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Povodyr 導き手

ウクライナ映画 (2014)

ウクライナ系アメリカ人のアントン・スヴィアトラスラフ・グリーン(Anton Sviatoslav Greene)が、盲目のコブザール役のStanislav Boklanと共演する非常に厳しい歴史ドラマ。映画の舞台は1932から34年。ウクライナは1921年にソビエトの支配下に入り、1923年からはウクライナの言語や文化を尊重する政策(ウクライナ化)が始まった。しかし、1927年にはその反動が始まり、1929–30年には多くの知識人・文化人が処刑された(いわゆる 「処刑されたルネサンスРозстріляне відродження」)。さらに、1932-33年には農村に対する極端な政策によるホロドモール〔Голодомо́р〕(「餓死によって殺せ〔морити голодом〕」 に由来する言葉)で、推計700~1000万人が「根絶」された。ナチスによるホロコーストの犠牲者は推定600万人なので、これを上回る「人道に対する罪」(国連により認定)である〔ソ連は、かつてこうした史上最悪の “罪” を犯しておきながら、反省の姿勢を全く示していないどころか、2014年にはクリミア州の独立を一方的に宣言して軍事的に奪い取り、2022年2月21日にはドネツク州とルガンスク州の独立を承認している。信じがたい非人道主義国家だ〕。映画の背景には、こうした ウクライナ史上最悪の社会状況がある。映画の発端は、当時の首都ハルキウ(Харків)で、11歳のピーターの父が帰国に先立ち モスクワ行きの旅行をプレゼントされる場面(父は、ニューヨークの技術者だったが、大恐慌で職を失い、ウクライナでトラクター製造の指導をしていた)。そのパーティの場で、ウクライナの共産党の幹部だが民族主義者でもあるシクニクから、モスクワの英国人記者に1冊の本を渡して欲しいと頼まれる。中には、スターリンが行おうとしていた非道な指示文が隠されていた。その情報をつかんだ秘密警察は、モスクワ行きの客車に置かれた父のトランクから本を奪おうとするが、父は本を息子ピーターの鞄に入れていた。父が刺されたのを見てとっさに逃げたピーターは、貨物列車の貨車に乗っていたコブザール(歴史的なバラードを歌う盲目の音楽家)イワンに拾われ、「目」の役割をする「導き手」となる。そして、ピーターを見つけようと躍起になっている秘密警察の捜査から逃げる。イワンは、元ウクライナ人民共和国軍の大佐なので盲目ながら杖代わりの棒を使った格闘技の名手で、ピーターに自衛のため、その極意を教える。その意味ではイワンはピーターのメンターであり「導き手」である。こうして、2人はお互いを助け合いながら、さすらい人として旅を続けるが、ウクライナ文化の担い手であるコブザール抹殺の日は刻々と近づいていた。映画は、史実を踏まえて作られていて、アメリカ人の技師やその息子も本当にいた人たちだと書かれている。ただし、息子がコブザールの導き手になる部分は創作である。この映画は、ウクライナの暗い過去を初めて映画化したという点で、ウクライナでは非常に高く評価された。IMDb8.2という高評価にも、その影響があるのかもしれない。『The White King(白のキング/ユートピアが生み出した地獄)』(2017)では、専制体制下での非人道的な生活が描かれていたし、『シークレット・オブ・モンスター』(2015)では独裁者の一端に触れていたが、スターリンという独裁者によって作り出された全体主義ほど怖いものはないことをひしひしと感じさせる力強い映画だ。

1932年、大恐慌で職を失ったニューヨーク在住の父は、一人息子のピーターを連れて、ウクライナの首都ハルキウでトラクター製造の指導にあたっていた。仕事が終わり、父子は、帰国前にモスクワ(プロレタリアートの世界首都)行きの旅行がプレゼントされる。当時は、それが最高の贈り物だった。モスクワ行きという容易には実現しない機会を捉えたのは、かねて、ソビエト流のウクライナ支配に危機感を抱いていた党幹部のシクニク。スターリンの「餓死によって殺せ」計画を記した秘密文書を 当時モスクワにいたイギリス人記者に渡そうと、父のモスクワ行きを利用する。文書を隠した本を託された父。しかし、ウクライナの秘密警察はシクニクの計画を察知し、父から本を奪おうとする。しかし、工作員がトランクをこじ開けようとしているのを制止した父は刺殺され、ピーターは父の最後の言葉を受けて逃げ出す。しかし、偶然のことから、ピーターは、別の貨物列車に乗っていた盲目の歌い手コブザールのイワンに、それまで導き手を務めていた少年と間違われて、引っ張り上げられる。ピーターは、父から文書の入った本を鞄に入れるように頼まれていたため、秘密警察は全力をあげてピーターを追い始める。一方、ピーターは、イワンの導き手として流浪の旅に出る。頭髪にシラミがわいたことから、髪の毛を短くして粗末な服を着たピーターは、口がきけないフリをすることで、誰からも注目を浴びない唯の導き手の少年となる。イワンは、ピーターに杖を使って戦う方法を教え、ピーターにとってのメンター(導き手)となる。しかし、秘密警察の調査は徐々に絞り込まれ、ピーターがコブザールの導き手になっていることが分かってしまう。そして訪れる破局。ある集団農場に行った際、イワンの正体が、勘の鋭い秘密警察によって見つかってしまう。一方、ピーターは、それまでイワンが、父は無事だと言われていたのが嘘だったことを知ってしまう。ピーターはイワンから逃げて単独で流浪の旅を続け、最後はハルキウで宿無し少年のボスとなる。イワンは逮捕され、他のコブザールとともに投獄・拷問される。そして、映画の最後、逮捕された多くのコブザールと共に処刑地に送られるイワン。彼の乗せられた貨車の下の小さな箱には、何とか救おうと、ピーターが隠れて乗っていた…

アントン・スヴィアトラスラフ・グリーンは、出演時11歳。映画初出演。2014年の公開映画だが、2012年の9月までに、ピーター役の出演場面以外の撮影は完了したものの、肝心のピーター役は未定だったと書かれている。監督は2年前に送られてきていた9歳のアントンのビデオを見直して配役を急きょ決め、即座にウクライナに呼び、3ヶ月(9-12月)で撮影を済ませた(確かに、屋外シーンは秋と冬だ)。


あらすじ

1932年、ウクライナ社会主義ソビエト共和国の首都ハルキウ〔ウクライナ語発音〕で華やかなパーティが行われていた。最初は、会場を暗くしてニュース映画が流される。大恐慌に苦しむ米英仏で如何に人民が大変な思いをしているか、それに対してソ連邦では労働者と農民が一体となって如何に国家造りに邁進しているかを謳った露骨な宣伝映画だ。そこに、大人になったピーターの独白が流れる。「私の父、アメリカ人マイケル・シャムロックは、アメリカのトラクターの製造法を指導していた。トラクターは、インターナショナルと呼ばれた。この言葉は人気があり、私が通っていた学校も第3インターナショナルという名称だった」。PR映画の最後は、シャムロックのトラクターが如何に歓迎されているかを讃えるもので、上映が終わると全員が立ち上がってシャムロックに拍手を送る。司会者が、「祝賀会にお越しの皆さん、次は、アメリカ人の共産主義者、同志マイケル・シャムロックの息子、5年生のピーター・シャムロックが、我々の明るい未来を詠った詩を朗読します」と紹介する。舞台に立ったピーターは、タラス・シェフチェンコの詩を朗読する。「サクランボの木が小屋を取り囲み、コガネムシは果樹園の上を飛ぶ…」(1枚目の写真)。朗読の最中に、画面は党幹部の部屋(?)にいるミコラ・シクニクに変わり、ナレーションが流れる。「ウクライナの一部地域で起きた『パンの要求』という恥ずべき失敗を受け、ウクライナ社会主義共和国のソビエト人民委員会は宣言する。『破壊工作と断固戦い、如何なる企ても排除せよ。そして、すべての備蓄食料を撤去せよ』」画面は再び華やかな食事の会場に。司会が、「我が国初のトラクターの組み立てに対する積極的な関与に感謝し、アメリカ人の同志マイケル・シャムロックに、プロレタリアートの世界首都であるモスクワへの旅行を報奨として与えます」と述べて、旅行券のようなものを渡す。そして、「虐げられたアメリカのニグロ労働者の音楽」と銘してジャズが演奏され、それに合わせてダンスが始まる。その際、シャムロックの「お守り役」のウラジミル・サカロフスキ(実は秘密警察)が、この場のもう一人の主役であるハルキウ劇場のスター女優オルハ・レヴィチカに言い寄り、断られるシーンがある(オルハは、シャムロックが好きだとはっきりと言う)。次は、再びシクニクの部屋。ナレーション:「わが親愛なる友ガレス・ジョーンズ〔実在の新聞記者〕。私は、貴君が捜していた文書を送ることにした。それを貴君の新聞で公表すれば、我国の人民の殺害と国家の破壊を止められるであろう。私は、共産主義者ではあるが、その前にウクライナ人だ。ミコラ・シクニク」。パーティ会場では、オルハが舞台で歌い始める。曲は、ビリー・ホリデイの『You're My Thrill (あなたは私のスリル)』。シャムロックも、オルハとの結婚がほぼ決まっているので、うっとりと聞き惚れている。そこに、フラッシュバックの形で2度登場したシクニクが現れ、シャムロックに近寄る。「同志シャムロック。あなたはモスクワに行くのですね?」と話しかける。「ええ、行きますよ」。「では、英国人記者のガレス・ジョーンズに、この本を渡してもらえませんか? 私からの ささやかな贈り物です」(2枚目の写真、黄色の矢印は本、赤い矢印は舞台のオルハ)。父は、本を受け取ってポケットに入れる。それを、ウラジミルが見ている。この男は、父のサポート役を装っているが、実は秘密警察の一員なのだ。シクニクは、父に、「これは非常に重要なことです」と話す。「ええ、同志、分かりました」。ここだけは、父もシクニクの顔を見ていたが、「彼は、駅であなたを待っています」。「OK」。「私は、あなたを頼りにしています、同志シャムロック」。「ありがとう」。しかし、父はオルハしか見ていない。父にとっては、これは想定外の「どうでもいい雑用」なのだ。この本に、ソビエトにとって、最重要の機密事項が隠されていることなど、知るよしもない。オルハの歌に聴き入っているのは、父だけでなく、ピーターもそうだった(3枚目の写真)。彼は、これまでオルハと親しくしてきたし、未来の母とも思っている。そして、画面は三度シクニクの部屋へ。しかし、今までは「過去」だったが、今度は、パーティの直後。彼は、遺書のようなものを書き終わると、拳銃で自殺する。

パーティ会場の外で、記念写真を撮影。総勢12人。中心には、シャムロックと息子のピーター、それに寄り添うようにオルハがいる。オルハの横にウラジミルがいるので、シャムロックと近しいことが分かる。撮影者が、英語で、「さよならソビエト。世界革命の勝利の後で、また戻って来よう」と言うので、シャムロックは報奨のモスクワ旅行の後、アメリカに戻ることが分かる。その後、3人だけになると、オルハは、「マイケル、ピーター、駅には行けないの。劇場でリハーサルがあるから。あなたたち幸運ね、モスクワを見られるのよ!」と英語で話しかけると、2人にキスする。そして、「さようなら」(1枚目の写真)。3人の左に映っているのは父子を駅まで送る車で、運転するのはウラジミル。プラットホームで、シャムロックが切符を車掌に見せ、乗り込もうとすると、ウラジミルが「まだ時間はある」と引き止める〔会話は英語〕。荷物係2人がシャムロックのトランクを、個室に運び入れている。この2人はウラジミルの手下で、トランクの中にあるはずの「シクニクから預かった本」を盗もうとしていた。だから、その間、ウラジミルがシャムロックを引き止めていたのだが、ピーターが客車に乗ってしまう。手下は、なかなかトランクを開けられない。その様子をピーターが目撃する(2枚目の写真、矢印)。ピーターは、客車の窓から、「パパ、泥棒だよ、早く来て」と呼ぶ(3枚目の写真)。これは、ウラジミルには想定外だった。

父は、ウラジミルとの立ち話を遮り、「今、行く」と息子に呼びかけ、客車に乗り込む。そして、個室を覗き、2人がいるのを見て、「おい、何してる」と質す〔英語で〕。父は、手下の一人にナイフで刺され、その場にくずおれる(1枚目の写真、赤い矢印はナイフ、黄色の矢印はピーター)。父は、「ピーター、逃げろ!」と叫ぶ(2枚目の写真)。それを聞いたピーターは、客車から飛び降り、走って逃げる。ウラジミルは、駅員に証明書を見せ、「子供を捕まえろ」と命じる。プラットホームは人でごった返しているので、すぐにピーターの姿は見えなくなる。しばらくして、プラットホームの反対側に停車していた貨物列車が動き始める。そして、開いた貨車の扉から手が1本伸び、「アンドリー!」と呼ぶ。「走れ!」。アンドリーと思われる少年が後方から走ってきて手に捕まろうとする(3枚目の写真、赤の矢印)。この写真で、貨車の前方(左側)に映っている少年(黄色の矢印)がピーターだ。手を出して呼んでいるのは、盲目のコブザールのイワン。アンドリーは、これまでイワンの導き手だった。彼がいないとイワンはどこにも行けない。恐らく、首都の駅で停車している間に、アンドリーに買い物にでも行かせたのだろう。しかし、アンドリーはつまづくか、ピーターとぶつかるかして、イワンの手がつかんだのはアンドリーではなくピーターだった。ピーターは、そのまま貨車に引っ張り上げられる(4枚目の写真)。ピーターが中に入ると扉が素早く閉まる。だから、ピーターが貨車に乗ったことは、秘密警察には知られなかった。

いきなり真っ暗な貨車に引き上げられたピーターは、途中で貨車にすねをぶつけ、恐怖と苦痛で怯えている。「僕じゃない!」。目の見えないイワンもとまどっている。「どうした、何があった? なぜ泣いてる? 君は誰だ?」。一方、ウラジミルは、客車に乗り込むと倒れているシャムロックの脈を確認する。死亡していた。手下に、「あったか?」とロシア語で訊く。この映画は原則ウクライナ語なので、ロシア語の場合は赤字で区別する。秘密警察と、その取り巻きはウクライナ人でもロシア語で話している。「ありません」。場面は、秘密警察の本部らしきところに飛ぶ。ウラジミルが、ボスから叱責を受けている。「もし、文書が表沙汰になったら、我々は終わりだ。貴様の鼻で土を掘り返してでも、アメリカの小僧を見つけ出せ〔それにしても、どうして文書のことがバレたのだろうか?〕。「命令はすでに下してあります。あらゆる場所で捜査中です」。ボスが、「タバコはあるか?」と訊くと、ウラジミルは「はい」と言って、うやうやしくタバコを差し出す。いかにも卑屈な態度だ。「旧体制の名残りの『イラ』〔タバコの銘柄〕だな」。ウラジミルは、バツが悪そうにマッチを擦って火をつける。「アメリカ人の死体はどうしましょう?」。ボスは、タイピストに発表内容を打たせる。「同志マイケル・シャムロック、自ら進んでソビエトを訪れ、最も重要な産業分野、機械工学の発展に寄与したアメリカ人の技術者は、転向し暴露されソビエトの公然の敵となったミコラ・シクニクの手先により殺害された」。ここで、場面は再び貨車の中に替わる。イワンが、ピーターの脚の傷を包帯で手当している(1枚目の写真、矢印は傷)〔手当てが不十分だったため、後で悪化する〕。「もし痛むようなら、布を見つけて小便をかけろ。それを傷に貼るんだ。分かったな?」。その後で、「悲しむな。きっと生きている」と父親のことを慰めた後、「ハルキウには戻れない。犬どもが捜しているからオデッサに行った方がいい。船の名前は分かるのか?」と尋ねる。「デスデモーナ」。「汽車を降りるな。行き先はオデッサだ。着いたら、デスデモーナの船長を見つけろ」とアドバイスする〔オデッサは黒海に面した港町。イスタンブールのあるボスポラス海峡を経て地中海につながっている〕。その頃、ウラジミルは、仲間の軍人に、「彼は、父親とそこまで船で来た。デスデモーナという船を探すはすだ」と指示している。ピーターの行動は見透かされている。ウラジミルは、劇場の楽屋にいるオルハを訪ね、「明日の新聞だ」と言って、死亡記事を見せる。「ピーターはどうなったの? ピーターはどこ?」。「いなくなった。だけど見つけるよ。父親を殺した奴らに誘拐されたんじゃないかな」。その後に、「俺は、君を守ってやれる唯一人の人間だ」と囁く。シャムロック亡き後、結婚しようと企んでいるのだ。映像は、三度目の貨車内。どこかの駅に着いたので、イワンが、「キリル文字が読めるか?」と訊く。「うん」(2枚目の写真)。「どこの駅か、読んで教えてくれ」。「クラースヌイ・クート」。ここがこの映画で、一番不審なところ。字幕では「Krasny Kut」となっている。そして、映像でも、機関車庫の上に「Красный Куть」と表示されている。この名前のある町は、ロシアにしかなく、ハルキウの東北東760キロにある。だから、この町ではあり得ない。ハルキウからオデッサに行く鉄道沿線を探してみたが該当する駅はなかった。線路はくねくねと曲がっているので1930年当時の路線と変わらないと思われる。この映画を観るのは大半がウクライナ人のはずなので、単純なミスとも思えない。今は消滅した町なのだろうか? これほど拘るのは、ここでイワンが降りてしまうからだ〔後で、ピーターも降りる。そして放浪の旅が始まる〕

ピーターは、イワンが出て行った後、過去のことを振り返る(1枚目の写真)。オルハの前でピアノを弾いた時の想い出だ。ここで、独白が入る。「それまで、私は死を見た経験がなかった。そして、これが私の人生を根底から変えてしまうであろうとは思いもしなかった。私は、子供っぽく、父はまだ生きていて、入院し、傍らにはオルハがいてくれると思っていた」。ピーターが鞄の中を見ていると、中から1冊の本が出てくる。開いてみると、右上に「ガレス・ジョーンズ様 S.ミコラより」と書いてある(2枚目の写真)。すると、記憶が蘇る。父が、「これを鞄に入れておいてくれないか。モスクワのガレス・ジョーンズさんへのプレゼントだそうだ。住所はそこに書かれている」と言って1冊の本を渡した時のものだ(3枚目の写真、矢印は本)。父のスーツケースはもう詰め終わっていたので、パーティでもらってポケットに入れた本が邪魔になりピーターに持たせたのだ。こうして、全くの偶然からピーターが危険な本を持ち歩くことになった。独白:「私は負けん気の強い子供だった…」。

ピーターは、貨車の開いた扉に座っている(1枚目の写真)。独白の続き:「…だから、モスクワまで自分で届けることにした」。列車はオデッサ行きなので、モスクワは逆方向だ。そこで、ピーターは、貨車を飛び降りると、駅長をつかまえて、「今日は。教えてください。モスクワ行きの汽車はいつ来ますか?」と丁寧に尋ねる(2枚目の写真)。駅長は、「停車の予定はない。それより、レールの上を歩くことは厳禁だぞ」と言って去って行った。駅の前の屋台でピロシキを売っているのを見つけたピーターは、3個買い(3枚目の写真)、「モスクワ行きの汽車はいつ来るの?」と尋ねる。「多分、明日の朝6時だね。駅のベンチに寝るといい」。ピーターが紙包みを持ってレール沿いに歩いていると、カモだと思った宿無しが、「おい抜け作、食い物をよこしな」と声をかけ、ピーターが逃げると、もう1人が「帽子、交換しようぜ」と言うなり、帽子を勝手に替える。「俺たちに、食い物を分けろ」と、3人目もやってくる。ピーターは、多勢に無勢でさっき買った食べ物を取り上げられる。盗みは食べ物だけで終わらず、ピーターは上着や靴を取り上げられ、放っておかれたら裸にされたかもしれない。だが、そこに、ピーターの悲鳴を聞きつけたイワンが、杖で線路をさぐって助けに来てくれる。そして、杖(太い棒)を巧みに使って宿無しどもを追い払う(4枚目の写真、矢印はピーター)。ここで、場面が替わり、ウラジミルの流した指令が示される。「極秘。北部鉄道秘密警察。最大限の努力と、あらゆる手立て講じて、ソビエトにおける社会主義建設に危機を及ぼしかねない文書の漏洩を食い止めよ。指名手配者:ピーター・シャムロック。生年:1921年。居住地:ハリコフ〔ロシア語発音〕。外国人専門家の息子。アメリカ市民。特徴:身長140センチ、普通の肌色、茶色の瞳、薄茶色の真っ直ぐな毛髪、外国製の格子柄スーツ、外国製の灰色帽と黒靴を着用。訛りあり。発見しても、拘束などの行動は一切控え、直ちに報告せよ」。全体主義国家の怖さが実感として伝わってくる。。その後、劇場を訪れたウラジミルは、オルハから、「あなた、ピーターを一度も捜してない。嘘ばかり付いてる」と責められ、「尋問の際、シクニクはマイケルに秘密文書を渡したと言った。しかし、マイケルは何も持っていなかった。もし、ピーターを見つければ、我々は救われる」と本音を打ち明ける〔ピーターが助かるとは言っていない。助かるのはウラジミルだけ〕。その言葉から真実を悟ったオルハは、「この悪党、あんた無実の男を殺したのね! 彼は何も知らなかったのよ。ただ 本を渡そうとしただけ。もし、良心のかけらが残ってるなら、私のためにピーターを助けなさい」と言い放つ。彼女は心からピーターが好きなのだ〔それにしても、シクニクはいつ尋問にかけられたのだろう? 極秘文書を渡すような「売国」行為をしたのだったら、すぐに投獄か処刑され、自室で悠長に自殺することなど許されないと思うのだが…〕

ピーターとイワンは放浪の旅に出る。イワンが火を点けて焚き火を作り、ピーターが水を汲んでくる。イワンのあまりの手際の良さに、思わず「本当に盲人なの?」と訊く(1枚目の写真)。イワンは枝を折り、「こんな風にやるんだ」と教える。「僕、パパとピクニックで川原に行った時、焚き火をしたよ。ハドソン川って言うんだ。ママがサラダを作って、僕とパパはホットドッグ」。「犬を?」。「違うよ、棒に刺したソーセージ」。ここで全景が映る(2枚目の写真)。後ろに見えている巨大な水面は、恐らくドニエプル川だろう。ウクライナを南北に貫く大河だ。ピーターの独白:「私はイワンにニューヨークや、ハドソン川、トラクターや父のことを話した。彼は、私を助けてくれる人々のところに連れて行くと言ってくれた」。ここで、イワンの声に切り替わる。「君のパパは生きている。そう信じて希望を持つことが重要だ。誰もが希望に生きている」。一夜をそこで過ごした2人。イワンは「よく眠れたか?」と訊き、「自分で洗うんだ」と言って小さな缶から手に湯を注ぐ。ピーターはそれで顔をこするが、そっと触っているだけなので きれいにはならない。音で察したイワンは、「こうするんだ」と手の平でごしごし擦る。その後、ピーターが嫌がるのを押えながら、髪をカミソリで短くする。シラミがいたせいもあるが、外観が全く変わってしまったので、目的は変装のためだろう。ここで、クラースヌイ・クートの駅長がウラジミルに報告をしている場面に変わる。駅長は、少年が1人で現れ、どこかに消えたと話す。さっそく目撃者が集められ、3人の宿無しは自分達の行為を弁解しながら、盲目の男のことを話す。

イワンは、ピーターを連れてコブザールが集合する廃墟に連れて行く。「着いたぞ。ここが我らの本拠地だ。よそ者はいない」(1枚目の写真)「これは、リビースカ語だ。コブザールの秘密の言葉で、われら兄弟だけが理解できる〔事実〕。リビーとは、リラ(竪琴の一種)を弾くコブザールのことだ。覚えておけ。よそ者と悟られないよう、唖(おし)のようにぶつぶつと口ごもれ」。ピーターは、その教えを守り、イワンが旧友と抱き合った後で、「アンドリー、他の子供たちのところに行ってろ。暖をとり、服を乾かせ」と言われ、「これも持って行け」とバッグも渡された時も、「うう」と口にしただけだった〔アンドリーは、以前の導き手の名前〕。導き手の子供たちから少し離れて黙って座っているピーターに、少女が、「ベリーを摘みに行かない?」と誘うと、「うう」と一緒に出かける。「名前は?」。「うう」。野原に入った少女は、「唖のフリしてるんでしょ?」と言い出す。「なぜよ? ここじゃ、みんな友達なのよ。あんたは唖じゃない。何て名前?」。「アンドレ」〔訛っている〕。「どこか変ね。私たちの言葉だけど、ドイツ人みたいな響き」。「僕は、ドイツ人じゃない。アメリカ人だ、誰にも言わないで」。「お墓のように黙ってるわ。誰の導き手なの?」。「イワン」。「怒りっぽくて怖いって本当なの?」。「そう見えるけど、いい人だよ」。一方、廃墟の中では、コブザールが集まって話し合っている(2枚目の写真)。そこでの話題は、ウクライナ中のコブザールをハルキウに招いて、各人のバラードを録音するという要請にどう応えるか。警察から保護し、どこでも歌えるようにするという条件付きなので賛成の声が多い。しかし、イワンは、「これは罠だ。奴らは、我々の力を知っていて、それを葬ろうとしている」と反対する〔実際にハルキウで会議が開かれ、参加したコブザールはスターリンの命令で全員殺された〕。集会が終わり、コブザールはそれぞれの導き手と一緒に去って行く。ピーターも少女と別れることになった(3枚目の写真)。

イワンがまず向かったのは、ボルダンの家。バンドゥーラ(弦楽器)を調音してもらうためだ。1・2日滞在するという。初めての一般人との接触となるので、ピーターは不安そうだ(1枚目の写真)。2人が親しげに挨拶するのを、少し離れて見守っている(2枚目の写真)。イワンは、コブザールの集会に失望したと打ち明ける。「もし、我々が一致団結して、ウクライナ中で同時に蜂起すれば、どんな軍隊も太刀打ちできないのに」。すると、画面は、ハルキウで行われている録音の場面〔もっと未来〕へと替わる。そこでは、舞台に座ったコブザールが、録音装置の横に座って自らのバラードを歌っている。見事だが悲しい歌だ。それを、タバコをふかしながら聞いていた共産党の幹部が、演奏中にもかかわらず、「なぜ君の歌は、不幸で苦痛に満ちたものばかりなんだ? 楽しいものはないのか?」と不満をぶつける。民俗伝統を無視した無能で傲慢な介入だ。音声記録を取っていた学者が、コブザールに、「頼むよ。何か明るい極を弾いてくれんか」と頼む。そこで、彼が歌い始めたのは、「♪パンもなければ、サーロ〔豚肉の脂身を塩漬け〕もない。みんな赤の野郎が取り上げた。牛もなければ豚もない。あるのは、スターリンのポスターだけ。俺のソバ粥はどこ行った? 農民はあくせく働き、秘察警察がのさばる。父ちゃんはコルホーズ〔集団農場〕、母ちゃんもコルホーズ。子供たちは通りで泣いてる。秘察警察がやって来たら、茂みに隠れないと」。ここでコブザールは乱暴に連行されていった〔団結しなかったコブザールの末路〕。ここで再び、ボルダンの家に戻り、ピーターが寝ている脇で、ボルダンがピーターの鞄から本を取り出している。ボルダンは本の表紙の裏側に触り妙に膨らんでいることに気付く。彼が、見返りの紙をヘラで剥がすと、くり抜いた表紙の中には3枚の紙が入っていた。それを読んだボルダンは、家の外に座っていたイワンの元に紙と本を持って行く。そして、本に宛名が書いてあり、中に紙が数枚隠されていたと打ち明ける(3枚目の写真、矢印は本)。「穀類の押収を邪魔する者は全員処罰せよ。あらゆる抵抗はすべて排除し、富農と自由農民は摘発し根絶せよ。スターリン、並びに、ウクライナ共産党第一書記〔ニキータ・フルシチョフ〕」。ホロドモールの開始を宣言する文書だ。この命令で、700~1000万人が餓死する。イワンは、ピーターには極秘文書を持っているという認識はないので、手紙を元に戻して、本を鞄に返すよう頼む。

ピーターが、非常に危険なものを持っていることを知ったイワンは、ピーターに杖を使った戦い方を教えようと決める。そして、静かな林の中に連れ出し、「目を閉じろ」と命じ、「耳で聞き、鼻で嗅げ」と言う(1枚目の写真)。「何が聞こえる?」。「風が吹いてる。木がサラサラいってる」。「他には?」。「牛が牧草地でモーモーいってる」。「それから?」。「つるべがガラガラいってる。冷たい水のにおいがする」。「さっき飲んだろ」。「他には、何が聞こえる?」。「人々が、どこかで泣いてる」(2枚目の写真)。その途端、イワンが棒杖で殴りかかる。ピーターは、自分の杖でその一打を受け止める(3枚目の写真)。「それでいいんだ」。後で、ピーターは見事な棒の使い手となるが、それは、こうして目を閉じて戦うことを教わったから。イワンがピーターのメンターであることを示す場面だ。

イワンとピーターは、賑やかなオープン・マーケットの中を歩いている。ピーターの独白:「全ての食料が取り上げられてしまうとは、誰も知る由がなかった」。すぐに、イワンの声に替わる。「市場では、どこに陣取るかが鍵だ。入口の近くで、雑踏に巻き込まれない場所がいい…」(1枚目の写真、矢印は2人)。最後に、「唖だということを忘れるな」と念を押す。「ここは、演奏には向いとらんな、魚臭い」「停まれ、匂うか? 安いコロン水の匂いだ。ここから離れよう」。すると、案じたように、声がかかる。「おいおい、法令を破りにきたのか?」。相手は安いコロン水をつけた警官だ。「やあ、イワン。また、宗教音楽を歌う気か?」。「私は、軍歌か哀歌しか歌わない。それなら禁止されてないだろ?」。「その子は何なんだ?」。「こいつはアンドリー、唖なんだ。5人のうち一番幼い従弟だから、私が借りてる。必要だろ。いないと困る」(2枚目の写真)「出生証明書もあるぞ」と言って、賄賂のお金をつかませる。「確かに整ってるな」。こうして、無事警官と別れることができた。イワンは、市場の外れで演奏を始める(3枚目の写真)。「♪我らは踏みにじられ、欺瞞がワインとともに出される…」。軍歌でも哀歌でもなく、政治的な歌詞だ。

演奏が終わったイワンが、歩いていると顔見知りのキオスクの売り子が声をかけてくる。イワンは、「3クーポンでタバコをくれ」とお金を渡す。そして、「今日、新聞は何を嘘付いてる?」と訊く。売り子が読んだのは、「アメリカ人の共産主義者で技師のマイケル・シャムロックが、反逆者ミコラ・シクニクの裏切りで殺害された」という部分(1枚目の写真、矢印は新聞)。イワンはその新聞が欲しいと頼み、売り子はタバコ3箱をその新聞紙で包んで渡す。一方、ピーターは物珍しげに一人で市場の中を歩いている(2枚目の写真)。一番興味の惹かれたのは木製のおもちゃ(3枚目の写真)。場面が替わり、ウラジミルが部下から報告を受けている。「市場の警官が 例の子供を見つけたようです。我々が捜している子かどうか確証はありません。唖のふりをしていました。もう一人はバンドゥーラを持った歌い手で、少年は導き手のようでした。確かではありませんが」。ウラジミルは、訛があるから「唖のふり」は さもありなんと納得する。秘密警察の魔の手が忍び寄る。

イワンとピーターは、大きな沼地を小舟で渡っている(1枚目の写真、矢印はピーター)。イワンは、舟を漕ぎながら、昔、この沼地であった大掛かりな戦争のことをピーターに話して聞かせている(2枚目の写真)。その間にも、新たな指令が全国に流される。「即時執行命令。ボルシェビキ党の中央委員会による決定。物乞いは禁止する。あらゆる楽器は地元警察、及び、反革命・怠業・投機取締非常委員会の登録を必至とする。コブザールとバンドゥーラは、社会的に異質であるだけでなく、ウクライナの文化の本質的に危険な側面である。この種の民族主義的行動を根絶すべく、即刻かつ決定的な行動を要求する」。全体主義は、あらゆる体制の中で最も非人道的で呵責ない。次のシーンでは、どこかの町で演奏していたコブザールが、警察に逮捕される様子が映される(3枚目の写真)。

イワンとピーターが、カフェのような場所に入っている。ピーターは、「僕のお父さん、生きてると思う?」と尋ねる。イワンは、「君のお父さんは強いから、もう治ってると思う」と嘘をつく(1枚目の写真)。「もし、ハルキウにいなかったら?」。イワンは、ピーターの頭を撫ぜながら、「なら、モスクワで君を待っているだろう」と答える。「そこに行けば、きっと歓迎されるぞ。ボルシチや牛乳や花の匂いで一杯だろう。お母さんの匂いもあるかも」。「もう覚えてないよ」。「家に帰れば、思い出せるかもしれんぞ」。「ニューヨーク? そこなら、焼栗とバニラだ。ここにはないよ」。次のシーンでは、イワンがピーターを背負っている。かなりのスピードで歩いていたが、ピーターが「止まって! 道路がなくなってる」と大声で注意する(2枚目の写真、背後に壊れた橋)。「ここには橋があるはずだ」。「橋は壊れてるよ」。その後もイワンはピーターを背負い続ける。ピーターの独白:「私は、熱のため目も開けていられなくなり、イワンに運ばれて行ったことしか覚えていない」(3枚目の写真)。ハルキウで貨車に引き揚げられた時の傷が化膿したのだ。

イワンがようやく辿り着いた所、そこは、彼にとって唯一の安らぎの場所、恋人オリシアの家だった。窓の外のベンチにイワンを背負ったまま へたり込むように座ったイワンは、左腕でガラスを擦る。するとカーテンがチラと開き、誰が来たか分かったオリシアが急いで家から出てくる。そして、イワンの横に縮こまっているピーターに触りながら、「この子は誰?」と訊く。「病気なんだ」。「熱があるじゃない」。そう言うと、オリシアはイワンを放っておいて、ピーターを抱いて家の中に運び込み、横にすると「どこが痛いの?」と訊く。オリシアが脚に触ると、思わず「そこ、痛い!」とうめく(1枚目の写真)。窓の外では、イワンが「アンドリー、彼女の前では話していいぞ」と声をかける。オリシアが脚を見ると、傷口は赤く開いていた。家に入って来たイワンに、オリシアは、「どこで脚を怪我したの?」と尋ねる。「私のミスだ。ちゃんと診てやるべきだった」。そして、「その子と私は、じきに別れる」とも話す。オリシアは、「音楽をやめて、ここで暮らせない?」と頼む。「そうしたいんだが、できない。じきに洪水がひくだろう。そうしたら、この子を連れて行き、それから戻って来る」。責任感のあるイワンの親切な言葉だが、ピーターは眠ってしまって聞いていない(2枚目の写真)。聞いていれば、その後の行動は違っていたかもしれない。イワンは、オリシアの機嫌を直そうと、「あなたは、かけがえのない人だ」と言って、持参した赤サンゴのビーズで作ったネックレス〔ウクライナの伝統工芸品〕を首にかける(3枚目の写真、矢印はネックレス)。

その日の夜(?)、イワンとオリシアは白い服を着て、川の中に一緒に入って行く。イワンは、オリシアの服を脱がせて愛しむように抱く(1枚目の写真)。この行為に、何らかの伝統的・儀式的な意味があるかどうかは分からない。夜起きて誰もいないことに気付いたピーターも、そのシーンを目撃する(2枚目の写真)。ピーターに見られていることに気付いたオリシアは慌てて水に潜り、わけの分からないイワンは〔ピーターの姿が見えない〕、動転して「オリシア!」と叫ぶ。ここで、場面は突然変わる。画面の左下に「カルィーニウカ村: 『プロレタリアート革命の勝利』の集団農場」と表示される。そして、そこにウラジミルが現れる。村長に「外国人の少年を捜している。10~12歳くらいだ」と訊く。村長は「こんな村になぜ外国人が?」と不適切な返事をすると、訊かれたことを棚に上げ、「同志ウラジミル、トラクターはどうなったんです? 撮影の後、修理にと持っていかれて以来、種蒔きにも、刈り取りにも返って来ません。みなが噂しています。どこかおかしいって」と畳み掛けるように話す。その後で、「今日は村中がお祝いなんです。娘が結婚するので」と打ち明ける。こうした村長の言動は、相手が秘密警察だと知らなかったからだろうが、極めて軽率だった〔後で、結果が示される〕。ここで、画面はオリシアの家に戻り、イワンが地面に耳をつけている。何事かと寄ってきたピーターも横になって耳を澄ます(3枚目の写真)。「聞こえるだろ? ここを掘ろう」。イワンは井戸を掘る場所を捜していたのだ。

イワンは、朝食後、さっそく井戸を掘り始める(1枚目の写真)。ピーターは、テーブルに座ってアメリカから持ってきたターザンの漫画を読み返し、傍らでは、オリシアが昼食の用意をしている。その際、「我らを試みに会わせず 悪より救い出し賜え、アーメン」と口ずさんでいるのを聞いて、ピーターは「なぜ、祈ってるの?」と訊く。「主の祈りを2回唱えると半熟になり、4回唱えると固茹でになるの」(2枚目の写真)「イワンは2回が好き、あなたは?」。「僕? イワンと同じ」。イワンは、屋根に上がり、藁の傷んだ部分を取り替えている(3枚目の写真)。よくここまで盲人に出きるなと感嘆させられるほど、面倒見が良い。これでイワンが家を後にする用意が整った。オリシアは、「カルィーニウカで結婚式があるから、立ち寄れば? 新婚夫婦も喜ぶわ。村の教会は閉鎖されたから、祈りを捧げてあげられるでしょ」と提案する。

イワンは、元気になったピーターを連れてオリシアの家を出る。「本は忘れなかったろうな?」。「あるよ」。カルィーニウカ村では、ウラジミルが協力者と2人で部屋にいる。協力者は、1通の請願書に目を通している。「私どもの穀物をすべて引き渡せば、春には飢えて死ぬしかありません」。ウラジミルは、「これから、お前は、反革命・怠業・投機取締非常委員会の秘密工作員になれ」と命じる。そして、協力者の持っていた請願書を取り上げると、代わりに車のキーを渡した上で、「それを俺の助手に渡して、この有害な抵抗について報告しろ」と命じる。協力者が、「でも…」とためらうと、「分かったろうな?」と脅すように言う。「はい」。「それでいい」。1台のトラックが走っている。バックに音声が流れる。「カルィーニウカ村を要注意リストに記載するよう命じる。すべての妨害工作者を排除し、すべてのパンを押収せよ。ソビエトの敵対勢力に加担したすべての共産主義者を抹殺せよ」。一方、イワンは歩きながら、ピーターに、「ハルキウには行かない。結婚式があるから、まずカルィーニウカに行き、そこで旅に入用な食料を調達する。モスクワの住所は覚えてるか?」。「本に書いてあるよ」(1枚目の写真)。村では、結婚式の祝宴の準備が着々と進み、これから起きることの命令者であるウラジミルも、にこやかな顔をしてそれを見ている。村長が馬を走らせている。その先に停まっていたのは、先ほどのトラック。1人が、「同志、止まってくれ。あんたに訊きたいことがある」と叫んで村長を止め、「カルィーニウカは近いかね?」と訊く。「そのまま真っ直ぐ行けばいい。何だね?」。「村長に用がある」。「私が村長だ」。もう1人が近づく。「あんたが村長かね。地区委員会からの手紙を預かってる」。「何だって?」。男は、「地区委員会からの…」と言いながら村長の体に手を伸ばすと、馬から引きずり降ろす。その時、男の顔が見えるが、それは、ウラジミルとずっと行動を共にしていた男だった。それからしばらくして、村では結婚式の祝宴が始まっている。多くのテーブルが屋外に並べられ、村人が座って食べ、その横では、音楽に合わせて大勢がダンスをしている。ウラジミルは、それを横目で見ながらタバコを口にくわえて1本の木の方に歩いて行く。そこには、ピーターを隠して様子を窺いにきたイワンが座ってタバコに火を点けようとしていた。それに気付いたウラジミルは、火を点けてもらえないかと声をかける。イワンの背中から近づいて行ったので、お互いに顔は見えない。イワンは振り向かずにライターを持った手を掲げ、ウラジミルはタバコに火を点ける。その後で、「1本どう?」と箱を差し出す。匂いで銘柄が分かったイワンは、「イラかね。私は吸わない」と言って断る(2枚目の写真、矢印は「ИРА=イラ」)。ウラジミルは、「なぜ兵士のコートを着てるんだ? 戦争はずっと前に終わったろ」と尋ねる。「私には、終わっていない」。「どこで戦ったんだ?」。「あちこちだ。キーウ〔ウクライナ語発音〕の近くで負傷した」。「キーウの近く? 俺もだ。どっちの側にいた?」。「この世に幸せをもたらそうと思っていた側だ」。ウラジミルがもっと質問しようとした時、村長の死体を載せた荷馬車が到着する。結婚式の当事者の殺害に会場は大騒ぎとなる。ウラジミルは、とっさにそちらに行ったので、イワンはすかさず逃げ出す。そして、杖を頼りに可能な限り走り、ピーターを隠しておいた藁山から引っ張り出す(3枚目の写真、矢印はピーターの頭)。「誰かに会ったの?」。「ああ、知ってる奴だ。ここにいちゃだめだ。君を捜してる」。2人は大急ぎでその場を去る。イワンが去った後、ウラジミルは、さっきの男の話が気になって過去の資料を探すうち、イワンに行き当たる(4枚目の写真)。そこには、「ウクライナ人民共和国軍大佐。1918年負傷し盲目となる」と記されてあった。ウラジミルは、ピーターを連れているコブザールはイワンに違いないと確信する。そして、近くを管轄する赤軍の将校に、村と渡河地点の間を調べる斥候小隊の派遣を要請する。将校は、兵が若くて未熟だからと断るが、捜す相手は50歳くらいの盲人と子供だと言って安心させ、派遣を了承させる。ただし、霧が深いので、ある程度晴れたらという条件付きだ。

イワンとピーターが学校に寄ると、そこには飢えた子供たち10人ほどが隠れていた。イワンが2~3個の茹でたジャガイモを切ってテーブルに置くと 一斉に奪い合う。そこに、1人だけいる先生が「木から落ちたんです」と言って1人の子を抱いてくる。お腹が空いたので、ドングリを取ろうと登ったのだ。イワンはピーターに、「タバコを巻いてくれ」と袋を渡す。先生は、「2週間、食料の配給がないんです。腐ったジャガイモしかありませんでした。牛はすべて没収されました。軍隊が来て、隅々まで探して全部持って行ったんです」と悲惨な状況を説明する。ピーターがタバコを巻こうとした紙は、先日イワンが市場でもらった新聞紙だった。それが、父に関係しているらしいことに気付いたピーターがハッとしてイワンの方を見る(1枚目の写真、矢印は新聞の一部)。ピーターはくしゃくしゃになって入っていた新聞紙を広げ、さっき巻こうとした小片をつなぎ合わせて全体を見る。そこには、父の殺害のことが書かれていた(2枚目の写真)。イワンが盲目だとしても、わざわざこの新聞を持っているということは、内容を承知していたに違いない。そう思ったピーターは、裏切られた思いでイワンを睨む(3枚目の写真)。

イワンは子供たちの先頭に立って、霧の中を歩いて行く。その映像をバックに、ピーターに話したであろうことが、ナレーションのように流れる。「アンドリー、この子たちを一緒に連れて行く。みんな孤児で家族がいない。親たちは餓死したんだ。彼らを助けてから、モスクワに行ってお父さんに会おう。分かったね?」(1枚目の写真)。一行は、渡河場に着いた。そこには、1本のワイヤーが張り渡してあり、ワイヤーを手で伝いながら、木製の台舟で対岸に行くのだ。イワンは、「さあ、乗るんだ。急げ」と全員を台舟に乗せる。しかし、イワンと訣別することを決めたピーターは乗らない(2枚目の写真)。でも、イワンは目が見えないので、そのことに気付かずに、ワイヤーをピンと張るためにギアの方に歩いて行く(3枚目の写真、中央がピーター、その右がイワン、右端に台舟)。ワイヤーを張った後、イワンは岸に脚を突っ張って台舟を川に押し出す。そして、ワイヤーを手でつかみながら、少しずつ台舟を対岸に進めて行く。岸に残ったピーターの姿は、すぐに霧に隠れて見えなくなった。その時、岸辺で銃声が響く。台舟の上にいることを確かめようと、「アンドリー」と声をかけるが返事がない。ピーターは、堤防の上を走って逃げていた。それを騎馬兵が追う。幸い霧の中なので、居場所が特定されているわけではない。ピーターは、堤防の川側に降りて、窪みに身を隠す。ピーターが逃げたことを知ったイワンは、助けようと台船に付いた小舟に仰向けになって乗り、「子供たちを大事に」と言い残して助けに行く。バンドゥーラを弾いて兵士たちの気を逸らせる戦法だ。仰向けに寝ているので弾は当たりにくい。堤防の上から、兵士たちが、かすかに見える小舟目がけて撃つ(4枚目の写真、矢印は隠れているピーター)。その後で、小舟と兵士たちが映る(5枚目の写真、矢印はバンドゥーラと、それを弾くイワンの手)。

ピーターと別れたイワンは、約束通りオリシアの家に戻って来る。家を出る前にオリシアに話した言葉が映像にかぶる。「彼のものは全部燃やせ。ここにいたと知られてはまずい。もし訊かれたら、来たのは私だけだと言うんだ。できるだけ早く戻る」。しかし、家の中には誰もいない(1枚目の写真)。床をまさぐるイワンの手が、散らばった赤サンゴのビーズに触れる。赤軍の兵士に襲われた時にネックレスも引きちぎられたのだ(2枚目の写真、矢印はネックレス)。床に落ちていたタバコの吸殻は「イラ」だ。オリシアを襲ったのが、「あの男」だとイワンにも分かる。オリシアは外に引っ張り出される時に、爪でドアを引っ掻いた。それもイワンに分かる。そして、連れて行かれた先は、イワンが掘った井戸。そこに生きたまま投げ込まれたのだ。イワンは井戸の横に跪き、声を振り絞って「オリシア!!」と叫ぶ(3枚目の写真)。この先が、よく分からない。なぜかイワンが捕まり、ウラジミルの前に座らされている。イワンが帰ってくるのを誰かが見張っていたのだろうか? 説明は全くない。イワン:「お前のタバコは臭いぞ。お前が俺たちを殺した時に染み付いた悪臭だ」(4枚目の写真)〔ウラジミルは、昔の戦争で、イワンの部下を全員銃殺にした〕。ウラジミル:「お前こそ、俺たちを殺そうとした。そして、お前は、今、生きて俺の前にいる」。「俺は、お前を捜しに地獄から戻ってきた。そして、見つけることができた」。「子供はどこだ?」。「助けられなかった」。「英雄として死にたいのか? そんなことはさせん。犬のように死ぬんだ。埋めた場所も、誰にも分からないようにしてやる」。

一方、イワンと別れたピーターは、枯れたヒマワリの畑の中をどこまでも歩くと、鉄条網にぶつかった(1枚目の写真)。「それからの数日、私が覚えているのは霧だけだ。それと、彼らが多くのコブザールをハルキウへと連行した道。彼らが、盲目の音楽家に何をしたか、私には分からなかった。しかし、私は、恐怖と飢えが人間を野獣に変えることを知った。イワンは、飢えた目の狼を見た時は、パンの塊をやれば人間に戻ると教えてくれた。しかし、当時、私にパンをくれる者はいなかった〔つまり、ピーターは 飢えた狼になった〕。ハルキウ市内の場末で、宿無しに囲まれたピーター。しかし、以前クラースヌイ・クートでやられた時とは違う。襲ってきた少年の棒を奪うと、ピーターは目を閉じる。イワンの声が聞こえる。「耳で聞き、鼻で嗅げ」。棒で襲ってきた別の少年の棒を受け止め(2枚目の写真)、逆に相手の腹部を叩き、さらに背中を強打する。次々と倒し、「来い、次は誰だ?」と訊くが(3枚目の写真)、戦う相手は誰もいない。こうしてピーターは、宿無しグループのボスになった。2・3枚目の写真で、ピーターの髪がかなり伸びていることから、イワンと別れてからハルキウに着くまでに長い時間がかかったことが分かる〔映画の最初が11歳で、最後が13歳なので2年の歳月が流れている〕

手下になった子供が、1つの建物の前でピーターに説明している。「ここには、毎日 食糧配給があるんだ。缶詰とか牛乳とか。1階には警備員がいる。前は外国人が住んでたけど、今は反革命取締非常委員会の奴がいる」。ピーターは、「俺が行ってくる。盗みなんか、目を閉じてたってできる」と言って(1枚目の写真)、一人で盗みに向かう。まず、屋外の非常用のハシゴを登って一旦屋上に出て、別のハシゴを降りて目的の3階の部屋のベランダに到達。そこから、室内へと忍び込む。壁に掛かっていた写真は、ウラジミル。ここは彼のアパートだった〔襟の階級章は大佐→昇進した?〕。ピーターは、置いてあった布を広げて、手早く食料を入れ、戸棚からも紐で吊るしたバランカ(パンの一種)を取り出して首にかける(2枚目の写真)。しかし、物音に気付いた女性に見つかってしまい、「待ちなさい」と体を捉まれ、「警官!」と叫ばれる。「離せ!」。しかし、女性は、汚れきった顔の中にピーターの面影を見つける。ピーターも、「オルハ?」と尋ねる。相手がピーターだと知ったオルハは(3枚目の写真)、泣きながら抱き締め、心から喜ぶ。オルハは、ウラジミルにしつこく言い寄られて妻になっていた。ピーターは、さっそく浴室に連れて行かれる(4枚目の写真)。バックにオルハの言葉が流れる。「あなたを探したのよ… 力の及ぶ限りね。そしたら、ヴォロディヤ〔ウラジミルの愛称〕が、あなたがチフスで亡くなったという書類を持ってきたの」。ここで、ウラジミルが上司からの連絡を聞いているシーン〔過去〕が挿入される。「シクニクが文書を送ろうとした相手の英国人記者は、誹謗の容疑で告発され国外追放された」。

オルハが、ピーターのいる隠れ家に食料を持って来てくれる。「ピーター、これは、あなたとお友だちの分よ」。手下が、さっそく預かる。オルハはピーターの前にしゃがむと、コートに手をやりながら、「私の友達が、あなたを国外に連れ出してくれるわ。私も後から行く。約束する。分かった?」。しかし、ピーターはかすかに首を横に振ると、「コブザールの人たちは、いつ連れて行かれるの?」と尋ねる(1枚目の写真)。「明日よ」。すると、画面はいきなり汽車のシーンとなる。一面の雪の中をゆっくりと進んでいく貨車。その下に付いた小さな箱が映る(2枚目の写真、矢印)。実は、これと同じシーンは映画の冒頭にも挿入されていた。その時のピーターの独白は、「大人は、貨車の下の箱には入れない。私のような小さな子供を除けば(3枚目の写真)。その時 私は13歳だった。私の本当の名前はピーター・シャムロック、しかし、宿無しの子供たちの間では、『アメリカ人』と呼ばれていた。当時、囚人を乗せた列車はごく当たり前のものだった。国家の敵とみなされた人々を詰め込んだ何千もの列車が、彼らをシベリアの強制労働収容所へと送り込んでいた。しかし、収容所にとって盲目の音楽家など無用の存在だった〔つまり、収容所に送らず、全員殺された〕。私は生涯をかけて、証拠種類や目撃者を探し続けた。私の話など、誰も信じるとは思えなかったから」というものだった。映画の冒頭では、意味をなさなかった独白だが、ここに挿入することで、その後の展開がよく理解できる。

1枚目の写真は、コブザールたちとイワンとピーターを載せた囚人列車。雪の中を走る姿が寒々しい。貨車の中では、コブザールたちが、立ったまま すし詰め状態で乗せられ、歌っている(2枚目の写真)。「♪風が吹き、嵐を起こし、樫をたわませる。一人のコサック〔コブザールの起源〕が墓の上にたたずみ、風に問いかける。風よ教えてくれ、吹きすさぶ風よ、我らコサックの自由はどこにある? 待ち受ける運命は? 希望はどこに? 自由はどこに? 栄光はどこに? 風は答える。分かっているとも。お前たちコサックの運命は、遥か彼方の地にしかない」。死を悟った歌だ。鉄橋の上に1人の男が立っている(3枚目の写真)。それは、ウラジミルだった。

汽車は、ウラジミルの前で停車する(1枚目の写真)。列車が停まったことに気付いたピーターは、箱から外に出る(2枚目の写真)。コブザールたちの詰め込まれた貨車の扉も開けられる(3枚目の写真)。一方、近くの崖の前では赤軍の兵士たちが大量のダイナマイトを設置している。サイレンが鳴った後、全員が退避し、赤い信号弾を合図に爆破するという段取りだ。

ピーターは、貨車から降ろされたコブザールたちの行方を追う(1枚目の写真)。コブザールたちは、一列になって崖の前を歩かされる(2枚目の写真)。目が見えないので、全員が 前の人の肩に手を乗せているのが印象的だ。ピーターは、1人だけ崖の上の棒に縛り付けられたイワンの方に雪を漕いで行く(3枚目の写真)。その時、イワンの目の前に現れたのは、ずっとウラジミルの下で悪事の限りを尽くしてきた男〔イワンの拷問(取り調べ)もした〕。男は、千枚通しのようなものでイワンの肺を刺し、ニヤリと笑って去って行く。人非人はどこまでも人非人だ。そして、サイレンが鳴り響く。崖の下では、コブザールたちが一塊になって、これから起こるであろうことを覚悟している。

ピーターは、誰もいなくなるのを待って、イワンを助けに飛び出していく。その姿に気付いたウラジミルは、「待て!!」と大声で叫ぶと、ピーターを捉まえに走って行く〔「待て」は、ピーターに対してではなく、爆破に対して〕。一足先に崖の上に着いたピーターは、「パパ、来たよ。バンドゥーラの魂〔バンドゥーラの共鳴板をつなぐ短い木の棒〕を持ってきた」(1枚目の写真、矢印は刺された後)と言って、縛られた手に「魂」を握らせる。そして、何とか縛めを解こうとしながら、「爆薬だらけなんだ。信号弾を打つと、一斉に爆発する」と教える。イワンの縄が解けた時、ウラジミルが来てしまい、ピーターを引き離そうとする。イワン:「その子を離せ」。ウラジミル:「文書を寄こせ。どこにある!」。「バンドゥーラの中だ」。ウラジミルは、「バンドゥーラはどこだ?」とピーターに訊く。ピーターが指差すと(2枚目の写真)、ウラジミルが取りに行く。イワンは、「バンドゥーラを寄こせ。お前じゃ分からん」と言って受け取ると、密かに弦を1本外し、とっさにウラジミルの背中に回って弦で首を絞める。「逃げろ!」。ピーターはバンドゥーラを抱いて逃げる(3枚目の写真)。イワンはウラジミルと揉み合いながら、拳銃を奪って合図の赤い信号弾を発射する。そして、そのまま2人とも崖から転落する(4枚目の写真)。ほぼ同時に、起爆装置のスイッチが回される。

画面は真っ暗になり、ピーターの顔の大写しに変わる(1枚目の写真)。最初は、何事かと思うが、ピーターの髪が短いことから〔服装も違う〕、2年前に戻り、イワンと放浪していた頃の想い出だと分かる。ピーターが仰向けになって見ていたものは、廃墟となった僧院のドームが落ちた跡の丸天井。晴れ渡った青い空が見える。ピーターは起き上がると、天井を見上げながら歩いて行く。僧院は、屋根がすべて落ち、骨格のアーチだけが残っている。僧院から出たピーターはイワンを探す(2枚目の写真)。そして、僧院の外壁に張り付くように立っているイワンに気付く。ピーターは、近付いていくと、イワンに並んで立つ。イワンがピーターの手を取る。そして、「花は、なぜいつも太陽を向いているか知ってるか?」と訊く。ピーターが「ううん」と言うと(3枚目の写真)、「花にも目があって、夜明けが来ると信じているからだ」と答える。花は、イワンを含めたコブザールたちを、夜明けは、良き未来を指すのであろう。画面は一転し、大々的な爆破シーンが30秒にわたって続く(4枚目の写真)。最後にFacebookに2017年11月7日に投稿された記事を紹介しよう。それは、「ハルキウの国立法人が共産主義の恐怖の犠牲者を追悼」というもので、市内のオペラ・バレエ劇場近くの公園に1997年設置されたコブザールの追悼モニュメントの前で、現代のコブザールが演奏している写真(5枚目の写真)が添付されている。そこにも書かれているが、ソビエトに殺されたコブザールの数は200-337名。この推定値は、コブザールの悲劇を詳しく紹介したサイトhttp://na-skryzhalyah.blogspot.com/2016/11/blog-post_9.htmlでも、同じだ。犠牲者の数にこれほど差があるのは、一切の記録が秘密警察によって意図的に抹殺されたためだ。スターリン時代のソビエトのあざとさと怖さをこれほどあからさまに描いた映画は例がないのではないか?



   

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