキュリーの飛行士を1月に軌道に乗せろと圧力がかかっとる」と厳しい要求を突き付ける。ウィルヘルムは、「1月? 早過ぎ。カプセルの安全性すら未評価」と否定する。すると、それまで黙っていたスタントンが、アストロCから賄賂をもらっているので、「アストロCのロケットなら1月に発射を」と口を挟む〔アストロCは史実にはない、この映画だけの存在〕。ウィルヘルムは、「アストロC、レッドストーン〔今回失敗したロケット〕より何ヶ月も遅れてる」と反論。責任者は、アストロCなど問題にせず、「人間を使って欠陥のあるロウソクに火を点けろなどと誰も言っとらん。最初は、チンパンジーを送るんだ。世界的に有名な獣医学者のマッギネス博士が訓練してくれる。打ち上げまで9週間だぞ〔1960年11月22日から翌年の1月31日までは10週間なので、ほぼ史実と合っている〕」と、問答無用で言う。「できるな?」。「そうしろと言われるなら、そうします」。打ち上げ棟に戻ったウィルヘルムが、これからどうすべきか悩んでいると、ドイツから連れてきた部下の1人が現われ、「ビリーの学校から、呼び出しが」と伝える(1枚目の写真)。ウィルヘルムが校長室に行くと、そこには担任もいて、数学、歴史、科学の成績が落第点だと告げられ〔11月の何日に転校したのか分からないが、たとえ11月1日としても僅か22日で、そんなことが言えるのか?〕、学年を1つ下げようと思っていると言われる。父は 「許容できない」ときっぱり断る。校長は、ニューメキシコの前の学校でもそうだったと言い、担任は、ビリーが引っ込み思案で、友達ができないことを問題視する。父は 「ウィルヘルム〔ビリーとは呼ばない〕には懲罰が必要。学校終わったら、毎日、NASAの私の研究室で勉強させる。今、とても忙しい、これで失礼する」と言い(2枚目の写真)、校長の制止を振り切って部屋から出て行く。そして、廊下に並んでいるロッカーの端で鼻血を出して座っていたビリーの前まで来ると(3枚目の写真)、父は 何も言わずにハンカチを渡す。そして、ハンカチで鼻を押さえたビリーが立ち上がると、手を引いて玄関に向かう。

父はドイツ人なので、愛用車はフォルクスワーゲンの “カブトムシ”。家は 地位から想像できるよりは遥かに小さい(1枚目の写真)。夜になり、ドイツ人の家政婦が作った料理が2人の前に出される(2枚目の写真)〔母は、3年前に死んでいない〕。早くアメリカに馴染みたいビリーは、いつも通りのドイツ料理に、「お腹が空いてないから 食べない」と、拒否反応を示す。そして、「もっと普通の料理を食べたら?」と不満を洩らす。レモン水を注ぎにきた家政婦は、「私の作るブラートヴルスト〔焼きソーセージ〕、好きだったでしょ」と問いかける。この不満を聞いた父は、「今日、お前のせい、貴重な時間潰された。何か、弁解あるか?」と訊く。「学校の悪タレが僕のことをナチと呼んだ。汚くて悪臭プンプンのナチだって」。「だから、ソーセージ、食べない?」。「うん」。「お前のやったこと、失望した。戦い、答えじゃない。お前はフォン・フーバー〔ドイツ式発音〕だ。お前はドイツ人だ!」。「僕はドイツ人じゃない。分からないの、パパ? 僕はアメリカ人なんだ」(3枚目の写真)「アメリカ人は、こんな物食べない」。ビリーは、食事抜きで部屋に行かされる。

翌日、学校が終わった後、NASAへの入構証を胸に付けたビリーは、研究室の一角で、他の職員に混じって机を与えられ、独習するが、父が何か助言してくれるわけではない。つまらなくなったビリーは、研究棟から出て構内を歩いていると、大きな建物があり、そこには、「警告/管理区域/許可なくこのエリアに立ち入ることは違法行為」と書かれている(1枚目の写真)。好奇心旺盛なビリーは、周りに誰もいないことを確かめると、中に入り込む。そこは飛行機の格納庫だったが、その手前に臨時で得体の知れない計器が多数置かれ、動物の鳴き声がする。よく見ると、チンパンジーが数頭歩き回ったり、各種の装置の上で何かしている。ビリーが一瞬後ろを振り向き、すぐに顔を元に戻すと、目の前にチンパンジーがいたのでびっくりする(2枚目の写真)。チンパンジーは、すぐにビリーに抱き着き、ビリーを床に押し倒す(3枚目の写真、矢印は、このマックというチンパンジーが、マッギネス博士からこっそり盗んだ特別許可証)。ビリーが、「誰か僕から離して」と叫んだので、それに気付いた博士がやってきて何とか離すが、マックは 男の飼育員の制止を振り切って逃げ出す。しかし、それを見たビリーが、「おい、止まれ!」と言うと、素直に止まる。男の飼育員は、「博士、このチンパンジーは狂ってます。プログラムから外しましょう」と言うが、博士は、ビリーを立ち上がらせ、「ここで何してるの? ここは立入制限区域よ」と注意する。ビリーは 「僕のパパがここで働いてる」と弁解する(4枚目の写真)。博士は 「すぐ、ここから出なさい」と言い、扉の所まで連れて行き 締め出す。

翌日、学校の黒板には1960年11月13日と書かれているので、Mercury-Redstone 2の発射日11月21日より約1週間前になり、史実と合わなくなる。教師は、生徒達に、提出するレポートのテーマを選び、ペアを組んで書くよう指示する。ビリーは、野球をテーマに選んだが、もうペアは決まっていた。意地悪エドワードは、「敗戦について書けよ」と言うが、教師はそれを黙らせ、「なぜ、宇宙飛行士について書かないの?」と親切に言う。もっとアメリカらしいことが書きたいビリーは、「他のテーマじゃいけませんか?」と訊くが(1枚目の写真)、ビリーは宇宙飛行士だと独断専行で決定。しかも、ペアではなく、1人で書かないといけない。一方、その頃、格納庫では問題が起きていた。元々、頭が悪くて作業内容を理解していない飼育係が、チンパンジーが入っている檻の前に、ジャガイモが一杯入ったバケツを2つ持ってきて置き、博士の事前の注意も忘れて別の作業を始める。その餌に気付いたマックが檻から出てきて、バケツを倒してジャガイモを床にまき散らす。それを見た博士は、飼育係に、「何度言えば分かるの? 食べ物を放置しちゃいけないって」と注意する。その時代のアメリカは、働く女性は稀だったので、飼育係は、「こんな下らない仕事はうんざりだ。特に、女から命じられるなんて」と文句を言い、博士が 「何が言いたいの?」と訊くと、「俺は、辞めた。自分で掃除しろよ。俺はもううんざりだ」と、暴言を吐いて出て行く。博士が自分で檻の前を片付け始めると、そこに再びビリーが現われる。「また来たの? 友だちはいないの?」。「ここに引っ越してきたばかりだから。猿がどうかしたの?」。「猿じゃなくて、チンパンジーよ」。「こんなメチャメチャしたの、どのチンパンジー」。「マックよ。毎日、私を困らせることばかりするの」。「大きな方は?」。「アルファよ。マックとは一緒にできない。ライバル同士なの」。ビリーがずっと掃除を手伝っているので、そろそろ、前回と同じように、追い出そうとすると電話がかかってくる。その間に、ビリーはマックの檻の前に行くと、ベイスボール・カードを見せてマックに話しかける(3枚目の写真、矢印)。

これまで誰にも懐かなかったマックが ビリーを気に入ったようなので、電話が終わった博士は笑顔でビリーに寄って行くと、「私、ドニーよ」と自分から名乗る。「僕、ビリー・フォン・ヒューバー」。あなたのお父さん、「ウィルヘルム・ヴォン・ヒューバー?」。「うん。知ってるの?」。「みんな知ってるわ。あなたのパパがいなかったら、宇宙計画はなかったかも」。ビリーは、昨日、マックが博士から盗んだ特別許可証を渡す。博士は、今朝、基地に入るのにとても苦労したと話し、感謝する〔守衛の女性蔑視〕。ビリーは、「あなた、マーキュリー計画で働いてるの?」と質問する(1枚目の写真)。博士は、答えるのを禁じられているのか、会議があるからと言って、ビリーを帰らせようとする。しかし、ビリーが檻の前に置いてあった宇宙服に気付き、「宇宙飛行士? チンパンジーを訓練して宇宙飛行士にして、宇宙に送り出すの?」と訊いたので(2枚目の写真、矢印)、博士は、「凄い。秘密がバレちゃった。あなたを殺すか、それとも、雇うかしないとね」と言う。「まさか、冗談でしょ?」(3枚目の写真)。「助手が1人辞めちゃったし、マックはあなたが気に入ったみたい。残り5週間しかないから、私にはあらゆる助けが必要なの」。「僕、何すれば?」。「明日、学校が終わったら ここに来て」。

ここからは、翌日のビリーの楽しい一日。①マックの心電図の検査が終わった後で、ビリーが電極をマックの頭に貼り付け(1枚目の写真)、マックはすぐそれを取ると、ビリーの頭に貼り付け。それを見た博士が楽しそうに笑う。②ビリーがケーキパンを食べながら勉強をしていると、いつの間にかマックが食べている。③ビリーは 2本の太いゴムに支えられた腰サポートを装着し、飛んだり回転したりする訓練をやって見せ、そのあとからマックが真似をする。④5つの棒付き駒を使った頭脳訓練で、ビリーが緑を取れと指示し、マックが言われたとおりに緑を取って自分の前に置いたので、ビリーは喜び(2枚目の写真)、拍手する。この一連のシーンのあと、ウィルヘルムが、少数の記者団とスタントンを連れて、カプセルを見せるシーンがある。その際、ウィルヘルムが部下にうっかり 「ハッチを開けてくれ」とドイツ語で言ったので、スタントンは 「英語で」と、いちいち難癖をつける。何本ものビスで固定されたハッチが開くと、ウィルヘルムは 「カプセル内部、広々している」と自慢し、スタントンは 「フォルクスワーゲンの後部座席みたいですな」と嫌味を言う。その時、スタントンに電話がかかってきたと、彼の部下が呼びに来る。スタントンは 「見学会の最中なので後でかけ直す」と言うが、部下は相手が重要人物なので、「でも…」と困ったような表情になる。「誰からなんだ?」。「ロバート・ソーンヒル〔アストロCの社長〕です」。アストロCについては、先日、スタントンが統括責任者の前でも妄言を吐いたので、ウィルヘルムは即座に反応し、「ソーンヒル? アストロCの?」と、疑うような顔でスタントンを見る。スタントンは、「ウィルヘルムの今日の記者会見に 成功をと言いたいんだろう」と、あり得ないような嘘をつき、電話に出る必要もないのに、議員の案内役にも関わらず座を外す。スタントンと社長の間の会話の中で、ヤクザな社長が 「ワールド・シリーズの切符は受け取ったか?」と訊くので、スタントンがNASAに入り込んだ裏切者だと分かる。仕事が終わったウィルヘルムは、ビリーの机に行くが空。机の上には、「宇宙飛行士」というレポートの標題に✖印がつけられ、手書きで 「宇宙チンパンジー」に直してある。ここで、もう一度、博士の訓練施設に戻り、アルファが各色の木のブロックを上手に配置しているのを見て、博士が 「アルファは お利口ね」と言うと、ビリーが 「アルファは利口じゃない。利口なのはマックだよ」と言い、口に木のブロックを咥えさせたマックを見せる(3枚目の写真)。「まあ、そうなの?」。「あのね、今すぐマックに決めた方が、時間の節約になるよ」。

そこにやって来たのが、ウィルヘルム。「ここで何してる? 勉強、戻れ」と ビリーに厳しく声をかける。マッギネス博士は、「ヴォン・ヒューバー博士、私が許可を出しました」と助け船を出す。「あなたは?」。「マッギネス博士です」。ドイツでも女性の博士は珍しく、「あなた、マッギネス博士?」と驚く。「ええ」。「私の息子に、勉強おろそかにする許可、与えたですね? バカな猿たちと遊ぶため」と言うと、「猿じゃない、チンパンジーだよ」と言うビリーを 強引に連れて行く(1枚目の写真)。ビリーは、いつもの机に戻されると、父はさっさといなくなるので、レポートがうまく書けずに途中でタイプを止めて丸めた紙が辺り一面に散らばる。そこにやって来たのがマッギネス博士。ビリーは、「こんなの不公平だよ。みんなペアで書いてるのに、僕だけ一人でやらなくちゃいけない」と不満たらたら(2枚目の写真、捨てられた紙は、画面に映ってないが、床の上の方が3倍はある)。「大変ね」。「経験あるの?」。「私が大学院にいた時、女性は私一人だった。誰も私と一緒に組まなかったわ」。「聞いてよ。このレポートでA取らなかったら、ぼく留年しちゃうんだ」。「なら、私たちで書きましょ」。「『私たち』?」。「ハーバード大学で博士号を取得した霊長類の研究者以上にチンパンジーについて詳しい人いる?」。これで、密約成立(3枚目の写真)。

1960年11月24日(木)は感謝祭の日〔11月の第4木曜日〕。マッギネス博士は ある計画を持ってヴォン・ヒューバー博士の自宅を訪れると、裏手の水路に面した芝生にいたビリーから、「マックはどう?」と訊かれる(1枚目の写真、この辺りの住宅裏手はすべて水路)。「寂しがってるわ」。「どれにするか選んだ?」。「まだよ」。そして、「パパはどこ?」と尋ねる。「家の中。いつものように仕事してる」。マッギネスは、家政婦とドイツ人の部下が作った料理を持って家の中に入って行き、それを仕事中のウィルヘルムの机の上に置き、「感謝祭の日に働くのは、アメリカ人らしくないわ」と言う。ウィルヘルムは、「私、とても忙しい」と言い、皿を脇にどけると、仕事を続ける。マッギネスは、最適なチンパンジーを選ぶのが自分の仕事だと話し、チンパンジーはビリーが大好きなので、訓練にビリーが必要だと言うが、ウィルヘルムの返事は 「絶対反対」。次にマッギネスは、ビリーのレポートを渡し、いい成績を取れたと報告するが、ウィルヘルムはレポートを見もせず、「興味ありません」(2枚目の写真、矢印は計算尺)。マッギネスは最後の賭けに出る。「これなら興味があるでしょう。あなたのロケットを打ち上げるには、1頭のチンパンジーが必要です。選ぶのは私です。私が選ばなければ、ロケットは打ち上げられません」。マッギネスが部屋を出て行った後、ウィルヘルムは悩み、ビリーのレポートがA+に評価されているのを見て、翌日には、ビリーに特別許可証が届けられる(3枚目の写真)。

ビリーはさっそく訓練士として働き始めるが、その間にも、Bedle、Delta、Jiggs、Sam、Zacは候補から外され、選抜が進んで行く。別の訓練士が、バケツ一杯のバナナをマックの檻の前に置くが、マックは食用を示さない。ビリーは、檻の中に入って行き、「どうした、マック。バナナが嫌いか? ゲルタ〔家政婦〕のシュニッツェル〔一種のカツレツ〕でも食べるか?」と冗談を飛ばす。そこに、スタントンが見学者の一団を勝手に連れて入って来る。マッギネス博士は、すぐに、「ここは、民間人の立入禁止エリアです」と文句を言うが、スタントンは 「民間人じゃない。議員さん達だ」と言い、周囲を見回しながら 「マッギネス博士はどこですか?」と声をかける。「私がマッギネス博士です」。すると、「みなさん、VIPツアーにナタリー・ウッドの登場です」と 失礼なことを平気で言う〔ナタリー・ウッドの一番有名な『ウエストサイド物語』は1961年の公開だが1960年までに18本の映画に出演。1960年末の段階で22歳〕。マッギネスが、「チンパンジーは、見知らぬ人々には非常に神経質で傷付きやすいのです」と注意しても(1枚目の写真、矢印はビリー)、スタントンは全く無視し、「猿には何を与えるのです?」と訊き、自分からパイナップルと言い出し、ハワイ出身の議員を紹介する。マックは、スタントンの頭にバナナを投げつける。振り向くと、そこにビリーがいたので、「あのガキは ここで何してる?」と博士に訊く。「ウィルヘルム・ヴォン・ヒューバー博士の息子さんで、統括責任者の承認を得ています」。スタントンは、「あいつがターザンだろうと構わん。追い出せ」と言い、議員団を連れて出て行く。マックを抱いたビリーが 「ねえ、僕クビになるの?」と訊くと、博士は、「どうやったら、公式の訓練士を解雇できるの?」と安心させる。次のシーンは、遠心力発生装置を使用したチンパンジーの耐G訓練。好敵手のアルファは難なくテストをクリアするが、それを、操作を含めて見ていたマックは、ビリーが抱いて座席まで連れて行ったのに(2枚目の写真)、嫌がって逃げてしまう。そこで、ビリーは座席に乗って見せ、安全であることをマックに示そうとするが、マックは勝手に操作盤の上に登り、回転始動のノブを回してしまう。お陰で、ビリーはマックの代わりに耐G訓練を受けることに(3枚目の写真)。

この事故のあと、床の掃除をしているビリーのところに、マックがオレンジを転がす。ビリーは、「君とは話す気分じゃないよ」と言って、オレンジを投げて渡すと、マックは受け取ったオレンジをアルファに投げ、アルファはそれをマックに投げ返す。それを見たビリーは、「みんなで野球しようか?」と言い出す。そして、3頭のチンパンジーを連れて外に出ると、ビリーがボールを投げ、マックに打たせる(1枚目の写真)〔メイキングによれば、CGではないので、撮影は大変だったとか〕。緩いボールを打ったマックは、三塁に向かって走り始めたので、ビリーは、「一塁に走るんだ」と教える(2枚目の写真)。次のチンパンジーが打ったボールは、悪者のスタントンのオフィスの窓ガラスを割る。次のシーンでは、ビリーがマッギネスに、「一時停職?」と訊いている。「24時間。規則よ。一体どうしてチンパンジーを外に出したの?」。「僕、ただ…」。「逃げ出してたかも しれないのよ。ケガしてたかも」。「僕、ただ…」。「聞きたくないわ。ここから出てって」。ビリーが外に行き、壁に向かってキャッチボールをしていると、そこにやって来たのが気さくそうな男性。取り損ねたボールを取ると、「いい腕だな」と言って投げ返してくれる。「息抜きか〔Blowing off some steam〕? 俺は、ここに来て、野球のボール〔horsehide〕を投げるのが好きなんだ」〔だから、グラブを持っている〕。そして、胸に付けた許可証を見て、「ビリー、ヴォン・ヒューバーの子か?」と訊く。「そうだよ」。「俺は、アル・シェパード〔アメリカ最初の宇宙飛行士になるアラン・シェパード〕だ。俺や仲間のパイロットは、君のオヤジさん〔old man〕をすごく尊敬してる」。「ホント?」。「そうさ。誰も、バーベキューになって戻って来るなんて思ってない」。そう話すと、シェパードはビリーに投げ方を指導する(3枚目の写真)。

それから何日後かは分からないが、ビリーの学校に警官2人とNASAの担当者が物々しくやって来る。そして、授業中の教室に入って来ると、担任に、「フォン・ヒューバーを探しに来ました」と告げる。何も知らないエドワードは、「これで国外追放だな、ドイツ野郎」と侮辱する。ビリーは、高い天井の建物に連れて来られると、そこには大きな国旗が飾られていて、マッギネスが困った顔で立っている。ビリーは、「ねえ、ドニー!」と叫んで駆け寄る。マッギネスは、マックを会談の場に連れてきたら、急に逃げ出したと窮状を伝える(1枚目の写真)。「マックはどこ?」。「あの上よ。降りて来るよう、説得して欲しいの」。それを聞いたビリーは、マッギネスが他の者と話している間に、建物の端にある鉄梯子を登り始める。それに気付いたマッギネスは、「ビリー、下からやってって頼んだのよ。危ないからやめて」と頼むが、ビリーは屋根を支える梁まで登ってしまい、幅50センチくらいの梁の上をそろそろと歩いてマックの方に歩いて行く(2枚目の写真)。そして、「ねえ、相棒、こんな大騒ぎ、なんで起こした? 君だってここから落ちたくないだろ? きっとひどいケガするぞ。さあ、来いよ」と話しかける。この言葉で、マックは、ビリーと同じ梁まで降りて来るが、ビリーの50センチほど手前で座り込んでしまう。そこで、ビリーも梁の上に座り、マックに話し始める。最初は、ビリーの好きな野球の話。そして、野球が好きになったのは。母が好きだったからに話を持って行き、「ママがいなくなって寂しいよ。いつもママのことばかり考えてる」と打ち明ける(3枚目の写真)〔それが、ビリーの学校の学業不振の原因?〕

そこに、マッギネスが緊急に呼んだウィルヘルムが駆け付けて、高い梁の上に座っている息子を見て、「何てことだ!」と叫び、その言葉に驚いたビリーはバランスを崩し、梁から落ち、かろうじて左手で梁の端を掴む危険な状況に。ビリーは体を振って、右手でも梁の端を掴む。それを、ビリーの上から撮った映像が1枚目の写真で、もちろんCG処理はされているが、非常に高い所にぶら下がっているという危険な状況が良く分かる。このあと、ビリーは懸垂をするように、両手に力を入れて体を持ち上げようとするが、両手が滑って落ちてしまい、マックが素早く右首を掴み、何とか落下を防ぐ(2枚目の写真)。この写真では詳細が分からないので、DVD付属のメイキングno.2の中にあるグリーンスクリーンをバックにした特撮場面の2枚を使って説明しよう。3枚目の写真の左側は、2枚目の写真の拡大映像のようなもので、ビリーの右手を本当にマックが掴んでいる。右にいるのは調教師。ビリーは落ちないように、黒いテープのようなもので支えられている。右側の写真は、そのあとマックに助けられて梁に這い上がる時の映像。何度も書くが、CGで描いたチンパンジーでなく、本物のチンパンジーにこれだけの演技をさせるのは大変なことだ。このようにして、梁に戻ったビリーは、二度と落ちないように、梁の上を這うように進んで階段まで行く(4枚目の写真)。マックもおとなしく後を付いて行く。階段から下りて来たビリーは、父が 「死ぬほど怖かった」と言って抱き締め、マックはマッギネスが抱く。ウィルヘルムは、「君は、猿のために、私の息子の命、危険にさらした」とマッギネスを非難する〔確かに、最初、ビリーから目を離したのは、マッギネスの失敗〕

先ほどの場面のあと、アストロCの社長に呼ばれたスタントンの暗く汚い場面が入る。社長は、①スタントンは45歳だから、年収は10万未満〔1960年の10万ドルは、2020年の約870万ドル≒9億3000万円〕〔そんなに多ければ、十分ではないのか?〕、②このプロジェクトが成功したら、スタントンは用済みでクビになる〔渉外担当はアポロまでずっと続くに違いない〕、③アストロCの副社長にしてやる〔年収が幾らになるかは口にしない〕。そして、スタントンがやるべきことは、打ち上げの妨害。こうしたことは、史実ではないので何でもありだが、“海の物とも山の物ともつかぬ” 危なっかし気な企業のために、これだけ多くの年収を犠牲にするバカがいるだろうか? こんな下らない話に写真は使いたくなかったので、言葉だけにした。次のシーンでは、格納庫からシェパード、ビリー、マッギネス、マックが出て来る。シェパードは、ビリーに、「君のダチの調子は?」と訊く。「遠心分離機で8Gに耐えたんだ。きっと、僕らの最初の宇宙飛行士になるよ」。ここで、シェパードは異論を言う。「ちょっと待てよ。彼は正確には宇宙飛行士じゃないぞ。ロケットを操縦するには、スイッチを切り替えるだけじゃなく、いっぱいすることがあるんだ」。しかし、ビリーは、「パパは、カプセルは完全に自動だから、あなたたちはパイロットよりは乗客みたいなものだって言ってたよ」と反論する。それを聞いたシェパードは、「おお、そうか?」と言うと、ビリーをチンパンジーのように掴むと(1枚目の写真)、マッギネスに 「1時間、この子を借りるよ」と言い、パイロットとはどういうものか見せてやろうと、ビリーを ノースロップ社のT-38タロン〔1959年に初飛行した練習機〕の後部座席に乗せる(2枚目の写真)。そして、ビリーは少しだけ操縦させてもらう。楽しい飛行が終わってジェット機が着陸し、滑走路上をゆっくりと駐機場に向かって走っていると、そこに並ぶようにフォルクスワーゲンがやって来て並走する(3枚目の写真)〔マッギネスが報告した〕。父は、嬉しそうにジェット機から降りて来たビリーに向かって、「何、やっとる?!」と怒鳴りつける。シェパードは 「この子が一度もジェットに乗ったことがないので」と言い、「最初の試験に見事に合格しました」とビリーを褒めるが、父は 「何で、君たち、私の息子、殺そうとし続ける?!」と えらい剣幕で怒鳴る。シェパードは 「博士、彼は農薬散布機を持って飛んだわけじゃありませんよ」と言うが〔彼には、ジェット機で飛ぶことと死ぬことの関係が理解できないので、命に関わる物として農薬を例に出した〕、それでも父は 「これは、私の息子だ! 私が世話する!」と、怒鳴り続ける。実際には何も世話をしないのに、無意味に威張るだけの父に嫌気がさしたビリーは、走って逃げ出す。父が、ビリーの背中に向かって何度も、「ウィルヘルム!」と叫ぶので、シェパードは 「あの子は、ビリーと呼んで欲しいと思いますよ」と 捨て台詞を残して去っていく。その夜、家に帰ったウィルヘルムは、亡き妻と3人で映った写真を見ながら、何事か考える〔表情を抑えた演技をしているので、反省しているのかどうかまでは分からない〕

最終選定に残った2頭を並べて、実践能力のテストが行われている。マックとアルファは、それぞれ即席で作られたアルミ製のイスに座らされ、イスの全面には鉄パイプで作られた台に木の板で作られた簡単な操作盤(下方)と、今回のテストには関係ないが、カプセル内に装着される別のパネル(上方)が付いている(1枚目の写真)。そして、足にはコードが付いていて、もし、間違った操作をすると、軽い電流が流れ、ショックを与えるという仕組み。実際にカプセルの中でチンパンジーがしなければならない操作を、確実にこなせるかどうかを調べる最も重要なテストだ。アルファは簡単にやってのけるが、マックは何度も失敗して、その度に電気ショックを受け、暴れている。ビリーは、「おい、相棒、集中しろよ。光が見えたらレバーを引くんだ」。ところが、マックは、下の板のレバーではなく、上の板のスイッチ〔小さな金属の棒〕を触ってしまい、その度にショックを受ける。そこで、ビリーはテストを中断してもらい、マックに直接教える。一番右に付いた黒い大きな(長さ20cm)のレバーを下げて 「一塁」、板の中央の白い(長さ10cm)のレバーを下げて 「二塁」、板の左端の黒いレバー(長さ10cm)を下げて 「三塁」と教える〔それぞれのレバーの上に色の違うミニ電球が付いていて、その電球が光った時に、その下にあるレバーを引かないといけない〕。さらに、上の板のスイッチを指して、「右翼には触るな、ショックを受けるぞ」と注意する」(2枚目の写真)。そして、テストが始まり、イスがゆっくりと回転を始める〔カプセルの無重力状態での回転を想定している〕。右のミニ電球が点くと、マックは白いレバーに触ろうとしたので、すかさずビリーが、「マック、それは二塁だ。違う。一塁だ」と、指を1本立てて教える。すると、今度は正しいレバーを引く。次に真ん中の赤いミニ電球が点くと、ビリーが 「二塁」と言って指を二本示し(2枚目の写真)、マックは白いレバーを引く。左の黄色のミニ電球が点いた時には、ビリーが 「三塁」と言う前に、マックの手が黒いレバーに伸びていた。ビリーは、「いい子だ」と褒め、マックは手を叩いて喜ぶ。その後、シェパードがビリーをカプセルに座らせ、内部の説明をするシーンがある。その中で、先ほどの “上の板のスイッチ” に相当するものについて、逆進ロケット〔逆噴射して向きを変える〕と教え、ビリーが、「そうか、右翼だね」と言ってスイッチを下げると、下の 「FIRE RETRO〔逆推進ロケット点火〕」の部分にライトが点く〔重要な伏線〕。「右翼って?」。「気にしないで」(4枚目の写真)。

最後のチェックは、体重の検査。アルファは、52ポンド1オンス〔23.6キロ〕、マックは46ポンド4オンス〔21.0キロ〕〔NASAの公式サイトhttps://nlsp.nasa.gov/ によれば、世界初の宇宙チンパンジーのハムの体重は37ポンド〕。ビリーは、この測定の際にはなぜか立ち会うことができないので、柵越しにハラハラしながら見ている。その結果を訊き、マッギネスはそこに集まったNASAの上層部に、「みなさん、数ヶ月にわたる厳しい訓練の結果〔同じサイトで、訓練期間は15ヶ月〕、100頭以上https://airandspace.si.edu/ によれば最初は40頭、それが18頭に減り、1961年1月2日に6頭に絞られ、ケープカナベラルに移送された〕のチンパンジーのグループの中から、宇宙初のチンパンジーとして、被験者番号 65 通称マックを選出できたことを 誇りをもって発表します」と言う。ビリーは 「やった!」と叫ぶとマックのところまで走ってくると、「よお、相棒、初の宇宙飛行士だな」と褒め讃える(1枚目の写真)。マッギネスは、「あなたがいたからできたのよ」よ、ビリーの貢献を讃える。そこに、NASAの広報担当が進み出て、「私は、君の友人を全世界に知らせる男なんだ。そこで考えたんだが、いいアイディアが浮かんだ」と言う。そして、ココア・ビーチにある高校の体育館を借りて、NASAの発表会が行われる。招かれているのは、ビリーが通う小学校の生徒達。壇上に立った司会者が、「お集りの皆さん、生徒諸君、ビリー・ヴォン・フーバーと アメリカ初の宇宙飛行士マックに盛大な拍手を」と言い、ビリーがマックの手を引いて登場する(2枚目の写真)。担任と、ビリーに好意的だった女の子は嬉しそうに拍手するが、エドワードは よりによってドイツ野郎なんかが主役の1人となったので、憮然としている。マックは、ビリーから勝手に離れると、あちこち走り回り、それを見て全員が笑い出す。父の作業場でも、TVを見ている2人のドイツ人助手は嬉しそうに手を叩いているが、父は、仕事に没頭して見向きもしない。マックが、司会者台の上を占拠したので、広報担当は、ビリーを呼び寄せる。そして、「君とチンパンジーの関係を、ここにいるみんなに話してくれないか?」と訊き、ビリーは 「僕の一番の親友だよ」と答え、それがTVに映る。ドイツ人助手が、「息子さんがTVに出てるよ」と呼んでも、父は 「G負荷の計算が終わらないと、誰も宇宙には行けない」と断る〔そう言ってる間に、一目見てもバチは当たらない〕。そこにケネディ大統領から電話がかかってきて、ウィルヘルムは電話に出ざるを得なくなる。会場では、司会者が、ビリーに対して質問がないか尋ねる。さっそく、例の女の子が手を上げ、「本物の宇宙飛行士に会った?」と訊く。「うん、友だちのアラン・シェパードに」。それを聞いたエドワードは、「アラン・シェパード? まさか!」と言って、笑いが起こる〔どこまでもひねくれた嫌な少年〕。そこに、アラン・シェパードが宇宙服を着て登場し、全員が立ち上がって拍手する(3枚目の写真)。アラン・シェパードは、自分がかぶっていたヘルメットをビリーの頭にかぶせると、抱き上げ、それがTVにも映る(4枚目の写真)〔エドワードの面目は丸潰れ〕。大統領からの電話を受けながら、それを見た父は、一瞬、電話対応が途絶える。

大統領からの電話が終わると、仕事中にもかかわらずウィルヘルムは帰宅してしまう。そして、これまで打ち上げてきたロケットの模型を見ながら、「宇宙、無限じゃない。有限だ」と、家政婦に語りかけるように つぶやく(1枚目の写真)。そして、カブセルを念頭に、「8フィート×8フィート〔2.4m×2.4m〕。この部屋のサイズ。私の人生のサイズ。だが、私の世界… もっと大きくしないと。息子を抱きしめるくらい。私、宇宙のレース 勝っても、息子 失う。私。変わらないと。だが、私、すごく頑固…」。ここで、家政婦が、「ドイツ的?」と口を出す。これでハッと気付いた父は、ドイツ的過ぎるところを変えようと思い立つ。次のシーンでは、TV会見を終えたマッギネスが、マックを抱いて、拍手に送られて学校から出て行く。エドワードは、自分のことが好きだと勘違いしている例の少女に向かって、「こんな退屈なトコ、ずらかろうぜ〔Let's blow this trout stand〕」と声をかける。しかし、少女は、そんな言葉は無視し、ビリーのところまで行くと、「ねえ、ビリー、一緒に映画に行かない?」と デートに誘う(2枚目の写真)。「いいよ。だけど、今は打ち上げで忙しいんだ」。すると、クラクションが鳴り、最新式のスポーツカー、シボレーコルベットに乗った父が現われ、「ちょっと ひとっ走りしないか?」とアメリカ流に言う〔どうやったら、こんなに早く車が買える?〕。みんなが羨ましがる中、ビリーはドアを開けずに乗り込む(3枚目の写真)。

ケープカナベラル付近の海岸までドライブした父は、車を停めて2人でボンネットの前部に座ると(1枚目の写真)、今まで 息子とほとんど話したことがない父が、ビリーに話し始める。「私、お前の年の頃、ロケットの本を手紙で注文した。ボロボロになるまで、読んだ。その時から、夢、育み始めた」。「人間を宇宙に送るって?」。「私の夢、人間を月に送る」(2枚目の写真)「それから火星。そして、その向こうまで」。そして、さらに、「私の夢叶うのは、ここアメリカだけ。私、自分の新しい故国、誇りに思う。彼らも、私、誇りに思う」と言う。ビリーは、折角父と話す機会が持てたので、ずっと抱いていた疑問をぶつける。「なぜ、ママのこと、一度も話さないの?」。「とても 悲しくなるから」。「でも、僕、ママのこと話したいし、忘れたくないんだ」(3枚目の写真)。「私、時々、月の方が、息子より近いと感じる。それ、良くないな」。そう言うと、父はビリーを抱く。

ロケットの打ち上げの2日前の夜(1枚目の写真)。スタントンは、アストロCの黄色のボールペンを持ちながら、ロケットに細工をしている男に向かって、「(金の入った)封筒は受け取ったな。発射台で起きても、空中で起きても構わん。レッドストーンロケットが失敗しさえすればいい」と言う(2枚目の写真、矢印)。男は 「派手に爆発するから、痕跡は見つからん」と言い、スタントンは 「お前とはもう会うこともない」と言って去る。一方、マックの檻には、ビリーが会いに来る。「パパが研究室に荷物を取りに行ったから、お休みを言いに来たんだ」。しかし、マックの様子が変なので、「寂しいんだな」「ちょっと待ってて」と言うと、そこら辺に置いてあるものを集めてきて檻に戻る。持って来た物は、マイクロホン、無線機、スピーカー。家に戻った後も、ビリーが無線を使ってマックに話しかけ、元気づけるためだ。ビリーは、家に帰ると、部屋に置いてある無線機を起動し、ヘッドホンをはめ、周波数を合わせ、マイクロホンに向かって 「マック?」と話しかける(3枚目の写真)。「僕だよ相棒。話し続けるからね。君が戻ってきたら、ずっと友だちでいよう。ヤンキー・スタジアムにも連れてってあげる」。話はさらに続くが、この声を、最後の点検に来たマッギネスが耳にし、檻を開けて中の機械を見て、ビリーの心遣いに関心する。そして、静かにビリーの声を聞いているマックに毛布を掛ける。

打ち上げを翌日に控えた1月30日、記者会見が行われる(1枚目の写真)。ウィルヘルムは、「レッドストーンロケットは15分間飛行し、最大高度115マイル〔185キロ〕に達します」〔最近の民間企業による宇宙弾道飛行の高度は100キロが目安〕「被験者は、特別に訓練されたマックというチンパンジーです」と、英語らしく話す。記者Aが、「これまで何度も失敗しておられますが、今回、このロケットが どうして成功すると思われますか?」と、意地の悪い質問をする。ウィルヘルムは 「あらゆる不測の事態を予測・考慮。このロケット、信頼できる」といつもの口調に戻る。記者B:「それだけ信頼できるのでしたら、なぜ猿を乗せるのです?」。「チンパンジー、予防措置で乗せる。人間の宇宙飛行士を乗せるロケットの安全性、確かめるため」。記者会見そっちのけで、2人の記者は話し始める。A:「彼らは、ソ連に遅れまいと この打ち上げを急いでる。ヴォン・ヒューバーに嘘をつかせてるのは誰だ?」。B:「なぜ、本当の危険性について誰も訊かないない? 過度のG負荷とか?」。A:「他にも危険は一杯だ。生命維持装置の故障、誘導装置の故障…」。B:「パラシュートの故障もある。カプセルは沈没する」。A:「ライカはどうなった? ロシアが打ち上げた犬は?」。B:「可哀想な犬は、窒息したと聞いたぞ」。A:「だから、シェパードを打ち上げないんだ。猿なら使い捨てだし、安いからな」。これを、1つ後ろの席で聞いていたビリーは急に心配になる(2枚目の写真)。そこで、会場を抜け出して、マイクロフィルムもしくは磁気テープに記録された新聞記事を調べに行く。基地のあるココア・ビーチ新聞には、「ロシアの宇宙飛行犬ライカ 宇宙で死亡」という記事があった(3枚目の写真)。

ビリーは すぐに会場に戻ると、ウィルヘルム対記者の一対一の質問は終わり、父は、多くの記者に取り囲まれていた。ビリーは、その中を潜り抜けて一番前に出ると、質問を遮り、「なぜ、ライカのことを黙ってたの?!」と非難する。「落ち着け。何 言ってる?」。「記者たちが話してた。パパのロケットはまだ未完成で 爆発するだろう。システムの誤作動や故障もある。そして最後に言ったんだ、彼は使い捨てだって」(1枚目の写真)。「誰が、使い捨て?」。「マック」。「何だと? 猿が? 違う」。「パパ、ちゃんと答えてよ。マックは死ぬの?」。「もちろん死なん。バカ言うな。もう行け」。ビリーがもう一度ライカのことを口にすると、父は、先の会見で最初に意地悪な記者の質問に答えたのと同じ 杓子定規なことを言い、ビリーから 「そんなの記者に言ったことじゃないか!」と強く反撥される。そこで、父は、遂に、「ウィルヘルム、私たちがやろうとしていること、とても大きなリスクある。だから、チンパンジーを選んだ」と本音を話す。それを聞いたビリーは、会場から逃げ出して海岸に行き、悲しい時を過ごす(2枚目の写真)。暗くなり、ウィルヘルムは、ビリーのことが心配になり、ひょっとしているのではないかと期待して マッギネスの研究室まで見に行くが、ビリーはいない(3枚目の写真)。以前のウィルヘルムなら、その時点で、すぐに部屋から出て行ったであろうが、ある程度改心したウィルヘルムは、機会を捉えて、マッギネスに 「あなた、ビリーの人生 変えてくれた、感謝してる、言いたい」と告げ、「彼、時々、母親が亡くなる前の少年になる」と理由を述べる。その言葉に感動したマッギネスは、ウィルヘルムにマックを紹介する。マックは、ウィルヘルムの中にビリーを見て、親しげに抱き着く。

その夜、ビリーは懐中電灯を手に、マックの檻まで行き、扉を開けて、「ちょっと でかけような」と言い、出て来たマックと手をつないで近くのテーブルの上に 持って来た手紙を置く。そして、振り返ると、そこにはマッギネスがいて、「ここで 何してるの?」と訊かれる(1枚目の写真)。ビリーは黙っていたが、マッギネスは、ビリーの手紙を読む。そこには、「ドニーへ。マックを連れてくよ。心配しないで、安全だから。どうしても、こうしないと。宇宙で死なせたくないんだ。分かってくれるよね。ビリー」と書いてあった(2枚目の写真)。それを読んだマッギネスは、ビリーの行動を批判せず、「私は、宇宙に行くために、マックが生まれたと信じてるの。そして、あなたは、それを手伝った」と話す。「でも、ライカはどうなの?」(3枚目の写真)。「ロシア人には、ライカを連れ戻す気はなかったの〔これは正しい。スプートニク2号は5ヶ月間軌道を回り続けた後に大気圏に突入し燃え尽きた(死ぬことが前提)。しかも、酸素供給は僅か7日分しか用意されていなかったし、実際には熱制御システムが故障して数時間で死亡した〕。でも、マックは違う。空軍とNASAは、マックを安全に連れ戻すために全力を尽くすわ。だから、マックに運命を全うするチャンスを与えてあげないと」。この言葉にビリーは納得する。

家に戻ったビリーは、無線のスイッチを入れ、マックに話しかける。「マックかい? 僕だよ。一緒にいるからね」(1枚目の写真)。そして、マッギネスの過去の逸話を話しているうちに、眠ってしまう。すると、いきなり、ヘッドホンから、「おい」と言う声が聞こえたので目が覚める。男の声は続く。「今夜は最後になるから楽しんどけよ」(2枚目の写真)「なぜだか分かるか? お前は、明日、片道旅行をするんだ。そして灰の山になる」(3枚目の写真)「レッドストーンが爆発するからな」。

びっくりしたビリーは、何とかしようと自転車に乗って基地に向かう(1枚目の写真)。ビリーの様子を心配して見に来た父は、ビリーが窓から抜け出したのを見て、急いで車を出す〔家政婦が見送る〕。父は、自転車に追い着くと、「何する気だ?」と訊く。「マックを殺そうとしてる」(2枚目の写真)。「誰がそんな?」。「僕の無線で聞いたんだ。スタントンが忍び込んで、ロケットを爆破するつもりだって言ってた」。スタントンの名が出たので、父は、至急ビリーを車に乗せ〔自転車は放置〕、基地に向かう。そして、マックの檻まで行くと、扉の前にアストロCのボールペンが落ちている(3枚目の写真、矢印)。これで、父は、スタントンが裏切って悪事を働いたと確信する。

そして、すぐにレッドストーンロケットの発射台まで急行(1枚目の写真)。父は 「点検 100ヶ所以上ある。2人じゃ無理。それに、奴らの細工、非常に微妙に違いない」と、絶望にかられる。そこに、家政婦が手回しよく連絡しておいた、2人のドイツ人の助手が、フォルクスワーゲンのバンで駆け付ける(2枚目の写真)。最も信頼のおける部下がやってきたので、ウィルヘルムは、ボンネットの上に設計図を広げると、助手Aにはジャイロスタビライザー〔横揺れ防止装置〕、助手Bにはモーターマウント〔エンジンと本体の連結部分〕と操舵翼のチェックを命じる(3枚目の写真)。2人がいなくなると、ビリーに 「助手が要る。いいな?」と訊き、ビリーが 「いいよ」と笑顔で言うと、直ちに最重要の場所に向かう。ビリーが設計図をみながら点検部位を言い、父がそれをチェックする。その時、助手Bから、操舵翼の入力が変更されているとの報告がある〔その助手が、直ちに元に戻した〕。父は、助手になったビリーに、この破壊行為の意味を、ロケットの向きを逆方向にするものだったと教える。

次に父が、点検口のパネルを開けようとすると、固定されていない。父は、「主燃料タンク。2万ポンド〔9トン〕の液体燃料。以前ロケットを火の玉にした時、ここがその場所」と ビリーに教え、すぐに助手Aを呼ぶ(1枚目の写真)。するとパイプの1本に穴が開けられ、そこから燃料が漏れている(2枚目の写真)。交換するパイプはあるのだが、狭すぎて手が届かない。すると、中に入り込んだビリーが、①燃料の栓を閉め、②レンチを2回廻して穴の開いたパイプを外し(3枚目の写真、矢印)、③新しいパイプをセットし、④レンチを2回逆に廻して固定し、映画には映らないが、⑤燃料の栓を開ける〔ここで初めて大きな疑問が発生する。❶ビリーは父の指示なしに どうやってロケットの中に入ったのか、❷パイプに穴が開けられてから丸1日。燃料は毎秒1ccは漏れているようので、86400cc=86リットル≒86kgになる。9tの約1%になるが、大丈夫なのだろうか? それに漏れた燃料はどこに行き、発射時に引火する可能性はないのだろうか?〕。すべてのチェックが完了し、4人は 「やった!」と大喜び(4枚目の写真)。父は、ビリーの肩を叩いて、「誇り、思うぞ!」と称える。

1月31日。マッギネスに手を引かれ、宇宙飛行士の服を着たマックが発射台に向かって歩いて行く(1枚目の写真)。マッギネスとマックはエレベーターでカプセルの位置まで上がり、マッギネスが自らマックをカプセルの中に入れる(2枚目の写真)。マックをベルトで座席に固定するのは、技術者の仕事。用意が済むと、マッギネスは 「じゃあ、マック、頑張るのよ。生還してね」と声をかける。その頃、管制室では、ビリーが飛び込んできて、「パパ! マックに会わせてくれないんだ!」と不満をぶつける。父は、ドイツ人の助手Aに マイクをカプセルにつなぐよう指示する。ビリーは、無線でやっていたように、マイクとヘッドホンでマックとつながる。「マック、聞こえるかい? 今は一緒にいられないけど、大丈夫だよ」(3枚目の写真)「相棒、全世界が君に注目してるぞ。アメリカに何ができるか、見せてやれ」。ここで、助手Aが「発射5分前」とアナウンス。ウィルヘルムは、カプセルのハッチを閉めるよう命じる。さらに、発射整備塔が後退する。

その時、管制室に入って来たスタントンが、ビリーを見つけ、「あいつ ここで何してる。追い出せよ」とウィルヘルムに言う。「息子、留まる」。「なら、俺がやる」。そう言うと、ビリーの方に向かう。ウィルヘルムは、直ちに 「秒読み、停止!」とアナウンス〔この時、発射まで63秒〕。そして、スタントンに、「息子に触ったら、私、出て行く」と告げる(1枚目の写真)。スタントンが、「そんなことできない」と言うと、ウィルヘルムはスタントンを呼び寄せ、「悪い知らせ、あんたが大統領に知らせるか?」と訊き、ここで、アストロCのボールペンを取り出し、「私が知らせるか?」と言い(2枚目の写真、矢印)、ニヤリとする。スタントンは降参するしかない。そして、秒読みが再開される。そして、「1」まで行くと、「点火」。ロケットは上昇を始める(3枚目の写真)〔実際には、チンパンジーのハムがカプセルに入ったのは、7時53分。そのあとすぐ、インバーター(エンジン内のポンプのモーター制御に使われる装置)の過熱トラブルが発生。実際の打ち上げは4時間後の11時54分〕

ロケットは順調に上昇を続けるが、しばらくすると警告音が鳴る。助手Aが 「エンジン、スピードオーバー」と言い、助手Bが「飛行経路上昇中」と言う。それを聞いたウィルヘルムは、「早過ぎ。高過ぎ」と言う〔史実では、高度115マイル(185キロ)、最高時速4400マイル(7081キロ)の予定だったが、打ち上げ後1分で角度が少なくとも1度高くなったため、結果的に高度157マイル(253キロ)、最高時速5857マイル(9426キロ)に達した。従って、この状況は史実を反映している〕。ビリーは、「パパ、どうしたの?」と心配する(1枚目の写真)。忙しい父の代わりに アラン・シェパードが 「エンジンの過熱だろう。君の相棒は、我々が思ってたより、荒っぽい体験をしてるな」と言う。助手B:「G 上昇中」〔5→7まで上がるが、これは予測範囲内〕。ウィルヘルム:「新しい軌道、計算」。どちらかの助手が、計算尺を手にする(2枚目の写真、矢印)〔他の分野より、ここ(計算尺の使用)だけが、今から見れば信じられないほど原始的〕。ビリーは、心配そうに見ているしかない(3枚目の写真)。助手A:「マッハ7に到達」。助手A:「速度、時速5857マイル〔上記の史実の数値〕」。

ロケットの燃料が尽き、マックの乗ったカプセルがロケットから切り離される(1枚目の写真)。ウィルヘルムが 「高度?」と訊き、助手Bが 「157マイル」と言うが、これも前記の史実数値。助手Aは、「やったぞ、ウィルヘルム。宇宙、飛んでる」と喜ぶ。TVでも、「カプセルは大気圏を離れました。アメリカは宇宙での競争に加わりました」と、喜びのメッセージ(2枚目の写真)。この時、映画では、カプセルの窓から地球が映るが、実際にハムが乗ったカプセルから撮影された写真を3枚目に2枚示す〔正確な出典は、https://www.americaspace.com/2021/01/31/we
-gave-it-away-remembering-the-unhappy-flight-of-ham-60-years-on/
。管制室では、全員が立ち上がって拍手する(4枚目の写真)。

ウィルヘルムは、みんなに笑顔を振りまき、「みんな、ありがとう」と大きな声で言う。そして、寄って来たビリーを抱き上げると(1枚目の写真)、「お前の友だち、宇宙にいるな。たぶんいつか、お前も月を歩く かもな?」と言う。ビリーは、「そろそろ、地球に帰してやってよ」と言う。「そうだな、地球に帰そう」。因みに、2枚目の写真は、先ほどとは反対側から見た管制室。3枚目の写真は、DVD付属のメイキングno.1の中にあった当時の管制室の写真(左)と、保存されている計器類(右)。メイキングの解説によれば、この映画を作るにあたって、この両者を参考にしたそうだ。ウィルヘルムは、2人の助手に、「スラスター〔宇宙船の修正する小型のロケットエンジン〕」と指示する。スラスターのスイッチを入れるとすぐにブザーが鳴り赤いランプが付く。助手B:「逆噴射、点火せず」。ウィルヘルムは、手動で試すよう指示するが、それでも点火しない。ビリーは、「パパ、どうしたの?」と訊くが、父には答える余裕などない。「もう一度、試せ」。それでも点火しない。ビリーは2人のドイツ人の助手のところに行くが、対応に必死で相手になってくれない(4枚目の写真)。

その時、アラン・シェパードが、ウィルヘルムに向かって、「なあ、博士、もしあそこに宇宙飛行士がいたら、逆推進のスイッチを入れられるのにな」と言う。それを聞いたビリーは 「そこにも宇宙飛行士はいるよ。マイク渡してよ」と 父に駆け寄るが、父は、「ウィルヘルムやめろ。我々、何もできん。邪魔だ」と追い払う(1枚目の写真)。マッギネス は、「マックは そんな訓練受けてないの」と説得しようとするが、ビリーは 「マックならできる」と言うと、助手Aの頭から、無理矢理ヘッドホンを奪い取ると、マイクに向かって、「右翼に行くんだ! 右翼だ、マック!」と叫び続ける(2枚目の写真)。すると、練習用のイスの上部に付いていたパネルのスイッチを、ビリーが 「右翼には触るな、ショックを受けるぞ」と言っていたのを覚えていたのか、「右翼」=「パネルのスイッチ」だと思ったマックは、逆噴射のスイッチを入れる〔多くのWEBサイトには、ハムは、再突入用のライトが点いたらボタンを押すよう教えられていたと書かれているので、ひょっとしたら、映画の設定(訓練用のイスの下に操作盤、上に無意味な板が付いている)自体が史実に反するもので、本当は、白いライトの右手レバーと、青いライトの左手レバーしかなかったのに、ビリーが「右翼」と言ったから、マックが奇跡的に逆噴射させたと思わせるために、幻のスイッチを設けたのかもしれない。ただ、どのサイトにも、「なぜ、逆噴射をチンパンジーにさせねばならなかった」についての説明がない。地上からライトの点滅で指令が出せるのなら、地上からの信号で逆噴射させればいい訳で、それならチンパンジーに無理な訓練をさせる必要もない。一体どうなっているのだろうか?〕。カプセルは無事180度向きを変え、カプセルの底が地球を向く。赤いランプが消え、可能性は1つしかないので、助手Aが 「猿がスイッチを入れた」とびっくりする。そこに、「マック、やったな!」とビリーが走り寄ったので、助手Aがビリーの頭をくちゃくちゃにし(3枚目の写真)、次にアラン・シェパードがやって来て 「偉いぞ、ビリー」と称え、「あの猿には、パイロット・ウィング〔一定の資格に達したパイロットに授与される広げた鳥の翼の形の記章〕が相応しい」と言う 。

次なる問題は、マックにかかるGがどんどん増えていったこと。最高で16Gに達する〔史実では、ロケット打ち上げ時が6G。カプセルが打ち出された時の最大値が17G。そのあと無重力を7.5分間体験。再突入時のGの最大値は14.7Gで、計画よりもほぼ3G大きかった。だから、16Gという映画の設定は間違っていない〕。ビリーは、マッギネスに、「マックは、遠心分離機で8Gまでしか体験してないよ」と言い、アラン・シェパードは、将来の自分に関係することなので、「16Gなんかに耐えられるのか?」と訊く(1枚目の写真)。マッギネス:「分らないわ」。マックは苦しいので、操作盤のレバーを勝手に押し始める〔操作盤には、実際には、前節で書いたように2つのレバーしかないが、映画では意味不明のレバーが3つあるので、何が起きるのか分からない〕。そのせいかどうか分からないが、カプセル内の温度も上がって行く。最初は110℉(43℃)、最後の頃には140℉(60℃)。父は、ビリーを呼んで、マックに話しかけて落ち着かせる。その温度上昇を示すかのように、カプセルの下端部は、空気を押し潰して真っ赤になっている(2枚目の写真)〔実際には、ベリリウム熱シールドが守っている〕。そして、一時電波が途絶えて、ビリーは心配するが、しばらくすると再び蘇る〔空力加熱により高温になってカプセル周囲の大気が電離し、これにより形成されたプラズマがカプセルを包んで電波を遮たるため、アポロの時代までは起きた現象〕。助手Bが、落下の飛行距離を計算し直すと440マイル(708キロ)で、当初予定の回収位置の115マイル(185キロ)東南東だと報告する〔史実では、飛行距離は422マイル(679キロ)、回収船から60マイル(97キロ)の大西洋〕

アラン・シェパードは、回収船からかなり離れているので、カプセルが沈んでしまうとまずいので、早く見つけに行こうと、10分以内にヘリコプターを寄こすよう手配する。そして、ビリーに一緒に捜しに来るよう誘う。2人は、用意ができたヘリに向かって走って行く(1枚目の写真、矢印はビリー)。この写真にはどこにも映っていないのに、2人が飛び乗って出発しようとすると、突然、マッギネスが現われて一緒に乗り込む。そして、海にポツンと浮かんでいるカプセルが映る(2枚目の写真)。見つけたのはビリーで、「あれ、何?」と訊き(3枚目の写真)、それを双眼鏡で見たアラン・シェパードは空軍に正確な緯度と経度を伝える〔史実では、午後12時12分頃、着水(飛行時間は僅か16分39秒)。その約27分後、P2V捜索機がカプセルを発見する〕

空軍のヘリがカプセルを回収して基地まで運ぶ(1・2枚目の写真)〔史実では、空軍のヘリがカプセルを吊り上げたのは午後2時52分。飛んで行った先は基地ではなく、回収船のドナー号〕。早速、ハッチをカプセルに取り付けていたビスが外され、すぐに元気なマックが顔を見せる(3枚目の写真)〔映画では、ビスの数が少なく、あっという間に開くが、史実では、大気圏外に出ても空気が漏れてはいけないので、厳重に締め付けてあり、ハムが外に出られるまで9分かかった〕

ビリーは、カプセルから出て来たマックを抱きしめる(1枚目の写真)。その後、出迎えにいったスタントンがマックに手を噛まれ、さらに、空軍特別捜査局の係官に、国家反逆罪と破壊工作の容疑で拘束される〔現在、国家反逆罪は 死刑または5年以上の懲役〕。映画の最後は、4人の主役が笑顔で揃う場面(2枚目の写真)〔マッギネスがウィルヘルムと結婚し、ビリーの母となるのがベストだが…〕

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