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Oliver Twist (TV) オリバー・ツイスト (1999年版) ➂

イギリス映画 (1999)

クリックオリバー・ツイスト (1999年版) ➁

クリック『オリバー・ツイスト』 の映画化による作品ごとの原作との違いの表
     (作品ごとの個別シーンの違いは、表の最左欄の黄色の文字をクリック)


あらすじ

第二部は、オリバーがチェルシーの館に泥棒に入らされ、召使に猟銃で撃たれて倒れたところで終わった。サイクスの 「立て、坊主!」の叫び声に(1枚目の写真、矢印は拳銃)、オリバーは何とか起きようとする。召使2人がオリバーに接近しようとしたので、サイクスは銃を撃ち(2枚目の写真)、2人は逃げて行く。その間に、オリバーは何とか窓まで辿り着き、サイクスがオリバーを引っ張り上げる。そして、次のシーンでは、サイクスがオリバーを横抱きして走り(3枚目の写真、矢印はオリバーの足)、後ろからトビーが走って来る。
  
  
  

そして、軽装な分、臆病で勝手なトビーは、サイクスを追い抜いて逃げて行く。原作では、オリバーが撃たれたのは第22章、その後の状況が語られるのは第28章。月刊誌なので、読者は1838年1月号から4月号まで3ヶ月も待たされたことになる。映画にはないが、第28章は、次のサイクスの罵りから始まる。「くそっ! あん畜生ども、狼に喰い殺されちまえ! あいつの中に飛び込んで行ってやりてぇ。そうしたら、怖がってひいひい言いやがるだろうよ」。そして、サイクスは、トビーに向かって、「ガキに手を貸せ! 戻って来い〔Bear a hand with the boy. Come back〕!」と叫ぶ。しかし、トビーは、「放り出せ!」と言っただけで、何もしない。サイクスは、オリバーを芝の上に置いて見てみる。「くそっ、ひでえ血だ」。そして、もう一度抱き抱えると、「トビー!」と叫ぶ。「放り出せって!」。館からは、猟銃を持った2人が追いかけてくる。「あそこにいる。ジャイルズさん、撃って」。サイクス:「トビー、止まらねぇと喉をかっ裂くぞ! 撃ち殺して、やろうか!」。トビー:「聞くんだ、ビル! ガキは捨てて、ずらかるんだ! 撃つなら、撃ってみるがいい!」。サイクスは、トビーに従ったのではなく、もう無理だと判断したので、オリバーを気付かれにくい場所に隠す(1枚目の写真、矢印はオリバーの足)。オリバーは完全に気を失っている(2枚目の写真)。そして、わざと、召使2人に聞こえるように叫ぶと、拳銃を撃ち(3枚目の写真)、オリバーから2人の気を逸らす。
  
  
  

ここで、映画は原作の第25章に戻る。理由は、トビーがフェイギンの根城にやってくる場面がここにあるからだ。つまり、原作は、実際にあった順序を逆転させ、チェルシーから逃げ帰ったトビーの報告を先に読者に見せている。映画では、その矛盾を解消し、実際にあった順に示している。サイクス達3人の帰りを待っていたフェイギンは、トビーが1人で戻ってきたことに驚く。「一人だけか〔Alone〕?」。トビーは、「先ずはだフェイギン。ビルは どうなった〔First and foremost, Faguey, how's Bill〕?」と訊く。フェイギンは、「何だと〔What〕?!」と怒りの声を上げる。「ビルはどこだ? ガキはどこだ? 二人はどこだ〔Where’s Bill (are they)? Where’s (Sikes and) the boy? Where are they〕? 何が起きた?」。「押し込みは失敗さ〔The crack failed〕」。「それで? それで?」。「屋敷の奴が発砲し、ガキが撃たれた」。「捕まったのか? 死んだのか?」。「知らんな。俺は必死に逃げた。捕まったら絞首刑だ」。フェイギンは激怒する。「わしだったら、見捨てるようなことはせん!」(1枚目の写真、矢印はトビー)「お前は、一人だけよけりゃいいんか?!」。その時、運の悪いことに、下からモンクスの声が聞こえてくる〔当然、原作にはない〕。フェイギンは、モンクスを迎え入れる。モンクスは、「いい知らせなんだ、フェイギン」と言う。「もちろん、そうでしょう」。フェイギンは、モンクスを、トビーとは違う部屋に案内すると(2枚目の写真)、ドジャー達に、「気分よく させとけ」と命じ、サイクスのアパートに急行する。ここから原作の第26章。アパートにいたのは、ナンシーだけ。それも、酔って寝ている。フェイギンはナンシーを起こし、「ビルが どこにいるか知っとるよな? あの子もな〔And the boy, too〕」と訊く。そして、「あの子も、可哀想に。溝の中に、一人で放り出されるなんて〔Poor leetle child! Left in a ditch all alone〕」とも言う。ナンシーは、「あたし達なんかと一緒にいるよりも、今いるとこの方がよっぽどましさ。それでビルにさえ万一のことがないんなら、いっそ、あの子は溝の中で死んで、そのまま腐り果てちゃった方がいいのよ〔I hope he lies dead in the ditch and that his young bones may rot there〕」と答える〔原作の台詞も追加した〕。フェイギンは、「もし、奴が小僧を放り出して帰ってきたら、奴をバラしちまえ。絞首台送りになる前に」と原作の一部を引用した後で、この映画だけの台詞に切り替える。「あの小僧は、何百ポンドの玉だってぇのに、酔っ払いのドジのせいで、むざむざ取り逃がせってか? わしは、狂人に約束しちまったんだ、狂人にな! 今も、わしを待っとる。小僧がワルになったか知ろうと…」と、うっかり本音を言ってしまい、慌てて取り繕う。「わしは、今 何の話をしてたんだっけ?」。ナンシーは、バッチリ聞いていたが、それを悟られないように、「頼み事なら、もう一度言っとくれ」と 泥酔しているフリをする。
  
  
  

オリバーが盗みに入らされたブラウンロン氏の邸宅はチェルシー(Chelsea)〔ロンドン中心部の西南西約5キロ〕にあるが、原作のメイリー夫人の邸宅は、シェパートン(Shepperton)〔ロンドン中心部の西南西約27キロ〕と、もっと遠くの田園地帯にある。しかし、登場する召使頭のジャイルズと、雑用係の若いブリトルズは同じ。映画では、原作の第28章と同じように、泥棒騒ぎの翌朝、ジャイルズが台所で女中2人に前夜の様子を話している。「二時半ごろだっただったかな… 人影が見えた。ピストルの装填音も聞こえた。で、つま立ちで、ブリトリズの部屋へ行った。『ブリトルズ』と声をかけた。『ブリトルズ、わしらはもうお終いかもしれん。だが、怖がるんじゃないぞ〔Brittles, we're dead men, I think. But, don't be frightened〕(順序逆転)』」。さらに、「わしらは、カンテラを取って 階段を下りて行った」。その時、玄関でドンという音がする。4人は恐怖に囚われる。ずるいジャイルズは、「扉を叩く音だ。誰か行って見てきなさい」と、他人に押し付ける。男は他にブルトルズしかいないので、「ブリトルズ! 扉を見に行け! 一緒に行ってやる」と命令し、ブルトルズは猟銃を要求する〔原作では、銃なんか持って行かない〕。玄関の前まで行くと、ブルトルズが猟銃を構え、ジャイルズが鍵を外し 扉を開ける。扉が開いた途端、ブルトルズは発砲し(2枚目の写真)、玄関の外にあった、一対の装飾用の鉢植えが粉々に飛び散る〔原作では、こんな愚かな行為は起きない。朝から、泥棒のハズはないので、こんなことをしたら、誰かを殺すことになる〕。ブルトルズが目線を下げると、そこには小さなオリバーが立っていて、銃声に驚いて気絶する(3枚目の写真)〔原作では、オリバーは立ったまま玄関の中に引きずり込まれ、泥棒を捕まえたとジャイルズが自慢する〕
  
  
  

ジャイルズは、「男は、死んだのか、ブリトルズ?」と訊き、ブルトルズは 「子供ですよ」と答える。「子供を撃ったのか?」。「もっと、高い所を狙ったはずです」。そこに、銃声を聞きつけてローズが駆け付けたので、無責任なジャイルズは、「わしは、やってません。ブリトルズです」と責任を回避し、同じく無責任なブルトルズは、「私が撃つ前から、死んでいました」と、平気で嘘を付く。最低の二人組だ。ローズは、「あなた達は、強盗以上に驚かしたのよ!」と、二人の行動を批判する。そして、外に倒れている子供を見つけて、「大変!」と駆け寄る。オリバーは、「お願い、ぼくを撃たないで」と、囁くように言い、それを聞いたブリトルズは 「生きてる!」、ジャイルズは 「こいつ、昨夜の強盗かもしれません」と、オリバーを心配する様子はさらさらない。ベドウィン夫人は、「たとえそうでも、中に入れておやりなさい」と命じる。「ブリトリズは、馬を駆けて、チェルシーの警察と医者に行くのよ」。ここで、ローズが、「ロズバーン先生の方が、ずっと近いわ」と口を出す(1枚目の写真)。ジャイルズは、乱暴にオリバーを抱き上げ、ローズは、「ジャイルズ、もっと優しく! お願いだから」と注意する。オリバーの顔を近くから見たベドウィン夫人は〔原作では、近視がひどい〕、「オリバー・ツイストだわ」と気付く(2枚目の写真、矢印はベドウィン夫人)。そして、「ブリトルズ! 警察は不要よ!」と、馬に乗りかけたブルトルズに変更を命じる〔原作では、そこにいたのは、ローズとメイリー夫人。二人とも、オリバーなど見たこともないので、警察が呼ばれる。また、呼ばれる医者はロズバーンで同名だが、映画ではローズの恋人、原作では奇抜な年配の医者、と設定は全く違っている(ローズの恋人になるのは、メイリー夫人の息子のハリー)〕。オリバーは、ブラウンロンがやって来ても見つからないよう、ジャイルズのベッドに寝かされ、オリバーの無実を確信しているベドウィン夫人が優しく介護する(3枚目の写真)。夫人は、ローズに、この前、会った時、この可哀想な坊やは高熱に苦しんでた。ペントンビルのお宅でね。私が看病したから、よく知ってるの」と話す。そこに、ロズバーンがやって来る。夫人は、「助けてあげて。とてもいい子なんです」と頼む。
  
  
  

フェイギンは、サイクスのアパートからの帰り道、何となく、跡を付けられているような感覚にとらわれ、時々後ろを振り返る。そして、根城に入る時には、一旦姿を消してから、もう一度顔を出し、後続者がいないかどうか確認する(1枚目の写真)〔実は、酔ったフリをしたナンシーが、オリバーについての不思議な話を聞き、こっそり跡をつけていた〕〔原作では、第26章の終盤、フェイギンが根城に入ろうとして、待っていたモンクスと出会う。そして、これが、原作の中でのモンクスの初登場となる〕。フェイギンが、モンクスを入れておいた部屋に入ると、長い間待たされたモンクスは、「いったい、どこに 行ってたんだ?」と批判する〔原作では、「二時間もここで待ってたんだぜ。いったいどこをうろついてたんだ?」と言う〕。「あんたの仕事ですぜ〔On your business, my dear〕」。「で、うまく行ってるのか〔And so, what's come of it〕?」。「それが、全然で〔Nothing good〕」。「まるで、逆じゃないか。俺の方は順調だった。見ろ、フェイギン。パズルの最後の駒が手に入った」。そう言うと、ロケットをフェイギンに見せる(2枚目の写真、矢印)。「実は、今、小僧自身が、“パズルの最後の駒” になってるんだ」。フェイギンから、オリバーを強盗に使ったと聞いたモンクスは、「俺に尋ねたか? 奴を、武装強盗にしていいかどうか?」と、フェイギンの失策を責める(3枚目の写真)「どうなんだ、フェイギン! 俺の望んだのは、あいつが捕まって、辱めを受けて追放されることだ。ところが、またブラウンロウの家に戻っただと? なぜ、他のチンピラみたいに、ケチなスリに仕立てなかったんだ?」。「わしに、何をお望みかね? あの紳士が、小僧に惚れ込むなんて予想できたか? 一度は連れ戻してみせたし」。「だが、また見失ったじゃないか! 全員、絞首刑だ!!」。「あんたは、絞首刑にはならんだろ? とにかく、奴が生きてたら、もう一度 連れ戻してやるよ。もし、仮にだが、死んじまってたら…」。「俺の責任じゃないからな。いいな、フェイギン? 殺してはいかんと、最初から言ってあった。いつバレるかと、びくびしながら待つのか?」。「もし、奴が死んでたら、あんたには幸運じゃないのか? 死人に口なしだからな」。「ガキが生きてるかどうか確かめないと。もし、ブラウンロウが、奴の素性に…」。話がここまで進んだ時、モンクスは、すぐ前のドアの下の隙間に黒い人影を見る(4枚目の写真、矢印)。モンクスは、すぐにそれを指摘するが、二人で揉み合っていたので、フェイギンが廊下に飛び出した時には誰もいない。しかし、カメラは、そっと根城から出て行くナンシーの姿を一瞬捉える〔会話の内容は違うが、ナンシーが盗み聞きしたのは同じ〕
  
  
  
  

ローズが、ロズバーン医師とキスをしていると(1枚目の写真)、気を失っていたオリバーが目を開け、「どうか… お願い…」と声をかけたので(2枚目の写真)、二人は慌てて離れる。ローズ:「目覚めたわ」。オリバー:「ここは、どこなの?」。「ベドウィン夫人を、呼んでくるわ」。ロズバーン:「話し通りだと、いいんだが」。原作の第30章では、オリバーは、泥棒の一味かもしれないと強く疑われているので、介抱に当ったのは医師だけで、メアリー夫人もローズもオリバーとは会っていない。医師は、「泥棒の顔をご覧になったら、きっと意外と好感をお持ちになる筈ですよ」と言い、二人をオリバーがまだ眠っている部屋に案内する。その時まで、二人は “泥棒” が子供だとは知らされていなかったので、オリバーを見てびっくりする。そこで、夫人は、何とかオリバーを助けてやるよう、医師に頼み込む。医師は、「もし、ジャイルズとブリトル坊やを高飛車に脅しつけてもいいと言う、無条件の全権を私に与えて下さるのでしたら」と言い、オリバーが昨夜の強盗の一味ではないという発想を、二人の召使に強く押し付ける。
  
  

玄関の外で、ベドウィン夫人が、今朝、ブリトルズが銃で撃って壊してしまった鉢植えを掃除させていると、ブラウンロウの馬車がやってくるのが見える(1枚目の写真)。そこに、ローズがやって来て、「ベドウィン夫人。坊やの目が覚めました」と報告する。こんなに早い “お着き” だとは思ってもいなかったベドウィン夫人は、「ジャイルズ、ブリトルズは病気よ。だから、先生を呼んだのよ」と指示する(2枚目の写真、ブリトルズが新しい鉢植えを台(矢印)に乗せている)。そして、「オリバーを隠さないと」と必死になるが、ジャイルズは、「隠さなくても大丈夫。子供は私の部屋。旦那様が 絶対みえない所です」。「でも、万一ってことが」。この館のロケ地は、Nether Winchendon House〔ロンドンの中心部の北西約65キロ〕。3枚目に、対比のし易い写真を示す。
  
  
  

ブラウンロウが館に着いても、誰も出てこないし、館の中もひと気がない。「ジャイルズ!」と大声で呼ぶが、返事もない。逆に、誰かいないか探していると、ロズバーン医師とばったり会う。「おや、また君かね? 誰か病気なのかな?」。「ブリトルズです、ブラウンロウさん」。「彼は病気にならん」と言うと、「ローズはどこだ? みんなどこだ? ブリトルズの寝室? ベドウィンさん!」と、独り言を言いながら去って行く。一方、ジャイルズのベッドでは、オリバーは、ベドウィン夫人に、「ぼく、やりたくなかったの」と打ち明けている(1枚目の写真)。「何を?」。「ぼくがやった ことです。あれって、すごく悪いことですから。老人が悪い事 覚えさせたけど、ぼく拒否したの。そしたら、大きな男の…」。「ベドウィンさん!!」。女中の一人が部屋に走って来て、「旦那様が探しておられます」と注進する。ベドウィン夫人は、「いいでしょう。今度は、私が懺悔をする番です」と、部屋を出て行く。すると、ローズが代わりにベッドに腰かけ、「あなたが悪い子だって聴かされてたわ」と話しかける(2枚目の写真)。「ほんとじゃ、ありません!」。ベドウィン夫人が部屋に姿を見せると、ブラウンロウは、「あなたに 話しておきたい事がある。それが、言い辛い ことでね」と話し出す。「よく分かっております、ブラウンロウ様。今すぐ、お暇をいただきます」。「何を言い出すんです。ベドウィンさん、あの… 私が今日来た理由は、腹立ちまぎれにあなたを怒鳴ったことを、詫びるためです。例の少年のことで。あのオリバー・ツイストの。私は、ひょっとして… つまりだね… あなたが正しいか、間違っているか、あるいは中間か… 我々だって、よく間違える… つまり、少し考えが変わってきて、あの子に対するあなたの直感を、信じてもいい気持ちになってきた」(3枚目の写真)「今では、正しいと信じている」。それを聞いたベドウィン夫人も、「私の方も、お話することがあります」と、オリバーのことを話す決心をする。そして、ブラウンロウをジャイルズの部屋に連れて行く。すると、前触れのない訪問だったので、ジャイルズはオリバーとローズをワードローブに隠し、自分がベッドで横になっている。それを見たブラウンロウは、「変だな? 病気なのは、ブリトルズでは?」といぶかる。ベドウィン夫人は、きっと隠れたんだろうと思い、ワードローブを開ける。すると、最初に見えたのがローズ。そして、ローズが外に出ると、オリバーが顔を出し、「ぼく、逃げたんじゃないです」と言う(4枚目の写真)。「連れ去られたんです」。
  
  
  
  

場面は変わり、サイクスがアパートに帰って来る。機嫌は極めて悪く、ナンシーを蹴ってからテーブルに座る。「何のつもりさ ?!」。「失敗しちまった。ガキが撃たれた」(1枚目の写真)〔原作では、強盗失敗後、オリバーを捨てた後のサイクスについては何も触れられていない。映画でも、オリバーを捨てたのは、前日の夜明け前、トビーは翌朝以降にフェイギンの根城に着いたのに、サイクスがアパートに着いたのは夜になってから。丸一日何をしていたのだろう?〕。「俺は寝るぞ。飲まねぇと。酒を持ってこい」と喚く。「そんなもん、ないよ!」。「ナンス、優しくしてくれ」。サイクスが眠ったので、ナンシーは、一大決心をし、日中にフェイギンから聞いたことを伝えようと、ペントンビルのブラウンロウまで行くが、出て来た太った女中に、「ご主人は在宅ですか?」と尋ねると(2枚目の写真、矢印はナンシー)、「いいや」と言われてしまう。「戻られたら、何か伝言でもしてあげようか?」と言われるが、伝言できるような内容ではないので、「結構です」と引き返す。
  
  

オリバーは、もう一度ベッドに戻っている(1枚目の写真)。ブラウンロウが、「さて、オリバー、最後に会った時のこと、覚えてる?」と訊く。「ぼくは、連れ去られたんです。ぼくが 出て行くはずなどありません、あなたが何をなさろうが、ぼく達が会う前と 比べたら、それ以上悪くなるはずありませんから」。ブラウンロウは、「なぜ、君は… 戻ろうとは、思わな…」と言い始め、「止めよう。最善は、最初から始めることだ。第一章からだ。分かるかいオリバー?」と訊く(2枚目の写真)。オリバーは、自分の生い立ちを話し始める。「ぼくは、救貧院で生まれました。お母さんは、ぼくが生まれた時 死にました。お父さんが誰かは知りません。兄弟も姉妹もいません」。話は先に進む。「バンブルという名のすごく太った人に、救貧院に着れて行かれました。みんな腹ペコでした。ある日、ぼくはクジで、『もっと下さい』という役に当たってしまいました。皿を持って進み出ましたが、不安で一杯でした(3枚目の写真)。ぼくは、殴られ、叩かれ、board〔食卓〕の前に、立たされました。バンブルは、叫び続けました。『board〔委員会〕にお辞儀しろ』 と。だから、board〔食卓〕に何度もお辞儀しました。それからまた、殴られました。ぼくは祈り続けました。『お願い、もうやめて』って。それでも、やっぱり殴られました」。話が終わり、全員が部屋を出て行く時に、オリバーは、「もし、明日、ぼくがいなくても、逃げたなんて思わないでね」と頼む。
  
  
  

翌朝、ロズバーン医師が診察に来る(ローズに会いに来る)。彼は、「困った… どうしたら いいんだ…」と、独り言を言いながら、中に入って行く。一方、ブラウンロウが寝室を出て階段を下りて行くと、ローズの声が聞こえてくる。「何か したいことは ないの?」。オリバーは、「分からない。何も知らないもの」と答える。「本を読んだら?」。「いや」(1枚目の写真)。「どうして?」。「一度 見たけど、悪い本だったの」。「どんな本を見たの?」。「絞首刑の本。挿絵入りのね」(2枚目の写真)。「チェスを教えてあげるわ」。「誰も傷付けない?」。ブラウンロウは、それをじっと聴いている。
  
  

一方、ロズバーンは、別の部屋に入って行くと、窓に向かって、これからブラウンロウに話す言葉の練習を始める、「ええ、存じてます。まだ十七歳ってことは。それに、“歴史は繰り返す” というご懸念も知っています。ローズは、お姉さんが失踪した時の状況を話してくれました。お姉さんの恋のことも。それに、赤ちゃんを身ごもっていたことも。だから、私は保証します。名誉に誓って、そのような状況は、悲劇は、二度と起こさないと」。ところが、いつの間にか、ブラウンロウが背後にいて、その練習をじっと聞いている。そして、この段階で口を出す。「それはどうかな」。ロズバーンは、びっくりして振り返る。「君は、事情をよく把握している。だから、議論は不要かも。だが、言いたい。私は、恋の相手を知っていた。私の、よき友だった。彼は、魅力的で、愉快で、ウイットがあり、ハンサムだが、軽率で、甲斐性がなく、愚かで、最大の欠点は無責任だった!」(2枚目の写真)。そして、こう訊く。「もっと、詳細に 聞きたいかね?」。「いいえ、結構です」。「君にとっては辛いだろうが、これが 私の言いたかったことだ」〔つまり、ロズバーンとローズの結婚は認めない〕
  
  

ローズが、オリバーにチェスの駒の意味を教えていると、ふとした拍子に窓を見たオリバーはびっくりする(1枚目の写真)。窓からフェイギンが覗いていたからだ(2枚目の写真)。それに気付いたローズも窓を見て、小さかった頃の最大の恐怖の記憶、モンクスの顔を認め、悲鳴を上げる(3枚目の写真)。凄まじい悲鳴を聞いたブラウンロウとロズバーン、それに、ベドウィン夫人が部屋に駆け付ける。ブラウンロウが、「何だ? 誰だ?」と訊くと、ローズが、「あいつなの! アグネスの所にいた男!」と言い、オリバーは、「フェイギンと、その友だちだよ。窓にいた」と教える。ロズバーンは、「銃だ! 銃を 取って来い!」と、召使に向かって叫ぶ。しかし、外は濃い霧なので、何も見えない。ここまで、原作との一致がなかったが、この、“フェイギンとモンクス” による偵察は、原作の第34章の最後から、第35章の初めにかけて書かれている。ただし、二人の悪党を見るのは、オリバー一人。外は青天。もう一つの大きな違いは、映画では、この “遠征” の帰途、フェイギンはモンクスに見切りを付けるが、原作では、なぜか結託を続ける。
  
  
  

チェルシーの館に滞在することに危機感を覚えたブラウンロウは、すぐにロンドンに戻ることに決める。ローズは、精神的なダメージが大きいため、ロズバーンは、「医者が同行すべきです。あなたのお好きな医者を。これは、医者としての忠告です」とブラウンロウに主張する。そして、馬車には、ブラウンロウの側にローズとオリバー、反対側にベドウィン夫人とロズバーンの計五人が乗る(1・2枚目の写真)。ローズは、これまでチェルシーの館に架けてあったアグネスの肖像画をロンドンまで持って行く。原作の第12章の最後には、第二部で指摘したように、ブラウンロウが、オリバーとアグネスの肖像画が似ていると思う場面があったが、この映画のブラウンロウは、そんな素振りも見せない。
  
  

夜、ペントンビルの家に着いた五人は、安全のためか居間に固まっている。ロズバーンはオリバーにイギリスの地図を見せ、「そこを見てご覧、オリバー。南西地方だ、デヴォンとコーンウォル」(1枚目の写真)「こぎゃん風に話すとだ。毎月曜の真夜中に難破船ば探したり、錫ば探そうと地面に穴ば掘ったりする」(2枚目の写真)。「どう話すのか、全く分からないのが北部さ。例えば、ここにある国スコットランドだ。ベドウィンはんのように しゃべるんだ。あんはんは、エディンバラとグラスゴーの区別すらできまへんよ」。それが気に障ったのか、ブラウンロウは、「ベドウィンさん、もう遅いですから、オリバーを寝かせて下さい」と言い出す。ロズバーンはオリバーを抱き上げると、「お休み、オリバー。明日は、世界を見せてやろう。まだ、ここに居れば」と、ブラウンロウへの皮肉を込める。ローズも、一緒寝に行き、居間は二人だけになる。「朝には発つのかね?」。「それは、質問ですか、指図ですか?」。
  
  

オリバーが 撃たれて死んだどころか、チェルシーのブラウンロン邸に匿われていることを知ったフェイギンは、自分の居場所が警察に通報されるかもしれないと思い、至急根城を変えることにする。配下の子供達は、その作業でてんてこ舞い(1枚目の写真)。オリバーを取り戻すことなどできないと思ったフェイギンは、モンクスが、「俺が、ちゃんと払うことを保証するものだ。あんたを信頼して、証拠の品を渡すんだ。これが人手に渡ったら、俺はすべてを失う」と言って渡した手紙を、「用済みだな」と言って、貴重品の隠し場所にそのまま残していく(2枚目の写真、矢印)。原作では、フェイギンは、シェパートンのメイリー夫人の邸宅まで出向いてオリバーが匿われていることを知ったのに、なぜか根城を移さない。
  
  

ブラウンロウは、ローズの寝室に入って行き、今朝、ローズが叫んだ、「「あいつなの! アグネスの所にいた男!」の意味について知ろうと、「私は… 多分、お前が… きっと… 話したいのではと… だから、来た」と言い、「話したいかね?」と訊く。自分を探し出して育ててくれた恩人に対する答えは、「いいえ」。「私とは話したくないのかね?」。「私、あなたが大好きなんです。今まで、ずっとそうでした」。「でも… 今は… 話したくないのだね?」。ブラウンロウは、ウィリアム・ブレイクの詩『The Sick Rose』を口ずさむ。「おお、バラ〔Rose=ローズ〕よ、お前は病む。吼える嵐の中」(1枚目の写真、矢印はローズ)「夜に飛ぶ目に見えぬ虫が、深紅の喜びの寝床を見つけた。その暗い秘めた愛が、お前の命を滅ぼし尽くす」。そのあと、「例の夜〔9年前〕に起きたことについてだが、いつかは誰かに話さないと。誰になら話す? ロズバーンかね?」。「多分」。それを聞いたブラウンロウは、音楽室でピアノを弾いているロズバーンの所に行き、彼を横にずらし、ピアノの中央に座る。そして、「シューベルトは知ってるだろ?」と訊く(2枚目の写真)。「だが、この事は知ってるかね。彼は不運にもひどく内気で、女性にあこがれたが相手にされなかった。そして、名声も富もなかった。大勢の娘にピアノを教えていたが、いつも左側に座った、今の 君のように。そして、娘たちを右に座らせた。それが、二重奏を数多く作曲した理由さ。手を伸ばし、交差させ、触れるんだ。今度は、シューベルトを弾くといい。特に、フレミング嬢相手に、二重奏を」。これで、ブラウンロウは、強く否定していた二人の交際を許したことになる。
  
  

同じ夜でも、こちらはサイクスの汚いアパート。外は土砂降り。サイクスが、「仕事には、もってこいだな」と言うと、ナンシーも外出の用意を始める。当然、サイクスは不審に思う。「おい、ナンス、こんな夜中に、どこへ行く〔Nance. Where's a (the) gal going to at this time of night〕?」と訊く。これは、原作の第44章の、まったく違う状況での言葉の借用。「すぐ そこまでさ〔Not far〕」。「そんな返事があるか! どこへ 行くんだ〔What kind of answer's that? Where are you going〕?」。「すぐそこまでって、言ったでしょ〔I said (say), not far〕」。「だから、どこだと訊いてるんだ〔And I said (say), where〕」。「分からないわよ〔I don't know where〕」。サイクスは、ナンシーの首を絞めるように持つと、「なら、教えてやる。どこにも行くな。座れ〔But (Then) I do. You ain’t going nowhere. Sit down〕」。映画のこの場面では、部屋にいるのは、サイクスとナンシーだけ。原作では、そこにフェイギンがいて、夜の12時の鐘が鳴ると、ナンシーは急に “行きたい” という衝動を停止する。映画では、そこにフェイギンがドジャーとチャーリーにご馳走を持たせて入って来る。これは、原作の第39章の内容で、しばらく放置してあったサイクスのご機嫌を取ろうとやってきたシーンの借用。映画では、強盗に失敗してから数日後の訪問なので、時期も違う。だから、サイクスの台詞は、「やっと現れたな、この腹黒い故買屋め。俺が、高熱で倒れてた時、何してやがった? その女〔ナンシー〕がいなかったら、くたばってたかもな」(1枚目の写真)。原作では、フェイギンにたいする最初の台詞は、「いったいぜんてぇ、どんなろくでもない風の吹き廻しでやって来たんでぇ」だ。その後も、三週間以上も放置されていたことへの恨み節を並べる。映画では、せっかくご馳走を持ってきてもらったのに、サイクスは 「今夜は、とっておきの夜だ。仕事に出かける」と言う。すると、やめておけばいいのに、ナンシーもまた 「あたしもだよ」と言う。「言ったはずだ、どこへも行くなと!」。フェイギンも、「そうだぞ、娘が一人で出かけるような夜じゃない」と反対する。ナンシーは 「外の空気が欲しいんだよ!」と反論。サイクスは、強盗に出かけようとするが、その前に、フェイギンに向かって 「こいつは出かけねぇ」と言う。ここで、フェイギンは、初めて 先の強盗の失敗について意見を述べる。「あんたの落ち度じゃない、ビル。あの臆病者のトビーのせいでもない。不運が重なったんだ。だがな、根城は変えることにした。グロヴナー広場からハンプトン・コートへ。だが、ハンプトン・コートの家は準備不足だったから、仕方なく…」。ここで、サイクスが、「当面、ジェイコブ島にいるんだな」と口を出す。フェイギンは手下を連れてアパートから出るが、アパートの出口が見える場所で、監視に入る。ドジャーが、さっそく、「居なくちゃいけないのかい、フェイギン? 彼女は、出て来ないさ」と言うが、フェイギンは、「わしは、女心には詳しい。奴は荒っぽ過ぎる。誰だって犬以下に扱われ 続けてりゃ、いい加減イヤになるものさ」と諭すが、生意気なドジャーは 「ナンシーはビル一筋さ」と、まだ反対意見。業を煮やしたフェイギンは、「いいか、見張るんだ。ここに、居てな、ビルが家を出たから、ナンシーも出てくる。後をつけろ。新しい友達を見つけろ。ビル・サイクスよりマシな奴だろう」。「ナンシーが出て来なかったら、明日の夜もやるのかい?」。ドジャーの言葉が終わらぬうちに、ナンシーが姿を見せ、チャーリーが指差す(2枚目の写真)。そこには、ナンシーの後ろ姿があった(3枚目の写真)。この最後のシーンは、原作の第45章で、サワベリーの店の物をくすねてロンドンで一旗揚げに来たノア・クレイポールに、フェイギンがナンシーの後を追わせる場面の変形。
  
  
  

鬼女が登場する最後のシーンは、モンクスの、「母さんは若くない。もう、全然 若くないんだ。もう、老人だ」という言葉から始まる。鬼女は、一番聞きたくない言葉に、怒りを爆発させる。「そのくらい、先刻ご承知さ。そんなことを 言いに来たのかい! 何だい、その顔は。バカ面下げて、抗弁できるのかい? 知恵の一つもないくせに? お前の父、あたしの若くて弱い夫、あのバカに何て言ってやる?」。「難しいよ、自分が殺した人間について話すのは」。「お前の教育を、間違えてしまったね。何てザマだい」(1枚目の写真、矢印の2本の杖が、前よりも老人ぽい)。鬼女は さらに続ける。「続けるがいいエドワード。お前の十八番を見せるんだ。どうせ、あたしより先に死ぬんだろ」と言うなり、杖で息子を殴ろうとするが、モンクスは、両手で2本の杖を受け止め(2枚目の写真、矢印)、「母さんには、二度と叩かれませんよ」と言う。「寝込みを襲ってやるさ」。こう罵ると、昔のことを話し始める。「あたしは常に 勝つことを考えてきた。お前の父を見た瞬間、勝ったと思った。だが、結婚式が終わるまでには、勝利感は絶望感に変わった。ベッドでもがいていたのは若造だった。あたしは一族が考えてるほど、無価値な人間じゃない。その思いは、以来ずっと続いてる。三十年近く待ってきた。いつかは勝てると信じて。最近まで、勝てると思ってた。お前の役割は、奴を見つけ “破滅” させることだった。お前は、奴を見つけ、あたし達を “破滅” させた。そして今、終わってみたら、あたしには何も残らなかった」。ここで、それまで何杯も飲んでいたワインを飲むと、急にワインを吹き出して床に倒れる。そして、「何も… 残らな… かった…」と呟くと、絶命する(3枚目の写真)。モンクスは、母が飲んだグラスの匂いを嗅ぎ、デキャンターのワインの匂いも嗅ぎ、ワインをグラスに注いで飲むので、毒で死んだのではない。
  
  
  

ブラウンロウは、オリバーの話を聴いて〔聴いてから、丸一日経っているので対応が遅い。原作のブラウンロウの方が、もっとオリバーを個人的に好いている〕、救貧院の院長〔バンブル〕宛てに手紙を書いている。「拝啓 私は、約九年前に あなたの救貧院にいたと思われる子供について問い合わせたいと思います。子供の名前はオリバー・ツイストです…」(1枚目の写真、下線は救貧院)。その時、玄関のドアを執拗に叩く音が聞こえる。ベドウィン夫人は、下賤の女性の姿を見て、ドアを閉めかけるが、「オリバー・ツイストのことなのよ!」と叫んだことで、声を聞きつけたオリバーが、「ナシシー!」と言って飛んでくる(2枚目の写真)。「オリバー! よかった… 死ななかったのね…」。それを聞いたナンシーは、なぜか倒れてしまう〔ここまで、雨の中を歩いて来て疲れた?〕。すぐにロズバーンが呼ばれ、抱き抱えて家の中に入れる。そして、それを追跡してきたドジャーとチャーリーが見ている(3枚目の写真、矢印はロズバーン)。
  
  
  

ナンシーの周りには、関係者全員が集まる。最初に口を開いたのはブラウンロン。「どうして、彼が死んだと思ったのかね?」。「フェイギンが そう言った。それから、誰かに話してた。オリバーが生きてるなら、もう一度連れ戻すとか」(1枚目の写真、矢印はナンシー)〔ナンシーは、フェイギンとモンクスがチェルシーでオリバーを見たことは聞いていない。彼女が知っているのは、フェイギンの根城で、彼がモンクスに 「とにかく、奴が生きてたら、もう一度 連れ戻してやるよ。もし、仮にだが、死んじまってたら…」と話しているのを、盗み聞きしただけ〕。「その、『誰か』って?」。「あたし、フェイギンの後を付けて行った。(サイクスの)家からずっと、彼の根城まで。誰かが彼を待ってたわ」。「それが、その 『誰か』かね?」。「そう。で、彼はフェイギンと二階へ行った。あたし、悟られないようマントを被ってた。扉ごしに、聞こえてきた。そいつは、フェイギンに ひどく怒鳴ってた。そいつの望みは、ある子供が捕まって、辱めを受けて追放されることなんだとか。他のチンピラみたいに、ケチなスリにさせるべきだったとも。でも、フェイギンはできなかった。その子は、ほかの子と全然違ってた。それが、オリバーなんです」(2枚目の写真)。「何で分かる?」。「実はあたしなの。この家から出て来たオリバーを、本と一緒に誘拐したのは」〔原作の第40章で、ナンシーがローズ一人に打ち明ける時の台詞は、「オリバーがペントンビルの家から出た際に、無理矢理にフェイギン、つまりユダヤの爺さんの家へ連れて行ったのは、このあたしなの」。映画とは全く違っている〕。「なぜ、そんな恐ろしいことを?」。「そう、命令されたから。あんた、あたしの生活を知らないでしょ? 誰と住んでいるかも」。ここで、ベドウィン夫人が 「ビルって名の大男?」と訊く〔映画では、オリバーの打ち明け話が救貧院で終わっているが、当然、ペントンビルからの誘拐の話もしたハズで、その中でビルの話もした〕。ナンシーは、「彼を知ってるなら、あたし帰る。彼に死んで欲しくないから」と言い出す。ロズバーン:「でも、また、どうして?」。「あたしの知ってることを話したら、彼は逮捕されて縛り首よ」。そして、「行くわ」と立ち上がる。その時、声を上げたのは、ローズ。「でも、なぜ、そんな男の元に戻るの? ここなら助けてあげられる」。「あんたにも、いつか分かるわ。いくら美しいご令嬢にも、恋慕う人が現れる。愛には抵抗できないの」〔この台詞も、第40章の変形〕。ロズバーンに恋をしているローズは、これで黙ってしまう。ここから先は、原作の第46章の ロンドン橋の上での深夜の密会の際の台詞の変形。ブラウンロウ:「君を、どこにでも 住まわしてあげられる。フランスだろうと」〔この台詞は、第46章の変形〕「私には、何でもできる。フェイギンのことを教えてくれれば」。「フェイギンもダメ」。「じゃあ、あの『誰か』なら、どうだね? この子を破滅させようとした奴だ」。「彼は背が高く、こそこそと歩き、目がひどく窪んでる。唇は歯のかみ痕でゆがんでいる。ものすごい発作を起こすの。自分の手を噛むので、手が傷だらけなの」(3枚目の写真)。それを聞いたローズの表情を見たナンシーは、「知ってる人?」と訊く。代わりにブラウンロウが、「そうらしい」と答える。『誰か』がエドワードだと確信したブラウンロウは、オリバーについての打ち明け話の時よりもずっと熱心に、「何とか、助けてあげられないかね?」と尋ねる。「結構よ」。「何とか、折れてくれんか? どうか、お願いだ」。「あんたには、あたしを救えません。家に戻らないと」。ナンシーは、最後に、「お望みの男は、“三人のびっこ亭” にいるわ。モンクスという名で」と教える。映画のブラウンロウは、オリバーのことがあまり好きではない。①バンブル宛の手紙の執筆は一日遅れ。②前日に、オリバーからフェイギンの悪の話を聴いても、何の手も打たなかった。③今のナンシーとの会見でも、オリバーの打ち明け話が本当だったことへの “喜び” は一切感じられないし、④相手がモンクスと分かるまで、あまり熱意がなかった。原作の第41章で、ローズから話を打ち明けられたブラウンロウが、オリバーが玄関先の馬車にいると聞くと、「玄関先だって!」と叫ぶと、部屋から飛び出し、階段を駆け下りて馬車の中に飛び込んでいった “愛情の深さ” とはまるで違う。この姿勢は、映画の最後まで変わらない。ある意味、実に、冷たい人物だ。
  
  
  

ドジャーとチャーリーは、ナンシーがブラウンロウ邸から出て来るまでずっと見張っている。そして、出て行ったあとで、ドジャーが、「何てこったい、ナンシーがビルや、俺たちをチクるなんて!」と言うと、チャーリーは、「見たわけじゃないだろ?」とナンシーを擁護する〔実際、ナンシーはサイクスやフェイギンを “チク”っていない〕。しかし、原作以上に悪質なドジャーは、「何だと、弁護する気か?」と反撥。「まぁいい。俺はフェイギンに話してくる」。「俺なら、ナンシーのことは何も言わない」。「そうかい、おめぇは流刑になりたいんだな」。「言っちゃダメだ」。ここで二人は喧嘩を始め(1枚目の写真)、勝ったのはドジャー。「俺は、戻ってナンシーのことを話す。それから、おめぇのこともな」と言って、去って行く。一方、ブラウンロウ邸では、ローズが、子供の頃の恐怖を初めて口にする。「あの田舎家で、お姉様に例のことがあった夜、私はぐっすり寝てた。最初は、夢でも見てるかと思ったわ」(2枚目の写真)「誰かが叫んでいる夢。でも、夢じゃなかった。お姉さんが寝室で叫んでたの。私はベッドを出て、寝室に走ったわ。でも、お姉さんはいなかった」。話が子供には不適切になってきたので、オリバーは、ベドウィン夫人に連れて行かれる(3枚目の写真)。ローズの話はさらに続く。「他の誰かがいたの。彼は、扉のすぐ脇にいたわ。片手にナイフを持って床に倒れてて、もう一方の手は口に入れてた。自分の手を噛んでたの。それから立ち上がると、私にのしかかったわ。私、『“子取り鬼” なの?』って訊いた。彼は言ったわ、『俺は “子取り鬼” だ。悪魔だ』って。で、私も叫んだの。そして、私は手で目を覆ったの。目を開けると、いなくなってた」。
  
  
  

フェイギンが、元の根城に一人残って “偉大なるレビンスキー” になりきっていると、そこにドジャーが駆け上がってくると、「最悪だ。これ以上、ねぇぐらい」と言う。「解説は要らん。見たことを話せ。ナンシーは特殊な男と会ったんだな?」。「そうさ。ペントンビルへ行って、ブラウンロウの奴に会った。俺達を売ったんだ!」(1枚目の写真)。「チャーリーはどこだ?」。「ナンシーの味方だ。あんなにバッチリ見たのに、味方しやがって」。「で、何を聴いたんだ?」。「何も聴いちゃういねぇ。家の中なんだぜ」〔原作の第46章では、ロンドン橋でナンシーが話しているのをノア・クレイポールが聴いているが、今回は、あくまでドジャーの推測のみ〕。ファイギンは、「見ただけで、何も聴いとらん!」と言うが、ドジャーは 「見ただけで十分だ」と自分の主張を曲げない。そこに、サイクスが入って来る。ここからは、原作の第47章に準じてはいるが、内容はかなり違う。フェイギンは、「わしに任せろ」とドジャーに注意する。「ビルに話すんかい?」。「まだだ。引き払った後で手紙を出す」。「今、話してぇ」。「ダメだ!」。サイクは、二人の様子がおかしいので、「やい、どうした、そんな風に人を見るとはよ。それに、こそこそしゃべりやがって。何だ? 俺の話なら黙りやがれ。くそ、面白くもねぇ」と怒鳴るように言う。「違うよ。あんたじゃない」。「じゃあ誰なんだ? 俺に何かあったかと、ナンシーが心配する〔Nance will think I'm lost〕」。ここで、ドジャーがいらぬ口を出す。「何かあったのは、ナンシーさ」(2枚目の写真)。サイクスは、「あいつ、何を言ってやがる?」と言うと、いきなりフェイギンの手を掴んで金槌で殴る格好をし、「さあ、言え! 言わねぇと、息の根を止めてやるからな」と脅す。フェイギンは、「ビル。聴いて欲しいことがある。注意深くな」と、静かに話す。サイクスハ、フェイギンの手を放すと、「ナンシーに何があった?」と訊く。「もう少しの我慢だ。一つ質問がある。もし、わしが あんたを密告したら、どうする?」。「脳天を叩き割ってやるI would beat your brains out〕」。「だが、その結果どうなると思う? あんたが、わしを殺したらどうなる?」。「絞首台行きだろうな」。「その通りだ。だから、ビル、怒り狂う前に…」。「俺は捕まらねぇ」。「じゃあ、あのドジャーが、もし…」。ドジャー:「ビル、俺は やっちゃいねぇ」。「荷馬車で轢かれたみたいに、頭をすり潰してやる」。ドジャー:「言ってくれ、フェイギン。俺じゃないって」。フェイギン:「あるいは…」。ドジャー:「連想ゲームは、もう沢山だ! ナンシーなんだ、ビル。俺たちを売ったのは」。怒ったビルは、ドジャーの胸ぐらを掴む。「何だと?」。「ほんとなんだ。フェイギンが尾行させたんだ。誰かに会うんじゃねぇかって」(3枚目の写真)。ドジャーがいらぬことを言ったので、フェイギンは仕方なく、「あんたのためにしたんだ。ナンシーはブラウンロウの家に行った」と打ち明ける。「ブラウンロウだと? そいつは誰なんだ?」。「ナンシーがオリバーを誘拐した相手がブラウンロウだ」。サイクスが、暴力を振るいそうなので、フェイギンは、「ビル、口だけだぞ。暴力はやめとけ。それが身のためだ!」と注意するが、サイクスは、すぐに根城から出て行く。こうしてみると、鬼女の次に悪いのはドジャー。原作では、もっと前の第43章でドジャーは裁判にかけられていて、もうフェイギンの手下ではないし、こんな背信者でもない。この映画の最大の欠点は、ドジャーはここで消えてしまい、その後の “破滅” を見せてくれないこと。
  
  
  

アパートに戻ったサイクスは、眠っていたナンシーを起こす。「あんたの夢を見てたの」。「そうか? 悪夢だったか? 起きろ」。ナンシーが小さな窓のカーテンを開けようとすると、「そのままでいい。俺の仕事には そのくらいの明るさでたくさんだ〔Let it be. There's light enough for wot I've got to do〕」と静かに言う(1枚目の写真)〔原作の第47章の最後。同じ台詞はここだけ〕。「何で分かったの? 誰が言ったの?」。「黙れ、このアマ! 貴様は、今夜 見張られたんだ!」。「ビル、あたしを殺したりしないわよね。今夜、逃げましょ。助けてもらえるわ。あんたのことは誰にも言ってない。もう一度やり直せるのよ、外国で。フランスへだって行ける」。ビルは、「俺は行きたくない。フランス人は嫌いだ」。そう言うと、サイクスは拳銃でナンシーの額を何度も殴り付ける。血まみれになったナンシーは、「ああ、神様… ご慈悲を… ビル、やめて」と頼むが(2枚目の写真)、ビルは、棍棒をつかんでナンシーが死ぬまで殴り続ける(3枚目の写真、矢印は棍棒の方向)。
  
  
  

映画では、ナンシー殺害の前に、ブラウンロウが “三人のびっこ亭” に行き、「エドワード・リーフォード、別名モンクス、オリバー・ツイストの義兄」と呼びかけ(1枚目の写真)、逃げようとして二人の召使に殴られる短いシーンがある。そして、ナンシーの死後、モンクスを乗せた馬車が、ブラウンロウ邸の前に着き、モンクスが引きずり降ろされる(2枚目の写真、黄色の矢印はモンクス)。この構図が、このロケ地が一番明確に分かる映像。空色の矢印の先の特徴的な扉は、ロンドンのキングス・ベンチ・ウォーク(King’s Bench Walk)にあるThe Alienation Officeの扉。そして、ブラウンロウ邸のあるのは、恐らく、10KBW。法廷弁護士が多く住む特殊な地区で、グーグル・ストリートビューの除外地区。3枚目の写真は、5KBWの辺りから見たThe Alienation Officeの扉(矢印)〔2枚目の写真の方が遠く離れているのにThe Alienation Officeの扉が大きいのは、望遠レンズによるもの〕。そして、4枚目の写真は、映画では、次の節の最初の2枚目の後に挿入されるシーン。馬車から降ろされたモンクスは、直ちに地下室に連行されると、「俺じゃない!」と言い張る。それに対し、ブラウンロウは、「じゃあ、誰なんだ、リーフォード? あれは、本物の “子取り鬼” だったのか?」と訊く。モンクスは、「子供の悪夢だろ。九年も前の。子供が暗い部屋で、誰かを見たとでも? そんな話、どこの法廷だって無視するさ」と反駁する。「私は、法廷なんかに用はない。お前にも。だが、フェイギンとなると話は別だ。もし、フェイギンの居場所を言えば、お前を、暖かい目で見てやろう。守ってだってやる」(4枚目の写真)。原作では、モンクスがブラウンロウ邸に連れて来られるのは、第49章の冒頭。モンクスはより反抗的で、ブラウンロウはより攻撃的。それは、原作では、モンクスが証拠を全て隠滅しているから強気に出ているため。なお、この第49章でブラウンロウが話す言葉の多くが、この映画の第一部で引用されている。
  
  
  
  

映画では、モンクスがブラウンロウ邸に連れて来られた直後に、モンクスが逃げ出すシーンがある(1枚目の写真、矢印は犬)。それから、あまり時間が経ってない頃、アパートに、チャーリーと、第二部で1回だけ出て来たベットがやって来る。ベットが、「ありがと、チャーリー。何か、仕事があるわよ」と言ってドアを開けると、すぐ前にナンシーの死体が横たわっている。チャーリーは、ベットに、「『人殺し』って、叫べ!」と言う(2枚目の写真、黄色の矢印はナンシー、空色の矢印はチャーリーとベット)。ベットは、すぐに小さな窓から、「人殺しよ!!」と絶叫する。その叫びを耳にしたサイクスは、どうしていいか分からず、しゃにむに逃げ出す。その後、前節の4枚目のシーンがあり、ブラウンロウとロズバーンは、オリバーを連れてフェイギンの根城に行く。最初にドアを開けて中を覗いたオリバーは、「逃げたみたい」と告げる。3人が中を調べると、そこに一人だけいたのは、行き場所のないチャーリー。ロズバーンに取り押さえられたチャーリーは、「ごめんなさい。ほんとに、ごめんなさい」と何度も謝る。ブラウンロウは、顔がだいぶ変わっているにもかかわらず、「君は、私の家に来たことがあるな?」と訊く〔オリバーとエドウィンやアグネスとの一致点にはまるで気付かなかったのに、成長の早い青年を認識できたのは明らかに不自然〕。「ごめんなさい。ほんとに」。「じゃあ、窃盗した後に姿を消した一人だな?」。「いいえ… はい。でも、後悔してます。ごめんなさい。ブラウンロウさん。でも、心から謝りたいのは、ナンシーが死んだことです。ビル・サイクスが殺しました」。それを聞いた二人は唖然とする(3枚目の写真)。「フェイギンが話したんです」。「何を話したんだ?」。「ナンシーが、昨夜、あなたの家に行ったことです」。「フェイギンの奴め。奴の居場所が分かるかね?」。
  
  
  

サイクスは、フェイギンの新しい根城まで逃げて来ると、大声で、「死んじゃまった、フェイギン! そうさ、あいつは死んじまった! 今や、なれの果てだ… フェイギン! 俺は、ぶら下がるなんて真っ平だ! おめぇだって絞首刑なんだぜ! フェイギン! そこに 居るんだろ!」と叫ぶが(1枚目の写真)。その間、約1分にわたって “偉大なるレビンスキー” の演技を続ける〔わざとらしいし、観ていても違和感しか覚えない〕。そのうちに、叫び声に気付いた群集が、サイクスを見つけ、「あいつだ! 一人だぞ! そいつは、殺人犯だ。捕まえろ!」と追いかけ、サイクスは再び逃げ出す。途中で、後をしつこく付いて来る犬を溺れさせようとするシーンだけは、原作の第48章と同じ。サイクスは、川に沿って逃げ、その後を群集が追う。チャーリーの案内でフェイギンの新しい根城に向かう馬車は、サイクスを追う群衆に周りを囲まれてなかなか前に進めない。その馬車の中での、チャーリーの話は、聴いていて腹が立つ。「あれは、最高のお風呂でした。それから、おばさんがくれたスープ。最高のスープでした。後になって、すごく後悔しました。大きなチャンスを逃したと知って。オリバーみたいになれたのに。盗んだ時計でもらったのは、半クラウン。史上最低の分け前だ〔こんなワルを、後で、ブラウンロウは召使に採用する。なぜ?〕。ブラウンロウは、通りがかった巡査に、「どうなってるのかね?」と尋ねる。「見つけました」。「誰を?」。「殺人犯です。名前は…」。「ビル・サイクス?」(2枚目の写真)。「そうです。奴と犬です」。「ビル・サイクスを捕まえた者に百ポンドだ」〔原作では五十ポンド〕。それを聞いた群集から、大きなどよめきが起こる。サイクスの犬は、殺されかけたのに、サイクスにいる建物〔結局は、フェイギンの根城〕に入って行き、百ポンド目当ての群衆も、ドアをぶち壊してその後を追う(3枚目の写真)。
  
  
  

大勢の人々が根城の中に入って来たので、フェイギンとサイクスは天井裏の複雑に入り組んだ梁と柱を登り、途中で、フェイギンは邪魔な犬を蹴り落して殺す。最後に、二人は屋根の直下の荷物搬入口から外の階段に出て、そのまま、建物の上部に付けられた空中回廊に逃げて行く。ところが、その回廊は、途中で長さ二メートル以上に渡って途切れていて、フェイギンは、そこを思い切り飛んで、その向こうの回廊に着地するが、サイクスはジャンプができない。十数メートル下からは、警官が、「お縄を頂戴しろ、サイクス。袋の鼠だ、あきらめろ」と声をかける。それを聞いたフェイギンは、サイクスの仲間だと知れると、絞首刑になるので、サイスクを指差して、「誰か助けてくれ! この気違いにかどわかされた。殺されちまう!」と、犠牲者を装う(1枚目の写真)。サイクスは、回廊の端まできている群集に向かって行き、「戻れ! 殺されてぇのか!」と脅すと、今度は。「フェイギン! 貴様、この 悪党!」と叫ぶと、思いきりジャンプするが、フェイギンのいる回廊の端の板が折れて、そのまま落下する(2枚目の写真、矢印の方向)。そして、その真下にある水路に落ちて死亡する(3枚目の写真)〔原作では、屋根から落ちて、首に掛けていた輪で宙吊りになって死亡する〕
  
  
  

フェイギンの根城に通じる狭い通路の前で止まっていた馬車の所に警官が戻ってきたので、ロズバーンが 「どうだった?」と訊く。警官は、ブラウンロウに向かって、「お金は不要でした。ビルは死にました」と答える。しばらくすると、フェイギンが、他の男達に、「恐ろしい。助けられんかった。落ちてった」と、無害の第三者を装って通路から出て来る。それに気付いたオリバーは、「フェイギン!」と叫び、チャーリーも、「フェイギンだ」と言い、ブラウンロンは、どんな奴だとばかりに顔を出す(1枚目の写真)。フェイギンは、警官に取り囲まれ逮捕される(2枚目の写真)〔原作では、フェイギンは、別な場所で、サイクスの死より前に逮捕されている〕
  
  

朝食の時間。ローズが、「さぁ、これも」と、オリバーの皿に入れると、ベドウィン夫人が 「甘やかしちゃ、ダメよ」と言う〔彼女らしくない発言〕。ローズ:「伸び盛りじゃない」。すると、今度は、ブラウンロンが、「いいニュースだぞ、オリバー。明日、バンブル夫妻がやって来る」と、バンブルからの手紙を見ながら話す(1枚目の写真、矢印は手紙)〔「いい」というのは、皮肉にも聞こえるが、真相解明という意味で、「いい」〕。「そんな! お願い」。「心配ない。私に会いに来るだけだ。君じゃない。結果は後で教えるよ」。そのあと、ロズバーンがピアノを弾き始め、ブラウンロウはローズに目でサインを送って、彼と一緒に連奏するように促す〔ブラウンロウは、ローズには親切だが、オリバーにはさほどでもない。書くのは二度目だが、どうして、状況を変えたのだろう?〕。そして、翌日、バンブル夫妻がブラウンロウ邸を訪れる〔原作の第51章では、関係者一同が、救貧院を訪れる〕。ブラウンロウの机の前に立ったバンブルは、「オリバー・ツイスト。私が名付けました。私の発案です。母親はとても若く 美人でした。救貧院に着いた時には、歩き詰めのため極度に疲労していました。赤ん坊を見たいと言った以外 話したがろうとせず、すぐ死にました」(2枚目の写真)「名前を知る糸口が、何もなかったのです。何一つ。女性らしい形見すら持ってませんでした」。「残念ですな」。そう言うと、バンブルの態度を見て、「ああ、そうか、構いませんよ、礼金のことでしょう?」と訊く。バンブル夫人は、元々、来ることに反対だったので、「もう、行ってもよろしいわね?」と言う。「ええ。どうぞ、どうぞ」。バンブルは、「ちょっと伺いたいのですが、礼金は いかほどで?」と恥ずかしそうに訊く。「とても口に出せません。失望なさるでしょう」。夫人は、バンブルに向かって、「来るのよ!」と一喝する。そして、ドアを開けると、そこにいたのは、二人が今一番会いたくない人物、モンクスだった(3枚目の写真)。
  
  
  

ブラウンロウは、「あなたは、この紳士に 以前 会われたはずですな」と、皮肉を込めて言う。バンブルは、「私じゃない、妻がやったことです!」と、責任回避。その言葉に対し、夫人とモンクスが同時に、「恥さらし」と非難する。ブラウンロウは、「正確には、奥さんに何をされたのかな?」と質問する。「忘れました」。「これで、思い出しますか? これは、若い女性の死の問題ではなく、オリバー・ツイストや、そこにいる哀れな男〔モンクス〕の問題でもなく、強盗事件、幼児誘拐事件、そして、殺人事件なのです」。モンクスは、「殺人?」と唖然とし、モンクスは、「俺じゃないぞ」と否定する。「面倒な立場だと分かったでしょう。それも、奥さんのせいで」(1枚目の写真)。気の弱いバンブルは、「そうなんです。一つ忠告させて頂きたい。財産目当てで結婚しないことですな。私はそうした。そしたらこの有様です。つまり、あの妻が…」。ここで、バンブル夫人が口を出す。「おどき! 自分で説明するわ。私は、ロケットを持ってた。その、どこが悪いの? 預かったことが。母親は死に子供は逃走。預かって なぜ悪いの? それから、このバカ、こんな奴と再婚して、そこにいるバカに会わされた。そいつは、何としてもロケットが欲しかった。だから、手に入れた。それが、どうか?」(2枚目の写真)。「それが、どうか… あなたは、預かり物を売った。子供の身元を示す唯一の手がかりを。子供の “魂” を売ったのだ」。この厳しい言葉に、バンブル夫人は下を向く。ここからは、原作の第51章とほぼ同じ。バンブルは 「かくも些細な不幸な事件のせいで、教区の職務を罷免されることは ないと思いますが〔I hope, sir, I hope that this unfortunate small events (little circumstance) will not deprive me of my parochial office?〕」と言うと、「そうなるでしょうな」。「全部、妻のせいですぞ。彼女のやったことだ〔It was all Mrs. Bumble’s fault, sir. She would do it〕」。「弁解は無用。法律上は、君の方が罪が重いんだ。奥さんは、君の命令でやったとみなされる〔No excuse, man. You are the more guilty of the two, in the eye of the law; for the law supposes that your wife acts under your direction〕」。「もし、法律がそう判断するのなら、法律こそ阿呆だ。頓馬(とんま)だ〔If the law supposes that, then the law is an ass; an idiot〕!」。さらに、有名な台詞は続く。「それが法律だというなら、法は独身者だ。法も、経験によって目が 開かれるべきだ。経験によって(3枚目の写真)〔If that's the eye of the law, the law is a bachelor; and the worst I wish the law is, that his eye may be opened by experience--by experience〕!」。
  
  
  

バンブルが去った後、ブラウンロウは、モンクスに、厳しい言葉をかける。「もし、お前が望むなら、公然と告発して官憲に任せてもいい。その場合、私は介入できん」。「中間は ない?」。「ない。お前の友達のフェイギンが、生け捕りにされたからな」。「あなたは、俺を匿ってくれる?」。「私達が、だ」。「私? ダメです。あなたになら話します。俺が去ってから、みんなに話せばいい」。「二人に赦しを請うのだ。私に赦しを請われても、お門違いだ」(1枚目の写真)。ブラウンロウは、オリバーとローズに、「心配しないで。怖いことじゃないから」と言い(2枚目の写真)、モンクスを全員の向かい側のイスに座らせる。モンクスは、ポケットからロケットを取り出し(3枚目の写真、矢印)、ブラウンロウに渡す。ブラウンロウは、中を開けて確かめた後で、オリバーの前のイスに座ると、「オリバー、実は、君に打ち明けることがある。君のお父さんは、我が友エドウィン・リーフォードで、お母さんはアグネス・フレミング」と言いながら、ロケットを開き 二人の肖像画を見せる。「お母さんの幼い妹が、ローズなんだ」。オリバーとローズは互いに見合うが、それだけで、ブラウンロウからロケットを渡されたローズは、「リーフォードさん!」と、昔を懐かしがる。原作の第51章の最後の方で、オリバーが、「絶対に叔母さんなんて呼ばないよ――お姉さんだ、ぼくのやさしいお姉さん。はじめっから何か虫が知らせたんだね。それであんなに好きになったんだね! ローズ姉さん!」言って抱き合う場面があるが、映画とは程遠い〔この映画では、第三部に入ると、ローズがオリバーとは無関係な内容で重視される〕。ブラウンロウは、オリバーに、「まだ紹介してなかったね。義理の兄さんの、エドワード・リーフォードだ」と、モンクスを紹介する。それを聞いたオリバーは、「ぼく、お兄さんが欲しいってずっと思ってた〔I always thought I wanted a brother〕」と言い、それを聞いたモンクスは、「過去形を完璧に使ってる」と言う〔オリバーの言葉の内容より、文法に感心している〕。原作の第51章では、バンブルの場面の前に、ブラウンロウはモンクスにアイtリバーを見せ、「この子は君の異母弟だ。君のお父さん、私の親友エドウィン・リーフォードと、この子を生んですぐ亡くなった気の毒なアグネス・フレミングとの間にできた庶子だ」と言うと、モンクスは、オリバーを睨みつけ、「その通りだ。こいつが二人の不義の子さ」と誹謗する場面があるので、原作のモンクスは、映画のモンクスより遥かに質(たち)が悪い。
  
  
  

オリバーは、ブラウンロウに、でも、どうして『義理』なの?」と訊く。「お父さんは、昔、別の人と結婚した。結婚は破綻。その後、君のお母さんと絶望的だが真剣な恋に落ちた」。「お父さんは、どうして死んだの?」。ブラウンロンは、ここで、「エドワード?」と、説明を促す。「無理です。謝ることはできても、“なぜ” “どうやって” とかは言えません」。「言いなさい」。「無理です」。「本当は言いたがってる」。「本当に無理なんです」。ブラウンロウは、モンクスの膝に手を置くと、目で「さあ、ほら」と促す。モンクスは、仕方なく立ち上がり、「俺の… 俺の母が… 俺の父を殺した。つまり、君のお父さんを殺したんだ」と告白する(1枚目の写真)「俺は、何も知らなかった。母は ワインを飲むなと言った。でも、十七歳の俺には、何も知らされていなかった」。ここで、オリバーが、「でも、なぜ殺したの? ぼくのお父さん、あなたのお父さんを。どうして、そんなひどいことをしたの?」と訊く。「父が、君のお母さんに恋をして、赤ちゃんができたから」(2枚目の写真)「そして、父の心配の種は、生まれる子が、俺みたいな人間になるんじゃないかと… そこで、俺の愚かな父は遺言に条項を付けた…」。ここで、ブラウンロウが後を続ける。「生まれたのが男児だったら、相続権は限定されたものになると。定められた年齢に達する前に、彼は悪事や犯罪によって有罪になることは許されない。君のお父さんの ひどく愚かな方針だ」(3枚目の写真)。
  
  
  

ここで、モンクスは、「母さえ、いなければ」と言い出すが、それを遮ったのはローズ。「でも、ナイフを持って姉の部屋にいたのは、あなたよ。お母さんじゃない」。「気付かなかった? 俺にはできなかった。俺は 母とは違う! 俺は、もっと… 俺の… 母より…」。モンクスは、興奮して発作を起こし床に倒れて体を震わせる。ロズバーン医師がいたので、すぐにモンクスの口に棒をくわえさせる(1枚目の写真、矢印は棒)。意識の戻ったモンクスは、体を起こすと、「俺は、君たちに赦しを請うに値しない人間だ」と言い、ブラウンロウには、「俺は、どうなるんです?」と訊く(2枚目の写真)。「どこか 遠くに行くんだ。年六百ポンドで暮らす若い男性を、受け入れてくれる所へ」。「俺には、金などどうでもいいんです。父が、俺を好いてくれなかったことが、心残りなのです。僕の父… 父は俺のもの…」。その様子を見ていたオリバーは、「リーフォードさん。こんなこと、なかったことにしようよ」と言い、モンクスはオリバーの手を握り締める(3枚目の写真)。そして、ブラウンロウに、「もっと法的証拠が必要でしょう、ブラウンロウさん。ロケットや指輪以外に、この子の身元について。実は、もう一つあるのです」と打ち明ける。
  
  
  

原作の第52章。縛り首になる前夜のフェイギンの牢獄。死を目前にして、フェイギンは意識がおかしくなっている。そこに、ブラウンロンがオリバーを連れて行く。牢番は、「坊ちゃんも、ご一緒されるんですか? お子さんには、酷ですよAre you sure (Is) the young gentleman is to come too, sir? This is (It's) not a sight for children〕」と心配する。ブラウンロウは、「この子は、いろいろと “酷な” 状況に遭ってきたんだ。我々は目的があって訪問したのだ」と答え、牢番は、フェイギンの牢の前まで二人を連れて行く(1枚目の写真)。フェイギンは、オリバーを認識するが、その後の言動は異常なまま。いつまで待っても正常にならないので、ブラウンロウは、「お前は書類を持ってるな。モンクスという男から保証として渡されたものだ〔You have some papers which were placed in your hands for so-called (better) security, by a man called Monks〕」と、厳しい声で訊く。「モンクス? いねぇな、ここには。何故なんだ?」。「聞くんだ。この子を助けてやれ。手紙があるはずだ。それは、オリバーのものだ」。フェイギンは、いろいろ拗ねた挙句、ようやく、「オリバー、入っといで、内緒で教えてやる〔Let me whisper to you〕」と言い、オリバーは 「怖く ありません」と言って、牢の中に入る。フェイギンは、「あの手紙は、秘密の隠し場所にある。煙突のでっぱりだ。布袋に入れてな」と教える(2枚目の写真)。「上の部屋でしょ? ぼくに、あの本を…」。「そうだ」。牢屋を出て、縛り首の台の置いてある広場を歩きながら、オリバーは、ブラウンロウに、「質問してもいいですか?」と訊く。「勧めないが、義兄のことかね?」(3枚目の写真、矢印はオリバー)「ええ、そうです。どうして、ぼくの… 義兄は旅立てるのですか? フェイギンには できないのに?」。「オリバー、君には、守るべき秘密と、漏らしてもいい秘密がある。これは、 守るべきものだ。君が大きくなるまで」。
  
  
  

二人は、待っていた馬車に乗ると、フェイギンの昔の根城に行き、ロズバーンがカケヤを使って煉瓦の煙突を叩き壊す。すると、隠し場所を留めていた物が外れて台が落ちて来る。ブラウンロウは、その中から布袋(1枚目の写真)を取り上げ、中から手紙を取り出し、オリバーに渡す。オリバーは、以前のシチュエーションでは、字が読めない可能性を指摘したが、ここでも、救いを求めるようにブラウンロンを見上げる(2枚目の写真、矢印は手紙)。「読んで欲しいのかい?」。そう言うと、ブラウンロウは、エドウィン・リーフォードが、死の前にアグネスに書いた手紙を読み上げる。「最愛のアグネスへ。この前 会ったのが、遥か昔みたいですね。君がいないと、時の経つのが何と遅く、そして、再会の時が何と待ち遠しいか。愛しい君や…」。ここで、声が生前のエドウィンに変わり、映像も、若い頃のエドウィンとアグネスに変わる。「…君の身ごもっている子供との。そして、僕は心から誓う。君にすべてを与えることを。夫として、恋人として、友として。ローマで、僕は最高の幸運と巡り会えた。僕は、愚かしくも君を一人にした。もう 二度と離しはしない。ロケットは、できる限り心臓の近くに、君に対する愛の証として付けていて欲しい。指輪には、一刻も早く、君と子供の名前を刻みたい。そして、かけがえのない僕達の子供。男の子でも女の子でも、優しく見守ろう。季節が移ろい、笑ったり、泣いたりするのを。僕達の子供が、素晴らしく育っていく様を、一瞬たりとも見逃すまい。君と僕とは、新たな地で情熱的な新生活を送り、二人して老いていこう。老いるのは僕が先だ。最愛の人、僕には今すべてがある。君がいて、子供もいる。自立する資金も手に入った…」。ここで、もう一度、ブラウンロウに、夜のロンドンに戻る。「…愛を込めて。エドウィン」(3枚目の写真、矢印は手紙)〔この手紙は、オリバーにとって、父の愛を感じられる唯一の遺品として重要だが、モンクスがなぜこれを、フェイギンには “担保” として、ブラウンロウには “法的証拠” として渡したのかは分からない〕
  
  
  

原作の第53章に該当する部分。台詞は何もないので、原作を引用すると、「バンブル夫妻は公職を奪われ、次第次第に貧弱と不幸のどん底へと転落し、とうとうかつては偉そうな顔をしてふんぞり返っていた同じ救貧院のご厄介になるまでに至った」(1・2枚目の写真、矢印は横を取るバンブル)。バンブル夫妻は原作と同じだが、モンクスことエドワード・リーフォードは全く違う。原作では、「モンクスは相変わらずその偽の名前を名乗ったまま、遺産を貰って新大陸アメリカの奥地へ出かけて行ったが、そこで金をすぐ使い果たしてしまい、またもや昔のような悪の道に落ち込み、詐欺などの悪事を働いて長いこと監獄に放り込まれている間に、前からの持病が重くなって獄中で死んだ」。映画では、どこか南方の地に行き、現地の女性と結婚し、女性は赤ちゃんを身ごもっている(3枚目の写真、矢印は産前のおなか)。
  
  
  

映画の最後は、ローズとロズバーンの結婚式で終わる。ローズは 育ての親であるブラウンロウに連れられてバージンロードをロズバーンに向かって歩き、そのすぐ後ろをオリバーが付いて行く(1枚目の写真)。その時、一瞬、召使になったチャーリーの姿が映る。映画は、新郎新婦に挟まれたオリバーの笑顔で終わる(2枚目の写真)。しかし、これはどう見てもおかしい。原作のラスト近くの文章は、「ブラウンロウ氏は来る日も来る日も、知識の宝庫で養子の心を養い、天性が次第にあらわれ出て、望み通りの豊かな素質を発揮して行くその子に、ますます愛情を覚えつつ毎日を送って行った」。映画のタイトルが『オリバー・ツイスト』なのだから、ローズの幸せで終わるのではなく、ちゃんとオリバーの幸せで終わるべきだ。最後に、ラッセル・ベイカーの言葉を引用しよう〔これまで、第一部の冒頭しか紹介してこなかったが、第三部のラストなので〕。「ディケンズは二十六歳の時、『オリバー・ツイスト』を書きました。批評家達は、若いが故の弱点に容赦しませんでした。曰く、『お涙ちょうだい』だとか、『わざとらしい人物に、わざとらしい会話』。ディケンズは、まだ、作家として駆け出しでした。筋書きは混乱し、途方もないもので、詳しい説明は、最後の数ページに押し込まれ、モンクスの信じ難い話で明らかにされました。しかし、小説は百五十年生き残り、ディケンズのどの作品よりも、劇場、映画、テレビ、漫画に至るまで、数多く翻案され続けてきました。作品の原動力は、当時の英国社会の子供虐待への痛烈な批判にありました。根強い人気の源は、グレアム・グリーンによれば、児童文学の最高峰と位置付けられているためでしょう」(3枚目の写真)。
  
  
  

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