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Oliver Twist (TV) オリバー・ツイスト (1999年版) ①

イギリス映画 (1999)

『オリバー・ツイスト』は、ディケンズ特有の社会告発的な風刺的基調に、ピカレスク的要素が加わり、そこに少年を主人公としたことで、一種の児童文学にもなったため、これまで何度も映画化されてきた。しかし、モンクスという由来不明の人物が小説の半ばになって突然現れ、その人物が小説全体の方向性を変えてしまうことから、映画化にあたっては、製作者が “モンクス” をどう処理するかで非常に悩んできた。中には、モンクスを登場させない決断をした脚本まで現れた。しかし、そうすると、『オリバー・ツイスト』に特徴的な陰謀的要素がなくなってしまう。このロング・バージョンのTVシリーズは、エクソンモービル名作劇場 の30周年記念特別バージョンとして、各2時間の三部構成とし、その第一部でオリバー誕生に至るまでの経緯を、原作の最終章近くに断片的に記載された台詞を集積させ、あらたに独創的なストーリーを考え出した。原作の不十分極まりない “ヒント” との大きな違いは、オリバーの父にあたるエドウィン・リーフォードの遺言書が、原作では、エドウィンを毒殺したリーフォードの妻が焼いてしまってなくなり、エドウィンが愛人のアグネスに渡したロケット(ネックレスの先端の飾り)も、モンクスによって廃棄され、一切の証拠がなくなってしまうのに対し、映画では、両方とも残ること。恐らく、映画の製作者は、証拠が二つともなくなった状態で、モンクスが降参して罪を認めるのには無理があると思い、変えたのであろう。もう一つのオリバーとは関係のない違いは、アグネスの幼い妹ローザを、エドウィンの年上の友人のブラウンロウが養女にしたこと。これで、第二部の終わりに登場するはずのメイリー夫人は不要となった。これには理由があり、ローザをメイリー夫人の養女にすると、筋立てがより複雑化し、第二部第三部の計4時間では足らなくなるからであろう。実際、これまでメイリー夫人を登場させた映画は、BBC製作の6時間バージョンしかない。これらの変更によっても、原作との違いを最小限に抑えることはできたはずだが、この30周年記念特別バージョンでは、第二部第三部で、モンクスとローザの関わる部分以外にも、かなり大胆な変更を試みている。それは筋書きだけでなく、登場人物の個性にも及び、ファイギンはマジシャン風に、ドジャーは生意気な悪漢に、ナンシーはパッとしない端役に、ビル・サイクスはゴラム風の狂人に、チャーリーは半善人に。オリバー側も、ブラウンロウは弁護士でもないのに弁護士風の無感動で非魅力的な人間に、弁護士のグリムウィグは変人から端役に、ローザはオリバーに無関心で自分の恋だけに熱心な冷たい女性に、モンクスは悪魔ではなく鬼母の哀れな犠牲者に変わっている。だから、この作品は、全く新しい『オリバー・ツイスト』だと思っていい。あらすじの執筆にあたっては、第一部では、原作のどの台詞が『オリバー・ビギンズ』の創作に影響を与えたのかを分析し、第二部第三部では、原作の台詞をそのまま使っている箇所と、全く違っている箇所を明確に示した。そのため、これまでのあらすじと比べ、格段にかなり長くなってしまった点は、お詫びしたい。なお、このTVシリーズは、NHKで放映されたと書いてあったが、詳細は不明。日本版のDVDやVHSは存在しない。

以下の概説にあたり、原作にはない、もしくは、原作と異なる部分の番号は、白 抜き(バックが黒で数字が白く抜かれる)とする。
 第一部: ❶エドウィン・リーフォードとアグネス・フレミングが愛し合う、❷アグネスには厳しい父親がいて、エドウィンを年下だが一番の親友として家に迎いいれている。❸エドウィンは仕事でダブリンに行った時、アグネスにプレゼントするロケットと指輪を買う。❹帰宅したエドウィン。彼には別居中の妻エリザベスと息子エドワードがいることが観客に分かる。しかも、アグネスが妊娠し、彼女に自分が既婚状態にあることを打ちあけていないエドウィンは、アグネスから結婚を迫られて非常事態となる。彼の帰宅を待っていた、ローマからの手紙には、莫大な財産の贈与が書いてあり、エドウィンはここに活路を見出す。❺エドウィンは、フレミング氏にはアグネスとの関係を打ち明けられずに、ロンドンに行き、そこで、年上の亡き姉との関係で交友関係にあるブラウンロウには事情を打ち明け、ローマに向かう。❻ローマで財産を引きついた後に、現地の弁護士の勧めで遺言状を作成する。弁護士は、異常な付帯条件に驚きながらも、遺言状の写しをブラウンロンとその弁護士にも送る。❼エドウィンからの手紙でローマ行きを知った妻は、息子を連れてローマに行き、エドウィンの安ホテルに侵入、彼が寝ている間に遺言状を読み、アグネスの存在を知り、財産を取られまいとエドウィンを毒殺し、遺言状を焼く。❽フレミングは、アグネスの非嫡出子の妊娠を知り、恥を隠そうと田舎に転居する。❾エドウィンの妻(あらすじでは “鬼女” と標記)は、転居先まで行き、息子にアグネスを殺害させようとするが、失敗する。❿怖くなったアグネスは、エドウィンからもらったロケットと指輪だけ、持ち逃げ出す。探しに出かけたフレミングは、過労で死に、アグネスの妹のローズは、身寄りがないので百姓家に引き取られる。アグネスは、疲労困憊するほど歩き、ふらつきながら見つけた町に入って行く。彼女が出産間近なことを知った町の人は、アグネスを救貧院の医者に任せようと、救貧院に運んで行く。アグネスは男児を生んですぐに死亡し、持っていたロケットと指輪は看取った老婆サリーに盗まれる。教区吏のバンブルが、オリバー・ツイストと名付ける。⓮鬼女と息子は、この町まで追ってきたが、サリーは今日生まれた赤ん坊はいないと嘘を付く。オリバーは洗礼後、バンブルによって養育院に送られる。⓰鬼女はブラウンロウ邸を訪れ、遺産を要求するが、ブラウンロウは、行方不明の子が二十一歳になるまで捜索を続けると言い、鬼女を愕然とさせる。⓱ブラウンロウは、ローズを探し出し、養女にする。九年後、オリバーはバンブルによって養育院から救貧院に移される。
 第二部: オリバーは、くじに当たって、食べ物の増加を懇願する役になり、救貧院から追い出され、葬儀屋の徒弟に出される。❷女の息子(偽名モンクス)は、悪名高いフェイギンと接触し、洗礼記録を調べるよう勧められる。先輩の徒弟から母の悪口を言われたオリバーは、彼に殴りかかり、石炭庫に閉じ込められるが抜け出す。❹モンクスは、洗礼記録からオリバーという名前だと知り、葬儀屋まで捜しに来るが、オリバーは逃げ出した後。❺ロンドンに戻ったモンクスは、フェイギンにオリバーの不良化を依頼し、フェイギンはドジャーを向かわせる。ロンドン郊外で、ドジャーはオリバーを見つけ、フェイギンの根城まで連れてくる。❼オリバーは、ドジャーとチャーリーと一緒に外に出され、ドジャーは、ブラウンロウ邸の前で彼の外出を待ち、後を付け、本屋の前で立ち読みしている時に財布を掏り、それをオリバーに押し付け、泥棒呼ばわりする。裁判にかけられたオリバーを、本屋の証言が救い、意識を失ったオリバーをブラウンロウが自宅まで連れ帰る。回復したオリバーは、たまたまマフィンを食べに来たグリムウィグの意地悪な示唆もあり、本とお金を返しに行く役を仰せつかる。❿外に出て来たオリバーをみて、ナンシーは家に戻るよう説得するが、そこにビル・サイクスが現われ、フェイギンの根城に連行する。オリバーは身ぐるみ剥がれ、監禁される。⓬モンクスは、フェイギンから礼金を要求され、代わりに、エドウィンがアグネスに宛てた最後の手紙を託す。⓭ブラウンロウが、オリバーの行方を探そうと賞金を出すが、フェイギンの仲間のトビーが悪口を並べ、オリバーの信用をゼロまで落とす。⓮救貧院の院長になったバンブルと、少し前に夫を失った婦長のマン夫人が結婚式を挙げるが、その直前、バンブルはこの結婚が金銭目当てだと言い、それをマン夫人に聞かれてしまう。オリバーは、監禁を解かれ、ビル・サイクスの強盗の手先として使われる。⓰向かった先は、ブラウンロウがチェルシーに持つ立派な邸宅。オリバーを使う目的は彼を強盗に仕立てるため。⓱モンクスは、バンブルを通じて、妻が “アグネスからロケットを奪った老婆が死んだ時” に老婆から手に入れたロケットを、買い取る。小窓から邸宅に入らされたオリバーは、召使によって撃たれる。
 第三部: サイクスは、オリバーを部屋から出すが、途中の草むらに置いて逃げる。翌朝、召使が女中に昨夜の出来事について話していると、玄関がノックされる。そこに現れたのはオリバー。❸それがオリバーであることは、ロンドンのブラウンロウ邸でオリバーの面倒を見た優しいベドウィン夫人が確認し、医者を呼ぶ。❹フェイギンは、ビル・サイクスの様子を見に行き、失敗した強盗についてナンシーに文句を言った際、うっかり秘密を漏らしてしまう。その直後、フェイギンは根城で待っているモンクスと会い、入手したロケットを見せられるが、その時の会話を、隠れて付いて来たナンシーに聞かれてしまう。❺オリバーが昏睡状態から覚めた時、ブラウンロウが予期せぬ時にやって来たので、ベドウィン夫人は、オリバーを隠すのに大わらわ。結局、咎められることなく、ブラウンロウとオリバーは再会する。❻ビル・サイクスが帰宅し、寝てしまったので、ナンシーはロンドンのブラウンロウ邸に行くが不在で会えず。オリバーは、自分の誕生から、強盗までの話を、館の関係者全員に話す。❽フェイギンとモンクスが、館まで様子を見に来て、それをオリバーとローズが見て悲鳴を上げる。ブラウンロウは、直ちにロンドンの家に関係者を移す。❾フェェイギンが、ビル・サイクスに会いに来た時、執拗に外に行きたがるナンシーを見て不審に思い、ドジャーとチャーリーに尾行させる。❿ナンシーは、ブラウンロウ邸に行き、モンクスについて打ち明ける。⓫根城に戻ったドジャーは、ナンシーの裏切りを、聴いたわけでもないのにオーバーに報告し、ちょうどやって来たビル・サイクスにも、フェイギンの止めだてを無視して話す。ビル・サイクスはナンシーを撲殺する。ブラウンロウは、ナンシーから聞いた居酒屋まで行き、モンクスを家に連行する。⓮ビル・サイクスはフェイギンの新しい根城に、“彼を追いかける群集” と一緒に押し掛け、フェイギンを窮地に立たせる。⓯ビル・サイクスは転落死し、フェイギンは逃げようとして、オリバーに見つかり、逮捕される。⓰ブラウンロウ邸に来たバンブル夫妻は、モンクスと対面させられ、夫人は悪びれもせず、すべてを告白する。一方、モンクスは許しを乞う。オリバーは、父が母に出した最後の手紙の場所を聞くため、フェイギンの牢獄を訪れる。バンブル夫妻は、没落して救貧院で暮らしている。モンクスは、南方の地で幸せに暮らしている。ローズは恋人と念願の結婚を果たす。
 こうして見て来ると、第一部だけでなく、第二部第三部でも白抜きの数字がほとんどを占める 。

クリック『オリバー・ツイスト』 の映画化による作品ごとの原作との違いの表
     (作品ごとの個別シーンの違いは、表の最左欄の黄色の文字をクリック)

オリバー役は、サム・スミス(Sam Smith)。1989年8月9日生まれ。映画の放映は、1999年11月28日なので、撮影時は、恐らく、映画の中のオリバーと同じく9歳。映画出演は、この作品と、以前紹介した、『Wondrous Oblivion(素晴らしきボンクラ)』(2003)の2本のみ。後者では13歳になっているの。一番オリバーの面影が残っているシーンを下に示す。
  

あらすじ

DVDの冒頭に、アメリカの作家ラッセル・ベイカーが登場し、こう述べる。「今夜の名作劇場〔Exxonmobil Masterpiece Theatre〕は、三十周年記念として 著名な文豪に敬意を払うことにしました。チャールズ・ディケンズです。原作は、暗く メロドラマ風の『オリバー・ツイスト』で、百五十年にわたり、多くの読者を惹きつけ、映画や舞台になり、ブロードウェイやロンドンでミュージカルも上演されました。さて、この有名な おとぎ話の世界では、子供達が邪悪な力に もて遊ばれます。幼いオリバーは、子供達が餓死したり過労死するような世界に投げ込まれます。そこは、盗賊、偽善者、児童虐待者、娼婦の世界で、精神を病んだ殺し屋、恐怖のビル・サイクスもいます。中でも、悪の権化は、背徳的ながら興味深いフェイギンで、あらゆる文学作品の中でも 最も奇怪な悪党の一人です。大半の読者は、きっと覚えていないでしょう。オリバーがどこから来たかとか、彼の母親が誰で、父親が どう死んだかなど、ディケンズは、この点について ほとんど触れていません。それも、本の最後の何ページ(book's last pages)かにです〔曖昧な表現。大半の記載は第49章と第51章、一部が第40章、あとは一種の断片が第38,46,52,53(最終)章に触れられている〕。それが、筋書きを複雑にしているのです〔「複雑」ではなく、意味不明〕。それを避けるため、今夜は、オリバーの誕生前から話を始めます」(1枚目の写真)「彼の両親が どんな人物で、なぜ、財産を相続するに至ったか。そして、なぜ、オリバーが何度も危険な目に遭うのか? この作品は、ハリウッド流に言えば『オリバー・ビギンズ』に あたります。では、『オリバー・ツイスト』三部作の、第一部の開幕です」。そして、第一部の最後の方の場面(オリバーの母がオリバーを生む町をくたびれ果てて歩くシーンを背景に、「第一部では、オリバーが どうして悲惨な状況下で 誕生したかが、語られる…」との文字が記載される(2枚目の写真)。そして、遂に歩けなくなった母は、産気付いていることから、医者のいる救貧院に運んでいかれる。そして、専属の医者は、無事赤子を取り出し、男の子だけ母親に告げる(3枚目の写真)。母は、「一度だけ抱かせて。そしたら、死ねる…」と言い、医者が赤ちゃんを連れて行くと、赤ちゃんに触れて涙を流すと、力尽きてしんでしまう。そして、母親の顔が、生き生きとした笑顔に変わり(4枚目の写真)、ここから第一部が始まる。
  
  
  
  

第1節の4枚目の写真は、将来オリバーの母となるアグネス・フレミング。そして、この直後の恋人同士の構図(1枚目の写真)で、アグネスと一緒にいるのは、エドウィン・リーフォード。アグネスは、「てっきり 会うだけかと」「今まで、こんなに歩いたこと なかったわ」と言い、エドウィンは、「初めてじゃない」と言うが、アグネスは、「二人きりは 初めて」と言い、それを聞いたエドウィンはアグネスにキスする。恐らく、このデートの際に、エドウィンはやってはならない行為をアグネスにしたのであろう。このシーンを含め、この先の数節の元となることが、原作にはどう書かれているのだろう? ここでは、小池 滋氏訳の『オリヴァー・トゥイスト』から、該当する箇所をピックアップする(ただし、第何章に該当するかは、この訳本〔1838年の初版本の訳〕の章数と手元にある最終改訂版〔1867年〕の章数が違うので、ここでは普通に出回っている、最終改訂版の章数(黒丸の番号は記載順)を示す/名前は、このサイトの標記に統一する)。【第49章   ❺ブラウンロウ:「お父さん〔エドウィン・リーフォード〕がその父親から無理に結婚させられたのは、まだほんの若い頃だったからな」。❸ブラウンロウ:「家の名誉とか、最も下劣であさましい野心の犠牲者となって、お前の気の毒なお父さん〔エドウィン〕がまだ若い頃に、いやいや惨めな結婚を強いられた結果、ただ一人だけ親に似ぬろくでもない子供が生まれた。それがお前〔エドワード・リーフォード/偽名モンクス〕」。❹ブラウンロウ:「二人〔エドウィンとエリザベス・リーフォード〕が別れてしばらくしてから、お前〔モンクス〕母親〔エリザベス〕大陸の軽佻浮薄な生活にうつつを抜かし、自分より十も年下の夫〔エドウィン〕のことなんか、けろりと忘れてしまった。夫の方は将来をすっかり台なしにされてしまい、イギリスでぶらぶらしているうちに、新しい友人〔フレミング氏〕ができた」。❻ブラウンロウ:「新しい友人〔フレミング氏〕というのは退役の海軍将校で、奥さんに半年ほど前に死なれ、子供が二人残っていた。二人とも女の子で、一人は十九歳の美しい娘〔アグネス・フレミング〕、もう一人〔ローズ・フレミング〕まだほんの二、三歳だった」。❼ブラウンロウ:「お前〔モンクス〕のお父さん〔エドウィン〕があちこち放浪しているうちに、この人たちが住んでいる辺りにやって来て、そこに住みつくことになった。最初のうちはただの知り合い、次いで仲良し、そして親友へとぐんぐん発展して行った… 老退役将校が彼を知るにつれ、次第に愛するようになった。それだけで終わってくれればよかったんだが、その娘さん〔アグネス〕までが同じ気持ちを抱くようになってしまった」。❽ブラウンロウ:「それから一年たつと、彼はその娘とおごそかに結婚の約束の誓いを立てた。汚れを知らず世間も知らぬ乙女の初恋の相手、熱烈な唯一度のまことの愛情を捧げる相手となったのだ」】【第51章 ❸モンクス:「父〔エドウィン〕はその娘〔アグネス〕に対して、ある秘密の事情があるので――そのうち説明するが――今のところ結婚できないのだ、というようなことを言って、その場その場をごまかして来たんですな。そこで娘の方でも相手をいつまでも信用して、つい深入りしたあまりに、とり返しのつかぬ一線を越えてしまった。その時娘の方はあと数ヶ月で子供が生まれるばかりになっていた」】。上記のシーンは、この第51章の❸の「深入りした」直後と思われる。この直後のアグネスの言葉は、「でも、明日には…」。そして、エドウィンはすぐに、「また 戻ってくる。金持ちじゃないから、働かないと」と答える。この表現は、第49章の❹の「イギリスでぶらぶら」や第49章の❼の「放浪しているうち」とは全く違い、立派な家に住み、忙しい職に就いている。その次の会話。エドウィン:「できるだけ早く 一緒になろう。そして、残りの人生を僕と幸せに暮らそう」。アグネス:「父が、会いたがってるわ」。「困ってることでも、あるのかい?」。「父に殺されちゃうわよ」。そして、二人は、アグネスの父の家に行き、三人での晩餐会に臨む。さっきのアグネスの言葉が気になったエドウィンは、フレミングに、「教えて下さい。あなたが船長だった頃、誰かを 殺したことが あるかどうか」と質問する。「明らかな規律違反があった時とか、邪道に走った男に対して〔まさに、エドウィンそのもの〕、わしは 死ぬまでムチで打たせたことがある」「一度、カディスで卑劣な嘘つきを絞め殺したことも」。フレミングは、逆に、エドウィンにこう質問する。「ちょっと訊いておきたいんだ。君は、明日旅立つから今しかない。何か、秘密でもあるのかね?」(2枚目の写真)「何か、話してないことは?」。ここで、アグネスが、「秘密をお持ちでも、構わないんじゃなくて?」と助け船。「わしの目は確かだ。仕事柄な。君のように立派で優秀な男には、秘密がつきものだ」。「ええ、あります。私は 若くして結婚し悲劇に終わりました」(3枚目の写真)。この表現は、きわめて誤解を招く。当時でも離婚は可能だったが、エドウィンは離婚せず、上記の第49章の❹のように、「妻は大陸の軽佻浮薄な生活にうつつを抜かし、自分より十も年下の夫と別れて暮らしていた」という状況を隠している。フレミングは、エドウィンが離婚もしくは死別したと思い、「男が、女性なしでいるのは良くない。女性… 奥さんだ」と再婚を勧める。「連れ合いを亡くしてから、家に入れたのは 君だけだ」「真の友人だ」という言葉は、第49章の❼のように、「次第に愛するようになった」をストレートに反映している。「友人からの忠告だ。奥さんを もらい給え」。これは、アグネスと愛し合ったばかりのエドウィンに辛い話だ。晩餐会が終わり、アグネスは、「お気をつけて、リーフォードさん」と握手して別れを告げる(4枚目の写真)。「ダブリンかね?」。「そうです。四ヶ月は かかるかも」。
  
  
  
  

季節は冬になり、大きな窓越しにアグネスとローズの姿が見える(1枚目の写真)。この写真〔家が映っているのは、このシーンだけ〕を敢えて示したのは、フレミングが如何に立派な家に住んでいるか、そして、あとで逃げるように移り住んだ家と対比できるようにするため。さて、家の中での会話は、アグネスの妊娠による体調不良に対するもの。妹のアグネスは、第49章の❻の「まだほんの二、三歳だった」と違って、ここでは十歳くらい。「病気なの、お姉様? お母様みたいに?」と心配する(2枚目の写真)。アグネスは、「ローズ、病気じゃないの」と否定するが、口が裂けても妊娠とは言えない。「でも、どこか変よ。でしょ?」。その時、ダブリンから手紙が届き、会話は中断される。そして、画面もダブリンに飛び、エドウィンは貴金属店でロケット・ペンダントを選んでいる。そして、イギリスからわざわざ持って来たアグネスの肖像画を渡し(3枚目の写真、矢印)、「反対側は、どうされます?」との質問に、「そうだな、一対にしたいんだ」と答える〔ロケットの中に描く肖像画だが、アグネスの方は額があるからいいが、エドウィンの方はどうするのだろう? もちろん写真など存在しないから、絵師が描く間 店でじっと待っていなければならない〕。そして、金の指輪の方には、彫って欲しい文字の紙を渡す。指輪の裏には、片側に「アグネス・リーフォード」と フレミングではなくリーフォード姓にしてあるが、もう片側にエドウィンの名はまだない。これについては、原作の 【第38章モンクスはそれをひったくると、震える手でそれを開いた。中からは髪の毛二束が入った小さな金のロケットと、かまぼこ形の金の結婚指輪が出て来た。「内側に『アグネス』と刻ってある」。婦長が言った。「苗字のところは空けてある。その次に日づけが刻ってあるが、それは子供が生まれた日から遡って一年以内だった」   という一文がある。指輪に彫られた文字が違う。
  
  
  

ダブリンから帰国したエドウィンが、二頭立ての馬車で邸宅に帰って来る(1枚目の写真)。邸宅の遠景映像はないが、門があり、そこから邸宅まで数十メートルの庭があり、専属の庭師もいるので、かなり裕福な暮らしぶりと思われる。迎えに出て来たのは、マシューズという使用人。「留守中、何か?」。「変わったことは、何もありません。でも、来客がおいでです」。「歓迎すべき人?」。「ミス・フレミングです。客間にお通ししてあります。その前に2通の至急便を お読み下さい。ローマからと、パリの奥様からです」。「私に、妻などいない」。「ミス・フレミングは、たいそう取り乱しておられます」。エドウィンは、至急便は後回しにし、すぐにアグネスのところに駆け付ける。「アグネス! 手紙は、受け… どうした? 君は… いったい…」。「話に割り込まないよう、躾けられたの。赤ちゃんが できたの」(2枚目の写真)。それを聞いたエドウィンは、「僕は… その… つまり…」と言葉に詰まった後で、「アグネス、聴いて」と曖昧な返事。てっきり歓呼の声が聞けると思っていたアグネスは、「あなた、言ったわよね。もし、こうなったら、『残りの人生を僕と幸せに暮らそう』って」と、詰め寄る。「でも…」。「でも? 『でも』って何よ?」。「それはだね…」。「じゃあ、結婚して! 女性に こんなこと言わせるなんて…」。そう吐き捨てるように言うと、アグネスじゃ背を向けて、部屋から出て行こうとする。エドウィンは、「アグネス、君を失いたくない。ここに来てからは、君のことだけを考えて暮らしてきた」と必死で食い下がる。「私を、愛してる?」。「さっきの言葉で、永遠の愛の告白にならないかい?」。「じゃあ、父に会ってよ」(3枚目の写真)「ちゃんと話して。本当のことを。私が、身ごもって…」。その言葉に、エドウィンは何も言わない。アグネスは、「空論は十分。私を辱めないで。私に どんな咎があって?」と、怒って出て行く。この、はっきりしない態度は、原作の 第51章 ❸の「その場その場をごまかして来た」にぴったり。
  
  
  

残されたエドウィンは、マシューズと話す。「この問題について、何か言うことはあるか?」。「ありません」。「こう 言いたいんじゃないか? フレミングに会うべきだと。わが友にして、私を信頼し、何人も殺したことのある 彼と… どう話す… 『娘さんを妊娠させました。でも、結婚はできません。私の名前を名乗ることもできません』」(1枚目の写真)「それしか言えない。だろ?」。「はい、そうです」。「告白を?」。「はい、そう なさるべきです」。「なぜ?」。「あなたは、紳士だからです」。「そうだな。それに、私は この愛を失いたくない」。そして、気が重いフレミング邸に行く前に、至急便をチェックすることに。エドウィンは、まず、どうせロクなことにないパリからの便からマシューズに読み上げさせる。「愛しいエドウィン。また、こんなことを お願いして心苦しいのですが、こんな僅かな送金では お金が足りません。年二百ポンド下さい。とても、生きていけません。お願いです。エドワードも、よろしくと」(2枚目の写真、矢印)。次は、ローマからの便。一読したマシューズが、読み上げずに手紙をエドウィンに渡す。読んだエドウィンは、「凄いな、マシューズ! 素晴らしい!」と、歓喜のあまり立ち上がったので、ベルトの締めてないズボンがずり落ちてしまう(3枚目の写真、矢印)。第49章の❾(後述)に「自分の利益と権勢を強固にするために、お前のお父さんを犠牲に供した例の金持ちの親戚の一人がとうとう死んでしまい、自分がもたらした不幸のつぐないにと… 金をお父さんに遺した」と書かれている。だから、仰天して喜んだ。
  
  
  

エドウィンは、覚悟を決めてフレミング邸に向かう。途中、庭園内でアグネスとローズが花を摘んでいたが、声を掛けずに素通りする。その姿をチラと見たアグネスは、不安を隠せない。エドウィンがフレミング氏の部屋に通されると、いつも通りの大歓迎。「黒髪のアイルランド美人が、一緒では?」と訊かれてしまい、ますます話し辛くなる(1枚目の写真)。「正直、君がいなくて寂しかった。娘達も同じだ。もう会ったかね?」。「ただ… 見ただけです。庭にいるところを」。「後で、会って来たまえ。さてと、ところで… 近況でも、聴かせてくれないかね」。ここで、エドウィンは、また言いよどむ。「その… 私は… 私が… お話ししたい…」。「大丈夫かね? 風邪でも ひいたとか?」。「いいえ、私は、是非とも…」。「アグネスも、どこか変なんだ」。「アグネス?」。「そうなんだ。否定しとるがね。長引くようなら、医者を呼ぼうと思っとる。これは申し訳ない。話に割り込んで」。エドウィンは、「あの…」と迷った挙句(2枚目の写真)、結局黙っていることにする。「私が、お話に参ったのは… とてもいい お知らせがあります… ローマの弁護士から手紙が届いていました。伯父のリチャードが重病だという内容の」。「ローマで? 『いい知らせ』には 聞こえんが。伯父さんとは懇意なのでは?」。「全然。でも、私に埋め合わせをしたいとか」。「何の?」。「昔の話です」〔悪妻との結婚の話もできない〕。「病が重く、もう長くはないそうなので ローマに来て欲しいと。すぐに」。「それが、『いい知らせ』?」。「伯父には子供がなく、奥さんも亡くなっているので、すべてを私に残すつもりです。夢のような財産を」。「そりゃ おめでとう! 一緒に お祝いしようじゃないか」。「いいえ、私は すぐにも発たないと… 今すぐです。アグネスに…」。エドウィンは庭に出て行く(3枚目の写真)。アグネスは、「ローズ、リーフォードさんと お話があるの」と言って、ローズを追い払う。そして、「それで? 済んだの? 父とは話したんでしょ?」と訊く。「でも言えなかった。信頼を裏切りたくなかった」。それを聞いたアグネスは、本気で腹を立て、「それじゃ、最悪だわ! 私の信用は どうなるの?!」と言うなり、エドウィンの頬を叩く(4枚目の写真、矢印)。
  
  
  
  

それに対するエドウィンの返事は、アグネスには衝撃だった。「私は結婚できない。まだ、結婚してるから」。「『まだ、結婚してる』? 私達の子供なのよ」。「もちろん、僕らの子供だよ。僕らで一緒に育てよう」。二人の間に悶着が起きていそうなので、何事かと、ロースがこっそり寄って来る。「ローマから戻ったら」。「ローマと言ったの?」。「僕は 今夜 ロンドンに行かないと。でも、戻って来る。そしたら、何でも出来るんだ。駆け落ちしよう」(1枚目の写真)。「それで、幸せになれるの?」。「そうだとも!」。しかし、アグネスには、そんな言葉は信用できない。「あなたは既婚者。奥さんがいて、生きてる。私はあなたの子を身ごもっているのに、別の奥さんがいる」。この当然の非難に対し、エドウィンは 「僕は十七だった。彼女は ずっと年上。家同士で決めた。二人とも望んでなかったのに! 僕達は十年以上別居している。でも…」。第49章の❺に「まだほんの若い頃」、第49章の❹に「自分より十も年下の夫」、第51章の❷(後述)に「長いこと別居」と書かれている。「でも、あなたは私と結婚できない」。「聴いて欲しい。これは 君との約束を果たせる唯一のチャンスなんだ。僕の意思が硬いことを名誉にかけて誓う。僕が戻ったら、望むことは何でも叶えるよ。豊かに暮らせる。君も僕も赤ちゃんも、みんなが。十分なお金を渡せば、きっと妻も、僕の名前は要らないだろう〔離婚を意味するのでは?〕。その方が、あの女にも有利だから。そしたら、僕達はどこにだって行ける」〔離婚するなら、どこかに行くことは不要だが?〕。「万一、あなたが戻らなかったら どうなるの?」。「戻ってくるとも。それまでの間、ロケットと指輪だよ」(3枚目の写真、矢印は指輪)「君の名前が彫ってある。そしてここ、君の名前の右に、必ずや 僕の名前を付けてみせる」。エドウィンはロケットと指輪をアグネスの手に握らせる。しかし、アグネスは頬を触ろうとするエドウィンを避け、少し離れると、「手紙を書いて。心の支えが必要なの。もう帰って」と、別れを一方的に告げる。落胆したアグネスが早足で家に戻る途中でローズが話しかける。「聞いちゃった。誰にも言わないわ。お父様にも」(4枚目の写真)。「ずっとよ」。アグネスが去った後、ローズは、「『ずっと』じゃないかも…」と独り言。そして、邸に戻ったエドウィンは、ロンドンのブラウンロウ邸に向かう。
  
  
  
  

アグネスの態度・雰囲気に憂慮した父親は、アグネスを呼び出し 「おまえの母は、物静かに亡くなった。まるで 瞑想するかのように。隠し通したんだ。気付かれまいと力を使い果たした… そして、気付かせなかった」と、過去の苦い経験を語る(1枚目の写真)。そして、「クリッチュリー先生に診てもらいなさい。話は、それだけだ」と最悪の命令。そして、アグネスを診た医師は直ちに、「妊娠してるね?」と問う。「ええ」。「お父上には、どう説明を?」。「何も。私から」。アグネスから最悪の事態を打ち明けられた父親は、「それで? わし等の 数少ない友人に、 一体どう釈明したらいい? 衝動恋愛とでも 言い繕うか?」(2枚目の写真)「せき立てられて結婚して身ごもった途端、夫が急死したことにでもするか? 言うんだ! わしは、どうすればいい!! 言うんだ!!」と怒鳴る。アグネスは、泣きながら、「できません」と答える。「相手は誰だ? 死んどるんだな? 生きとるはずがない。いつ死んだ?!」。「お父様、お願い」。「死んだと言うんだ!」。「死んでなんか いません!」(3枚目の写真)。「もちろん、そうだろう。いつか、お前のそばに戻ってくるって訳だ。そりゃ そうだろう」。この醜聞のフレミング氏への伝達について、原作では、【第51章  ❻モンクス:「〔アグネス〕の父親〔フレミング氏〕には母〔エリザベス・リーフォード〕から真相を書き送ってやりましたが、その際母は激しい憎しみから、出切る限り父〔エドウィン・リーフォード〕の不行跡に誇張を加えました という一文がある。この事件は、もっと後になってからの行動なので、『オリバー・ビギンズ』の創作にあたり、この辺りは全く変えてしまったことになる。
  
  
  

【第49章  ❿ブラウンロウ:「お父さん〔エドウィン〕が外国に出かける前、途中ロンドンを通りすがりに… わしに会いに来たのだ。そして、わしの手に幾つかの物を残していったが、その中に一枚の絵――自分で描いた、この可哀想な娘〔アグネス〕の肖像画――があった。家に置きたくはないし、急ぎの旅行に持って行くわけにもいかなかったわけなのだ。お父さんは心配と後悔のために幽霊のように痩せ細り、気が狂ったようなとりとめのない口調で、自分の犯した破滅と不面目のことを物語り、どんな犠牲を払っても全財産を金に変えて、今度手に入った財産の一部を妻〔エリザベス〕と子〔モンクス〕に譲り渡して後、この国から逃げ出して再び戻って来ないつもりだ、とわしに打ち明けたが、一人だけで逃げ出すつもりでないことは、わしには充分見当がついた。しかし、それ以上の詳しいことは打ち明けてはくれなかった。あとから一切の事情を手紙で知らせる… と約束してくれたのだが… 手紙も貰わなかったし、二度と再び会うこともなかった。エドウィンがローマに行く前、ロンドンにいるブラウンロウに会いに行ったことを記した唯一の箇所。映画では、高級集合住宅(タウンハウス)に住むブラウンロウに邸に、突然、夜到着する。男女の召使が出迎えた後、家政婦のベドウィンが現われてハグし、そこにブラウンロウが階段を下りてきて握手する(1枚目の写真)。右に、当時のタウンハウスの一般的な内部構造を示す。予告なしの訪問に、ブラウンロウは、「何事だね? 劇的な?」と訊く。「ギリシャやシェークスピアの劇のようなものじゃありませんが」。エドウィンは、居間に連れて行かれる。ブラウンロウは、「分かってたよ、こんな日が来るかもと。不肖の知人を、家に迎え入れるような…」と、言った上で、「で、君達は?」と訊く。エドウィンは、「後悔は していません」と言うと、アグネスの肖像画(2枚目の写真、矢印)を、机の上に置く。上記の 第49章の❿の「可哀想な娘の肖像画」 だが、彼が自分で描いたとは思えない。そして、「彼女を置いてきました。無慈悲にも。あらゆる 恥辱と不名誉が降りかかるのを承知で。僕を、友人のように遇してくれた一家なのに」と反省する。留まることも できたはずだな?」。「もちろん、そうですとも。でも、ローマに行って、戻って来るだけです。戻ったら、神の許しを得て、金に糸目をつけず祖国を去るつもりです」。ここまでは、第49章の❿の「自分の犯した破滅と不面目のことを物語り、どんな犠牲を払っても全財産を金に変えて」「この国から逃げ出して再び戻って来ないつもり」 に該当するが、原作では 次のような明確な発言はない。「その時は、もちろん彼女と行を共にし、二度と別れません」。こうした弁明に対し、ブラウンロウは、「だが、君は、既婚者なんだ」と、最大の難点を指摘する(3枚目の写真)。「アグネスも、同じことを…」。
  
  
  

同時進行で進んでいるので、次は、フレミング邸。「わしには、立場がある。威信もあり、尊敬もされている。わしが 言いたいことはだな、わしらは 弟の死に勇敢に耐えてきた、妹の死にも、そして、お前の母の死にも。誰もが、それを高く買ってくれた」。これだけ言った後、次の厳しい言葉がアグネスに向けられる。「お前を追放することもできる。普通なら そうするだろう! どこか遠くに」。「出て行きます。当然ですわ」。しかし、フレミング氏はあくまで優しい。「わしが、追い出すと思うか? 失うものが多くても、わしにはできん」。「ごめんなさい お父様。ほんとに、ごめんなさい」。「明朝、田舎に向かおう。どこか、お前を隠せる場所に」(2枚目の写真)。この箇所は、【第51章 ❼モンクス:「娘の父は恥と不面目でいたたまれなくなって、二人の子供を連れてウェールズの辺ぴな片田舎へ夜逃げをして、友達に逃げた先がわからないようにと、自分の名前まで変えてしまいました の表現に近い。そして、次の節を飛び越して、翌日になるが、関連する内容なので、一家が田舎家〔それなりに立派な〕に2台の馬車で引っ越す短いシーンを先に紹介しておこう(3枚目の写真)。
  
  
  

ここで、もう一度、昨夜に戻り、ブラウンロウ邸での続き。エドウィンは、自分の過去の結婚のことを話し始める。「僕は、結婚したくありませんでした」。「知っている。だが、君は そうした」。「僕は、たった十七だったんです。あなたは僕の付き添い人。なぜ、止めてくれなかったんです? なぜ、父や伯父を諌めなかったんです?」。「付き添い人の役目は、結婚を止めるのではなく、むしろ、その逆だ」〔これは、ある意味、卑怯な逃げ。結婚に反対なら、付き添い人を引き受けずに、諫めればよかった〕。「でも、あれは卑劣な策略だったんですよ。政略結婚。家同士の商売のための犠牲。愛の全くない」(1枚目の写真)。ブラウンロウは、やや相好を崩した顔になる。それが気に障ったエドウィンは、「なぜ、笑うんです? 滑稽でロマンチック過ぎますか? 僕が嘘を付いてるとでも?」と批判する。「疑ってなどいない。長い付き合いだから。それに、君を知る前から、君のお姉さんを知っていた。私にとって、夢と幸福の時期だ。だから、笑ったんだ」(2枚目の写真)。原作の 【第49章 ❶ブラウンロウ:「お前〔モンクス〕のお父さん〔エドウィン〕の昔なじみの友達だからこそ、こうしているんだ… お前のお父さんがまだ少年だった頃、しかもそのたった一人のお姉さん〔キャサリン・リーフォード〕が、わしの新妻になる筈だった――が、神様はそれを許して下さらなかった が、この言葉と合致する。2枚目の写真の背後の絵は、エドウィンの姉、ブロウンロウの妻になる前に亡くなったキャサリンの肖像画だ。ブラウンロウは、当時のキャサリンに対する愛と比較し、「今、君が感じている愛、その情熱が懐かしい。まだ若かりし頃に味わった、あの身震いするような感覚が」と、ある意味、エドウィンに同情する。そして、翌朝、家の前に停まった馬車の前で、エドウィンはブロウンロウに心からお願いする。「戻ったら、身辺は整理します。それから、再出発です。アグネスと。妻と、息子には財産を分与してやります。十分 暮らしていける額の。手紙にも、そう書いておきました」。そして、さらに、「もし、僕に何か起きたら… あり得ないことですが…」。「アグネスと子供だな」。二人は抱き合って別れる(3枚目の写真)。ここでも、エドウィンだけでなく、ブラウンロウも、「アグネスと子供」だと、はっきり認識している。これは、先の 第49章の❿の「一人だけで逃げ出すつもりでないことは、わしには充分見当がついた。しかし、それ以上の詳しいことは打ち明けてはくれなかった」とは、全く違っている。
  
  
  

ここで、場面はパリのとある街角に。馬車から降りた男女二人がそう広くないアパルトマンに入って行く。入口には召使が、「ボン・ソワール、マダム、ムッシュー」と言って出迎える。威張で感じの悪い中年後期の女が中に入って行き、女中から、「英国からの手紙です」と言って、一通の封筒を受け取る(1枚目の写真)。女はそのまま階段を上がって行く。その後から、落ち着きのない二十歳前の男がついていくが、それを見送った後の女中の “嫌悪感” に満ちた顔は、二人が如何に嫌われているかを端的に示している。この女は、原作では、「モンクスの母」という名称しか与えられていない、エドウィンの年上の妻エリザベス・リーフォード。そして、男は、その息子で、原作では謎の人物として登場するモンクス。原作では計3回だけエドワード・リーフォードという正式名が使われる。その1回目は、【第49章 ❷ブラウンロウ:「お前の顔を見てさえ昔の友のことを思い出すからこそ、こういったいろいろのいきさつがあればこそ、今お前を――そうだ、エドワード・リーフォード。エリザベスは、居間に行くと、息子に向かって、「父方の、リチャード伯父さん… 憶えてるでしょ、ボンクラでも。病気の伯父さんのこと」と、バカにしたように言い出す。そして、リチャード・リーフォードには “腫れ物” があり、「ローマで療養中。でも、回復の見込みなし」「で、お前の父さんはローマへ急行。理由は明白。お金よ」と、手紙の内容から得た推測を話す。「お金なら、父さんが送ってくれる」。「そんなお金じゃ、とても足りないわ。手紙には、こう書いてある。『送金を増やす。妥当で公正な額だ』と。何が妥当よ。こんな はした金」。「僕のことは、何か書いてない?」(2枚目の写真)。このモンクスについて、第51章の❹(後述)に 「反抗的で、性悪で、意地悪で、早熟ですぐかっとなる性分で、父親を憎むように育て上げられた」と書かれているが、映画では、少なくともこの時点では、これほど悪い人間ではないし、父のことが嫌いでもない。また、エリザベスについては、先の 第49章の❹の「母親〔エリザベス〕は大陸の軽佻浮薄な生活にうつつを抜かし」 以外に記述は一切ない。この、ロクデナシの女は、「けちけち暮らすのは、もう うんざり。早急に手を打たないと。お金があれば、 すべてが変わる。もう一度、人生を楽しまなきゃ。お前の父さんを震え上がらせてでも。何が何でも後を追わないと」と、ローマ行きを決心する(3枚目の写真)。
  
  
  

この後の数節についての原書の記述。【第49章  ❾ブラウンロウ:「自分の利益と権勢を強固にするために、お前のお父さんを犠牲に供した例の金持ちの親戚の一人がとうとう死んでしまい、自分がもたらした不幸のつぐないにと… 金をお父さんに遺した。この男はローマへ保養に出かけてそこで死んでしまったので、めちゃくちゃになった残務の整理にために、お父さんはすぐにローマへ出かけねばならなくなった。ところが行った途端に死の病にとりつかれてしまった。その知らせがパリに届くやいなや、お前の母親がお前を連れて急行した。母親が着いた翌日お父さんは亡くなったが、遺言書はなかった。そこで、その全財産は母親とお前の手に渡った。エドウィンが、リチャード伯父のいるローマ浴場に向かう(1枚目の写真)。このロケ地は、ローマではなく、チェコの首都プラハにあるLetohrádek královny Anny(アニー女王の夏の宮殿、1538–1560年)(2枚目の写真: 捜すのに苦労した)。エドウィンは、ローマ浴場の中に入って行き、付き添いの医師に、「伯父は、ずっと ここに?」と質問する。「ええ」。「長くない?」。「長くは…」。それだけ訊いてから、エドウィンは、「リチャード伯父さん。エドウィンです」と声をかけてから、伯父の隣に入る。伯父は、すぐに、「金のことだ。知って欲しい。わしを怒鳴ってもいいが、咎めんでくれ。十七の子供を結婚させてしまった。よりによって、あんな悪女と。それに、あの子… ああ 神よ…」(3枚目の写真、矢印は巨大な肉腫)。エドウィンは、「理由の如何に係らず、わが子なのです」とエドワードについて話し、次いで、話をアグネスの方に持って行こうとして、ふと伯父を見ると、湯の中に浮いて苦しんでいる。急いで助け出し、助けを呼び、数人で湯から出し、医師が心拍を調べる(4枚目の写真、矢印は医師)。「私は 『長くは』 と言いましたが、僅か五分とは」。上記の原作の太字の部分が、映画化にそのまま活かされている。因みに、このローマ浴場は、プラハの西約120キロにある温泉保養地Mariánské Lázně(マリアーンスケー・ラーズニェ)にある1896年に作られたローマ浴場(5枚目の写真: 捜すのに苦労した)。
  
  
  
  
  

場面は、伯父がエドウィンに遺した宮殿のような建物内に変わり、エドウィンは 弁護士から伯父の遺言を見せられる。「伯父の遺言が、こんなに短いとは…」(1枚目の写真、矢印は大きな遺言書)。そして、弁護士に 「無条件?」と訊く。「ええ」。エドウィンは立派な室内を見渡し、思わず “歓喜の笑い”。弁護士から、「すぐ慣れますよ」と言われる。「一刻でも早く帰国するのが先です」。「そうでしたね」。「私が、今、すべきことは?」。「遺言を作られたら? 専属の弁護士も おられるでしょうが、用心も肝心ですからな。前途に長旅を控えておられる。あなたの遺志を、書面にしておかれることを、お勧めします。愛する者を守るため」(2枚目の写真)。そして、すぐに、長い遺言書が出来上がる(3枚目の写真)。この遺言書で、初めて年代が正確に分かる(1826年4月16日)。
  
  
  

遺贈された建物から出て庭園を歩きながら、弁護士は、「あなたの遺言は、きわめて異例ですね」と話しかける(1枚目の写真: ロケ地は捜せなかった)。「男児が生まれた場合の 条項のことですね?」。「その通りです。私に 口を挟む筋合いは ありません。唯の弁護士ですから。だから、意見も述べたくないのですが、でも、私には、この 『男児の条項』が理解できません」。「それは、息子を ご存知ないから。もし、二人目も男児で、今度は いい子に違いないと信じてはいますが、保証は入れておかないと。ひょっとして、私の血筋かもしれませんし」(2枚目の写真)。この点に関して、第51章の❹(後述)に「もし男の子の場合には次の条件がついていた。すなわち成年に達するまでに不名誉、卑劣、臆病、非行といった行為が表沙汰になって、その名前を汚すようなことがない場合に限るというのだ。こんな条件を付けたのは、生まれて来る子の母親への信頼、その子が母親から優しい心と気高い性質を受け継ぐに違いないという確信をあらわすしるしとしてやったのだ」と書かれている。濃い太字の部分は、映画よりも男児に対する信頼度が高い。エドウィン:「これ以上、説明が必要ですか?」。「そんな、とんでもありません。これは もう有効です、リーフォードさん。グリムウィグ、ブラウンロウ両氏には、郵送しておきます」(3枚目の写真)。第49章の❾の「遺言書はなかった」とは大きく違う。弁護士:「そして、あなたは、このヴィラを好きなように使っていいのですよ。なるべく早く戻られることを、お勧めします」〔このヴィラについては、この先 映画でも言及がない。一体どうなったのだろう?〕。
  
  
  

その夜、エドウィンは、弁護士が 「私なら、泊まりませね」と言った安宿に泊まる。そして、白ワインを飲みながら遺言書を見、「最愛の、アグネスへ」と、手紙を書き始める〔手紙の内容は不明〕。そして、書き終わるとベッドで寝てしまう。そして、朝になり、どこかおかしいので横になったまま部屋を見ていると、テーブルに誰かが座っている。そして、上を見ると、最悪の妻エリザベスが、「手紙をありがとう、エドウィン」と言う。エドウィンは、「手紙は出したが、招いた覚えはない」と言い返すが、ここで疑問が一つ。手紙はリーフォード邸から出したもの。その中に、ローマのホテル名を書くはずがない。エリザベスは、夫がここに泊っていると、どうして分かったのだろう? 原作では、第49章の❾の「ところが行った途端に死の病にとりつかれてしまった。その知らせがパリに届くやいなや、お前の母親がお前を連れて急行した」のように、ローマから知らせが届いたので矛盾はない。映画は、この点が甘い。その時、エドワードが、「父さん。だいぶ 良くなりました」と声を掛けるが、エドウィンは無視(1枚目の写真)〔この時期の “モンクス” は、どう見ても悪い青年ではない。彼を無視続けるエドウィンの方が悪く見えてしまう〕。エリザベスは、「ありがたく思うことね、エドウィン」と言う。「何を?」。「あたしが、ここにいてあげることを」。「不幸の最中にか?」。「あなたの優しい親切な伯父様は、あたし達に惜しげなく遺してくれた」。「辞書には君の名が載っている、エリザベス。“邪悪” 定義として、これほど相応しい表現はない。“悪意” も ぴったりだ。どうやって入り込んだ?」。「とても簡単よ。ここは、相応しい場所じゃない。あなたのような成金さんには」。エドウィンは、テーブルの上に置きっ放しになっていた遺言書を手に取ると、「これを読んだんだろ?」と訊く。「長いこと眠ってたでしょ。この部屋にある英語の書き物は、それしかなかったのよ。あなたの手紙は別として。書き出しは… 最愛のアグネスへ… ロケットは、できる限り心臓の近くに…」。「遺言書と手紙で分かっただろう。話そうと思っていたより、はっきりと。これで、君に話す手間が 省けたという訳だ」。「あなた、自分一人が苦しんだと 思ってるの? あたしの一族は、無理やり坊やと結婚させた。あたしには、死の床で後悔してくれるような金持ちの伯父などいない」と泣きながら話す(2枚目の写真)。エドウィンは、「聞き飽きた。辞書に追加だ。“欺瞞” の定義、エリザベス」。嘘泣きをやめたエリザベスは、「手紙を受け取った時、エドワードに言ったのよ。ここに、来るべきだって」と平然と言う。エドワードは、テーブルの上に置いてあった白ワインのデキャンタを持つと、父のグラスに注ぎ(3枚目の写真、矢印はデキャンタ)、エドウィンはそれを飲む。
  
  
  

エドウィンが飲んで十秒もしないうちに、彼は咳き始め、次いで、体を折り、最後は、床に崩れるように倒れる(1枚目の写真、矢印)。エドワードは、心配になり、「あれ、僕が渡したんだよ」と母に言う。「死にかけてるの、バカね」。「死にかけてる?」。「当たり前よ。一小隊 殺せるだけの青酸入りだから」。「なぜ、言ってくれなかったの?!」。「わめくんじゃない! 役に立つことをなさい。ポケットの中身を、全部出して」。「できないよ、母さん」。鬼女は、テーブルの上の遺言書を切り裂き、ロウソクの火で焼く(2枚目の写真)。この時、エドウィンが急に起き上がり、鬼女の肩につかまる。鬼女はテーブルの上に置いてあったナイフでエドウィンの横腹を刺す(3枚目の写真、矢印はナイフ)。エドウィンは、倒れながら、「弁護士が… 写しを…」と言って、息絶える。鬼女は、エドワードを連れて馬車でイギリスに向かう。「もし、弁護士が遺言書を持ってたら、あたし達の負け。彼女の勝ち。彼女に会うのよエドワード、誰よりも先に〔アグネスを殺すため〕。幸い、殺人事件らしく見える。毒殺だと女性が疑われるから。きっと、単なる強盗と考える… 強盗殺人だと」。原作では、【第51章 ❷モンクス:「こいつの父親がローマで病気になったので、長いこと別居をしていたその妻、つまり僕の母が、僕を連れてパリから駆けつけた… 父は僕たちが来たことにも気がつきませんでした。意識がなくなっていて、翌日まで昏睡状態で、そのまま死んでしまったのですから。机の上に残されていた書類の中に二通の手紙がありました。最初に病気で倒れた日付で、宛先はあなたです。あなた宛ての簡単な手紙が同封されていて、封筒の表には死ぬまでは投函してはならぬと書いてあった。手紙の一通はこのアグネスという娘に宛てたもの。もう一通は遺言書でした」。第51章 ❹ブラウンロウ:「遺言書は先の手紙と同じような趣旨のものだった。妻からこうむった様々な不幸について、たった一人の息子(モンクス)が反抗的で、性悪で、意地悪で、早熟ですぐかっとなる性分で、父親を憎むように育て上げられたこと、などが書いてあって、君と君の母親にはめいめい八百ポンドずつの年金を遺した。残りの財産を二等分して、半分はアグネス・フレミングに、半分は生まれて来る子供が生きていたら、成人に達した時に与えることになっていた。もし女の子だったら無条件で遺産を相続すること。もし男の子の場合には次の条件がついていた。すなわち成年に達するまでに不名誉、卑劣、臆病、非行といった行為が表沙汰にになって、その名前を汚すようなことがない場合に限るというのだ。こんな条件を付けたのは、生まれて来る子の母親への信頼、その子が母親から優しい心と気高い性質を受け継ぐに違いないという確信をあらわすしるしとしてやったのだ、と書いてあった。原作ではエドウィンは病死。映画では妻による毒殺。原作をかなり変えたことになる。
  
  
  

エドウィンの死を受けて、ローマの弁護士は、ロンドンのグリムウィグ宛に、手紙を書いている。「1826年4月11日 ローマにて」〔遺言書は1826年4月16日付けだったので、明らかな間違い〕「グリムウィグ様 緊急事態が起こりましたので、あなたと、ブラウンロウ氏に至急…」(1枚目の写真、ローマとグリムウィグに線)。その手紙と、遺言書を受け取ったグリムウィグは、秘書が、「グリムウィグ先生。予約が入って…」と止めるのを、「知るもんか」と無視し(2枚目の写真、矢印は2通の手紙)、ブラウンロウ邸に向かう。【第41章 ❶ブラウンロウ:「グリムウィグは、弁護士になる教育を受けたのでありますが、十年間にたった一度しか事件の依頼を受けなかったので、嫌気がさして法律の仕事をやめてしまったのです。この原書の設定とは違い、グリムウィグは現役の弁護士。しかし、ブラウンロウは用事で不在。「ああ、そうでした。うっかり忘れてました。いつ戻られますか、ベドウィン夫人?」。「明日の午後です、グリムウィグ先生」。「私から、何か お伝えしましょうか?」。「いや、結構です」。グリムウィグらしくない慌てぶりに、ベドウィンは、「いったい何が起こったのかしら」と心配する(3枚目の写真)。
  
  
  

一方、鬼女とエドワードは、フレミング一家が隠れ住んでいる田舎家まで、馬に乗って偵察に行く。フレミング邸の住所は、エドウィンの最後の手紙に書いてあったが、落ち延びた先は どうやって見つけたのだろう? 原作でも、前に引用した第51章の❼の 「娘の父は恥と不面目でいたたまれなくなって、二人の子供を連れてウェールズの辺ぴな片田舎へ夜逃げをして、友達に逃げた先がわからないようにと、自分の名前まで変えてしまいました」という状況でも、この二人は行き先を見つけ出しているが、どうやったのかは書かれていない。最初はアグネス一人が狭い庭に出てきたが、すぐに使用人も現れたので、鬼女は 「今夜、もう一度 来ましょう。目立たないように」とエドワードに言う。エドワードは乗っていた馬の性別を間違え、それが原因かどうかは分からないが落馬し、それを見ていた使用人は、「都会の連中でしょうな。間違いなく。大嫌いなんでさ。どうせ、強盗か泥棒、作家か読書家だで」と言い、アグネスが笑う。そこに、フレミング氏が外出から戻って来て、アグネスと一緒にいたローズに、「お姉さんに話があるんだ、ローズ。二人で」と、追い払う(2枚目の写真)。アグネスは、また責められるのかと思いきや、父は、「実に、言いにくい… いつもの話題とは、全く違うことだ。できれば、こんな話題は口にしたくなどなかった」と言い淀む。「お父様、どうなさったの? 大丈夫?」。「たった今、わが良き友エドウィンがローマで死んだと聴かされた」(3枚目の写真)「殺されてな… そう 殺人だ。刺されて盗まれた。お前に与える衝撃が、わしほどひどくないといいが。お前とローズは、リーフォード氏が好きだったからな」。前に引用した原作の第51章の❺の 「娘の父親には母から真相を書き送ってやりました」とは、状況は全く違う。この、思わぬ悲劇を聞いたアグネスは、父が家に入ると、野原の方に駆けて行き、あまりのやりきれなさに悲鳴を上げ、それをローズが聞いてしまう。
  
  
  

鬼女とエドワードは、田舎の食堂で簡単な夕食を食べる。鬼女が見境なく食べ物にかぶりつく一方で、エドワードは何も食べようとしない。「それが お前の望みなの、エドワード? 今みたいに生きることが?」。「今まで通りが いい」。「お前は、相変わらずね… 欲望の欠如」(1枚目の写真)「何も欲しくないの?」。「『何も』って、何を?」。「単に欲しがるのよ、エドワード」。「僕は謎々が嫌いだ、母さん。頭を使うと病状が進む」。「あたし達は、こんな近くにいて… やれるの。あたし達は、恐ろしいことを やってのけた」。「僕じゃない。僕は見てただけだ」。「見てただけで同罪よ。で、どう思う、エドワード… もし、大金持ちなれたら。そして、何でも思うがままになるとしたら」。「考えてもいいな」。「でも、そのためには やることがあるの」。「僕は、何をしたらいい?」。鬼女は、エドワードの耳元で囁く。「彼女を、殺すの」(2枚目の写真)。そんなことがしたければ自分ですればいいのに、それを息子にさせようとする母に怒ったエドワードは、立ち上がると、大きな声で、「そんなことはできない!」と拒絶する。当然、その声は、他の客の注目を集める。鬼女は 「お前なら、できる。できるわ。お前しかいない」と静かに言い、エドワードは 「やらない」と断る。「もし、真実が、殺人がバレたら、どうせ絞首刑になるのよ。だから、おやり。やらないだけ損。何てことないから」〔何という、母親だろう。原作よりも、遥かに悪女〕。「僕は、もう寝るよ」。そう言うと、エドワードは狭いベッドに前に跪き、神に祈る。祈りの途中で扉が開く音が聞こえたので、エドワードは祈りを止めてベッドに入ると、「来ないで、母さん!」と言う。しかし、鬼女は 息子を道具としか思っていない。「お前は、殺すのが好きだった。野原で殺してたわね… 穴熊、兎、鶏、瀕死の狐、雉。ナイフを持って白鳥を追いかけてた。同じようにやるだけじゃない… 動物を殺したように」。「動物だけだ。僕は二度としない」。「これまで何度、同じことを言ってきたの? いつも、やってたことでしょ? でも、気持ちは分かる… 自分の父親に対し、知らないとはいえ毒ワインを 飲ませた…」。「でも、大丈夫。医者は毒殺と思わない」。「よく 分かってるじゃないの。終わったら、誰も知らない所に行きましょ。そして、気楽に暮らす。親切で気前のいい人間として」。「どこに、そんな場所が?」。「セイロン、東インド諸島、西インド諸島。原住民がいる場所で、若い男が引き手あまたで神になる」〔嫌悪すべき洗脳の名手〕
  
  
  

一方のアグネス。エドウィンが遺していった指輪の入ったロケットに 泣きながらキスすると、それを首にかける(1枚目の写真、矢印はロケット)。そして、逃走用の荷物をバッグに詰めると、隣のローズの部屋に行き、眠っている妹に向かって、「みんな、私が悪いの。こんな私にも、居られる場所がどこかにあるわ」と涙ながらに声をかける。次いで、一階の父の寝室に下りて行くと、家出にあたっての詫び状をしたためる。「お父様へ。ごめんなさい。ほんとに、ごめんなさい。ずっと愛してます。アグネス」と書かれている(2枚目の写真、黄色の線は「お父様」)。そして、アグネスが階段を上がって寝室までバッグを取りに行くと、隠れていたエドワードが背後からアグネスに襲い掛かり、左手でアグネスの口を押えて声が出ないようにし、ベッドに押し倒す。アグネスは手を噛んで、ベッドから床に滑り落ちるが、今度は床に仰向けに倒れた状態で、左手で口を押えられる。そして、エドワードが右手に持ったナイフが高く掲げられる。しかし、その時、エドワードを発作が襲い、床に倒れ込んだエドワードの右手は痙攣を起こし、ナイフは小刻みに床を何度も突く。そして、「できない! できない。俺には無理だ」と言うと、今度はアグネスに向かって、呪いの言葉を吐きかける。「聴いておけ。覚えとけ。胸が張り裂けるだろう。夜毎、お前は うなされるだろう。一生涯。俺が来たのは偶然じゃない。送り込まれたんだ。お前を殺すために! 頼まれたのは、お前だけじゃない」(3枚目の写真、矢印はナイフ)「息を引き取る間際、エドウィンは叫んだ。『子供も殺せ!』〔そんなことは言ってない〕。だから、俺が願いを叶えてやる!」。それだけ言うと、ナイフを床に刺し、次いで、二人の間で揉み合いが始まる。結局、エドワードはアグネスを傷つけることはできず、アグネスは悲鳴を上げながら、部屋から飛び出て行く。
  
  
  

その悲鳴は、ローズを起こしただけでなく、家を見下ろす丘の上で待っていた鬼女の耳にも届く〔フレミングは眠ったまま〕。鬼女は、ローズがバッグを持たずに身一つで家から逃げ出していくのを見る(1枚目の写真)。目を覚ましたローズが姉の部屋に行くと、ナイフを持ったエドワードが立ち塞がる。「誰なの? “子取り鬼(ブーギーマン)” なの?」。「ああ、俺は “子取り鬼” だ。悪魔だ!」。エドワードがそう叫んでナイフを振り上げると、ローズは悲鳴を上げ(2枚目の写真)、それを聞いて目が覚めたフレミングが、「アグネス?!」と言って上がって来たので、エドワードは窓から逃げ出す。ローズは、父に抱き着くが、その父は、ようやくアグネスがいないことに気付く。一方のエドワードは、「母さん! 僕のせいじゃない! 無理だ! 人が殺せるほど、健康じゃない!」と言いながら、丘の上の母の所まで走って行く。「転倒した。発作だ! 発作だよ、母さん!」。鬼女は、同情するどころか、「ナイフを捨てて! お前のせいで絞首刑は真っ平!」と言い、馬を駆って逃げて行く。
  
  

アグネスが家出したことを悟ったフレミングは、ローズに、「出かけないと」と言う(1枚目の写真)。そして、外は真っ暗なのに、ローズを連れて、アグネスを探しに出かけることにする。「勇気を持て、ローズ。姉さんは出て行った。見つけ出さないと」。その頃、アグネスは、野道を走って逃げていたが(2枚目の写真)、背後から馬の駆ける音が聞こえてきたので、茂みの中に隠れる。アグネスを追い抜いて行ったのは、鬼女とエドワードだった。フレミングは、使用人を起こして 馬に鞍を付けさせる。アグネスが茂みの中で次に聞いたのは、父の声だった。「どこに行ったのかな?」。ローズ:「私、知ってるわ」。「そんなことは、あり得ん」。「知ってるもん。ローマとかいう所に行くのよ。ロンドンにも」。「いったい… どうして、そう思う?」。「リーフォードさんの行き先だから」(3枚目の写真)〔アグネスの表情は、遂に父にバレてしまったから〕〔ローズはエドウィンの死を聞かされていない〕。ロースの話はさらに続く。「戻ったら、一緒に行くんだって。お姉様は喜んでた」。フレミングは、まさか彼が娘を妊娠させた極悪人だとは思っていなかったので、「リーフォードが!」とびっくりする。「ああ・・・ リーフォードだとは! 神よ! 息子のように、思っとったのに、わしの娘を盗みおって」。アグネスは、それを聞いて泣き始める。
  
  
  

田舎の旅館に戻った二人。エドワードは、「僕を非難するのは筋違いだ。母さんが、自分でやればいいんだ。何でも… 殺すなり切り刻むなり」と意見する(1枚目の写真)〔なぜ、鬼女がじぶんでしない?〕。エドワードは、さらに、「僕は幸せだよ。もらえる お金で十分だ。不足しないし、生活できるから」と主張する。しかし、鬼女は、「女〔アグネス〕は、どこかに居るはず。ドブで死んでりゃ、赤ん坊も… 最高だけど。生きてても遠くには行けない。せいぜい、村が幾つかと町が一つだけ。十分、見つけられる」と、しつこい。「だけど、どうやって? 会う人毎に訊くの? 『金髪で汚れた服を着た妊婦を見ませんでしたか?』って? それとも、産婆か救貧院へ行って、『赤ん坊は いませんか?』って?」。「そうよ、その通りにするの」(2枚目の写真)。
  
  

アグネスは、どしゃぶりの雨の中、ドーバー海峡の面した白亜の崖の先端まで行き(1枚目の写真)、ロケットを指輪ごと海に投げ捨てようとするが、どうしても捨てられずにその場に座り込んで泣き出す。しばらくすると、大きなお腹を抱えてゆっくりと丘を下り、近くにあった町に向かって歩いて行く(2枚目の写真、矢印)。このロケ地は、ロンドンの北北西約400キロにある内陸の町Alston(オールストン)。グーグルのストリートビューの映像を3枚目に示す〔ドーバー海峡とは全くの無関係〕。映画の中では、2分少し後のシーンで順序は逆転するが、鬼女とエドワードを乗せた馬車も この町までやって来る(4枚目の写真)。エドワードは、「あの状態じゃ、ここまでは歩けなかったさ」と言うが、鬼女は 「念には念を入れないと。あの女の望みなど、考えたくもないけど」と答える。「何を望んでるの?」。「お前の父さんのために、赤ん坊を生もうと必死なのさ」。
  
  
  
  

ここから、映画では、アグネスとブラウンロウのシーンが交互に並べられるが、ここでは、節ごとにまとめて記述する。まず、どしゃぶりの雨の中を町に入っていった汚れた服を着てお腹が膨らんだアグネスを見た人々は、「産気づいてる!」。「ほんとだわ!」と驚く。そして、疲れ切ったアグネスが道路の真ん中で倒れてしまうと、「誰か呼んできて!」と誰かが叫び、男が、「椅子が要るんだ、すぐに」と、魚をさばいていた女性のイスを奪って駆け付ける(1枚目の写真、矢印は倒れたアグネス。すぐ左にイスを持った男)。男は、アグネスをイスに座らせる。「救貧院には、医者がいるはずよ。救貧院に連絡して、ジョニー。走って!」。「救貧院なんかで、産みたくないかも」。「寒い路上で、観衆の前で産むよりゃマシだ!」。一人の女性が、アグネスに、「何という、お名前?」と訊く。「名前は失くしました」。救貧院の中では、門のところに集まった多くの人々を、窓から、婦長のマン夫人、教区吏のバンブル、それに専属の医者が見ている。【原作では、救貧院の婦長はコーニイ夫人、後で出て来る養育院のおばさんがマン夫人だが、映画では、逆転して使われている。なぜ???】。医者は、「中に入れてやろう」と言うが、教区吏というたいした職でもないのに威張っているバンブルは、「まさか! 一度許せば、後は際限なしですぞ」と反対する(2枚目の写真)。「じゃあ、大騒動になるまで待つのかね?」。「ご自由に。だが、私は無関係ですぞ」。そこに、サリーという老婆がやって来る。サリーは救貧院の収容者、ここは婦長が開いたパーティの場なので、婦長はサリーの侵入に苦情を言うが、サリーは 「外にいる女性ですが、皆が言うには…」。婦長:「赤ん坊?」。「そうなんで」。それを聞いた婦長は、「仕方ないわね」と言い、それを耳にした医者は、すぐに門を開けさせる。門が開き、イスに乗せられたアグネスは、何人かの男達に運ばれて救貧院の中に入って行く。
  
  

アグネスのお産のシーンは、雨が叩きつけるガラス窓からの映像。赤ちゃんが生まれ、医者が、へその緒をハサミで切る(1枚目の写真)。医者は赤ちゃんを抱き、「息をして」と声をかける。しばらくすると、泣き声が聞こえる。「あの世と この世で 迷ってたのかい」。アグネスは、「一度だけ抱かせて。そしたら、死ねる…」と頼む。医者はアグネスの前に赤ちゃんを持って来る。アグネスは、赤ちゃんの顔をじっと見ると(2枚目の写真)、額にキスする。医者は、アグネスの様子が気絶したので、急いで赤ちゃんを取り上げてテーブルの上に置くと、アグネスに蘇生措置を施すが、アグネスはそのまま死んでしまう。医者は、アグネスの手を見て、「よくある話だ。ほら… 結婚指輪がない」(3枚目の写真)「こんなに きれいな娘さんなのに」と言い、アグネスの顔に布を被せる。そして、横にいたサリーに、「赤ん坊が起きたら、粥をやってくれ」と言って出て行く。
  
  
  

医者がいなくなると、サリーは、アグネスの “握られた左手” を開き、中からロケットを取り出す。そして、中を開いてみると(1枚目の写真、矢印)、中には金の指輪が入っている。そこに、婦長とバンブルが入って来たので、サリーは、戦利品を急いでポケットに隠す。バンブルが、サリーに 「おめでたと、不幸が、両方あったとか」と言うと、サリーは、「いいえ、バンブルさん。二人とも不幸でさぁ。一人は死んで、一人は残された」と答える〔救貧院に入ることも不幸〕。そして、ロケットと指輪を何とかしなくてはいけないので、「あのぉ、ちょっくら用事を思い出したんで…」と言って、部屋から出て行く。サリーが笑いながら救貧院から出て行くと、待ち構えていた鬼女に捕まる。鬼女は、「今日、赤ん坊が生まれた。若い母親。そうだね?」と問い質す。サリーは、「いんや。いないね。ここじゃない。聴いてない」と全否定(2枚目の写真)。そのあとで、「だがねぇ… お金をくれるんなら話してあげるよ」と、嬉しそうに言う。それを、詐欺だと勘違いした鬼女は、「その手にひっかかるもんか、この婆ぁ。とっとと 墓にでも入るんだね。死に損ないめ」と罵って、サリーを行かせる。そのあと、町の酒場で、サリーが盗んだロケットをこっそり見て、高笑いする姿が一瞬映る(3枚目の写真)。
  
  
  

場面は少し前に戻り、サリーが残していった赤ちゃんを、婦長が代わりに抱き上げると(1枚目の写真、矢印)、バンブルに声をかける。「この子と、部屋に戻りましょ。ジンがあるわ。寒いから何か飲まないと。お医者様も加わってくれるでしょ」。ここからが、サリーの高笑いの後。結局、医者は来ず、赤ちゃんはバンブルが抱えている。ジンのグラスを手にした婦長は、「赤ん坊は私の仕事だけど、生きがいでもある」と言う。それを聞いたバンブルは、「私の楽しみの一つは、私の権限で孤児の姓名を付けることです」と言う(2枚目の写真、矢印)。この部分は、原作の第2章に書かれているので、もう『オリバー・ビギンズ』とは言えない。「捨て子の姓は、厳密にABC順です。前の子は “S” で、スワッブル(Swibble)でしたから、今度は “T” で、もう決めてあります。ツイストと。次は、“U” のアンウィン(Unwin)で、次がヴィルキンズ(Vilkins)。“Z” まで、もう用意してあるんです」。「“X” や “Z” は難しいんじゃありません?」。「サイビア(Xavier) と ゼバディー(Zebadee) です」〔原作では、これほど詳しくない〕。「それで、このツイスト坊やの名は、どうなさるおつもり?」。「今度は “N” の番だから、ノーマン(Norman)かな。いやいや、“N” は終わった。“O” だ。“O”… オレース(Orace)、オレス・ツイスト…」。「オレス(Horace)は、“H” じゃ? バンブルさん」。「そうでしたな。“O”… ありましたぞ。オリバーです」(3枚目の写真)〔原作では、名ついては書かれていない〕。婦長は、「オリバー・ツイスト… 神のお加護を」と優しく言う。
  
  
  

ここで、映画では、かなり前に戻るが、グリムウィグが改めてブラウンロウ邸に行き、ローマからの手紙を渡すシーンがある(1枚目の写真、矢印)。しかし、ブラウンロウは、「遺憾だ。お気に入りの数少ない友人を亡くすのは… だから、来たのかね?」と訊くので、ローマの弁護士からの手紙を既に読んでいたことになる。次に、ブラウンロウが手紙を読んでいる短い場面が入るが(2枚目の写真、矢印)、何を読んでいるのだろう? 先に、ローマで、弁護士が、「リーフォードさん。グリムウィグ、ブラウンロウ両氏には、郵送しておきます」と言っていたので遺言書は届いているハズだし、訃報を知っているということは、弁護士がエドウィンの死後グリムウィグに出したのと同じ手紙も受け取っているハズだ。そして、オリバーの命名後に、次のシーンが入る。夜だというのに、ブラウンロウが、グリムウィグの強い反対を押し切って馬車で出かけようとする。「それは、決して良いこととは言えません」。「私は、良い人間じゃない! どいてくれないか」。ブラウンロウは、エドウィンが残していったアグネスの肖像画を手にし、大きな革鞄を持って出て行こうとする。「まともな人間なら、夜に旅行などしませんぞ。賢明な人間なら、朝まで待って、行き先も確定すべきです!」。ブラウンロウは、それを無視して家から出る。「止めることは諦めましたが。でも、どうして肖像画を持って行くんです?」。「Time Pessima Paratus Esto。私のモットーだ。最悪の事態に備えよ」(3枚目の写真)「帰ってくれ」。「じゃあ、ご幸運を」。「不屈な人間には、幸運など不要」。
  
  
  

次のシーンは、オリバー。婦長は、粥を食べさせようとするが、当然食べてくれない〔離乳食は生後5~6ヶ月頃から〕。そこで、「誰か、母乳の残ってる人を捜さないと」ということになる。ところが、救貧院の中とはいえ、母乳を与える係の二人の女性は、婦長に対し、「列に割り込むのは不公平ですわ。みんな飢えてるのに」。「自分の子の分だって足りないんです」と、口々に文句を言う。「親切心ってものがないのかい?」(1枚目の写真、矢印はオリバー)「恥を知りなさい。この可哀想な孤児が、母親を亡くしたばかりだというのに。亡くしたのよ。永遠にね。あんた達の子供と、そこが違うの」。これに対しても、生意気な二人は、「その人も、私達を困らせたくはないでしょう。なぜ、亡くなったんですか?」と、1820年代の救貧院に収容されている女性としては異例の反抗的な口調で話す〔原作では、あり得ない発言〕。「そんなこと知るもんか。それに、私がお願いしてるんじゃない。私がそんなことするもんか。この子がお願いしてるんだ!」。「それと、バンブンさんがドアの隙間から覗くのを止めさせて下さい」。それを聞いたバンブルは、「濡れ衣だ!」と弁解する。「私達の乳房を見てるんですよ! こそこそと」〔救貧院の入居者が、教区吏に対してこのような誹謗中傷的なことを言える時代ではない。この部分の脚本は、時代性を完全に無視していて良くない〕。婦長は、結局、サリーにオリバーの処置を任せる(2枚目の写真、矢印はオリバー)。原作では、このように書かれている(第2章の冒頭: この親なしの赤ん坊の空腹状態は、救貧院の関係筋から教区の関係筋へと然るべく報告された。教区の関係筋は威儀を正して、オリバー・ツイストに彼が必要とする慰安と栄養とを与えるべき状態にある女性が院内に居住しておらねか、と救貧院の関係筋にご下問を賜わった。救貧院の関係筋は遺憾ながらおりませぬ、とうやうやしく返答した。そこで、区の関係筋は有り難きご慈悲によって、その子を「人手に預ける」べきことに決定した)。
  
  

一方、あの夜、アグネスを探して、ローズと一緒に馬に乗って出かけたフレミングは、どこをどう彷徨ったのか、この次のシーンで、田舎家に戻って来る。そして、まさに家の前に来た時、突然 発作に襲われ(1枚目の写真)、意識を失って落馬する。駆け付けた使用人が様子を見ると(2枚目の写真)、フレミングは死んでいた。原作では、こう書かれている。【第51章 ❽モンクス:「その後間もなく父親は、その家で夜のうちに死んでしまいました。その数週間前に娘がこっそり家出をしてしまったのです。そこで父親はてくてく歩いて近在の町という町、村という村を探して廻ったあげく、娘は自分の恥と父親の恥を隠すために自殺したに違いないと思って、家に帰り着いたその夜に、老いの胸が悲嘆にはり裂けたのです。状況はかなり違っているが、フレミングが死ぬことに変わりはない。かくして、ローズは 孤児となった。
  
  

一方、鬼女とエドワードは、ロンドンのホテルに滞在している。朝、エドワードが起きると、窓辺にいた鬼女は、「残念だけど、お前は正しかった。二人とも生きてる。そうに違いない。田舎家に戻らないと」と言い出す。「嫌だ… あそこには二度と戻らないよ。前やらされたようなことは、絶対しないから」(1枚目の写真)「それに、妹がいる。すぐ、僕だとバレる。僕は、子取り鬼で悪魔なんだ。他人を脅かすのは二度とごめんだ。だから、家に帰ろうよ」。「あたし達には、帰る家などない」。「以前の場所で、いいだろ? 遺言だと、年に六百ポンドもらえるんだ。二人とも〔つまり年千二百ポンド。以前、鬼女は、エドウィンへの手紙の中で、「年二百ポンド下さい。とても、生きていけません」と書いていたので、それの六倍〕。週十二ポンドだよ」。原作では、第51章の❹の 「君と君の母親にはめいめい八百ポンドずつの年金」 のように、金額がもう少し多い。「足りないわ。あたしに、何年 残されてると思う? 悪魔が迎えに来た時、年齢は偽れない。あっという間に地獄さ。だから、ケチケチせず、派手にパーっと使いたいのさ。今すぐ、欲しいんだ!」(2枚目の写真)。
  
  

次は、救貧院。サリーに抱かれたオリバーは お腹が空いて泣きっ放し。婦長はバンブルに、「ここでは 何もしてやれないから、残念だけど他に途はない。洗礼を施したら、委員会に申請して、育児施設を探さないと。でも、私には全然時間がなくて… あなたにやって頂ければ、バンブルさん、安心できますわ」と お願いする。バンブルは、「喜んでと申し上げたいところだが、赤ん坊の件で委員会へねぇ。おまけに、洗礼まで… でも、まあ、やりましょう、マン夫人」と、渋々ながら 恩を売ろうとOKする。バンブルは、サリーにオリバーを抱かせて、教会に連れて行く。牧師は、「簡易洗礼でいいんだね、バンブル? 外へ預けるためだな?」と念を押す。そして、洗礼盤の前まで行くと、「父と子と聖霊の名において」(1枚目の写真)「洗礼を授ける、汝 オリバー… ミドル・ネームは?」。「ありません」。「ツイスト」。そして、洗礼証明書が渡される(2枚目の写真)。「聖マーシュ教会、サフォーク郡/1826年5月6日」〔遺言書は4月16日付けだったので、それからちょうど20日経っている〕。洗礼が終わったので、バンブルは、救貧院の委員会に出頭する。オリバーが大きくなってから、さんざん虐められる、あの大食い揃いの驕り高ぶった委員会だ。傲慢な委員長は、「わしは、同時に、食べたり聴いたりできん。書記にやらせればいい」と(3枚目の写真)、部屋の片隅に置かれた机の前にいる書記に任せる。書記は、わざとか、それが習慣ななのか、大きな冊子を一枚一枚ゆっくりとめくる。バンブルは、「おい、早く。遅いぞ。こっちを見るな。書類を見ろ。文字だ。あれを、聴いたか? もう 何時間も泣いとる。何時間もな」と、書記を急かす。そして、ようやく辿り着いたページに、「ビートン養育院。事業者、コーニイ夫人」と書いてあった(4枚目の写真)。その先も、原作にはない障害が続く。「満員です」。「そんなの あり得ん。満員になるまで長生きするはずがない。とにかく短命なんだ」。「可哀想に。次々と死んでいくらしいですね」。「じゃあ、早く認可状を」。「私には作れません。ドッズさんの担当ですが、今、赤痢で倒れておられます。ですから、あと数日は待って頂かないと」〔何というお役所仕事〕
  
  
  
  

ここで、また順序が入れ替わるが、ブラウンロウがフレミングの田舎家まで辿り着く(1枚目の写真)。そして、そこにいた、元使用人に、持って来たアグネスの絵を見せ、「この若い女性を、知ってるかね?」と尋ねる。そして、バンブルのシーンの後で、一軒の農家まで行く(2枚目の写真)。中にいたのは、ローズ。ブラウンロウは、ローズの横にしゃがみ込むと、「何が起きたか、話してくれる?」と尋ねる(3枚目の写真)。ローズは、ショックから立ち直れないでいるので、ブラウンロウは家の主人に話しかける。「あなたに提案があります。ええと…」。「ビグナルです」。「ビグナルさん。ローズの件です」。何が話し合われたのかは分からない。原作では、【第51章 ⓫モンクス:「その子〔ローズ〕はどこか貧乏な百姓家に引き取られ、そこの子供として育てられました… あんた〔ブラウンロウ〕その百姓家を、つき止められなかったと言った」。【第51章 ⓬モンクス:「友情でできなかったことを、憎悪がしゃにむに、やってのけることがよくあるものさ… 僕の母が一年くらいかかって、とうとうつき止めた… 母はその姉〔アグネス〕の不面目について、都合のいいように話を作り変えて教えて来たんだ。この子〔ローズ〕は血筋のよくない子だからよく気をつけろとか、どのみちこの子も私生児なんだから…となっており、映画とは全く違っている。だから、原作では、ローズはメイリー夫人という赤の他人に引き取られる。
  
  
  

鬼女は、エドワードを連れて、ブラウンロウ邸に出向く(1枚目の写真)。鬼女は、自分が入って行っても、机に向かって座ったままのブラウンロウに対し、「紳士なら、お立ちになるのが常識でしょ。レディーが部屋に入って来た時には」と批判するが、ブラウンロウは、「そうかな」と言っただけでで、座ったまま。鬼女は、「ご勝手に」と言うと、ブラウンロウの机の前に座り、エドワードもその横に座る。ブラウンロウは、「エドウィン・リーフォードの最後の遺言書」と言って、鬼女もよく知っている紙を見せる。しばらく別の場面で飛び、次のシーンでは、グリムウィグが、「遺言の条項は非常に複雑です、リーフォードの時期尚早の死と、“慣習法上の妻” の突然の失踪によって…」。ここで、鬼女が、「あばずれ女でしょ」と口を挟む。グリムウィグはそれに構わず、「しかし、二人目の子供、新生児が生まれていたら…」。鬼女が、また邪魔をする。「あたしの夫… 聴かれたわよね、ブラウンロウさん? 死んだ時に何を考えていたか。夫は、あの女の子供に全く信頼を置いてなかった。だから、男の子だった場合に バカげた条項と但し書きを付けた。正気の人間のすることだと言えるかしら? 気が狂って死んだのよ。不幸にして、あたしと息子については、遺言に僅か数行だけ」。ブラウンロウは、「私は知ってますよ。彼が何を考えていたか」(2枚目の写真)「なぜ、二人目の男児に悩んでいたか…」。ここで、鬼女の息子を見て、「分かるな、エドワード?」と言う。エドワードは、何も言わずに立ち上がり、協議に加わることを止める。「遺言の内容について訴訟を起こされても結構です。だが、その場合、あなた方には、訴訟の間、年六百ポンドは支給されません」。「まだ、聴いてませんわね。失踪した母子をどのくらい捜すつもりか。いつかは、あなたも無意味な捜索を打ち切るでしょうから。母も子もいなければ、(私達に)相続させるしかない。で、どのくらい捜すんです?」(3枚目の写真)。答えは、鬼女にとって衝撃的だった。「アグネス・フレミングとエドウィン・リーフォードの行方不明の子が、二十一歳になるまで」。「何て?! 二十一歳!!」(4枚目の写真)〔鬼女が、あと二十一年生きていられるか?〕。鬼女は立ち上がると、窓辺のエドワードのところに行き、「あたし達の負けよ」と言い、「全部完全だった、お前以外は」と息子を非難する〔アグネスを殺せなかったから〕。「母さん、僕は六百ポンドでいい。僕の望みは家に帰ることだけ」。こう言って、ふと窓の外を見ると、ロンドンの市内にしては、狭いがきれいな庭の中にローズがいる。それを見たエドワードは発作を起こし、床に倒れ込み、体を震わせる。それが収まると、起き上がって、「何でも受け入れるよ。それでいい。年六百ポンドで。ありがとう。いただくよ。僕は、もう帰るから…」と言って、部屋を出て行ってしまう。残された鬼女は、「あたし…」と言ったきり、声が出て来ない。ブラウンロウは、「あたし… も遺言の条件を受け入れるのですな?」と訊く。鬼女は、「あたしは、必ず…」と先まで言い、ブラウンロウは、すかさず、「母親の本能に従い、息子に従うのですな?」と言う。鬼女としては、もう黙るしかない。
  
  
  
  

ここで、また順序が入れ替わる。場所は、救貧院。婦長のマン夫人が、夫の肖像画を見ている。額の背後には、恐らく訃報が(1枚目の写真、矢印)。夫人は、手紙をくしゃくしゃにしてしまう〔字は読めない〕。原作の 【第23章 ❶「こう言うと婦長は椅子にぐったり崩れ込み、またテーブルの上に肘をついて、自分の孤独な運命のことを考えた、小さな急須と一つしかない茶碗が、コーニイ氏(二十五年以上も前に死んでしまったのである)のことを思い出させ、彼女は悲しみに心が沈んでしまった は、オリバーが9歳になってからの話。この場合は、婦長のコーニイ夫人は、もう25年も寡婦。しかし、これが訃報だとすれば、コーニイ氏はオリバーが生まれてしばらくして、海外の赴任地で死亡したことになる。だから、それまでは、夫のある妻。今後は、寡婦になる。そこに、バンブルがドアをどんどん叩き、「やりましたぞ、マン夫人、遂に!」と、誇らしげに報告する。「手に入れました。やったんです。認可状を。眠りを妨げる オリバー・ツイストは、もうここにはいません」。婦長は、「自慢そうに言われても、あれから二十日も経ったのですよ」と、あまり評価しない。ここで、ブラウンロウ邸の前半が入る。そして、バンブルは雑草の生い茂った野原を歩いて、一軒の貧相な家に近づいて行く。後ろからは、オリバーを抱いたサリーが付いてくる(2枚目の写真、矢印はオリバー)。「歩きに歩いて、着いたか」。バンブルは、杖で木の門を叩き、「コーニイさん、教区吏です」と大声で呼ぶ。コーニイは二階の窓から顔を出し、「バンブルさん! よく いらっしゃいました!」と言うが、室内がごちゃごちゃなので、至急片付けさせる。ここで、ブラウンロウ邸の後半が入る。室内に入ったバンブルに、コーニイは、「遠くまで歩いて来られたのですから、何か一杯いかがですか、バンブルさん?」と尋ねる。「いかん、一滴もいかん」。「ほんの一口。可愛い子供が病気になった時のための気付け薬なんです、バンブルさん。ジンですわ」。ここで、次の節の場面が入る。バンブルは、ジンを飲むと、「これで失礼する、コーニイ夫人」と言い、サリーには、「その子を、そこらの床に置いとけ」と言って、出て行く。サリーは、オリバーを、文字通り床の上に置き、後を追う(3枚目の写真、矢印はオリバー)。
  
  
  

ブラウンロウ邸から出た鬼女は、先に出て行ったエドワードの後を追う。追い着いた母に、エドワードは、「僕は発ちます。母さんに見つからない所。誰にも見つからない所へ」と言う(1枚目の写真)。さらに、「僕は僕で、母さんの物じゃない。誰も僕を知らない、知りたいとも思わない所、そんな場所にね」とも言う。鬼女は、「もっと欲しくなるわよ。絶対に。その時、戻ってくるのね!」と、怒鳴り付ける(2枚目の写真)。エドワードの姿が見えなくなると、「あきらめるもんか」とブツブツ。その後の二人について、原作では、【第51章 ❾ブラウンロウ:「このことがあってから何年かの後、この男――エドワード・リーフォード――の母親が私を訪ねて来ました。息子はまだ十八だというのに、母親の宝石類や金を盗んで家を飛び出し、それからばくちにふけり金を使い果たし、小切手の偽造をやってロンドンに高飛びし、そこで最下等のごろつきどもと二年間つき合っていたというのです。母親は、苦しい不治の病で次第に弱っているので、死ぬ前にぜひ息子の顔が見たいというのです… やっと見つかり、この男は母と一緒にフランスに帰りました」。第51章 ❿モンクス:「そこで長わずらいのあげくに母が死んだ… 母は例の娘が体内の子供とともに自殺したとは信じられない、どうやら、男の子が生まれて生きているらしい、と言った。そこで僕は母に誓ったんだ。もしそいつと万一顔を合わせることがあったら、おれはそいつをとことんまで追いつめ遠慮はしない、激しい悪意を込めて容赦なく追っかけ廻して、この煮えくり返る胸の憎しみを叩きつけて、出来ればそいつを絞首台の下まで引きずって行って、あの無礼な遺言書の空威張りに唾を吐きかけてやる、と」。第53章 ❿「モンクスは相変わらずその偽の名前を名乗ったまま、この遺産を貰って新大陸アメリカの奥地へ出かけて行ったが、そこで金をすぐ使い果たしてしまい、またもや昔のように悪の道に落ち込み… 獄中で死んだ第二部第三部での、2人は、この原作とは全く違っている。確かに、エドワードはモンクスと名乗り、オリバーを貶めるよう、原作以上に頑張るが、最後には改心し、南方の国で幸せに暮らす。鬼女はそんなに簡単には死なず、第三部の真ん中まで生き残り、最後まで悪女のまま生涯を閉じる。
  
  

バンブルが門から出て行った直後、画面は、雪の積もった冬に変わり、バンブルがまた門に現れる(1枚目の写真、矢印)。コーニイ夫人が、また二階の窓から顔を出し、「今日の ご用は何ですの、バンブルさん?」と尋ねる。「オリバー・ツイストが、じき九歳になるので、救貧院に引き取りに来たんです。法ですからな」。コーニイ夫人は、二階で他の子供と遊んでいたオリバーに声を掛ける。「オリバー、聴いたかい? お別れだね。何て悲しいんでしょ」(2枚目の写真)〔大きくなったオリバーが登場する唯一の数秒のシーン〕。そして、すぐに、ラッセル・ベイカーが再登場する。「今夜の筋立ては、リーフォード夫人による夫殺しなど、原作と大幅に異なっています。リーフォードは、筋書き上、死ぬことになっていますが、原作では病気というだけで、曖昧に片付けられていました。ビクトリア時代の作家は、登場人物を死なせる必要がある時に “曖昧な病気” が好きでした」(3枚目の写真)「殺人は、現代ほど “軽い話題” ではありませんでした。それは、言語に絶する恐怖であり、ディケンズも稀にしか使いませんでした。癇癪もちの妻が夫を刺し殺す。それも、殺す相手の目を見据えながら。そんな光景は、ディケンズにとって考えられないほど忌まわしいことでした。ラッセル・ベイカーでした」。これで第一部が終了する。
  
  
  

クリックオリバー・ツイスト (1999年版) ➁


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