ページの先頭へ

                                            トップページに戻る
少年リスト  映画(邦題)リスト  国別(原題)リスト  年代順リスト

Orphans & Kingdoms オーファンズ&キングダムズ

ニュージーランド映画 (2014)

父を亡くし、再婚した母にも見捨てられた “孤児” と言ってもおかしくない17歳、16歳、そして、13歳の姉、兄、弟のマオリの血を引く3人が、ニュージーランドの首都オークランド近くのワイヘケ島に乗り込んで行き、楽しい夏休みをタダで過ごすハズだった目論見が破綻し、侵入した邸宅の持ち主が夜に帰宅したことで、家の持ち主は意図的に軽いケガをさせられ、16歳の兄は自らの不注意で思いケガを負う。3人のうち1人はこうして動けなくなったので、結局2対1の関係に。最初は、2人が優勢に立っていたが、17歳の姉が、家の主人に降りかかった過去の不幸に同情したことで、体制は逆転する。しかし、重い過去を背負った主人は、警察に通報せず、自分が過去に犯した過ちを繰り返さないよう、3人を贖罪の道へと進ませる。監督の方針も、レビューワーの感想も、この映画の主役を、主人と13歳の少年、通称キーに置いている。どちらも、意外な行動に出て観客を驚かせるし、全く違う意味で激情に走る。特に、子役のCalae Hignett-Morganは、マオリ訛りの短い台詞を交えた自然な演技が高く評価されている。受賞歴は、アンカレッジ国際映画祭の作品賞など3つだけだが、僅か74分の短い映画で、いい映画を観た気分にさせてくれる素晴らしい作品だ。

映画は幾つかのパートに分かれている。
① 夜、カーフェリーに乗ってオークランドからワイヘケ島の自宅まで戻って来たジェレミー。ガレージのシャッターをリモコンで開けようとするが、悲しくなって途中で閉める。車を外に置いたまま地階の玄関を開けて階段を上がり、LDKに入ったところで見知らぬ女性がいて驚く。しかも、急に上半身裸になり、驚いたところを、少年にホッケーのスティックで頭を殴られ、気絶する。
② その日の朝、オークランドからのフェリーに乗って、3人の姉兄弟がワイヘケ島にやって来る。着いた早々、店で盗みを働き、その場では捕まらなかったが、防犯カメラに3人とも映っていて、警察に通報される。そうとは知らない3人は、島で長期間過ごそうと、誰もいなさそうな別荘を探し、その1つに忍び込んで、やりたい放題のことをする。
③ しかし、夜になり、この家の主人が帰宅し、①が別の角度のカメラで再現されるあらすじでは、①を省略し、③と合体させた〕。そのときの騒ぎで、ドジな兄のジスがイスから落ちて足首を骨折し動けなくなる。家の主人ジェレミーは、後ろ手に粘着テープで縛られる。この時点では、ジェレミーは圧倒的に不利だが、ジスが骨折してしまったので、病院に行く必要があり、3人の悪タレも、大きな問題を抱えてしまう。
④ ジスの助けになるものを探しているうち、姉の通称ティブスが、ジェレミーの13歳の息子が死んだことを知り、同情して粘着テープを外したことで、力で勝るジェレミーが優位に立ち、ケガ人を抱え、女子と子供しかいない悪タレは、彼の言う通りに従わざるをえなくなる。ジェレミーは、僅か半日でめちゃめちゃになった家を2人に命じてきれいにさせる。それが終わると、ジスの骨折が悪化しないよう応急処置を講じ、3人にちゃんとした寝る場所を与える。
⑤ 翌朝、ジェレミーは3人にちゃんとした朝食を与え、昨日の侵入時の警報装置の作動のその後を調べにきた警官にも3人の存在を伏せる。そして、3人の防犯カメラの写真が公開されていると知ると、即刻島から出そうと決断する。
⑥ ジェレミーは最初、フェリー乗り場に行くが、待合室に窃盗中の写真が貼ってあったため、車に乗って乗船を待つカーフェリーを使うことにする。その途中で、少年の通称キーが、ジェレミーの息子がどうして死んだのか訊き、彼は自殺と答える。それが影響したのか、それまでに、ジェレミーのことを仲間だと思い始めていたキーは、カーフェリーが対岸に着けば、また知らない人と悶着を起こしながら暮らすようになるだろうと思うと生きているのが嫌になり、船内で自殺を図り、それに間に合って気付いたジェレミーに救われる。ジェレミーは、自分は息子を亡くし1人だが、キーは3人で強く生きていけると諭し、キーもその考え方を受け入れる。

13歳のケナエ(通称キー)役のCalae Hignett-Morgan について、データはほとんどない。この映画に出演する前の3年間、5 歳から 13 歳までの子供達を対象にしたWYNRS(ウィントン・ルーファー・サッカースクール・オブ・エクセレンス)でトレーニングを積んできたことと、この映画の3年後に1度だけ端役で映画に出演したことくらいしか分からない。Facebookに、同名の青年が2019年5月5日にニュージーランド・ウォーリアーズというプロのラグビーチームの選手になったという記事があったが、同じ人物かどうか分からないし、2024年の選手リストにはない。

あらすじ

ニュージーランドの首都オークランドの東北東約20キロ〔乗船時間35分〕にあるワイヘケ〔Waiheke〕島のマティアティア〔Matiatia〕に向かうフラーズ社〔Fullers〕のフェリーが間もなく港に入る(1枚目の写真)〔乗客専用、島には、SeaLink社のフェリー(こちらは自動車専用)も乗り入れているが、両者の船着き場は実走行距離で6.6キロ離れている〕。このシーンの直後、着岸したフェリーから、大勢の乗客が降りてくるが、その中に、わざと走って出てきたマオリ系の3人組がいる。中でも、一番小さなケナエ〔通称:キー〕という少年が、わざと女性にぶつかって倒し、「だいじょうび?」と声をかけ、親切に手を持って起こそうとするフリをして、女性が手に持っていたバッグを奪って逃げる(2枚目の写真、矢印はバッグ)。3人はそのまま砂浜に逃げて行き、ボート小屋の裏に逃げ込むと、ケナエはさっそく財布を取り出し(3枚目の写真、矢印)、お札をポケットに入れる。さらに、バッグの中に携帯を見つけると、やったとばかりに取り出して触ってみる。そして、赤の油性マジックを取り出すと、彼のシンボル・サインを描く〔後で何度も出て来るが、上の3文字は、通称のKEY。その下はよく分からないが、ひょっとしたらオリキャラのOCかもしれない〕

そのあと、3人は丘陵地帯を登って行くが、その背後に、途中に島を挟んで、オークランドの都心部が見える(1枚目の写真)。しかし、これは、恐らく4000mmくらいの超望遠レンズで撮影したもので、同じ地点のグーグルの航空写真だと、2枚目の写真のように、オークランド(矢印は都心)など、ほとんど見えない。途中に見える島はモトゥタプ〔Motutapu〕島。3人は、フェリー乗り場から1.5キロほど歩いた所にある町まで行くと、一番年上の女性のティルバ〔通称:ティブス〕がレジで話して店員の気を逸らしている間に、キーと、ティブスより1歳ほど下のジスが、店内で盗みを働くが、防犯カメラが犯行現場をバッチリ捉えている(3枚目の写真、矢印は盗品)。そして、ティブスが道路で指を上げてヒッチハイクを希望し、小型トラックが停まると、隠れていたキーとジスが飛び出して来て荷台に飛び乗る。3人は、フェリー乗り場と近くとは別の砂浜に行くと、楽しそうに叫んで走り回る(4枚目の写真)。

3人は、お店で盗んできた食べ物で食事をするが、その前に、キーがマオリ語で食前の祈りのカラキア〔Karakia〕を唱える(1枚目の写真)〔食前のカラキアには、マオリ伝統のものと、クリスチャンのものがあるが、ここで唱えられるのは後者。最後はアメニ(アーメン)で終わる〕。食事の最中に、3人の目の前の砂浜に、水陸両用ボート『シーレッグス』〔ニュージーランドのシーレッグス・インターナショナル社が開発。全長5.6m、最高速度は水上で時速56キロ、陸上で時速10キロ〕が上陸してきたので(2枚目の写真、矢印は)、初めて見た3人は大喜び。

そのあと、3人は、しばらく、無断滞在できそうな無人の別荘を物色する。そして、目を付けたのは最も大きくて豪華そうな別荘(1枚目の写真)〔3人は別荘だと思ったが、実際には、週日にはフェリーでオークランドに通っていたビジネスマンの家だった〕。キーは、「ニンジャ、おでまし」と格好をつけて言うと(2枚目の写真)、邸宅まで駆け上がって行き、1階の側面に配置されたすべてのガラス引き戸を試すが鍵がかかっている。そこで、2階まで鋼鉄製の柱をよじ登り(3枚目の写真)、2階のガラス引き戸を試すと、こちらはすんなりと開いたので、やったとばかりに室内に入る。しかし、その途端に、警報装置が作動し、大きな警報音が鳴り響く。キーは、装置がありそうな場所を必死で探し、見つけると、蓋をこじ開け、ナイフで電線を切断して警報音を止める(4枚目の写真、矢印)。

しばらくすると、ティブスとジスが地階にある入口から1階のLDKに上がってきて、自慢げなキーと再会する(1枚目の写真)。ティブスは、ガラス引き戸の外に設けられた抜群の展望のバスルームに見とれる(2枚目の写真)。キーは、子供部屋に入って行くと(3枚目の写真)、中に置いてあったノートパソコンのスイッチを入れる。一番役立たずのジスは、キッチンの戸棚を開けて、中に入っていた酒瓶を全部取り出す。そして、そして、ガラス引き戸を開け、その直下にあるプールで手を洗う。

すると、パトカーが敷地内に入って来たので(1枚目の写真)、急いで開いたままのガラス引き戸を数か所閉め、地階の入口も内側からロックする。キーは、子供部屋のベッドの裏側に隠れる(2枚目の写真)。警官は1階の全面ガラス引き戸の所にもやって来て、中に異常がないかチェックし、3人が中をめちゃくちゃにする前だったので、異常なしと判断して帰って行く。キーはジスに、「夏中、ここで楽しく過ごしちゃうもんね~」とテラスに出て仲良く手を合わせると、“ベランダのバスタブの中に裸で隠れていて、バスローブを着て戻ってきたティブス” に向かって、「ウヒョー、億万長者じゃん!」とおどけてみせる(3枚目の写真)。

そのあと、子供部屋に戻ったキーは、ノートパソコンのブログ検索で 「Derek Cummimhgs」を調べ(1枚目の写真)、表示された同姓同名の中から目指す男を見つけて表示させる(2枚目の写真)。そこにやってきたジスは、「そのクソは誰だ? オメエのおっさん探してんのか?」と批判する。キーが 「ダマれ、ジス。ダマらんとナグる」と反抗すると、ジスは、「このアホたれ。13年もホッといて、ヤツがオメエに会いたいとでも、ホンキで思っトンか?」と言い、2人は喧嘩になる。キー、体の大きいジスに組みふせられるが(3枚目の写真)、そこにティブスが来て、弟虐めを止めさせる〔パソコンの画面上のマオリ系の女性が、この3人の本当の母親で、13年前に3人を捨てたらしいことが後で分かる。この男性が3人とどういう関係にあるのかは最後まで分からない。3人の本当の父親が亡くなり、母親が再婚し、3人が邪魔になったというのが、最も可能性のある推論〕

ジスが素直に止めたのは、ティブスがマリファナの箱を見せたから。ジスはさっそく暖炉の前に行くと、リンゴのサイドとがくに穴を開け、がく置いたマリファナに火を点け、サイドの穴から吸う(1枚目の写真)。ジスは、りんごをティブスに渡して吸い、それをさらにキーにも吸わせる(2枚目の写真)。そのあと、ジスはプールに飛び込んで遊び、キーはTVゲームで遊ぶ。プールから出たジスは、出して置いた酒を3人で飲み合う。どうしようもない最悪の不良といった感じ。そして、太陽が沈む頃、キーはコンクリートの壁面一杯に赤の油性マジックで、彼のシンボル・サインを見えているだけで70個書いている(3枚目の写真)。

このまま映画が進行していれば、何の面白みもない駄作に終わるのだが、映画の本領はここから。夏中いないと思っていた邸宅の持ち主が、夜になって帰ってくる(1枚目の写真)。この突然の出現に、3人は大慌て。フォルクスワーゲン・パサートヴァリアントに乗ったジェレミーという中年男性は、ガレージの前で車を停めると、リモコンでシャッターを上げるが、その際、固く目を閉じる。そして、ガレージが3分の1ほど空き、右の壁に積まれた薪が見えると、そのままシャッターを下ろす〔実は、キーがガレージの中にいたのだが、ジェレミーは気付かない/ジェレミーがガレージの中を見るのを拒否したり、ガレージに車を入れないのには大きな訳がある〕。シャッターは閉まると、ジェレミーは目を開け、エンジンを切り、ドアを開けて車から出ると、地階の入口の鍵を開けて中に入る。そして、階段を上がって1階のLDKに入ると、そこにティブスが立っていて、微笑みながら 「お帰りなさい」と言ったので驚愕する。「誰なんだ?」。「パニクラないで」。「家から出て行け」。そう言いながら、つまみ出そうとジェレミーがティブスに近づくと、ティブスはバスローブをさっと脱ぎ捨て 上半身裸になる(2枚目の写真)。これは、策略で、ジェレミーがびっくりして一歩下がると、その背後には、ホッケーのスティックを構えたキーが待機していて(3枚目の写真、矢印)、それでジェレミーの後頭部を叩いて気絶させる。

幸いにも、死んではいなかったので、キーは、「こんなトコ、出てこう!」と言い(1枚目の写真)、ティブスは、今は倒れたままでも(2枚目の写真)、いつ意識が戻るか分からないので、「そうね。縛り上げたら、おカネもらって出てこう」と賛成し、ジスとキーにロープと粘着テープを探しに行かせる。3人の中で一番要領の悪いジスは、イスに乗ってキッチンの棚の一番上を探している時、バランスを失ってイスから落ち(3枚目に写真、矢印の方向)、床に足の先端から押したときに、足首を骨折し、あまりの痛さにそのまま動けなくなる。

そして、気絶していたジェレミーが目を開けると、ちょうど、うつ伏せになった顔の目線の先には、同じく倒れて動けないジスの顔が見える。しかし、まだ頭がはっきりしないジェレミーの目には、それが息子のスコットのように見える。想像の中のスコットは、過去に、携帯で、「遅いよ」と何度も “早く帰宅して” と催促した時のメールを、言葉で発する(1枚目の写真、左下の紺色に空色枠の星印は、ジェレミーの目に映った空想を示す〔次節で、純粋に空色の星印も登場するが、それは過去に実際あった場面〕、黄色の矢印はスコットがいつもかぶっていた赤い帽子)。それを聞いたと思ったジェレミーは、そのメールを自分が軽んじた〔無視した〕挙句に起きた最悪の惨事を思い起こして涙し(2枚目の写真、矢印)、「悪かった。許してくれ」と言う。しかし、ジスが痛さに苦痛の声を上げると、ジェレミーは横にいるのがスコットではないと気付き、体を起こしながら、「スコッティはどこだ?」とジスに訊く(3枚目の写真)。ジスは、泥棒に入った側なので、「手荒なマネやめて」と頼む。

その時、ジェレミーの背後に忍び寄っていたキーが(1枚目の写真、矢印)、もう一度、ホッケーのスティックでジェレミーの後頭部を殴って気絶させる。すると、過去にあった出来事が短く紹介される。ある夜、ジェレミーは一組の夫婦とレストランでディナーを共にしていた(2枚目の写真、実際にあった過去の話なので、左下に空色の星印)。話は長引き、1回目の携帯が鳴り、画面から、その日が7月23日(火)〔2013年〕の午後7時14分で、メールはスコッティからで、 「どこにいるの?」と訊いていた(3枚目の写真の左側)。食事が終わってジェレミーが車に乗った時、2回目に携帯が鳴る。時間はちょうど午後8時で、「もう待つのは止めた…」と書いてある(3枚目の写真の右側)。

キーは、ジェレミーを殴った直後、ティブスもしばらくして、ジスが動けなくなっているのに気付く。ティブスが、「どしたん?」と訊くと、ジスは 「足がめちゃヤバい」と言い(1枚目の写真)、キーは 見もしてないのに、「こいつがヤッたんだ」とジェレミーのせいにする。それを聞いたティブスはジスにジェレミーを縛らせ、ジスはジェレミーの両手を背中に回し、極薄粘着テープでぐるぐる巻きにする。そして縛り終えると、ティブスに 「こいつ、どーする?」と訊く。それに対し、ティブスは 「なんで、そいつを殴ったのよ?」と非難する(2枚目の写真)。キーも負けずに、「そっちに行こうとして、ジスをヤッたんだ! 裸、見せたからだ!」と怒鳴る(3枚目の写真)。ティブスも、「ジスがケガしたのはあんたのせい。そいつを怒らせたからでしょ!」と怒鳴り返す。

怒ったキーは、「なら、おいらがケリをつけてやる」と言うと、キッチンの引き出しから包丁を探し出すと、ティブスが止めるのも聞かず、ジェレミーを包丁で突き刺そうとする(1枚目の写真、矢印)。ティブスは、「お願い、やめて、そんなコトしたら、元には戻れない。永遠に」と必死に止める。キーは、「ダメだ! おいらたち、こいつに見られてる」と反対する(2枚目の写真)。その時、ジェレミーが、「やれ」と言い、それを何度もくり返す。キーは、ジェレミーが止めるよう懇願したら、刺していたかもしれないが、逆に 殺せと言われると戸惑ってしまい(3枚目の写真)、どんどん後ろに下がり、最後には何かに背中をぶつけて包丁を落とすと、キッチンから走って逃げ出す。

ここで、場面は再び過去に戻り、ジェレミーが自宅に向かって運転していると、3度目のメールが着信する(1枚目の写真)。内容は、「もう待つのは止めた… 二度と」。ジェレミーがガレージのシャッターを上げると、目に飛び込んできたのは、下脚だった(2枚目の写真、矢印)。息子のスコットがガレージで首吊り自殺した夜のことを思い出したジェレミーは、悲嘆にくれる(3枚目の写真)。

キーは、気を取り直すと、タバコを吸いながら、ジェレミーが持ち帰った布カバンの中身を検める。財布の中には、現金以外にクレジットカードが3枚入っていたので、キーは 「PIN〔暗証番号〕、教えろよ」と訊くが(2枚目の写真)、返事がない。そこで、カードは諦め、2008年に発行されたスコットのスケートリンク使用カードのフォルダーに挟んであった幼い頃のスコットの写真を取り出して、「これ、あんたのガキ? ゲイみたいだな」と話しかけると、ジェレミーは、急に、「3、7、8、9。1、2、4、4。3、9、9、0、1」と3枚分の暗証番号を口ずさむ。ジェレミーは、さらに、「そこに金庫がある。現金が入ってる。鍵は私の指輪だ。何でも欲しい物を持って、出て行ってくれ」と言い、あまりの状況の変化にキーは驚くばかり(3枚目の写真)。立ち上がると、相手は後ろ手に縛ったのに、「ハイタッチだ」とおどけてみせる。

一方、ティブスは、ジスの症状改善に役立つ物はないかと、引き出しを探し回るうち、二つ折りのケースを見つけ、開けてみて驚く。そして、走ってジェレミーの所に行くと、キーがカードを自慢げに見せても無視し、逆に、キーに 「彼に水、持ってきて」と命じる。ティブスは嫌がるキーを無理矢理行かせると、ジェレミーに対し 「ごめんなさい。しばらく泊れる場所が欲しかっただけなの。ここ、誰もいないと思ったから」と謝る。そして、キーがコップに水を持って戻ってきて、「いったい、どうなってるん?」と訊くと、二つ折りのケースをキーに渡す。キーがケースを開くと、そこには、スコットの顔写真の下に、「1998-2011/ミシェルとジェレミーに愛された息子」と書かれていた〔先の携帯の日付は2013年7月23日(火)。2011年なら7月23日は土曜で、携帯の表示と この慰霊の紙の内容は矛盾する。スコットが死んでから2年以上も経つなら、ジェレミーの態度は少しオーバーなので、「2000-2013」とすべきだった(1998では年上過ぎ)。そうすれば、携帯とも符合するし、ジェレミーの苦しみもよく分かる〕。これを見たキーも、少しはショックを受ける(3枚目の写真、矢印は二つ折りのケース)。それでも、ジェレミーは、さっきキーに言ったことを ティブスにもくり返す。「あんたは私のお金を持ってる。暗証番号も知ってる。何でも望みの物を取って、出て行ってくれ。頼む」。

2つ目の転機となる重要なシーン。ティブスは、何とかジェレミーにジスに医者をと、助けを求めるが、何度頼んでも聞いてくれないので、諦めてここを出て行くことに決める〔ジェレミーの車にジスを乗せて〕。キーは、毛布を取りに棚まで行くと、一番上に乗っていた赤い帽子〔スコットが常にかぶっていた帽子〕も もらっていく(1枚目の写真、矢印)。一方、ティブスは、後ろ手に粘着テープを巻いたままでは、何一つできないので、歯で噛み切ってテープを剥がし(2枚目の写真、矢印)、ジェレミーを自由にする。赤い帽子かぶって戻ってきたキーは、自由にされたジェレミーを見てびっくりする。ティブスは、キーと2人でジスを毛布に乗せようとする。すると、それを見たジェレミーは、いきなり走ってくると、「貴様、自分を何様だと思ってるんだ?」と怒鳴ると、キーの胸ぐらをつかみ(3枚目の写真、矢印)、「息子のものを取り上げおって!」と言うと、赤い帽子を剥ぎ取り、助けようとしたティブスを床に突き倒す。

ジェレミーは、「この見さげ果てたクソガキ!」と怒鳴ると、キーをソファの上に押し倒し、ホッケーのスティックで首を押える(1枚目の写真、矢印)。キーを守ろうとティブスが包丁で襲おうとすると、ホッケーのスティックで跳ね飛ばす。そして、今度はキーの喉を直接左手で押さえると、顔を殴ろうと右手を上げる(2枚目の写真)。ジェレミーをここで思い留まると、「スコットの物に触るんじゃない」と言うと、立ち上がらせて突き放す。そして、再びホッケーのスティックを手に取ると、それを3人の方に向け、「めちゃめちゃにしたものを、きれいにするんだ」と命じる(3枚目の写真)。キーが、「しなかったら?」と訊くと、「君は、友達のためにするだろう」と答える。

最初のシーンは、汚れたキッチン。ジェレミーはティブスとキーに、すべてのグラスを洗うよう命じる(1枚目の写真)。次は、キーが壁に書いた落書きをすべて消すよう命じる〔石鹸と洗剤と水だけで〕。キーは、油性のマジックで書いたので、「これって、取れないんだよ」と言うが、ジェレミーは、「時間なら幾らでもある」としか言わない(2枚目の写真)。次に、汚れた布類を温水洗濯機で洗わせる。最後は、キーに、床にこぼれた食品〔それとも、吐瀉物〕を紙で拭き取らせる(3枚目の写真、矢印)。

すべての掃除が終わると、ジェレミーはティブスに、「君の仲間に対処しよう」と告げる。ジェレミーは、さっそくジスの足をチェックしようとするが、その前に、キーは、「あんたがおいらの仲間に何かしたら、おいらがおんなじコトしてやる」と言うが(1枚目の写真)、ジェレミーは何も言わずに作業を続ける。ジェレミーは、ジスの足がどうなったのか理解すると、「彼を病院に行かないといかん。そえ木も要る」と判断する。そえ木にするようなものはないので、ダンボールで折れた足を包むことにし、ジェレミーがダンボールに印を付けて、ティブスにハサミで切らせる(2枚目の写真、矢印はダンボール)。そして、できあがった⌴型のダンボールに、タオルで包んだ折れた足を入れると、キーに粘着テープで固定させる(3枚目の写真、矢印はダンボール)〔ジェレミーはやり方を指示するだけで、何一つ作業はしない〕

これで動かせると判断したジェレミーは、3人全員で、ジスを乗せた毛布を持って、スコットの部屋に運んで行き、キーはジスの横に寝転ぶ(1枚目の写真、矢印は粘着テープで△型になったダンボール)。2人だけになると、キーはジスに 「みんなでウチまで行こう」と言うと、ジスは、「やめとけ。ウチには帰らん。どこに送られるか分からんからな」と言う〔キーだけ孤児院行きかも〕。キーは、部屋に飾ってあるジェレミーとスコットの仲良さそうなツーショット写真を見て(2枚目の写真)、「あの子がなんで死んだんか気になるんだ」とジスに話す(3枚目の写真、矢印は赤い帽子)。

ティブスは、キーにホッケーのスティックで殴られて赤くなったジェレミーの顔に薬を塗り、ジェレミーはティブスのためにソファを臨時のベッドにする(1枚目の写真)。スコットの部屋を見に行くと2人とも眠っていたので、毛布を掛ける(2枚目の写真)。そして、自分の寝室に行くと、スコットの写真を取り出して悲しみに浸る(3枚目の写真)。

翌朝、キーが起きてくると、ジェレミーが全員のために朝食を作っている(1枚目の写真)。キーは、そのすぐそばのソファで眠っていたティブスを起こす。そして、2人でジスをLDKまで連れて来る。食卓に着くと、いつも通リキーがカラキアを唱え、3人は豊富な朝食を、何も残さずに食べる(2枚目の写真)。食べ終わるや否や、キーは立ち上がり、2人に 「行こうぜ」と呼びかけると、ジェレミーは 「感謝の言葉が欲しかった」と言った上で、「君たち、どうやってこの島に来た?」と訊く。ティブスは、「フェリーよ。なんで?」と言い、キーは懲りずに 「行こうぜ」とくり返す。ジェレミーは、それを無視し、「計画はあるのか? どこに住んでる? どこに行く? 何から逃げてる? ちゃんと知るまで、どこにも行かせない。行く? どこへ? どうやって?」と厳しい口調で言う。キーが、「出発だ」と言うと、そのあまりのくどさに、「君は、座って黙ってろ。私の家にいるんだから、言われた通りにしろ」と命じる。それに対し、愚かなティブスは、孤独な老人が3人の子供を拉致監禁し傷を負わせたと、すぐにでもバレる嘘でジェレミーを脅し、そのバカげた戦術を聞いたジスは、「俺は、早く病院に行きたいんだ!」とティブスを責める。その時、地階の玄関のドアをノックする音が聞こえる。

すぐにキーが探りに行き、警官だと知らせる。ジェレミーは一人で階段を下りて玄関に行くと、ドアを開ける。昨日も見に来た警官は、「グッディ、フリンさん」と挨拶し、ジェレミーは 「やあ」と応じる(1枚目の写真)。「きのう、あなたの警報装置が鳴りました。問題ないか確認しようと思いましてね」。ジェレミーは何もなかたと否定するが、警官は 「冒険中のガキどもが、ちょっとした問題を起こしましてね」と話す(2枚目の写真)。「首都から来たクソガキどもは、私どもに迷惑をかけて楽しんでいる。 まあ、誰かに気づかれずに立ち去ることはできないしょう。何れ、捕まえてやります」と言いながら、店の防犯カメラの映像をプリントした写真を見せる(3枚目の写真)。警官はジェレミーの顔の傷のことを訊いた後で〔1人でハメを外したと答えた〕、「以前、お目にかかった時には…」と言い始め、こんな話は相手を傷つけるだけだと気付き、「ごめんなさい」と謝ると、万一のためにと名刺を渡して立ち去る 。

3人に、この島での “前科” があったことを知ったジェレミーは、戻ってくると、「今すぐ、この島から出て行かないと」と言う。ジスは、ティブスとキーの肩に両腕を追き、片足で歩いて階段を下り、玄関から出て、後部のラゲージルームに横になる。助手席に座ったキーが、足を行儀悪くインパネの上に乗せると、ジェレミーは直ちに足を払い除け、「ベルト」と命じる。その時の表情は(1枚目の写真)、ジェレミーに、スコットを思い起こさせる(2枚目の写真)。ジェレミーが車をフラーズ社の乗船ターミナルに乗りつけると、ジェレミーは、2人に、「ここで待ってろ」と言って様子を見に行くが、反抗心の強いキーは、すぐに助手席から降りると、ティブスの制止を無視してターミナルに入って行く。先にターミナルに入ったジェレミーは、地域の注意情報パネルに3人の写真が貼ってあるのに気付く。そこに、言いつけを無視してキーが入って来たので、外に出そうとすると、「触るなよ!」と大きな声で人目を引いたので、ジェレミーは掲示板の写真を見せ(3枚目の写真、矢印はキー、その左がティブス、上がジス)、直ちに車に戻る。何があったか尋ねるティブスに、ジェレミーは、写真のことは言わず、別のフェリーを試す必要があるとしか言わない〔フラーズ社のフェリーに乗る場合はここで “お別れ” だったが、シーリンク社のカーフェリーを利用する場合は、オークランドまで車で乗せて行かないといけない〕

すると、キーが、いきなり、「あんたの息子、どーして死んだの?」の訊く(1枚目の写真)。しばらく黙っていたジェレミーは、「自殺した」と短く答える(2枚目の写真)。

ジェレミーは、シーリンク社のカーフェリーが到着するまで、近くの人目につかない湾で時間をつぶすことにする。4人は車から出て〔ジスは、ラゲージルームに座る〕、タバコを吸う(1枚目の写真)。そのあと、ジェレミーは 「君たちの家族は? お母さんは?」と、前に訊いたことをもう一度訊く。それに反応したのはジスで、「彼女は公聴会にも出てこなかった」と、母を批判する。ジェレミーが 「少なくとも、君たちにはお互いがいる」と言うと、「CYFなんかに俺たち3人の居場所を見つけさせるもんか。奴らは俺たちを引き裂くだけだ」と政府を批判する〔CYFは、Child, Youth and Familyの略で、社会開発省の1部門だった。現在は子供省として独立している〕。キーも、「里親のトコなんか、二度と行かないぞ!」と言う(2枚目の写真)。ティブスは、「あんたのウチで、2・3ヶ月隠れてようと思ったの。あたいが18になるまで。そしたら、弟たちの面倒が見られるから」と話す。

時間が来たので、ジェレミーは3人を車に戻し、シーリンク社のフェリー乗り場に行く。車専用なので、列を作って乗船を待っていると、後ろからパトカーが近づいてくるのが見えたので、ジェレミーは2人に警告し、座席に潜らせる(1枚目の写真、矢印)。パトカーが通り過ぎて、正面の事務所兼切符売り場で停まると、キーが助手席のドアを開けて外に出ようとする。ティブスが、「キー、どこいくん?」と訊くと、「おいらは、ココにいる」と言う。それを聞いたティブスは、キーを追って車から出ると、「いったいナンなの、このクソキー?」と肩をつかむ。キーは、「いきたくない。ココには、おいらのオヤジがいる」と、ジェレミーを慕う表現を初めてする。ティブスは 「あんた、何てバカなの」と叱るが、「よそモンばっかのトコなんかイヤだ」とゴネる。ジェレミーは、「車に戻れ、奴が出て来る」と呼び、それを聞いたティブスは キーをつかむと車に押し込む。パトカーが出て行くのと交代するように、フェリーの担当者が切符を回収に来る。担当者は、「大人2名、子供2名〔大人って、ティブス? まだ18歳未満なのに?〕。家族旅行ですね?」と言い、ジェレミーは 「ああ」と言うが、キーは全く面白くない(3枚目の写真)。

ここからが最終局面。カーフェリーはもう出航し、オークランドに向かっている〔乗船時間1時間〕。車の中で待っているわけにはいかないので、狭くて急な階段を ジスをサポートして何とか登る(1枚目の写真)。3人は並んでイスに座るが、キーは悲しそうな顔でそれを見ると、窓辺に立って真下の激しい波を見る(2枚目の写真)。しばらくすると、キーはすっといなくなり、階段を下りて、船のスクリューが巻き起こす激しい波を、もっと見近で見下ろしている(3枚目の写真)。キーは、イスがたくさん並んだ展望デッキまで来る。

ジェレミーは、3人にスナックと飲み物を買って帰ってくると、キーがいないことに初めて気付く。ティブスに 「君の弟はどこ?」と訊いても、肩をすくめるだけ。ジェレミーは、階段を下り、最初にキーがスクリューの波を見ていた場所まで行き、次に展望デッキに向かう。その頃、遠くに見えるオークランドを見て、生きる意欲を失ったキーは、自殺しようと手摺に登る。そこにジェレミーが現われ、キーがやろうとしていることに気付く(1枚目の写真)。ジェレミーの目には、赤い帽子をかぶったスコットが自分を見ているに映る(2枚目の写真)。ジェレミーはダッシュしてキーに駆け寄ると、「行かせろ! 放せ!」と叫ぶのを無視して、しっかりと抱き留める(3枚目の写真)。

そして、静かになったキーは、わが子のように抱きしめる(1枚目の写真)。ここで、場面は、夜のガレージに変わり、以前、下肢の下部しか見えていなかったスコットの死体を、ジェレミーが抱き留め(2枚目の写真)、死体を縄から外して抱きしめながら泣き叫ぶ様子が映る(3枚目の写真)。

ジェレミーとキーは、フェリーの下部のデッキに並んで座ると、互いに1本のタバコを吸う。そして、キーが、「あんたの子、なんで、あんなコトしたの?」と尋ねる。ジェレミーは 「彼は、今の君と同じような気持ちだったと思う」と答える(1枚目の写真)。そして、さらに、「君たちは、お互いすがり合っている。分かるかい? あの2人には、君が必要なんだ」。そのあと、キーはじっと考え込み(2枚目の写真、矢印)、納得すると立ち上がる(3枚目の写真)。その姿を見て、ジェレミーは “そうだ” とばかりに、軽く頷く。そして、カーフェリーは港に近づいて行く。

カーフェリーが着岸し、ゲートが下がると、車の先頭に、ジスを抱いたジェレミーの両脇に、ティブスとキーが立ち、陸上側では救急車が待機している(1枚目の写真)。救急隊員がストレッチャーにジスを移し、ティブスとキーが付き添って救急車に向かう。フェリーの先端で立っているのはジェレミー1人になる(2枚目の写真)。救急車に乗り込む時、ティブスは振り返ってジェレミーを見つめるが、表情は変えない。キーが乗り込んで振り向くと、ジェレミーが軽く頷き、キーも頷き返す(3枚目の写真)。2人は生涯二度と会うことはないかもしれないが、2人の間には絆が生まれたように思える。ジェレミーが、夕方、自宅に辿り着き、スコットの持ち物だったホッケーのスティックを子供部屋まで返しに行くと、ベッドの上の壁には、「♰/スコッティ/冥福を/ダチ」と、キー流の別れの言葉が残されていた(4枚目の写真)。

   の先頭に戻る              の先頭に戻る
  ニュージーランド の先頭に戻る      2010年代前半 の先頭に戻る