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Menneskedyret けものびと

デンマーク映画 (1995)

サイロン・ビョルン・メルビル(Cyron Bjørn Melville)が主演する、猟奇的な家族ドラマ。デンマーク映画にとっての定番、デンマーク映画批評家協会賞の作品賞と、デンマーク・アカデミー賞の作品賞他を受賞した名作… のはずだが、観た感じは迷作に近い。理由は、①人物設定で、母親の節度ない行動に説得力がない、②動物の死骸を煮て作った「飲み物」によって「獣」になったと思い込む主人公の設定があまりにも不自然でB級映画的、の2点による。IMDbの評点は、投票者僅か80人で6.1と寂しい限り。仮題の『けものびと』は、デンマーク語の直訳『獣人』に基づいている。この映画の正式な英語題名は『The Beast Within』。ところが、これと同じ題名のアメリカ映画が1982年に作られ、日本でのTV放映時の邦題は『戦慄! 呪われた夜』という典型的なB級ホラー映画。これに比べれば、ちゃんとしたドラマになっている。

10歳のフレデリクは、食用牛の解体工場で働く万年作業員の父と、自宅で細々とマッサージ業を営む母の間の1人息子。少し、授業に散漫なところがあるが、ごく普通の少年だ。父親の趣味が小動物の剥製作りなので動物の死骸には慣れていたり、町の教会の神父プラステンと親しいところは、普通の少年と少し変わっている。しかし、そんなフレデリクに転機が訪れる。ガールフレンドにしたいヘンリエトに誘われて、夜の森での秘儀に参加、彼女の手に握られた歯の数を言い当ててしまい、「けものびと」になる秘薬(動物や昆虫の死骸を煮たもの)を飲まされたのだ。その翌々日がフレデリクの誕生日。誕生日プレゼントは父の工場見学。作業場に一緒に入って行き、父が一頭の牛の皮を手早く剥ぐのを見て、思わず吐いてしまう。しかし、最後に、マイアミ産のアリゲーターの赤ちゃんの剥製をもらって機嫌が直る。その後に訪れた教会では、友達の神父からプレゼントをもらいトランシットも覗かせてもらう。しかし、一方では、フレデリクの学校の教師クラウゼと母との、「マッサージを口実にした浮気」が進行している。偶然、天井裏の隙間から浮気の現場を見たフレデリクは、大きく「メー」と山羊の鳴声を出して責める。学校でも授業中に「メー」と叫ぶが、教師は止められない。フレデリクは、「けものびと」の目を象徴する眼帯をかけ、母に浮気をしないよう誓わせる。そんな中、鎖が切れて落下した牛に押し潰され、フレデリクの目の前で父が死んでしまう。父の死を待っていたかのように、母は父が愛していた小動物の剥製をさっさとゴミ袋に入れて処分する。そして、フレデリクの悲しみが収まらないうちに、校長に昇格することが決まった教師を食事に招こうと言い出す。フレデリクは、母の変わり身の早さに抗議するが、校長に就任したその日に、家でキスを交わす有様。フレデリクは、校長がヘンリエトの「いなくなった父」だという秘密を知り、結婚を前提にしたような3人での夕食の席で、わざと「けもの」のように食べ、秘密を暴露して2人をなじり、信じようとしない母にツバを吐きかける。しかし、どんなに抵抗しても、母は結婚へと突き進む。そして、遂に結婚式。誓いの言葉まで式が進んだ時、顔を真っ赤に塗り「けものびと」と化したフレデリクは、鐘楼の鐘を連打して式を妨害する。そして、教会の外に出てきた母の目の前で、高い鐘楼から飛び降りる。

サイロン・ビョルン・メルビルは、これが映画初出演。撮影時の年齢は、映画の設定と同じ10歳だ。非常に複雑な役柄で、それも、悲劇の主人公なのだが、見ていて同情心が湧いてこない。恐らく、責めは脚本にあるのだろうが、サイロンがもう少し可愛くて、同情心を集めるような形で「けものびと」を演じていたら、雰囲気は違っていたかもしれない。


あらすじ

小学校で、終業のベルが鳴り、子供達が飛び出してくる。フレデリクが帰り支度をしていると(1枚目の写真)は、ヘンリエトが「今夜、来てね」と声をかけてくる。「『けものびと』の夜よ」。「うん、行くって」。「『死者の呪い』に誓って」。しかし、フレデリクが返事をする前に、教師が「フレデリクは残って」と割って入る。そして、フレデリクだけになると、「なぜ、授業を聞いてない?」と訊く。それに対し、フレデリクは「何て?」とわざと聞こえないフリをする(2枚目の写真)。「なぜ、授業を聞いてない、と訊いたんだ」。もっと とぼけた顔で、また「何て?」。「おちょくってるのか?」。叱ろうとした時に、インターホンで呼び出される。その隙にちゃっかり逃げ出すフレデリク(3枚目の写真)。トイレに逃げ込み、個室に入り、偽装のため靴を脱いで便器の前に並べ、天井から外に逃げる。「怖~いクラウゼ先生が来たぞ」と言ってトイレに入って来た教師は、個室の下の隙間から靴を見て、「時間はたっぷりあるぞ。今は2時だ。先生は8時まで空いている。それまでに、お互いよく知り合えるだろう」と意地悪げに言うが、当人はとっくに外に出ている。
  
  
  

フレデリクが向かった先は教会。玄関の上の半円形の窓の外側に神父がしがみ付いていて(1枚目の写真)、「フレデリク、わが子よ」と必死で声をかけてくる。「やあ、神父さん。そんな所で、何してるの?」(2枚目の写真)。「神に近付こうとしたんだが、ハシゴが落ちてしまってね」。「また、ドジったの?」。「ああ、そうだ。お粗末な神父だから」。「世界一の神父さんだよ」。フレデリクは神父が好きなのだ。「もしハシゴを掛けてくれたら、プレゼントをあげるよ」と言われ、地面に落ちているハシゴを持ち上げようとするが、重くて持ち上がらない。「これ、パパより重いや」。そこに、母の車が到着。母は、足早にクレデリクに寄ってくると、「フレデリク、行くわよ」。「何言ってるの? あれ見えないの?」。母は、初めて神父に気付き、「そんな所で 一体何してるの?」と訊く。「別に。フレデリクが来たから、飛び降りようとしてたんだ」。母は「じゃあ、ご自由に」と言って、さっさと息子を連れて行ってしまう。神父がいくら「マリア!」と叫んでも無視して、フレデリクを車に押し込むとさっさと去ってしまう。彼女は、神父を避けているのだ(理由は、最後に分かる)。
  
  

家に帰ったフレデリクは、母から、「神父の所には行くなと言ったでしょ」と叱られる(1枚目の写真)。「なぜ?」。「なぜでも」。「神父のことは 2度と聴きたくないの」。「なぜ?」。「聴きたくないって、言ったでしょ」。「はいはい」。「そんな言い方もダメ」。そこに、教師がオートバイでやって来る。教師を見て、母が、「クラウゼ」と敬称なしで呼んだので、2人は顔見知りだと分かる。「これを渡そうと、寄ったんだ」とトイレにあったフレデリクの靴を差し出す(2枚目の写真)。母が、感謝して、「じゃあ来週」と言うと、教師は背中がすごく痛いと打ち明け、マッサージをしてもらうことに(3枚目の写真)。これが、すべての始まり。母は、若々しい教師の体に一目惚れ。夫がいるのに浮気心がムラムラと…
  
  
  

その夜、父の帰りが遅い。フレデリクは「いつになったら、食べられるの?」と、待ちくたびれている(1枚目の写真)。「今日は、パパにとって大切な日なの」。「食べ始めちゃダメ? お腹空いたよ」。「待ってなさい」。「食事が終ったら、ヘンリエトと一緒にスペリングの練習していい?」。「いつから、そんなことしてるの?」。「行っちゃダメ?」。そこに、ようやく父が帰ってくる。大きな紙箱を抱えている。母:「どうだった?」。父:「カップ12個をゲットしたぞ」。しれは、解体工場らしく、底に牛の絵のある白いコーヒーカップだった。母:「で、昇進は?」。「それが… モーゲンセンの奴に…」。「で、あなたはカップだけ?」。母の失望は大きい。でも、父のことが好きなフレデリクは、「スプーンも12個あるよ」(2枚目の写真)。いい年になっても、夫はヒラの解体作業員のまま。妻としてはぜんぜん面白くない。父が、ローストビーフを切り分けながら(3枚目の写真)、「誕生日には、職場に連れてってやる」とフレデリクに言うと、母は、「どこにも行かせないわ」と拒否。「このウチじゃ、男が決めるんだ」。「宿題はやったの?」。当然、フレデリクはやってない。「じゃあ、汚い畜殺場で人生終えるのね」。これを聞いて、父は怒って出て行ってしまう。
  
  
  

夜、遅くなって、母に見つからないように、部屋の窓から屋根伝いに抜け出し、道路に飛び降りるフレデリク。そのまま、森に向かう。森の中では、もう6人の子供達が、大きな釜を取り巻いている。フレデリクが到着して員数が揃ったので、さっそくヘンリエトが口火を切る。「みんなルールは知ってるわね。『けものびと』は、私のパパを捜さないといけないの」。すると、残りの6人が、「『けものびと』は、君のパパを捜すんだ」と唱和する。後のシーンで、ヘンリエト自ら、父親は死んでいると言う。それなら「死人を捜す」とは、どういう意味か? 実際には、ヘンリエトはクラウゼの非公認の子供らしいので、捜すことに間違いはないのだが、この辺り脚本がトチっている。それに、そもそも、この変な儀式をヘンリエトがなぜ主導しているのか? ただの平凡な少女なのに。この不自然さが、この映画の一番の弱点。さて、ヘンリエトは、さらに続ける。「私、手の中に、1個から7個の歯を握ってるわ。数を当てた子が、聖なる釜から飲んで、『けものびと』に生まれ変わるの」。そして、「死者の復讐を誓え」と唱える。残りの6人が「死者の復讐を誓え」と唱和する。煮立った釜の湯の中に、ヘンリエトが、真っ先にカモメの死骸を入れる(1枚目の写真)、そして、他の子が順に、てんとう虫12匹、ハエ4匹、カブトムシ2匹、ネズミ、スズメを入れ、最後にフレデリクが父のコレクションからくすねてきたタツノオトシゴを入れる(2枚目の写真)。そして、子供達は、順番に数字を言う。7、3、5、2、6、そして、フレデリクは4。ヘンリエトは、「フレデリクよ」と言い、手を開くと、そこには歯が4個ある。フレデリクは意を決して、煮汁をカップですくい、一気に飲み干す(3枚目の写真)。オエっした顔で見る子供たち。ヘンリエトは、「聖なる釜が言ってるわ… すぐに『けものびと』に生まれ変わるって。そして、『けものびと』の目で見れば、誰も見えないものが見える。他の世界に入れるの。おめでとう」。全員で、「おめでとう」と言って、釜の周りを走って回る。
  
  
  

翌日、教会に行ったフレデリクは、誰もいないと思い、キリスト像に向かって、「僕は、『けものびと』だよ」と話しかける。「怖がらないで、イエス様。僕に話しかけてもいいよ。誰も聞こえないものが聞こえるんだから」(1枚目の写真)。「ねえ、イエス様。どうして、ヘンリエトにはパパがいないの?」。そして、父の工場へ向かう。受付にいるのは、昇進したモーゲンセン。昇進と言っても、モニターで工場内の様子を監視するだけの役なので、たいした職務ではない。父子は、白い作業服をはおり、白いキャップをかぶって作業場に入る(1枚目の写真)。解体前の牛が、天井からずらりとぶら下がっている。「壮観だろ?」。「臭うね」。「屁をこいてもバレんぞ」。「どこに埋葬するの?」。「そんなことせん。ソーセージにするんだ」。そして、1頭の牛をさばき始める。大きなナイフで、お尻から頭の先までスーッと切っていく。それを及び腰で見ているフレデリク(2枚目の写真)。
  
  
  

父が、その「物体」をフックに引っ掛け、吊り上げていくと、するりと皮が剥け、むき出しになった中味が床に落ちていく(1枚目の写真)。フレデリクは、顔を背けていたが、つい見てしまい、思わず床に屈んで吐く(2枚目の写真)。それを見た父が、心配して寄って行き、口の汚れをハンカチで取ってやり、「腋毛を腕で押さえるといい」とサジェスト。「そんなものないよ」。「見せてみろ」。10歳の子に腋毛などあるはずがない。「すぐに生えてくるさ。女の子にもてるぞ。あご髭が似合うかもな。パパみたいな力こぶもあった方がいい」。「猿みたい」。フレデリクの機嫌は直らない。そこで、父は最後の手段。「目を閉じて。ズルするなよ」と言い、いきなりマイアミ産のアリゲーターの赤ちゃんの剥製を取り出す。工場見学ではなく、これが、誕生日のプレゼントだった。大喜びのフレデリク(3枚目の写真)。それから、フレデリクは別のことを訊いてみる。「へンリエトにパパがいないって、ホント?」。「どんな子にもパパはいる」。「じゃあ、なぜ いないの?」。「いるさ。ただ、一緒にいないだけだ。ひょっとしたら、マイアミの沼地にいるかもな」。父に抱き付くフレデリク。2人は本当に仲がいい
  
  
  

教会で、殊勝にも 自主的に電気掃除機をかけるフレデリク。すると、キリスト像から鼓動のような音が聞こえてくる。フレデリクは、まさかと思いつつ像に耳を付ける(1枚目の写真)。実は、仲良しの神父が、こっそりマイクを指でトントンと軽く叩き、鼓動のような音を出していたのだ。そこに、さらに、「誕生日おめでとう」という声が響きわたる。天からの声かと驚いたフレデリクだったが、説教檀にいる神父を見つけて、「何だ、神父さんか」と笑う(2枚目の写真)。「君にちょっとしたプレゼントを買っておいた」。しかし、フレデリクが何をもらったかは分からない。
  
  

次のシーンで、フレデリクはニコニコしながら自転車をこいでいる。向かっている先は、教会から少し離れた池の畔。そこに、神父がトランシットを立てて待っている。「ここにおいで」。「それ何?」。「教会を測量する器械だ」。「まさか」(1枚目の写真)。「本当だよ。見てごらん」。フレデリクが覗くと、教会が上下逆様に見える。神父は、「そのまま見てるんだ」と言って、トランシットの前に言って逆立ちする。「すごく変だろ?」(2枚目の写真)。確かに非現実的で面白い。ユニークな発想をする神父だ。嬉しそうなフレデリクの前で何度も逆立ちして見せる。フレデリクは、神父が逆立ちしている最中に駆け寄って、くすぐる。笑いながら 太い幹に寄りかかった神父に、フレデリクは、さっき父から聞いた話を持ち出す。「神父さんは、腋毛 いっぱいあるの?」。「腋毛? 神父にはないよ。神の御意志だ」。「パパが、女の子にもてるって」。「腋毛は、確かに私の長所じゃないな」。「だから、結婚してないんだ」。「そうじゃない。最近は、神父は女性にもてないんだ。退屈だと思われてる」。フレデリクは、「オーレとヘンリエトは、結婚してるんだ」と恋の悩みを打ち明ける。もちろん、10歳の子供同士なので本当に結婚しているのではなく、付き合っているだけだ。神父:「愛とは 残酷で気まぐれなものだ」〔神父自身の体験〕。「離婚できないの?」。「君は、私みたいだな、フレデリク。2人とも、血の中に憧れを持ち、胃に ぽっかりと大きな穴が開いている」。「神様に祈っちゃダメなの?」。「困ったことは、神は、こうしたことに慣れておられない」。そして、会話はさらに抽象的に。「すべてのものは、拡散してしまうんだ」。「拡散って?」(3枚目の写真)。「それは、指から抜けていくってこと」〔フレデリクの母を失ったことを指している→だから、母は神父を避けている〕。「神父になるのは、臆病者だけさ」〔それが、母を失った理由〕。
  
  
  

さて、母と教師の仲は、どんどんとエスカレート。その原因は、夫の昇進の道が断たれ、夫の存在そのものに嫌気がさしてきたからかもしれない。フレデリクが天井裏から覗いている真下で、母が教師の上にまたがって 熱いキスを交わす。それを見て頭に来たフレデリクは、大きな声で、「メー」と山羊の鳴声をしてみせる。それを聞いて慌ててキスをやめ、「フレデリク、あなたなの?」と天井を見やる母。覗くのをやめたフレデリク。周りに置いてある父の剥製動物をじっと見て、「僕は『けものびと』なのかな?」と自問する(2枚目の写真)。
  
  

翌日の学校の授業(1枚目の写真)。フレデリクは、授業が始まっているのに、悠然と教室に入って行くと、ヘンリエトの隣の席に座り、おもむろに、大声で「メー」と叫ぶ(2枚目の写真)。びっくりした後で、笑い始める生徒たち。しかし、教師は、フレデリックに何を言われるか分からないので、叱るどころか、ひたすら黙々と授業を続ける。授業が終わり、自転車に乗りながら、「僕は、『けものびと』だぞ!」と自信を持って叫ぶフレデリク。フレデリクは、その後で、ヘンリエトと一緒に 彼女の母の美容院を訪れる。「まだ、オーレと結婚してるの?」。「ううん、2日前に別れたわ。今は、あなたが、私の素敵な『けものびと』君よ」(3枚目の写真)。そう言うと、フレデリクの頭に黒髪のカツラを被せる。「何してるの?」。「髪のセットよ」「短くしましょうか お客様」とふざける。「ダメ。長目が好きなんだ」。ヘンリエトが、フレデリクの頭にパーマ用のドライヤーを被せて遊んでいると、そこに母が現れ、「美容室で遊んじゃダメでしょ」「お客様に使うのよ、遊び道具じゃないの」と叱り、さらに「フレデリクは、情緒不安定な子なの。分かった?」と付き合うことも禁止する。そして、フレデリクに面と向かって、「ママの所に帰りなさい。男と会ったら見境がなく、相手が教師でも神父でも 同じなんだから」と言い放つ。「ママだって、先生がセクシーだって言ってたじゃない」とヘンリエトが反論。しかし、それを無視して、「フレデリク、あなたのママは尻軽女で、あなたは多分 私生子よ」。こんなひどいことを子供に対して言うような女は最低だ。こんな発言の背景は、後のシーンで出てくるが、ヘンリエトは、この母と教師の間に生まれた隠し子で、フレデリクは神父の子かも知れないという複雑な事情がある。この母としては、教師がフレデリクの母とぞっこんなので、この一家自体が許せないのだ。
  
  
  

これだけ言われれば、誰だって面白くない。フレデリクは、早く「けものびと」になりたくて、誰も見えないものが見える目を持ちたいと、眼帯を作って目にはめてみる(1枚目の写真)。それを見ていたヘンリエトが、背後から、「誰も見えないもの、ホントに見える? そうなら、『けものびと』君、私のパパは誰?」と訊く。フレデリクは、何も答えない。学校の外で、フレデリクがオーレに向かって、「腋毛が生えたら、ヘンリエトと結婚するんだ」と話かける。「できるもんか」。「なぜ?」。「僕が、もう結婚してるだろ」。「『けものびと』は、何でもできるんだ」。「でも、腋毛が生えてないんだろ」。「僕は、正しいんだ」。そのまま家に帰ったフレデリクは、母の浮気を止めようと、眼帯をはめたまま母に迫る。「バイク乗りは2度と家に入れない」。「いいわ」。「『死者の呪い』に誓うんだ」。母が片手で誓う。「両手で」(2枚目の写真)。母は両手でやり直す。「覚えといて。ウチでは、『けものびと』が決めるんだから」。
  
  

フレデリクが覗いている下で、母と祖母が話している。祖母:「なぜ、天井を見てるの?」。「フレデリクが覗いてるの」。「なぜ、あなたは正直になれないの? まだ 神父に夢中なんでしょ?」。「何ですって?」。「彼は、まだ あなたを愛してるわよ」。「知ってるわ」。それを聞いて驚いたフレデリクは、夢中で父の工場に向かう。そして、解体室に直行し、作業中の父の体を何度も揺さぶる。「おい、やめろ、どうした?」。フレデリクは単刀直入に訊く。「パパ? ママは神父さんのガールフレンドだったの?」(1枚目の写真)。笑ってごまかす父。「どうだったの?」。「お前のママは、パパと会う前 いろんな男と付き合ってたが、神父のことは知らんな」。「ホントに?」。「ああ」。「ホントにホント?」。「そうだ」。もう邪魔するなと外に追い出されたフレデリク。モーゲンセンと一緒に、モニターで父の姿を見ている。「僕のパパは、あんたより重要人物さ」。「お前のパパの方が 安給料だぞ」。その時、モニターを見ていたフレデリクが、「見て、牛が揺れてる」と指摘する。その時、警報ランプが点き、ブザーが鳴り出す。慌てるモーゲンセン。しかし、ブザーは、解体室で働いてる父には聞こえないので、そのまま作業を続けている。モーゲンセンが何の警告も発しないうちに、父の真上にぶら下がっている牛のチェーンが外れ、大きな牛が父の上に落ちくる。モニターを見ていて、「パパ!」と絶叫するフレデリク(2枚目の写真)。しかし、牛はそのまま父を直撃し、父は下敷きになって床に倒れてしまう(3枚目の写真)。解体室に駆けつけ、父に向かって「パパ!」と叫ぶが返事はない。
  
  
  

場面は、いきなり父の葬儀のシーン。教会での参列者は、母子を除くと、祖母とあと1人だけ。工場の関係者が1人もいないのは不可解だ。工場の施設の不具合による事故死なので、非は、全面的に工場にある。工場長、モーゲンセン、同僚たちがいるべきではないか? 神父の祈祷が始まってから、フレデリクは母を非難の目で睨み(1枚目の写真)、座っているイスをカタカタと動かし、怒りを行動で露にする。神父の「あなたは、塵だから、塵に帰る」という定番の祈りの後、棺の前に立った母子。珍しく、母が声を上げて泣いている(2枚目の写真)。その夜、自転車で森に行ったフレデリクは、釜に向かって、「聖なる釜よ、パパが死んじゃった」と泣きながら言い(3枚目の写真)、自転車で釜の周りを何度も走る。「けものびと」に早くなりたいという、意思表示なのだろう。
  
  
  

葬儀が済んで間もないのに、屋根裏では、剥製の動物や鳥を、母が次々と黒いゴミ袋に放り込んでいる。それを、非難するような目でじっと見ているフレデリク(1枚目の写真)。葬儀の場と同様、イスをカタカタさせて怒りを表す。「ここに 全部 置いておけないでしょ?」。カタカタは続く。「聞きなさい。ここをもっと楽しい場所に変えようと思うの。あなただって、自分の部屋が持てるのよ」。そう言い置くと、母は、ゴミ袋を引きずって階段を降りて行く。フラッシュ・バックのように、父の死に際がフレデリクの頭を過ぎる。そんな悲しい家に、フレデリクのことを心配した神父が訪ねてくる。神父は、「君は 一番の友達だ。他の人間はみんなバカだ。無理に理解しようとするな」と慰める(2枚目の写真)。その数日後の夕食時、母が「新しい校長先生に誰がなるか知ってる?」とフレデリクに話しかける。「ううん。誰?」。「お招きして、シャンパンでお祝いしようと思うの」。「誰なの、ママ?」。「クラウゼ先生よ」。「バイク乗りは2度と家に入れない、って約束したじゃない」。「シャンパンだけよ」(3枚目の写真)。それが嘘だと直感したフレデリクは、食べ物が喉に詰まったフリをして苦しみ、「死んじゃうよ」と言って床に倒れるが、母はぜんぜん動じない。最後に死んだフリまでするが、効果はゼロ。
  
  
  

学校では、全校生徒を校舎前に集め、バルコニーに立ったクラウゼ新校長が、生徒達の拍手に答えて「ありがとう」と言っている。それを、白けた目で見ているフレデリク(1枚目の写真)。「君たちの信頼に応えるべく全力を尽くすつもりだ」云々、と校長が話している間(2枚目の写真)、ヘンリエトはフレデリクに、「悲しいでしょ?」と訊く。「ううん」。「お父さんのこと、ホントに残念ね」と言って、慰めるように首に手をかける。「パパは、ホントは死んでないんだ」。「じゃあ、何なの?」。「他のみんなみたいに死んだわけじゃないんだ」。隣にいたオーレが「嘘だ。君のパパは死んだんだ」と割り込む。そして、「こんな風に死んだのさ」と言って、足で踏み潰した昆虫を見せる。これを見て激怒したフレデリクは、集会中もお構いなくオーレとケンカを始め(3枚目の写真)、最後はオーレの首に噛み付いてやっつける。「けものびと」らしい攻撃法だ。
  
  
  

家に帰ると、門の前に新校長のオートバイが置いてある。バイクめがけてツバをはいてから、庭に入って中の様子を伺う。すると、案の上、母と校長は抱き合ってキスをしていた。猛然と腹を立てたフレデリクは、家の中に入って行くと、母が、「こっちへ来て、新しい校長先生にお祝いの言葉を言いなさい」と言うが、フレデリクは、つかつかと寄って行くと、校長のすねを思い切り蹴っ飛ばす。母:「おやめ!」。しかし、校長は、痛さをこらえながら「構わないよ」と下手に出る。母が、「蹴るなんてもっての他よ」と諌めると、フレデリクはベロを出して拒絶。校長が、「放っておきなさい」と優しいところをみせると、2度目の蹴りを入れる(1枚目の写真)。母:「今すぐやめなさい!」。「この尻軽女!」(2枚目の写真)。母:「誰が、言ったの? 神父?」。フレデリクは再度「尻軽女!」とくり返すと、部屋を飛び出して行った。校長は本当に痛そうだ。
  
  

学校で、ヘンリエトの母が校長に会いに行ったのを見て、フレデリクは、何事かと盗み見をする。ヘンリエトの母:「やめなさいよ!」。校長:「やめないぞ」。「スキャダルをばらまいてやる!」。ヘンリエトの母は、マリアのことをなじった後、「私は、あんたの娘と暮らしてるのよ。あんたの娘とね!」と叫ぶ。校長は母の頬をひっぱたいて「嘘だ」と言うが、「本当よ!」。これに驚いたフレデリクは、次の体育の時間中に、その話をヘンリエトに伝える。信じようとしないヘンリエト。「パパなんかじゃないわ。あんた、変なんじゃない?」。「この耳で聞いたんだ」。「パパは死んだのよ」。森の儀式で、「『けものびと』は、私のパパを捜さないといけない」と言っていたくせに、その「けものびと」が聞き出した話を 頭から信じないのは、論理的におかしい。その夜、フレデリクの家では、校長を交えた3人で夕食をとっている。校長は母の料理の腕にご満悦の様子。仲の良い2人を見たフレデリクは、腹いせに、料理をわざと手づかみで食べる。そして、最後には、皿に直接口をつけて、動物のように食べる(1枚目の写真)。「やめなさい。へンリエトのママみたいに、精神病院行きになるわよ」と注意する〔へンリエトの母は、かつて精神病院に入っていたのか、さっきの顛末で精神病院に入れられたのか?〕。フレデリクは、母に向かって、「ムカつく! くたばれ! バイク乗りのダニまみれの髪をして!」と悪態をつく。その時、校長が、フレデリクの機嫌を取るために買って来た高価なプレゼントを見せる。おもちゃの電動カーだ。「さあ、どうだい言うかな?」。母:「すごいじゃない?」。「乗ってみないか?」。しかし、フレデリクは高価なおもちゃは無視し、「クラウゼは、ヘンリエトのパパだ」と爆弾発言。「バカなこと言うんじゃないの」という母に対し、フレデリクは口の中でツバを集め、母の顔目がけてツバを吐く(2枚目の写真)。「おやめ! この厄介者」。「『けものびと』のツバだ。絶対外さない」。そう言って、もう1度ツバを吐きかけて、席を立つ。事態を収拾に来た校長に向かって、フレデリクは獣のように 唸る。「一体どうしたんだ? ママにあんなことするなんて」。フレデリクは、もっと怖い顔で唸り声をあげる(3枚目の写真)。そして、「お前の汚らわしい卑猥な体に、死者の呪いがかかるぞ」と宣言する。かっとなって、フレデリクの頬を叩く校長。そりゃそうだろう。この男にも面子はある。その後、フレデリクは、土砂降りの外に抜け出すと、あちこちで「クラウゼは、ヘンリエトのパパだ!」と大声で叫ぶ。噂は町中に広まったことだろう。
  
  
  

別の夜。フレデリクが屋根裏から覗いていると、母と校長が熱いフレンチ・キスを交わした後で、母が挑戦的に、覗いているフレデリクを直視する。その時、校長がポケットから紙束を取り出す。2人の結婚式の招待状のサンプルだ。「すごいわ、クラウゼ! すぐにでも結婚しましょ」。そして、いい気味とばかり、天井裏のフレデリクに「してやったり」とニヤリと笑いかける(1枚目の写真)。これはもう、悪女以外の何者でもない。この恐ろしいニュースを聞き、天井裏から急いで外に出るフレデリク。彼は、オートバイをパンクさせ、キーを投げ捨てる。そして、家に向かって「バイク乗りの極悪人!!」と何度も絶叫する。校長が、父の古いバイクで追ってくるのを、自転車で必死に走り、教会に逃げ込む。出てきた神父に「見なかったことにして」と頼み、奥に駆け込む。神父は、校長に嘘をついてフレデリクを匿ってやる。フレデリクは、神父に「2人を結婚させないで」と頼むのだが… 翌朝、教会にやって来た母が神父と交わした会話。それは、隠れて聞いているフレデリクにとって衝撃的な内容だった。「私が家に着いた時、君はもうフレデリクを出産していた。そして、オットーと結婚していた」「私の子だったかもしれない」。母:「分かるはずないでしょ。夜は、オットーとセックスし、昼間はあなたと愛し合ってた。本当に分からないの」(2枚目の写真)。フレデリクは、一体誰の子なんだろう? 母も神父も金髪ではないので、亡くなった父の遺伝のような気もするが… 神父が今までフレデリクに親身だったのは、自分の子かもしれないと思っていたからだ。これだけは確か。2人が去った後、聖水盤の前に立ち尽くすフレデリク。そして、水盤に向かって、「僕はもう、フレデリクじゃない。これから『けものびと』になる」と宣言する。
  
  
  

翌朝、教会から出てきたフレデリク。教会の前で、地面に横たわって死んでいるハリネズミを発見する。そのまま森へ行き、釜の前で、ハリネズミの血で顔に「死者の呪い」の印を付ける(1枚目の写真)。そして、死骸を持ちながら釜の周りを叫びながら回る。これで、フレデリクは正真正銘の「けものびと」だ。そして、母と校長の結婚式の日が来る。町中の人が全員集まったような盛大な結婚式だ。新婦である母が入場してくるのを、こっそり2階から見ているフレデリク。血かどうかは分からないが、顔中真っ赤に染めている。日本流に言えば赤鬼といったところか。賛美歌738番が終わると、神父は祭壇の前に新郎と新婦を立たせ、誓いの式を行う(2枚目の写真)。新郎が神父の質問した誓いの問いに「はい」と言った後、神父が新婦に「マリア・アンデルセン、あなたは、フランク・クラウゼを夫にしますか?」と訊く。しかし、「はい」の返事がなかなか出て来ない。その時、いきなり鐘楼の鐘がガランガランと鳴り始め、結婚式どころではなくなる。フレデリクが、式を妨害するため、力任せに鳴らしているのだ(3枚目の写真)。
  
  
  

何事かと、真っ先に外に出て行ったのは、新郎新婦。母は、心配して何度も名前を呼ぶ。校長は心配している様子などなく、「バカげてる」と言っただけ。鐘を打ち終えたフレデリクは、鐘を背にして立ち、手を広げる(1枚目の写真)。母は「飛び降りちゃだめ! ママの言うことを聞いて!」と叫ぶが、校長は「マリア、結婚式を妨害するなんて許せんな」、と心配する様子ゼロ。これで、母も ようやく校長の本性が分かる。フレデリクは、「僕は『けものびと』だ!」と叫ぶ。校長は、「私の上に飛び降りる気だ」と急に心配になる。その瞬間、フレデリクは飛び降りた(2枚目の写真)。思わず手で顔を覆う校長。フレデリクは、その校長にまともにぶつかった。結果として、2人とも舗石の上に倒れたまま身動き一つしない(3枚目の写真)。
  
  
  

神父はフレデリクを抱き上げると、母と一緒に車に乗り込む(1枚目の写真)。ドアが閉まった瞬間、フレデリクが声を出したので、意識があることが分かる。「フレデリク」と何度も声をかける母。5度目でようやく目が開く。神父がウィンクすると、フレデリクも神父に微笑みかける(2枚目の写真)。フレデリクは、そのまま神父にもたれるように抱かれ、母は車を出す。新婚旅行に出かけるつもりだったので、車の後ろには空き缶がいっぱい付いている。2人はどこへ向かうのだろう? 当然、病院だと思うのだが、その先は、結婚するのだろうか? あれだけ高いところから飛び降りて死ななかったということは、校長が衝撃を吸収したお陰なので、恐らく校長は死んだのであろう。「けものびと」が、結局どうなるのかは分からない。そこのところが、何度も言うが、この映画の最大の欠点だ。
  
  

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